説明

切削加工方法および加工装置

【課題】被加工物を回転させながら、その回転中心からオフセットした位置に複数の曲面を創成する切削加工において、曲面の加工形状に制約を生じることなく、加工効率および加工精度の向上を実現する。
【解決手段】工作物スピンドルに保持されて回転する被加工物3に対して、被加工物3の回転中心Cからオフセットした位置に中心を持つ複数の曲面3aを形成する切削加工において、工具の工具軌跡5bを回転中心Cを中心とする螺線状とし、被加工物3の加工深さ方向(紙面に垂直な方向)に当該被加工物3を工具に対して進退変位させることで、複数の曲面3aを被加工物3に一括して効率よく高精度に切削加工にて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光学素子の製造分野では、平面、または回転軸対称形状曲面、あるいはアナモルフィック面上に、その中心からオフセットした位置に形成された複数の曲面を有する光学素子、または、それを成形するための金型の切削加工が必要となる。
【0003】
このような、被加工物の回転中心からそれた(オフセットした)位置に中心を有する複数の曲面形状の創成に関しては、従来、特許文献1に開示された技術が知られている。
すなわち、特許文献1には、被加工物である平面基板上に、その基板回転軸からオフセットした位置を中心とする複数の回転曲面(オフセット回転曲面)を形成する方法が開示されている。
【0004】
この特許文献1では被加工物を回転駆動させるC軸と、基板との平行面上で直交するX,Y軸、基板面と直交するZ軸の合計で4軸を同時制御する加工装置が用いられている。また、工具は円弧形状の切れ刃を有する切削工具が開示されている。
【0005】
これらの加工装置と工具を用いる特許文献1の加工方法では、基板を保持するC軸の回転により移動するオフセット回転曲面の中心に追従するようにXYZ軸を同時制御することで、個々の回転軸対称曲面に対して旋削加工する場合と同様の工具軌跡を描かせることにより、所望の複数の曲面を加工する。
【0006】
ところが、上記従来技術では、被加工物の回転中心に対してオフセットした曲面を1個ずつ加工していく必要がある。そのため、オフセットした複数の曲面を加工するためには多大な加工時間を要する。
【0007】
さらに、個々のオフセット回転曲面が個別に加工されるため、作業域の温度などの環境変化や工具摩耗などの加工精度への影響が、曲面個々の加工精度のばらつきとなって現れ、高精度な光学素子の加工が困難である。
【0008】
また、上記従来技術の加工方法は平面基板に対する加工を前提としたものであり、凹面、または凸面の被加工物に対する加工は工具の干渉のため不可能になる場合がある。
すなわち、被加工物の加工面に凹曲面と凸曲面が混在する場合、凹曲面の個別加工に際して回転する被加工物の凸曲面が切削工具に干渉し、加工が困難となる。
【特許文献1】特開2000−246614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、被加工物を回転させながら、その回転中心からオフセットした位置に複数の曲面を創成する切削加工において、曲面の加工形状に制約を生じることなく、加工効率および加工精度の向上を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、被加工物の回転中心に対して切削工具を螺旋状に走査しながら前記被加工物の深さ方向に相対的に変位させることにより、前記被加工物における前記回転中心から任意の距離だけ離れた位置に複数の曲面形状を創成する切削加工方法を提供す
る。
【0011】
本発明の第2の観点は、被加工物の回転角を制御する第1軸と、
前記第1軸と直交する方向に直線移動する第2軸と、
前記第1軸に平行な方向に切削工具を前記被加工物に対して相対的に進退させる第3軸と、
前記第1、第2および第3軸を同時制御することにより、前記被加工物の回転中心に対して前記切削工具を螺旋状に走査しながら前記被加工物の深さ方向に相対的に変位させて、前記被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置に複数の曲面形状を創成する制御手段と、
