説明

切換え式分岐形イオンガイド

切換え式分岐形イオンガイドが開示される。切換え式分岐形イオンガイドは、トランクセクション、第1及び第2の分岐セクション、トランクセクションを分岐セクションに連結する接合部及び接合部のところに設けられた可動弁部材を有する。弁部材を、イオンの移動がトランクセクションと第1の分岐セクションとの間で許可されるがトランクセクションと第2の分岐セクションとの間では禁止される第1の位置と、イオンの移動がトランクセクションと第2の分岐セクションとの間で許可されるがトランクセクションと第1の分岐セクションとの間では禁止される第2の位置との間で動かすことができる。分岐形イオンガイドは、例えば、イオン流を2つの行き先、例えば2つの質量分析計相互間で制御可能に切り換えるのに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、質量分析法に関し、特に、質量分析計の四重極イオンガイドに関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2006年5月12日にアラン・イー・ショーン(Alan E. Schoen)名義で出願された米国特許仮出願第60/799,813号(発明の名称:Switchable Branched Ion Guide)の35U.S.C§119(e)(1)の規定による優先権主張出願である。
【背景技術】
【0003】
質量分析法分野においては、質量分析機器の領域相互間におけるイオンの移動のための四重極イオンガイドが周知である。一般的に言えば、かかるイオンガイドは、高周波(radio-frequency)電圧の互いに逆の位相が印加される2対の細長い電極から成っている。かくして発生した実質的に四重極の電界は、イオンをイオンガイド内に半径方向に閉じ込めてイオンを実質的に損失なしにイオンガイドの入口端部と出口端部との間に延びる軸方向経路に沿って運ぶことができるようになっている。
【0004】
従来型質量分析機器では、イオンは、イオン源と少なくとも1つの質量分析計との間に延びる単一の経路に沿って運ばれる。最近、イオンを2つ又は3つ以上の別の経路相互間で選択的に切り換える必要のある、より複雑なアーキテクチャを備えた質量分析システムの開発に多大な関心が寄せられている。例えば、ハイブリッド質量分析計は、互いに並列に配置された2つの互いに異なる形式の質量分析器を利用する場合があり、イオンは、2つの質量分析器のうちの選択された1つに制御可能に差し向けられる。別の例では、イオンは、これらイオンが衝突室に入って分解(フラグメンテーション)を生じて生成イオンになる第1の経路と、これらイオンが元のままの状態の第2の経路との間で切換え可能である。さらに別の例では、2つの互いに異なるイオン源のうちの一方で生じたイオンが、選択的に質量分析器に導入される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる質量分析機器の動作を首尾良く行うには、イオン経路の切換えが、結果的に許容できないほどのイオン損失度を生じさせず、しかも非質量識別的(non-mass discriminatory)である仕方で行われる必要がある。また、複数の経路を比較的迅速に切り換えることが望ましい。先行技術では、これらの基準を満たすことができる装置があったとしてもほんの僅かである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概略的に説明すれば、本発明の実施形態は、トランクセクション、少なくとも第1及び第2の分岐セクション、トランクセクションと分岐セクションを連結する接合部を備えた切換え式分岐形イオンガイドの形態を取っている。トランクセクション及び分岐セクションは、互いに平行に配置された2つのY字形の平べったい電極及びY字形電極の平面に全体として垂直な平面内に配置された複数の側電極で構成されるのが良い。高周波電圧の互いに逆の位相をY字形電極及び側電極に印加すると、イオンをトランクセクション及び分岐セクションの内容積部内に半径方向に閉じ込めることができる。
【0007】
接合部のところに設けられた弁部材を第1の位置と第2の位置との間で制御可能に動かすのが良い。弁部材を第1の位置に動かすと、第1の分岐セクションは「開放」され、それにより、イオンは、トランクセクション及び第1の分岐セクションの内容積部相互間で移動するようになり、第2の分岐セクションは「閉鎖」され、それにより、トランクセクションと第2の分岐セクションとの間におけるイオンの移動が妨げられる。同様に、弁部材を第2の位置に動かすと、第1の分岐セクションが閉鎖され、第2の分岐セクションが開放される。このように、イオンは、2つの経路相互間で制御可能に切り換えられ、第1の経路は、第1の分岐セクション内容積部を含み、第2の経路は、第2の分岐セクション内容積部を含む。或る特定の実施形態では、弁部材は、少なくとも1つの中間位置で動作可能であり、それにより、イオンは、トランクセクションと、第1の分岐セクションと第2の分岐セクションの両方との間で動くことができる。
