説明

制動力制御装置

【課題】車両をより早く減速させることが可能な制動力制御装置を提供する。
【解決手段】制動力制御装置12では、車体速度Vv若しくは車輪速度Vw又はこれらの目標値が所定速度以下であり、且つ緊急ブレーキ制御手段118による緊急ブレーキ及びアンチロックブレーキ制御手段110によるアンチロックブレーキが作動しているとき、前記アンチロックブレーキによるブレーキ液圧の減少を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪に対する制動力を制御する制動力制御装置に関する。より詳細には、車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ機能を有する制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪に対する制動力を制御する制動力制御装置が知られている。制動力制御装置の中には、車輪のロックを防止するアンチロックブレーキシステム(ABS)に関するものや(特許文献1〜3)、緊急時にブレーキ液圧を高める緊急ブレーキシステムに関するものがある(特許文献3)。
【0003】
特許文献1では、車体速度(VR0)と、所定の路面摩擦係数(μ)と、所定の定数(a)とに基づいて目標車輪速度(VWt)を算出する([0036]、[0037]、[0055])。そして、車輪速度が目標車輪速度になるように、各車輪のブレーキトルク(T)を制御する([0038]〜[0042]、[0056]〜[0060])。
【0004】
特許文献2では、アンチロックブレーキ制御と、トラクション制御と、方向性安定制御とを用いる技術が示されている(要約、請求項1)。特許文献2では、車両の方向安定性を保持するための基準となる目標車輪速度を演算し、当該目標車輪速度に基づいて車輪ブレーキの増圧速度又は減圧速度を定める(要約、請求項1)。また、特許文献2では、ヨーレートを考慮して目標車輪速度が設定される([0059])。
【0005】
特許文献3では、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるブレーキアシスト制御と、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ制御とを用いる(要約、請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−274582号公報
【特許文献2】特開平11−059388号公報
【特許文献3】特開2008−307999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ABS制御では、車輪が路面上を滑り出す直前の車輪速度を実現することにより、車輪のグリップ力を最大化することを基本的な考えとしているが、それと共に、操舵性能を考慮する必要がある。すなわち、車輪のグリップ力を最大化すると車両がカーブを曲がり辛くなるため、車両がカーブを走行する可能性を考慮して車輪のグリップ力を若干下げておくことが好ましい。
【0008】
その一方、上記のようにカーブ走行を考慮してグリップ力を若干下げておくと、直線道路でABSを作動させる場合にグリップ力を最大限に用いることができなくなり、減速度を最大化することができなくなる。特に、直線道路において緊急ブレーキを作動させたい場合、グリップ力を大きくし、より早く減速することが好ましい。
【0009】
上記各特許文献では、これらの点に関し、何ら検討されていない。
【0010】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両をより早く減速させることが可能な制動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る制動力制御装置は、車輪速度、車体速度、ブレーキ液圧又はスリップ率が目標値となるようにブレーキ液圧を減少、保持又は増加させて車両の車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御手段と、緊急時に通常のブレーキ液圧よりも高い液圧を発生させる緊急ブレーキ制御手段とを備えるものであって、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ制御手段による緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキ制御手段によるアンチロックブレーキが作動しているとき、前記アンチロックブレーキによる前記ブレーキ液圧の減少を抑制することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であり、且つ緊急ブレーキ及びアンチロックブレーキが作動しているとき、アンチロックブレーキによるブレーキ液圧の減少を抑制する。