説明

切花の保存方法、切花保存用キット、加工切花の製造方法及び加工切花

【課題】切花について、簡便な処理操作で、生花に近い形態を長期にわたって維持し得る切花の保存方法、並びに、生花に近い形態を長期にわたって維持し得る加工切花の製造方法を提供すること。
【解決手段】切花中の組織液を保存液と置換することによってその切花を保存する方法であって、以下の工程:
1.前記切花中の組織液を親水性有機溶媒と置換する脱水工程;
2.前記切花中の親水性有機溶媒を、前記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒である保存液と置換する浸漬工程;
を包含する切花の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切花中の組織水を保存液と置換することによってその切花の日持ちを良くする切花の保存方法、並びに日持ちの良い加工切花の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリザーブドフラワーと呼ばれる加工花が注目を集めている。プリザーブドフラワーとは、バラやカーネーション等の切花について、その組織中の水分(以下、組織液と称する)を保存液で置換したものであり、従来のドライフラワーに比べてより生花に近い形態(形状、質感、花色等)を残しているので、ユニークな花材として結婚式のブーケや一般家庭の玄関・居間のアレンジメント等に使われることが多くなっている。
こうしたプリザーブドフラワーの作製方法としては、保存液としてポリエチレングリコール等を使用する方法が挙げられる。(特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】特許第3548744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載される方法によって作製されたプリザーブドフラワーは、特に高温多湿の条件下では劣化が激しく、数日経つと、その花弁の色調が白く変化し、部分的に透明になってしまう場合があり、保存液に人工色素を添加して再染色する必要があるなど、かならずしも再現性や安定性の優れた方法ではなかった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、切花について、簡便な処理操作で、生花に近い形態を長期にわたって維持し得る切花の保存方法、並びに、生花に近い形態を長期にわたって維持し得る加工切花の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、切花中の組織液を保存液と置換することによってその切花を保存する方法であって、以下の工程:
1.前記切花中の組織液を親水性有機溶媒と置換する脱水工程;
2.前記切花中の親水性有機溶媒を、前記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒である保存液と置換する浸漬工程;
を包含する切花の保存方法である点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
本発明においては、親水性有機溶媒を使用するため、親水性有機溶媒が切花中の組織液と速やかに置換し得、切花を脱水することができる。
さらに、本発明において保存液として使用する有機溶媒は、親水性有機溶媒と親和性があるため、切花中の親水性有機溶媒と速やかに置換し得、尚且つ不揮発性又は難揮発性であるため花弁の収縮変形を起こし難く、切花の形状が長期にわたって維持され得る。
その上、切花中の組織液を保存液(有機溶媒)に置換することによって、切花組織のいわゆる固定処理のようなものがなされて腐敗等が進み難くなり、その結果、切花の質感や花色等が長期にわたって維持され得る。
従って、本発明を適用した切花については、元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)を長期にわたって維持することが可能となる。
尚、親水性有機溶媒による脱水工程と、親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒による浸漬工程という簡便な処理工程を経ることによって、切花の形態(形状、質感、花色等)を元の生花に近い形態で長期にわたって維持し得るという知見は、本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されたものである。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記保存液が、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールからなる群から選択される点にある。
〔作用及び効果〕
後述する実施例2に示されるように、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールといったこれら保存液は、切花を元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)で長期にわたって維持することが可能であり、特に、これらの保存液は、浸漬工程の際、切花中に含まれる天然色素(アントシアニン等)を溶脱し難く、天然色素がそのまま切花中に保持され易いので、切花の花色を、元の生花の花色に近い花色か、又は略同等の花色で維持することができる。
