説明

到来波検出装置および到来波検出方法

【課題】マルチスタティックレーダ受信機における計算処理量を削減する。
【解決手段】周波数帯の異なる複数のチャンネルから複数の電波を受信するRF処理部3と、前記複数の電波をそれぞれ同一の低周波数帯へ周波数変換する周波数変換部5−1、5−2、5−3と、前記周波数変換された複数の電波を加算して加算信号を得る加算部6と、前記加算信号の相関行列の固有値解析を用いて、到来波検出を行う推定部7とを備える到来波検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の送信源からの到来波を検出する到来波検出装置および到来波検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ送信機からの送信波が、レーダ送信機と同じ場所に設置されたレーダ受信機に戻りにくい形状を持つ目標を検出する方法として、バイスタティックレーダまたはマルチスタティックレーダが提案されている。マルチスタティックレーダの中には、複数の送信局に対して、受信局が1つである構成が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。1つの受信局が複数の送信局からの電波を検出する構成を取った場合、送信局の数が増加するほど、より目標が検出されやすくなる。従来の構成においては、複数の送信局に対して受信局が1つであっても、受信局内で、各々の送信局からの受信波を分離してから、反射波の検出を行っていた。
【0003】
一方、レーダ受信局に到来した電波を解析する方法として、到来方向推定、遅延波分離等の種々のアルゴリズムが提案されている(例えば、非特許文献1)。非特許文献1では、受信信号の相関行列に対して固有値解析を行って、到来波を検出している。
【0004】
今後、複数の送信局からのレーダ波を1つの受信局で受信する形態において、各レーダ波について、相関行列の固有値解析を利用して到来波検出を行う構成が想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−125674公報
【特許文献2】特開平05−34447公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」科学技術出版 2004年4月発行 第10章〜第13章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の送信局からのレーダ波を1つの受信局で受信する構成において、より目標を検出しやすくするため、送信局の数を増加させた場合、受信局は送信局の数だけの到来波検出系統を持つ必要がある。固有値解析は処理量の多い計算であるため、受信局では処理量または回路規模が増大する。
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであって、レーダ受信機における計算処理量を削減できる到来波検出装置および到来波検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る到来波検出装置は、周波数帯の異なる複数のチャンネルから複数の電波を受信するRF処理部と前記複数の電波をそれぞれ同一の低周波数帯へ周波数変換する周波数変換部と前記周波数変換された複数の電波を加算して加算信号を得る加算部と前記加算信号の相関行列の固有値解析を用いて、到来波検出を行う推定部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
レーダ受信機における計算処理量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る到来波検出装置の構成を示すブロック図。
【図2】第1の実施形態に係る到来波検出装置の動作を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る到来波検出装置を示す図。
【図4】第1の実施形態の変形例1に係る到来波検出装置を示す図。
【図5】第1の実施形態の変形例1に係る到来波検出装置の動作を示す図。
【図6】第1の実施形態の変形例1に係る到来波検出装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の図面では、本発明に本質的に関連する部分のみを示し、実際の実施の際には必要でも、本願の動作に直接関連しない部分は図示していない。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る到来波検出装置1の構成を示すブロック図である。到来波検出装置1は、周波数の異なる複数チャンネルf1,f2,・・・の電波を受けるアンテナ2と、受信した電波を増幅、整形、スーパーへテロダイン方式をとる場合にはさらに周波数変換するRF部3と、複数チャンネルをそれぞれ分離するフィルタ4−1,4−2,・・・と、フィルタ4を通過したそれぞれのチャンネルの受信波をベースバンド周波数に変換する周波数変換器5−1,5−2,・・・と、ベースバンドに変換された各チャンネルの波を加算する加算器6と、加算器6によって加算された加算信号について到来波の検出を行う推定部7とを備える。
