説明

列車乗務員支援システム

【課題】
乗務員による車両の側面扉開の誤操作を防止するなど、車両機器を制御し、列車運行に関する業務を支援する。
【解決手段】
この列車乗務員支援システムは、列車走行路に駅ホームを設け停車位置にて乗務員により列車側面扉を開閉する鉄道などに搭載される。このシステムは列車の存在する駅、番線などの位置データを取得する位置データ送受信装置;基準点からの列車距離データを算出する距離データ算出手段;受信した地上側データと記憶されている車両側データに基づき、駅ホーム上において当該列車の扉開閉が可能な正常停止範囲を算出する制御演算部1を有し、該制御演算部は車両位置に関する前記データから算出した車両位置データと正常停止範囲とを比較し駅ホーム乗降可能側方向データを参照して乗降可能な側の開扉操作のみを許容する開扉制御手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車、特に鉄道車両の稼働中、停車駅構内におけるプラットホームと当該車両との相対位置を検知して、列車側面に設けられた扉に対する乗務員の安全な開扉操作の可否を制御し乗務員の業務を支援する装置である。
【背景技術】
【0002】
鉄道列車など乗務員が車両側面の扉を開閉して、駅ホームの乗客の乗降を行う車両にあっては、プラットホームに対して適正位置に停車したことを乗務員が確認し開扉操作を行うことが必須であり乗務員が充分に安全確認を行うことが必要である。安全な乗降の可能な箇所をはずれて列車が停車した場合に、乗務員が誤って開扉操作を行っても従来はこれを阻止できず、この点に関する乗務員のエラー防止策は充分とは言えない。
【0003】
また、列車の輸送力、稼働率向上などの観点から、通勤通学ラッシュ時には通常の列車編成に増結を行い、逆に閑散時になると増結車を切り離す必要がある。このような列車編成に伴う停車位置の変更に適正に対応して開扉操作は行うことが必要であり、停車位置の変更に即した乗務員の的確な業務遂行を支援して一層の安全を確保することが望まれる。
【特許文献1】特開2007−302205号公報
【特許文献2】特開2007−308092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は列車の一部または全部が、停車駅ホームの適正な範囲から外れて停車した場合や、停車駅ホームの反乗降側の扉に対して、乗務員が誤って開扉操作を行うことを防止し、もって列車乗務員の業務を支援することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は列車走行路に停車駅ホームを設け所定位置にて乗降用の列車側面扉を乗務員により開閉する列車乗務員支援システムであって、
(1)列車走行路の近傍に設けた地上子と車両に設けた車上子を有し、当該地上子と車上子との間で送受信を行って列車の位置データを取得する位置データ送受信装置、
(2)パルス発生装置から得られる車輪回転数に対応した2相パルスの計数にて走行距離を算出すると共に2相パルスの位相差により回転方向を判定して、前記地上子からの列車距離データを算出する距離データ算出装置、
(3)前記地上子から受信した停車駅ホームの扉開閉可能有効長および地上子設置位置データ、並びに車両側に記憶された列車編成長および列車編成中における車上子の位置データに基づき、停車駅ホーム上において当該列車全体の扉開閉が可能な正常停止範囲を算出する制御演算部、及び
(4)前記位置データ及び列車距離データから算出した車両位置データと前記正常停止範囲との比較により列車全体が扉開閉可能範囲内に位置するか否か判断すると共に、地上子から受信した停車駅ホーム乗降可能側方向データを参照して乗降可能な側の開扉操作のみを許容する開扉制御手段
を備えてなる列車乗務員支援システムを提供するものである。