【0008】
本発明の第3特徴構成は、前記親水性有機溶媒が、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうち少なくとも一つを含有する点にある。
〔作用及び効果〕
エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールといった親水性有機溶媒は、水との親和性があるので置換(脱水)し易い。
さらに、後述する実施例1に示されるように、上記親水性有機溶媒は、切花を上記親水性有機溶媒中に浸漬した際、切花中に含まれる天然色素を溶脱し難く、尚且つ切花が収縮し難い。
尚、これらの親水性有機溶媒が有するこうした性質は、本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されたものである。
また、本発明における親水性有機溶媒は、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうちいずれか1つを選んで使用しても良いし、あるいはこれらの溶媒の中から必要に応じて任意に複数の溶媒を選択して混合し、その混合物を使用するようにしても良い。
【0009】
本発明の第4特徴構成は、前記浸漬工程を経た切花について、親水性有機溶媒によってその表面をすすぐ洗浄工程をさらに包含する点にある。
〔作用及び効果〕
浸漬工程を経た切花は、その表面に付着した保存液によって不自然な色合いや質感を有する場合がある。
そこで、本発明によれば、切花の表面に付着した保存液を、親水性有機溶媒ですすいで洗い流すことによって、その切花の花色や質感をより元の生花に近いものとすることができる。
【0010】
本発明の第5特徴構成は、請求項1〜4のいずれか1項に記載される切花の保存方法に使用可能であって、少なくとも、前記親水性有機溶媒と前記保存液とを備える切花保存用キットである点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の切花保存用キットを使用すれば、請求項1〜4のいずれか1項に記載される切花の保存方法を簡便に実施することができる。
【0011】
本発明の第6特徴構成は、切花中の組織液を保存液と置換することによって加工切花を製造する方法であって、以下の工程:
1.前記切花中の組織液を親水性有機溶媒と置換する脱水工程;
2.前記切花中の親水性有機溶媒を、前記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒である保存液と置換する浸漬工程;
を包含する加工切花の製造方法である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明においては、親水性有機溶媒を使用するため、親水性有機溶媒が切花中の組織液と速やかに置換し得、切花を脱水することができる。
さらに、本発明において保存液として使用する有機溶媒は、親水性有機溶媒と親和性があるため、切花中の親水性有機溶媒と速やかに置換し得、尚且つ不揮発性又は難揮発性であるため花弁の収縮変形を起こし難く、切花の形状が長期にわたって維持され得る。
その上、切花中の組織液を保存液(有機溶媒)に置換することによって、切花組織のいわゆる固定処理のようなものがなされて腐敗等が進み難くなり、その結果、切花の質感や花色等が長期にわたって維持され得る。
従って、本発明よって製造された加工切花については、元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)が長期にわたって維持され得る。
尚、親水性有機溶媒による脱水工程と、親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒による浸漬工程という簡便な処理工程を経ることによって、元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)が長期にわたって維持され得る加工切花を製造することができるという知見は、本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されたものである。
【0012】
本発明の第7特徴構成は、前記保存液が、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールからなる群から選択される点にある。
〔作用及び効果〕
後述する実施例2に示されるように、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールといったこれら保存液は、切花を元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)で長期にわたって維持することが可能であり、特に、これらの保存液は、浸漬工程の際、切花中に含まれる天然色素(アントシアニン等)を溶脱し難く、天然色素がそのまま切花中に保持され易いので、切花の花色を、元の生花の花色に近い花色か、又は略同等の花色で維持することができる。
【0013】