を含む加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被加工物を回転させながら、その回転中心からオフセットした位置に複数の曲面を創成する切削加工において、曲面の加工形状に制約を生じることなく、加工効率および加工精度の向上を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施の形態の第1態様では、被加工物を保持するスピンドルの回転角を制御する回転軸と、それと直交する水平方向に直線移動する軸、前記スピンドル回転軸に平行な方向に切削工具の切れ刃を被加工物に対して進退させる軸を有する加工装置によって、被加工物を回転させながら、その最外周または中心からの、所望の曲面形状に同期させて前記3軸の同時制御により工具を走査することにより、被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面形状に創成する。
【0014】
この第1態様によれば、被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面形状を、凹凸の分布等に影響されることなく、効率よく高精度に創成することができる。
【0015】
本実施の形態の第2態様では、第1態様の手段において、前記切削工具の切れ刃と平行な面内で切削工具を旋回移動させる工具旋回軸を付加した加工装置を用い、加工作用点となる工具の切れ刃の稜線上の被加工物との接触位置が任意に移動するように前記工具旋回軸と他の3軸を制御しながら、被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心する複数の曲面形状を創成する。
【0016】
この第2態様では、工具上の加工作用点が移動し、工具の切れ刃の稜線の減耗を分散させつつ被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面形状を創成することができる。
【0017】
本実施の形態の第3態様では、第1態様〜第2態様の切削加工方法において、工具の切れ刃を数十kHz〜3MHzで切削方向に振動させながら加工する。
この第3態様では、工具の切れ刃の振動により切削速度を得るとともに、加工中に被加工物と工具の切れ刃の接触が断続的となり、加工点の発熱が抑制されると同時に、加工点を効率的に冷却できるので、工具の摩耗を低減しながら被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面形状を創成することができる。
【0018】
本実施の形態の第4態様では、第1態様〜第3態様の切削加工方法で加工される被加工物の材料としては、光学ガラス、単結晶光学部品材料、超硬合金、鉄鋼系材料、無電解P−Niメッキ面、ガラス状カーボンを用いる。
【0019】
この第4態様によれば、第1態様〜第3態様に記載の旋削加工方法により、光学ガラス、単結晶光学部品材料、超硬合金、鉄鋼系材料、無電解P−Niメッキ面、ガラス状カーボン上に被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面形状が創成される。
【0020】
本実施の形態の第5態様では、第1態様〜第4態様に記載の加工方法で切削加工される被加工物として、光学素子、または光学素子成型用の金型を用いる。
この第5態様では、第1態様〜第4態様に記載の加工方法で、被加工物上で切削工具の1回のパスで被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置を中心とする複数の回転軸対称曲面形状が創成された光学素子、また、光学素子成型用の金型を効率よく高精度に得ることができる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の一実施の形態である切削加工方法を実施する加工装置の構成の一例を示す略斜視図である。図2は、本実施の形態の加工装置における工具と被加工物の位置関係を示す平面図である。図3は、本実施の形態の加工装置における工具と被加工物の位置関係を示す断面図である。
[構成]
まず、図1に例示されるように、本実施の形態の加工装置M1は、工作物スピンドル1(第1軸)、Z軸スライドテーブル2(第3軸)、X軸スライドテーブル4(第2軸)、工具5(切削工具)、工具台6を備えている。
【0022】
工作物スピンドル1は、その回転軸方向(Z方向)に進退自在にZ軸スライドテーブル2上に設置されている。工作物スピンドル1の先端には、たとえば、成形型等の被加工物3が回転自在に保持されている。
【0023】
本実施の形態の場合、被加工物3は、たとえば、光学素子の場合には、ガラス、単結晶光学部品材料のいずれかからなる。また、被加工物3が光学素子を成形するための成形型の場合には、たとえば、ガラス、単結晶光学部品材料、超硬合金、鉄鋼系材料、無電解P−Niメッキ面、ガラス状カーボンのいずれかからなる。
