説明

別個の真空チャンバを形成するためのパーティション

【課題】複数の真空チャンバを通過する質量分析計の構成要素への迅速で便利なアクセスを提供する。
【解決手段】ハウジング211に対して開放位置と閉鎖位置との間で移動可能なパネル209を備えた質量分析システム201。イオン光学系203の少なくとも一部がパネル209に対して取り付けられる。パネル209が閉鎖位置にある際に、ハウジング211がイオン光学系203を取り囲み、ハウジング211内の真空チャンバ221,223を分離させるガス障壁をパーティション215が形成する。パーティション215により形成されたガス障壁は、パネル209が開放位置へ移動した際に破られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の真空チャンバを有する質量分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、荷電粒子の質量対電荷比に基づいてサンプルの化学組成を識別する分析技術である。サンプルは、荷電粒子からなり、又は荷電粒子を形成するようフラグメンテーション(断片化)を受ける。質量に対する電荷の比は、質量分析計内の電磁場中に荷電粒子を通過させることにより算出される。
【0003】
図1は、典型的な三連四重極質量分析計システムのイオン光学系100の一例を示している。質量分析計のイオン光学系100は、イオン源101(サンプル中の分子をイオン113へと変換するもの)、質量分析器103(電磁場を加えることによりイオンをその質量によって分類するもの)、及び検出器105(何らかの指示量の値を測定して、現在の各イオンの存在量を算出するためのデータを提供するもの)からなる3つのメインモジュールを有している。
【0004】
三連四重極質量分析計の場合、質量分析器103は、3つの四重極の直線的な列を有している。第1の四重極107及び第3の四重極111は質量フィルタとして働く。中間の四重極109は衝突セル内に含まれる。この衝突セルは、第1の四重極107からの選択された前駆イオンのフラグメンテーション(衝突による解離)を誘発させるためにAr、He、又はN2ガスを使用するRF-only(高周波専用)四重極(非質量フィルタリング)である。次いで発生したフラグメント(断片)は、第3の四重極111を通過し、該第3の四重極111において完全にフィルタリングされ又はスキャンされることが可能である。
【0005】
構成要素101〜110の任意の組み合わせは、イオン113がイオン源101から検出器105へと進行する際に該イオン113が通過する他の任意の構成要素(イオン113を誘導するためのレンズ115,117,119等)と共に、イオン光学系100と称することができる。
【0006】
質量分析法は、未知の化合物の識別、化合物中の要素の同位体組成の判定、フラグメンテーションを観察することによる化合物の構造の判定、サンプル中の化合物の量の数量化、気相イオン化学の基礎(真空中のイオン及び中性の化学的性質)の研究、及び化合物の他の物理的、化学的、又は生物学的な特性の判定といった、定性的用途及び定量的用途の両方を有するものである。
【0007】
3つの四重極を使用することにより、構造を解明する際に極めて重要であるフラグメント(プロダクトイオン)を研究することが可能となる。例えば、第1の四重極107は、既知の質量の薬物イオンのためのフィルタに設定することが可能であり、該薬物イオンが中間四重極109においてフラグメント化される。次いで、第3の四重極111は、m/z範囲全体をスキャンして、作成されたフラグメントのサイズに関する情報を提供するように設定することが可能である。このため、当初のイオンの構造を推論することができる。
【0008】
イオン光学系100の長さ方向に沿って圧力差が存在することが望ましいことが多い。これは、イオン光学系100の様々な部分を、異なる圧力を有する別個の真空チャンバ内に配置することにより達成することができる。このイオン光学系100の長さ方向に沿った圧力差が望ましい理由は幾つか存在する。
【0009】
殆どの質量分析器(質量分析器103等)は、低圧で最も良く機能する。これは、低圧が、他のガス分子との衝突が一層少なくなる結果としてイオン113がイオン源101から検出器105まで到達する確率が高くなることを意味しているからである。更に、イオン113を誘導するためのレンズ115,117,119は、低圧ではシミュレーションモデル予測と同様に機能するが、高圧ではそれほどではなくなる。更に、低圧では、高電圧がガスを分解させる傾向が低くなる。
【0010】
一方、殆どのイオン源(イオン源101等)は、測定対象となる分子(被分析物)の一層高い濃度又は圧力を使用して、最も良く機能する。被分析物が多いほど、イオン化されるものが多くなり、及び測定されるものが多くなる。
【0011】
このため、イオン源101では高圧、質量分析器103では低圧であることが望ましい。イオン光学系の長さ方向に沿った別個の真空チャンバは、この圧力差を可能にする。
