説明

切断機

【課題】切断砥石で被切断材を切断する際の火花の拡散を効果的に防止し、火花に起因するこげつきや汚れ等の不都合を防止可能である。
【解決手段】被切断材Wを固定するバイス2及びこれを設置したベース1と、ベース1の前側にヒンジ3を介して取り付けられ、ベース1に対し離れる乃至接近する方向へ揺動自在に支持されたアーム10と、これに設けられた駆動部及びこれによって回転駆動される切断砥石30と、切断砥石30の上側部分を覆うホイールカバー25と、この前方側開口部25aから後方に延在していて、ホイールカバー25に揺動自在に取り付けられた補助カバー40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断砥石を回転させて金属等の被切断材を切断する切断機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の切断機について図7乃至図10を用いて説明する。なお、前後方向と上下方向を図7の矢印で示すように定義する。これらの図において、上面が平坦面となっているベース1の上面にはバイス2が設置されている。バイス2はベース1の前側に固定された固定バイス部2aと、これに対向して後側に配置された移動バイス部2bとを有し、固定バイス部2aと移動バイス部2bとで鋼管等の被切断材Wを挟持してベース1上に被切断材Wを固定保持するものである。ベース1の前側にはヒンジ3が固定され、ヒンジ3に対しアーム10がヒンジピン4でベース1の上面に垂直な面内で回動自在に取り付けられている。つまり、アーム10はベース1に対し離れる乃至接近する方向へ揺動自在にヒンジ3を介して支持されている。なお、図8のようにアーム10はヒンジピン4の周囲に設けられたスプリング15により、上端がベース1から離れる方向に付勢されており、図示しないストッパによりアーム10の上昇限位置は図7の離れた状態に規制されている。
【0003】
図8に示すように、アーム10の先端部には操作用のハンドル11が固着されるとともに駆動部20が取り付けられている。駆動部20は電動機及びその回転を減速する減速機構を具備しており、減速機構の出力軸、つまり駆動部20の回転駆動軸21に切断工具としての切断砥石30がボルト35で固定されている。切断砥石30はベース1の上面に垂直な面内で回転する。
【0004】
駆動部20で回転駆動される切断砥石30の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分を覆うようにホイールカバー25がアーム10側(駆動部20)に固定されている。ホイールカバー25の後方側開口部から下方に延在するサブカバー26がホイールカバー25にボルト等の取付部材27で揺動自在に取り付けられている。サブカバー26は自重で下方(図7の左回り)に移動しようとするが、下限位置は図示しないストッパで規制されている。逆にサブカバー26は上方(右回り)に回動可能である。図7のようにサブカバー26が被切断材Wに接触していない状態では、サブカバー26は図7に図示の下限位置に規制されている。被切断材Wの切断加工時にサブカバー26が被切断材Wに接触するときは、サブカバー26は上方に移動して回避可能である。
【0005】
バイス2で被切断材Wをベース1に固定後、図7の状態からハンドル11を押し下げ方向に操作して切断砥石30をベース1に接近させ、図9のように切断を開始した時、及びそれ以後の図10の切断状態では、被切断材Wが鋼管等の場合に、左回りに回転している切断砥石30の接線方向(矢印P)に多量の火花(切粉)が飛散する。これを受けるためにスパークシュート28がベース1の上面前側に設置されている。スパークシュート28はベース1とホイールカバー25の隙間を覆う形状である。
【0006】
この種の回転する切断砥石を用いた切断機の公知文献としては、下記特許文献1,2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−69590号公報
【特許文献2】特開2001−252822号公報
【0008】
特許文献1の切断機は、スパークシュートに相当する火花飛散防止カバーを具備するとともに、切断砥石を通過させ得る間隙を形成したプレートを、砥石カバーの開口を部分的に塞ぐように設けた構成を示す。この場合、プレートは切断作業によって生じる火花等が砥石カバー内に侵入することを防止するものである。
【0009】
特許文献2の集塵装置は、ステーで枠組みし、外側は難燃性のシートで覆いボックスを形成し、これに吸引装置に接続される吸引口を設けたものである。この場合、切断装置の形状に比較して集塵装置の外形は大きなものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から、切断機において鋼管等の被切断材の切断時には切断工具としての切断砥石の接線方向に多量の火花が飛散することが、こげつきや汚れ等の発生上問題となっている。また、近年、火花拡散防止についての要求が厳しくなる傾向となってきている。このため、図7乃至図10に示したスパークシュートの配置だけでは不十分となる問題があった。
【0011】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、切断工具で被切断材を切断する際の火花の拡散を効果的に防止し、火花に起因するこげつきや汚れ等の不都合を防止可能な切断機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のある態様の切断機は、被切断材を固定するバイス及び前記バイスを設置したベースと、
前記ベースに対し離れる乃至接近する方向へ移動自在に前記バイスの前方で支持されたアームと、
前記アームに設けられた駆動部であって、回転駆動される切断工具と、前記切断工具の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分を覆うホイールカバーとを有する前記駆動部と、
前記ホイールカバーの前方側開口部から後方に延在していて、前記駆動部に対して移動自在に取り付けられた第1の補助カバーとを備える。
