説明

判別フィルタ設計方法、判別方法、判別フィルタセット、判別装置、および、プログラム

【課題】蛍光特性により評価対象を判別するために、短時間に高精度な測定と解析を行うことができる判別フィルタ設計方法、判別方法、判別フィルタセット、判別装置、および、プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、照射すべき励起波長帯域および観測すべき蛍光波長帯域の少なくとも1つ以上の組み合わせを設定し、評価値が既知の複数の評価対象について広い波長範囲において予め取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報に基づいて、測定窓として設定された励起波長帯域および蛍光波長帯域で得られる蛍光強度を算出し、算出された蛍光強度および評価値を変数として、評価値を求めるための推定式を取得し、帯域の組み合わせを再設定しながら、上記処理を繰り返し実行させることにより、評価対象の評価値を求めるための最適な推定式を得るとともに、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判別フィルタ設計方法、判別方法、判別フィルタセット、判別装置、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光特性により対象物を分析する手法が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の穀粉の判別方法では、蛍光分光光度計等において、評価対象物に対して照射する励起波長、および、評価対象物から観測する蛍光波長を段階的に変化(波長走査)させながら蛍光強度を測定することにより、励起波長、蛍光波長、蛍光強度の3軸からなる蛍光指紋を取得し、取得した蛍光指紋を解析することにより、穀粉の品種や種別を判別している。
【0004】
また、特許文献2に記載の方法では、蛍光指紋情報に加えて、位置情報を測定することにより、画素単位で蛍光指紋を取得し、カラーマッピングにより成分分布の可視化を行っている。なお、特許文献3に記載の方法では、更に、評価対象物とサンプル間における溶媒含有率(または可視化対象の特定成分に対する外乱要因)の影響を除去し、評価対象物の特定の成分をより明確に分析している。
【0005】
ここで、上記特許文献1〜3に記載される「蛍光指紋」は、蛍光指紋(Excitation−Emission Matrix: EEM)ともよばれ、試料に照射する励起光の波長を連続的に変化させながら蛍光スペクトルを測定することによって得られる3次元データ等を意味する。蛍光指紋の形状が指紋のように成分特異的に決まるため、測定者は、通常の単一波長での蛍光測定だけでは判別できない微妙な成分の差異を検出できる。更に、測定者は、この蛍光指紋情報に加えて、位置情報(すなわち、画像における各画素の位置を示す空間情報)を伴って、各画素ごとあるいは画素ブロックごとに蛍光指紋を測定する蛍光指紋イメージングを用いることで、評価対象物中の特定成分の分布を可視化できる。
【0006】
また、特許文献4に記載の方法では、吸収スペクトルをイメージングに展開し、第1の透過帯域をもつフィルタと、第1の透過帯域を含む、第2の透過帯域をもつフィルタとを用いることによって正規化を行い、分光画像による判別を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−185719号公報
【特許文献2】特許第3706914号公報
【特許文献3】特開2010−266380号公報
【特許文献4】国際公開第2009/123068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来手法においては、蛍光分析法等のようにピークの蛍光強度のみから解析する場合には短時間で測定と解析ができるものの低精度であり、一方、蛍光指紋等の広帯域の蛍光強度分布から解析する場合には高精度であるものの測定と解析に時間を要する等の問題点を有していた。
【0009】
例えば、特許文献1〜3に記載の方法では、蛍光指紋を得るために広い波長範囲を、波長条件を変更しながら走査する必要があり、そのため機構が複雑で小型化が困難であり、計測時間も最低数分を要する、という問題点を有していた。
【0010】
また、特許文献4の方法等では、光学フィルタを使って吸収スペクトルのイメージングに展開しているものの、測定波長の点数が機構上限定される上、蛍光指紋においては、数多くの蛍光スペクトルが得られるためそのままでは適用することができない、という問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、蛍光特性により評価対象を評価するために、短時間に高精度な測定と解析を行うことができる、判別フィルタの設計方法、それを具現化した光学フィルタ群である判別フィルタセット、その判別フィルタを使った判別装置および判別方法、並びに、それらを可能にする一連のプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するため、評価対象を蛍光特性により評価するために適切な、当該評価対象に照射すべき励起波長帯域と、観測すべき蛍光波長帯域と、の組み合わせを決定する判別フィルタの設計方法であって、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせを設定する波長帯域設定工程と、評価値が既知の複数の評価対象について予め広域波長範囲において蛍光分光法で取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度からなる蛍光指紋情報に基づいて、上記波長帯域設定工程にて設定された上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域で得られる蛍光強度をシミュレーションにより算出する蛍光強度算出工程と、上記蛍光強度算出工程にて算出された上記蛍光強度および上記評価値を変数として、当該評価値を当該蛍光強度から推定するための推定式を取得する推定式取得工程と、上記波長帯域設定工程にて上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上記蛍光強度算出工程および上記推定式取得工程を繰り返し実行させることにより、上記評価対象の上記評価値を求めるための適切な上記推定式が得るとともに、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記組み合わせから最も適切な推定式を決定する最適化工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の判別フィルタ設計方法は、上記記載の判別フィルタ設計方法において、上記励起光波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせのうち、少なくとも1つ以上は、通常の狭帯域の干渉フィルタの半値幅よりも明らかに広い広帯域の波長帯域を持つことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の判別フィルタ設計方法は、上記記載の判別フィルタ設計方法において、上記評価値は、上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の判別フィルタ設計方法は、上記記載の判別フィルタ設計方法において、上記推定式取得工程にて、上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により上記推定式を取得することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の判別フィルタ設計方法は、上記記載の判別フィルタ設計方法において、上記蛍光強度算出工程にて、上記蛍光指紋情報に対して、上記各励起波長および上記各蛍光波長における上記蛍光強度を積分することにより、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域における上記蛍光強度を算出することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の判別フィルタ設計方法は、上記記載の判別フィルタ設計方法において、上記最適化工程にて、上記推定式取得工程にて取得された複数の上記推定式のうち、上記既知の上記評価値との誤差が少なく、かつ未知試料に対しても推定精度がよい、両者のバランスがとれているものを、上記適切な上記推定式として取得することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の判別方法は、評価対象を蛍光特性により評価する判別方法であって、上記記載の判別フィルタ設計方法により決定された、励起波長帯域の励起波長の光を透過させる励起波長側判別フィルタと、所定の蛍光波長帯域の蛍光波長の光を透過させる蛍光波長側判別フィルタと、を設定する判別フィルタ設定工程と、上記評価対象に上記励起波長帯域の励起波長を照射し、当該評価対象から上記蛍光波長帯域の蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせにて、上記フィルタ設定工程および上記蛍光測定工程を、少なくとも1回実行させる実行制御工程と、上記蛍光強度および上記評価対象の評価値を変数とした所定の推定式に、上記蛍光測定工程にて得られた上記蛍光強度を代入することにより、上記評価値を算出する推定演算工程と、を含み、上記推定式は、上記評価値が既知の複数の評価対象の、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記判別フィルタの組み合わせにおける蛍光強度情報とともに、上記評価対象の上記評価値を求めるための適切な上記推定式として予め最適化されたこと、を特徴とする。
【0019】