本発明の第8特徴構成は、前記親水性有機溶媒が、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうち少なくとも一つを含有する点にある。
〔作用及び効果〕
エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールといった親水性有機溶媒は、水との親和性があるので置換(脱水)し易い。
さらに、後述する実施例1に示されるように、上記親水性有機溶媒は、切花を上記親水性有機溶媒中に浸漬した際、切花中に含まれる天然色素を溶脱し難く、尚且つ切花が収縮し難い。
尚、これらの親水性有機溶媒が有するこうした性質は、本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されたものである。
また、本発明における親水性有機溶媒は、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうちいずれか1つを選んで使用しても良いし、あるいはこれらの溶媒の中から必要に応じて任意に複数の溶媒を選択して混合し、その混合物を使用するようにしても良い。
【0014】
本発明の第9特徴構成は、前記浸漬工程を経た切花について、親水性有機溶媒によってその表面をすすぐ洗浄工程をさらに包含する点にある。
〔作用及び効果〕
浸漬工程を経た切花は、その表面に付着した保存液によって不自然な色合いや質感を有する場合がある。
そこで、本発明によれば、切花の表面に付着した保存液を、親水性有機溶媒ですすいで洗い流すことによって、その切花の花色や質感をより元の生花に近いものとすることができる。
【0015】
本発明の第10特徴構成は、請求項6〜9のいずれか1項に記載される加工切花の製造方法によって製造される加工切花である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の加工切花は、元の生花に近い形態(形状、質感、花色等)が長期にわたって維持され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
〔実施形態〕
本発明は、後述の(1)脱水工程、及び(2)浸漬工程を包含するものであり、必要に応じて(3)洗浄工程及び(4)乾燥工程を実施するようにしても良い。
(1)脱水工程
先ず、用意した切花を、後述の親水性有機溶媒を入れた容器内に所定時間浸漬させ、切花の組織中の組織液を親水性有機溶媒に置換する。
(親水性有機溶媒)
本発明における親水性有機溶媒とは、少なくとも、水と親和性があり、且つ切花の組織液と置換可能であるという性質を有する有機溶媒を意味する。尚、そのような親水性有機溶媒としては、さらに、切花中に含まれる天然色素を溶脱し難く、尚且つ脱水工程で切花を浸漬する際の切花の収縮を起こし難い性質を有するものが好ましい。詳細には、分配係数logP(分子の親疎水性を示すパラメータ)が−0.271〜0.344付近で粘性が低い親水性有機溶媒が好ましい。
本発明に適用し得る代表的な親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、イソ酪酸、アセトン、1-プロパノール、2-プロパノール、メタノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられ、切花の品種等に応じて任意に選択して使用することが可能であるが、より好ましくは、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールであり、最も好ましくはエタノールである。
【0018】
(2)浸漬工程
次いで、上記脱水工程にて脱水処理した切花を、後述の保存液を入れた容器内に所定時間浸漬させ、切花の組織中の親水性有機溶媒を保存液に置換する。
(保存液)
本発明における保存液とは、少なくとも、上記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒を意味する。尚、そのような保存液としては、さらに切花中に含まれる天然色素を溶脱し難くい性質を有する有機溶媒が好ましい。詳細には、不揮発性で、分配係数logP(分子の親疎水性を示すパラメータ)が−0.236〜2.8266付近であり、尚且つ常温で液体の保存液が、花弁の形状の保存性に優れるため好ましい。
本発明に適用し得る代表的な保存液としては、例えば、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、切花の品種等に応じて任意に選択して使用することが可能であるが、好ましくはポリプロピレングリコール及び2-メチル-2,4-ペンタンジオールである。
【0019】
(3)洗浄工程
上記浸漬工程の後、その切花の表面を、後述の洗浄液を用いて軽くすすいで、表面に付着している保存液を洗い流す。尚、この洗浄工程は、上記浸漬工程において、特に保存液として不揮発性の有機溶媒を用いた場合、切花の表面に付着しているその不揮発性有機溶媒を除去するのに有効である。
(洗浄液)
本発明に使用可能な洗浄液としては、水以外の溶媒で、切花表面に付着している保存液を洗い落すことが可能な溶媒であれば、任意の溶媒を使用することができる。