【0012】
また、ガスが中間の四重極109の衝突セル内に送り込まれ、該衝突セル内に送り込まれたガスがイオン源101に入るのを前記圧力差が防止するため、この別個の真空チャンバは有用なものである。目的は、所望の純粋な被分析物の圧力を増大させることであって衝突セルのガスの圧力を増大させることではないので、衝突セルのガスがイオン源101に入るのは望ましくない。
【0013】
特許文献1は、イオンビームの経路に沿って圧力差を提供する3つの別個の真空チャンバ(図1中の符号111,112,113)を有する質量分析計について説明している(図1及び第3段落10-30行参照)。しかし、該特許では、標準的な真空接続を用いているため、真空チャンバ内部の構成要素にアクセスし又は該構成要素を取り外すのが極めて困難で時間を要することになり、ひいては定期的なメンテナンスのために分解し組み立てるのが困難となる。
【0014】
特許文献2は、質量分析計の真空チャンバ内部の構成要素に対する容易なアクセス及びその取り外しを提供する構成について説明している。質量分析計の真空チャンバ(図4の符号66)内部の構成要素に対するアクセスのために、取り外し可能な高真空プレートアセンブリ(図3の符号44)が配設されている。しかし、該特許は、単一の真空チャンバへのアクセスしか提供しないものであり、特許文献1における3つの真空チャンバ等の複数の別個の真空チャンバ内に配置された質量分析計構成要素に対するアクセス又はその取り外しを如何に行うかについての教示は全く提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,069,355号(Mordehai)
【特許文献2】米国特許第5,753,795号(Kuypers)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
複数の真空チャンバを通過する質量分析計の構成要素への迅速で便利なアクセスを提供することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】典型的な三連四重極質量分析計システムのイオン光学系を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態の質量分析システムの一部を切り取って示す斜視図である。
【図3】イオン光学系及び図2の部分を含む斜視図であり、パネルが閉鎖した位置で示されている。
【図4】ハウジング、パネル、及びステージシール手段を含む、図2の質量分析システムの断面図であり、ステージシール手段の位置がより良く見えるようにイオン光学系及びブラケットが省略されており、パネルはハウジングに対して閉鎖位置になっている。
【図5】図2,3,4に示すステージシール手段として使用することができる、多部品からなる一実施形態を示している。
【図6】図2,3,4に示すステージシール手段として使用することができる、膨張可能部分を有するステージシール手段の一実施形態である。
【図7】図2,3,4に示すイオン光学系の取り外しを示している。
【図8】図2の質量分析計システムを使用する場合に真空チャンバを動作させるための各ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して例示のみを目的として本発明の更なる好適な特徴について説明する。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態の質量分析システム201の一部を切り取って示す斜視図である。イオン光学系203は、ブラケット217及びブラケット218を使用してパネル209に取り付けられる。イオン光学系203の質量分析器のイオン源205及び第1の四重極質量フィルタ207(該第1の四重極質量フィルタ207は円筒形のカバー208内にある)が示されている。イオン光学系203の中間の四重極衝突セル、第3の四重極質量フィルタ、及び検出器は同図では省略されている。
【0020】
パネル209は、ヒンジ213を介してハウジング211に接続されている。該パネル209は、ハウジング211に対する開放位置と閉鎖位置との間で移動する際に、ヒンジ213を中心として回転する。パネル209が閉鎖位置にある場合、ハウジング211はイオン光学系203を取り囲む。図2では、パネル209は、ハウジング211に対する開放位置で示されている。
【0021】
ヒンジ213を中心としてパネル209を回転させることにより開閉されるものとして該パネル209を示したが、代替的に、パネル209は、閉鎖位置又は解放位置へと滑動させることにより、又は当業者に周知の他の態様で、開閉させることが可能である。
【0022】
イオン光学系203の少なくとも一部はパネル209に取り付けられる。しかし、該イオン光学系203の他の部分はパネル209に取り付けなくてもよい。例えば、イオン源205及び第1の四重極質量フィルタ207をパネル209に取り付ける一方、イオン光学系203の中間の四重極衝突セル、第3の四重極質量フィルタ、及び検出器を他のパネル又はハウジング211に取り付けることが可能である。