また、本発明の判別方法は、上記記載の判別方法において、上記評価値は、上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の判別方法は、上記記載の判別方法において、上記推定式は、上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により最適化されて取得されたものであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の判別フィルタセットは、評価対象を蛍光特性により判別するための光学フィルタのセットであって、上記記載の判別フィルタ設計方法によって決定された励起波長帯域に近似させた光学特性を持つ励起側光学フィルタと、上記判別フィルタ設計方法によって決定された蛍光波長帯域に近似させた光学特性を持つ蛍光側光学フィルタと、の少なくとも1つの組み合わせであって、評価対象の判別・検知・定量をするための測定に用いることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の判別フィルタセットは、上記判別フィルタセットにおいて、上記励起側光学フィルタは励起光源とともに、上記蛍光側光学フィルタは蛍光強度検出器とともに用い、その蛍光強度測定値により評価対象の評価値を推定するために使われることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の判別装置は、評価対象を蛍光特性により判別するために適切な、上記記載の判別フィルタセットを光源および検出器の部分に具備した測定部と制御部を備えた判別装置であって、上記制御部は、上記判別フィルタセットにおける所定の組み合わせの、上記励起波長側判別フィルタと上記蛍光波長側判別フィルタと、を設定する判別フィルタ設定手段と、上記評価対象に上記励起波長帯域の励起波長を照射し、当該評価対象から上記蛍光波長帯域の蛍光強度を測定する蛍光測定手段と、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせにて、上記フィルタ設定手段および上記蛍光測定手段による処理を、少なくとも1回実行させる実行制御手段と、上記蛍光強度および上記評価対象の評価値を変数とした所定の推定式に、上記蛍光測定工程にて得られた上記蛍光強度を代入することにより、上記評価値を算出する推定演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の判別装置は、上記記載の判別装置において、上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の判別装置は、上記記載の判別装置において、上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により上記評価値を推定するに最適な推定式が取得されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のプログラムは、評価対象を蛍光特性により評価するために適切な、当該評価対象に照射すべき励起波長帯域と、観測すべき蛍光波長帯域と、の組み合わせを決定するための、記憶部と演算部を備えたコンピュータに実行させるためのプログラムであって、上記記憶部は、評価値が既知の複数の評価対象について予め蛍光分光法で取得された、広域波長範囲にわたる各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報の記憶領域、を備え、上記演算部において、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つ以上の組み合わせを設定する波長帯域設定工程と、評価値が既知の複数の評価対象について予め取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報に基づいて、上記波長帯域設定工程にて設定された上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域で得られる蛍光強度を算出する蛍光強度算出工程と、上記蛍光強度算出工程にて算出された上記蛍光強度および上記評価値を変数として、当該評価値を求めるための推定式を取得する推定式取得工程と、上記波長帯域設定工程にて上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上記蛍光強度算出工程および上記推定式取得工程を繰り返し実行させることにより、上記評価対象の上記評価値を求めるための最適な上記推定式を得るとともに、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記組み合わせを決定する最適化工程と、を実行させることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、上記評価値は、上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、上記推定式取得工程にて、上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析等により上記推定式を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、励起波長帯域および蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせを設定し、評価値が既知の複数の評価対象について予め広域波長範囲において蛍光分光法で取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度からなる蛍光指紋情報に基づいて、設定された励起波長帯域および蛍光波長帯域で得られる蛍光強度をシミュレーションにより算出し、算出した蛍光強度および評価値を変数として、当該評価値を求めるための推定式を取得し、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上記処理を繰り返し実行することにより、評価対象の評価値を求めるための最適な推定式を得るとともに、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを決定する。これにより、本発明は、評価対象を蛍光特性により評価するために、短時間に高精度な測定と解析を行うことができるという効果を奏する。より具体的には、決定した励起波長帯域および蛍光波長帯域を透過させる少なくとも1つの組み合わせのフィルタを使用することにより、照射側の励起波長および観測側の蛍光波長を段階的に変化させて走査し、全ての波長の組み合わせを測定する必要がある蛍光指紋による判別方法に比べて、短時間に必要な情報だけを含む測定を行うことができる。
【0030】
また、本発明によれば、上記において、評価値は、評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であるので、評価対象を判別したり、検知したり、定量したりするための推定式を取得することができ、短時間に高精度に評価対象を蛍光特性にて評価することができるという効果を奏する。
【0031】
また、本発明によれば、上記において、蛍光強度を算出する際に、蛍光指紋情報に対して、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度を積分することにより、励起波長帯域および蛍光波長帯域における蛍光強度を算出することは、従来の狭帯域(積分前)での蛍光強度よりも、必要な情報を含んだ大きなシグナルが観測でき、S/N比の大幅な改善が図れるので、精度の高い測定と解析を行うことができるという効果を奏する。
【0032】
また、本発明によれば、上記において、最適化の際に、取得した複数の推定式のうち、既知の評価値との誤差が少なく、かつ未知試料(推定式作成に利用されなかった評価対象)に対しての推定精度も良い、両者のバランスがとれているものを、評価対象の評価値を求めるための最適な推定式として取得するので、未知試料に対しても精度の高い測定と推定を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の概要を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態のシミュレーション装置111の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図4は、本実施形態の判別装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】図5は、測定部110の構成の一例を示すブロック図である。
【図6】図6は、本実施の形態のシミュレーション装置111により実行される判別フィルタ設計方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、1組の判別フィルタセットのフィルタ特性を蛍光指紋上に示した図である。
【図8】図8は、試料スペクトルからフィルタ特性に基づいてセンサ出力に変換する方法を模式的に示した図である。
【図9】図9は、測定窓の数を2つに設定した場合(推定式:Y=aW+bW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。
【図10】図10は、測定窓の数を3つに設定した場合(推定式:Y=aW+bW+cW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。
【図11】図11は、測定窓の数を4つと設定した場合(推定式:Y=aW+bW+cW+dW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。
【図12】図12は、測定窓の数を2つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。
【図13】図13は、測定窓の数を3つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。
【図14】図14は、測定窓の数を4つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。
【図15】図15は、本実施の形態における判別装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【図16】図16は、判別フィルタ設定部102eによりフィルタ設定される測定部110の一例(1点測定)を示す図である。
【図17】図17は、判別フィルタ設定部102eによりフィルタ設定される測定部110の他の例(イメージング測定)を示す図である。
【図18】図18は、本実施例にて作成する理想のフィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図19】図19は、本実施例にて作成した2枚の判別フィルタ(光学フィルタ)の実際のフィルタ特性を示す図である。