そのような洗浄液としては、例えば、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、イソ酪酸、アセトン、1-プロパノール、2-プロパノール、メタノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の親水性有機溶媒が好ましく、揮発性を有するものが特に好ましい。
【0020】
(4)乾燥工程
最後に、上記洗浄工程にてすすぎ終えた切花を乾燥して、その表面に残存している洗浄液を除去する。尚、乾燥方法は、静置、風乾、温風の送風など、上述の各処理工程を経た切花(加工切花)の形態に影響を与えないマイルドな温度条件下での乾燥が望ましい。乾燥時間は、数分〜数週間程度で任意に設定することができる。
【0021】
(切花)
本発明は、カーネーション、バラ、キク、ユリ、ラン、ガーベラ、ヒマワリ、デルフィニウム、リンドウ、ツユクサ、アサガオ、ダリア、アマリリス、オキシペタルム、オンシジウム、アルストロメリア、トルコギキョウ、デンファレ、ペチュニア、センニチコウ、スイートピー等といった種々の生花の切花に適用することが可能であるが、これらに限定されるものではない。
(加工切花)
本発明における加工切花とは、切花に上記脱水工程及び浸漬工程、また必要により更に、上記洗浄工程や乾燥工程を施した切花の加工品をいう。本発明における加工切花は、生花が持っていた水分が実質的に保存液に置き換わっており、生花に比較して保存性が向上している特徴を有する。
(組織液)
本発明における組織液とは、切花組織中に存在する液体(主として、水分)を意味するものである。
【0022】
〔その他の実施形態〕
1.本発明の実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて、保存液に人工色素を添加して切花を再染色する工程を追加しても良い。
2.本発明は、少なくとも親水性有機溶媒と保存液とを備える(それぞれ適当な容器に入れられている)切花保存用キットを用いて実施するようにしても良い。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕本発明に適用可能な親水性有機溶媒の検討
切花として、カーネーション「ムーンダスト ベルベットブルー」(サントリーフラワーズ社製)の花弁を使用した。花弁を表1に示される種々の有機溶媒に1日以上浸漬後、花弁組織中の水分(以下、組織液と称する)が有機溶媒に置換しているかどうか、並びに花弁が収縮しているかどうかを判定した。さらに、色素の溶脱については、花弁中に残存する色素残存量を以下の測定方法にて測定して評価した。結果を表1に示す。試験の結果、用いた有機溶媒のいずれにおいても、組織液との置換が認められた。従って、これらの有機溶媒は、脱水工程の親水性有機溶媒として使用し得る可能性があると考えられた。
尚、本発明に用いる親水性有機溶媒は、色素の溶脱の程度や花弁の形状の収縮の程度等を考慮して、原料の切花の品種や色などによって適宜選択できるが、切花としてカーネーション「ムーンダスト ベルベットブルー」を用いた本実施例では、色素溶脱や収縮の有無等を考慮すると、親水性有機溶媒としては、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールが好適であることが分かった。
<色素残存量の測定方法>
1.花弁の紫色部分0.15gを有機溶媒中に約1日間浸漬する。
2.メタノール塩酸(塩酸の体積比1/35つまり塩酸:メタノール=1:34)を10mL入れた別の試験管に1の処理を終えた花弁を約1日間浸漬する。
3.吸光光度計(日立製 U−2000A型ダブルビーム分光光度計)によって540nm付近のピーク値を測定して、色素残存量とする。
【0025】
【表1】

【0026】
〔実施例2〕本発明に適用可能な保存剤の検討
切花として、脱水工程においてエタノール処理したカーネーション「ムーンダスト ベルベットブルー」(サントリーフラワーズ社製)の花弁を使用した。花弁を表2に示される種々の有機溶媒に浸漬して収縮が起こったかどうか(以下、収縮Aと称する)を判定した。また、各有機溶媒に1日以上浸漬した後、花弁の色調にムラがあるかどうか、花弁の色、光沢感、有機溶媒が花弁から揮発する過程で花弁の収縮が起こったかどうか(以下、収縮Bと称する)を判定した。結果を表2に示す。試験の結果、いずれの有機溶媒においても花弁の収縮が起きておらず、本発明において保存液として使用し得る可能性があると考えられた。
尚、本発明に用いる保存液は、色素の溶脱の程度や花弁の形状の収縮の程度等を考慮して、原料の切花の品種や色などによって適宜選択できるが、切花としてカーネーション「ムーンダスト ベルベットブルー」を用いた本実施例では、花弁の色等を考慮すると、保存液としては、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールジオール型400(和光純薬工業株式会社製)、ポリプロピレングリコールジオール型700(和光純薬工業株式会社製)が好適であることが分かった。
【0027】
【表2】

【0028】
〔実施例3〕親水性有機溶媒と保存液との親和性
