説明

制動力制御装置

【課題】車両における不適切な減速度の低下を抑制する。
【解決手段】制動力制御装置は、右前輪(WFR)及び左後輪(WRL)に対応する第1油圧系統、並びに左前輪(WFL)及び右後輪(WRR)に対応する第2油圧系統を備える車両(500)の制動力を制御する。制動力制御装置は、各車輪の車輪速度を夫々検出する複数の車輪速度検出手段(83)と、前輪の車輪速度と、各後輪の車輪速度との差に基づいて第1及び第2油圧系統を制御することで、各後輪に対する制動力制御を夫々独立して行う制御手段(110,120)と、車輪速度検出手段の異常を検出可能な異常検出手段(130)と、車両の減速度を検出する減速度検出手段(140)と、車輪速度検出手段の異常及び減速度が所定値以下であることが検出された場合に、制御手段による制動力制御を禁止する制御禁止手段(150)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における制動力を車輪毎に調整可能とする制動力制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制動力制御装置として、例えば前輪及び後輪に対する制動力の配分を、各種条件に応じて自動的に配分して調整する制御(所謂、EBD(Electronic Brake force Distribution)制御)を行うものが知られている。EBD制御では、例えば前輪の車輪速度と後輪の車輪速度とが比較され、後輪の車輪速度の方が高い場合には後輪に対する制動力が強められる。
【0003】
上述したEBD制御を実現する装置として、例えば特許文献1では、後輪の制動力配分を左右独立して行えるようにするという技術が提案されている。また特許文献2では、車輪速度センサに異常が生じた場合に、制動力配分制御を禁止し、通常のブレーキ制御を実施するという技術が提案されている。更に特許文献3では、車輪速度センサの異常に応じて、油圧の増圧、減圧及び保持制御を行うという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−138895号公報
【特許文献2】特開平6−211116号公報
【特許文献3】特開2009−102018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したEBD制御では、例えば右前輪の車輪速度センサに異常が発生した場合、他方の前輪である左前輪(即ち、車輪速度センサが正常である前輪)の車輪速度に基づいて制御が実行される。しかしながら、仮に上記状態で左前輪の油圧系統が油圧失陥してしまうと、油圧のかかっていない左前輪の車輪速度に基づいて制御が行われてしまう。この場合、右前輪と共通の油圧系統である左後輪(即ち、正常に油圧がかかっている方の後輪)が相対的にスリップ大とみなされ、左後輪に対する減圧制御が実施される。このように、車輪速度センサの異常と油圧失陥が同時に発生してしまうと、正常な油圧系統に対する減圧が実施されることとなり、結果的に不適切な減速度の低下を生じさせてしまう。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、車両における不適切な減速度の低下を抑制することが可能な制動力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制動力制御装置は上記課題を解決するために、右前輪及び左後輪に対する制動力を変化させる第1油圧系統、並びに左前輪及び右後輪に対する制動力を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力を制御する制動力制御装置であって、前記右前輪及び前記左前輪、並びに前記右後輪及び前記左後輪の車輪速度を夫々検出する複数の車輪速度検出手段と、前記右前輪及び前記左前輪の少なくとも一方の車輪速度と、前記右後輪及び前記左後輪の車輪速度との差に基づいて前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統を制御することで、前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を夫々独立して行う制御手段と、前記複数の車輪速度検出手段の異常を夫々検出可能な異常検出手段と、前記車両の減速度を検出する減速度検出手段と、前記右前輪及び前記左前輪に夫々対応する前記車輪速度検出手段の少なくとも一方において異常が検出されると共に、前記検出された減速度が所定値以下である場合に、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止する制御禁止手段とを備える。
【0008】
本発明の制動力制御装置によれば、右前輪及び左後輪に対する制動力を変化させる第1油圧系統、並びに左前輪及び右後輪に対する制動力を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力が制御される。より具体的には、車両の右前輪、左前輪、右後輪及び左後輪の各々には例えばホイールシリンダが設けられており、右前輪及び左後輪のホイールシリンダは夫々、一の配管を介して一の圧力室に接続されている。一方で、左前輪及び右後輪のホイールシリンダは夫々、一の配管とは液密的に分離された他の配管を介して他の圧力室に接続されている。即ち、本発明の制動力制御装置によって制御される車両は、いわゆるX配管車両として構成されている。
【0009】
本発明の制動力制御装置の動作時には、複数の車輪速度検出手段によって、右前輪及び左前輪、並びに右後輪及び左後輪の車輪速度が夫々検出される。車輪速度検出手段は、例えば車輪速度(言い換えれば、回転数)検出センサ等として構成されており、右前輪及び左前輪、並びに右後輪及び左後輪の各々に対応するように設けられる。
