説明

列車制御システム

【課題】安全バッファを確実に確保することができ、列車の安全な走行制御またはブレーキ制御を行うことのできる列車制御システムを提供する。
【解決手段】所定の軌道1を走行する列車2に搭載された車上装置3と、車上装置3が取得した列車2の走行距離情報および速度情報を送受信するための車上無線機7と、軌道1の所定の位置に設置され車上無線機7と情報の送受信を行う沿線無線機8と、沿線無線機8に接続された地上装置と、を備え、地上装置は、車上装置3から送られる列車2の走行距離情報および速度情報に基づいて列車2の位置を取得するとともに、列車2の走行方向およびこの走行方向と反対方向にそれぞれ安全バッファを設定し、安全バッファは、列車2が走行中は、安全バッファの距離が長くなるようにのみ設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御システムに係り、特に、安全バッファを確実に確保することができ、列車の安全な走行制御またはブレーキ制御を行うことを可能とした列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軌道を走行する列車の列車位置を検知する列車位置検知システムとしては、列車の車軸に速度発電機(タコジェネレータ)を接続し、その車軸の回転に伴って発生するパルス状の出力信号に基づいて所定の基準位置からの走行距離を算出し、その算出された走行距離により現在の列車位置を検知する、速度発電機式列車位置検知システムが知られている。
【0003】
また、従来から、いわゆる無線測距方式を利用した列車制御システムは、列車に車上無線機を搭載し、その列車の走行する軌道の沿線に沿って所定の間隔をもって設置された複数の沿線無線機との間で無線ネットワークを形成し、車上無線機の車上アンテナと沿線無線機の沿線アンテナとの無線伝搬遅延(時間)を計測して列車位置を検知し、その検知された列車位置に基づいて列車制御を行うようになっている。
【0004】
そして、このような列車制御システムとしては、従来から、例えば、所定の軌道を走行する列車に搭載された車上無線機および地上の所定位置に設けられた地上無線機間の無線の伝播時間に基づいてその所定の軌道における列車位置を検知する無線列車位置検知手段と、列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号に基づいて所定の軌道における列車の走行距離を算出する走行距離算出手段と、無線列車位置検知手段で検知された列車位置を所定の仮基準位置に設定する仮基準位置設定手段と、その仮基準位置設定手段で設定された仮基準位置から走行距離算出手段で算出された走行距離に基づいて所定の軌道における列車位置を検知する列車位置検知算出手段とを備えた技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−331629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の技術においては、タコジェネレータにより列車の走行距離を算出する場合に、列車の走行中、車輪が空転又は滑走により算出される走行距離に誤差を含むことがあるので、列車の位置に対して、列車の前後方向に安全バッファを設定し、列車の検知位置に余裕を持たせ、実際の列車位置と演算による列車位置とに誤差が生じた場合でも、安全を確保するようになっている。
【0007】
しかしながら、安全バッファは、列車の検知位置および列車の走行速度によって設定されるものであり、列車の走行速度が低い場合は、安全バッファの長さも短く設定されるものである。そのため、実際の列車位置と演算による列車位置との誤差によっては、十分に安全バッファを確保することができなくなってしまうという問題を有している。
【0008】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、安全バッファを確実に確保することができ、列車の安全な走行制御またはブレーキ制御を行うことのできる列車制御システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、請求項1の発明に係る列車位置検知システムは、所定の軌道を走行する列車に搭載された車上装置と、
前記車上装置が取得した前記列車の走行距離情報および速度情報を送受信するための車上無線機と、
前記軌道の所定の位置に設置され前記車上無線機と情報の送受信を行う沿線無線機と、
前記沿線無線機に接続された地上装置と、を備え、
前記地上装置は、前記車上装置から送られる前記列車の走行距離情報および速度情報に基づいて前記列車の位置を取得するとともに、前記列車の走行方向およびこの走行方向と反対方向にそれぞれ安全バッファを設定し、前記安全バッファは、前記列車が走行中は、安全バッファの距離が長くなるようにのみ設定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記列車は、前記列車の絶対位置を取得する絶対位置取得手段をさらに備え、