【図20】図20は、氷・水膜を形成させた黒色アスファルトを撮影したカラー画像(左図)と、Xenics社製の近赤外カメラXSVA XS FPA−1.7−320(商品名)に製作したフィルタを装着して計測した氷・水判別結果画像(右図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の実施の形態にかかる判別フィルタ設計方法、判別方法、判別フィルタセット、判別装置、および、プログラムの好適な実施の形態の例を、図1〜図20を参照し詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、本実施形態において、評価対象物、蛍光強度の測定条件、統計解析方法等の各種条件については、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜選択できる。
【0035】
[I.判別フィルタ設計方法]
まず、図1および図2を参照し、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の概要について説明する。ここで、図1は、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の概要を模式的に示す図である。
【0036】
本実施形態において、「蛍光指紋」とは、励起蛍光マトリクス(Excitation−Emission Matrix:EEM)とも呼ばれ、図1に示すように、評価対象物に照射する励起波長(nm)、および、評価対象物から発する発光の蛍光波長(nm)における、評価対象物の蛍光強度を表す、励起波長と蛍光波長と蛍光強度の3軸からなる3次元データの等高線状のグラフである。
【0037】
また、図1に示すように、「蛍光指紋」は、一例として、縦軸を蛍光波長、横軸を励起波長として各ポイントの蛍光強度を等高線プロットすることにより平面的に表すことができる。蛍光指紋は、評価対象物に対し蛍光染色等の前処理をせずにキャラクタリゼーションが可能であること、操作が容易で短時間で測定できること、さらに吸光度に比べ感度が高いなどの長所を有することから、食品等の内部構造の分析や、大気中の浮遊物の測定や、染料の原料特定などに汎用されている手法である。このように、蛍光指紋は、3次元の膨大な情報を有する成分固有の蛍光情報であるため、測定者は、蛍光指紋を利用することで、成分の識別が可能であり、かつ、非破壊での計測が可能である。蛍光指紋(励起蛍光マトリクス)は、コンピュータが膨大な情報量を扱えるようになったために実用化した計測技術であり、従来、かび毒(DON(デオキシニバレノール)やアフラトキシン等)の検出・定量のほか、乾麺におけるそば粉の配合割合の推定、マンゴーの産地判別など、それまで実現できなかった判別や定量への適用が行われている。
【0038】
また、従来、別の計測手法として、蛍光分析法が用いられている。蛍光分析法では、評価対象物に特定の波長の励起光を照射してその応答ピークである特定の波長の蛍光強度を測定することにより、評価対象物の濃度等を測定する手法が一般的である。図1の×印は、蛍光分析法で用いる励起波長と蛍光波長の組み合わせの一例を示している。このように、従来の蛍光分析法では、条件数が少数で短時間に計測・解析が可能となるものの、ピークの情報のみを使用するため、等高線形状の情報が含まれず、ゆらぎ(外乱)等の影響を受け易く、また、このような際だったピークがないと定量も困難である。一方、上述した蛍光指紋を用いる方法は、全波長条件を使用するため、等高線形状の全ての情報が利用できるとともに、ゆらぎ等の影響を除去することができるので、高精度であるものの、条件数が膨大であるため計測・解析に時間を要するという問題があった。
【0039】
本発明者らは、このような従来法に鑑み、蛍光特性により評価対象を評価するために、従来の測定・解析手法を簡易化して、短時間に高精度な測定と解析を行うことができる手法を開発した。図1の破線の矩形は、本実施の形態による特徴を蛍光指紋上に模式的に表したものであり、具体的には、本実施の形態で用いる特定の励起波長帯域と特定の蛍光波長帯域の組み合わせを表している。なお、以下においては、この励起波長帯域と蛍光波長帯域から構成される矩形領域のことを、「測定窓」と呼ぶ場合がある。
【0040】
本実施の形態では、蛍光分析法のように、励起波長と蛍光波長の1条件で使用することはなく、また、蛍光指紋による手法のように、全波長条件を走査する必要もない。すなわち、図1の破線の矩形(測定窓)で示すように、特定の励起波長帯域と特定の蛍光波長帯域の組み合わせを用いるので、条件数が少数で短時間に測定と解析を行うことができ、かつ、等高線形状の情報を含むので、高精度な解析結果が得られる。すなわち、本実施の形態は、従来、全波長を走査して、あるいは、膨大な数の狭帯域のフィルタを介して、蛍光指紋を計測しなければならなかった従来の判別手法を改善して、目的とする情報が得られる部分をカバーする広帯域の光学フィルタで必要な計測を劇的に簡素化するとともに、計測時間の短縮と、イメージングへの展開を容易に可能にするものである。
【0041】
なお、本実施の形態では、走査によって測定窓の内部の蛍光強度分布を得る必要はなく、測定窓全面における蛍光強度が得られればよい。例えば、測定窓に相当する最低一組の光学フィルタ(励起波長側判別フィルタおよび蛍光波長側判別フィルタの組み合わせ)を用いることにより、デジタルではなくアナログで測定窓全面における蛍光強度を簡易な機構で取得することができる。なお、測定窓の位置(中心波長)およびサイズ(帯域幅)は、任意ではなく、以下に一例として示すように目的の情報が得られる範囲を適切に設定する必要がある。ここで、図2は、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の一例を示すフローチャートである。
【0042】
図2に示すように、まず、励起波長帯域および蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせを設定する(ステップSA−1)。なお、組み合わせの数や帯域は、任意に設定してもよく、例えば乱数表に基づいてランダムに設定してもよく、利用者に設定させてもよく、また、所定の初期値を用いてもよい。ここで、励起光波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせのうち少なくとも1つ以上は、通常の狭帯域の干渉フィルタの半値幅(約10nm)よりも明らかに広い広帯域の波長帯域であってもよい。
【0043】
そして、予め蛍光分光光度計等を用いて蛍光分光法によって測定された蛍光指紋情報に基づいて、ステップSA−1において設定された励起波長帯域および蛍光波長帯域で得られる蛍光強度を算出する(ステップSA−2)。ここで、蛍光指紋情報は、図1に参照される上述した蛍光指紋に関する情報であり、評価値が既知の複数の評価対象について予め取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の分布を示す情報である。一例として、蛍光指紋情報は、例えば200nm〜900nmの広域波長範囲など所定の励起波長範囲及び所定の蛍光波長範囲において、評価対象に照射する励起波長を開始励起波長に固定し、測定する蛍光波長を連続的に変化させて評価対象から発生する蛍光強度のスペクトル情報(蛍光スペクトル)を測定する。順次、励起波長を変化させて、同様に蛍光スペクトルを取得し、全ての励起波長範囲にわたり蛍光スペクトルを測定することにより蛍光指紋を取得することができる。
【0044】
ここで、評価値は、評価対象を、判別、検知、または、定量するための値等であり、例えば、2群判別における「0」か「1」の判別値や、濃度等の定量値等であってもよい。また、蛍光強度の算出方法の一例として、蛍光指紋情報に対して、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度を積分することにより、励起波長帯域および蛍光波長帯域における蛍光強度を算出してもよい。なお、評価対象は、蛍光特定により評価する対象である任意の試料であり、一例として、食品や、材料や、路面等であってもよい。
【0045】
そして、ステップSA−2において算出された蛍光強度および評価値を変数として、当該評価値を求めるための推定式の候補を取得する(ステップSA−3)。ここで、推定式の取得方法として、蛍光強度を説明変数とし、評価値を目的変数として、多変量解析(重回帰分析、PLS回帰分析、判別分析、主成分分析、因子分析、クラスター分析など)により推定式を取得してもよい。例えば、最小自乗法等を用いて、蛍光強度に対する評価値の検量線を作成してもよい。
【0046】
そして、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップSA−4)。例えば、終了条件は、所定の回数上述した処理が繰り返された場合であってもよく、誤差が所定の範囲内の推定式が得られた場合であってもよく、利用者により終了を指定された場合であってもよい。
【0047】
終了条件を満たさない場合(ステップSA−4,No)、ステップSA−1に処理を戻し、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上述したステップSA−1〜SA−4の処理を繰り返し実行する。なお、組み合わせの数や帯域は、ステップSA−1と同様に任意に再設定してもよいが、繰り返し過程において、遺伝的アルゴリズムやシミュレーテッドアニーリング法等の公知の最適化手法を用いて再設定を行ってもよい。
【0048】
一方、終了条件を満たした場合(ステップSA−4,Yes)、得られた候補推定式の中から、評価対象の評価値を求めるための最適な推定式を得るとともに、当該最適な推定式が得られた条件の励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを決定する(ステップSA−5)。例えば、複数の候補推定式のうち、当該推定式で得られる評価値(推定値)と既知の評価値(実測値)との誤差が少ないものを、最適な推定式として取得してもよい。
【0049】
以上が、本実施の形態における判別フィルタ設計方法の一例である。なお、判別フィルタ設計方法の更に詳しい具体例については、以下に詳述する。
【0050】
[II.シミュレーション装置および判別装置]