【0010】
各車輪の車輪速度が検出されると、制御手段によって、右前輪及び左前輪の少なくとも一方の車輪速度と、右後輪及び左後輪の車輪速度とが比較され、算出された車輪速度の差に基づいて第1油圧系統及び第2油圧系統の油圧が制御される。具体的には、いずれかの前輪の車輪速度及び右後輪の車輪速度差に基づいて、右後輪に対応する第2油圧系統の油圧が制御される。また、いずれかの前輪の車輪速度及び左後輪の車輪速度差に基づいて、左後輪に対応する第1油圧系統の油圧が制御される。このような油圧制御によれば、車両の荷重移動に応じて左右独立した制動力配分が行えるため、好適なブレーキング動作を実現することができる。
【0011】
本発明の制動力制御装置には更に、複数の車輪速度検出手段の異常を夫々検出可能な異常検出手段と、車両の減速度を検出する減速度検出手段とが備えられている。異常検出手段は、複数の車輪速度検出手段の各々に対応するように設けられており、例えば各車輪の車輪速度の相互比較、車輪加速度の異常値検出、車輪速度と車両に搭載された各種センサとの比較等を行うことで、車輪速度検出手段の異常を検出する。即ち、本発明に係る「異常」とは、車輪速度検出手段において、本来検出されるべき正常な値が検出できない状態を意味している。一方、減速度検出手段は、車両の減速度を検出する。尚、減速度検出手段は、後述するように車輪速度検出手段に異常が発生している場合にも車両の減速度を検出することが求められるため、車輪速度検出手段において検出された車輪速度以外からも車両の減速度を検出可能に構成される。
【0012】
ここで特に、上述した異常検出手段により、右前輪及び左前輪に夫々対応する車輪速度検出手段の少なくとも一方において異常が検出されており、且つ減速度検出手段において検出された減速度が所定値以下である場合には、制御禁止手段によって、制御手段による右後輪及び左後輪に対する制動力制御が禁止される。よって、この場合は制動力の分配制御は行われず、通常のブレーキング制御が行われることとなる。
【0013】
尚、ここでの「所定値」とは、第1油圧系統及び第2油圧系統の少なくとも一方において異常が検出した場合に発生し得る減速度に応じて予め設定されており、「減速度が所定値以下」とは、第1油圧系統及び第2油圧系統の少なくとも一方において異常が発生していることに起因して、本来であれば得られるべき減速度が得られていない状況であることを意味している。即ち、ここでは、車両の減速度を用いて、間接的に油圧失陥を検出しているとも言える。ちなみに、車輪速度検出手段において異常が発生している場合には、車輪速度に基づいて油圧失陥を検出することができなくなるため、上述した車両の減速度から油圧失陥を検出するという方法は極めて有効である。
【0014】
ここで仮に、車輪速度検出手段で一方の前輪の車輪速度異常が検出されており、第1油圧系統及び第2油圧系統に油圧失陥は発生していないとする。この場合、他方の前輪(即ち、車輪速度異常が検出されていない方の前輪)の車輪速度を用いれば、正常な制動力制御を行うことができる。しかしながら、車輪速度検出手段で一方の前輪の車輪速度異常が検出されていると共に、第1油圧系統又は第2油圧系統の少なくとも一方に油圧失陥が発している場合では、車輪速度異常が検出されていない方の前輪であったとしても、油圧失陥に起因して油圧がかかっていないおそれがある。よって、油圧が正常にかかっている系統の後輪がスリップ大とみなされ、その後輪に対して減圧制御が実施されることになる。このように、車輪速度検出手段の異常と油圧失陥が同時に発生してしまうと、行われるべきでない減圧制御が実施されることとなり、結果的に不適切な減速度の低下を生じさせてしまう。
【0015】
しかるに本発明では、上述したように、車輪速度検出手段の異常が発している状態で、且つ所定値以下の減速度しか得られない(即ち、油圧失陥が発生していると推定される)場合には、制御手段による制動力制御が禁止される。従って、意図しない不適切な減速度の低下が発生してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明の制動力制御装置の他の態様では、前記制御禁止手段は、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統に対する減圧制御を禁止することで、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止する。
【0017】
この態様によれば、制御手段による制動力制御が実施される際に、制動力を変化させる各油圧系統に対する減圧制御が禁止される。このため、不適切な減速度の低下が発生してしまうことを確実に抑制することができる。
【0018】
上述した減圧制御を禁止する態様では、前記制御禁止手段は、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統に対する減圧制御に加え、増圧制御を禁止することで、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止するように構成してもよい。
【0019】
各油圧系統に対する減圧制御が禁止された場合、仮に意図しない増圧制御(例えば、路面外乱等に起因する増圧制御)が行われてしまったり、増圧量が過大となってしまうと、減圧制御できないがゆえに各油圧系統の圧力が不適切な状態のままとなってしまう。本態様では、減圧制御を禁止する場合に増圧制御も併せて禁止することで、上述した不具合を抑制し、車両挙動が不安定になってしまうことを防止できる。
【0020】
