説明

切断具

【課題】斜行刃型の爪切りでは巻き爪のように爪長方向の途中の太くて硬い爪を切断するには剪断力が顕在化することに伴って困難である点、及び直進刃型の爪切りでは爪の先端から切断箇所へ送るために、巻き爪の肉に食い込んだ該先端を切断箇所へ送ることができない点を解消する。
【解決手段】爪切り10は、固定刃21には前後方向の先端部位に形成された切断部211aが、この固定刃21に対して直進移動する移動刃22には前後方向の先端部位に形成された切断部22aが、各々形成され、さらに、前記固定刃21における前記切断部21aの、前後方向に対して90°±45°の範囲の一部に切欠部C2が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の巻き爪を切断するに好適な切断具に係り、特に、使用時に、使用者の指を挟む危険性がなく、また、動物の爪以外を挟むことを防止しつつ巻き爪を切断することが可能で、しかも、移動刃の固定刃に対する密着度を調整することができると共に、移動刃がぶれることなく安定移動させることができ、さらに移動刃と固定刃を容易に交換することが可能な切断具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動物用の爪切りとしては、例えば本発明者は、過去に以下の特許文献1に開示される爪切り(以下、これを直進刃型という)を考案した。また、特許文献1に開示され直進刃型の他に、例えば特許文献2に示す爪切り(以下、これを斜行刃型という)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 登録実用新案第3096809号公報
【特許文献2】 実開平4−68662号公報
【0004】
図6に示す特許文献1に示される爪切り60は、操作杆61の操作と共に作動する作動片62の先端で係合した下刃63が、爪を挿入する挿入孔65aが形成され、本体64に固定的に設けられた上刃65に対して該本体64の保持孔64Aから前後に直進的に摺動移動する。
【0005】
特許文献1のような直進刃型の爪切り60は、上刃65の挿入孔65aに爪を位置させ、該挿入孔65aの内周における最先端部(ここが実質的に刃となっている)と直進する下刃63との間で挟み込まれて爪が切断される。
【0006】
図7に示す特許文献2に示される爪切り70は、一方端部に設けた鋏片71,72を支軸73を中心に開閉可能でかつ交差状に支持し、鋏片71,72の互いに対向する位置に凹状の刃部71a,72aを設けると共に他方端部に該鋏片71,72を開閉操作する操作片74,75を形成した構成である。
【0007】
特許文献2のような斜行刃型の爪切り70は、鋏片71,72の間に爪を位置させ、操作片74,75を接近操作することで、支軸73を中心に交差状に設けた該鋏片71,72(刃部71a,72a)を斜行状に接近させることで爪を切断する。
【0008】
しかしながら、これら特許文献1,2は、爪の先端が巻いて肉に食い込んだ、いわゆる巻き爪を切断することができないという問題があった。ちなみに、爪切りと爪との位置関係は、人間の爪も動物の爪も同様で、巻き爪も、通常の爪も、爪の先端を切断する箇所へ送って、爪の付け根から先端に至る(以下、爪長方向という)途中の先端からの適所を切断する。ただ、巻き爪が切断しにくいのは、爪の先端から切断箇所に送ろうとしても、該先端が肉に食い込んでいるためである。
【0009】
巻き爪の爪長方向の途中箇所を切断箇所に送る点では、特許文献2の斜行刃型の爪切り70は、鋏片71,72の先端が開放されているから容易である。しかし、斜行刃型の特許文献2の爪切り70は、鋏片71,72の先端が例えば肉と接触してしまい、鋏片71,72における奥端で刃部71a,72aが位置する箇所(支軸73近傍)に爪の切断箇所を位置させることができない、あるいは、該鋏片71,72の先端で肉を挟んでしまうといった問題がある。
【0010】
また、特許文献2の斜行刃型の爪切り70は、巻き爪の切断に限らず、上記とは別の根本的な問題がある。ここで、文具品など一般的な鋏の切断原理について説明する。鋏は、両方の刃部が斜行状に接近することで被切断物を切断する。
