説明

列車走行報知装置

【課題】踏み切りの近くを列車が実際に走行していることを具体的に通知する車載装置の技術を提供する。
【解決手段】車両用ナビゲーション装置2は、センサ部3が検出した最寄り踏切からの超音波振動を列車音特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が列車走行超音波を含むか否かを判定し、その判定結果が肯定的であることに基づいて、レール上を列車が走行していることを車両の乗員に報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車走行報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が踏切に差し掛かるときに、その踏切における列車の通過の有無を確認することを支援する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両が踏み切りに近づくと、当該車両のオーディオ装置の音量をゼロにすると共に運転席側の窓を開く技術が開示されている。また、特許文献2には、車両から一定範囲内の踏切を通る列車の運行スケジュール、遅れ時刻等の情報を当該車両の乗員に通知する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−141963号公報
【特許文献2】特開2003−75170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような技術では、踏み切りの近くを列車が実際に走行しているか否かを具体的に通知することはできない。本発明は、踏み切りの近くを列車が実際に走行していることを具体的に通知する車載装置の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明の発明者は、以下の事実に着目した。列車の金属製の車輪が金属製の鉄道のレール上を転がる際、転動音が発生する。また、レールの継ぎ目を車輪が通過するときにはジョイント音が打撃により発生する。そして、レールに打撃を与えると、数十kHzの低周波超音波がレール中を長手方向に700m程度は伝播する(ペンシルバニア州立大学Joseph.L.Rose氏。参考文献:J.L.Rose等著、Insight、第44巻、No.6(2002)353頁−358頁)。
【0005】
本発明の特徴は、このような、列車がレール上を進行するときに発生して当該レールを伝播する列車走行超音波を利用して、列車の存在を検出することにある。すなわち、本発明においては、車両に取り付けられた列車走行報知装置が、上記列車走行超音波の特徴を示す特徴情報を記憶する記憶媒体と、当該車両が所在している路面の超音波振動を検出する振動センサと、を備える。
【0006】
ここで、路面の超音波振動を検出するのは、超音波はその物理特性上、固体同士(具体的にはレールと地面)には伝播しやすいのに対し、固体と気体の間ではほとんど透過しないで反射してしまうという自然法則を利用するためである(参考文献:日刊工業モノ知りシリーズ、超音波の本)。
【0007】
そして本発明の列車走行報知装置は、振動センサが検出した超音波振動を特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が列車走行超音波を含むか否かを判定し、その判定結果が肯定的であることに基づいて、レール上を列車が走行していることを車両の乗員に報知する。
【0008】
このように、列車走行報知装置は、レールおよび地面を伝播する列車走行超音波を利用することで、踏み切りの近くを列車が実際に走行していることを検出して具体的に通知することができる。そして、列車走行超音波の特徴情報を予め記憶しておき、検出した超音波信号をその特徴情報に照らすことで、列車走行超音波を、他の雑音と区別して検出することができる。
【0009】
本発明は、障害物のせいで車両のドライバが列車を目視することができない場合、周囲の雑音のせいで車両のドライバが(空中を伝わる)列車の接近音を聞き取れない場合、鉄道側が発するべき警報装置(踏切警報機、列車の警笛等)が、ないかまたは故障している場合、等において特に有益である。
【0010】
また、振動センサは、複数の位置のそれぞれに、当該位置における超音波振動を検出する振動検出用回路を備えるような構造を有していてもよい。この場合、振動センサは、周知のように、指向性を調整することができる。
【0011】
このような振動センサの利点を利用するために、列車走行報知装置は、車両の車体の所在位置および姿勢を検出する車体センサと、振動センサの車体に対する相対姿勢(すなわち、車体−センサ相対姿勢)を検出するセンサ姿勢センサを備え、上記記憶媒体は、複数の踏切のそれぞれの位置を示す踏切位置情報を記憶するようになっていてもよい。
【0012】
さらに列車走行報知装置は、車体センサの検出結果および踏切位置情報に基づいて、当該複数の踏切のうち車両の前方でありかつ車両に最も近い最寄り踏切に対する車体の相対姿勢(すなわち、踏切−車体相対姿勢)を特定し、さらに、特定した踏切−車体相対姿勢およびセンサ姿勢センサの検出結果に基づいて、振動センサの最寄り踏切に対する相対姿勢(すなわち、踏切−センサ相対姿勢)するようになっていてもよい。
【0013】
さらに列車走行報知装置は、特定された踏切−センサ相対姿勢に基づいて、複数の振動検出用回路による複数の検出結果から、最寄り踏切から振動センサの方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が列車走行超音波を含むか否かを判定するようになっていてもよい。
【0014】
このようになっていることで、列車走行報知装置は、最寄り踏切の位置、車体の位置および姿勢、ならびに、振動センサの車体に対する相対姿勢に基づいて、振動センサから踏切への方向を特定し、その方向に高い感度を有するように、複数の振動検出用回路の検出結果に対して処理を施すことができる。したがって、複数の踏切が車両の近傍にある場合であっても、所望の踏切を通る線路上の列車のみを検出することができる。
【0015】
また、振動検出用回路のうち少なくとも1つは、超音波振動を生成する機能を有していてもよい。この場合、列車走行報知装置は、当該少なくとも1つの振動検出用回路のうち1つにテスト用超音波振動を生成させ、振動検出用回路のうち当該テスト用超音波振動を生成した1つの振動検出用回路以外のものに当該テスト用超音波振動を検出させることで、前記路面中の超音波振動の伝播速度を特定してもよい。
【0016】
さらに列車走行報知装置は、特定された伝播速度および前記踏切−センサ相対姿勢に基づいて、複数の振動検出用回路による複数の検出結果から、最寄り踏切から振動センサの方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が前記列車走行超音波を含むか否かを判定するようになっていてもよい。