上述した減圧制御又は増減圧制御を禁止する態様では、前記制御禁止手段は、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止する場合に、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統の油圧が互いに同じになるように前記制御手段を制御するように構成してもよい。
【0021】
各油圧系統に対する減圧制御又は増減圧制御が禁止された場合、仮に意図しない油圧差(例えば、路面外乱等に起因する油圧保持時の油圧差)が発生してしまうと、増減圧制御できないがゆえに各油圧系統間の油圧差が不適切な状態のままとなってしまう。本態様では、減圧制御又は増減圧制御を禁止する場合に第1油圧系統及び第2油圧系統の油圧を同じにすることで、上述した不具合を抑制し、車両挙動が不安定になってしまうことを防止できる。
【0022】
尚、本態様における「同じ」とは、第1油圧系統及び第2油圧系統の油圧が完全に一致する場合を含むだけでなく、上述した不具合を抑制できるまでに互いの値が近い状態を意味している。このため、第1油圧系統及び第2油圧系統の油圧を完全に同じ値としなくとも、互いの値を近づけるように制御すれば、上述した効果は相応に得られる。
【0023】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る制動力制御装置の構成を表してなる概略構成図である。
【図2】ECUの構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る制動力制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】車輪速センサの異常及び油圧失陥が発生した際の異常動作を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0026】
先ず、本実施形態に係る制動力制御装置の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、実施形態に係る制動力制御装置の構成を表してなる概略構成図である。
【0027】
図1において、本実施形態に係る制動力制御装置は、主に、車両に制動力を働かせる際に作動させる制動装置1と、この制動装置1を作動させることでABS制御やEBD制御等の制動制御を実行させる制動制御手段としての電子制御装置(ECU)2とを備えるように構成される。
【0028】
ECU2は、例えば図示しないCPU(中央演算処理装置)、所定の制動制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory)、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。以下では、このECU2の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0029】
図2において、ECU2は、ブレーキ液圧制御部110と、EBD制御部120と、車輪速センサ異常検出部130と、車両減速度検出部140と、制御禁止部150とを備えて構成されている。
【0030】
ブレーキ液圧制御部110は、制動装置1におけるブレーキ液圧を制御することによって、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力を変化させることができる。ブレーキ液圧制御部110は、例えば運転者によるブレーキペダル10(図1参照)の操作量やそれに伴うマスタシリンダ圧等に基づいて制動力を変化させる。また、後述するEBD制御部120の指示によって、EBD制御を実施することが可能である。
【0031】
EBD制御部120は、例えば車両の減速度に対して設定された閾値に基づいてEBD制御を行うべきか否かを判定し、EBD制御を行うべきと判定した場合には、ブレーキ液圧制御部110に対してEBD制御を行うよう指示を出す。EBD制御部120には、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度を検出する車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RL(図1参照)が接続されており、各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度に応じてEBD制御が実施されることになる。尚、EBD制御部120は、上述したブレーキ液圧制御部110と共に、本発明の「制御手段」の一例として機能する。具体的なEBD制御の方法については、後に詳述する。
【0032】
車輪速センサ異常検出部130は、本発明の「異常検出手段」の一例であり、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLの異常を検出する。車輪速センサ異常検出部130は、例えば各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの車輪速度の相互比較や、車輪加速度の異常値検出、車両に搭載された他の各種センサとの比較等によって、車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLの異常を検出する。ここで検出された車輪速センサ83FR、83FL、83RR、83RLの異常は、後述する制御禁止部150に伝達される。
【0033】
車両減速度検出部140は、本発明の「減速度検出手段」の一例であり、本実施形態に係る制動力制御装置が搭載されている車両の減速度を検出する。減速度は、常時或いは定期的に検出されてもよいし、必要に応じて適宜検出されてもよい。車両減速度検出部140によって検出された車両の減速度は、後述する制御禁止部150に伝達される。
【0034】