【0011】
切断は、例えば図7を例にすると、一方の刃(以下、刃部71a)と、他方の刃(以下刃部72a)とが擦れるように操作されることで、刃部71a,72aが被切断物に対して相対的に移動すること、及び上(右)刃と下(左)刃に位置する刃部71a,72aのそれぞれが操作される方向へ移動することに伴って、被切断物を互い違いに押圧する剪断力が働くことによる。
【0012】
よって、薄い被切断物は、上記剪断力が顕在化する前に、刃部71a,72aが被切断物に相対移動することで(カッターやナイフによるごとく)切断される。一方、厚みのある及び硬い被切断物を切断する場合は、前記被切断物に相対した刃部71a,72aの移動では切断できず、このとき、剪断力が顕在化する。
【0013】
この剪断力の顕在化が、鋏が切れなくなったり、鋏の切れ味が悪くなるといった要因となる。つまり、剪断力は、厚い及び硬い被切断物を切断する際だけでなく、両刃の錆びや刃こぼれ等の刃の損耗、両刃の切断時における両刃の重なり方向の隙間が生じるといった構造上の欠陥、によっても同様に顕在化する。
【0014】
つまり、厚い及び硬い被切断物を切断する際において、刃の相対移動だけでは切断できず、剪断力が顕在化するから、特許文献2の斜行刃型の爪切り70は、(太い爪、硬い爪を含めた)巻き爪、すなわち先端が肉に食い込んで切断箇所がもはや先端とは言えないほど太くて硬い爪長方向の途中箇所を確実に切断することができないのである。
【0015】
例えば、特許文献2の斜行刃型の爪切り70において、仮に鋏片71,72の先端方向の長さが短く、爪を刃部71a,72aの奥部へ送ることができたとしても、巻き爪の長さ方向の途中箇所を挟むから、元々の爪(骨)の硬さと途中箇所による太さ(厚み)が加わり、刃部71a,72aの相対移動だけでは容易に切断できない。
【0016】
結果、刃部71a,72aの相対移動だけで容易に切断できない時点で、剪断力が顕在化し、刃部71a,72aの奥部が先行して間隔が斜行状に狭くなる際に、爪が鋏片71,72の先端方向に逃げてしまい(あるいは爪切り70全体が爪から逃げてしまい)、切断することができない。
【0017】
上記において、仮に爪が先端方向に逃げないとしても、刃部71a,72aの相対移動だけでは容易に切断できないのであるから、剪断力の顕在化の別例として、例えば爪が切断できずに刃部71a,72aの上下方向(又は左右)に互い違いに歪む及び歪みの程度が大きい場合は爪が割れる又は潰すといった現象が生じる。
【0018】
また、剪断力の顕在化のさらに別例として、上記のように爪が歪まないとしても、爪が刃部71a,72aの各々の接近方向と同一水平面に爪が回転してしまうといった現象、この現象と共に刃部71a,72aの間隔が開いてしまう現状、あるいは応力により爪切り70全体が爪の長さ方向と同一水平面へ回転するといった現象、が生じていずれにしても上手く切断できない。
【0019】
この点で、特許文献1のような直進刃型の爪切り60は、被切断物に対する下刃63と上刃65の相対移動の作用を必要とはせず、簡単には、爪のほぼ同一箇所に刃を突き合わせて剪断する(断ち切る)から特許文献2のような不具合はない。
【0020】
つまり、特許文献1のような直進刃型の爪切り60は、剪断力によって下刃63と上刃65とが爪(被切断物)にほぼ同一箇所で食い込み、これにより断ち切っているのである。そして、特許文献1の爪切り60は、爪に容易に食い込むように下刃63と上刃65とを形成している。
【0021】