【0014】
図2は、第1の実施形態に係る到来波検出装置1の動作を示す図である。3チャンネルの場合で説明している。それぞれのチャンネルf1,f2,f3に相当する周波数帯の受信信号は、それぞれ複素信号の状態でベースバンドに変換される。中心周波数が0Hz近傍のいわゆるベースバンドであるならば、同相信号(I)と直交信号(Q)に分離して変換される。この場合、その後の処理は、デジタル部で複素数として扱えるようになるまでI,Qそれぞれについて行われる。あるいは、実数信号の状態で、中心周波数が0でない低周波の中間周波数(Low IF)に変換してもよい。いずれの場合でも、3つのチャンネルは、ほぼ同一のベースバンド信号に変換され、加算器6によって加算される。なお、「同一」は必ずしも、完全に同一である必要は無い。後述するように、故意に若干の誤差を与えてもかまわない。
【0015】
推定部7は、相関行列の固有値解析に基づいた超分解能アルゴリズムによって、到来波の検出を行う。到来波の検出とは、具体的には、アンテナに入射した複数の到来波についての、波数検出、到来方向推定、さらには、遅延分布の推定、ドップラ周波数の推定などである。到来波の検出とは、これらすべてを行うのではなく、殆どの場合、波数検出および到来方向推定を行って、必要に応じて他の推定も行う。
【0016】
相関行列の固有値解析に基づいた超分解能アルゴリズムは、例えば、MUSIC (Multiple Signal Classification)法(非特許文献1)、ESPRIT (Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)(非特許文献1)、最尤推定法の一種であるMODE (Method Of Direction Estimation)法(P.Stoica他、”Novel eigenanalysis method for direction estimation”, IEE Proceedings, Vol.137, Pt. F, No.1, 1990)、最小ノルム法(非特許文献1)等である。
【0017】
推定部7は、実装されているアルゴリズムに基づいて、加算信号に含まれる到来波の波数の推定を行って、加算信号に含まれるそれぞれの波がどのような方向、さらには、遅延、または、周波数で到来しているかを推定し、その結果を出力する。
【0018】
このように第1の実施形態に係る到来波検出装置1は、複数のチャンネルを1つの推定部で推定することができる。f1,f2,f3をその周波数間隔を保ったままの広帯域信号の状態で固有値解析を行う方法と比べて、推定の対象となる信号の帯域幅を減少させることができる。推定部7の前のいずれかの段階で、受信波はデジタル信号に変換されるが、本実施形態のように加算することによって推定部7でのサンプリング速度を小さくできる。複数の周波数チャンネルに渡って到来する到来波の推定処理量を低減できる。複数チャンネル波による反射波が同一の方向から届く場合、コスト関数評価時に、その方向に注目しつづけることで、複数波の内のいずれかによる反射波が届いていれば、他の波による反射波が途絶えていても継続的に目標を追跡することができる。
【0019】
以下では、図3を用いて、MUSIC法を用いた到来方向推定を例に取り、このような方法が可能であることを説明する。到来方向推定を行う場合は、図3のように、複数のアンテナ素子11−1・・・11−Kを用いる。複数のアンテナ素子11−1・・・11−KにはそれぞれRF部3が接続され、それぞれ複数チャンネルがフィルタされて、加算された後、全アンテナ素子の信号が同一の推定部7に入力される。
【0020】
図3は、間隔dで並んだK個のリニアアレイである。各々のアンテナ素子k(=1,2,...,K)で時刻tにおいて受信され、複数チャンネルが各アンテナそれぞれについて加算された信号をx(t)とする。これをk方向にベクトル化したものを
【数1】

【0021】
と置く。Tは転置を表す。加算された全ての信号でトータルでL個の到来波がある場合、
【数2】

【0022】
と表すことができる。ただし、
【数3】

【0023】
である。F(t)は第l波の複素振幅、θは第l波の到来方向、n(t)は受信時のそれぞれのアンテナに付加される雑音である。a(θ)はステアリングベクトルと呼ばれる。
【0024】