制御禁止部150は、本発明の「制御禁止手段」の一例であり、車輪速センサ異常検出部130及び車両減速度検出部140からの情報に基づいて、EBD制御部120によるEBD制御を禁止する。即ち、所定の条件下において、EBD制御を行わないようにすることができる。EBD制御の禁止に関する具体的な制御については、後に詳述する。
【0035】
ECU2は、上述した各部位を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU2によって実行されるように構成されている。但し、上記各部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部位は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0036】
図1に戻り、本実施例1の制動装置1は、所謂X配管のブレーキ液圧回路を有するものであって、少なくとも前輪WFR及びWFL、後輪WRR及びWRLに対して個別の大きさの制動力を発生させることができるものである。
【0037】
より具体的には、制動装置1は、運転者によるブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段20と、ブレーキ液圧が供給されることで制動力を発生させる各車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎の制動力発生手段(例えばホイールシリンダやキャリパ等)30FR、30FL、30RR、30RLと、そのブレーキ液圧発生手段20で発生したブレーキ液圧をそのまま又は各車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に調圧して夫々の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給するブレーキ液圧調整手段40とを備えている。
【0038】
ブレーキ液圧発生手段20は、ブレーキペダル10に入力された運転者のブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)21と、この制動倍力手段21により倍化されたペダル踏力をブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)へと変換するマスタシリンダ22と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク23とを備える。
【0039】
ここで、そのマスタシリンダ22の内部には図示しない2つの油圧室が設けられており、夫々の油圧室に上記のマスタシリンダ圧が発生している。各油圧室で生成されたマスタシリンダ圧は、一方がブレーキ液圧調整手段40の後述する第1ブレーキ液圧回路系統を介して右側前輪WFR及び左側後輪WRLに供給され、他方がブレーキ液圧調整手段40の後述する第2ブレーキ液圧回路系統を介して左側前輪WFL及び右側後輪WRRに供給される。このような動作を実現するため、本実施形態に係る制動装置1には、各油圧室に一端が接続されると共に他端が第1ブレーキ液圧回路系統と第2ブレーキ液圧回路系統に夫々接続された第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25が設けられている。
【0040】
ブレーキ液圧調整手段40は、上述した第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25内のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)をそのまま又は調圧して夫々の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給する所謂ブレーキアクチュエータである。ブレーキ液圧調整手段40は、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110の制御指令に従って作動する。
【0041】
ブレーキ液圧調整手段40は、右側前輪WFR及び左側後輪WRLに対してブレーキ液圧を伝える第1ブレーキ液圧回路系統と、左側前輪WFL及び右側後輪WRRに対してブレーキ液圧を伝える第2ブレーキ液圧回路系統とを備えている。尚、ここでの第1ブレーキ液圧回路系統は、本発明の「第1油圧系統」の一例であり、第2ブレーキ液圧回路系統は、本発明の「第2油圧系統」の一例である。ここでは、第1ブレーキ液圧回路系統を第1油圧配管24に接続させる一方、第2ブレーキ液圧回路系統を第2油圧配管25に接続させている。
【0042】
ブレーキ液圧調整手段40には、ブレーキ液圧発生手段20から供給されてきたブレーキ液圧(つまり、マスタシリンダ圧)の検出を行うマスタシリンダ圧センサ41が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ41は、第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25のいずれか一方に配備され、その検出信号をECU2におけるブレーキ液圧制御部110へと送信する。ここでは、マスタシリンダ圧センサ41を第1油圧配管24に設けるものとして例示している。
【0043】
また、ブレーキ液圧調整手段40は、第1及び第2のブレーキ液圧回路系統における夫々のブレーキ液の流量調節手段としてのマスタカット弁42、43を備えている。マスタカット弁42、43は、通常は開弁状態にある所謂常開式の流量調整用電磁弁であって、ECU2のブレーキ液圧制御部110による通電に伴って弁開度の制御が実行される。つまり、マスタカット弁42、43は、通電量に応じて弁開度を制御することで後述する加圧ポンプ69、70から吐出されたブレーキ液の圧力を調節してマスタシリンダ22側へ開放する。
【0044】