しかし、特許文献1のような直進刃型の爪切り60は、内周に切欠きを有しない挿入孔65aに爪(の先端)を挿入する必要があるため、巻き爪の、肉に食い込んだ爪の先端を挿入孔65aに挿入、つまり巻き爪を切断箇所に位置させることができないので、結果的に巻き爪を切断することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献2の斜行刃型の爪切りでは巻き爪のように爪長方向の途中の太くて硬い爪を切断するには剪断力が顕在化することに伴った様々な問題と共に切断そのものが困難である他、両方の刃が位置する箇所(支点近傍)に爪を位置させることができないといった問題、あるいは、肉を挟んで切断してしまうといった問題がある点、また、特許文献1の直進刃型の爪切りでは爪の先端から切断箇所へ送るために、巻き爪の肉に食い込んだ該先端を切断箇所へ送ることができない点、である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、本発明の切断具は、本体には、固定刃と移動刃を積層状態で保持する保持孔と、この保持孔の積層方向の対向部に形成された調整孔と、手で把持して切断操作する把持部と、この把持部の操作動力を移動刃に伝達する作動片とを備え、固定刃には、前後方向の先端部位に形成され、被切断物を位置させると共に刃部によって切断する切断部と、前後方向の途中箇所に形成した固定孔と、作動片の移動を案内するために、後端から固定孔の近傍に至る部位に形成されたレールとを備え、移動刃には、前後方向の先端部位に形成され、被切断物を刃部によって切断する切断部と、前後方向の途中箇所に形成され、該移動刃の前後移動をガイドするガイド孔と、後端部に形成され、作動片を係止する係止孔とを備え、さらに、固定刃の切断部の、前後方向に対して90°±45°の範囲の一部に切欠部が形成されていることを最大の特徴とした。
【発明の効果】
【0024】
上記構成によれば、本発明の切断具は、固定刃の切断部に切欠部が形成されているので、巻き爪のように先端部が肉に食い込んでいて、つまり切断箇所に先端部を送ることが困難な状況であっても、該切欠部から爪長方向の途中部位を切断部に送ることができ、しかも直進刃型であるから、巻き爪を確実に切断することができる。
【0025】
ここで、切欠部の位置を、前後方向に対して90°±45°の範囲に形成している理由を説明する。本発明においては、前後方向に対して直交する方向を90°の位置とし、以下、ここを基準0°位置と定義する。そして、正方向への角度は先端方向へ、負方向への角度は後端方向へ、回転した角度を意味することとする。
【0026】
切欠部が前後方向に対して基準0°位置から+45°(先端方向へ回転)より大きい角度の位置に形成されると、もはやほぼ先端であり、この位置に切欠部が形成されても、直進移動する移動刃と固定刃で爪を挟んで切断することができない。一方、基準0°位置から−45°(後端方向へ回転)より小さい角度の位置に形成されると、肉に押し当てる先端部位が大きくなり、該先端を強く肉に押し当てなければ切欠部まで爪を位置させることができない。
【0027】
さらに、本発明の切断具は、固定孔とガイド孔と、保持孔における調整孔を連通状態とたうえで、該保持孔の移動刃側の調整孔からガイド孔を介して固定孔に達する螺子を螺入したり、該保持孔の対向部の両外側にボルトとナットを配してガイド孔及び固定孔を介してボルトを締めることで、固定刃が移動刃に接近させることができる。よって、固定刃に対して移動刃が密着して互いの刃が確実に噛み合うことになり、確実かつ容易に被切断物を切断することができる。
【0028】
また、上記、螺子やボルト(以下、総称して螺子という)が、移動刃のガイド孔に挿通されているから、移動刃の直進前後方向に対する直交方向への移動を規制することができる。また、把持部の操作に伴う作動片の移動を、固定刃のレールにより規制しているから、操作自体も安定したものとなる。さらには、移動刃と固定刃が保持孔で積層状態で保持されているから、該移動刃と固定刃のぶれ方向への移動を確実に防止できる。
【0029】
また、本発明の切断具は、上記したように螺子で固定刃と移動刃を取り付けているから、螺子を外すのみで固定刃を保持孔から抜き出すことができる。また、移動刃は、螺子がガイド孔に挿入され、作動片が係止孔に係合しているから、該螺子を外し、保持孔内に該下刃を退入させた後に作動片を係止孔から外せば保持孔から抜き出すことができる。
【0030】