【0024】
本実施の形態の場合、図2に例示されるように、この被加工物3に対して、当該被加工物3の回転中心Cから逸れた位置に中心を持つ複数の曲面3aを一括して加工する。
また、Z軸スライドテーブル2の移動方向(Z方向)と直交するX方向に移動するX軸スライドテーブル4が配設され、単結晶ダイヤモンドで切れ刃を構成する工具5は、X軸スライドテーブル4上に設置された工具台6に取り付けられている。
【0025】
工具台6には、工具5に振動を与えるための工具加振器6a(加振手段)が設けられている。この工具加振器6aは、特に図示しないが、たとえば、工具5を保持する圧電素子と、当該圧電素子に所望の周波数で電圧が変化する駆動電圧を印加する駆動電源で構成され、駆動電源から圧電素子に印加される駆動電圧の周波数によって、工具5の加振周波数を随意に設定することが可能になっている。
【0026】
図3に例示されるように、被加工物3に接する本実施の形態の工具5の切れ刃5aは半径Rの円弧形状を呈している。
本実施の形態の場合、一例として、工作物スピンドル1、Z軸スライドテーブル2、X軸スライドテーブル4、の動作は、たとえばNC制御装置からなる制御装置100(制御手段)によって制御される。
【0027】
この制御装置100は、たとえば、NCプログラム等の制御プログラム100aによって、工作物スピンドル1、Z軸スライドテーブル2、X軸スライドテーブル4の3軸を当時に制御する機能を備えている。
【0028】
すなわち、本実施の形態においては、X軸(X軸スライドテーブル4)、Z軸(Z軸スライドテーブル2)と工作物スピンドル1の回転駆動軸C軸の合計で3軸を同時制御可能な加工装置M1を使用して、被加工物3の加工を行う。
【0029】
[作用]
次に本実施の形態の加工装置M1の作用について説明する。
本実施の形態の加工装置M1では、工作物スピンドル1を回転させることにより、被加工物3を回転させる。
【0030】
このとき、図2および図3に例示されるように、制御装置100は、工具5の切れ刃5aが被加工物3に形成すべき設計形状の曲面3aと接するようにX軸(X軸スライドテーブル4)、Z軸(Z軸スライドテーブル2)、C軸(工作物スピンドル1)を同時制御することで、工具5が被加工物3の外周から螺旋状に、しかも任意の加工点における曲面3aの加工深さに応じてZ軸方向(被加工物3の深さ方向)に進退する工具軌跡5bを描きながら加工が行われる。
【0031】
この際、必要に応じて、加工中に、工具台6の工具加振器6aから工具5の切れ刃5aに対して、たとえば、数十kHz〜3MHzで切削方向に振動を与えながら加工する。
すなわち、図2の平面図では工具軌跡5bは単純な螺線に見えるが、図3に示される被加工物3のZ方向の相対変位(深さ方向の進退変位)と組み合わされることにより、実際は図2の紙面に垂直な方向に曲面3aの加工深さに応じて変位する工具軌跡である。
【0032】
この際の工具5の軌跡は図4で示すように、以下のように設定する。
工作物スピンドル1の回転中心Cを原点として被加工物3の表面にXY軸座標を設定し、加工する曲面3aの形状は式(1)にようにz=f(x,y)で定義される。
【0033】
曲面3aの設計形状を示す式(1)から、工具位置を決定するXZC軸座標の点列データを求めるため、求める点列データのC軸座標の角度間隔をαとし、加工開始からi番目の加工点の位置を式(2)のように極座標(r,θ)を用いて表す。
【0034】
これをもとに、被加工物3における複数の曲面3aの全加工領域を螺旋状に包含する、i=0からN−1までN個の加工点について、i番目の加工面の高さzは式(3)のように表され、これに対しての工具5の切れ刃5aの円弧の半径Rに相当する分をXZ座標上でオフセットした位置Zpiを求め、工具位置のXZC座標とする。
【0035】
なお、式(2)において、rは、被加工物最外周半径(mm)、αは、C軸角度間隔(rad)、Fは、工具送り速度(mm/min)、Tは、工作物スピンドル回転速度(rpm)、である。
【0036】
【数1】

【0037】
【数2】

【0038】
【数3】

【0039】
本実施の形態の場合には、i=0からN−1までN個の加工点について工具5の位置Zpiを点列として制御するNCプログラム等の制御プログラム100aは、以下のように生成される。
【0040】
図5は、本実施の形態のNCプログラム等の制御プログラム100aの生成方法の一例を示すフローチャートである。