前記地上装置は、前記車上装置から前記絶対位置取得手段により取得された前記列車の絶対位置が送られた場合にのみ、安全バッファの距離が短くなるように設定可能としたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記絶対位置取得手段は、前記列車に搭載され前記軌道上に設置された地上子と電磁結合する車上子により構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、地上装置により、車上装置から送られる列車の走行距離情報および速度情報に基づいて列車の位置を取得するとともに、列車の走行方向およびこの走行方向と反対方向にそれぞれ安全バッファを設定し、安全バッファを、列車が走行中は、安全バッファの距離が長くなるようにのみ設定するようにしているので、地上装置により演算された列車の位置情報に誤差が生じた場合でも、確実に安全バッファを確保することができ、その結果、列車の安全な走行制御またはブレーキ制御を行うことが可能となる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、列車の絶対位置を取得する絶対位置取得手段を設け、地上装置により、車上装置から絶対位置取得手段により取得された列車の絶対位置が送られた場合にのみ、安全バッファの距離が短くなるように設定することができるようにしているので、列車の絶対位置情報に基づいて安全バッファを設定することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、絶対位置取得手段を、列車に搭載され軌道上に設置された地上子と電磁結合する車上子により構成するようにしているので、地上子と車上子との電磁結合により取得した列車の絶対位置に基づいて、安全バッファの距離が短くなるように設定することができ、列車の絶対位置情報に基づいて安全バッファを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る列車制御システムの実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る列車制御システムの実施形態による安全バッファの設定状態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る列車制御システムの実施形態における動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る列車位置検知システムの実施形態を示す概略構成図であり、本実施形態においては、所定の軌道1上を走行する列車2には、車上装置3が搭載されている。この車上装置3は、CPUを中心に構成された演算処理部を有しており、列車2の速度制御や制動制御などの各種制御を行うように構成されている。
【0018】
この車上装置3には、列車2の所定の車輪4の車軸に接続され、この車軸の回転に伴ってパルス状の出力信号を出力する速度発電機、いわゆるタコジェネレータ5が接続されている。また、列車2の先頭下部には、車上子6が搭載されており、車上子6は、車上装置3に接続されている。そして、車上装置3は、タコジェネレータ5により取得された車軸の回転量に基づいて、列車2の走行距離および走行速度を演算するように構成されており、車上装置3、タコジェネレータ5および車上子6により、速度発電機式列車位置検知システムが構成されている。
【0019】
列車2には、車上装置3に接続された車上無線機7が搭載されており、車上無線機7は、車上装置3により取得された列車2の走行距離情報および走行速度情報を送信することができるように構成されている。
【0020】
また、列車2の軌道1に沿って所定間隔毎に、車上無線機7との間で送受信を行うための複数の沿線無線機8が設置されており、これら沿線無線機8には、地上装置9が接続されている。地上装置9は、車上無線機7から沿線無線機8を介して送信される列車2の走行距離情報および走行速度情報に基づいて、現在の列車2の位置を演算して求めるように構成されている。
【0021】
この場合において、地上装置9の位置分解能や、列車2の車輪4の空転あるいは滑走などにより、実際の列車位置と、地上装置9により演算により求められた列車位置とに誤差が生じる場合がある。そのため、地上装置9は、演算で求められた列車位置に対して、列車2の進行方向および進行方向と反対方向に、列車位置の検知誤差を安全バッファとして設定するように構成されている。そして、地上装置9は、列車2の位置情報および設定された安全バッファ情報を沿線無線機8および車上無線機7を介して車上装置3に送信し、車上装置3は、安全バッファ内で列車2の速度制御およびブレーキ制御を行うように構成されている。
【0022】
ここで、安全バッファは、列車2の速度変化や車上装置3からの応答の有無などにより変化するため、走行中は、常に変化する。例えば、地上装置9は、各沿線無線機8からの情報を、順次取得するものであり、ある沿線無線機8からの情報を取得することができなかった場合など、数秒の間に情報を取得できない場合でも、列車2の安全を確保するできる距離を安全バッファとして設定するものである。また、列車2の速度が低い場合は、安全バッファは少ない距離に設定すればよいが、列車2の速度が速い場合は、安全バッファを長い距離確保する必要がある。
【0023】
そして、本実施形態においては、列車2の位置情報や走行速度情報に基づいて安全バッファを設定する際に、常に安全バッファの距離が長くなるように設定するように構成されている。すなわち、列車速度が速い場合、安全バッファは大きくなるが、その後、車上無線機7から送られる列車速度が遅くなった場合でも、安全バッファを小さく設定することはしないようになっている。これにより、地上装置9により演算された列車2の位置情報に誤差が生じた場合でも、確実に安全バッファを確保することができるものである。