すなわち、本発明の切断具は、全体、特に本体における各部を分解しなくても、螺子を外すのみで、容易に移動刃も固定刃を取り出すことが可能である。そして、上記の逆を行えば同じく取り換えた移動刃あるいは固定刃を取り付けることが可能である。なお、交換後の移動刃と固定刃の密着度の調整は上記したように容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の切断具の全体を示す斜視図である。(実施例1)
【図2】図2は、本発明の切断具の分解斜視図である。(実施例1)
【図3】図3(a)〜(c)は、本発明の切断具の使用状況を説明するための図である。(実施例1)
【図4】図4は、本発明の切断具の他の構成を示す分解斜視図である。(実施例2)
【図5】図5は、本発明の切断具のさらに他の構成を示す分解斜視図である。(実施例3)
【図6】図6は、従来の切断具を示す図である。
【図7】図7は、従来の切断具を示す図である。従来の切断具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の切断具は、人間の爪のように薄くかつ比較的柔らかい爪と異なり、断面厚みが大きくかつ硬い動物の爪を切断する点、及び巻き爪のように、先端が肉に食い込んで切断箇所に送り込めない点、を、直進刃型の構成において固定刃の切断部の、前後方向と直交する方向の一部に切欠部を形成することで解消した。この構成により、端部を有しない巻き爪であっても、爪長方向の途中部位を切欠部を介して切断部に送り、直進する移動刃により確実に切断することができる。
【実施例1】
【0033】
以下に、本発明の実施例について図1〜図5を参照して説明する。図1〜図3に示す実施例1は本願の請求項1,2を採用した請求項3に対応する構成を、図4に示す実施例2は本願の請求項1に対応する構成を、図5に示す実施例3は請求項1を採用した請求項2対応する構成を、各々示す。
【0034】
なお、実施例2,3において、先の実施例と同じ構成については同じ参照符号を付して説明を省略する。また、本実施例1〜3では、本発明の切断具を、動物の爪、特に巻き爪を切断する「爪切り」として説明する。
【0035】
図1〜図3に示す実施例1の爪切り10は、固定刃11、移動刃12、本体13を主要構成とし、固定刃11に対して移動刃12を直進移動させることで(巻き)爪を切断すべく、次のように構成されている。
【0036】
固定刃11は、移動刃12の移動方向(以下、前後方向という、また、前後方向のうち前側を先側とする)の先端部が、前後方向の直交する方向に突出している。なお、本実施例1では、一方側への突出方向は右利き用を想定しており、左利き用ならば反対側、両利き用とするならば、両方側へ突出させておけばよい。
【0037】
固定刃11の先端部における上記突出部位には切断部11aが形成されており、この切断部11aの後端に刃11bが形成されている。本実施例1では、切断部11aの突出量は移動刃12よりも約0.5〜1.0mm(図示ではα)だけ大きく設定されている。
【0038】
さらに、この切断部11aの突出方向の先端11aaは円弧状とし、側部11abを前後方向と平行する直線状としている。さらに、この側部11abにおける先端11aaと反対の端部(つまり先端)11acもまた円弧状としている。
【0039】
さらに、固定刃11は、先端部に至る前後方向の途中部に、該固定刃11及び移動刃12を本体13の保持部13Aに取り付けるための螺子Bが挿入される固定孔11cが形成されている。さらに、固定刃11の前後方向の後端部から途中部に向けて後述する作動片16をガイドするレール11dが形成されている。
【0040】
移動刃12は、固定刃11の裏面側に積層され、該固定刃11と共に本体13の保持部13Aに前後方向に直進摺動自在に保持される。移動刃12は、先端部が、前後方向と直交する方向で、固定刃11と同方向の一方側に突出している。すなわち移動刃12の先端部は、右利き用の一方側、左利き用の他方側、両利き用の両方側、の固定刃11の突出方向と共に突出した状態とされている。
【0041】