本発明の列車乗務員支援システムにあっては、さらに開扉操作の可否情報を反対側運転台に伝達し、増結車両の連結・解放を自動判断し列車編成長を伝える通信制御手段を設けるのが好ましい。また、前記地上子に加えて予備地上子を同一走行路上に設置することにより地上子の障害に備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明は停車駅ごとに異なる駅ホーム長さや乗降側方向のデータを無線通信により受信し、これらのデータと編成両数又は編成長を含み車両側に自動又は手動にて記録された列車編成データに基づき、停車した列車編成全体が乗降可能な側の車両側面扉に対する乗務員の開扉操作のみを可能とし、それ以外では開扉操作を許可せず人為的な誤操作を未然に防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明を鉄道車両に用いた場合の一具体例について図面を参照しながら更に詳細に説明する。図1は本発明列車乗務員支援システムの一具体例を示す概略図である。図2は本発明支援システムを備えた列車同士を増結した場合を示す説明図である。図3は本発明支援システムを備えた列車が駅構内に進入した場合のシステムの動作を説明する説明図である。
【0008】
本発明の列車乗務員支援システムは、レールなどの列車走行路に駅ホームを設け停車位置にて乗務員により列車側面扉を開閉する鉄道などに搭載される。図1に示すように、このシステムは列車の存在する駅、番線などの位置データを取得する位置データ送受信装置4;基準点からの列車距離データを算出する距離データ算出装置6;受信した地上側データと記憶されている車両側データに基づき、駅ホーム上において当該列車の扉開閉が可能な正常停止範囲を算出する制御演算部1を有し、該制御演算部は車両位置に関する前記データから算出した車両位置データと正常停止範囲とを比較し駅ホーム乗降可能側方向データを参照して乗降可能な側の開扉操作のみを許容する開扉制御手段8を備える。
【0009】
(位置データ送受信装置)
位置データ送受信装置4は、停車駅ホームのレール近傍に設置された地上子10、車両に設置された車上子5を有する。地上子10は停車駅ホームごとに各レールの近傍に1つ設けられる。列車が停車駅構内に進入すると、搭載されている車上子5は、当該レールに設けられた地上子と無線通信によるデータ送受信を行い列車の位置データを取得する。該地上子10には、各々固有の駅コード、停車駅ホーム扉開閉可能有効長、地上子設置位置距離、駅ホーム乗降可能側方向情報等の種々の位置データが保管されており、地上子の上を通過した車上子5はその情報を受信する。
【0010】
(距離データ算出装置)
車両の車軸上、通常は端部に設置した速度パルス発生装置7は車軸回転数に応じた2つのパルス(2相パルス)を出力する。この2相パルスは90°の位相差を有し車軸の回転方向が判定できる。距離データ算出装置6は、このデータを取得し、正方向に回転したときはパルス数計数を加算し、また逆方向に回転したときには減算し、前記地上子10を基準点とする列車距離データを算出する。なお、前記の速度パルス発生装置は駆動装置やモータに設置してもよい。
【0011】
(制御演算部)
制御演算部1は、地上子10及び車上子5の各々から得られた地上側情報及び車両側情報に基づき、列車全体が扉開閉の可能な列車の「正常停止範囲」を算出する。地上側情報は駅構内に設置された地上子10に保存され、停車駅ホームの扉開閉可能有効長と地上子設置位置距離および駅ホーム乗降可能側方向を含む。また、車両側情報は、車両側に保存され、列車編成端から車上子取り付け位置までの距離情報及び自動記録された列車編成長を含む。
【0012】
図3(a)は本発明の支援システムを搭載した列車が停車駅の構内に進入するところを示し、(b)では列車が進行して正常停止範囲の最も手前に到達し、さらに(c)進行し正常停止範囲の最も奥に到達したところを示す模式図である。まず図3(a)において、列車先頭車両に設置された車上子5は、レール近傍に設置された地上子10の上を通過する際に地上側情報、すなわち停車駅ホームの扉開閉可能有効長L1、地上子10の設置位置距離L2及び駅ホーム乗降可能側方向の情報を受信する。
【0013】
一方、車両側の制御演算部1には、車両側情報、すなわち列車編成長L4及び列車編成端から車上子取り付け位置までの距離(車上子の距離)L5が記録されている。このような車両側に記録された車両側情報と地上子から受信した地上側情報から、地上子10設置位置を基点とする列車の正常停止範囲、すなわち当該列車全体が扉開閉可能範囲に位置する領域が制御演算部1により演算される。図3(b)に示すように最後尾車両が扉開閉可能範囲に到達する地点である列車走行最短距離(Lmin)は、Lmin=L6−L3=(L4−L5)−(L1−L2)として算出される。また、図3(c)に示すように進行する先頭車両が扉開閉可能範囲から脱する地点である列車走行最長距離(Lmax)はLmax=L2−L5として算出される。
【0014】