ここで、このブレーキ液圧調整手段40においては、第1油圧配管24がマスタカット弁42を介して連結通路44に接続される一方、第2油圧配管25がマスタカット弁43を介して連結通路45に接続される。そして、第1ブレーキ液圧回路系統の連結通路44には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路46、47が接続され、第2ブレーキ液圧回路系統の連結通路45には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路48、49が接続される。第1ブレーキ液圧回路系統においては、分岐通路46、47の各々が、夫々右側前輪WFRの油圧配管31FRと左側後輪WRLの油圧配管31RLに接続される。一方、第2ブレーキ液圧回路系統においては、分岐通路48、49の各々が、夫々右側後輪WRRの油圧配管31RRと左側前輪WFLの油圧配管31FLに接続される。
【0045】
各分岐通路46、47、48、49上には、夫々に対応する制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RL毎のブレーキ液圧を調整可能なブレーキ液圧調圧部が車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に配設されている。ブレーキ液圧調圧部は、車輪WFR、WFL、WRR、WRL毎に用意された保持弁50、51、52、53とブレーキ液圧排出通路54、55、56、57と減圧弁58、59、60、61とで構成される。ここでは、各分岐通路46、47、48、49上に保持弁50、51、52、53が各々設けられており、更に各保持弁50、51、52、53よりも下流側にブレーキ液圧排出通路54、55、56、57が、夫々分岐通路46、47、48、49から分岐させるが如く接続されている。そして、各ブレーキ液圧排出通路54、55、56、57上には、夫々減圧弁58、59、60、61が設けられている。
【0046】
上述した各保持弁50、51、52、53は、所謂常開式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には開弁状態にあり、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110による通電に伴って励磁状態となり閉弁させられるものである。一方、各減圧弁58、59、60、61は、所謂常閉式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には閉弁状態にあり、ブレーキ液圧制御部110による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。
【0047】
また、ここでは、第1ブレーキ液圧回路系統の夫々のブレーキ液圧排出通路54、55を一纏めにするブレーキ液圧排出集合通路62と、第2ブレーキ液圧回路系統の夫々のブレーキ液圧排出通路56、57を一纏めにするブレーキ液圧排出集合通路63とが用意されており、ブレーキ液圧排出集合通路62、63は、補助リザーバ64、65に夫々接続されている。
【0048】
更に、第1ブレーキ液圧回路系統においては、連結通路44と各分岐通路46、47との分岐点から分岐してブレーキ液圧排出集合通路62に接続されるポンプ通路66が設けられている。同様に、第2ブレーキ液圧回路系統においては、連結通路45と各分岐通路48、49との分岐点から分岐してブレーキ液圧排出集合通路63に接続されるポンプ通路67が設けられている。
【0049】
ポンプ通路66、67には、1つの電動機68によって駆動される加圧ポンプ69、70が夫々設けられている。これら各加圧ポンプ69、70は、マスタカット弁42、43側の各分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、分岐通路46、47と分岐通路48、49に対して加圧されたブレーキ液圧を夫々供給する。つまり、第1ブレーキ液圧回路系統の加圧ポンプ69は、右側前輪WFRと左側後輪WRLに発生させる制動力を増大させるべく、夫々に対応する制動力発生手段30FR、30RLに供給するブレーキ液圧の増圧を行う。一方、第2ブレーキ液圧回路系統の加圧ポンプ70は、左側前輪WFLと右側後輪WRRに発生させる制動力を増大させるべく、夫々に対応する制動力発生手段30FL、30RRに供給するブレーキ液圧の増圧を行う。尚、電動機68は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。また、ポンプ通路66、67には、加圧ポンプ69、70から吐出された夫々のブレーキ液の脈動を回避するダンパ室71、72が夫々設けられている。
【0050】
ブレーキ液圧調整手段40には更に、第1の油圧配管24及び第2の油圧配管25から夫々分岐して補助リザーバ64、65に接続される吸入通路73、74が設けられており、夫々の吸入通路73、74の補助リザーバ64、65側にリザーバカット逆止弁75、76が設けられている。
【0051】
このように構成した制動装置1は、その動作が上述したようにECU2によって制御される。以下では、本実施形態に係る制動力制御装置の通常のブレーキング動作について、引き続き図1及び図2を参照して説明する。
【0052】
本実施形態に係る制動力制御装置の動作時には、ECU2におけるブレーキ液圧制御部110に、ブレーキペダル10の操作量と、マスタシリンダ圧センサ41により検出されたマスタシリンダ圧とが入力される。つまり、ECU2には、運転者がブレーキペダル10の操作によって制動要求を行ったときに検出されたブレーキペダル操作量と、その操作に伴い発生したマスタシリンダ圧と夫々が入力される。尚、ブレーキペダル10の操作量としては、例えばブレーキペダル10の踏み込み量やペダル踏力が挙げられ、図示しないペダルストロークセンサやペダル踏力センサ等によって検出される。