Λは到来波のRFの波長である。周波数多重信号を扱う場合は、幾つかの扱い方が可能である。それぞれのチャンネルの中心周波数についてΛを定義し、かつ、sin(θ)とΛのそれぞれの変化に対して、ステアリングベクトルの変化が独立になるよう多次元化すると精度の良い推定が可能となる。その方法については簡単に後述する。加算する複数チャンネルを含む帯域全体のRFでの比帯域が小さければ、若干精度が劣化するものの、帯域全体の中心周波数で近似できる。例えば中心周波数が10GHzのチャンネルと、中心周波数が10.02GHzのチャンネルでは、仮にdを3cm、θを30度とすると、(2π/Λ)・d・sinθは0.01ラジアン程度の差であり、10GHzに相当する値でΛを定義しても大きな誤差は生じない。
【0025】
数式2を相関行列の形に変形する。
【数4】

【0026】
E[]は時間方向の期待値であり、実質的には一定期間における時間平均である。Hは複素共役転置を示す。Iは単位行列であり、σは全てのアンテナに付加される雑音のパワーが等しいとした場合の雑音パワーであり、予め測定しておく。S=E[F(t)F(t)]であり、到来波どうしの相関行列である。到来波がそれぞれ独立な場合は対角行列となる。ここでは独立と仮定し、独立で無い場合については、簡単に後述する。Rxxはアンテナ受信信号の相関行列であるが数式4に示すように、相関行列を計算する際、複素共役を取っていることから中心周波数に相当する成分はキャンセルされ、いくつであっても関係しなくなる。Sについても同様であり、周波数の異なるチャンネルのΛを同一周波数で近似した場合、F(t)に周波数オフセット成分が残留する。しかし、複素共役を乗算することによって、対角成分について周波数オフセットはキャンセルされる。(L個の波が独立である場合、対角以外の成分は残らない。)この段階で、周波数の異なる複数チャンネルを加算したとしても、同一のチャンネル内にL波が存在する場合と(SNR以外の点で)大きく異なる点が無いことが分かる。
【0027】
到来方向推定で問題となるのは、アンテナ素子間に発生する到来波ごとの位相差の違いのみである。位相差の違いはステアリングベクトルで表現されており、到来波ごとのステアリングベクトルを推定するという形で到来方向の推定を行う。前述のように、ステアリングベクトルはチャンネルごとの周波数の差を誤差として扱うか、多次元化することによって周波数差を入れ込んでいるため、周波数の異なるチャンネルに含まれる複数波のステアリングベクトルをおおよそ正しく推定できる。
【0028】
xxについて固有値解析を行うと、K個の固有値λと対応する固有ベクトルを得る。固有値を大きい順に並べた場合、最後のK−L個は雑音パワーσと(おおよそ)等しくなり、雑音の固有値となる。雑音パワーと等しい固有値の数をアンテナ素子数から減算することによって、信号の波数を推定する。実際の波数の判定にはAIC(Akaike Information Criteria)やMDL (Miminum Descripton Length)などの判定方法を用いる。波数の判定方法は、従来法に準じ、詳細な説明は省略する。K−L個の雑音の固有値に対応するK−L個の固有ベクトルをe(i=L+1,...,K)とすると、eが形成する空間が雑音部分空間となる。残りの固有値および固有ベクトルが信号に対応するものとなり、信号の固有ベクトルは雑音部分空間とは直交する。信号の固有ベクトルによる空間は信号の到来方向に対応するステアリングベクトルによって張られる空間と等しい。そこで、ステアリングベクトルと雑音部分空間のユークリッド距離をステアリングベクトルの大きさで正規化したものの逆数PMU(θ)を計算する。
【数5】

【0029】
これは、MUSICスペクトラムと呼ばれ、到来波の入射角と一致するθにおいてピークを示す。数式5においてθをスキャンしてピークを見つけるか、あるいは分母の根を計算することによって到来角θを推定する。後者の方法は、root−MUSICと呼ばれる。PMU(θ)や、root−MUSICで用いるPMU(θ)の分母はコスト関数と呼ばれる。
【0030】
前述のように、到来波のアンテナ素子間の位相差はステアリングベクトルの形で表現されており、これは雑音部分空間を求める際のRxx、Sの計算で、中心周波数は関係無くなっている。固有値解析の性質上、到来波のアンテナ素子間の位相差さえ維持できていれば、複数のチャンネルがどのような形でX(t)の中に含まれていても問題ない。このような理由により、周波数の異なる複数チャンネルの信号を同一のベースバンド周波数で加算してから処理してもそれぞれの到来波を推定することが可能である。
【0031】
ただし、それぞれのチャンネルを個別に処理する場合と異なり信号対雑音比(SNR)が劣化し、推定に誤りが出る可能性がある。さらに、大抵の到来波推定方法では、X(t)のベクトル要素数−1までの到来波しか推定できない。従って、あまり沢山のチャンネルを加算することは難しく、用いられる状況に応じて加算するチャンネルを選択するような形態が望ましい。少なくとも、到来波数の合計がX(t)のベクトルの要素数−1以下となるようにチャンネルを選択して加算する。これについては、後に図4〜図6を用いて詳細に説明する。