換言すると、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であるときの緊急ブレーキ時には、通常時とは異なるアンチロックブレーキ制御を用いる。一般に、アンチロックブレーキは、操舵性能を維持しつつ、制動力の最大化を企図するものであり、操舵性能を考慮する分、制動力は若干低く抑えられる。前記所定速度が、例えば、車体を横移動させる可能性が極めて低い速度である場合、前方の障害物(先行車を含む。)を回避するためステアリング操作を支援する制御(回避操作支援制御)や、当該障害物を回避する際に車両の姿勢を維持する制御(車両姿勢制御)等を考慮する必要がほとんどない。このような場合、アンチロックブレーキによるブレーキ液圧の減少を抑制することで、緊急ブレーキ時に、車両をより早く減速させることが可能となる。
【0013】
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキが作動しているとき、前記ブレーキ液圧の減少を禁止してもよい。ブレーキ液圧の減少を禁止することにより、車輪にかかるブレーキ液圧を高圧に維持できるため、緊急ブレーキ時の制動性能を高くすることが可能となる。
【0014】
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキが作動しているとき、前記車輪速度若しくは前記車体速度の目標値を通常よりも低くする、又は前記ブレーキ液圧若しくは前記スリップ率の目標値を通常よりも高くしてもよい。これにより、実際の車輪速度、車体速度、ブレーキ液圧又はスリップ率を目標値と等しくするためには、より大きな制動力を生成する必要が生じる。このため、緊急ブレーキが効き易くなり、緊急ブレーキ時に、車両をより早く減速させることが可能となる。
【0015】
前記緊急ブレーキ制御手段は、加圧手段により前記ブレーキ液圧を自動的に増加させる緊急自動ブレーキ手段と、運転者の操作に伴って発生する前記ブレーキ液圧を前記加圧手段により増加させる緊急ブレーキアシスト手段とを有し、前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であるとき、前記緊急自動ブレーキ手段及び前記アンチロックブレーキ手段を作動させるときの前記車輪速度若しくは前記車輪速度の目標値は、前記緊急ブレーキアシスト手段及び前記アンチロック制御手段を作動させるときよりも低く設定される、又は前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であるとき、前記緊急自動ブレーキ手段及び前記アンチロックブレーキ手段を作動させるときの前記ブレーキ液圧若しくは前記スリップ率の目標値は、前記緊急ブレーキアシスト手段及び前記アンチロック制御手段を作動させるときよりも高く設定されてもよい。
【0016】
これにより、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であり且つ緊急自動ブレーキ制御を実行中である場合、緊急自動ブレーキが効き易くなり、緊急自動ブレーキ時に、車両をより早く減速させることが可能となる。
【0017】
この発明に係る制動力制御装置は、車輪に対する制動力を制御するものであって、前記車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ部と、運転者の操作によりステアリング舵角又はステアリングトルクが変更される可能性を判定するステアリング操作可能性判定部とを備え、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が同じ場合、前記ステアリング舵角又は前記ステアリングトルクが変更される可能性が低いときの前記制動力を、前記ステアリング舵角又は前記ステアリングトルクが変更される可能性が高いときの前記制動力よりも高く設定することを特徴とする。
【0018】