【0008】
弁部材の移動は、枢動(pivoting)運動及び(又は)摺動(sliding)運動を含むのが良い。弁部材は、圧電手段、磁気手段、電気機械式手段、空気圧手段又は他の適当な手段により制御可能に作動できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1Aは、第1の実施形態としての弁部材140を備えた切換え式分岐形イオンガイド100の斜視図である。切換え式分岐形イオンガイド100は、上方のY字形平面電極110a、下方のY字形電極110b、及びY字形電極110a,110bの平面に全体として垂直に差し向けられた複数の側電極120a,120b,130a,130bで形成されている。これらの電極は、ひとまとまりとなって、第1の分岐セクション132、第2の分岐セクション134、トランクセクション136、及び第1及び第2の分岐セクション132,134とトランクセクション136を連結する接合部138を構成している。上平面電極110a及び下平面電極110bは、一体構造のものとして示されているが、分岐形イオンガイドの他の具体化例は、セグメント状の構造体を有する上電極及び下電極を利用しても良い。
【0010】
当該技術分野において知られているように、イオンは、適当な高周波(RF)電圧を種々の電極に印加することにより分岐セクション及びトランクセクションの内容積部内に半径方向に閉じ込め可能である。より具体的に説明すると、半径方向閉じ込めは、RF電圧(例えばRF/DC源144によって供給される)の互いに逆の位相をY字形電極110a,110b及び側電極120a,120b,130a,130bに印加することにより達成される。所望ならば、適当な直流電流(DC)成分も又電極に印加すると、当該技術分野において公知の仕方でイオンの質量フィルタリングを行うことができる。さらに、当該技術分野において知られているように、イオンガイド100を通ってイオンを軸方向に推進するための補助ロッド(例えばトムソン等(Thomson et al.)に付与された米国特許第6,111,250号明細書に開示されている)又は他の適当な手段を用いることにより軸方向DC電界を発生させることができる。イオンの動冷却(kinetic cooling)を可能にすると共にイオンを適当な軸線に集束させるのを助けるために不活性ガス、例えば、ヘリウム又は窒素をイオンガイド100の内部に添加するのが良い。イオンの分離(フラグメンテーション)が望ましい場合、イオンガイド100内かイオンガイド100への導入に先立ってイオンを高速まで加速するのが良く、その結果、イオンは、バッファーガスの原子又は分子とのエネルギー衝突を行うようになる。イオンは又、反応性ガスとの低速相互作用を生じて生成イオンの状態に解離することができる。分離は又、イオンガイド100から見てイオン経路中の上流側又は下流側に配置された1つ又は2つ以上の衝突/反応室内で実施できる。
【0011】
イオンガイド100内でイオンの辿る経路は、弁部材140を制御可能に位置決めすることにより決定される。図1の実施形態によれば、弁部材140は、ピボット点150回りに回転可能に枢動できる細長いアームとして構成されている。弁部材140の設計は、図1Bを参照すると容易に理解でき、図1Bは、Y字形上電極110aが取り外された状態でイオンガイド100を示している。弁部材140は、実質的に真っ直ぐな又は僅かに湾曲した側面を有するものとして図示されているが、イオンガイド100の好ましい具体化例では、弁部材140は、側電極130a,130bの曲率に対応関係をなしてほぼ一致した曲率を有する互いに対抗する反対側の弧状面を備えている。弁部材140は、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)又は導電性材料で被覆された絶縁体(例えば、セラミック)から形成されるのが良い。弁部材140は、例えば側電極のうちの一方と電気的接触関係をなすことにより又はRF電圧供給源への別個の接続を介して側電極と電気的連絡関係に置かれており、その結果、選択された経路に沿ってイオンを半径方向に閉じ込める実質的に四重極の電界が発生するようになっている。弁部材140は、好ましくは、電界の不均一性を最小限に抑えるよう構成されているので、イオンが受ける電界は、第1又は第2の分岐セクションに沿うその位置とは本質的に無関係である。
【0012】