移動刃12の先端部における上記突出部位には切断部12aが形成されており、この切断部12aの先端に刃12bが形成されている。さらに、切断部12aの突出方向の先端12aaは尖塔状とされ、若干だけ該切断部12aの内周側へカールしている。
【0042】
また、移動刃12は、先端部に至る前後方向の途中箇所に、螺子Bが挿通されることで該螺子Bにより相対的に該移動刃12の前後移動を案内する前後方向に長尺状とされたガイド孔12cが形成されている。さらに、移動刃12の前後方向の後端部には、後述する作動片16の係合部16aを係合する係止孔12dが形成されている。
【0043】
そして、本実施例1では、固定刃11の切断部11aと移動刃12の切断部12aとが離間した状態で、爪の切断前において、各々の先端11aa,12aaの間に生じる空間に切欠部Cを形成している。この切欠部Cは、本実施例1では、前後方向に対して直交する方向(=90°:基準0°位置)を、切欠き間隔の中心としている。爪は、この切欠部Cを介して、切断部11aと切断部12aの間に送られることになる。
【0044】
本体13は、前後方向の先端部に固定刃11と移動刃12とを保持する保持部13Aが、前後方向の途中箇所に後述する操作杆15を枢止する枢止部13Bが、後端部に全体を使用者が把持するための把持部13Cが、各々形成されている。
【0045】
保持部13Aは、前後方向と直交する方向を、固定刃11と移動刃12とを積層して挿入できる程度の厚みを形成しつつ中央に折り返すことで保持孔13Aaが形成されている。そして、保持孔13Aaを形成する折り返し片を付き合わせた中央部及びこの中央部と対向する面に調整孔13Abが形成されている。この調整孔13Abは、固定刃11の固定孔11c、及び移動刃12のガイド孔12cに対応して形成されている。
【0046】
螺子Bは、例えば、本実施例1では、保持部13Aの移動刃12側の調整孔13Aaから、ガイド孔12c、固定孔11cを介して、保持部13Aの固定刃11側の調整孔13Aaから突出し、ここでナットNに螺入する。よって、螺子Bを締め付けることで、保持孔13Aaの上下の間隔が狭くなり、固定刃11と移動刃12とが密着する。このようにすることで、固定刃11と移動刃12との密着度を容易に調整することが可能となる。
【0047】
なお、螺子Bは、ナットNに螺入、すなわち固定刃11側の調整孔13Abから突出していなくてもよく、例えば固定刃11の固定孔11cに直接的に螺入する構成でも構わない、また、移動刃12を介して固定刃11に達しているならば、該固定刃11側の調整孔13Abを省略しても構わない。
【0048】
枢止部13Bは、本体13において前後方向と直交する方向を、固定刃11及び移動刃12の面と略直交する方向に折り曲げて形成されている。折り曲げた各々の頂上部間には操作杆15の所要厚みを残した隙間が形成されている。また、頂上部における隙間には、操作杆15の支点部15Aが挿入される。
【0049】
さらに、枢止部13Bの折り曲げた頂上部の各々には、後述する操作杆15の支点部15Aを枢支するためのピンP1を挿入する枢支孔13Baが形成されている。また、把持部13Cは操作杆15に面した側の前後方向の途中箇所に係合片13caが形成されており、この係合片13Caに上記したスプリングSPの他端が係合している。
【0050】
操作杆15は、先端部の前後方向と直交する方向を、固定刃11及び移動刃12と略直交するように折り曲げられており、この折り曲げられた部位に、枢支部13Bの枢支孔13Ba,13Baに対応する枢止孔15Aa,15Aaが形成されていると共に、作動片16の係止孔16bに対応する係止孔15Abが形成されている。
【0051】
ピンP1は、枢支部13Bの枢支孔13Ba,13Ba及び操作杆15の枢止孔15Aa,15Aaに挿入される。よって、操作杆15は、ピンP1によって本体13の枢支部13Bに枢支されることとなる。また、操作杆15は、支点部15Aの前後方向の反対側に把持部15Bが形成されている。爪切り10は、操作杆15の把持部15B及び本体13の把持部13Cが使用者に把持される。