【0032】
上述はMUSICの例であったが、上記の説明から理解できるように、本方式は相関行列の固有値解析を利用してステアリングベクトルを求めることによって到来波を推定する方式(例えば、ESPRIT、最尤推定法等)であれば、適用可能である。
【0033】
上記の例では到来波は全て独立としたが、コヒーレント波すなわち、同一の信号がマルチパスによって異なる方向から到来するような場合には、空間平均化法(非特許文献1、12章)を適用するとよい。空間平均化法では、アンテナ数を増大させて、相関行列をアンテナ間で平均化し、Sの対角以外の成分を0に近づける。
【0034】
空間平均化法では、複数のアンテナからなるサブアレーを全アンテナ内に複数定義する。サブアレーに含まれるアンテナ素子数がKであって、KはL+1以上であり、サブアレーの数が最小でL/2以上であればよい。複数のサブアレーをアンテナ素子が1つずつずれたアレーで定義すると、到来波数Lに対して全アンテナ素子数は最小で(3/2)L個必要である。詳細な方法については、従来法の域を出ないため説明を省略する。このような空間平均化法と本方式は無理なく併用可能である。
【0035】
なお、周波数の異なる信号は本来互いにインコヒーレントであるが、完全に同一の低周波数に周波数変換した場合、例えば完全な正弦波のように信号の変調成分まで同一であると、コヒーレントとみなされる。この場合も空間平均化によってインコヒーレントにすることができる。同一チャンネル内にはコヒーレント波が含まれないことが予め判明しており、空間平均化を採用したくない場合は、完全に同一の低周波ではなく、若干ずれた周波数、少なくとも、期待値を計算する期間が、周波数差の逆数より長くなる程度にずれた周波数にダウンコンバートするとよい。
【0036】
本方式を利用して、さらに遅延分布やドップラ周波数推定を行う場合、あるいは、到来方向の精度を高くするため、それぞれのチャンネルの中心周波数を個別に定義するような場合には、ステアリングベクトルの多次元化を行う必要がある。
【0037】
数式3で定義されるステアリングベクトルでは、到来角、遅延、周波数が全てeの肩に同じ次元で乗っている。この状態では、例えば到来角が若干変化した場合のステアリングベクトルの変化の仕方と遅延が若干変化した場合のステアリングベクトルの変化の仕方に相違が無く、どちらが変化したのか区別がつけられない。そこで、X(t)のベクトル方向に取るパラメータや、ステアリングベクトルの形状に種々の工夫をすることによって、到来角、遅延、周波数など複数のパラメータが変化した場合にステアリングベクトルの変化の仕方がそれぞれ異なるようにする方法が多数提案されている。例えば、特開2006−208172に示される方法や、信学技報SANE2007−109に示される方法などである。多次元化方法の詳細は従来法に準ずるのでここでは記述しない。ただし、このようにステアリングベクトルの形状に工夫をすることによって到来角以外のパラメータも同時測定可能であり、本方式との併用も可能である。
【0038】
周波数との多次元化を行った場合は、最終段階で到来波に対応するステアリングベクトルを求める時のパラメータのスキャン時に、周波数に関しては、それぞれのチャンネルの中心周波数あるいはその周辺に限定してスキャンするようにして、処理を軽減することが望ましい。
【0039】
図1にはA/D変換器の位置を図示しなかった。推定部7で行う処理はデジタル信号処理であり、アンテナはアナログ部品であるため、アンテナ2と推定部7の間にアナログ信号をデジタル信号に変換する部分が必要である。推定部7はチャンネル1つ分を処理するのに十分な程度の帯域幅(サンプリングレート)で動作する。従って、そこまでのどこかで帯域幅を縮める処理(デシメーション)が行われている。
【0040】
A/D変換器の挿入位置および、デシメーションの位置は大きく2種類ある。
【0041】
1つ目は、加算器6の直前または直後にA/D変換器を挿入し、A/D変換器のサンプリングレートをデシメーション後のサンプリングレートとする方法である。この方法によれば、デシメーションの操作が実質不要で低速のA/D変換器を利用することができ、その分A/D変換器の線形性やビット数などを高くすることが可能となる。
【0042】
もう1つは、全チャンネルをRFでの周波数間隔を維持したまま、全帯域についてRF、Low IFまたはベースバンドで一括して高速のA/D変換器でデジタル信号に変換し、デジタルのフィルタと周波数変換器で同一周波数に変換する。あるいは、A/D変換器出力信号を加算数だけ複製し、そのチャンネルの周波数間隔に対応するだけそれぞれ周波数オフセットを与えて加算し、加算信号に対してフィルタ処理およびデシメーションを行う。こちらの方法では、フィルタまたは周波数変換器がデシメーション部を兼ねる。この構成では、チャンネルを選択して加算する場合の自由度が、アナログフィルタをチューニングする方法と比較して、高い。RF部をデジタル化する構成が実現されつつあるが、そのような場合、こちらの方法が望ましい。