【0023】
別の実施形態では、電子顕微鏡、電子顕微鏡用のサンプル取扱手段、表面科学機器、及びウェハ装填手段を含む、異なる装置をパネル209に取り付けることが可能である。電子アセンブリ(組立部品)をパネル209に取り付けることも可能である。
【0024】
図2は更に、ブラケット217及びステージシール手段219から形成される多部品型パーティション215を示している。図3もまた図2のような多部品型パーティション215を示しているが、この場合にはパネル209が閉鎖位置になっている。見易くするために、図3ではハウジング211及びパネル209が省略されている。パーティション215は、イオン源205と第1の四重極質量フィルタ207との間に配置されたガス障壁を形成し、該イオン源205及び第1の四重極質量フィルタ207が、ハウジング211内の別個の真空チャンバ221,223内に位置するようになっている。該パーティション215は、パネル209が閉鎖位置にあるとき、イオン光学系203のビーム軸301と交差する方向に向く。該パーティション215により形成されるガス障壁は、図2に示すようにパネル209が開放位置へと移動された際に破られる。
【0025】
図4は、ハウジング211、パネル209、及びステージシール手段219を含む、図2の質量分析システム201の断面図であり、ステージシール手段219の位置がより良く見えるようにイオン光学系203及びブラケット217が省略されており、パネル209はハウジング211に対して閉鎖位置になっている。該ステージシール手段219は、その縁部に沿って内側シール手段403を含むことが分かる。該内側シール手段403は、パーティション215のステージシール手段219とブラケット217との間の隙間を小さくし、それ故、かかる隙間を通過し得るガスの量を低減させる。ステージシール手段219に形成された中央のU字形のチャネル401は、イオン光学系203が内外に滑動することを可能にする。該ステージシール手段219は、ハウジング211の内壁に対して密接した係合を形成するように示されている。
【0026】
一般に、パーティション215は、パネル209が閉鎖位置にある際にハウジング211内に真空チャンバ221,223を形成するためのガス障壁を形成する任意の構造とすることが可能である。また、ステージシール手段219はパーティション215の任意の部分とすることが可能であり、又はパーティション215全体を形成することも可能である。「ステージシール手段」は、ステージ(すなわち真空チャンバ)間のガス障壁の密閉の提供に資するものである。
【0027】
パーティション215は、単一部品又は複数部品から形成することが可能である。図2の実施形態では、パーティション215は、ブラケット217と組み合わせられたステージシール手段219を含む。図4の実施形態では、ステージシール手段219は、別部品である内側シール手段403も含む。
【0028】
図3に示すように、パーティション215のブラケット217は、イオン光学系203に対して係合し、該ブラケット217は、ステージシール手段219に対しても係合する。同様に、図4に示すように、ステージシール手段219は、ハウジング211の内壁に対して係合する。
【0029】
別の実施形態では、パーティション215は、ブラケット217を使用することなくステージシール手段219を含むことが可能であり、これによりパーティション215の単一部品型の実施形態が提供される。この場合には、パーティション215のステージシール手段219は、イオン光学系203に対して直接係合し及びハウジング211に対して係合する。ステージシール手段219は、パネル209の開放時にハウジング211の内壁から分離するようにイオン光学系203に対して固定することが可能である。代替的に、ステージシール手段219は、パネル209の開放時にイオン光学系203から分離するようにハウジング211の内壁に対して固定することが可能である。ステージシール手段219は、当業者に周知の方法を使用して(例えば、接着剤、半田、溶接を使用することにより、又はイオン光学系又はハウジングと共に単一部品として機械加工することにより)イオン光学系203又はハウジング211の内壁に対して固定することが可能である。
【0030】
図5は、図2,3,4のステージシール手段として使用することができる、ステージシール手段219の多部品型の実施形態を示している。該ステージシール手段219は、内側シール手段403及び外側シール手段501を有するものとして示されている。内側シール手段403は、パーティション215をガスに対する障壁とするのを助けるために、ブラケット217に対して係合することができ、又はイオン光学系203に対して直接係合することができる。外側シール501は同様に、パーティション215をガスに対する障壁とするのを助けるために、ハウジング211の内壁に対して係合することができる。別の実施形態では、内側シール手段403、外側シール手段501、又はその両者をステージシール手段219から省略することが可能である。内側シール手段403、外側シール手段501、又はステージシール手段219全体は、粘着性材料又は弾性材料から作成することが可能である。一般に、シール手段403,501は、パネル209が閉鎖位置にある際にハウジング211内の真空チャンバ221,223間におけるガス障壁を改善する任意の材料又は複数の材料の組み合わせから作成することが可能である。