【0017】
このようになっていることで、路面における超音波振動の伝達速度が、路面を構成する物質によって変化することに対応して、精度良く踏切の方向からの超音波振動を抽出することができる。
【0018】
また、列車走行報知装置は、振動センサを前記路面に接触させ、その後に、超音波振動が列車走行超音波を含むか否かの判定(以下、列車判定という)を実行するようになっていてもよい。このようになっていることで、判定を行わないときまで、振動センサを路面に接触させる必要がなくなり、振動センサの無駄な磨耗または破損を防止することができる。
【0019】
また、振動センサは、当該振動センサの表面のうち、当該振動センサが路面に接触するときに当該路面に対面する面(すなわち対向面)に設けられると共に当該路面の方向に突出し、その先端が1つの平面に含まれる複数の突出部材を有していてもよい。さらに振動センサは、これらの突出部材が路面に接触したときに上記した複数の突出部材が路面から受ける圧力を検出する第1圧力センサを有していてもよい。
【0020】
さらに振動センサは、対向面に設けられ、前記突出部材よりも突出の程度が少ない判定部材を有していてもよい。なお、「突出の程度が少ない」とは、突出していないことも含むが概念である。さらに振動センサは、判定部材が路面に接触したときに突出部材が当該路面から受ける圧力を検出する第2圧力センサを有していてもよい。
【0021】
この場合、列車走行報知装置は、第1圧力センサが検出した圧力の値が第1の圧力値であるとき、第2圧力センサが検出した圧力の値が、第1の圧力値よりも小さい第2の圧力値以上であることに基づいて、列車判定の実行を禁止し、また、第1圧力センサが検出した圧力の値が第1の圧力値であるとき、第2圧力センサが検出した圧力の値が、第2の圧力値未満であることに基づいて、列車判定の実行を許可するようになっていてもよい。
【0022】
振動センサを平坦で充分硬い路面に接触させた場合は、上述した複数の突出部材がその路面に当たり、それらよりも突出の程度が少ない判定部材が路面に当らない。このような場合、第2の圧力センサが検出した圧力の値は、第2の圧力値未満となり、列車判定の実行が許可される。
【0023】
しかし、路面が激しく起伏している場合、および、雪、土等の軟質の物質で路面が構成されているために突出部材の先端が埋もれてしまう場合には、第2の圧力センサが検出した圧力の値が、第2の圧力値以上となる可能性がある。そのような場合には、上述の通り、列車判定の実行が禁止される。このようにするのは、路面がある程度以上軟質な物質で構成されている状況は、超音波振動の減衰が大きく、超音波振動による列車の走行の検出が不適切な状況であるという考えに基づくものである。
【0024】
なお、第2の圧力値は、第1の圧力値に関わらない一定値であってもよいし、第1の圧力値が大きくなるほど大きくなる値であってもよい。
【0025】
また、記憶媒体は、複数の踏切のそれぞれの位置を示す踏切位置情報を記憶し、列車走行報知装置は、踏切位置情報の示す複数の踏切の位置のうち1つの手前で車両が停止したことに基づいて、振動センサを路面に接触させ、その後、列車判定の実行を許可するようになっていてもよい。このようにすることで、必要なときにのみ振動センサを路面に接触させて列車判定を実行することができるので、振動センサの無駄な磨耗は破損の防止につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態が適用される車両1の概略図を示す。車両1には、本実施形態に係る列車走行報知装置車両用ナビゲーション装置2、センサ部3、およびセンサ部支持装置4が搭載されている。
【0027】
車両用ナビゲーション装置2は、周知のナビゲーション機能を実現すると共に、センサ部3およびセンサ部支持装置4を制御し、センサ部3およびセンサ部支持装置4からの信号に基づいて、最寄りの踏切を通るレール上を列車が走行しているか否かをユーザに通知する装置である。センサ部3は、必要な時に車両1の前端の下部の路面に接触し、当該路面の超音波振動を検出するための装置である。センサ部支持装置4は、必要時に車両用ナビゲーション装置2の制御に従ってセンサ部3を押し下げて路面に接触させ、また、車両用ナビゲーション装置2の制御に従ってセンサ部3を引き上げて路面から離して車両1の車体に格納するための装置である。
【0028】
図2に、センサ部3の下面図を示す。この面は、センサ部3の表面のうち、振動センサが路面に接触するときに路面に対面する対抗面である。対抗面が水平な状態においては、対抗面の長辺方向が車両の左右方向に平行となっており、短辺方向が車両の前後方向に平行となっている。また、図3に、図2のA−A´断面図を示す。以下、これらの図を参照してセンサ部3の構成について説明する。
【0029】
センサ部3の本体であるフレーム31は、剛性の高い長方形の平板状の物体である。このフレーム31の対抗面側には、3つの円柱形状の穴32a〜32cと、3つの四角柱形状の穴33a〜cが記録されている。
【0030】
円柱穴32aは、対抗面の長辺方向中央、かつ短辺方向前端付近に設けられ、円柱穴32bは、対抗面の長辺方向右端、かつ短辺方向後端付近に設けられ、円柱穴32cは、対抗面の長辺方向左端、かつ短辺方向後端付近に設けられている。なお、ここでいう左右、前後とは、車両の左右および前後に一致する方向をいう。このように、円柱穴32a〜cは、フレーム31の底面の異なる位置に、二等辺三角形の頂点を成すように配置されている。
【0031】
四角柱穴33aは、円柱穴32aと円柱穴32bの中点に設けられ、四角柱穴33bは、円柱穴32bと円柱穴32cの中点に設けられ、四角柱穴33cは円柱穴32aと円柱穴32cの中点に設けられている。このように、四角柱穴33a〜33cのそれぞれは、円柱穴32a〜32cのうちいずれか2つを結ぶ直線上であり、かつ当該2つの間の位置に設けられている。
【0032】
図3に円柱穴32bについて例示するように、円柱穴32a〜32cのそれぞれには、検出用可動部材321、マイクロフォン322、圧力センサ323、および保持用ゴム324が、センサ部3の一部として取り付けられている。
【0033】
保持用ゴム324は、有底の円筒形状を有するゴムであり、円柱穴32a〜32cのそれぞれに、当該穴の底面および側面に密着するようにはめ込まれている。マイクロフォン322は、保持用ゴム324の内側側面に取り付けられている。圧力センサ323は、保持用ゴム324の底部内側に取り付けられている。
【0034】