【0043】
(第1の実施形態の変形例1)
図6は、第1の実施形態の変形例1に係る到来波検出装置101の構成を示すブロック図である。図4及び図5は図6の形態の前提や動作を説明するための図である。複数アンテナ素子に対応する形態は図が煩雑になるので省略し、アンテナは1つだけ図示している。実際には複数アンテナ素子があり、アンテナ素子に対応する数だけ、RF部、フィルタ、周波数変換器、および加算器が必要である。
【0044】
まず、図4を用いて前提を説明する。第1の実施形態の変形例1に係る到来波推定装置101がレーダ受信機10に搭載されている。レーダ受信機10はマルチスタティックレーダシステムの受信機であり、対応するレーダ送信機は、図6の場合、レーダ送信機8−1〜8−9の9つある。レーダ受信機10は目標9を検出することを目的としているが、レーダ送信機8−1〜8−9の全てが目標9にレーダ波を照射することには成功していない。さらに、目標9にレーダ波を照射しているレーダ送信機の目標9によるレーダ反射波は、必ずしも全てがレーダ受信機10に届いていない。
【0045】
レーダ送信機8−x(x=1〜9)は、自送信機のレーダ波が目標9に照射されているかどうかを、レーダ受信機10または、他の図示しないレーダ受信機、あるいは、レーダ送信機自身に備え付けられているレーダ受信機によって受信された反射波によって検出している。しかし、その部分は本方式の動作とは関連しないため、説明を省略する。図4では9つのレーダ送信機8−xのうち、8−1, 8−2, 8−3, 8−5, 8−6のレーダ波が目標9に照射されている。
【0046】
これらのレーダ送信機8−xの送信周波数はそれぞれ異なっており、順にf1〜f9となっている。図5は、これらの周波数とレーダ受信機10での反射波の検出状況を模式的に示した図である。横軸はRF周波数であり、それぞれの山は各レーダ波のチャンネルを示している。塗りつぶしの濃さがレーダ受信機10での反射波の検出状況に対応している。8−2と8−5(f2とf5)のレーダ波の反射波は比較的安定的に検出されており、8−1,8−3,8−6(f1,f3,f6)は不安定に検出され、その他はまれにしか検出されない。
【0047】
図4では、レーダ波の軌跡を線で描いたが、実際には目標によって四方八方に反射される。送信レーダ波が目標9に照射される時、目標の材質、形状によって入射方向、反射方向ごとのレーダ反射断面積が定義される。目標9に照射されている5波の内、2波しか安定的に検出できないのは、目標に対するレーダ送信機・レーダ受信機の位置や、レーダ送信波のパワーなどの事情による。
【0048】
このような状況に対応するため、図6の形態では、不安定に検出されるレーダ波やまれにしか検出されないレーダ波のチャンネルについては、適切なチャンネル数で加算処理し、安定的に検出されるチャンネルについては、個別の系統で加算する構成を取っている。図6の形態では、チャンネルごとに個別に推定する系統が推定部7−1,7−2をそれぞれ有する2系統あり、それ以外のチャンネルは加算器6−1,6−2,・・・によって適宜加算されてから推定部7−3,7−4,・・・によって推定される。加算後の処理は図1場合と同様である。図5の例では、f2、f5のチャンネルは個別処理をする系統で処理をし、その他のチャンネルは加算処理する系統で処理している。例えば、f1とf3のチャンネルは加算器6−1で加算して、推定部7−3で推定し、f4,f6,f7のチャンネルは、加算器6−2で加算して、推定部7−4で推定し、・・・、といった具合である。
【0049】
推定部7−1,・・・で得られた推定結果は、結果を統合処理する統合処理部13および検出状況データベース14に送られる。
【0050】
統合処理部13では、各推定部の推定結果について、目標9についての所望のパラメータ(反射波の到来方向や遅延量など)の検出量を統合し、目標9の位置や方向を決定して、出力する。統合処理部13による統合の方法は本方式の目的ではないので詳細は記述しないが、より反射波の信頼性の高いチャンネルによる推定結果を優先して重み付け処理するなど、適切な処理を行う。
【0051】
検出状況データベース14では、各推定部での検出状況を収集、整理する。チャンネルごとの検出状況(反射波の到来確率や、反射波のSNR)を長期的、短期的に整理し、順位付けする。個別処理されているチャンネルであれば、このような情報を収集することは容易である。推定部は到来波の波ごとのパワーも出力する。通常の場合、レーダ送信機からの直接波やクラッタが何らかの形で受信されるので、反射波、直接波、クラッタ等の各到来波のパワーや検出SNRを計算して検出状況データベース14に同時に送る。複数波が到来している場合の各波のパワーは例えば非特許文献1の第13章(13.35)式に示されるような式により計算できる。クラッタと目標反射波の識別は、従来と同様に、到来角やドップラ周波数の広がりが大きいことやドップラ周波数そのものによって判定しても良いし、目標9のおおよその位置、方向が予め与えられている場合には、それに適合するかによって判定してもよい。