【0053】
ECU2におけるブレーキ液圧制御部110は、ブレーキペダル10の操作量に基づいて運転者の要求車両制動力を演算する。そして、ECU2のブレーキ液圧制御手段は、全ての車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力の合計によって要求車両制動力が車両に対して働くようにブレーキ液圧調整手段40を制御する。尚、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLの各々には、所定の又は車両の状態に応じた配分比でブレーキ液圧が配分される。
【0054】
ブレーキ液圧制御部110は、制動力の増加を図るべく増圧制御を行う場合、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに該当するマスタカット弁42、43と保持弁50、51、52、53を開弁させる一方、減圧弁58、59、60、61を閉弁させる。これにより、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいては、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給されるブレーキ液圧の増圧によって制動力が増えていく。
【0055】
尚、ブレーキ液圧の増圧の際、加圧ポンプ69、70を駆動させずとも要求車両制動力を発生させることができるのであれば(言い換えれば、マスタシリンダ圧で要求車両制動力を車両に働かせることができるならば)、ブレーキ液圧制御手段は、電動機68を停止させることで加圧ポンプ69、70を駆動させないようする。このときには、マスタシリンダ圧に応じたブレーキ液圧が制御対象の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給され、ブレーキ液圧に応じた制動力が各車輪WFR、WFL、WRR、WRLに発生するため、要求車両制動力を満足させる車両制動力が車両に働く。以下では、加圧ポンプ69、70を駆動させずに発生させた各車輪WFR、WFL、WRR、WRLの制動力の合計のことを適宜「基準車両制動力」と称する。
【0056】
ブレーキ液圧の増圧の際には、基準車両制動力を最大限の大きさで発生させたとしても、その基準車両制動力が要求車両制動力に満たない場合がある。即ち、マスタシリンダ圧に基づいた基準車両制動力のみでは要求車両制動力を車両に発生させることができない場合がある。よって、この場合のブレーキ液圧制御手段は、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに該当する保持弁50、51、52、53を開弁させる一方、マスタカット弁42、43及び減圧弁58、59、60、61を閉弁させ、その不足分に相当する車両制動力(以下、適宜「差圧車両制動力」と称する)が発生するように電動機68及び加圧ポンプ69,70を駆動させる。つまり、ここでは不足分に応じた加圧量(即ち、吐出量や吐出圧)でブレーキ液が加圧されるようにマスタカット弁42、43と電動機68と加圧ポンプ69、70とが駆動される。これにより、不足分のブレーキ液圧が制御対象の制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに対して増圧されるので、要求車両制動力を満足させる基準車両制動力と差圧車両制動力を合わせた車両制動力が車両に働く。
【0057】
ブレーキ液圧制御部110は、制動力の減少を図るべく減圧制御を行う場合、制御対象の車輪WFR、WFL、WRR、WRLに対応する保持弁50、51、52、53を閉弁させる一方、減圧弁58、59、60、61を開弁させる。これにより、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいて、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLに供給されるブレーキ液圧の減圧によって制動力が減っていく。
【0058】
また、ブレーキ液圧制御部110は、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLのブレーキ液圧の増減が済んだ後、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLに対応する保持弁50、51、52、53と、減圧弁58、59、60、61を閉弁させてブレーキ液圧を保持させる保持制御を行うことがある。保持制御によれば、制御対象となる車輪WFR、WFL、WRR、WRLにおいて、制動力発生手段30FR、30FL、30RR、30RLのブレーキ液圧が一定に保持されるので、制動力が一定に保たれる。
【0059】
次に、本実施形態に係る制動力制御装置によるEBD制御について、図1及び図2に加え、図3を参照して詳細に説明する。ここに図3は、本実施形態に係る制動力制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0060】
図3において、本実施形態に係る制動力制御装置では、EBD制御の開始条件として、車両減速度に対応する閾値である第1所定値が設定されている。車両減速度は、車両減速度検出部140(図2参照)において検出される。第1所定値は、ECU2におけるEBD制御部120のメモリ等に予め記憶されており、検出された減速度と比較される。尚、第1所定値は、例えば車両の乗車状態や積載状態等を考慮して、予め実験やシミュレーションを行って設定しておけばよい。
【0061】