これにより、運転者の操作によりステアリング舵角又はステアリングトルクが変更される可能性が低いときは制動力を高め、車両の減速性能を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であり、且つ緊急ブレーキ及びアンチロックブレーキが作動しているとき、アンチロックブレーキによるブレーキ液圧の減少を抑制する。換言すると、車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であるときの緊急ブレーキ時には、通常時とは異なるアンチロックブレーキ制御を用いる。一般に、アンチロックブレーキは、操舵性能を維持しつつ、制動力の最大化を企図するものであり、操舵性能を考慮する分、制動力は若干低く抑えられる。前記所定速度が、例えば、車体を横移動させる可能性が極めて低い速度である場合、前方の障害物(先行車を含む。)を回避するためステアリング操作を支援する制御(回避操作支援制御)や、当該障害物を回避する際に車両の姿勢を維持する制御(車両姿勢制御)等を考慮する必要がほとんどない。このような場合、アンチロックブレーキによるブレーキ液圧の減少を抑制することで、緊急ブレーキ時に、車両をより早く減速させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態に係る制動力制御装置を有する車両のブロック構成図である。
【図2】前記実施形態におけるブレーキ機械系の概略構成図である。
【図3】前記ブレーキ機械系を制御するフローチャートである。
【図4】前記実施形態におけるブレーキモードの選択に関する説明図である。
【図5】前記実施形態においてABS制御等に応じてINバルブ、OUTバルブ及びレギュレータバルブの開閉制御及びポンプのオンオフ制御を示す図である。
【図6】ABS制御のみを実行する場合の一例を示すタイムチャートである。
【図7】ブレーキアシスト制御及び自動ブレーキ制御を伴うABS制御を実行する場合の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.一実施形態
1.車両10の構成
(1)全体構成
図1は、この発明の一実施形態に係る制動力制御装置12を有する車両10(以下「自車10」ともいう。)のブロック構成図である。制動力制御装置12は、各種の検出を行うセンサ群14と、車輪18fl、18fr、18rl、18rr(以下「車輪18」と総称する。)に対して制動力Fbを付与するブレーキ機械系16と、警報装置20と、センサ群14の検出値に基づいてブレーキ機械系16を制御する電子制御装置22(以下「ECU22」という。)とを有する。
【0022】
(2)センサ群14
図1に示すように、センサ群14には、レーダ30、ヨーレートセンサ32、舵角センサ34、トルクセンサ36、車体速度センサ38(車速センサ)、車輪速センサ40a〜40d、前後Gセンサ42、横Gセンサ44、第1操作量センサ46及び第2操作量センサ48を含む。
【0023】
レーダ30は、図示しないフロントグリル部等に設けられ、車両10の前方に向けてミリ波等の電磁波を送信波として送信し、その反射波に基づいて障害物(例えば、先行車等)のまでの距離(相対距離Dr)[m]、自車10からの方向及び当該障害物の大きさを検出し、ECU22に送信する。レーダ30の代わりに、例えば、画像センサを用いてもよい。ヨーレートセンサ32は、車両10に発生しているヨーレートYrを検出する。舵角センサ34は、操向ハンドル50(ステアリングホイール)の舵角θsを検出する。トルクセンサ36は、操向ハンドル50にかかるトルクTQを検出する。
【0024】
車体速度センサ38は、トランスミッションのカウンタシャフトの回転を検出する第1ホール素子(いずれも図示せず)と、当該第1ホール素子の出力に基づいて車体速度Vv[km/h]を演算する第1演算部(図示せず)とを備える。第1演算部は、ECU22に設けてもよい。
【0025】
車輪速センサ40a〜40dは、各車輪18の回転を検出する第2ホール素子(図示せず)と、当該第2ホール素子の出力に基づいて各車輪18fl、18fr、18rl、18rrの車輪速度Vw1、Vw2、Vw3、Vw4(以下「車輪速度Vw」と総称する。)[km/h]を演算する第2演算部(図示せず)とを備える。第2演算部は、ECU22に設けてもよい。
【0026】
前後Gセンサ42は、加速度センサであり車両10に発生している前後G(前後加速度)を検出する。横Gセンサ44は、加速度センサであり、車両10に発生している横G(横加速度)を検出する。第1操作量センサ46は、アクセルペダル52の操作量θaを検出する。第2操作量センサ48は、ブレーキペダル54の操作量θbを検出する。