【0052】
加算後に推定している系統では、上述したような固有値解析や固有値解析結果からのパワーの算出によっては、反射波が検出されたとしても加算したどのチャンネルで検出されたか分からない場合がある。チャンネルが系統に半固定的に割当てられるならば、どのチャンネルで検出されたかまで分からなくても良い。しかし、検出状況によって各チャンネルにどの系統を割り当てるか切り替える場合には、どのチャンネルで検出されたかを知る必要がある。
【0053】
前述したような多次元化で到来角に加えて周波数の検出も行っている場合には、周波数からどのチャンネルで検出されたかを容易に知ることができる。多次元化を行っていない場合には、他の方法、加算前の信号の波形やスペクトルによるか、レーダ波がパルス波である場合には、反射波の検出タイミングなどによって、どのチャンネルの反射波であるかを見分けても良い。さらに、前述のように、多次元化を行わない場合には、チャンネルごとの中心周波数の差によって到来方向推定に誤差が生じる。同じ目標9から反射されている場合には、同じ方向から到来するはずである。個別処理の系統によって、ある程度正確な目標反射波の到来方向が推定できているならば、加算系統によって検出された反射波の到来方向、すなわち、ステアリングベクトルの誤差からおおよその周波数ずれが推測可能であり、これによってどのチャンネルで検出されたかを推定するとよい。
【0054】
このようにして、チャンネルごとの目標反射波の検出状況が得られ、系統選択制御部12は検出状況データベース14で収集された検出状況に基づいて、できるだけ安定的に高い精度で検出が可能なチャンネルを選択して個別処理の系統に割り当てる。安定的に検出されるかどうかは時間的な検出確率から決定する。高い精度で検出できるかどうかは、信号対干渉雑音比(SINR)、すなわち、目標反射波のSNRや、直接波と角度的に近過ぎないか、近すぎる場合には直接波と目標反射波とのパワーの比率などによる。
【0055】
なお、検出状況データベース14は、例えば、レーダ送信機それぞれのある程度の動作の特徴を知っており、例えば、目標9に対して追随を行わないレーダ送信機は順位付けを常に下位とするようにしてもよい。このようにすると誤検出によって追随を行わないレーダ波が上位に来る事態が避けられる。
【0056】
図6のように構成することによって、安定的に検出できているチャンネルからは常に高精度の目標検出を行い、なおかつ、補助的に利用する不安定なチャンネルや到来確率の低いチャンネルについての処理を軽減することができる。さらに、これらのチャンネルの検出状況に変化があっても、チャンネルの系統への割当てを検出状況に対応して変更可能であり、継続的に目標を高い精度で検出し続けることが可能となる。
【0057】
個別処理する系統数については、例えば検出状況が良好なチャンネルはすべて個別処理しても良いが、処理の軽減を考慮するならば、検出状況に応じた順位付けの結果の上位何個と決めればよい。図6の場合では上位2個であり、検出状況の良いチャンネル2個が個別処理に割り当てられる。
【0058】
加算するチャンネルについては、加算数に注意が必要である。固有値解析による到来波推定では、検出できる波の数が最大で、X(t)の要素数−1に制限されている。図4のような状況では、殆どの場合、レーダ送信機8−xからの直接波がアンテナサイドローブによってレーダ受信機10に届く。従って、加算できるチャンネル数はX(t)の要素数−1ではなく、それより少ない。また、各チャンネルでどの程度のクラッタが到達するかによる。さらには、各チャンネルの目標反射波の到来確率にもよる。例えば、どのチャンネルも平均的に2波程度の(あるいは2波相当の)クラッタが常時観測される場合では、直接波(1波)にクラッタ波数(2波)を加える。仮に到来確率が非常に低いチャンネルどうしの加算である場合、加算されたチャンネルの複数で同時に検出されることは非常にまれであるので、X(t)の要素数−1から1あるいは2程度を引き、それを直接波数と平均クラッタ波数の合計(3波)で割った数を上限とする。ただし、固有値解析による到来波推定では、到来波数の合計がX(t)の要素数−1に近づくほど到来波検出精度が劣化するので、若干の余裕(マージン)を見ても良い。例えば、X(t)の要素数−1から初めに引く数は1または2ではなく、3,4といった大きい数字にしてもよい。もちろん、どの程度マージンを見るかはX(t)の要素数がそもそもいくつであるかによる。X(t)の要素数がたとえば、6,7といった数であるのに3,4といった数を引いたら、加算そのものが不可能になるためである。また、安定した到来は望めないものの、ある程度の到来確率で到来するチャンネルが加算されるチャンネル内に含まれる場合には、予め引く数を多めに設定しておくと良い。あるいは、X(t)の要素数−1(からマージンを引いた分)を直接波、平均クラッタ波数、反射波(1波)の合計で割った数を上限にしてもよい。