樹脂製等の検出用可動部材321は、円柱の先端が半球形状に丸まった形状を有しており、その円柱部分が保持用ゴム324の内側表面に密着し、かつ、マイクロフォン322および圧力センサ323と接触するように、円柱穴32a〜32cのそれぞれにはめ込まれている。また、検出用可動部材321の半球形状を有する先端部分は、円柱穴32a〜32cのそれぞれからはみ出ている。したがって、検出用可動部材321は、フレーム31の下面からさらに下に突出している。また、検出用可動部材321の質量および大きさは、マイクロフォン322が数十キロヘルツという低周波超音波振動を効率よく検出することができるように設計されている。
【0035】
このような構成により、マイクロフォン322は、検出用可動部材321における数十キロヘルツという低周波超音波振動を検出し、検出した振動に応じた電気信号を車両用ナビゲーション装置2に出力する。また、マイクロフォン32は、センサ部3の複数位置に設けられているので、センサ部3は、全体としてアレー型センサとして機能する。しかしマイクロフォン322は、保持用ゴム324によってフレーム31から隔てられているので、フレーム31の振動は保持用ゴム324のいて大きく減衰する。したがって、マイクロフォン322は、フレーム31の振動をほとんど検出することがない。
【0036】
また、マイクロフォン322は、車両用ナビゲーション装置2からの信号に従って数十キロヘルツという低周波超音波の振動数で振動することで、検出用可動部材321に超音波振動を生成させる。
【0037】
また、圧力センサ323は、検出用可動部材321の半球形の先端部が受けた上向きの圧力を検出し、検出した圧力に応じた電気信号を車両用ナビゲーション装置2に出力する。
【0038】
また、図3に四角柱穴33aについて例示するように、四角柱穴33a〜33cのそれぞれには、有効判定用可動部材331、圧力センサ333、および保持用ゴム334が、センサ部3の一部として取り付けられている。
【0039】
保持用ゴム334は、有底の四角形の筒形状を有するゴムであり、四角柱穴33a〜33cのそれぞれに、当該穴の底面および側面に密着するようにはめ込まれている。圧力センサ333は、保持用ゴム334の底部内側に取り付けられている。
【0040】
例えば樹脂製の有効判定用可動部材331は、円柱形状を有しており、保持用ゴム334の内側表面に密着し、かつ、圧力センサ333と接触するように、四角柱穴33a〜33cのそれぞれにはめ込まれている。この有効判定用可動部材331は、フレーム31の下面からの突出が、検出用可動部材321と比べて小さくなるように取り付けられている。より具体的には、有効判定用可動部材331は、フレーム31の下面から突出しないようになっている。
【0041】
このような構成により、圧力センサ323は、有効判定用可動部材331の下端が受けた上向きの圧力を検出し、検出した圧力に応じた電気信号を車両用ナビゲーション装置2に出力する。
【0042】
以上のような構成のセンサ部3が、平坦で充分に硬い路面に接触する際には、下方に突出している検出用可動部材321のみが路面に接触し、有効判定用可動部材331は路面に接触しない。しかし、起伏の大きい路面、または、軟らかい路面にセンサ部3が接触する際には、検出用可動部材321のみならず有効判定用可動部材331も路面に接触する場合がある。
【0043】
次に、センサ部支持装置4の構成について説明する。図4に、センサ部支持装置4およびセンサ部3の側面図(具体的には車両1の左側から見た図)を示し、図5に、センサ部支持装置4およびセンサ部3の正面図(具体的には、車両1の前方から見た図)を示す。
【0044】
センサ部支持装置4は、あるときにはセンサ部3を車体から押し下げて路面に接触させ、またあるときにはセンサ部3を車体側に引き上げて路面から離すための機構である。このセンサ部支持装置4は、ユニバーサルジョイント部41、2つの支持アーム42、2つの車体ジョイント部43を有している。
【0045】
2つの車体ジョイント部43は、車体の底面の、車両1の左右の中心線に関して対称となる位置に固定されている。車体ジョイント部43のそれぞれには、1本の棒状の支持アーム42の一端が取り付けられている。これら支持アーム42の他端は、ユニバーサルジョイント部41に取り付けられている。また、ユニバーサルジョイント部41は、センサ部3のフレーム31の上面の中央部、すなわち、センサ部3の重心部分に固定されている。したがって、車体と2本の支持アーム42によって左右対称の三角形構造体が形成される(図5参照)。
【0046】
車体ジョイント部43のそれぞれには、車両用ナビゲーション装置2からの信号に従って回転するモータが取り付けられている。このモータの回転に従って、車体ジョイント部43を支点とする支持アーム42の車両前後方向への振れ角が、矢印52に示すように変化する。また、車体ジョイント部43のそれぞれには、対応する支持アーム42の前後方向への振れ角を検出する角度センサが設けられている。
【0047】
センサ部3は、ユニバーサルジョイント部41が有するユニバーサルジョイントの機構により、支持アーム42に対して、車両前後方向53および、車両左右方向54を含むあらゆる方向に自由に傾くことができる。また、ユニバーサルジョイント部41は、センサ部3の重心部分に取り付けられているので、車体の底面とフレーム31の対抗面が平行でない場合であっても、検出用可動部材321のそれぞれに対して路面から鉛直方向に均等な圧力がかかるように、フレーム31を押し付けることができる。
【0048】
なお、ユニバーサルジョイント部41には、センサ部3の支持アーム42に対する傾き角(2次元値で表現される)を検出し、検出結果に応じた信号を車両用ナビゲーション装置2に出力する角度センサが設けられている。
【0049】
次に、車両用ナビゲーション装置2の構成について説明する。図6に、本実施形態に係る車両用ナビゲーション装置2のハードウェア構成を示す。この車両用ナビゲーション装置2は、位置検出器11、画像表示装置12、操作スイッチ群13、スピーカ14、地図データ取得部16、および制御回路17を有している。
【0050】
位置検出器11は、いずれも周知の図示しない地磁気センサ、3軸ジャイロセンサ、3軸加速度センサ、車速センサ、およびGPS受信機等のセンサを有しており、これらセンサの各々の性質に基づいた、車両の3次元的現在位置(緯度、経度、高度)、3次元的姿勢、および速度を特定するための情報を制御回路17に出力する。なお、ここでいう車両の3次元的姿勢は、例えば、車両の水平面上の進行方向(例えば真北から東に10度の方向等)、水平面に対するピッチ角、および車体のロール角等によって表現できる、3次元空間中の車両の姿勢を一意に特定できる量である。
【0051】
画像表示装置12は、制御回路17から出力された映像信号に基づいた映像をユーザに表示する。操作スイッチ群13は、ユーザによる操作を受け付け、その操作内容に基づいた信号を制御回路17に出力する。
【0052】