【0052】
なお、本発明では、操作杆15の支点部15Aが、保持部13Aから大きく離れた位置で枢支され、別途のカバーなどを有しない構成であるので、操作杆15の操作によって該支点部15Aと保持部13Aとの間に使用者の指を挟むことが防止される。
【0053】
操作杆15の支点部15Aにおける折り曲げられた部位の内側に挿入される作動片16は、操作杆15の支点部15Aにおける係止孔15Abの円弧運動を直線運動に変換する。作動片16はその先端部に係合部16aが形成されており、係合部16aは上記移動刃12における係止孔12dと係合する。
【0054】
また、作動部16は、その前後方向の途中箇所に、操作杆15の係止孔15Ab,15Abと対応する係止孔16bが形成されている。これら係止孔15Ab、係止孔16b、係止孔15Abには、この順に係止ピンP2が挿通される。また、作動片16の係止孔16bの近傍には、短縮状態が自然長とされるスプリングSPの一端を係合する係合孔16cが形成されている。
【0055】
上記構成の爪切り10は、図3に示すようにして使用する。まず、固定刃11の切断部11aに動物の巻き爪の爪長方向の途中部位において、先端11aaを爪の径方向から引っ掛ける。このとき、図3(a)に示すように、肉と接触させる端部11acが円弧状とされているので、該端部11acを肉に強く押し当てても、肉に突き刺さって傷つけることがない。
【0056】
また、切断部11a,12aが、前後方向と直交する方向に突出しているから、把持部13Cと把持部15Bを把持した状態で、操作がしやすい。また、切欠部Cを形成することで、巻き爪の爪長方向の途中部位を切断部11a,12aへ位置させやすくなる。
【0057】
先端11aaが爪の断面における下弦部位に位置したとき、図3(b)に示すように、側部11abが肉と平行になるように爪切り10全体を回転させて、該先端11aaを爪と肉との間に入り込ませる。このとき、側部11abを肉に押しつけつつ回転させるが、先端11aaも端部11acも円弧状とされているから、これら先端11aa及び端部11acが肉に突き刺さって傷つけることがない。
【0058】
さらに、側部11abが前後方向と平行な直線状とされると共に、固定刃11の先端部の突出方向への突出量が移動刃12よりもα分だけ大きいことで、側部11abを肉に押しつけている限りにおいては、後述の切断時に先端11aaと先端12aaとで肉を挟むことがない。図3(b)の状態で、切欠部Cを介して、固定刃11の切断部11aと移動刃12の切断部12aとに、巻き爪を位置させることとなる。
【0059】
その後、把持部13Cに対して把持部15Bを接近させるように操作する。このとき、操作杆15における支点部15Aの係止孔15Abが、下方及び前方へ円弧状に運動する。操作杆15における支点部15Aの係止孔15Abの円弧運動に伴って、作動片16の先端部(係合部16a)は、上方に向いつつ前進する円弧状に運動しようとするが、ピンP2及び係合部16aと係止孔12dとの係止により前後のみの直線運動に変換される。
【0060】
このときの動作をさらに詳細に説明すると、移動刃12は保持部13Aの保持孔13Aa内に先端部を残したほぼ全体が収納されている。このとき、作動片16の係合部16aは、移動刃12の係止孔12dに係止された状態で固定刃11のレール11dにおける後端に位置している。
【0061】
上記したように操作杆15の把持部15Bを本体13の把持部13Cに接近させるように操作すると、作動片16の係合部16aは、移動刃12の係止孔12dに係止された状態で固定刃11のレール11dにおける前端に移動する。
【0062】
つまり、本実施例の爪切り10は、固定刃11のレール11dによって作動片16の係合部16aを前後方向に対する左右移動を規制すると共に、移動刃12のガイド孔12cに螺子Bが挿通されていることによって該移動刃12の前後移動に際して左右にぶれることを規制しているから、移動刃12が本体13の保持部13A(保持孔13Aa)から直進移動する。
【0063】