図示しないNCプログラム作成装置(なお、制御装置100がNCプログラム作成装置を兼ねてもよい)において、被加工物3の曲面3aの設計形状を示すz=f(x,y)の入力を受け付ける(ステップ101)。
【0041】
さらに、C軸角度間隔α、工具送り速度F、工作物スピンドル回転速度T、切れ刃5aの半径R、等のパラメータの入力を受け付ける(ステップ102)。
そして、変数iを0に初期化した後(ステップ103)、変数iで示されるi番目の加工点を式(2)によって算出する(ステップ104)。
【0042】
さらに、i番目の加工点の高さZiを式(3)によって計算する(ステップ105)。
さらに、工具5の切れ刃5aの半径Rに基づいて、高さZiから工具5の位置Zpiを計算し、加工点iにおける工具5の座標を、NCプログラムにおける点列データの一つとして出力する(ステップ106)。
【0043】
そして、工具軌跡5bが加工端に到達したか(すなわち、変数iがNを超過したか)を判別し(ステップ107)、未だ超過しない場合には、変数iをインクリメントして(ステップ108)、上述のステップ103以降を、変数iがNを超過するまで反復する。
【0044】
これにより、NCプログラムとしての制御プログラム100aが生成される。
そして、制御装置100においてこの制御プログラム100aを実行することで、図2および図3に例示されるような、C軸、X軸、Y軸の同時制御による、被加工物3に対する工具5の工具軌跡5bを実現する切削加工が実現される。
【0045】
図6は本実施の形態の加工装置M1の構成によって加工された曲面の形状の一例を示す線図である。
工作物スピンドル1の回転中心Cを中心として、被加工物3の表面上に、深さ10μm、ピッチ50μmの複数の曲面3aの形状が等間隔で形成されている。
[効果]
本実施の形態の加工装置M1によれば、工作物スピンドル1の回転中心Cからオフセットした位置に中心を持つ複数の曲面3aからなる形状の光学機能面を有する光学素子、または、それらを成形するための成形型を、工具5の被加工物3に対する螺線状の工具軌跡5bによって、一括して効率良く加工することができる。
【0046】
また、被加工物3に対して工具5により複数の曲面3aを一括して同時に加工するので、個々の曲面3a毎に、加工温度や工具5の摩耗の影響が共通となり、個々の曲面3aに寸法精度のばらつき等のない高精度の加工を実現できる。
【0047】
また、被加工物3の工具5に対するZ方向での相対変位により、曲面3aの凹凸形状の稜線に工具5の切れ刃5aが追従するように加工が進行するため、図3のような、すべてが略凹形の曲面3aのみならず、すべてが凸形の曲面3a、さらには凹形および凸形の曲面3aが混在した形状の加工も容易に可能である。
【0048】
すなわち、被加工物3に形成すべき曲面3aの形状に制約を生じることなく、工作物スピンドル1の回転中心Cからオフセットした位置に中心を持つ複数の曲面3aからなる形状を、効率よく高精度に加工できる。
【0049】
また、工具加振器6aから工具5の切れ刃5aに対して所望の振動を与えることにより、工具5の切れ刃5aの振動により、切削速度を得るとともに、加工中に被加工物3と切れ刃5aの接触が断続的となり、加工点の発熱が抑制されると同時に、加工点を効率的に冷却できるので、工具5の摩耗を低減しながら被加工物3の回転中心Cから任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面3aの形状を効率よく創成することができる。
[実施の形態2]
図7は、本発明の他の実施の形態である切削加工方法を実施する加工装置の構成例を示す斜視図であり、図8は、その作用を説明する概念図である。
【0050】
[構成]
本実施の形態2における加工装置M2は、上述の実施の形態1で説明したM1に対して、X軸スライドテーブル4上で、工具8の切れ刃8aと平行な面内で工具8を旋回移動させる工具旋回軸9(B軸)(第4軸)を付加し、制御装置100は、X軸、Z軸、B軸、C軸の合計で4軸を同時制御可能な構成となっている。
【0051】
すなわち、工具旋回軸9上に、工具加振器6aを備えた工具台6が取り付けられている。
この場合、制御装置100の制御プログラム100aには、工具8の個々の加工点iの座標情報の他に、上述のステップ106で、B軸の制御角度θiの情報が付加される。
【0052】
これにより、本実施の形態2の加工装置M2においては工具旋回軸9(B軸)と他の3軸を同時制御しながらの加工ができる構成となっている。