図1A及び図1Bでは、弁部材140は、イオンがトランクセクション136及び第1分岐セクション132の内容積部相互間で移動することができるがトランクセクション136及び第2の分岐セクション134の内容積部相互間では移動することが阻止される第1の位置に設定されている。以下に更に詳細に説明するように、イオンガイド100は、本来的に双方向であり、イオンがトランクセクション136から分岐セクションのうちの選択された一方に移動し、又はその代わりに、分岐セクションのうちの選択された一方からトランクセクション136に移動するように構成されているのが良い。
【0013】
切換え式イオンガイド100の切換え原理が、図2A及び図2Bに示されている。図2Aでは、弁部材140は、上述の第1の位置に設定されており、この位置では、イオンは、経路202に沿って第1の分岐セクション132及びトランクセクション136の内部相互間で移動することができる。図2Bでは、弁部材は、ピボット点150回りに第2の位置まで回転されており、この第2の位置では、イオンは、経路204に沿って第2の分岐セクション134及びトランクセクション136の内容積部相互間で移動することができるが、第1の分岐セクション132とトランクセクション136との間では移動することが阻止される。第1の位置と第2の位置との間における弁部材140の運動は、当該技術分野において知られている種々の機構体のうちの1つによって達成でき、かかる機構体としては、電気機械式アクチュエータ、圧電アクチュエータ、油圧アクチュエータ及び磁気アクチュエータが挙げられるが、これらには限定されない。一般に、切換えは、迅速に且つ弁部材の過度の「バウンシング(bouncing)」を生じないで行われることが望ましい。ただし、正確な切換え速度に関する要件は、分岐形イオンガイド100が用いられる質量分析機器の特定の形態及び用途に応じて様々であろう。
【0014】
分岐形イオンガイド100の或る特定の具体化例では、第1の位置と第2の位置との間の中間の第3の位置に弁部材140を位置決めできることが有利な場合がある。図2Cに示すこの中間位置では、イオンは、トランクセクション136の内容積部と、分岐セクション132,134の両方の内容積部との間で移動することができる。この状態は、例えば、両方の分岐セクションから流れる2つのイオン流を結合してトランクセクションを通って流れる単一のイオン流の状態にし又は変形例として、トランクセクションを通って流れる単一のイオン流を図1及び図2の分岐セクションを通って差し向けられる2つのイオン流に分けるのに採用できる。図2Cは、中間位置を第1の位置と第2の位置との間の真ん中に位置し、それにより分岐セクション内を移動するイオン相互間の等量の分割(又は、等量の組合せ)を行うものとして示しているが、追加的に又は代替的に、1つ又は2つ以上の中間位置への弁部材140の位置決めを可能にし、それにより、イオンが2つの分岐セクションのうちの一方の中に優先的に差し向けられるようにし(しかしながら、これに限定されるわけではない)、即ち、トランクセクション136を通って移動しているイオン流のうちの不等量部分を第1の分岐セクション132及び第2の分岐セクション134に差し向けることが望ましい場合がある。しかしながら、当業者であれば認識されるように、弁部材140が中間位置に配置されている場合、四重極電界の歪みにより著しく悪影響を受ける場合がある。
【0015】
図3A及び図3Bは、分岐形イオンガイド100を利用した質量分析機器アーキテクチャの2つの例を示している。図3Aに示す第1の例では、分岐形イオンガイド100は、イオン源302により生じたイオン流を質量分析器304,306のうちの選択された一方(又はこれら両方)に制御可能に差し向けるために用いられる。イオン源302(これは、例えば、連続イオン源、例えば電気スプレー電離又は大気圧化学イオン化又はパルス源、例えばマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源の形態をしているのが良い)で生じたイオンは、トランクセクション136の端部内に流れ、そして接合部138に向かって移動する。弁部材の位置に応じて、イオンは、第1の分岐セクション132か第2の分岐セクション134かのいずれか一方(又は、弁部材140が中間位置に設定されている場合には、これら両方)の内容積部内に入る。図3Aは、第1の位置に設定された弁部材140を示しており、それにより、イオンは、第1の分岐セクション132内に差し向けられる。第1の分岐セクション132内に差し向けられたイオンは、第1の質量分析器304まで移動し、ここで、イオン(又はこれらの生成物)の質量電荷比が決定される。同様に、第2の分岐セクション134内に差し向けられたイオンは、第2の質量分析器306まで移動し、これらの質量電荷比(又は、これらの生成物の質量電荷比)が決定される。第1の質量分析器302と第2の質量分析器304は、同一又は互いに異なる形式のものであって良く、これら質量分析器は、当該技術分野において知られている質量分析器のうちの任意の1つ又は組み合せから成っていて良く、かかる質量分析器としては、四重極イオントラップ、四重極質量フィルタ、静電イオントラック、飛行時間分析器、磁場形分析器及びフーリエ変換/イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)分析器が挙げられるが、これらには限定されない。