【0024】
また、列車2の軌道1の所定の位置には、絶対位置取得手段としての地上子10が設置されており、車上装置3は、車上子6と地上子10とが電磁結合することにより、列車2の絶対位置情報を取得するように構成されている。この列車2の絶対位置情報は、車上無線機7および沿線無線機8を介して地上装置9に送信され、地上装置9は、列車2の絶対位置情報に基づいて安全バッファを設定するように構成されている。
【0025】
すなわち、前述のように、列車2の位置情報や走行速度情報に基づいて安全バッファを設定する際に、常に安全バッファの距離が長くなるように設定するものであるが、地上装置9により、列車2の絶対位置情報を取得した場合には、実際の列車位置と、地上装置9により演算により求められた列車位置との誤差がなくなり、列車2の正確な位置を把握することができるので、この場合にのみ、安全バッファの距離が短くなるように設定するように構成されている。
【0026】
次に、本実施形態の制御動作について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0027】
まず、車上装置3により、タコジェネレータ5により取得された車軸の回転量に基づいて、列車2の走行距離および走行速度を演算し(ST1)、この走行距離情報および走行速度情報を車上無線機7および沿線無線機8を介して地上装置9に送信する。そして、地上装置9により、列車2の走行距離情報および走行速度情報に基づいて、現在の列車2の位置を演算して求めるとともに、演算で求められた列車位置に対して、列車2の進行方向および進行方向と反対方向に、安全バッファを設定する。
【0028】
そして、列車2の走行中は、地上装置9により、列車2の走行距離情報および走行速度情報に基づいて、逐次安全バッファの距離が長くなるように設定する(ST2)。そして、列車2の走行中に地上子10と車上子6とが電磁結合したら(ST3:YES)、車上装置3により列車2の絶対位置情報を取得する。この列車2の絶対位置情報は、車上装置3から車上無線機7および沿線無線機8を介して地上装置9に送信され、地上装置9が列車2の絶対位置情報を取得したら(ST4)、この絶対位置情報に基づいて安全バッファを設定するものであり、この場合にのみ安全バッファの距離が短くなるように設定することが可能となる(ST5)。
【0029】
以上述べたように、本実施形態においては、列車2の位置情報や走行速度情報に基づいて安全バッファを設定する際に、常に安全バッファの距離が長くなるように設定するようにしているので、地上装置9により演算された列車2の位置情報に誤差が生じた場合でも、確実に安全バッファを確保することができる。その結果、列車2の安全な走行制御またはブレーキ制御を行うことが可能となる。また、地上装置9により、列車2の絶対位置情報を取得した場合には、列車2の絶対位置情報に基づいて安全バッファを安全バッファの距離が短くなるように設定することができる。
【0030】
なお、前記実施形態において、絶対位置取得手段として、地上子10と電磁結合する車上子6を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、GPS装置により構成するようにしてもよい。
【0031】
また、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 軌道
2 列車
3 車上装置
4 車輪
5 タコジェネレータ
6 車上子
7 車上無線機
8 沿線無線機
9 地上装置
10 地上子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軌道を走行する列車に搭載された車上装置3と、
前記車上装置が取得した前記列車の走行距離情報および速度情報を送受信するための車上無線機と、
前記軌道の所定の位置に設置され前記車上無線機と情報の送受信を行う沿線無線機と、
前記沿線無線機に接続された地上装置と、を備え、
前記地上装置は、前記車上装置から送られる前記列車の走行距離情報および速度情報に基づいて前記列車の位置を取得するとともに、前記列車の走行方向およびこの走行方向と反対方向にそれぞれ安全バッファを設定し、前記安全バッファは、前記列車が走行中は、安全バッファの距離が長くなるようにのみ設定することを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
前記列車は、前記列車の絶対位置を取得する絶対位置取得手段をさらに備え、
前記地上装置は、前記車上装置から前記絶対位置取得手段により取得された前記列車の絶対位置が送られた場合にのみ、安全バッファの距離が短くなるように設定可能としたことを特徴とする請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記絶対位置取得手段は、前記列車に搭載され前記軌道上に設置された地上子と電磁結合する車上子により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の列車制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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