移動刃12が固定刃11に対して直進移動すると、図3(c)に示すように、移動刃12の切断部12aが固定刃11の切断部11aに接近する。このとき、固定刃11の先端部の突出方向への突出量が移動刃12よりもα分だけ大きいこと、側部11abが前後方向に平行な直線状としていること、から、先端11aaと先端12aaとで肉を挟むことなく、該移動刃12の先端12aaにより爪が掬われて切断部12aへ案内される。
【0064】
そして、図3(c)に示す状態から、刃12b及び刃11bとが相対的にぶれることなくほぼ同一位置で爪に食い込むことで、このときの剪断力により、図3(d)に示すように、容易にかつ確実に爪が切断される。また、固定刃11に対して直進する移動刃12の双方には刃11b,12bが形成されて、爪のほぼ同一箇所に食い込んで断ち切るから、爪を潰したり、歪めたりなどすることなく、上手く切断が可能である。
【0065】
また、本実施例の爪切り10は、例えば本実施例1の構成では、螺子Bを締めると、保持部13Aの保持孔13Aaの上下の間隔が狭くなると共に、これによって移動刃12と固定刃11とが密着する。従って、本実施例の爪切り10は、1つの螺子Bの締め具合で移動刃12と固定刃11との密着度を調整することが可能となる。
【0066】
さらに、本実施例の爪切り10は、螺子Bを外すことで、固定刃11を本体13における保持孔13Aaから抜き出すことができると共に、移動刃12を保持孔13Aaにおいて把持部13C側に退入させた後、作動片16の係合部16aと移動刃12の係止孔12dとの係止状態を解除すれば保持孔13Aaから抜き出すことができる。
【0067】
また、取り換えた固定刃11を再度本体13に取り付けるには次のようにすればよい。すなわち、固定孔11cと調整孔13Abとを連通させ、取り換えた移動刃12を再度本体13に取り付け、移動刃12を保持孔13Aa内に退入させて作動片16の係合部16aと係止孔12dとを係止した後に、該移動刃12を保持孔13Aa内で前進させてガイド孔12cを調整孔13Ab及び固定孔11cとを連通させ、螺子Bを挿通する。
【0068】
このように、本実施例の爪切り10は、ピンP1及びP2を外したり、全体をほとんど分解した状態にすることなく、移動刃12と固定刃11とを容易に外すことができると共に、取り換えた移動刃12と固定刃11とを容易に取り付けることができると共に、取り換えた後には、上記したように移動刃12と固定刃11との密着度の調整を行うことができる。
【0069】
なお、図示しないが、実施例1は本願発明の請求項1,2を採用した請求項3の構成を示しているが、請求項1を採用した請求項3の構成とする場合は、上記の切断部Cにおいて、移動刃12に対する固定刃11の前後方向と直交する方向への突出量の差αを省略した態様となる。この場合、若干肉を挟む可能性があるものの、固定刃11の先端11aa、移動刃12の先端12aaの形状により、肉を切ることはなく安全に使用できる。
【実施例2】
【0070】
図4に示す実施例2は本願の請求項1に対応する構成であり、上記実施例1と比較して、固定刃21及び移動刃22が直線状とされている点、及び切欠部C2が固定刃21の先端部に形成された切断部21aの一部が、前後方向の直交方向において(前後方向に対して90°=基準0°位置において)切欠かれて形成されている点、が相違する。
【0071】
すなわち、図4に示す実施例2は、まず、切断部21aの内周部に刃11bが形成され、一方、移動刃22の先端部に凹状の切断部22aが形成され、この切断部22aの先端に刃12bが形成されている。そして、実施例2では、切欠部C2において、切欠きを形成する切断部21aの切欠き突き合わせ端面の、前後方向と直交する方向への突出量の差(α)を省略している。
【0072】
このように構成した実施例2の爪切り10は、上記実施例1における、固定刃11と移動刃12の先端部を前後方向と直交する方向に突出させ、かつそれぞれの切断部11a,12aの離間した状態により切欠部Cが形成されることによる作用効果、及び切欠部C2における切欠き両端面における一方と他方の前後方向と直交する方向への突出量の差αの効果を除いて、同様の作用効果を得ることができる。