次に、本実施形態におけるシミュレーション装置および判別装置の構成の一例について、図3〜図5を参照して以下に説明する。なお、本実施の形態におけるシミュレーション装置は、前述の判別フィルタ設計方法を実行するコンピュータ等の装置であり、本実施の形態における判別装置は、前述の判別フィルタ設計方法により決定された励起波長帯域および蛍光波長帯域を透過させる判別フィルタセット(光学フィルタ)を測定部に実装し、それぞれの波長条件から測定される蛍光強度から、短時間に高精度で評価対象を判別、検知、または定量するための装置である。ここで、図3は、本実施の形態におけるシミュレーション装置111の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分を概念的に示している。
【0051】
図3に示すように、シミュレーション装置111は、概略的に、本実施の形態において、記憶部116と、全体を統括的に制御するCPU等の演算部112を備える。
【0052】
記憶部116に格納される各種のデータベースやテーブル(蛍光指紋ファイル116a、および、候補推定式ファイル116b)は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部116は、各種処理に用いる各種のプログラム、テーブル、ファイル、データベース等を格納する。
【0053】
これら記憶部116の各構成要素のうち、蛍光指紋ファイル116aは、評価値が既知の複数の評価対象についての、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報を記憶する蛍光指紋情報記憶手段である。ここで、蛍光指紋ファイル116aに記憶される蛍光指紋情報は、外部の蛍光分光光度計において測定された情報であってもよく、USBメモリ等の外部記憶装置やインターネット等を介して外部機器(遠隔地にある蛍光分光光度計等)から蛍光指紋情報を取得してもよい。
【0054】
記憶部116は、予め設定された励起波長範囲(図1の例では、200nm〜400nm)、蛍光波長範囲(図1の例では、200nm〜800nm)、波長ピッチ(例えば、20nm間隔)で、蛍光分光光度計等により計測された、評価値が既知の複数の評価対象の蛍光指紋のデータファイルが蓄積されている。すなわち、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、評価対象物における全ての波長条件の組み合わせに対して蛍光強度を測定して、蛍光指紋情報を取得する。すなわち、既存の分光蛍光光度計により、励起波長(例えば、計測波長範囲をデータ取得間隔で除したm個の波長条件)と、蛍光波長(例えば、計測波長範囲をデータ取得間隔で除したn個の波長条件)の組み合わせを変えながら、合計m×n通りの波長条件で、評価対象物の蛍光強度を取得する。なお、図1を参照した上記列挙した設定例に従えば、20×30=600波長条件の蛍光強度が得られる。ここで、測定者は、計測回数(例えば、各試料につき3回)を調整してもよい。
【0055】
このように、波長条件を変更しながら、測定された蛍光強度情報は、波長条件と対応付けられて蛍光指紋ファイル116aに格納される。ここで、得られた蛍光指紋情報に対し、ノイズ(例えば、励起光の散乱光、その2次光、3次光等)を除去し必要な情報を抽出するデータ前処理を行ってもよい。例えば、蛍光波長が励起波長よりも短い範囲のデータを除去してもよい。これは、評価対象物が発する蛍光波長は励起波長より長波長であるので、励起波長より長波長の蛍光波長の蛍光強度データのみを解析するための処理である。なお、励起光源の輝度値が低い領域(例えば、励起波長240nm以下)のデータと、蛍光と検出器の感度が低い領域(例えば、蛍光波長800nm以上)のデータを削除してもよい。以上が、蛍光指紋情報の取得方法の一例である。
【0056】
候補推定式ファイル116bは、推定式取得部112cによって取得された候補推定式(判別式や検量線など)を記憶する候補推定式記憶手段である。ここで、候補推定式ファイル116bは、候補推定式に対応付けて、波長帯域設定部112aにより設定された励起波長帯域および蛍光波長帯域を記憶してもよい。
【0057】
また、図3において、演算部112(波長帯域設定部112a〜最適化部112d)は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、演算部112は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。演算部112は、機能概念的に、波長帯域設定部112a、蛍光強度算出部112b、推定式取得部112c、および、最適化部112dを備える。
【0058】
このうち、波長帯域設定部112aは、励起波長帯域および蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせを設定する波長帯域設定手段である。なお、波長帯域設定部112aにより設定される励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせの数は、大きくなるほど変数が増えて推定式が複雑になり処理時間が長くなるとともに未知試料に対する推定精度が低下するので、所定の数(上限数など)に制限してもよい。なお、繰り返し過程において、波長帯域設定部112aは、励起波長帯域および蛍光波長帯域を総当り式で設定してもよく、遺伝的アルゴリズムやシミュレーテッドアニーリング法等の公知の最適化手法によって設定してもよい。ここで、波長帯域設定部112aは、設定する励起光波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせのうち少なくとも1つ以上は、通常の狭帯域の干渉フィルタの半値幅(約10nm)よりも明らかに広い広帯域の波長帯域であってもよい。
【0059】
また、蛍光強度算出部112bは、蛍光指紋ファイル116aに記憶された蛍光指紋情報に基づいて、波長帯域設定部112aにより設定された励起波長帯域および蛍光波長帯域で得られる蛍光強度をシミュレーションで算出する蛍光強度算出手段である。例えば、蛍光強度算出部112bは、蛍光指紋情報に対して、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度を積分することにより、励起波長帯域および蛍光波長帯域における蛍光強度を算出する。一例として、蛍光強度算出部112bは、蛍光指紋情報に基づいて、設定された励起波長帯域内および蛍光波長帯域内の全ての波長条件の蛍光強度を積算することにより、励起波長帯域および蛍光波長帯域で得られる蛍光強度を取得してもよい。
【0060】
また、推定式取得部112cは、蛍光強度算出部112bにより算出された蛍光強度、および、当該蛍光強度を測定した評価対象の既知の評価値を変数として、当該評価値を求めるための推定式を取得する推定式取得手段である。一例として、推定式取得部112cは、蛍光強度を説明変数とし、評価値を目的変数として、多変量解析等により推定式を取得してもよい。多変量解析は、一例として、重回帰分析、PLS回帰分析、重回帰分析、判別分析、主成分分析、因子分析、クラスター分析等であってもよい。例えば、最小自乗法等を用いて、蛍光強度に対する評価値の検量線を作成してもよい。
【0061】
また、最適化部112dは、波長帯域設定部112aにより励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを再設定させながら、蛍光強度算出部112bおよび推定式取得部112cによる処理を繰り返し実行させることにより、評価対象の評価値を求めるための適切な推定式を得るとともに、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを決定する最適化手段である。例えば、最適化部112dは、推定式取得部112cにより取得された複数の候補推定式のうち、既知の評価値との誤差が最も少ないものを、最適な推定式として取得してもよい。なお、これに限られず、最適化部112dは、誤判別率などの推定式評価値を用いたり、未知試料に対する推定精度も考慮して候補推定式から適切な推定式を選択したり、あるいはこれら複数の基準を考慮して決定してもよい。ここで、最適化部112dにより制御される、波長帯域設定部112aと蛍光強度算出部112bと推定式取得部112cによる繰り返し処理は、所定の回数であってもよく、所定の終了条件を満たした場合(誤差が所定の範囲内の推定式が得られた場合など)に終了してもよい。
【0062】
以上は、本実施の形態の判別フィルタ設計方法を実行するシミュレーション装置111の各部の機能である。以下に、本実施の形態の測定部110と接続された判別装置100の各部について説明する。ここで、図4は、本実施形態の判別装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分を概念的に示している。
【0063】
図4に示すように、判別装置100は、概略的に、本実施の形態において、全体を統括的に制御するCPU等の制御部102と、記憶部106と、測定部110と、入力装置113と、出力装置114からなる。また、入出力制御インターフェース部108は、測定部110や入力装置113や出力装置114に接続されるインターフェースである。
【0064】
また、図4において、入出力制御インターフェース部108は、測定部110や入力装置113や出力装置114の制御を行う。ここで、出力装置114としては、モニタ(家庭用テレビを含む。)の他、スピーカを用いることができる(なお、以下においては出力装置114をモニタとして記載する場合がある)。また、入力装置113としては、測定条件等を入力するための、キーボード、マウス、およびマイク等を用いることができる。また、測定部110は、評価対象の蛍光強度を測定する装置であり、光源や検出器を含み、分光器には、判別フィルタ設計方法で求められた励起波長帯域、蛍光波長帯域の透過特性を持った判別フィルタが組み込まれている。ここで、図5は、測定部110の構成の一例を示すブロック図である。
【0065】
図5に示すように、測定部110は、分光照明部11および分光検出部12を備える。分光照明部11は、評価対象物13に、所定の励起波長帯域の励起光を照射して評価対象物13の成分から蛍光を生じさせる装置である。分光照明部11は、照射する励起波長帯域を変更する励起波長帯域可変手段を有してもよい。図示の如く、分光照明部11は、光源11a、分光器11bを備える。
【0066】