【0031】
図6は、図2,3,4のステージシール手段として使用することができる、ステージシール手段219の別の実施形態を示している。該ステージシール手段219は、膨張可能な内側シール手段601と膨張可能な外側シール手段603とを有するものとして示されている。より一般的には、これらの膨張可能な内側及び外側シール手段は、当業者には周知であるように、パーティションの任意のタイプの膨張可能な部分とすることが可能である。膨張可能なシール手段601,603は、パネル209が閉鎖位置にあり及びハウジング211が真空下にある際にハウジング211内の真空チャンバ221,223間におけるガス障壁を改善する。膨張可能なシール手段601,603の周囲の圧力が(ハウジング211のチャンバ221,223内の空気がポンプで排出された際に)下がると、該膨張可能なシール手段601,603が拡張して、パーティション215、ハウジング211の内壁、又はイオン光学系203の他の部分に対するシールを生成する。
【0032】
内側シール手段601,603又は全体的に膨張可能部分は、内部にガスを閉じ込めたバッグである。該バッグの外側の圧力が、該バッグ内のガスの圧力よりも小さくなった際に、該バッグが拡張することになる。同様に、これらのバッグの外側の圧力が増大すると、該バッグが収縮する。別の実施形態では、圧力変化に応じて拡張し収縮するものである限り、ガス相以外の相の材料をバッグ内に閉じ込めることが可能である。
【0033】
パネル209がハウジング211に対して開放されてチャンバ221,223が周囲圧力になると、膨張可能なシール手段601,603が十分に収縮し、ステージシール手段241をイオン光学系203から又はパーティション215の他の部分から容易に分離させることが可能となる。別の実施形態では、パーティションの膨張可能な部分を、パーティション215、ハウジング211の内壁、又はイオン光学系203に対して固定することが可能である。更に別の実施形態では、図6のステージシール手段219全体、又は図3のパーティション215全体を、膨張可能な部分とすることが可能である。該膨張可能な部分は、風船又はその他の可撓性材料から作成することが可能である。該膨張可能な部分は、例えば、ガスが充填された空気袋とすることが可能である。
【0034】
パーティション215又はステージシール手段219又はパーティション215の他の部分は、パネル209の開閉時に該パネル209及びイオン光学系203に対して固定されたままとすることが可能であり、又はハウジングの壁に対して固定されたままとすることが可能である。例えば、図2では、パーティション215のステージシール手段219は、パネル209が開放位置へと移動された際に、ハウジング211の壁に対して固定されたままとなる。図2の実施形態では、パーティション215の一部(ステージシール手段219)は、ハウジング211の壁に対して固定されたままとなり、パーティション215の一部(ブラケット217)は、イオン光学系203及びパネル209に対して固定されたままとなる、ということもできる。これとは対照的に、図3は、パネル209の開閉時に該パネル209及びイオン光学系203に対して固定されたままとなる場合にパーティション215のステージシール手段219の位置を示すために使用することができるものである。
【0035】
パーティション215により形成されるガス障壁は必ずしも真空シール手段とは限らないということに留意されたい。該ガス障壁は、真空チャンバ221,223間に必要とされる任意の程度の隔離を提供するよう設計することが可能である。用途によっては、パーティション215は、一方のチャンバが周囲圧力下のままでチャンバ221,223間における圧力差を許容することが可能である。パーティション215は、何らかのガスに対して障壁として働く限り、一方の真空チャンバ221から他方の真空チャンバ223へのガスの通過を可能とする隙間を有することさえ可能である。
【0036】
実施形態によっては、パーティション215は、選択的な透過性を有するものとすることが可能であり、これにより、チャンバ221,223間に特定のタイプのガスを通過させる一方で他のタイプのガスを遮断することが可能となり、又は異なるタイプのガスを異なる流速で通過させることが可能となる。
【0037】
この種のガス障壁を実現させるために、ステージシール手段219をゴム、プラスチック、セラミック、又は金属等の材料から作成することが可能である、ということが当業者には理解されよう。
【0038】