【0073】
すなわち、実施例2では、実施例1と同様に、巻き爪を引っ掛けて確実に切断する作用効果や、移動刃22の固定刃21との密着度を調整することができると共に、移動刃22を安定的に移動させることができ、さらに移動刃22と固定刃21を容易に交換することが可能な点は同等に得ることができる。
【実施例3】
【0074】
図5に示す実施例3は本願の請求項1を採用した請求項2に対応する構成であり、上記実施例2において、切欠部C2を形成する切断部21aの突き合わせ端面における一方と他方の、前後方向と直交する方向への突出量の差αが設けられている。
【0075】
このように構成した実施例3の爪切り10は、上記実施例1における、固定刃11と移動刃12の先端部を前後方向と直交する方向に突出させ、かつそれぞれの切断部11a,12aの離間した状態により切欠部Cが形成されることによる作用効果を除いて、同様の作用効果を得ることができる。
【0076】
すなわち、実施例3では、実施例1と同様に、巻き爪を引っ掛けて確実に切断する作用効果や、移動刃22の固定刃21との密着度を調整することができると共に、移動刃22を安定的に移動させることができ、さらに移動刃22と固定刃21を容易に交換することが可能な点は同等に得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
上記実施例1〜3では、動物の爪、特に巻き爪を切断する爪切りとして説明したが、そのほか、例えば樹脂成型品の(端部を有しない)ゲートを切断する用途に採用しても好適である。
【符号の説明】
【0078】
10 爪切り(切断具)
11 固定刃
11a 切断部
11aa 先端
11ab 側部
11ac 端部
11b 刃
11c 固定孔
11d レール
12 移動刃
12a 切断部
12aa 先端
12b 刃
12c ガイド孔
12d 係止孔
13 本体
13A 保持部
13Aa 保持孔
13Ab 調整孔
16 作動片
16a 係合部
21 固定刃
21a 切断部
22 移動刃
22a 切断部
C 切欠部
C2 切欠部
α 前後方向と直交する方向への突出量の差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に固定刃と移動刃とを有し、固定刃に対して移動刃を直進移動させることで被切断物を切断する切断具であって、前記本体には、前記固定刃と前記移動刃を積層状態で保持する保持孔と、この保持孔の前記積層方向の対向部に形成された調整孔と、手で把持して切断操作する把持部と、この把持部の操作動力を移動刃に伝達する作動片とを備え、前記固定刃には、前後方向の先端部位に形成され、被切断物を位置させると共に刃部によって切断する切断部と、前後方向の途中箇所に形成した固定孔と、前記作動片の移動を案内するために、後端から前記固定孔の近傍に至る部位に形成されたレールとを備え、前記移動刃には、前後方向の先端部位に形成され、被切断物を刃部によって切断する切断部と、前後方向の途中箇所に形成され、該移動刃の前後移動をガイドするガイド孔と、後端部に形成され、前記作動片を係止する係止孔とを備え、さらに、前記固定刃の前記切断部の、前後方向に対して90°±45°の範囲の一部に切欠部が形成されていることを特徴とする切断具。
【請求項2】
切欠部の切欠き両端部のうちの一方端部が他方端部に対して、前後方向と直交する方向に突出していることを特徴とする請求項1記載の切断具。
【請求項3】
切欠部が、固定刃と移動刃の各々の切断部を前後方向と直交する方向の一方側又は両方側へ突出させ、かつそれぞれの切断部の離間した状態により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の切断具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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