【0013】
前記態様において、前記第1の補助カバーは前記ホイールカバーの内側を移動するものであるとよい。
【0014】
前記態様において、前記第1の補助カバーは、前記バイスで固定された被切断材と前記切断工具との接触部位よりも前側の前記切断工具部分を覆うものであるとよい。
【0015】
前記態様において、前記第1の補助カバーは、前記バイスで固定された被切断材に対し非接触状態では前記ホイールカバーから自重で垂れ下がっている構成であるとよい。
【0016】
前記態様において、前記第1の補助カバーの後端が、前記切断工具による切削開始時に前記バイスの前側バイス部よりも後方に位置する構成であるとよい。
【0017】
前記態様において、前記第1の補助カバーは後側下端部に接触部位を有し、前記接触部位は前記バイスの中間点よりも前側で前記被切断材に接触するとよい。さらに、前記接触部位は、前記アームが前記ベースに接近するのに伴って前記ベースに接触して前記ベースの前方向に移動可能であるとよい。
【0018】
前記態様において、前記ホイールカバーの後方側開口部から下方に延在していて、前記ホイールカバーに所定範囲で揺動自在に取り付けられた第2の補助カバーを備えるとよい。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、切断砥石の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分を覆うホイールカバーに、補助カバーを揺動自在に取り付けて、ホイールカバーの前方側開口部から後方を覆うことで、切断砥石で被切断材を切断したとき火花(切粉)の拡散を効果的に防止可能であり、ひいては火花に起因するこげつきや汚れ等の不都合を防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る切断機の実施の形態であって、切断操作前の状態を示す側面図である。
【図2】同じく一部を断面とした正面図である。
【図3】実施の形態において、切断操作により補助カバー下端部の湾曲部が被切断材に接した状態の側面図である。
【図4】実施の形態において、切断操作により切断砥石が被切断材に接した状態の側面図である。
【図5】実施の形態において、切断操作により補助カバー下端部の湾曲部がベース上面に接した状態の側面図である。
【図6】実施の形態において、切断操作により補助カバー下端部の湾曲部がベース前側に移動した状態の側面図である。
【図7】従来の切断機であって、切断操作前の状態を示す側面図である。
【図8】同じく一部を断面とした正面図である。
【図9】従来の切断機における被切断材の切断開始時の状態を示す側面図である。
【図10】同じく被切断材の切断途中の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
図1乃至図6は本発明に係る切断機の実施の形態であって、図7乃至図10に示した従来の切断機の構成に加えて、切断時の火花(切粉)の拡散防止のために補助カバー40(第1の補助カバー)をホイールカバー25に付加している。補助カバー40はボルト及びナット等の取付部材50によりホイールカバー25に対して揺動自在に取り付けられており、自重により垂れ下がるようになっている。ホイールカバー25は、図示しない電動機を内蔵する駆動部20によって回転駆動される切断砥石30の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分(例えば切断砥石30の周囲の空間のうちの50%以上)を覆うものであり、補助カバー40はホイールカバー25の前方側開口部25aから後方に延在することでホイールカバー25と、バイス2で固定された被切断材Wとの間の切断砥石30の周囲空間を覆う配置である。なお、前後方向と上下方向を図1の矢印で示すように定義する。また、切断砥石30の回転方向は図1における矢印Rの方向(反時計回り)である。
【0024】
図2に示すように、補助カバー40は切断砥石30の両方の側面下部及び底面側を覆う断面略U字構造を有し、取付部材50の軸部を回転中心としてホイールカバー25の内側を移動でき、補助カバー40の一部はホイールカバー25の内側に入り込んでいる。また、補助カバー40の後側下端部には、接触部位としての湾曲部41が設けられている(一体に形成されている)。湾曲部41は被切断材Wに対して凸面で接するように先端が前側に湾曲して曲がっている。
【0025】
切断砥石30は取付金具を併用して駆動部20の回転駆動軸21にボルト35で固定されているが、補助カバー40にはそのボルト35をよける切欠部42が形成されている。この切欠部42は、ホイールカバー25よりも後側を覆っているサブカバー26(第2の補助カバー)を持ち上げることでボルト35を露出可能とし、ボルト35を外して容易に切断砥石30を交換可能とするものである。
【0026】
図1の切断操作前の状態からハンドル11を押し下げ、アーム10をベース1に近づけて行くと、まず図3のように被切断材Wに補助カバー40の湾曲部41が接触する。湾曲部41の被切断材Wへの接触位置はバイス2の中間点よりも前側となる。以後、図4及び図5に至るまで補助カバー40の位置は湾曲部41が被切断材Wに接触することで規制され、ハンドル11の押し下げにより図4の状態となって被切断材Wの切断が開始される。このとき、補助カバー40は、バイス2で固定された被切断材Wと切断砥石30との接触部位よりも前側の切断砥石部分を覆うため、切断に伴う火花(切粉)は接線方向(矢印P)に飛散するが補助カバー40があるため、火花の大部分はその内側に入る。また、残りの火花はスパークシュート28で遮られる。このため、火花の拡散を効果的に防止できる。
【0027】
図5のように切断砥石30による被切断材Wの切断が進むと、湾曲部41がベース1の上面に接触する。さらにハンドル11を押し下げると、図6のように補助カバー40の湾曲部41がベース1の上面に沿って前側に移動(スライド)することで、補助カバー40がハンドル11の押し下げ(切断の進行)の妨げにならないようにする。補助カバー40の移動は切断材Wを切断し終わるまで可能となる。