親水性有機溶媒(エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノール)と、保存液(2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールジオール型400(和光純薬工業株式会社製)、ポリプロピレングリコールジオール型700(和光純薬工業株式会社製))との親和性を評価した。上記の親水性有機溶媒と保存液とをそれぞれ混合し、その混ざり具合いを観察した結果、いずれの組合せにおいても分離は見られず均一に混合し、親和性があることが確認された。
【0029】
〔実施例4〕本発明を適用可能な切花
切花として、デルフィニウム、カーネーション、リンドウ、ツユクサ、アサガオ、ガーベラ、バラ、ダリア、キク、アマリリス、オキシペタルム、オンシジウム、アルストロメリア、トルコギキョウ、デンファレ、センニチコウの花弁を使用した。これらの種々の花弁を親水性有機溶媒(エタノール)に1日以上浸漬後、保存液として、不揮発性有機溶媒(ポリプロピレングリコール)に1日以上浸漬し、1-ブタノールで表面を洗浄し、合計16種類の加工切花を作製した。
その結果、デルフィニウム、ムーンダスト、リンドウ、ツユクサ、アサガオ、ガーベラ、バラ、ダリア、アルストロメリア、トルコギキョウ、デンファレ、センニチコウの加工切花については、生花に近い形態(形状、質感、花色等)を2週間以上にわたって維持していた。また、その他のキク、アマリリス、オキシペタルム、オンシジウムの加工切花については、若干の退色はあるものの、2週間経っても花弁の形状が維持され、日持ちは良好と判断された。
同様に、親水性有機溶媒としてエタノール、保存液として難揮発性有機溶媒(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)を用いて(洗浄工程は無し)、上述の16種類の切花(デルフィニウム、カーネーション、リンドウ、ツユクサ、アサガオ、ガーベラ、バラ、ダリア、キク、アマリリス、オキシペタルム、オンシジウム、アルストロメリア、トルコギキョウ、デンファレ、センニチコウ)の花弁について、それらの加工切花(16種類)を作製した場合に、若干の退色の見られるものもあったが、いずれの加工切花も1週間以上、生花に近い形態が維持され、日持ちは良好と判断された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切花中の組織液を保存液と置換することによってその切花を保存する方法であって、以下の工程:
1.前記切花中の組織液を親水性有機溶媒と置換する脱水工程;
2.前記切花中の親水性有機溶媒を、前記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒である保存液と置換する浸漬工程;
を包含する切花の保存方法。
【請求項2】
前記保存液が、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールからなる群から選択される請求項1に記載の切花の保存方法。
【請求項3】
前記親水性有機溶媒が、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうち少なくとも一つを含有する請求項1又は2のいずれか1項に記載の切花の保存方法。
【請求項4】
前記浸漬工程を経た切花について、親水性有機溶媒によってその表面をすすぐ洗浄工程をさらに包含する請求項1〜3のいずれか1項に記載の切花の保存方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載される切花の保存方法に使用可能であって、少なくとも、前記親水性有機溶媒と前記保存液とを備える切花保存用キット。
【請求項6】
切花中の組織液を保存液と置換することによって加工切花を製造する方法であって、以下の工程:
1.前記切花中の組織液を親水性有機溶媒と置換する脱水工程;
2.前記切花中の親水性有機溶媒を、前記親水性有機溶媒と親和性があり、且つ不揮発性又は難揮発性の有機溶媒である保存液と置換する浸漬工程;
を包含する加工切花の製造方法。
【請求項7】
前記保存液が、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-(2-エチルヘキシルオキシ)エタノール、ポリプロピレングリコールからなる群から選択される請求項6に記載の加工切花の製造方法。
【請求項8】
前記親水性有機溶媒が、エタノール、1,4-ジオキサン、n-酪酸、アセトン、1-プロパノールのうち少なくとも一つを含有する請求項6又は7のいずれか1項に記載の加工切花の製造方法。
【請求項9】
前記浸漬工程を経た切花について、親水性有機溶媒によってその表面をすすぐ洗浄工程をさらに包含する請求項6〜8のいずれか1項に記載の加工切花の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載される加工切花の製造方法によって製造される加工切花。

【公開番号】特開2007−119459(P2007−119459A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271146(P2006−271146)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】