【0059】
なお、クラッタの波数はレーダ送信機とレーダ受信機間の地形やアンテナ構造にも依存するので、チャンネルごとに傾向が異なる場合がある。従って上記の方法で用いる平均クラッタ波数は、組み合わせる予定のチャンネルに対応して変化させると良い。あるいは、組み合わせる予定のチャンネルでの直接波とクラッタを合計した到来波数の合計値が、X(t)の要素数−1からマージンと到来するかもしれない目標反射波の期待値程度を引いた閾値を超えないように組み合わせると良い。
【0060】
加算するチャンネルの組合せは、例えば、上述のように検出状況が近いチャンネルどうしを組合せてもよい。その場合は、検出状況がより良い組合せでは、加算数を少なくするとよい。到来波数の合計といった面のみでなく、SNRの面でも加算数が少ない方がよい。
【0061】
他の組合せ方法としては、できるだけ周波数が近いチャンネルどうしを組み合わせても良い。ステアリングベクトルの多次元化を行わず、1次元での検出を行う場合には、チャンネルごとの中心周波数の違いによって、推定結果に誤差が生じる。誤差を小さくするために、このようにすると良い。
【0062】
さらに、このような誤差を許容した上で、誤差が推定結果に影響を与えないよう、例えば、誤差の大きいチャンネルは、直接波と目標反射波との角度差が近いチャンネルとは組み合わせないようにしてもよい。あるいは、組み合わせる他のチャンネルの直接波に誤差によって目標反射波の検出角度が区別できない程度に近づいてしまうような組合せは避ける、としてもよい。この場合は、組み合わせる他のチャンネルの直接波と反射波の角度が近くても、目標反射波が誤差によって、他チャンネルの直接波から遠ざかるように組み合わせれば問題ない。すなわち、推定部でステアリングベクトルを定義する際の中心周波数の取り方を変えることで、誤差によって他のチャンネルの直接波に近づいたり、遠ざかったりする方向を選択できるので、中心周波数の取り方を工夫してもよい。ただし、この場合、各チャンネルの直接波の方向と、目標反射波のおおまかな方向は予め知っておく必要がある。直接波はほぼ常時検出されるため、直接波の方向を知ることは容易であり、目標反射波の方向は個別推定の系統から、あるいは、予め外部から通知されるといった方法によって知っていても良い。
【0063】
なお、検出状況が良好、すなわち、目標反射波の到来確率が高く、かつ、SNRが良好なチャンネルに個別処理の系統を割当て、そうでないチャンネルは加算して推定する場合、加算したチャンネルではSNRが劣化し、反射波が到来した場合でも、パワーが弱ければ検出できないことがある。しかし、本実施形態では、目標反射波のSNRができるだけ良好なチャンネルを個別処理の系統に割り当てる。本実施形態の加算処理系統では検出SNRが劣化するが、その結果、処理系統に対するチャンネル割当ての入れ替えをする場合、多少SNRが劣化した状態でも検出できるようなチャンネルのみが、加算系統から個別処理系統に変更されることになり、目的を達成するためには好都合である。
【0064】
チャンネルの系統への割当てを変更するタイミングは、例えば、数秒に1回程度、定期的に、としてもよい。しかし、検出状況データベース14における検出状況の順位付けに変更が生じて、それが組合せを変えるべき状況になった場合に随時、行うと良い。すなわち、加算処理されているチャンネルの中に検出状況がある程度の期間に渡って良好になったものがあると判断された場合、あるいは、個別処理されている系統の検出状況が劣化した場合である。なお、順位付けに変更が生じても、同じ加算系統内での変更であれば、そのままでよい。
【0065】
なお、相関行列の固有値解析による到来波推定は、目標反射波は数式4における期待値(実際には時間平均値)の計算に必要な程度の時間を要する。この期間より短期間の割当て変更間隔は無意味である。受信信号には必ず熱雑音が含まれ、時間平均する期間が長くなるほど期待値に近づく。一方で、期間を長くすると、その間に熱雑音以外の受信信号、すなわち、直接波や目標反射波の到来方向が変化してしまう可能性がある。従って必要以上に平均期間を長くすることはできない。
【0066】