ここで列車が停車駅に進入する際、地上子10の上を通過すると、演算制御部1は車上子−地上子間の通信により得られた情報を位置データ送受信装置4から取得し、LminとLmaxを算出する。また、制御演算部1は車上子5と通信した地点を基点とし、距離データ算出装置6により逐次出力される走行距離(Lx)を取得し、これを前記Lmin及びLmaxと比較する。車両のLxがLminに達する前(Lx<Lmin)は、列車が乗降可能な範囲に入っておらず車両の両側の扉はいずれも開閉操作が許容されない。これに対して、Lmin≦Lx≦Lmaxであるときは乗降可能な方向の扉開閉操作が許容される。そして、車両がさらに進行し走行距離LxがLmax<Lxとなるとすべての扉の開閉操作が許容されない。
【0015】
したがって、列車編成長L4の方が停車駅ホーム扉開閉可能有効長L1よりも長く、車両側面扉がホームよりはみ出し、このため安全な乗降の扱いができない駅では、走行距離
Lxが、Lmin≦Lx≦Lmaxの関係を満たすことはなく扉開閉操作が許可されない。
なお、通信制御装置2は、開扉操作の可否情報を反対側運転台に伝達し、どちらの運転台からも開扉操作が可能となり列車の運行が上り方向であるか、下り方向であるかにより区別する必要はない。
【0016】
走行距離LxがLmin≦Lx≦Lmaxを満たす位置に列車がない場合、演算制御部1は列車編成全体または一部が乗降不能と判断して扉開閉操作を許容せず、継電器を用いて扉開閉回路の一部を遮断する。このため、乗務員が扉開閉スイッチ9に対し開扉操作を行っても回路は構成されずすべての列車側面扉は開かない。演算制御部1が乗降可能と判断して列車側面扉の開閉操作を許可した場合、許可された側面(又は両面)の扉開閉回路は継電器により回路が構成され、扉開閉スイッチ8を開扉操作すると電流が流れ扉が開く。
【0017】
列車が停車駅ホームの所定位置を過走しLmax<Lxの位置にて列車が停止した時は、前記のごとく開扉操作が許容されず乗客乗降扱いは禁止される。この場合、列車を後退運転すると距離データ算出手段6は走行距離Lxを減算し、地上子設置位置を基点とする扉開閉可能範囲との比較を逐次行い開扉操作の可否を判断する。その結果、適正な停車位置(Lmin≦Lx≦Lmax) を満たす位置まで列車が戻ると乗客乗降扱いが許可される。
【0018】
(開扉制御手段)
このように位置データ及び列車距離データから算出した車両位置データと、前記正常停止範囲との比較により、制御演算部1に設けた開扉制御手段は列車全体が扉開閉可能範囲内に位置するか否かを判別する。また、地上子から受信した停車駅ホーム乗降可能側方向データを参照して乗降可能な側であるか否かの判断をし、これらがいずれも適正な場合にのみの開扉操作のみを許容する。
乗降可能な方向の列車側面扉に対し、乗務員が開扉操作をすると列車側面扉は一斉に開く。これに対し乗降不能側の列車側面扉については乗務員が開扉操作をした場合も列車側面扉は開かない。両側が乗降可能な場合は、乗務員による開扉操作により両側の列車側面扉が開く。列車が駅以外あるいは入駅途中または駅を過走して停止等、列車編成の全てまたは一部が乗降可能位置から外れている場合は乗務員が開扉操作をしても列車側面扉は全て開かない。このようにして、乗務員が誤って乗客が乗降できない箇所で開扉操作をした場合も列車側面扉は開かない。
【0019】
なお、列車編成データとして、装置本体に当該列車の運用種別(特急、急行、普通等)情報を入力し、当該列車が停車すべき駅の上記乗降可能位置に停車した場合のみ、乗務員の開扉操作により列車側面扉が開き、停車すべきでない駅に停車した場合は、列車側面扉は開かないように制御する機能を付加してもよい。
【0020】
(通信制御装置)
通信制御装置2には、列車を増結したり増結車を切り離したりしたときに、連結または解放を検出する増結検出手段を搭載し、この検出手段の検出により先頭車となった車両から順次、他の車両の通信制御装置に編成両数を伝達して合計編成両数が反対側先頭車に伝えられ記憶される。
【0021】
なお、本発明において、駅構内における列車の位置を測定するのに必要な地上子は走行路(レール)ごとに1個である。万が一この地上子10に障害が発生して位置情報を送受信できないとき、正常に駅に停車しても列車は入駅していないとの判断が継続し開扉操作は許可されない。この場合、地上子10の数メートル手前に予備の地上子を設置して常用の地上子10の復旧までの列車運用に備えてもよい。予備地上子も停車駅ホーム扉開閉可能有効長L1、地上子設置位置距離L2’(L2と異なる)、及び駅ホーム乗降可能側方向の情報を保有する。