2つのチャンバ221,223を形成する単一のパーティション215しか例示していないが、2つ以上のパーティションを使用して2つ又は3つ以上のチャンバを形成することが可能であることが当業者には理解されよう。例えば、パーティション215と同一の3つのパーティションを使用して、ハウジング211内に4つの別個のチャンバを形成することが可能である。この場合、イオン光学系203は、それらパーティションの全てを通過して、該イオン光学系203の長さ方向に沿って4つの異なる圧力を受けることができる。
【0039】
イオン光学系203の質量分析器部分のイオン源205と第1の四重極質量フィルタ207とを分離させるパーティション215に加えて、第2のパーティションが、中間の四重極衝突セルを前記第1の四重極質量フィルタ207から分離させることが可能である。第3のパーティションが、該中間の四重極衝突セルを第3の四重極質量フィルタから分離させることが可能である。第4のパーティションが、前記第3の四重極質量フィルタを前記イオン光学系203の検出器から分離させることが可能である。このため、イオン源205、第1の四重極質量フィルタ207、中間の四重極衝突セル、第3の四重極質量フィルタ、及び検出器は、全て、4つのパーティションにより形成された別個のチャンバ内に存在することが可能である。
【0040】
ここで、質量分析システム201のハウジング211内の真空チャンバ221,223を動作させる方法を、図2ないし図7、並びに図8のフローチャートに関して説明する。
【0041】
ステップ801で、パネル209が開放位置にある場合に、ステージシール手段219は、(図2に示すように)ハウジング211の内壁と接触した状態、又は(図3に示すように)ブラケット217と接触した状態、又はイオン光学系203と直接接触した状態に、配置することができる。このステージシール手段219の配置は、オペレータが手作業で行うことが可能である。
【0042】
ステップ803で、パネル209を質量分析システム201のハウジング211に対して閉鎖して、ガス障壁がパーティション215により形成されてハウジング211内に別個の真空チャンバ221,223が形成されるようにする。
【0043】
図2に示すように、パネル209がハウジング211に対して閉鎖されると、パーティション215のブラケット217及びステージシール手段219が共に、イオン光学系203とハウジング211の内壁との間の位置へと滑動し、これによりガス障壁が形成される。図3は、パネル209が閉鎖位置にある場合にパーティション215を形成するブラケット217及びステージシール手段219の位置を一層明瞭に示している。図4は、パネル209が閉鎖位置にある場合におけるステージシール手段219とハウジング211の内壁との位置を一層明瞭に示している。
【0044】
ステップ805で、真空チャンバ221,223内の圧力をポンプにより低下させる。図2を参照すると、真空ポンプ225は、ハウジング211の壁を通る真空ポンプポート227,229をそれぞれ介して真空チャンバ221,223を別個に排気する。
【0045】
真空ポンプ225は、例えば、ポンプ流量9.0×103m3/s(2.5m3/hour)を有することが可能であり、及び真空チャンバ221の圧力を6.7×10-2Pa(5.0×10-4Torr)まで下げることが可能であり、及び真空チャンバ223の圧力を6.7×10-3Pa(5.0×10-5Torr)まで下げることが可能である。このように、差動的な排気は、少なくとも10倍(又は必要に応じてそれ以上)の差圧を真空チャンバ間に提供することができる。
【0046】
複数のパーティション及び3つ以上の真空チャンバを有する実施形態では、ハウジング211の壁を通る追加の真空ポンプポートを含むことが可能である。
【0047】
ステップ807で、真空チャンバの排気を行った後に、質量分析システム201を使用してサンプルの測定を行うことが可能となる。
【0048】
サンプルの測定は、イオン源205を使用してサンプルをイオン化させて該サンプル中の分子をイオンへと変換することにより行うことができる。ヘリウム等のガスをイオン源205中にポンプにより供給することも可能である。イオンの殆どは、パーティション215の孔を通過する。しかし、質量分析器の性能を劣化させ得る非イオン化ガスは排出される。次いで、イオン光学系203の質量分析器部分は、電磁場を加えることにより、イオンをその質量によって並べ替える。イオン光学系203の検出器は、特定の指示量の値を測定して、存在する各イオンの存在度を算出するためのデータを提供する。
【0049】
サンプルの測定は、未知の化合物の識別、化合物中の元素の同位体組成の識別、化合物のフラグメンテーションを観察することによる化合物の構造の判定、サンプル中の化合物の量の数量化、気相イオン化学の基礎(真空中のイオン及び中性の化学的性質)の研究、及びサンプルを構成する化合物の他の物理的、化学的、又は生物学的な特性の判定に使用することが可能である。
【0050】