分光照明部11の光源11aとしては、白色光を発するキセノンランプ、タングステンランプ、波長可変レーザー等を用いることができる。光源11aから発した光は、例えば、紫外から可視領域までの広い波長帯からなり、分光器11bにおいて、所定の波長帯域を有する励起光に分光される。測定者は、励起波長帯域可変手段で調節することにより、励起光を任意の波長帯域に設定することができる。光源11aとして波長可変レーザーを用いる場合、直接光源11aから所望の波長帯域を有する励起光が得られるので、分光器11bは不要である。
【0067】
分光器11bとしては、例えば、所定の励起波長帯域を透過させる、バンドパスフィルタ(BPF、干渉フィルタ)、AOTF(Acoustic Optical Tunable Filter)、液晶チューナブルフィルタ、回折格子などを用いることができる。また、光源11aと分光器11bとを一体化したLED光源、DLP光源等を用いてもよい。なお、波長帯域を幅広く選べる組み合わせは、キセノン光源にバンドパスフィルタであり、本発明の分光目的としては最適であるが、これに限るものではない。
【0068】
分光検出部12は、所定の蛍光波長帯域において、評価対象物13の蛍光強度を取得し、蛍光強度情報を判別装置100に送信する装置である。分光検出部12は、評価対象物13が発した蛍光のうち、特定の蛍光波長帯域を分光器を介して選択的に捕えて、蛍光強度を計測する。分光検出部12は、観測する蛍光波長帯域を変更する蛍光波長帯域可変手段を有する。また、分光検出部12は、分光器12a、検出器12bを備える。
【0069】
励起光を照射することにより、測定対象物13が発した蛍光は、分光器12aにより所定の波長を有する光に分光される。分光器12aは、観測する蛍光波長帯域を設定する手段を有する。分光器12aとしては、例えば、所定の蛍光波長帯域を透過させる、バンドパスフィルタ(BPF、干渉フィルタ)、AOTF(Acoustic Optical Tunable Filter)、液晶チューナブルフィルタ、PGP(プリズム・グレーティング・プリズム)、回折格子などを用いることができる。なお、波長帯域を幅広く、低コストで選べる分光器は、バンドパスフィルタであり、本発明の分光目的としては最適であるが、これに限るものではない。
【0070】
分光器12aを通過することにより、測定対象物13が発した蛍光のうち所定の波長帯域を有する光の強度が検出器12bにて検出される。照射する励起波長帯域および観測する蛍光波長帯域は、判別フィルタ設計方法で算出した組み合わせであり、これらを手動または自動で、測定者が任意に設定することができる。好ましくは、測定部110は、励起波長帯域、蛍光波長帯域を自動的に変更する手段を有する。
【0071】
なお、分光器11b,12aは、蛍光指紋を測定する場合には、狭帯域の光を透過させる液晶チューナブルフィルタや回折格子等を使用し、一方、判別フィルタ設計方法で決定した波長帯域に従って本実施の形態による測定と評価を行う場合には、広帯域の光を透過させる干渉フィルタ(光学フィルタ)等を使用してもよい。
【0072】
図4において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、判別フィルタ設定部102e、蛍光測定部102f、実行制御部102g、および、推定演算部102hを備える。
【0073】
判別フィルタ設定部102eは、判別フィルタ設計方法で決定された所定の励起波長帯域の光を透過させる励起波長側判別フィルタと、所定の蛍光波長帯域の光を透過させる蛍光波長側判別フィルタと、を設定する判別フィルタ設定手段である。なお、判別フィルタ設計方法で決定された励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせが複数ある場合は、判別フィルタ設定部102eは、1組ずつ設定を行う。
【0074】
また、蛍光測定部102fは、判別フィルタ設定部102eにより設定されたフィルタの組み合わせにて、測定部110を介して、評価対象に励起波長帯域の光を照射し、当該評価対象から測定される蛍光波長帯域の蛍光強度を取得する蛍光測定手段である。
【0075】
また、実行制御部102gは、励起波長帯域および蛍光波長帯域の1つの組み合わせ毎に、判別フィルタ設定部102eおよび蛍光測定部102fの処理を1回実行させる実行制御手段である。
【0076】
また、推定演算部102hは、蛍光測定部102fで測定された蛍光強度および評価対象の評価値を変数として当該評価値を求めるための推定式を求める推定式算出手段、および、その推定式に、蛍光測定部102fにより得られた蛍光強度を代入することにより、評価値を算出する評価値算出手段である。更に、推定演算部102hは、評価結果(評価値の算出結果等)を、記憶部106に格納してもよく、モニタ等の出力装置114に表示出力してもよく、また、プリンタ等の出力装置114に印刷出力してもよい。
【0077】
以上が、判別装置100の各部の説明である。
【0078】
[III.シミュレーション装置111において実行される判別フィルタ設計方法]
つづいて、本実施の形態における、シミュレーション装置111において実行される判別フィルタ設計方法の一例について、図6〜図14を参照して以下に説明する。ここで、図6は、本実施の形態のシミュレーション装置111において実行される判別フィルタ設計方法の一例を示すフローチャートである。
【0079】
図6に示すように、まず、波長帯域設定部112aは、少なくとも1組の判別フィルタセットのフィルタ特性を設定する(ステップSB−1)。ここで、図7は、1組の判別フィルタセットのフィルタ特性を蛍光指紋上に示した図である。図7に示すように、ここで示すフィルタ特性とは、励起波長帯域および蛍光波長帯域から構成される、測定窓の位置およびサイズである。波長帯域設定部112aは、初期値として、予め設定された値をフィルタ特性に設定してもよく、乱数表等に基づいて任意に設定してもよく、あるいは、利用者に入力装置(図示せず)を介して設定させてもよい。また、波長帯域設定部112aは、利用者に入力装置を介して、励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせの数を指定させてもよい。これにより、波長帯域設定部112aは、指定された組み合わせの個数で、フィルタ特性を設定することにより、処理時間を抑えることができる。実際には、初期値の違いによる結果の偏りを避けるために、対象波長範囲と測定窓の個数等を初期値として、網羅的に波長帯域の設定を効率良く自動的に変化させるようなアルゴリズムが組まれることが多い。
【0080】
そして、蛍光強度算出部112bは、蛍光指紋ファイル116aに記憶された蛍光指紋のスペクトルから、波長帯域設定部112aにより設定されたフィルタ特性におけるセンサ出力に変換する(ステップSB−2)。ここで、図8は、試料スペクトルからフィルタ特性に基づいてセンサ出力に変換する方法を模式的に示した図である。なお、λは、波長を表している。
【0081】
図8aに示すように、蛍光強度算出部112bは、蛍光指紋ファイル116aに記憶された、波長条件毎に得られた蛍光強度の試料スペクトルS(λ)において、図8bに示すように、波長帯域設定部112aによって設定された、光学フィルタの透過特性T(λ)に基づいて、測定窓の位置(中心波長)とサイズ(帯域幅)を合わせる。なお、この例では、透過率は、透過帯域で100%、非透過帯域で0%としているが、光学フィルタの特性に合わせて任意に設定してもよい。そして、図8cに示すように、蛍光強度算出部112bは、測定窓の範囲の蛍光強度の積分値(図の斜線の面積)をセンサ出力Oとして算出する。すなわち、蛍光強度算出部112bは、試料スペクトルS(λ)から、設定されたフィルタ特性に従った波長帯域内の蛍光強度を積算することで、仮想的にその波長帯域フィルタを透過したセンサ出力Oに変換する。
【0082】
再び図6に戻り、推定式取得部112cは、蛍光強度算出部112bにより算出された蛍光強度のセンサ出力から、評価値を推定するための推定式を作成する(ステップSB−3)。なお、蛍光指紋ファイル116aは、各蛍光指紋について評価値を記憶しているので、推定式取得部112cは、既知の評価値とセンサ出力を変数として、センサ出力から評価値を求める推定式を作成する。例えば、推定式取得部112cは、蛍光強度のセンサ出力に対する評価値を求める検量線等の関係式を重回帰分析等により作成してもよい。そのほか、推定式取得部112cは、蛍光強度を説明変数とし、評価値を目的変数として、多変量解析により推定式を取得してもよい。なお、推定式取得部112cは、作成したさまざまな波長帯域(すなわち測定窓)による推定式をフィルタ特性に対応付けて、候補推定式ファイル116bに格納してもよい。
【0083】
そして、最適化部112dは、推定式取得部112cにより作成された得られた推定式の評価を行う(ステップSB−4)。例えば、最適化部112dは、候補推定式に蛍光強度のセンサ出力を代入して算出した評価値(推定値)と、既知の評価値(実測値)との誤差を取得することにより、評価を行ってもよい。また、未知試料(推定式の作成に利用されなかった評価対象)に対しての推定精度も加えて、両者のバランスがとれていることで、評価を行ってもよい。このほか、最適化部112dは、誤判別率などの公知の推定式評価手法を用いて候補推定式を評価してもよい。
【0084】
そして、最適化部112dは、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップSB−5)。例えば、最適化部112dは、候補推定式の評価結果が所定の条件の場合に、終了条件を満たすと判定してもよい。一例として、最適化部112dは、誤差や未知試料の推定精度が所定の範囲内である場合や、公知の最適化手法による繰り返し過程において最適解に収束したと判定した場合に、終了条件を満たすと判定してもよい。
【0085】
終了条件を満たさないと判定した場合(ステップSB−5,No)、最適化部112dは、ステップSB−1に処理を戻し、フィルタ特性を再設定させながら、上述したステップSB−1〜SB−5の処理を繰り返し実行させる。ここで、波長帯域設定部112aは、繰り返し過程において、遺伝的アルゴリズムやシミュレーテッドアニーリング法等の公知の最適化手法を用いてフィルタ特性の再設定を行ってもよい。
【0086】
一方、終了条件を満たすと判定した場合(ステップSB−5,Yes)、最適化部112dは、最適な推定式が得られたフィルタ特性を選択する(ステップSB−6)。なお、終了条件が、誤差や誤判定率が所定の範囲内である場合や、公知の最適化手法による繰り返し過程において最適解に収束したと判定した場合では、最適な推定式は、最後に得られた候補推定式である。終了条件が、繰り返し回数等の場合は、最適化部112dは、候補推定式の中から、誤差や誤判定率等の推定式評価値に基づいて、最適な推定式を選択してもよい。