【0016】
図3Bは、機器アーキテクチャの第2の例を示しており、この例では、イオンガイド100は、図3Aの例とは逆の向きに構成されており、それにより、イオンは、分岐セクションのうちの選択された一方の内容積部からトランクセクション136の内容積部内に流れる。この例では、イオンガイド100は、第1及び第2のイオン源310,312のうちの選択された一方により生じたイオン流をトランクセクション136内に制御可能に差し向け、しかる後、質量分析器314内に差し向けるために用いられている。イオン源310,312は、当該技術分野において知られているイオン源(上述したイオン源が挙げられるが、これらには限定されない)のうちの任意の1つ又は組み合せの形態を取ることができ、同一又は互いに異なる形式のものであって良い。弁部材140の位置は、どちらのイオン流がトランクセクション136内に導入されるかを決定する。図3Bは、第1の位置に設定された弁部材140を示しており、それにより、イオンは、第1のイオン源310から第1の分岐セクション132を通ってトランクセクション136内に差し向けられる。弁部材140を第2の位置に動かすと、イオンは、第2のイオン源312から第2の分岐セクション134を通ってトランクセクション136内に移動する。弁部材312も又、第3の、即ち、中間位置に位置決め可能である場合、イオンは、両方の分岐セクションからトランクセクション136内に移動することができる。トランクセクション136に入ったイオンは、トランクセクションの長さ全体を通り抜けて質量分析器314(これは、上述した形式を含む任意適当の形式のものであって良い)に入ることができ、それによりイオン及び(又は)これらの分離生成物の質量電荷比が決定される。
【0017】
図3A及び図3Bに示す機器アーキテクチャは、切換え式分岐形イオンガイドを利用することができる環境の例示として意図されているに過ぎず、かかる機器アーキテクチャは、分岐形イオンガイドを任意特定の用途に限定するものと考えられてはならないことは理解されるべきである。また、当業者であれば認識されるように、上述した形式の2つ又は3つ以上の切換え式分岐形イオンガイドを直列に組み合わせると、3つ又は4つ以上のイオン経路相互間における切換えが可能になる。
【0018】
図4A〜図4Cは、摺動可能に位置決め可能な弁部材410を有する切換え式分岐形イオンガイド400を第2の実施形態として示している。分岐形イオンガイド400は、互いに間隔を置いた上方及び下方の三分岐形平面電極420a,420bと、上電極420a及び下電極420bに対して全体として垂直に差し向けられた側電極430a,430b,440a,440bとを有している。上電極及び下電極並びに側電極は、ひとまとまりとなって、第1、第2及び第3の分岐セクション445,450,455、トランクセクション460及びトランクセクションを分岐セクションに連結する接合部470を構成している。この場合も又、当該技術分野において知られているように、高周波電圧の互いに逆の位相を上電極及び下電極並びに側電極に印加して実質的に四重極の電界を発生させ、かかる四重極電界は、イオンを種々のセクションの内容積部に半径方向に閉じ込める。
【0019】
分岐形イオンガイド400の切換えは、弁部材410をイオンの移動方向に対して全体として横の方向に制御可能に摺動させることにより達成される。側電極430a,430bは、開口部475a,475bを備えるよう構成されており、弁部材410の端部は、これら開口部中に突き出てその摺動運動を可能にする。弁部材410は、1組のチャネル480a,480b,480cが形成されたブロックとして具体化されるのが良い。図示していないが、チャネルは、1つ又は2つ以上の連結部材によって側方に橋渡しされ、これら連結部材は、好ましくはイオンの流れを実質的に損なうことなく、弁部材410に構造的一体性をもたらす。例えば、各チャネルは、1組の上側及び下側U字形連結部材によって橋渡しされるのが良く、上側及び下側U字形連結部材は、弁部材410の上面及び下面にそれぞれ連結された端部を有している。