説明

列車制御装置

【課題】 自列車位置情報が喪失しても、速度照査パターンを用いた制御を継続できるようにする。
【解決手段】 地上側から常時入手する所定の情報及び自列車で把握している自列車位置情報に基づいて列車に搭載されている車上装置で所定の速度照査パターンを作成し、その作成された速度照査パターンを用いて列車制御を行う列車制御装置において、前記自列車位置情報を喪失したときに、自列車の先頭位置を現在位置する軌道回路と次の軌道回路との境界位置に位置するものとして列車制御を行う制御手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上において速度照査パターンを作成し、その作成された速度照査パターンを用いて列車の速度制御を行う列車制御装置に係り、特に、自列車位置を喪失した場合でも、安全に速度照査パターンを用いて列車制御を継続して行えるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、列車の運転間隔の縮小及び乗り心地改善のために、常時、地上から得られる所定のデジタル情報(ATC情報)及び自列車で把握している自列車位置情報に基づいて、車上(列車)において主体的に速度照査パターンを作成し、その作成した速度照査パターンを用いて列車の速度制御を行う、一段制御デジタルATC方式の列車制御装置が提案されている(非特許文献1参照。)。
【0003】
この一段制御デジタルATC方式に係る列車制御装置は、常時、地上側から速度照査パターンを作成するための所定の情報、及び自列車(車上)で把握している自列車位置情報に基づいて、現在の位置から目標停止位置までの1本の放物線状の速度照査パターンを作成することができるように構成されている。この一段制御デジタルATCは、より列車の運転間隔の縮小化を図ることができるとともに、乗り心地の改善を図ることができるという特長がある。
【非特許文献1】平成9年5月15日(社)日本鉄道技術協会発行「鉄道技術者のための電気概論,信号シリーズ,ATS・ATC」第4版,P.76〜155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記提案に係る一段制御デジタルATC方式に係る列車制御装置において、自列車位置情報が速度照査パターンを作成する条件の一つとなっているため、何らかの原因により自列車位置情報が喪失したときは、速度照査パターンを作成することができず、列車の走行を停止しなければならないという不都合が発生する。
【0005】
そこで、本発明は、上述の不都合を解消するためになされたものであって、その目的は、仮りに自列車位置情報が喪失しても安全に速度照査パターンを用いて列車の運転を継続することができる列車制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る列車制御装置は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、地上側から常時入手する所定の情報及び自列車で把握している自列車位置情報に基づいて列車に搭載されている車上装置で所定の速度照査パターンを作成し、その作成された速度照査パターンを用いて列車制御を行う列車制御装置において、前記自列車位置情報を喪失したときに、自列車の先頭位置を現在位置する軌道回路と次の軌道回路との境界位置に位置するものとして列車制御を行う制御手段を有することを特徴としている。
本発明の請求項2に記載の列車制御装置は、現在の列車位置と所定の目標停止位置の間に所定の制限速度区間が存在するとき、その所定の制限速度区間をその所定の制限速度区間の開始側に自列車長を加算した仮りの制限速度区間に補正する補正手段を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に記載の列車制御装置は、自列車位置情報を喪失したときに、自列車の先頭位置を現在位置する軌道回路と次の軌道回路との境界位置に位置するものとして列車制御を行う制御手段を有するので、自列車位置情報が喪失したときでも、速度照査パターンを用いた制御を行うことができる。
本発明の請求項2に記載の列車制御装置は、現在の列車位置と所定の目標停止位置の間に所定の制限速度区間が存在するとき、その所定の制限速度区間をその所定の制限速度区間の開始側に自列車長を加算した仮りの制限速度区間に補正する補正手段を設けたので、制限速度区間が存在していても列車の安全を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る列車制御装置の概略構成図であって、レールRを走行する列車イには、本発明の列車制御装置を実現するための車上装置ロが搭載されている。このレールRは、所定の長さに区分された軌道回路Tに形成されている。
【0009】
図1中、1は、一つの軌道回路TのレールRの一端側(始端側)にデジタル情報からなる制御信号(本発明の地上側から送出される所定の情報に相当する。)を供給する地上送信器である。すなわち、この地上送信器1は、周知のATCにおける地上装置と同様に構成されていて、軌道回路識別データ、経路コードデータ、速度制限データ、分岐データ、前方列車位置又は開通区間数データ等の所定のデータ群からなり、このデータ群からなる制御信号をレールRに供給することができるように構成されている。
【0010】
図1中、2は地上子であって、軌道回路Tの所定位置に設置されていて、その地上子2の設置位置である位置情報を含む位置信号を車上(列車)に向けて送出できるように構成されている。この地上子2は、通常、一つの軌道回路の始端側及び終端側近くに設置される。また、この地上子2は、周知のATS−P形で用いられる地上子と同様に、車上側から電力波を受信して駆動する無電源型、又は駆動電源を有する有電源型が存在している。地上子2の設置位置を列車イが通過したとき、列車イの車上装置ロでは、その地上子2から位置信号を得て自列車(列車イ)の絶対位置を検出することができるように構成されている。
【0011】
列車イに搭載されている車上装置ロは、列車イの先端下部に設けられた車上子(アンテナ)10を介して地上側からの情報、すなわち、レールRからの制御信号及び地上子2からの位置信号を受信する受信部11を有している。車上子10は、図1では図面を簡略化するために、レールRからの制御信号と地上子2からの位置信号とを一つの地上子で受信できるように示されているが、実際は別々に設けられている。
【0012】
車上装置ロの演算部12は、CPUを中心に形成されていて車上装置ロを統括的に制御できるように構成されている。すなわち、この演算部12は、メモリ13に格納されているシステムプログラムデータ及び車上データベースを用いて所定の演算処理ができるように構成されている。この演算部12には、速度照査パターン作成部14が接続されていて、演算部12の制御の下に所定の速度照査パターンを作成できるように構成されている。