地図データ取得部16は、DVD、CD、HDD等の不揮発性の記憶媒体およびそれら記憶媒体に対してデータの読み出し(および可能ならば書き込み)を行う装置から成る。当該記憶媒体は、制御回路17が実行するプログラム、経路案内用の地図データ、および列車音特徴情報等を記憶している。
【0053】
地図データは、道路データおよび施設データを有している。道路データは、リンクの位置情報、種別情報、ノードの位置情報、種別情報、および、ノードとリンクとの接続関係の情報等を含んでいる。施設データは、施設毎のレコードを複数有しており、各レコードは、対象とする施設の名称情報、所在位置(緯度、経度、高度)情報、施設種類情報等を示すデータを有している。施設としては、例えば、駅、デパート、公園、踏切等がある。以下、この施設データ中の踏切についてのレコード群を、踏切位置情報という。
【0054】
列車音特徴情報は、列車がレール上を進行するときに発生し、当該列車が走行しているレールに沿って伝わる超音波(以下、列車走行超音波)の特徴を示す情報である。ここで用いる列車走行超音波としては、列車の金属製の車輪が金属製の鉄道のレール上を転がる際の転動音であってもよいし、レールの継ぎ目を車輪が通過するときに打撃により発生するジョイント音であってもよい。これら転輪音、ジョイント音の特徴を示す情報は、あらかじめ実験等によって作成しておき、車両用ナビゲーション装置2の製造時に地図データ取得部16の記憶媒体に記録しておいてもよいし、あるいは、車両用ナビゲーション装置2を車両1に搭載した後に、無線通信等によって車両用ナビゲーション装置2にダウンロードするようになっていてもよい。
【0055】
制御回路(コンピュータに相当する)17は、CPU、RAM、ROM、I/O等を有するマイコンである。CPUは、ROMまたは地図データ取得部16から読み出した車両用ナビゲーション装置2の動作のためのプログラムを実行し、その実行の際にはRAM、ROM、および地図データ取得部16から情報を読み出し、RAMおよび(可能であれば)地図データ取得部16の記憶媒体に対して情報の書き込みを行い、位置検出器11、画像表示装置12、操作スイッチ群13、スピーカ14と信号の授受を行う。
【0056】
さらに制御回路17は、必要に応じて、センサ部3の各マイクロフォン322、各圧力センサ323、各圧力センサ333と信号の授受を行い、センサ部支持装置4のユニバーサルジョイント部41の角度センサ、ならびに各車体ジョイント部43のモータおよび角度センサと信号の授受を行う。
【0057】
制御回路17がプログラムを実行することによって行う具体的な処理としては、現在位置特定処理、誘導経路算出処理、経路案内処理等がある。
【0058】
現在位置特定処理は、位置検出器11からの信号に基づいて、周知のマップマッチング等の技術を用いて車両の現在位置、走行速度、姿勢等を繰り返し定期的に特定する処理である。
【0059】
誘導経路算出処理は、操作スイッチ群13からユーザによる目的地の入力を受け付け、現在位置から当該目的地までの最適な誘導経路を算出する処理である。経路案内処理は、地図データ取得部16から地図データを読み出し、算出された誘導経路、目的地、経由地および現在位置等をこの地図データの示す地図上に重ねた画像を、画像表示装置12に出力し、案内交差点の手前に自車両が到達したとき等の必要時に、右折、左折等を指示する案内音声信号をスピーカ14に出力させる処理である。
【0060】
また、制御回路17は、踏切において列車が走行しているか否かを車両1の乗員に通知するために、図7に示すプログラム100を実行する。
【0061】
このプログラム100の実行において、制御回路17は、車両1が停止しているという条件(ステップ105)、および、車両1が踏切の手前に差し掛かっているという条件(ステップ110)の両方が満たされた場合、センサ部3の接地処理を行う(ステップ120)。ただし、既にセンサ部3が接地された状態である場合、接地処理を行わずに次の処理(ステップ125)に進む。
【0062】
なお、車両1が停止しているか否かは、現在位置特定処理によって得た車両1の走行速度が基準速度(例えば時速0.5キロメートル)以下となったことに基づいて判定する。また、車両1が踏み切りの手前に差し掛かっているか否かは、地図データ取得部16中の道路データ、施設データ、および現在位置特定処理によって得た車両1の現在位置に基づいて、車両1が現在進行している道路に沿った、車両1から車両前方の所定距離(例えば5m)以内に、踏切位置情報に含まれる踏切の1つがあるか否かによって判定する。以下、車両1が現在進行している道路に沿った、車両1から車両前方の所定距離以内にある踏切のうち、車両1に最も近い踏切を最寄り踏切という。
【0063】
図8に、接地処理の詳細をフローチャートで示す。接地処理においては、制御回路17は、まず、各車体ジョイント部43のモータを駆動することで、センサ部3を車体から離して路面に近づける制御を開始する(ステップ121)。そしてこの制御を、センサ部3の圧力センサ323のそれぞれが検出する圧力の値があらかじめ定められた圧力値(以下、第1の圧力値という)に達するまで(ステップ122)続ける(ステップ121)。なお、センサ部3を下げ初めてからステップ122で肯定判定があるまでは、1〜2秒程度の時間がかかる。
【0064】
ここで、第1の圧力値は、路面とセンサ部3に損傷を与えず、かつ、センサ部3の超音波に対する感度を十分高くする程度に、センサ部3を路面に押し付ける圧力として、あらかじめ設定されている。
【0065】
そして、センサ部3の検出用可動部材321に対応する圧力センサ323のそれぞれが検出する圧力の値が第1の圧力値に達すると、センサ部3を下げる制御をそれ以上行わずに、有効判定用可動部材331に対応する圧力センサ333のそれぞれが検出する圧力の値が、あらかじめ定められた第2の圧力値以下であるか否かを判定する(ステップ124)。この第2の圧力値は、第1の圧力値よりも小さい値である。例えば、第2の圧力値は、第1の圧力値の1/10となるように設定されてもよい。
【0066】
そして、この判定結果が否定的である場合、超音波検出条件が未達成であると判定し(ステップ126)、肯定的である場合、超音波検出条件が達成されたと判定し(ステップ128)、その後、センサ部3の接地処理を終了する。
【0067】
このような方法による超音波検出条件の達成、未達成の判定は、以下のような観点を反映するものである。検出用可動部材321の方が有効判定用可動部材331よりも先端部の半球分だけ下に突出しているので、もしも路面がある程度平滑な平面で硬質固体ならばセンサ部3のフレーム31は3つの検出用可動部材321により3点支持される。その場合は有効判定用可動部材331についての圧力センサ333は圧力が無しか、またはわずかである。逆に、路面が土、雪など軟質材から成っている場合や、路面の起伏が激しい場合には検出用可動部材321の先端が埋もれてしまい、有効判定用可動部材331に検出用可動部材と同程度の圧力がかかる。