チャネル480a,480b,480cは各々、実質的に一定の断面積を有すると共に次のように、対応の分岐セクションを構成する電極の曲率に適合するよう形作られた端面を有しており、即ち、チャネル480aは、第1の分岐セクション445に適合し、チャネル480bは、第2の分岐セクション450に適合し、チャネル480cは、第3の分岐セクション455に適合している。弁部材410は、例えば側電極のうちの一方と電気的接触関係をなすことにより又はRF電圧供給源への別個の接続を介して側電極と電気的連絡関係に置かれており、その結果、選択された経路に沿ってイオンを半径方向に閉じ込める実質的に四重極の電界が発生するようになっている。弁部材410は、電界の不均一性を最小限に抑えるよう構成されているので、イオンが受ける電界は、第1、第2又は第3の分岐セクションに沿うその位置とは本質的に無関係である。
【0020】
イオンガイド400内でイオンの辿る経路は、弁部材410の位置により決定される。図4A、図4B及び図4Cは、それぞれ、弁部材410をその第1の位置、第2の位置及び第3の位置で示している。第1の位置では、イオンの移動は、トランクセクション460及び第1の分岐セクション445の内容積部相互間で可能であるが、トランクセクション460の内容積部と第2及び第3の分岐セクション450,455の内容積部との間では阻止される(中実の表面が存在していることにより阻止される)。弁部材を図4Bに示す第2の位置に動かすと、イオンの移動は、トランクセクション460及び第2の分岐セクション450の内容積部相互間で可能であるが、トランクセクション460の内容積部と第1及び第3の分岐セクション445,455の内容積部との間では阻止される。最後に、弁部材を図4Cに示す第3の位置に動かすと、イオンの移動は、トランクセクション460及び第3の分岐セクション455の内容積部相互間で可能であるが、トランクセクション460の内容積部と第1及び第2の分岐セクション445,450の内容積部との間では阻止される。これらの位置相互間における弁部材410の運動は、当該技術分野において知られている種々の機構体のうちの1つによって達成でき、かかる機構体としては、電気機械式アクチュエータ、圧電アクチュエータ、油圧アクチュエータ及び磁気アクチュエータが挙げられるが、これらには限定されない。
【0021】
本明細書において説明した実施形態は、本発明の例示である。図面を参照して本発明の3つの実施形態を説明したが、説明した方法及び(又は)特定の構造の種々の改造又は変更は当業者には明らかであろう。本発明の教示を利用する、また、本発明の教示の利用により技術進歩をもたらす全てのかかる改造例、変更例又は変形例は、本発明の精神及び範囲に属すると考えられる。それ故、上述の説明及び図面は、本発明を限定する意味に解されてはならない。というのは、言うまでもなく、本発明は、開示した実施形態だけに何ら限定されないからである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明の第1の実施形態としての切換え式分岐形イオンガイドの斜視図であり、弁部材が選択された位置相互間で枢動できる状態を示す図である。
【図1B】図1Aの切換え式分岐形イオンガイドシステムの斜視図であり、イオンガイドの特徴を明確に示すために上方のY字形電極が取り外されている状態を示す図である。
【図2A】切換え式分岐形イオンガイドの平面図であり、弁部材が第1の位置にある状態を示す図である。
【図2B】切換え式分岐形イオンガイドの平面図であり、弁部材が第2の位置に動かされた状態を示す図である。
【図2C】切換え式分岐形イオンガイドの平面図であり、弁部材が中間位置に動かされた状態を示す図である。
【図3A】切換え式分岐形イオンガイドを採用した質量分析機器アーキテクチャの第1の例を示す図である。
【図3B】切換え式分岐形イオンガイドを採用した質量分析機器アーキテクチャの第2の例を示す図である。
【図4A】本発明の第2の実施形態としての切換え式分岐形イオンガイドの斜視図であり、弁部材が選択された位置相互間で摺動可能に動くことができ、弁部材が第1の位置にある状態を示す図である。
【図4B】図4Aの切換え式分岐形イオンガイドの斜視図であり、弁部材が第2の位置に動かされた状態を示す図である。
【図4C】図4Aの切換え式分岐形イオンガイドの斜視図であり、弁部材が第3の位置に動かされた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
100 切換え式分岐形イオンガイド
110a,110b Y字形平面電極
120a,120b,130a,130b 側電極
132 第1の分岐セクション
134 第2の分岐セクション
136 トランクセクション
138 接合部
140 弁部材
144 RF/DC源
150 ピボット点
202,204 経路
302 イオン源