【0022】
地上子10及び予備地上子の取り付け位置は、軌道設備状況に応じて適宜選択することができ、L2を変更することにより対応ができる。また、車上子5の取り付け位置は、列車編成端から一定の距離に統一することが望ましいが、車両により異なる既存車両機器があるなど、車上子5の取り付け位置が偏倚する。この場合も、列車編成端から個々の車両の車上子取り付け位置までの距離L5を固有データとして演算制御部1に記憶させることにより地上子を基点とする列車の相対位置を正確に算出することができる。
【0023】
車庫および駅に留置された列車は営業運転前の出庫点検で扉開閉操作を行い、正常に扉開閉操作ができることを確認しなければならない。このため、入庫列車が車庫入口に設置された地上子を通過すると両側の扉開閉操作を許容状態とする。また装置の主電源を投入したときも同様に両側の扉開閉操作を許容状態とし、出入庫における点検作業にあたり本装置に関しては特段の扱いをする必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明システムは列車の扉開閉に関する乗務員の誤操作を回避することができ、列車編成に伴う停車位置の変更にも的確に対応した安全設備である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の列車乗務員支援システムの一具体例を示す概略図である。
【図2】本発明の列車乗務員支援システムを備えた列車同士が連結した場合の説明図である。
【図3】本発明の列車乗務員支援システムを備えた列車が駅構内に接近したところを示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 制御演算部 2 通信制御装置
3 通信線 4 位置データ送受信装置
5 車上子 6 距離データ算出装置
7 パルス発生装置 8 開扉制御手段
9 扉開閉スイッチ 10 地上子
L1 扉開閉可能有効長 L2 地上子設置位置距離
L4 列車編成長 L5 車上子の距離
Lmin 列車走行最短距離 Lmax 列車走行最長距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車走行路に停車駅ホームを設け所定位置にて乗降用の列車側面扉を乗務員により開閉する列車乗務員支援システムであって、
(1)列車走行路の近傍に設けた地上子と車両に設けた車上子を有し、当該地上子と車上子との間で送受信を行って列車の位置データを取得する位置データ送受信装置、
(2)パルス発生装置から得られる車輪回転数に対応した2相パルスの計数にて走行距離を算出すると共に2相パルスの位相差により回転方向を判定して、前記地上子からの列車距離データを算出する距離データ算出装置、
(3)前記地上子から受信した停車駅ホームの扉開閉可能有効長および地上子設置位置データ、並びに車両側に記憶された列車編成長および列車編成中における車上子の位置データに基づき、停車駅ホーム上において当該列車全体の扉開閉が可能な正常停止範囲を算出する制御演算部、及び
(4)前記位置データ及び列車距離データから算出した車両位置データと前記正常停止範囲との比較により列車全体が扉開閉可能範囲内に位置するか否か判断すると共に、地上子から受信した停車駅ホーム乗降可能側方向データを参照して乗降可能な側の開扉操作のみを許容する開扉制御手段
を備えてなる列車乗務員支援システム。
【請求項2】
開扉操作の可否情報を反対側運転台に伝達し、増結車両の連結・解放を自動判断し列車編成長を伝える通信制御手段を更に設けた請求項1の列車乗務員支援システム。
【請求項3】
前記地上子に加えて予備の地上子を同一走行路上に設置してなる請求項1又は2の列車乗務員支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−248830(P2009−248830A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100886(P2008−100886)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(305018476)阪急電鉄株式会社 (7)
【Fターム(参考)】