【0027】
(3)ブレーキ機械系16
図2には、ブレーキ機械系16の概略構成図が示されている。図2に示すように、ブレーキ機械系16は、マスタシリンダ60、ホイールシリンダ62a〜62d、INバルブ64a〜64d、OUTバルブ66a〜66d、レギュレータバルブ68a、68b、サクションバルブ70a、70b、ポンプ72a、72b、ポンプモータ74、リザーバ76a、76b、ダンパ室78a、78b、チェック弁80a〜80d、82a、82b、84a、84b、86a、86b及び圧力計88を有する。
【0028】
INバルブ64a〜64d及びレギュレータバルブ68a、68bはノーマルオープン型の電磁弁であり、OUTバルブ66a〜66d及びサクションバルブ70a、70bはノーマルクローズ型の電磁弁である。各バルブ64a〜64d、66a〜66d、68a、68b、70a、70bは、ECU22からの指令に基づき開閉する(詳細は後述する。)。圧力計88は、配管90における圧力Piを検出する。
【0029】
(4)警報装置20
警報装置20は、図示しないスピーカを備え、ECU22からの指令の下、運転者に対する警告音を発する。
【0030】
(5)ECU22
図1に示すように、ECU22は、ハードウェアとして、入出力部100、演算部102及び記憶部104を有する。本実施形態の演算部102は、記憶部104に記憶されているプログラムに基づきブレーキ機械系16を制御することにより、アンチロックブレーキシステム機能110(以下「ABS機能110」という。)、トラクション制御機能112、横滑り防止機能114、回避操作支援機能116及び緊急ブレーキ機能118を実現する。
【0031】
ABS機能110は、ブレーキ機械系16から車輪18に対して制動力Fbが加えられている際(ブレーキ操作時)に車輪18のロックを防止する機能である。トラクション制御機能112は、駆動輪である車輪18のうち非ブレーキ操作時に過剰スリップ状態に陥りそうな駆動輪に対応したホイールシリンダ62a〜62dのブレーキ液圧Pbを制御する機能である。トラクション制御機能112は、例えば、加速時等の車輪18の空転を防ぐために用いられる。横滑り防止機能114は、車両10がカーブ等を旋回する際の横滑りを防止する機能である。
【0032】
回避操作支援機能116は、運転者が自車10を障害物から回避させるために操向ハンドル50を操作する際、当該操作を補助する機能である。ここにいう補助とは、図示しない補助モータを用いて回避方向への操舵をアシストする機能や、操舵を行うべきではない操舵方向への操舵に前記補助モータを用いて抵抗を付与する機能を含む。
【0033】
緊急ブレーキ機能118は、さらに、ブレーキアシスト機能120と、自動ブレーキ機能122とを含む。ブレーキアシスト機能120は、運転者によるブレーキペダル54の操作によって発生したブレーキ液圧Pbを通常よりも大きくする機能である。自動ブレーキ機能122は、各ホイールシリンダ62a〜62dにおけるブレーキ液圧Pbを自動的に(運転者によるブレーキペダル54の操作なしに)増加させる機能である。ブレーキアシスト機能120及び自動ブレーキ機能122におけるブレーキ液圧Pbを増加させる手法としては、例えば、ポンプ72a、72bを用いたものや、マスタシリンダ60の液圧を増加させるアキュームレータやモータを用いたものを挙げることができる。
【0034】
2.ブレーキ機械系16の制御
(1)ブレーキ機械系16の制御の流れ
図3には、ブレーキ機械系16を制御するフローチャートが示されている。ステップS1において、ECU22は、センサ群14から検出値を取得する。この際、センサ群14における各種センサの値は、ECU22においてそのまま用いることができるものと、演算部102での演算処理により具体的な数値を演算する必要があるものとが存在する。このため、ステップS1では、後者については、検出値を取得するのみならず、演算処理を実行し、より具体的な数値を得る。
【0035】
ステップS2において、ECU22は、ステップS1で取得した検出値に基づいて、緊急ブレーキ制御(緊急ブレーキ機能118)用の制御パラメータを演算する。本実施形態における当該制御パラメータは、相対速度Vr及び接触余裕時間(TTC:Time To Collision)である。
【0036】
ECU22は、レーダ30からの相対距離Drに基づいて自車10と障害物との相対速度Vr[km/h]を演算する。相対速度Vrは、以下の式(1)に基づいて算出される。