【0028】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0029】
(1) 切断砥石30の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分を覆うホイールカバー25に、補助カバー40を揺動自在に取り付けて、ホイールカバー25の前方側開口部25aから後方を覆うことで、切断砥石30で被切断材Wを切断したとき火花の拡散を効果的に防止可能である。すなわち、従来は被切断材Wとホイールカバー25との間の切断砥石30が露出していたため、その露出部分から火花が飛散していたが、補助カバー40で被切断材Wとホイールカバー25との間の切断砥石露出部分を覆うことで、火花拡散の防止が可能となる。
【0030】
(2) 補助カバー40の後端が、切断砥石30による切削開始時にバイス2の固定バイス部2a(前側バイス部となる)よりも後方に位置するため、補助カバー40が被切断材Wと接触でき、以後接触状態で切断することで補助カバー40と被切断材Wとの間の切断砥石露出部分をできるだけ少なくして、火花の飛散防止を図ることができる。
【0031】
(3) 補助カバー40の後側下端部に湾曲部41が設けられているため、ハンドル11の押し下げに伴って補助カバー40が降下しても、当初は湾曲部41が被切断材Wに接して補助カバー40が前進し、被切断材Wの切断が進んで湾曲部41がベース1の上面に接触すると湾曲部41がベース1上面を摺動して前進するため、補助カバー40が切断動作のじゃまにならないようにするとともに、補助カバー40が切断砥石30を覆う範囲を十分大きくすることが可能となる。
【0032】
(4) 補助カバー40はホイールカバー25に揺動自在に取り付けられて自重により垂れ下がる構造であり、簡素な構造で効果的な火花の拡散防止が可能である。
【0033】
(5) サブカバー26がホイールカバー25の後方側開口部から下方に延在していて、ホイールカバー25に所定範囲で揺動自在に取り付けられているため、ホイールカバー25内に入った火花が回り込んで後方側開口部から排出されても、サブカバー26が存在することで作業者側に飛び出すことを防止可能である。
【0034】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0035】
上記実施の形態では、補助カバーの一部がホイールカバーの内側に入り込んで移動する構造であるが、補助カバーがホイールカバーの外側に対して揺動自在に取り付けられた構造とすることも可能である。例えば、サブカバーの一部がホイールカバーの内側に入り、ホイールカバーの外側に補助カバーの一部が重なる構造としてもよい。
【0036】
補助カバーに設ける接触部位として、被切断材Wに対して凸面で接するように先端が前側に湾曲して曲がった湾曲部を例示したが、湾曲部と同様の機能を果たせれば形状は任意である。例えば、補助カバーの後側下端部に接触部位としてのローラーを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 ベース
2 バイス
3 ヒンジ
10 アーム
11 ハンドル
15 スプリング
20 駆動部
21 回転駆動軸
25 ホイールカバー
26 サブカバー
28 スパークシュート
30 切断砥石
40 補助カバー
41 湾曲部
42 切欠部
50 取付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断材を固定するバイス及び前記バイスを設置したベースと、
前記ベースに対し離れる乃至接近する方向へ移動自在に前記バイスの前方で支持されたアームと、
前記アームに設けられた駆動部であって、回転駆動される切断工具と、前記切断工具の周囲の空間のうち、少なくとも上側部分を覆うホイールカバーとを有する前記駆動部と、
前記ホイールカバーの前方側開口部から後方に延在していて、前記駆動部に対して移動自在に取り付けられた第1の補助カバーとを備える、切断機。
【請求項2】
前記第1の補助カバーは前記ホイールカバーの内側を移動するものである、請求項1に記載の切断機。
【請求項3】
前記第1の補助カバーは、前記バイスで固定された被切断材と前記切断工具との接触部位よりも前側の前記切断工具部分を覆うものである、請求項1又は2に記載の切断機。
【請求項4】
前記第1の補助カバーは、前記バイスで固定された被切断材に対し非接触状態では前記ホイールカバーから自重で垂れ下がっている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の切断機。
【請求項5】
前記第1の補助カバーの後端が、前記切断工具による切削開始時に前記バイスの前側バイス部よりも後方に位置する、請求項3又は4に記載の切断機。
【請求項6】
前記第1の補助カバーは後側下端部に接触部位を有し、前記接触部位は前記バイスの中間点よりも前側で前記被切断材に接触する、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の切断機。
【請求項7】
前記接触部位は、前記アームが前記ベースに接近するのに伴って前記ベースに接触して前記ベースの前方向に移動する、請求項6に記載の切断機。
【請求項8】
前記ホイールカバーの後方側開口部から下方に延在していて、前記ホイールカバーに所定範囲で揺動自在に取り付けられた第2の補助カバーを備える、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の切断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111704(P2013−111704A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260272(P2011−260272)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】