【0068】
軟質な路面では音波の減衰が大きいため、レールから路面に伝わる超音波振動によって列車の走行を検出する方法が適さない可能性がある。したがって、有効判定用可動部材331にある程度以上の圧力がかかる場合には、超音波検出条件が達成されないと判定する。
【0069】
センサ部3の接地処理(ステップ120)に続いては、検出条件が未達成であると判定されたか否かを判定し(ステップ125)、未達成と判定されていれば続いてステップ165を実行する。
【0070】
検出条件が達成したと判定されていれば、すなわち、路面が十分に平坦で硬質であれば、続いて、列車音検出処理を実行する(ステップ130)。列車音検出処理においては、接地させたセンサ部3によって超音波振動を検出し、検出した超音波を列車音特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が最寄り踏切からの列車走行超音波を含むか否かを判定する。この列車音検出処理の詳細については後述する。
【0071】
続いて、列車音検出処理の結果、超音波振動が最寄り踏切からの列車走行超音波を含むと判定されたか否か(すなわち、最寄り踏切を通るレールの、当該最寄り踏切近傍を、列車が走行しているか否か)を判定し(ステップ135)、その判定結果が肯定的であれば、列車を検出した旨を、画像表示装置12およびスピーカ14のいずれかまたは両方を用いて、乗員に報知する(ステップ140)。
【0072】
例えば、画像表示装置12を用いる場合、「列車に注意願います、近くに走行中の列車があります」という文字を画像表示装置12に表示させる。また例えば、スピーカ14を用いる場合、「ご注意願います。近くを走行中の列車があります」という音声をスピーカ14に出力させる。
【0073】
ステップ135の判定結果が否定的であれば、まだ列車を検出していないので乗員自ら注意するべき旨を、画像表示装置12およびスピーカ14のいずれかまたは両方を用いて、乗員に報知する(ステップ145)。
【0074】
例えば、画像表示装置12を用いる場合、「列車を直接確認していください、超音波探知待機中です」という文字を画像表示装置12に表示させる。また例えば、スピーカ14を用いる場合、「列車を確認してください。」という音声をスピーカ14に出力させる。
【0075】
ステップ140または145に続いては、一定時間待機し(ステップ150参照)、その後処理を再度ステップ105に戻す。
【0076】
車両1が最寄り踏切手前の、検出条件が達成されるような路面上で停止している間は、制御回路17は、ステップ130、135、および140(または145)の処理を繰り返す。そして、車両1が走行を開始してその走行速度が基準速度を超えるか(ステップ105)、または、車両1の位置が踏切手前でなくなると(ステップ110)、続いて、センサ部3の格納処理を行う(ステップ160)。ただし、センサ部3が既に格納されていれば、ステップ130の処理は行わずに次の処理(ステップ150)を実行する。
【0077】
センサ部3の格納処理において、制御回路17は、各車体ジョイント部43のモータを駆動してセンサ部3を車体方向に引き上げる制御を開始し、その制御を、センサ部3が車体に格納されるまで続ける。なお、センサ部3が車体に格納されたか否かは、車体ジョイント部43の角度センサの検出する角度が所定の格納角度になったか否かで判定する。
【0078】
センサ部3が車体に格納された場合、格納処理を終了し、続いて、一定時間だけ待機した(ステップ150)後再度ステップ105を実行する。
【0079】
なお、ステップ125で検出条件が未達成であると判定した後のステップ165では、制御回路17は、条件未達成の旨を、画像表示装置12およびスピーカ14のいずれかまたは両方を用いて、乗員に報知する。
【0080】
例えば、画像表示装置12を用いる場合、「列車を直接確認していください、超音波探知できない環境です。」という文字を画像表示装置12に表示させる。また例えば、スピーカ14を用いる場合、「列車を確認してください。」という音声をスピーカ14に出力させる。ステップ165に続いては、ステップ160でセンサ部3の格納処理を実行する。
【0081】
ここで、ステップ130の列車音検出処理の詳細について説明する。図9に列車音検出処理の詳細をフローチャートで示す。この列車音検出処理において、制御回路17は、まずステップ131で、車体側ジョイント角、すなわち、支持アーム42の車体に対する角度を、各車体ジョイント部43の角度センサから取得する。
【0082】
続いてステップ132で、センサ部ジョイント角、すなわち、ユニバーサルジョイント部41の構造に起因する、センサ部3の支持アーム42に対する傾き角度を、ユニバーサルジョイント部41の角度センサから取得する。
【0083】
続いてステップ133では、踏切情報中の最寄り踏切の3次元位置、現在位置取得処理によって特定した車両1の3次元現在位置、および、現在位置取得処理によって特定した車両1の姿勢に基づいて、最寄り踏切への方向に対する車体の相対的姿勢(すなわち、踏切−車体相対姿勢)を特定する。一般に踏切は、その前後の道路よりも盛り上がっていることが多い。したがって、車両1の前後左右方向を含む面内から踏切の位置が離れている場合が多い。
【0084】
続いてステップ134では、最寄り踏切への方向に対するセンサ部3の相対姿勢(すなわち、踏切−センサ相対姿勢)を特定する。具体的には、まず、ステップ131および132で取得した車体側ジョイント角およびセンサ部ジョイント角の情報に基づいて、車体への方向に対する振動センサの相対姿勢(すなわち、車体−センサ相対姿勢)を特定する。なお、車体側ジョイント角およびセンサ部ジョイントと角と、車体−センサ相対姿勢との関係は、センサ部支持装置4の構造に基づいて、車両用ナビゲーション装置2の製造時にあらかじめ設定されている。そして、このように特定した車体−センサ相対姿勢と、ステップ133で特定した踏切−車体相対姿勢に基づいて、踏切−センサ相対姿勢を特定する。
【0085】
続いてステップ135では、センサ部3が接触する路面における超音波振動の伝達速度を検出する。これは、3つのマイクロフォン322のいずれか1つを用いて、対応する検出用可動部材321にテスト用超音波振動を生成させ、残りの2つの検出用可動部材321および対応するマイクロフォン322で、当該テスト用超音波振動を検出させる。そして、テスト用超音波振動の生成時刻および当該超音波振動の検出時刻の差と、あらかじめ設定されている円柱穴32a〜32cのそれぞれの間の距離に基づいて、当該路面におけるテスト用超音波振動の伝達速度を決定する。なお、このテスト用超音波振動は、列車走行超音波と同じ周波数帯の振動であってもよい。
【0086】