Vr(x)={Dr(x)−Dr(x−1)/Tc} ・・・(1)
【0037】
上記式(1)において、Tcは演算周期[s](固定値)を示し、xは、今回の演算周期Tcにおける値を示し、x−1は、前回の演算周期Tcにおける値を示す。
【0038】
次いで、ECU22は、以下の式(2)を用いてTTCを求める。
TTC(x)=Dr(x)/Vr(x) ・・・(2)
【0039】
図3のステップS3において、ECU22は、車両状態を演算する。ここでの車両状態としては、ブレーキ機械系16から車輪18に対して制動力Fbを付与している制動状態と、車両10が加速している加速状態と、運転者が操向ハンドル50を操作して舵角θsが変化している操舵状態と、上記いずれの状態でもない通常状態とが含まれる。従って、ECU22は、車両状態が、制動状態、加速状態、操舵状態又は通常状態のいずれであるかを演算する。当該演算には、ステップS1で取得した検出値を用いる。
【0040】
ステップS4において、ECU22は、緊急ブレーキ機能118のモード(ブレーキモード)を選択する。ブレーキモードとしては、通常モード、警報モード、ブレーキアシストモード、第1自動ブレーキモード及び第2自動ブレーキモードが含まれる。
【0041】
図4には、ブレーキモードの選択に関する説明図が示されている。図4からわかるように、本実施形態では、相対速度Vr及びTTCに基づいてブレーキモードを設定する。すなわち、自車10が障害物に接近することで、相対速度VrとTTCの組合せが緊急基準時間ラインを下回ると、ECU22は、通常モードから警報モードに切り替える。そして、ECU22は、警報装置20を介して運転者に警報を発する。警報は、1回のみの出力、断続的な出力又は連続的な出力のいずれでもよい。
【0042】
自車10がさらに障害物に接近することで、相対速度VrとTTCの組合せがブレーキアシスト基準時間ラインを下回ると、ECU22は、ブレーキアシストモードを選択する。そして、ブレーキアシストモードが選択されている状態で運転者がブレーキペダル54を操作すると、ECU22は、ブレーキペダル54の操作量θbに応じてブレーキ機械系16を制御してブレーキ液圧Pbを増大させる。なお、相対速度Vrが所定値Vr2(図4)以上である場合、警報基準時間ラインとブレーキアシスト基準時間ラインは一致し、警報モードとブレーキアシストモードとが同時に選択される。
【0043】
自車10がさらに障害物に接近することで、相対速度VrとTTCの組合せが自動ブレーキ1基準時間ラインを下回ると、ECU22は、第1自動ブレーキモードを選択する。そして、第1自動ブレーキモードが選択されている間、ECU22は、ブレーキペダル54の操作量θbから独立してブレーキ機械系16を制御してブレーキ液圧Pbを増大させる。
【0044】
自車10がさらに障害物に接近することで、相対速度VrとTTCの組合せが自動ブレーキ2基準時間ラインを下回ると、ECU22は、第2自動ブレーキモードを選択する。そして、第2自動ブレーキモードが選択されている間、ECU22は、ブレーキペダル54の操作量θbから独立してブレーキ機械系16を制御してブレーキ液圧Pbを増大させる。ここでの増大の度合いは、第1自動ブレーキモードの場合よりも大きくなる。なお、相対速度Vrが所定値Vr1(図4)以下である場合、自動ブレーキ1基準時間ラインと自動ブレーキ2基準時間ラインは一致し、第2自動ブレーキモードが優先して選択される。なお、以下では、第1自動ブレーキ制御と第2自動ブレーキ制御を合わせて「自動ブレーキ制御」と総称する。また、第1自動ブレーキ制御によるブレーキと第2自動ブレーキ制御によるブレーキを合わせて「自動ブレーキ」と総称する。
【0045】
相対速度VrとTTCの組合せが、緊急基準時間ラインを上回る場合、上記各モード(警報モード、ブレーキアシストモード、第1自動ブレーキモード及び第2自動ブレーキモード)のいずれも選択されず、通常モードが選択される。通常モードでは、通常のブレーキ液圧Pbが発生される。
【0046】
また、図4に伴う処理の更なる詳細については、特許文献3に記載のものを用いることができる(例えば、特許文献3の図4、段落[0031]〜[0045]参照)。
【0047】
図3に戻り、ステップS5において、ECU22は、ステップS4で選択したブレーキモードに応じてブレーキ機械系16による制動力Fbを演算する。例えば、通常モード又は警報モードが選択されている場合、ECU22は、ブレーキ機械系16による付加的な制動力Fbは発生させず、ブレーキペダル54の操作に応じた通常のブレーキ液圧Pbが発生するようにブレーキ機械系16による制動力Fbを制御する。