車両減速度が第1所定値より大きくなると(ステップS01:YES)、EBD制御が開始される(ステップS02)。即ち、車両がEBD制御をすべき程度に大きく減速している状態になると、ECU2におけるEBD制御部120によって、ブレーキ液圧制御部110が制御される。
【0062】
具体的には、先ず右前輪WFR及び左前輪WFLの少なくとも一方の車輪速度と、右後輪WRR及び左後輪WRLの車輪速度とが比較され、算出された車輪速度の差に基づいて第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。より具体的には、右前輪WFR及び左前輪WFLいずれかの車輪速度及び右後輪WRRの車輪速度差に基づいて、右後輪WRRに対応する第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。また、右前輪WFR及び左前輪WFLいずれかの車輪速度及び左後輪WRLの車輪速度差に基づいて、左後輪WRLに対応する第1ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が制御される。このような制御によれば、車両の荷重移動に応じて適切な制動力配分が行えるため、極めて適切なブレーキングを実現することができる。
【0063】
ここで本実施形態では特に、ECU2における車輪速センサ異常検出部130によって、各前輪WFR、WFLに対応する車輪速センサ83FR、83FLにおいて異常が発生しているか否かが判定される(ステップS03)。そして、車輪速センサ83FR、83FLのいずれかにおける異常が検出されると(ステップS03:YES)、車両減速度検出部140において検出された車両の減速度が第2所定値以下であるか否かが判定される(ステップS04)。
【0064】
尚、第2所定値は、本発明の「所定値」の一例であり、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統の少なくとも一方において異常が検出した場合に発生し得る減速度に応じて予め設定されている。このため、減速度が第2所定値以下である状況は、第1ブレーキ液圧回路及び第2ブレーキ液圧回路の少なくとも一方において異常が発生していることに起因して、本来であれば得られるべき減速度が得られない状況であることを意味する。即ち、ここでは、車両の減速度を用いて、間接的に油圧失陥が検出されている。尚、第2所定値は、上述した第1所定値と同じ値として設定されてもよいし、異なる値として設定されてもよい。
【0065】
車両の減速度が第2所定値以下であると判定されると(ステップS04:YES)、ブレーキ液圧制御部110による各後輪WRR、WRLへの減圧制御が禁止され(ステップS05)、増圧制御が禁止され(ステップS06)、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧を同圧に保持する制御が行われる(ステップS07)。即ち、後輪WRR、WRLに対する制動力を独立して制御するEBD制御が禁止される。一方で、車輪速センサ83FR、83FLにおける異常が検出されない場合や(ステップS03:NO)、車両の減速度が第2所定値より大きい(即ち、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統における油圧失陥が検出されない)場合には(ステップS04:NO)、通常のEBD制御が実施される(ステップS08)。
【0066】
ここで仮に、車輪速センサ83FR、83FLのいずれかで異常が検出されており、車両の減速度が第2所定値より大きい(即ち、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統において油圧失陥は発生していない)とする。この場合、車輪速度異常が検出されていない方の車輪速センサ83で検出される車輪速度を用いれば、正常なEBD制御を行うことができる。しかしながら、車輪速センサ83FR、83FLのいずれかで異常が検出されていると共に、車両の減速度が第2所定値以下である(即ち、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統において油圧失陥が発生している)場合では、車輪速度異常が検出されていない方の前輪であったとしても、油圧失陥に起因して油圧がかかっていないおそれがある。この場合、油圧が正常にかかっている後輪に対して不適切な減圧制御が実施されることになる。
【0067】
以下では、上述した不具合が生じ得る状況について、図4を参照して具体的に説明する。ここに図4は、車輪速センサの異常及び油圧失陥が発生した際の異常動作を示す概念図である。
【0068】
図4に示すように、右前輪WFRに対応する車輪速センサ83FRにおいて異常が検出された場合を考える。この場合、左前輪WFLに対応する車輪速センサ83FLにおいて異常が検出されていなければ、左前輪WFL車輪速度を用いて制動力制御を行うことが可能である。しかしながら、左前輪WFLに対応する第2ブレーキ液圧回路系統において油圧失陥が発生してしまうと、油圧のかかっていない左前輪WFLの車輪速度が基準とされるため、正常に油圧がかかっている左後輪WRL(即ち、油圧失陥していない第2ブレーキ液圧回路系統に対応する後輪)が相対的にスリップ大とみなされ、減圧制御を行うべきでない左後輪WRLに対して、減圧制御が実施されてしまうことになる。
【0069】
このような不都合に対し、本実施形態に係る制動力制御装置では、上述したように、車輪速センサ83FR、83FLにおいて異常が検出されると共に、車両の減速度が第2所定値以下である(即ち、第1ブレーキ液圧回路系統又は第2ブレーキ液圧回路系統において油圧失陥が発生している)場合には、各後輪WRR、WRLに対する減圧制御が禁止される(図3のステップS05参照)。従って、不適切な減速度の低下が発生してしまうことを抑制することが可能である。