メンテナンスが必要な場合には、ステップ809で、真空ポンプポート227,229を介して、又はハウジング211の内側へのアクセスを提供する他の排気口を介して、大気圧または近大気圧の空気が真空チャンバ221,223内に入ることを可能にすることにより、該真空チャンバ221,223を再加圧する。
【0051】
ステップ811で、パーティション215により形成されるガス障壁が破られるようにパネル209を開放させる。図2は、ガス障壁を破るよう別個のブラケット217及びステージシール手段219へと分離されたパーティション215を示している。
【0052】
ステップ813で、ユーザが図7に示すようにステージシール手段219を手作業で取り外すのは簡単である。このため、メンテナンスのためにハウジング211の真空チャンバ内部の質量分析計の部品(例えばイオン光学系203)に容易にアクセスし又はそれを取り外すことが可能となる。
【0053】
上記説明では、本発明の特定の典型的な実施形態に関して本発明を説明した。従って、上記説明及び図面は、制限的な意味ではなく例証的な意味で解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0054】
201 質量分析システム
203 イオン光学系
209 パネル
211 ハウジング
213 ヒンジ
215 パーティション
221,223 真空チャンバ
601,603 膨張可能部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(211)と、
該ハウジング(211)に対して開放位置と閉鎖位置との間で移動可能なパネル(209)と、
該パネル(209)に対して少なくとも一部が取り付けられたイオン光学系(203)であって、、前記パネル(209)が前記閉鎖位置にある際に前記ハウジング(211)及び前記パネル(209)により取り囲まれる、イオン光学系(203)と、
前記パネル(209)が前記閉鎖位置にある際に、前記ハウジング(211)内の真空チャンバ(221,223)を分離させるガス障壁を形成する、パーティション(215)とを備えており、
前記パネル(209)が前記開放位置へ移動した際に、前記パーティション(215)により形成される前記ガス障壁が破られる、質量分析システム(201)。
【請求項2】
前記パネル(209)が、前記開放位置と前記閉鎖位置との間で移動する際にヒンジ(213)を中心として回転する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記パネル(209)が前記開放位置へ移動した際に、前記パーティション(215)の少なくとも一部が、前記イオン光学系(203)及び前記パネル(209)に対して固定されたままとなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記パネル(209)が前記開放位置へ移動した際に、前記パーティション(215)の少なくとも一部が、前記ハウジング(211)の壁に対して固定されたままとなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記パネル(209)が前記開放位置から前記閉鎖位置へ移動した際に、前記パーティション(215)が、前記イオン光学系(203)と前記ハウジング(211)との間の位置へと滑動する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記パネル(209)が前記閉鎖位置にある際に、前記パーティション(215)が、前記イオン光学系(203)のビーム軸(301)と交差する方向に向けられたガス障壁を形成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記パーティション(215)が、前記ガス障壁を形成するための弾性材料を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記パーティション(215)が、前記ハウジング(211)内の圧力をポンプにより低下させた際に前記ガス障壁を形成する膨張可能部分(601,603)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記閉鎖位置及び前記圧力低下状態において、別個の真空チャンバ(221,223)が少なくとも10倍異なる圧力を互いに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記パーティション(215)が複数の部分から形成される、請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−182670(P2010−182670A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5612(P2010−5612)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】