なお、3つの検出用可動部材321のそれぞれについて、順番にテスト用超音波振動を生成させることで、テスト用超音波振動の伝達速度を3回、異なる伝達方向について、計測するようになっていてもよい。この場合、それら計測結果の平均値を、実際の伝達速度として採用する。なお、計測された値のばらつきが大きい場合(例えば、標準偏差が所定量以上である場合)、路面の超音波振動によって列車の走行を検出することが適切でないと判定し、直ちにステップ165を実行するようになっていてもよい。
【0087】
続いてステップ136では、検出用可動部材321およびマイクロフォン322を用いて、最寄り踏切の方向からの超音波振動を抽出する。具体的には、ステップ134で特定した踏切−センサ相対姿勢に相当する方向のみの振動成分を増幅し、他の方向からの振動成分を打ち消すために、3つのマイクロフォン322で受けた超音波振動の信号に対して重み付けおよび遅延の処理を、周知の方法で施す。
【0088】
例えば、センサ部3に固定された正規直交座標系において、円柱穴32a、b、cの位置座標がそれぞれ(x,y,z)、(x,y,z)、(x,y,z)であり、円柱穴32aから踏切の位置座標が(x,y,z)であり、路面中の超音波振動の伝播速度がvであった場合、踏切から各センサへの超音波の到達時間ta、b、は以下の式に近似される。
={((x−x+(y−y+(z−z1/2}/v
={((x−x+(y−y+(z−z1/2}/v
={((x−x+(y−y+(z−z1/2}/v
各到達時間ta、、tの内の最大値をtmaxとすると、各センサ出力に遅延回路が与える遅延時間を、それぞれ((tmax−t1/2、((tmax−t1/2、((tmax−t1/2にすれば踏切位置から発せられた超音波の位相をそろえることができる。
円柱穴32aにおけるマイクロフォン322からの信号に遅延回路を通した出力信号をO、円柱穴32bにおけるマイクロフォン322からの信号に遅延回路を通した出力信号をO、円柱穴32cにおけるマイクロフォン322からの信号に遅延回路を通した出力信号をOとすると、O=O+O+Oという式を用いて、最寄り踏切からの信号が増幅された信号Oを取得することができる。
【0089】
このように、センサ部3が、複数の位置のそれぞれに、当該位置における超音波振動を検出する検出用可動部材321を備えることを利用して、センサ部3の指向性を調整することができる。
【0090】
なお、最寄り踏切の方向からの超音波振動を抽出するのは、列車走行超音波は、レールに沿って主に伝播し、そのレールから周囲の路面に副次的に伝播するからである。したがって、車両1から最も近いレールから伝播する列車走行超音波が、車両1に最も強く伝達する。そして、車両1から最も近いレールへの方向は、車両1から踏切位置のレールへの方向と概ね一致する。
【0091】
続いてステップ137では、ステップ136で抽出した超音波振動信号を、地図データ取得部16中の列車音特徴情報に照らし合わすことで、当該超音波振動信号が列車走行超音波を含んでいるか否かを判定する。この照らし合わせは、周知の音声認識技術を用いて、抽出した超音波振動信号の列車音特徴情報に対する一致度を算出して、その一致度が所定値以上であれば、当該超音波振動信号が列車走行超音波を含んでいると判定し、一致度が所定値未満であれば、当該超音波振動信号が列車走行超音波を含んでいないと判定するようになっていてもよい。ステップ137の後、列車音検出処理が終了する。
【0092】
以上説明した通り、本実施形態においては、列車がレール上を進行するときに発生して当該レールを伝播する列車走行超音波を利用して列車の存在を検出する。
【0093】
すなわち、車両用ナビゲーション装置2は、センサ部3が検出した最寄り踏切からの超音波振動を列車音特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が列車走行超音波を含むか否かを判定し、その判定結果が肯定的であることに基づいて、レール上を列車が走行していることを車両の乗員に報知する。
【0094】
このように、車両用ナビゲーション装置2は、レールおよび地面を伝播する列車走行超音波を利用することで、踏み切りの近くを列車が実際に走行していることを検出して具体的に乗員に通知することができる。そして、列車走行超音波の特徴情報を予め記憶しておき、検出した超音波信号をその特徴情報に照らすことで、列車走行超音波を、他の雑音と区別して検出することができる。
【0095】
このような機能は、障害物のせいで車両のドライバが列車を目視することができない場合、周囲の雑音のせいで車両のドライバが(空中を伝わる)列車の接近音を聞き取れない場合、鉄道側が発するべき警報装置(踏切警報機、列車の警笛等)が、ないかまたは故障している場合、等において特に有益である。
【0096】
また、車両用ナビゲーション装置2は、位置検出器11の検出結果および踏切位置情報に基づいて踏切−車体相対姿勢を特定し、さらに、特定した踏切−車体相対姿勢および角度センサの検出結果に基づいて、踏切−センサ相対姿勢する。さらに車両用ナビゲーション装置2は、特定された踏切−センサ相対姿勢に基づいて、複数の検出用可動部材321による複数の検出結果から、最寄り踏切からセンサ部3の方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、列車音特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が列車走行超音波を含むか否かを判定する。
【0097】
このようになっていることで、車両用ナビゲーション装置2は、最寄り踏切の位置、車体の位置および姿勢、ならびに、センサ部3の車体に対する相対姿勢に基づいて、センサ部3から踏切への方向を特定し、その方向に高い感度を有するように、複数の検出用可動部材321の検出結果の信号に対して処理を施すことができる。したがって、複数の踏切が車両の近傍にある場合であっても、所望の踏切を通る線路上の列車のみを検出することができる。
【0098】
また、車両用ナビゲーション装置2は、検出用可動部材321のうち1つにテスト用超音波振動を生成させ、検出用可動部材321のうち当該テスト用超音波振動を生成した1つの検出用可動部材321以外のものに当該テスト用超音波振動を検出させることで、路面中の超音波振動の伝播速度を特定する。
【0099】
さらに車両用ナビゲーション装置2は、特定された伝播速度および踏切−センサ相対姿勢に基づいて、複数の検出用可動部材321による複数の検出結果から、最寄り踏切からセンサ部3の方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、列車音特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が前記列車走行超音波を含むか否かを判定する。
【0100】
このようになっていることで、路面における超音波振動の伝達速度が、路面を構成する物質によって変化することに対応して、精度良く踏切の方向からの超音波振動を抽出することができる。