図8に例示されるように、工具8の切れ刃8aは、上述の実施の形態1と同様に半径Rの円弧形状を有している。また、工具8は、工具旋回軸9の旋回中心9aが工具8の切れ刃8aの先端、または、切れ刃8aの円弧の中心と一致するように設置されている。
【0053】
他の構成は、上述の実施の形態1と同じで、工作物スピンドル1は、その回転軸方向(Z方向)に進退自在にZ軸スライドテーブル2上に設置され、工作物スピンドル1の先端には、たとえば、成形型などの被加工物12が回転自在に保持されている。
【0054】
[作用]
図8を用いて本実施の形態の作用を説明する。本実施の形態2の加工装置M2においては、制御装置100は、制御プログラム100aを実行することにより、加工作用点となる工具8の切れ刃8aの稜線上の被加工物12との接触位置qが切れ刃8a上を任意に移動するように前記工具旋回軸9(B軸)と他の3軸を同時制御しながら、被加工物12の回転中心Cから任意にオフセットした位置を中心とする複数の曲面12aの形状を創成する。
【0055】
[効果]
本実施の形態2の加工装置M2によれば、加工による工具8の切れ刃8aの摩耗を分散
させることが可能となるため、工具8の摩耗の激しい難削材に対しても高精度に加工を行うことが可能である。
【0056】
また、被加工物12の母材が平面ではなく、凸面あるいは凹面の曲面を有する場合でも、前記工具旋回軸9を制御することにより、工具8と被加工物12の干渉を避けながら加工することが可能である。
【0057】
また、例えば、もともとの工具8の切れ刃8aの輪郭精度が低い場合などに、工具旋回軸9の制御により工具8の作用点を意図的に、切れ刃8a上の一点に固定して、工具8の形状精度の悪さが加工結果に影響しないようにしても良い。
【0058】
さらに、工具8を工具加振器6aに取り付けて使用することで、脆性材料や鉄系材料などの難削材で構成される被加工物12の加工を行うことも可能である。
また、加工する複数の曲面12aの稜線がお互いに隣接する場合には、隣接しない曲面群でグループ化し工程を分けて加工することで、稜線部の加工精度を向上させることも可能である。
【0059】
また、工具8の送り方向は、上述の実施の形態1とは逆に、被加工物12の中心部(回転中心Cの近傍)から周辺部に向かう方向に設定しても同じ効果が得られる。
以上説明したように、本発明の各実施の形態によれば、たとえば、工作物スピンドル1の回転中心Cからオフセットした位置に複数の曲面3a(曲面12a)を形成した光学素子、または、それらを成形するための成形型を高精度に効率良く加工することができる。
【0060】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
[付記1]
円弧形状の切れ刃を有する切削工具と、被加工物を保持するスピンドルの回転角を制御する回転軸と、それと直交し水平方向に直線移動する軸、前記スピンドル回転軸に平行な方向に切削工具の切れ刃を被加工物に対して進退させる軸を有する加工装置によって、被加工物上の複数の曲面を創成する切削加工法において、前記被加工物の外周または回転中心からの切削加工の過程で、所望の曲面形状に同期させて前記3軸を同時制御することにより、被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置に複数の曲面形状を創成することを特徴とする切削加工方法。
【0061】
[付記2]
付記1記載の加工装置に前記切削工具の切れ刃と平行な面内で切削工具を旋回移動させる工具旋回軸を付加した加工装置を用い、加工作用点となる工具切れ刃稜線上の被加工物との接触位置が任意に移動するように前記工具旋回軸と他の3軸を制御しながら、被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置に複数の曲面形状を創成することを特徴とする切削加工方法。
【0062】
[付記3]
付記1または記2記載の切削加工方法において、振動切削法により加工することを特徴とする切削加工方法。
【0063】
[付記4]
付記1〜付記2記載の切削加工方法において、加工される材料は、ガラス、単結晶光学部品材料、超硬合金、鉄鋼系材料、無電解P−Niメッキ面、ガラス状カーボンであることを特徴とする切削加工方法。
【0064】
[付記5]
