説明

切削方法

【課題】高分子材料からなるブロック試料についてミクロトームにより切削をおこなうにあたって高い平滑性を有する切削面を得るための切削方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス転移温度が65〜200℃の高分子材料を含む試料を加熱手段を備えるミクロトームに固定し、該加熱手段により該ブロック試料を該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.4を掛けた温度(℃)以上該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度(℃)以下の温度範囲で保持し、該温度範囲内でブロック試料に対して該ミクロトームによる切削をおこなうことを特徴とする切削方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子試料を含む試料について形態観察、組成分析、力学分析等をおこなうための平滑な面を得ることを目的とした、ミクロトームを用いた切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミクロトームは、光学顕微鏡や電子顕微鏡等で観察するための試料の前処理作業である包埋樹脂により包埋された試料の断面出しや薄片作成装置として用いられている。包埋樹脂による試料の包埋処理は、試料が柔らかい、または非常に薄膜である場合などに、切削の衝撃により破損、変形するのを防ぐために、おこなわれる操作である。包埋されたブロック状の試料は、内部に埋め込まれた試料面が露出するまで、削られ、最終的には、削り跡が目立たなくなるまで、平滑になるように、ガラスナイフやダイヤモンドナイフで仕上げられる。ミクロトームには、上下に動くアーム、微量移動が可能なナイフ用台座、実体顕微鏡を備える。削る際には、試料ブロックを試料ホルダーに固定し、アームに試料ホルダーを挿入固定し、試料近傍までナイフの台座を近づけ、アームが上下することにより、切削される。このとき切削は繰り返しおこなわれ、これらは自動でおこなうことも出来る。包埋樹脂により包埋されたブロック状の試料は、最終的には、削り跡が目立たなくなるまで、平滑になるように、ガラスナイフやダイヤモンドナイフで仕上げられる。
【0003】
特許文献1においては、ミクロトームを用いて脂肪や脳髄といった組織学的な試料について切削をおこなう際に、試料を冷却して切削することが示され、冷却装置または冷却/加熱装置を備えるミクロトームが示されている。
【特許文献1】特表2006−510000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミクロトームを用いて切削された試料は、その切削面について形態観察、組成分析、力学分析等がおこなわれる。切削された試料の切削面について形態観察、組成分析、力学分析をおこなったときに良好な観察結果、分析結果を得るためには、試料の切削面が高い平滑性を有することが必要がとされる。
【0005】
高分子材料からなるブロック試料についてミクロトームにより切削をおこなうにあっては、高い平滑性を有する切削面を得ることは困難となる場合があった。本発明においては、高分子材料からなるブロック試料についてミクロトームにより切削をおこなうにあたって高い平滑性を有する切削面を得るための切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明としては、ガラス転移温度が65℃〜200℃の高分子材料を含む試料を加熱手段を備えるミクロトームに固定し、該加熱手段により該ブロック試料を該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.4を掛けた温度(℃)以上該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度(℃)以下の温度範囲で保持し、該温度範囲内でブロック試料に対して該ミクロトームによる切削をおこなうことを特徴とする切削方法とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切削方法を用いることにより、高分子材料からなるブロック試料について切削をおこない切削面を形成するにあたり、高い平滑性を有する切削面を形成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の切削方法にあってはガラス転移温度が65℃〜200℃の高分子材料を含む試料を加熱手段を備えるミクロトームに固定し、該加熱手段により該ブロック試料を該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.4を掛けた温度(℃)以上該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度(℃)以下の温度範囲で保持し、該温度範囲内でブロック試料に対して該ミクロトームによる切削をおこなうことを特徴とする。
【0009】
室温にて高分子材料を含む試料についてミクロトームにより切削をおこなう場合、十分な平滑性を有する切削面を得ることができない場合がある。本発明者らはブロック試料として用いられる高分子材料のガラス転移温度を基準として、切削時の試料の温度を制御することにより、高い平滑性を有する切削面を得ることができることを発見し、本発明にいたった。
【0010】