【0070】
また、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統に対する減圧制御が禁止された場合、仮に意図しない増圧制御(例えば、路面外乱等に起因する増圧制御)が行われてしまったり、増圧量が過大となってしまうと、減圧制御できないがゆえに第1ブレーキ液圧回路系統又は第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧が不適切な状態のままとなってしまうおそれがある。このため本実施形態では、減圧制御に加えて増圧制御も併せて禁止するように構成されている(図3のステップS06参照)。よって、上述した不具合が抑制され、車両挙動が不安定になってしまうことを防止できる。
【0071】
更に、第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統に対する減圧制御又は増減圧制御が禁止された場合、仮に意図しない油圧差(例えば、路面外乱等に起因する油圧保持時の油圧差)が発生してしまうと、増減圧制御できないがゆえに第1ブレーキ液圧回路系統又は第2ブレーキ液圧回路系統間の油圧差が不適切な状態のままとなってしまうおそれがある。このため本実施形態では、減圧制御又は増減圧制御を禁止する場合に第1ブレーキ液圧回路系統及び第2ブレーキ液圧回路系統のブレーキ液圧を同じにする制御が実行される(図3のステップS07参照)。よって、上述した不具合が抑制され、より確実に車両挙動を安定させることができる。
【0072】
尚、上述した増圧制御の禁止及び同圧保持制御は必ずしも実施されなくともよく、減圧制御の禁止さえ実施されれば、不適切な減速度の低下を抑制することが可能である。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、所定の条件下においてEBD制御が禁止されるため、車両における不適切な減速度の低下を好適に抑制することが可能である。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制動力制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
1…制動装置、2…ECU、10…ブレーキペダル、20…ブレーキ液圧発生手段、24…第1油圧配管、25…第2油圧配管、30…制動力発生手段、40…ブレーキ液圧調整手段、83…車輪速センサ、110…ブレーキ液圧制御部、120…EBD制御部、130…車輪速センサ異常検出部、140…車両減速度検出部、150…制御禁止部、WFR,WFL,WRR,WRL…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右前輪及び左後輪に対する制動力を変化させる第1油圧系統、並びに左前輪及び右後輪に対する制動力を変化させる第2油圧系統を備える車両の制動力を制御する制動力制御装置であって、
前記右前輪及び前記左前輪、並びに前記右後輪及び前記左後輪の車輪速度を夫々検出する複数の車輪速度検出手段と、
前記右前輪及び前記左前輪の少なくとも一方の車輪速度と、前記右後輪及び前記左後輪の車輪速度との差に基づいて前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統を制御することで、前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を夫々独立して行う制御手段と、
前記複数の車輪速度検出手段の異常を夫々検出可能な異常検出手段と、
前記車両の減速度を検出する減速度検出手段と、
前記右前輪及び前記左前輪に夫々対応する前記車輪速度検出手段の少なくとも一方において異常が検出されると共に、前記検出された減速度が所定値以下である場合に、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止する制御禁止手段と
を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
前記制御禁止手段は、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統に対する減圧制御を禁止することで、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止することを特徴とする請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記制御禁止手段は、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統に対する減圧制御に加え、増圧制御を禁止することで、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止することを特徴とする請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記制御禁止手段は、前記制御手段による前記右後輪及び前記左後輪に対する制動力制御を禁止する場合に、前記第1油圧系統及び前記第2油圧系統の油圧が互いに同じになるように前記制御手段を制御することを特徴とする請求項2又は43に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−158230(P2012−158230A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18369(P2011−18369)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】