【0101】
また、車両用ナビゲーション装置2は、プログラム100のステップ120でセンサ部3を路面に接触させ、その後に、ステップ130の列車音検出処理を実行するようになっている。このようになっていることで、列車音検出処理を行わないときまで、センサ部3を路面に接触させる必要がなくなり、センサ部3の無駄な磨耗または破損を防止することができる。
【0102】
また、車両用ナビゲーション装置2は、フレーム31の下面よりも突出した検出用可動部材321についての圧力センサ323が検出した圧力の値が第1の圧力値であるとき、検出用可動部材321よりも下方に突出する程度が少ない有効判定用可動部材331についての圧力センサ333が検出した圧力の値が、第1の圧力値よりも小さい第2の圧力値以上であることに基づいて、列車音検出処理の実行を禁止し、また、第2圧力センサが検出した圧力の値が、第2の圧力値未満であることに基づいて、列車音検出処理の実行を許可するようになっている。
【0103】
センサ部3を平坦で充分硬い路面に接触させた場合は、上述した複数の突出部材がその路面に当たり、判定部材が路面に当らない。このような場合、圧力センサ333が検出した圧力の値は、第2の圧力値未満となり、列車判定の実行が許可される。
【0104】
しかし、路面が激しく起伏している場合、および、雪、土等の軟質の物質で路面が構成されているために突出部材の先端が埋もれてしまう場合には、圧力センサ333が検出した圧力の値が、第2の圧力値以上となる可能性がある。そのような場合には、上述の通り、列車判定の実行が禁止される。このようにするのは、路面がある程度以上軟質な物質で構成されている状況は、超音波振動の減衰が大きく、超音波振動による列車の走行の検出が不適切な状況であるという考えに基づくものである。
【0105】
また、車両用ナビゲーション装置2は、踏切位置情報の示す複数の踏切の位置のうち1つの手前で車両1が停止したことに基づいて、センサ部3を路面に接触させ、その後、列車音検出処理の実行を許可するようになっている。このようにすることで、必要なときにのみセンサ部3を路面に接触させて列車判定を実行することができるので、センサ部3の無駄な磨耗は破損の防止につながる。
【0106】
なお、上記の実施形態においては、車両用ナビゲーション装置2、センサ部3、およびセンサ部支持装置4の集合が、列車走行報知装置の一例に相当し、センサ部3が振動センサの一例に相当し、位置検出器11が車体センサの一例に相当し、地図データ取得部16が記憶媒体の一例に相当し、ジョイント部41〜43中のセンサの集合が、センサ姿勢センサの一例に相当し、マイクロフォン322のそれぞれが振動検出用回路の一例に相当する。
【0107】
また、検出用可動部材321のそれぞれが突出部材の一例に相当し、有効判定用可動部材331のそれぞれが判定部材の一例に相当し、圧力センサ323のそれぞれが第1圧力センサの一例に相当し、圧力センサ333のそれぞれが第2圧力センサの一例に相当する。
【0108】
また、制御回路17が、プログラム100のステップ130を実行することで列車走行判定手段の一例として機能し、ステップ105、110、120、125を実行することでセンサ制御手段の一例として機能し、ステップ135、140、145を実行することで報知手段の一例として機能する。
【0109】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
【0110】
例えば、上記の実施形態においては、踏切からの超音波振動を抽出するための前処理として、センサ部3が接触する路面における超音波振動の伝播速度を検出している。しかし、このような前処理を行わず、路面における超音波振動の伝達速度として、典型的な一定値を用いても、典型的な路面においては、よい精度で、列車走行超音波を検出することができる。
【0111】
また、上記実施形態においては、踏切位置情報は、踏切の3次元位置を記録している。これによって、路面の勾配が位置によって変化し、その結果、センサ部3の水平面に対する傾きと車体の水平面に対する傾きが異なっていた場合にも、踏切への方向に対するセンサ部3の姿勢を精度よく特定することができる。
【0112】
しかし、踏切位置情報は、踏切の水平面内の2次元位置のみを記録しているようになっていてもよい。その場合は、ステップ134においては、踏切−センサ相対姿勢を、踏切−車体相対姿勢と同じであるとみなした処理を行うようになっていてもよい。このようになっていても、最寄り踏切も含めて一様に平坦な道路においては、十分な精度で踏切の方向を検出することができる。
【0113】
また、上記実施形態においては、踏切−センサ相対姿勢を特定するようになっている。これによって、車両1の最寄りの踏切以外の踏切を通る列車からの列車走行超音波を検出してしまい、誤って列車の存在を警告してしまう可能性を低減している。
【0114】
しかし、周囲に踏切が1つしかない場面においては、踏切−センサ相対姿勢を特定せずとも、単に雑音と列車走行超音波とを区別することさえできれば、誤って列車の存在を警告してしまうことはない。したがって、このような、周囲に踏切が1つしかない場面でのみ有効であればよいなら、踏切−センサ相対姿勢を特定せずともよいし、さらに、センサ部3は、単一の位置に検出用可動部材321およびマイクロフォン322を有するのみでよい。
【0115】
また、制御回路17は、プログラム100の実行において、ステップ140で列車検出通知処理を行った後、車両の移動開始を待たずに、ステップ160を実行してセンサ部3を引き上げて格納するようになっていてもよい。
【0116】
また、上記の実施形態においては、車両用ナビゲーション装置2が、車両1の踏切手間での停止に基づいて(プログラム100のステップ105、110参照)、ステップ120以降のセンサ部3の接地処理およびそれに続く列車音検出処理を実行をするようになっている。しかし、乗員が操作スイッチ群13に対して所定の操作を行うことに基づいて、ステップ105および110が省かれたプログラム100を実行するようになっていてもよい。
【0117】
また、穴32a〜32c、33a〜33cの形状は、上記の実施形態のようなものに限らず、どのような形状であってもよい。
【0118】
また、列車音特徴情報と踏切位置情報とは、異なる種類の記憶媒体例えば(USBメモリとハードディスクドライブ)に記録されていてもよい。その場合には、それら異なる2つの記憶媒体の集合が、本発明の記憶媒体に相当する。
【0119】
また、上記の実施形態において、制御回路17がプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【0120】