304 第1の質量分析器
306 第2の質量分析器
310 第1のイオン源
312 第2のイオン源
312 弁部材
314 質量分析器
400 切換え式分岐形イオンガイド
410 弁部材
420a,420b 三分岐形平面電極
430a,430b,440a,440b 側電極
445 第1の分岐セクション
450 第2の分岐セクション
455 第3の分岐セクション
460 トランクセクション
470 接合部
475a,475b 開口部
480a,480b,480c チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切換え式分岐形イオンガイドであって、
トランクセクション、第1の分岐セクション、第2の分岐セクション、及び前記トランクセクションと前記第1及び前記第2の分岐セクションを連結する接合部を有し、前記トランクセクション、前記第1の分岐セクション、及び前記第2の分岐セクションの各々は、高周波電圧の互いに逆の位相が印加される少なくとも2つの電極対を有し、
前記接合部のところに位置決めされた弁部材を有し、前記弁部材は、前記トランクセクション及び前記第1の分岐セクションの内容積部相互間におけるイオンの移動を可能にするが前記トランクセクション及び前記第2の分岐セクションの内容積部相互間におけるイオンの移動を阻止する第1の位置と、前記トランクセクション及び前記第2の分岐セクションの内容積部相互間におけるイオンの移動を可能にするが前記トランクセクション及び前記第1の分岐セクションの内容積部相互間によるイオンの移動を阻止する第2の位置との間で動くことができる、イオンガイド。
【請求項2】
前記弁部材は、ピボット点回りに回転可能なアームを有する、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項3】
前記弁部材は、多数のチャネルを備えた摺動可能なブロックを有する、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項4】
イオンは、前記トランクセクションの前記内容積部から前記第1及び前記第2の分岐セクションのうちの選択された一方のセクションの内容積部に移る、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項5】
イオンは、前記第1及び前記2の分岐セクションのうちの選択された一方のセクションの内容積部から前記トランクセクションの前記内容積部に移る、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項6】
前記弁部材は、前記トランクセクションの前記内容積部と、前記第1の分岐セクションと前記第2の分岐セクションの両方の前記内容積部との間におけるイオンの移動を可能にする第3の位置まで動くことができる、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項7】
前記第1の分岐セクション、前記第2の分岐セクション、前記トランクセクション、及び前記接合部は、全体として互いに平行であり且つ互いに間隔を置いた関係をなして配置された第1及び第2のY字形平面電極と、全体として前記Y字形電極に直角に差し向けられた複数の平面側電極とで構成されている、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項8】
前記弁部材は、ピボット点回りに回転可能なアームを有し、前記アームは、対応関係をなす前記側電極に実質的に適合している曲率を備えた互いに向かい合う弧状面を有する、請求項7記載のイオンガイド。
【請求項9】
前記弁部材は、電気機械式アクチュエータによって制御可能に位置決めされる、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項10】
前記第3の分岐セクションを更に有し、前記弁部材は、前記トランクセクションと前記第3の分岐セクションとの間におけるイオンの移動を可能にする第3の位置まで動くことができる、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項11】
質量分析システムであって、
イオン源を有し、
前記イオン源からイオンを受け取るよう構成されたトランクセクションを備える切換え式分岐形イオンガイドを有し、前記イオンガイドは、第1の分岐セクション、第2の分岐セクション、及び前記トランクセクションと前記第1及び前記第2の分岐セクションを連結する接合部を有し、前記トランクセクション、前記第1の分岐セクション、及び前記第2の分岐セクションの各々は、高周波電圧の互いに逆の位相が印加される少なくとも2つの電極対を有し、