【0087】
以上が本実施の形態における判別フィルタ設計方法を実現するシミューレーションプログラム(要番号)の一例である。
【0088】
[IV.実施例1]
ここで、上述した実施の形態の判別フィルタ設計方法(シミュレーションプログラム)を適用した実施例1について、以下に図9〜図14を参照して説明する。
【0089】
本実施例1においては、評価対象物としてヨーグルトを用いて、そのリボフラビン含有量を推定するために適切な推定式と判別フィルタ特性を求めることを目的とした。なお、評価対象物は、42サンプルを用いて、事前にそれぞれの蛍光指紋データ(225波長条件=励起側15波長条件×蛍光側15波長条件)を取得した。また、既知の評価値として、AOAC(Association of Official Analytical Chemists)公定法に基づいて、リボフラビン定量を行った。ここで、蛍光指紋の測定条件は、以下の通りである。
・計測波長範囲:励起波長250〜550nm/蛍光波長300〜600nm
・データ取得間隔:20nm
・計測回数:各試料3回
【0090】
以上の条件で測定した、リボフラビン含有量既知の蛍光指紋データを用いて、上述した実施の形態の判別フィルタの設計を実行した。なお、候補推定式の取得方法として重回帰分析を用いて、そのうち最適な推定式とフィルタ特性を決定した。図9は、測定窓の数を2つに設定した場合(推定式:Y=aW+bW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。また、図10は、測定窓の数を3つに設定した場合(推定式:Y=aW+bW+cW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。また、図11は、測定窓の数を4つと設定した場合(推定式:Y=aW+bW+cW+dW)に得られた、係数と測定窓の位置およびサイズを蛍光指紋上に示した図である。なお、測定窓1つは、励起側フィルタ1枚と蛍光側フィルタ1枚の組み合わせに対応する。ここで、推定式において、Yは、リボフラビン含有量を表し、W1〜4は、その測定窓1〜4で得られる蛍光強度を表し、a〜dは、その係数である。なお、係数1,2,3,4は、W,W,W,Wの係数であり、それぞれa,b,c,dを示している。
【0091】
図9〜図11に示すように、測定窓は、蛍光指紋の特徴的な部分に設定されることがわかる。ここで、測定窓は、蛍光強度の低い位置にも設定されているが、そのような測定窓の係数は、負の数になっているので(図9の係数1等)、バックグラウンドを除去する効果があると思われる。また、図10では、測定窓1と測定窓2の範囲が重複し、図11では、更に、測定窓3と測定窓4の範囲が重複している。このように、測定窓同士が入れ子状になっているのは、外側の測定窓が、内側の測定窓を補正する役割があると思われる。例えば、図10において、外側の測定窓1の係数1は負の数であり、内側の測定窓2の係数2は正の数になっており、内側の測定窓の蛍光強度を補正している。換言すると、シミュレーション設計された判別フィルタの特徴的なこととして、一方の判別フィルタの透過帯域が、他方の判別フィルタの透過帯域に含まれることがある。このような判別フィルタの組を用いることで試料の判別を適切に行なえるのは、透過帯域の広いほうの判別フィルタが、外乱要因の影響を除去するための正規化フィルタとして機能し、透過帯域の狭いほうの判別フィルタが、識別対象が精度よく分離された波長を通す識別フィルタとして機能するからである。
【0092】
つづいて、図9〜図11のそれぞれの場合に得られた推定式の推定結果について検討した。図12は、測定窓の数を2つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。図13は、測定窓の数を3つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。図14は、測定窓の数を4つに設定した場合に得られた推定式による予測値を縦軸に、AOAC公定法による実測値を横軸に示したグラフである。ここで、グラフ中の点は、評価対象物の1サンプルを示し、全部で42サンプルが示されている。また、Rは、相関係数の二乗であり、回帰分析の精度(寄与率)を表す。また、RMSECVは、交差検定法の根平均二乗誤差(Root−Mean−Square Error of Cross−Validation)である。なお、参考として、蛍光指紋データの全波長条件を用いてPLS回帰分析を行った結果得られた推定式では、R=0.97であり、RMSECV=0.092であった。
【0093】
図12〜図14に示すように、測定窓の数がいずれの場合でも、全波長条件を用いた従来法による解析と同程度かそれ以上の精度の推定式が得られた。特に、測定窓3以上の場合では、従来法の推定式よりもRが高く、推定式が実測値をよく表現していることが示された。更に、測定窓3つ以上の場合では、従来法の推定式よりも誤差が少なく、精度がよいことが示された。
【0094】
以上のように、測定窓の波長帯における蛍光強度により推定を行うと、従来の蛍光指紋の全波長条件を用いた解析手法と同程度以上の精度が得られることが、本実施例1によって示された。
【0095】
[V.判別装置の実施例]
つづいて、本実施の形態における判別装置100の実施例について、図15〜図17を参照して以下に説明する。ここで、図15は、本実施の形態における判別装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0096】
図15に示すように、まず、判別フィルタ設定部102eは、所定の励起波長帯域の光を透過させる励起波長側判別フィルタを測定部110の分光器11bに設定し、所定の蛍光波長帯域の光を透過させる蛍光側判別フィルタを測定部110の分光器12aに設定する(ステップSC−1)。ここで、設定するフィルタは、上述した実施の形態の判別フィルタ設計方法に従って決定されたフィルタ特性を有する。なお、測定窓の数が複数ある場合(励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせが複数ある場合)は、判別フィルタ設定部102eは、1組ずつ設定を行う。ここで、図16は、判別フィルタ設定部102eによりフィルタ設定される測定部110の一例を示す図である。
【0097】
図16に示すように、この例では、試料13−1の1点測定のため、測定部110−1は、分光照明部11の光源11aとして小型光源11a−1、励起波長可変手段を有するフィルタ切替器11b−1、励起光を試料13−1側に照射し、試料13−1からの蛍光を入射させる同軸光ファイバー10−1、蛍光波長可変手段を有するフィルタ切替器12a−1、および、蛍光強度を検出する検出器12b−1を備える。フィルタ切替器11b−1,12a−1には、上記フィルタ特性を有するフィルタが備えられており、判別フィルタ設定部102eからの制御により、切替可能に構成される。
【0098】
このように構成することで、分光器11b−1において所定の励起波長帯域の励起光は、同軸光ファイバー10−1を経由して励起光照射部に送られ、励起光照射部から測定対象物である試料13−1に照射される。そのため、試料13−1は、成分特有のパターンの蛍光を発する。これにより、モノクロメータ等を用いて蛍光指紋を測定するための波長走査が不要になり、測定部110を簡易化・小型化できるとともに測定の迅速化が実現できる。ここで、図17は、判別フィルタ設定部102eによりフィルタ設定される測定部110の他の例(イメージング測定)を示す図である。
【0099】
この例では、試料13−2のイメージング測定のため、測定部110−2は、紫外線光源11a−2、励起波長可変手段を備えたバンドパスフィルタ11b−2、励起光が照射された試料13−2からの蛍光を結像させるための対物レンズ10−2、蛍光波長可変手段を有するバンドパスフィルタ12a−2、および、画素に対応付けた蛍光強度のイメージングを行うモノクロCCDカメラ12b−2を備える。
【0100】
このように構成することで、分光器11b−2において所定の励起波長帯域の励起光は、励起光照射部に送られ、励起光照射部から測定対象物である試料13−2に照射される。そのため、試料13−2は、成分特有のパターンの蛍光を発する。対物レンズ10−2により、試料13−2の画像を撮影に適したサイズに変換し、所定の蛍光波長帯域の蛍光のみがモノクロCCDカメラ12−2に捉えられ、蛍光強度を表す各画素値に基づくモノクロ画像に変換される。すなわち、モノクロ画像の各画素の明度から、試料13−2上の各測定箇所における蛍光強度が判明する。したがって、試料13−2上の全ての点(画素)において、特定の励起波長および蛍光波長における蛍光強度を、一度に測定することが可能となる。試料13−2上の各点においてn波長条件の蛍光強度を取得する場合は、励起波長帯域および蛍光波長帯域の組み合わせを変えながらn枚の蛍光画像を撮影する。バンドパスフィルタ11b−2,12a−2は、上記所定のフィルタ特性を有し、各波長可変手段は、判別フィルタ設定部102eからの制御に従って、フィルタを切替えることができる。所定のフィルタ特性を有するバンドパスフィルタを使用することで、光学フィルタの枚数を減らし、精度の向上を図ることができる。
【0101】
再び図15に戻り、判別フィルタ設定部102eにより設定されたフィルタセットで、測定部110を介して、評価対象からの蛍光の蛍光強度を測定する(ステップSC−2)。例えば、測定部110によって撮影されたn枚の蛍光画像の画像情報は、判別装置100に転送される。
【0102】
そして、実行制御部102gは、測定を終了するか否かを判定する(ステップSC−3)。例えば、実行制御部102gは、励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせが複数ある場合、全ての判別フィルタセットを設定したか否かを判定する。
【0103】
測定を終了しないと判定した場合(ステップSC−3,No)、実行制御部102gは、処理をステップSC−1に戻し、残りの判別フィルタセットを設定させ、上述したステップSC−1〜SC−3の処理を繰り返し実行させる。
【0104】