また、本発明の列車走行報知装置は、車両1の(2次元または3次元の)現在位置を特定し、車両1の(3次元のまたは水平面上の)姿勢を特定することができ、かつ、踏切位置情報を有しているなら、他のナビゲーション装置の機能を有しておらずともよい。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の実施形態が適用される車両1の概略図である。
【図2】センサ部3の下面図である。
【図3】図2のA−A´断面図である。
【図4】センサ部3およびセンサ部支持装置4の側面図である。
【図5】センサ部3およびセンサ部支持装置4の正面図である。
【図6】車両用ナビゲーション装置2その他の装置の構成を示すブロック図である。
【図7】制御回路17が実行するプログラム100のフローチャートである。
【図8】プログラム100のステップ120の詳細を示すフローチャートである。
【図9】プログラム100のステップ130の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0122】
1…車両、2…車両用ナビゲーション装置、3…センサ部、4…センサ部支持装置、
11…位置検出器、12…画像表示装置、13…操作スイッチ群、14…スピーカ、
16…地図データ取得部、17…制御回路、31…フレーム、32a〜c…円柱穴、
33a〜c…四角柱穴、41…ユニバーサルジョイント部、42…支持アーム、
43…車体ジョイント部、51…中心線、321…検出用可動部材、
322…マイクロフォン、323…圧力センサ、324…保持用ゴム、
331…有効判定用可動部材、333…圧力センサ、334…保持用ゴム、
100…プログラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられる列車走行報知装置であって、
列車がレール上を進行するときに発生して前記レールを伝播する列車走行超音波の特徴を示す特徴情報を記憶する記憶媒体と、
前記車両が所在している路面の超音波振動を検出する振動センサと、
前記振動センサが検出した前記超音波振動を、前記特徴情報に照らし合わせることで、前記超音波振動が前記列車走行超音波を含むか否かを判定する列車走行判定手段と、
前記判定手段の判定結果が肯定的であることに基づいて、レール上を列車が走行していることを前記車両の乗員に報知する報知手段と、を備えた列車走行報知装置。
【請求項2】
前記車両の車体の所在位置および姿勢を検出する車体センサと、
前記振動センサの前記車体に対する車体−センサ相対姿勢を検出するセンサ姿勢センサと、を備え、
前記記憶媒体は、複数の踏切のそれぞれの位置を示す踏切位置情報を記憶し、
前記振動センサは、当該振動センサの複数の位置のそれぞれに、当該位置における超音波振動を検出する振動検出用回路を備え、
前記列車走行判定手段は、前記車体センサの検出結果および前記踏切位置情報に基づいて、前記複数の踏切のうち前記車両の前方でありかつ前記車両に最も近い最寄り踏切に対する前記車体の踏切−車体相対姿勢を特定し、さらに、特定した前記踏切−車体相対姿勢および前記センサ姿勢センサの検出結果に基づいて、前記振動センサの前記最寄り踏切に対する踏切−センサ相対姿勢を特定し、
前記列車走行判定手段は更に、特定された前記踏切−センサ相対姿勢に基づいて、前記複数の振動検出用回路による複数の検出結果から、前記最寄り踏切から前記振動センサの方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、前記特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が前記列車走行超音波を含むか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の列車走行報知装置。
【請求項3】
前記振動検出用回路のうち少なくとも1つは、超音波振動を生成する機能を有し、
前記列車走行判定手段は、当該少なくとも1つの振動検出用回路のうち1つにテスト用超音波振動を生成させ、前記振動検出用回路のうち前記テスト用超音波振動を生成した前記1つの振動検出用回路以外のものに当該テスト用超音波振動を検出させることで、前記路面中の超音波振動の伝播速度を特定し、
前記列車走行判定手段は更に、特定された前記伝播速度および前記踏切−センサ相対姿勢に基づいて、前記複数の振動検出用回路による複数の検出結果から、前記最寄り踏切から前記振動センサの方向へ伝播する超音波振動を抽出し、当該抽出した超音波振動を、前記特徴情報に照らし合わせることで、当該超音波振動が前記列車走行超音波を含むか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の列車走行報知装置。
【請求項4】
前記振動センサを前記路面に接触させ、その後、前記列車走行判定手段の作動を許可するセンサ制御手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の列車走行報知装置。
【請求項5】
前記振動センサは、
前記振動センサの表面のうち、前記振動センサが前記路面に接触するときに前記路面に対面する対向面に設けられると共に前記路面の方向に突出し、その先端が1つの平面に含まれる複数の突出部材と、
前記突出部材が前記路面に接触したときに前記複数の突出部材が前記路面から受ける圧力を検出する第1圧力センサと、
前記対向面に設けられ、前記突出部材よりも突出の程度が少ない判定部材と、
前記判定部材が前記路面に接触したときに前記突出部材が前記路面から受ける圧力を検出する第2圧力センサと、を備え、
前記センサ制御手段は、前記第1圧力センサが検出した圧力の値が第1の圧力値であるとき、前記第2圧力センサが検出した圧力の値が、前記第1の圧力値よりも小さい第2の圧力値以上であることに基づいて、前記列車走行判定手段の作動を禁止し、また、前記第1圧力センサが検出した圧力の値が前記第1の圧力値であるとき、前記第2圧力センサが検出した圧力の値が、前記第2の圧力値未満であることに基づいて、前記列車走行判定手段の作動を許可することを特徴とする請求項4に記載の列車走行報知装置。
【請求項6】
前記記憶媒体は、複数の踏切のそれぞれの位置を示す踏切位置情報を記憶し、
前記センサ制御手段は、前記踏切位置情報の示す前記複数の踏切の位置のうち1つの手前で前記車両が停止したことに基づいて、前記振動センサを前記路面に接触させ、その後、前記列車走行判定手段の作動を許可することを特徴とする請求項4または5に記載の列車走行報知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−37326(P2009−37326A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199464(P2007−199464)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】