付記1〜付記3記載の切削加工方法によって加工されることを特徴とする光学素子、あるいはその成型用金型。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態である切削加工方法を実施する加工装置の構成の一例を示す略斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態である加工装置における工具と被加工物の位置関係を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態である加工装置における工具と被加工物の位置関係を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態である加工装置における工具と工具軌跡を決定する方法の一例を示す概念図である。
【図5】本発明の一実施の形態である切削加工方法および加工装置における制御プログラムの生成方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施の形態である加工装置によって加工された曲面の形状の一例を示す線図である。
【図7】本発明の他の実施の形態である切削加工方法を実施する加工装置の構成例を示す斜視図である。
【図8】本発明の他の実施の形態である切削加工方法を実施する加工装置の作用を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0066】
1 工作物スピンドル
2 Z軸スライドテーブル
3 被加工物
3a 曲面
4 X軸スライドテーブル
5 工具
5a 切れ刃
5b 工具軌跡
6 工具台
6a 工具加振器
8 工具
8a 切れ刃
9 工具旋回軸
9a 旋回中心
12 被加工物
12a 曲面
100 制御装置
100a 制御プログラム
M1 加工装置
M2 加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の回転中心に対して切削工具を螺旋状に走査しながら前記被加工物の深さ方向に相対的に変位させることにより、前記被加工物における前記回転中心から任意の距離だけ離れた位置に複数の曲面形状を創成することを特徴とする切削加工方法。
【請求項2】
請求項1記載の切削加工方法において、
前記切削工具の切れ刃における前記被加工物に対する接触位置が当該切れ刃上を移動するように、前記切削工具を旋回させることを特徴とする切削加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の切削加工方法において、
前記切削工具に振動を与えることを特徴とする切削加工方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削加工方法において、
前記被加工物は、ガラス、単結晶光学部品材料、超硬合金、鉄鋼系材料、無電解P−Niメッキ面、ガラス状カーボンのいずれかからなることを特徴とする切削加工方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切削加工方法において、
前記被加工物は、光学素子、または当該光学素子を成形する成形型であることを特徴とする切削加工方法。
【請求項6】
被加工物の回転角を制御する第1軸と、
前記第1軸と直交する方向に直線移動する第2軸と、
前記第1軸に平行な方向に切削工具を前記被加工物に対して相対的に進退させる第3軸と、
前記第1、第2および第3軸を同時制御することにより、前記被加工物の回転中心に対して前記切削工具を螺旋状に走査しながら前記被加工物の深さ方向に相対的に変位させて、前記被加工物の回転中心から任意にオフセットした位置に複数の曲面形状を創成する制御手段と、
を含むことを特徴とする加工装置。
【請求項7】
請求項6記載の加工装置において、
さらに、前記切削工具の切れ刃と平行な面内で当該切削工具を旋回移動させる第4軸を備え、
前記制御手段は、前記切削工具の切れ刃の前記被加工物との接触位置が当該切れ刃上を移動するように前記第4軸と、他の前記第1乃至第3軸を同時制御することを特徴とする加工装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7記載の加工装置において、
さらに、前記切削工具に振動を与える加振手段を備えたことを特徴とする加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−99760(P2010−99760A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271618(P2008−271618)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】