前記接合部のところに位置決めされた弁部材を有し、前記弁部材は、前記トランクセクションの内容積部から前記第1の分岐セクションの内容積部へのイオンの移動を可能にするが前記トランクセクションの内容積部から前記第2の分岐セクションの内容積部へのイオンの移動を阻止する第1の位置と、前記トランクセクションの内容積部から前記第2の分岐セクションの内容積部へのイオンの移動を可能にするが前記トランクセクションの内容積部から前記第1の分岐セクションの内容積部へのイオンの移動を阻止する第2の位置との間で動くことができ、
前記第1及び前記第2の分岐セクションからイオンをそれぞれ受け取るよう構成された第1及び第2の質量分析器を有する、質量分析システム。
【請求項12】
前記第1の質量分析器と前記第2の質量分析器は、互いに異なる形式のものである、請求項11記載の質量分析システム。
【請求項13】
前記弁部材は、ピボット点回りに回転可能なアームを有する、請求項11記載の質量分析システム。
【請求項14】
前記第1の分岐セクション、前記第2の分岐セクション、前記トランクセクション、及び前記接合部は、全体として互いに平行であり且つ互いに間隔を置いた関係をなして配置された第1及び第2のY字形平面電極と、全体として前記Y字形電極に直角に差し向けられた複数の平面側電極とで構成されている、請求項11記載の質量分析システム。
【請求項15】
前記弁部材は、前記トランクセクションの前記内容積部から前記第1の分岐セクションと前記第2の分岐セクションの両方の前記内容積部へのイオンの移動を可能にする第3の位置まで動くことができる、請求項11記載の質量分析システム。
【請求項16】
質量分析システムであって、
第1及び第2のイオン源を有し、
前記第1及び前記第2のイオン源からイオンを受け取るようそれぞれ構成されている第1及び第2の分岐セクションを備えた切換え式分岐形イオンガイドを有し、前記イオンガイドは、トランクセクション及び前記トランクセクションと前記第1及び前記第2の分岐セクションを連結する接合部を更に有し、前記トランクセクション、前記第1の分岐セクション、及び前記第2の分岐セクションの各々は、高周波電圧の互いに逆の位相が印加される少なくとも2つの電極対を有し、
前記接合部のところに位置決めされた弁部材を有し、前記弁部材は、前記第1の分岐セクションの内容積部から前記トランクセクションの内容積部へのイオンの移動を可能にするが前記第2の分岐セクションの内容積部から前記トランクセクションの内容積部へのイオンの移動を阻止する第1の位置と、前記第2の分岐セクションの内容積部から前記トランクセクションの内容積部へのイオンの移動を可能にするが前記第1の分岐セクションの内容積部から前記トランクセクションの内容積部へのイオンの移動を阻止する第2の位置との間で動くことができ、
前記トランクセクションからイオンを受け取るよう構成された質量分析器を有する、質量分析システム。
【請求項17】
前記第1のイオン源と前記第2のイオン源は、互いに異なる形式のものである、請求項16記載の質量分析システム。
【請求項18】
前記弁部材は、ピボット点回りに回転可能なアームを有する、請求項16記載の質量分析システム。
【請求項19】
前記第1の分岐セクション、前記第2の分岐セクション、前記トランクセクション、及び前記接合部は、全体として互いに平行であり且つ互いに間隔を置いた関係をなして配置された第1及び第2のY字形平面電極と、全体として前記Y字形電極に直角に差し向けられた複数の平面側電極とで構成されている、請求項16記載の質量分析システム。
【請求項20】
前記弁部材は、前記第1の分岐セクションと前記第2の分岐セクションの両方の前記内容積部から前記トランクセクションの前記内容積部へのイオンの移動を可能にする第3の位置まで動くことができる、請求項16記載の質量分析システム。
【請求項21】
前記イオンの冷却又は分解を可能にするために不活性又は反応性ガスが前記イオンガイドの前記内容積部に添加される、請求項1記載のイオンガイド。
【請求項22】
前記イオンガイドを通るイオンを推進するのを助ける軸方向DC電界を発生させる手段を更に有する、請求項1記載のイオンガイド。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公表番号】特表2009−537070(P2009−537070A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510965(P2009−510965)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/010745
【国際公開番号】WO2007/133469
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】