一方、測定を終了すると判定された場合(ステップSC−3,Yes)、推定演算部102hは、蛍光測定部102fにより得られた蛍光強度を所定の推定式に代入することにより、評価値を算出する(ステップSC−4)。なお、所定の推定式とは、推定演算部102hにより上述したフィルタ特性とともに予め評価値既知の評価対象とともに得られた最適な推定式である。また、推定演算部102hは、評価結果(評価値の算出結果等)を、記憶部106に格納してもよく、モニタ等の出力装置114に表示出力してもよく、また、プリンタ等の出力装置114に印刷出力してもよい。なお、測定部110によって撮影されたn枚の蛍光画像に基づいて各画素について評価値が算出された場合、評価値に対応した色や明度の画像を作成することができる。
【0105】
以上で、本実施の形態における判別装置100の実施例の説明を終える。
【0106】
[VI.判別フィルタ作成方法]
つづいて、判別フィルタ作成方法とその実施例(実施例2)について、図18〜図20を参照して以下に説明する。すなわち、上記実施の形態において適切な推定式とともに決定されたフィルタ特性(励起波長帯域と蛍光波長帯域の組み合わせ)を有する判別フィルタの作成方法の一例について説明する。
【0107】
特定の波長帯域を透過させるバンドパスの分光フィルタは、透明基材上に薄膜素材による多層膜を備えた多層膜光学フィルタによって実現できる。透明基材としては、一例として、ソーダ石灰ガラス、ほうけい酸ガラス、クラウンガラスなどの無機ガラスや、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリスルフォン系、ポリエステル系、セルロース系などの有機ガラスを用いることができる。
【0108】
多層膜を形成する薄膜材質の組み合わせとしては、多層膜を形成した場合に透過率を低減させることができる屈折率を備えたものならば特に限定されない。例えば、無機酸化物(チタン,亜鉛,ケイ素,鉄などの酸化物またはそれらを複数含む複合酸化物)、無機ハロゲン化物(マグネシウム,ナトリウム,アルミニウムなどのハロゲン化物)、単体金属(ケイ素,金,銀,銅,ニッケルなどの単体またはそれらを複数含む混合帯)が使用できる。目的のフィルタ特性に応じて、これらの材質の薄膜を積層させる。
【0109】
多層膜を成形する方法は、汎用の薄膜形成技術を用いることができ、例えば真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法などにより形成できる。ここで、図18は、本実施例にて作成する理想のフィルタのフィルタ特性を示す図である。横軸は、波長を表し、縦軸は、透過率を表す。
【0110】
理論設計されたバンドパスフィルタは、図18に示すような透過特性である。一方のフィルタFilter1の波長帯域は、他方のフィルタFilter2の波長帯域を含む入れ子状となっている。これらフィルタ特性を実現するため、白板ガラスB270上に、SiO2,TiO2の交互層により多層膜を形成し、分光フィルタを作成した。層数はそれぞれ、ハイパスフィルタ(Filter1)が片面コーティング35層、バンドパスフィルタ(Filter2)が両面コーティング35層ならびに27層である。なお、薄膜形成にはイオンアシスト法を使用した。図19は、本実施例にて作成した2枚のフィルタのフィルタ特性を示す図である。フィルタ特性は、分光光度計で実測した透過特性である。Theoretical Filterは、設計すべき理想のフィルタ特性を示し、Optical Filterは、実際に作成したフィルタのフィルタ特性を示す。
【0111】
図19に示すように、2枚のフィルタとも、ほぼ理想のフィルタ特性を実現している。なお、高波長側で、理想のフィルタ特性よりも高い透過率がみられるが、これはカメラの性質を利用することで、検出しないように設定可能である。すなわち、この実例では、Filter1は、カメラの感度制限を利用し、設計通りのフィルタを必要とせず、ハイパスフィルタで代用することができた。
【0112】
すなわち、フィルタを装着する予定の近赤外カメラの感度が1700nmまでのため、1700nm以上の透過光はセンシングされないため精度に影響しないので、Filter1は、ハイパスフィルタとして製作した。ここで、図20は、氷・水膜を形成させた黒色アスファルトを撮影したカラー画像(左図)と、Xenics社製の近赤外カメラXSVA XS FPA−1.7−320(商品名)に製作したフィルタを装着して計測した氷・水判別結果画像(右図)を示す図である。また、上が凍結状態の試料であり、下が湿潤状態の試料である。凍結状態であると判断された画素をグレー、湿潤状態であると判断された画素を黒で表わしている。なお、判別の正答率(Correct Rate)は、各アスファルトサンプルの判別ピクセル数から計算し、90.28%であった。
【0113】
図20に示すように、作成したフィルタを用いて、濡れたアスファルトか凍っているアスファルトかを判別することができた。なお、この実験例では、照射は白色光をあてており、照射側のフィルタリングを必要としていない。すなわち、蛍光指紋で判別しているのではなく、蛍光波長軸だけのデータを使って吸収スペクトルで判別している事例である。しかしながら、この実施例によって、理想とするフィルタ特性を有するフィルタを製作することができることが確かめられた。
【0114】
[VII.他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0115】
例えば、本実施形態において、推定式取得方法の一例として重回帰分析を挙げたが、これらに限定されず、あらゆる統計解析処理を行ってもよい。例えば、統計解析処理を、多変量解析またはデータマイニングにより行ってもよい。また、多変量解析またはデータマイニングを、データ構造分析、判別分析、パターン分類、多次元データ解析、回帰分析および学習機械のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、データ構造分析を、主成分分析、因子分析、対応分析および独立成分分析のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、判別分析を、線形判別分析または非線形判別分析の手法を用いて行ってもよい。また、パターン分類を、クラスター分析または多次元尺度法で行ってもよい。また、学習機械は、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、自己組織化マップ、集団学習および遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つの手法を用いていってもよい。
【0116】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0117】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0118】
また、判別装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0119】
例えば、シミュレーション装置111および判別装置100の各装置が備える処理機能、特に演算部112および制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する、コンピュータに本発明に係る方法を実行させるためのプログラム化された命令を含む、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されており、必要に応じて判別装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどの記憶部116および記憶部106などは、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して演算部および制御部を構成する。
【0120】
また、このコンピュータプログラムは、判別装置100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0121】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0122】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0123】
記憶部116および記憶部106に格納される各種のデータベース等(蛍光指紋ファイル116aおよび候補推定式ファイル116b等)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラムやテーブルやデータベースやウェブページ用ファイル等を格納する。
【0124】
また、シミュレーション装置111および判別装置100は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、判別装置100は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0125】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、蛍光特性により評価対象を評価するために、短時間に高精度な測定と解析を行うことができる、判別フィルタ設計方法、判別方法、判別フィルタセット、判別装置、および、プログラムを提供することができるので、光学、食品加工、製品検査、圃場、医療や製薬や創薬や基礎研究や臨床検査などの様々な分野において極めて有用である。
【0127】
特に、本発明は、非破壊、非接触で計測にも関わらず、評価対象を正確に評価することができるので、基礎研究領域や食品製造現場における検査などの様々な分野において広く使用することができる、非常に汎用性の高い手法である。また、本発明は、測定条件の絞込みにより測定時間短縮を行うことで、工場等での全数検査やリアルタイムモニタリングに応用することも可能である。また、本発明は、イメージング装置にも応用でき、装置を簡易化できるため、幅広く様々な成分分布の可視化装置の実用化に応用できる。
【符号の説明】
【0128】
11 分光照明部
11a 光源
11b 分光器
12 分光検出部
12a 分光器
12b 検出器
13 評価対象物
111 シミュレーション装置
112 演算部
112a 波長帯域設定部
112b 蛍光強度算出部
112c 推定式取得部
112d 最適化部
100 判別装置
102 制御部
102e 判別フィルタ設定部
102f 蛍光測定部
102g 実行制御部
102h 推定演算部
106 記憶部
116 記憶部
116a 蛍光指紋ファイル
116b 候補推定式ファイル
108 入出力制御インターフェース部