目標9のレーダ反射断面積は、前述のように、レーダ波の入射角と反射角ごとに変化する。ある程度目標反射波が検出されていたチャンネルでも、目標9に対する入射角や、レーダ受信機が受信する際の反射角が変化することによって、目標反射波の検出状況が劣化することがある。どのくらいの時間単位でこれが変化するかは、レーダ送信機、目標、レーダ受信機の位置、移動速度、目標のレーダ反射断面積の形状による。しかし、位置や速度を一定のモデルで仮定した上であれば、目標のレーダ反射断面積形状によって変化の速さはある程度見当が付く。従って、検出から非検出、非検出から検出に変化する程度の時間、あるいはその半分程度の間隔で、入れ替えを判断するとよい。都度入れ替えるならば、少なくても、一回割り当てたら、その程度の期間はそのチャンネルについては入れ替えを行わないようにするとよい。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1、101・・・到来波検出装置
2・・・アンテナ
3、3−1、3−2、3−3、3−4、3−K・・・RF部
4、4−1、4−2、4−3、4−4、4−5、4−6、4−7、4−1−1、4−1−2、4−1−3、4−K−1、4−K−2、4−K−3・・・フィルタ
5、5−1、5−2、5−3、5−4、5−5、5−6、5−7、5−1−1、5−1−2、5−1−3、5−K−1、5−K−2、5−K−3・・・周波数変換器
6、6−1、6−2、6−K・・・加算器
7、7−1、7−2、7−3、7−4・・・推定部
8、8−1、8−2、8−3、8−4、8−5、8−6、8−7、8−8、8−9・・・レーダ送信機
9・・・目標
10・・・レーダ受信機
11、11−1、11−2、11−3、11−4、11−K・・・アンテナ素子
12・・・系統選択制御部
13・・・統合処理部
14・・・検出状況データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数帯の異なる複数のチャンネルから複数の電波を受信するRF処理部と、
前記複数の電波をそれぞれ同一の低周波数帯へ周波数変換する周波数変換部と、
前記周波数変換された複数の電波を加算して加算信号を得る加算部と、
前記加算信号の相関行列の固有値解析を用いて、到来波の検出を行う推定部とを備える到来波検出装置。
【請求項2】
複数のアンテナ素子をさらに備え、
前記加算部は、前記複数のアンテナ素子での受信信号のそれぞれについて、前記複数の電波を加算し、
前記推定部は、前記複数のアンテナ素子に対応した受信信号ベクトルから前記相関行列を生成し、前記複数の電波の到来方向を推定することを特徴とする請求項1記載の到来波検出装置。
【請求項3】
前記複数のチャンネルのそれぞれについての目標からの反射波の検出状況を記憶する検出状況データベースをさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の到来波検出装置。
【請求項4】
複数の前記推定部を備え、系統選択制御部をさらに備え、
前記系統選択制御部は、前記検出状況に基づいて、目標からの反射波の検出見込みの高いチャンネルを1つ以上選択し、
前記検出見込みの高いチャンネルについては、それぞれ独立に前記複数の推定部の1つにて、到来波の検出を行い、
検出見込みの低いチャンネルについては、2つ以上を前記加算部にて加算して、加算信号によって前記複数の推定部の1つにて、到来波の検出を行うことを特徴とする請求項3に記載の到来波検出装置。
【請求項5】
前記加算部を複数備え、
前記系統選択制御部は、複数の前記検出見込みの低いチャンネルについて、前記検出状況データベースに記憶された各チャンネルに含まれる到来波数の合計値が所定の閾値を超過しないように、前記検出見込みの低いチャンネルの組合せを作成して、それぞれを前記複数の加算部の1つで加算し、得られた複数の加算信号のそれぞれについて、前記複数の推定部の1つで到来波の検出を行うことを特徴とする請求項4記載の到来波検出装置。
【請求項6】
前記検出状況データベースは、前記複数の推定部による到来波の検出の結果に基づいて検出状況を更新し、
前記系統選択制御部は、前記検出状況データベースの更新された検出状況に基づいて、それぞれの系統に対して割り当てるチャンネルを選択することを特徴とする請求項4または請求項5記載の到来波検出装置。
【請求項7】
前記アルゴリズムはMUSICまたはESPRITまたは最尤推定法であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の到来波検出装置。
【請求項8】
到来波検出装置の到来波検出方法であって、
周波数帯の異なる複数のチャンネルから複数の電波を受信し、
前記複数の電波をそれぞれ同一の低周波数帯へ周波数変換し、
前記周波数変換された複数の電波を加算して加算信号を得て、
前記加算信号の相関行列の固有値解析を用いて到来波の検出を行うことを特徴とする到来波検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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