本発明にあっては、高分子材料を含む試料をミクロトームで切削する際に、該ミクロトームが備える加熱手段により高分子材料のガラス転移温度(℃)に対して0.4を掛けた温度(℃)以上0.9を掛けた温度(℃)以下の温度範囲で試料を保持した状態でナイフにより切削をおこなう。高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度(℃)より低い温度で切削をおこなった場合には、平滑な切削面が得られなくなってしまう。また、高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度より高い温度で切削をおこなった場合には、平滑な切削面が得られないだけではなく、切削前後で試料である高分子材料の物性が変化してしまい、切削後におこなう観察や分析において正確な情報が得られなくなってしまう。
【0011】
本発明の高分子材料を備える試料の高分子材料からなるガラス転移温度は65℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。高分子材料のガラス転移温度が65℃に満たない場合、常温で切削可能となり、高分子材料のガラス転移温度が200℃を超えるような場合、試料を所望の温度範囲とすることが困難となる。
【0012】
図1に本発明のミクロトームの模式図を示した。
本発明のミクロトームは、切削対象の試料10を保持する試料ホルダー1、ホルダーの角度調整をおこなうセグメントアーク2、上下に振れるアーム3、ナイフ4を前進させる台座5、実体顕微鏡6を備える。試料10を試料ホルダー1で固定し、この試料ホルダー1をセグメントアーク2に固定する。一方、ナイフ4をナイフホルダー7に固定される。試料10を動かす上下に振れるアーム3が、上部から下部移動するに際しブロック試料の先端が台座に固定されたナイフ4と接触し、試料10は切削される。このとき、切削の様子は、実体顕微鏡6で確認をおこなわれる。
【0013】
本発明では、上記ミクロトームに加熱手段であるヒーター8および試料温度をモニタする熱電対9を付加する。ヒーター8は試料の温度調整を容易にするため、試料ブロック10の近傍に設置するのが望ましい。また、熱電対9は試料に接触させて取り付け、デジタルマルチメータ9dにより、常に試料10を所定の温度範囲に保持し、切削をおこなうのが望ましい。ヒーターとしては、公知のヒーター、例えば加熱ブロック、カートリッジヒーター、テープヒーター等を用いることができる。なお、光により加熱することも可能であるが、光により硬化、変質などが懸念される試料の場合は避けるべきである
【0014】
次に、本発明の試料について述べる。本発明の試料はガラス転移温度が65〜200℃の高分子材料を含む。また、本発明の高分子材料を含む試料としては、シート状ないしフィルム状の試料を用いることが出来る。シートないしフィルム状の試料としては、包装資材用ラミネートフィルム、バリアフィルム、ディスプレイ用光学フィルム等が挙げられる。前記シートないしフィルム状試料は、多層構造を有しており、これらの層構造を観察、分析する上で平滑な断面を形成する必要がある、これらの観察用試料は、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂より包埋され、ブロック状の試料となる。観察用試料が断面切削するための十分な強度を有している場合には、包埋しなくてもよい。
【0015】
試料10が試料を包埋樹脂に埋め込まれた状態である場合、直方体の形状を有しているブロック状の試料の試料部分が露出するまで包埋樹脂11の先端を細く削り、トリミングする。図2に本発明のブロック試料の模式図を示した。包埋樹脂はヒーター8により加熱されるため、耐熱性のあるものがよい。また試料12への熱伝導をスムーズにするため、切削時に試料12が保持できる状態で、可能な限り薄く包埋するのが望ましい。繰り返しになるが、試料が断面切削するための十分な強度を有している場合には、包埋せずにそのままブロック試料としてもよい。切削の衝撃を減らし平滑な切削面を得るためには、断面のみならず、断面の側面の樹脂部分も滑らかな鏡面仕上げにすることが望ましい。
【0016】
次に、ミクロトームによる切削方法について述べる。
ミクロトームによる切削においては、ガラスナイフ等による粗加工、ダイヤモンドナイフによる仕上げ加工の順でおこなわれる。カミソリ等である程度トリミングしたブロック試料を試料ホルダー1に固定し、試料ホルダーはセグメントアーク2に固定する。一方、ナイフホルダー7にガラスナイフを固定する。そして、試料ホルダーに固定されたブロック試料をガラスナイフの刃先に向かって上下させることにより粗加工である切削をおこなう。
【0017】
次に、ガラスナイフをナイフホルダー7から取り外し、同様に、ダイヤモンドナイフをナイフホルダーに固定し仕上げ加工である切削をおこなう。ダイヤモンドナイフを台座5に設置する際には、逃げ角をつくるため、4〜6°程度傾けることが多い。ナイフ刃先を傾ける角度は各種ナイフの固有の値である。ダイヤモンドナイフの寿命を考慮するとウェットでの切削が望ましいが、水のない、ドライな切削でもよい。
【0018】
本発明にあっては、ダイヤモンドナイフを用いた仕上げ加工の段階で、ミクロトームに備わった加熱手段により、試料を所望の温度範囲内に保持し、切削をおこなう。ガラスナイフを用いた粗加工の切削のときは、試料を加熱しなくてもよい。
【実施例1】
【0019】
ポリメチルメタクリレート樹脂をフィルム化し、これをエポキシ樹脂に包埋したブロック状の試料に対して、ガラスナイフで、試料面が露出するように断面出しおよびトリミングを行い、その後ダイヤモンドナイフで仕上げの切削を行った。この時、ヒーターを用いて試料温度を変化させ、切削を行った。切削温度は20、40、80、120℃とし、熱電対により温度を確認しながら、所望の温度に試料が到達してから1時間程度放置し、試料が十分所望の温度に達した状態で切削をおこなった。切削後の断面は原子間力顕微鏡(ディジタルインスツルメンツ社製 Nanoscope3a)を用いて1μm□の測定エリアでタッピングモードによる表面の粗さ測定をおこない、各温度における表面粗さを比較した。この結果を表1に示す。
【0020】