110 測定部
113 入力装置
114 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象を蛍光特性により評価するために適切な、当該評価対象に照射すべき励起波長帯域と、観測すべき蛍光波長帯域と、の組み合わせを決定する判別フィルタの設計方法であって、
上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせを設定する波長帯域設定工程と、
評価値が既知の複数の評価対象について予め広域波長範囲において蛍光分光法で取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度からなる蛍光指紋情報に基づいて、上記波長帯域設定工程にて設定された上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域で得られる蛍光強度をシミュレーションにより算出する蛍光強度算出工程と、
上記蛍光強度算出工程にて算出された上記蛍光強度および上記評価値を変数として、当該評価値を当該蛍光強度から推定するための推定式を取得する推定式取得工程と、
上記波長帯域設定工程にて上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上記蛍光強度算出工程および上記推定式取得工程を繰り返し実行させることにより、上記評価対象の上記評価値を求めるための適切な上記推定式が得るとともに、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記組み合わせから最も適切な推定式を決定する最適化工程と、
を含むことを特徴とする判別フィルタ設計方法。
【請求項2】
上記励起光波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせのうち、少なくとも1つ以上は、通常の狭帯域の干渉フィルタの半値幅よりも明らかに広い広帯域の波長帯域を持つことを特徴とする、請求項1に記載の判別フィルタ設計方法。
【請求項3】
上記評価値は、
上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする、請求項1または2に記載の判別フィルタ設計方法。
【請求項4】
上記推定式取得工程にて、
上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により上記推定式を取得することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の判別フィルタ設計方法。
【請求項5】
上記蛍光強度算出工程にて、
上記蛍光指紋情報に対して、上記各励起波長および上記各蛍光波長における上記蛍光強度を積分することにより、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域における上記蛍光強度を算出することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の判別フィルタ設計方法。
【請求項6】
上記最適化工程にて、
上記推定式取得工程にて取得された複数の上記推定式のうち、上記既知の上記評価値との誤差が少なく、かつ未知試料に対しても推定精度がよい、両者のバランスがとれているものを、上記適切な上記推定式として取得することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の判別フィルタ設計方法。
【請求項7】
評価対象を蛍光特性により評価する判別方法であって、
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の判別フィルタ設計方法により決定された、励起波長帯域の励起波長の光を透過させる励起波長側判別フィルタと、所定の蛍光波長帯域の蛍光波長の光を透過させる蛍光波長側判別フィルタと、を設定する判別フィルタ設定工程と、
上記評価対象に上記励起波長帯域の励起波長を照射し、当該評価対象から上記蛍光波長帯域の蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、
上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせにて、上記フィルタ設定工程および上記蛍光測定工程を、少なくとも1回実行させる実行制御工程と、
上記蛍光強度および上記評価対象の評価値を変数とした所定の推定式に、上記蛍光測定工程にて得られた上記蛍光強度を代入することにより、上記評価値を算出する推定演算工程と、
を含み、
上記推定式は、
上記評価値が既知の複数の評価対象の、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記判別フィルタの組み合わせにおける蛍光強度情報とともに、上記評価対象の上記評価値を求めるための適切な上記推定式として予め最適化されたこと、
を特徴とする判別方法。
【請求項8】
上記評価値は、
上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする、請求項7に記載の判別方法。
【請求項9】
上記推定式は、
上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により最適化されて取得されたものであることを特徴とする、請求項7または8に記載の判別方法。
【請求項10】
評価対象を蛍光特性により判別するための光学フィルタのセットであって、
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の判別フィルタ設計方法によって決定された励起波長帯域に近似させた光学特性を持つ励起側光学フィルタと、上記判別フィルタ設計方法によって決定された蛍光波長帯域に近似させた光学特性を持つ蛍光側光学フィルタと、の少なくとも1つの組み合わせであって、評価対象の判別・検知・定量をするための測定に用いることを特徴とする、判別フィルタセット。
【請求項11】
上記判別フィルタセットは、上記励起側光学フィルタは励起光源とともに、上記蛍光側光学フィルタは蛍光強度検出器とともに用い、その蛍光強度測定値により評価対象の評価値を推定するために使われることを特徴とする、請求項10に記載の判別フィルタセット。
【請求項12】
評価対象を蛍光特性により判別するために適切な、請求項10または11に記載の判別フィルタセットを光源および検出器の部分に具備した測定部と制御部を備えた判別装置であって、
上記制御部は、
上記判別フィルタセットにおける所定の組み合わせの、上記励起波長側判別フィルタと上記蛍光波長側判別フィルタと、を設定する判別フィルタ設定手段と、
上記評価対象に上記励起波長帯域の励起波長を照射し、当該評価対象から上記蛍光波長帯域の蛍光強度を測定する蛍光測定手段と、
上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つの組み合わせにて、上記フィルタ設定手段および上記蛍光測定手段による処理を、少なくとも1回実行させる実行制御手段と、
上記蛍光強度および上記評価対象の評価値を変数とした所定の推定式に、上記蛍光測定工程にて得られた上記蛍光強度を代入することにより、上記評価値を算出する推定演算手段と、
を備えたことを特徴とする判別装置。
【請求項13】
上記判別装置は、
上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする、請求項12に記載の判別装置。
【請求項14】
上記判別装置は、
上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析により上記評価値を推定するに最適な推定式が取得されていることを特徴とする、請求項12または13に記載の判別装置。
【請求項15】
評価対象を蛍光特性により評価するために適切な、当該評価対象に照射すべき励起波長帯域と、観測すべき蛍光波長帯域と、の組み合わせを決定するための、記憶部と演算部を備えたコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
上記記憶部は、
評価値が既知の複数の評価対象について予め蛍光分光法で取得された、広域波長範囲にわたる各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報の記憶領域、
を備え、
上記演算部において、
上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の少なくとも1つ以上の組み合わせを設定する波長帯域設定工程と、
評価値が既知の複数の評価対象について予め取得された、各励起波長および各蛍光波長における蛍光強度の蛍光指紋情報に基づいて、上記波長帯域設定工程にて設定された上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域で得られる蛍光強度を算出する蛍光強度算出工程と、
上記蛍光強度算出工程にて算出された上記蛍光強度および上記評価値を変数として、当該評価値を求めるための推定式を取得する推定式取得工程と、
上記波長帯域設定工程にて上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の組み合わせを再設定しながら、上記蛍光強度算出工程および上記推定式取得工程を繰り返し実行させることにより、上記評価対象の上記評価値を求めるための最適な上記推定式を得るとともに、上記励起波長帯域および上記蛍光波長帯域の上記組み合わせを決定する最適化工程と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項16】
上記評価値は、
上記評価対象を、判別、検知、または、定量するための値であることを特徴とする、請求項15に記載のプログラム。
【請求項17】
上記推定式取得工程にて、
上記蛍光強度を説明変数とし、上記評価値を目的変数として、多変量解析等により上記推定式を取得することを特徴とする、請求項15または16に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−108855(P2013−108855A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254438(P2011−254438)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】