【0013】
演算部12には、受信部11からの信号及び速度発電機Gからの信号を入力できるように構成されている。そして、この演算部12は、作成された速度照査パターン及び速度発電機Gから得られた自列車速度に基づいてブレーキ駆動信号等の所定の出力信号を出力部15を介して列車イに搭載された図示しない各種駆動機器類に出力できるように構成されている。
【0014】
以下、図2(a),(b)の速度照査パターン及び図3のフローチャートを用いて制御動作について説明する。図2(a),(b)において、1T〜3Tは軌道回路であり、列車イは、軌道回路3Tから1Tに向けて進行するものとし、また、軌道回路1Tは、列車イの目標停止位置aに設定されている。なお、ここでは、図面を簡略化するために、地上子2は各軌道回路1T〜3Tにそれぞれ1個のみ設けられている。
【0015】
今、列車イは、軌道回路3Tを軌道回路1Tの目標停止位置aに向けて走行しているものとする。この走行中、列車イの車上装置ロでは、地上送信器1からレールRを介して送信された地上側情報及び速度発電機Gの出力信号を基に生成された自列車位置情報に基づいて速度照査パターンPが作成される(ステップ100、ステップ102、ステップ104。以下、ステップを「S」とする。)。列車イは、目標停止位置aに達するまでその作成された速度照査パターンPを用いて運転制御される(S106肯定、S108、S110肯定)。すなわち、列車イは、作成された速度照査パターンPに沿い、かつ、その速度照査パターンPの速度を越えないように運転制御され、もし、その速度を越えたときは、列車速度が抑制される。
【0016】
上記の速度照査パターンPの作成は、地上側情報及び自列車位置情報に基づいて所定時間毎(例えば数秒毎)に行われ、前回作成された速度照査パターンPを今回作成した速度照査パターンPで修正ないし補正する形で行われる。また、列車イが次の軌道回路に進入したとき、及び地上子2を通過したときに、自列車(列車イ)の絶対位置が求められるので、自列車位置情報が補正される(図3のフローチャートでは省略)。
【0017】
ところで、何らかの理由により速度発電機Gの出力を基に生成された自列車位置情報が喪失することが考えられる(S106否定)。本来、このような自列車位置情報が喪失したときは、速度照査パターンPの作成ができなくなるので、列車イは停止されるが、ここでは、列車イを現在の軌道回路3Tと次の軌道回路2Tとの境界に位置しているとして(図2(a)の鎖線で示される列車イ参照)、前回の演算処理で求められた速度照査パターンPを用いて列車イの運転が継続される(S112)。この場合、図2に示されるように、列車イが軌道回路3Tの実線で示される位置に位置していても、列車イは、軌道回路3Tと2Tとの境界に位置しているとみなされるので、列車イの速度は実線で示される位置で許容される速度V0 よりも低い速度V1 とされ、列車イの安全性は確保される。
【0018】
上述のように、自列車位置情報が喪失した場合であっても、列車イが次の軌道回路2Tに進入したときに、その軌道回路2Tを示す地上側からの情報に基づいて自列車位置情報を入手でき、また、列車イが地上子2を通過したときも、その地上子2からの位置情報に基づいて自列車位置情報を入手して正常な制御動作に復帰させることができる(S114否定、S110否定、S100、S102、S104、S106肯定、S108)。
【0019】
ところで、軌道回路の中には、地上設備の状態等に起因して、あるいは気象条件等により制限速度が存在することがある。図2(b)は、軌道回路2Tに制限速度Vが設定されている例を示している(S114肯定)。このような制限速度区間が設定されていても、自列車位置情報が正常であれば、自列車位置が正確に把握されているので、図2(b)の実線で示される速度照査パターンPを用いた運転制御、すなわち、軌道回路3Tと2Tとの境界において制限速度Vとなる速度照査パターンPを用いて運転制御が可能である。
【0020】
しかし、自列車位置が正常に把握されないときは、自列車(列車イ)長分だけ制限速度Vを越えて進入するおそれが発生する。このため、このような制限速度区間が存在する場合は、その制限速度区間(軌道回路2T)の始端側(軌道回路3T側)に列車長Lだけ制限速度区間を長くした仮りの速度照査パターンP′が作成され、その作成された速度照査パターンP′を用いて運転制御が行われる(S116)。このように、制限速度区間が延長されるため、列車イが制限速度Vを越えて本来の制限速度区間(軌道回路2T)に進入するのを防止することができる。もちろん、このような仮りの速度照査パターンP′が作成された場合でも、新たな軌道回路の進入又は地上子2により自列車位置情報が正常に生成できたときは、本来の速度照査パターンPに復帰される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る列車制御装置の概略構成図である。
【図2】速度照査パターンの一例である。
【図3】制御動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0022】
イ 列車
ロ 車上装置
R レール
1 地上送信器
2 地上子
P 速度照査パターン
P′ 仮りの速度照査パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上側から常時入手する所定の情報及び自列車で把握している自列車位置情報に基づいて列車に搭載されている車上装置で所定の速度照査パターンを作成し、その作成された速度照査パターンを用いて列車制御を行う列車制御装置において、
前記自列車位置情報を喪失したときに、自列車の先頭位置を現在位置する軌道回路と次の軌道回路との境界位置に位置するものとして列車制御を行う制御手段を有することを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御装置において、現在の列車位置と所定の目標停止位置の間に所定の制限速度区間が存在するとき、その所定の制限速度区間をその所定の制限速度区間の開始側に自列車長を加算した仮りの制限速度区間に補正する補正手段を設けたことを特徴とする列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−88864(P2006−88864A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276511(P2004−276511)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】