【表1】

【0021】
ポリメチルメタクリレートのガラス転移温度は100℃である。表1に示すように、ガラス転移温度の40%の温度にあたる40℃、および80%にあたる80℃の時、表面粗さRaは小さくなり、滑らかな表面が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0022】
ポリエチレンテレフタレートをエポキシ樹脂に包埋したブロック状の試料に対して、ガラスナイフで、試料面が露出するように断面出しおよびトリミングを行い、その後ダイヤモンドナイフで仕上げの切削を行った。この時、実施例1と同様、ヒーターを用いて試料温度を変化させ、切削を行った。切削温度は20、30、60、100℃とし、試料ブロックをその温度で1時間程度保持した後、切削をおこなった。切削後の断面は原子間力顕微鏡(ディジタルインスツルメンツ社製 Nanoscope3a)を用いて1μm□の測定エリアでタッピングモードによる表面の粗さ測定をおこない、各温度における表面粗さを比較した。この結果を表2に示す。
【0023】

【表2】

【0024】
ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は70℃である。表1に示すように、ガラス転移温度の43%の温度にあたる30℃、および86%にあたる60℃の時、表面粗さRaは小さくなり、滑らかな表面が得られていることが分かる。
【0025】
以上から、高分子ブロック試料をウルトラミクロトームで断面出しをする際、滑らかな表面を得るためには、その高分子のガラス転移温度(Tg)に対し、40%から90%の範囲内とすることにより良好な平滑面を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明のミクロトームの模式図である。
【図2】図2は本発明のブロック試料の模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1…試料ホルダー
2…セグメントアーク
3…アーム
4…ナイフ
5…台座
6…実体顕微鏡
7…ナイフホルダー
8…ヒーター
9…熱電対
9d…デジタルマルチメータ
10…試料ブロック
11…包埋樹脂
12…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が65℃〜200℃の高分子材料を含む試料を加熱手段を備えるミクロトームに固定し、該加熱手段により該ブロック試料を該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.4を掛けた温度(℃)以上該高分子材料のガラス転移温度(℃)に0.9を掛けた温度(℃)以下の温度範囲で保持し、該温度範囲内でブロック試料に対して該ミクロトームによる切削をおこなうことを特徴とする切削方法。

【図1】
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【図2】
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