【0048】
また、ブレーキアシストモードが選択されている場合、ECU22は、ブレーキペダル54の操作に伴って発生する通常のブレーキ液圧Pbに加える付加的なブレーキ液圧Pb(付加的な制動力Fb)を、ブレーキペダル54の操作量θb又は踏力に応じて演算する。
【0049】
さらに、第1自動ブレーキモードが選択されている場合、ECU22は、ブレーキペダル54の操作にかかわらずブレーキ機械系16により発生させる付加的な制動力Fbを演算する。同様に、第2自動ブレーキモードが選択されている場合、ECU22は、ブレーキペダル54の操作にかかわらずブレーキ機械系16により発生させる付加的な制動力Fbを演算する。上記のように、相対速度Vr及びTTCが等しい場合、第2自動ブレーキモードにおける付加的な制動力Fbは、第1自動ブレーキモードにおける付加的な制動力Fbよりも大きくなる。
【0050】
ステップS6において、ECU22は、ABS制御(ABS機能110)を実行するか否かを判定する。本実施形態では、ブレーキペダル54が踏まれると(操作量θbがゼロより大きいとき)、ECU22は、ABS制御を実行すると判定する。
【0051】
ABS制御を実行しない場合(S6:NO)、ステップS9に進む。ABS制御を実行する場合(S6:YES)、ステップS7において、ECU22は、ABS制御で用いる制御パラメータを演算する。本実施形態における当該パラメータは、目標スリップ率St及び目標車輪速度Vwtである。
【0052】
目標スリップ率Stは、車輪18のスリップ率Sの目標値である。スリップ率Sは、車体速度Vvと車輪速度Vwの差を車体速度Vvで除したものである{S=(Vv−Vw)/Vv}。本実施形態において、目標スリップ率Stは固定値とされる。代わりに、車両10が走行している路面の種類(アスファルト、砂利道等)、路面状態(ドライ、ウェット等)、車体速度Vv等により可変とすることもできる。なお、前記路面の種類は、例えば、ナビゲーション装置(ナビゲーション装置の機能を有する携帯情報端末を含む。)により取得することができる。前記路面状態は、例えば、車輪18に対して瞬間的に制動力を自動的に働かせることにより算出される路面摩擦係数μにより推定することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、ブレーキモードとしてブレーキアシストモード、第1自動ブレーキモード又は第2自動ブレーキモードが選択されており且つABS制御が実行されている場合、目標スリップ率Stを増加させる。ここでの目標スリップ率Stの増加度合いは、ブレーキアシストモードよりも第1自動ブレーキモードを大きくし、さらに、第1自動ブレーキモードよりも第2自動ブレーキモードを大きくする。
【0054】
図4からわかるように、本実施形態では、通常、ブレーキモードが、通常モード、警報モード、ブレーキアシストモード、第1自動ブレーキモード及び第2自動ブレーキモードの順に変化していく。ブレーキモードが第2自動ブレーキモードに向かうほど、前方の障害物との接触の可能性が高くなる一方、運転者の操作により舵角θsが変更される可能性は低くなるといえる。このため、ブレーキモードが第2自動ブレーキモードに向かうほど目標スリップ率Stを増加させることで、舵角θsの変更が低い状況で車両10の減速度を高めることが可能となる。
【0055】
目標車輪速度Vwtは、車体速度Vv及び目標スリップ率Stに応じて算出することができる。例えば、目標車輪速度Vwtが車体速度Vv以下となるように、目標車輪速度Vwtと車体速度Vvとの差を事前に設定しておき、当該差を用いて目標車輪速度Vwtを算出することができる。当該差は、目標スリップ率Stに応じて設定することができる。
【0056】
図3のステップS8において、ECU22はバルブモードを選択する。本実施形態のバルブモードには、増圧モード、減圧モード及び保持モードがある。増圧モードは、ホイールシリンダ62a〜62dにかかるブレーキ液圧Pbを増大させるモードである。減圧モードは、ホイールシリンダ62a〜62dにかかるブレーキ液圧Pbを減少させるモードである。保持モードは、ホイールシリンダ62a〜62dにかかるブレーキ液圧Pbを保持させるモードである。
【0057】
実際の車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1(=Vw−Vwt)が閾値TH_D1を下回ると、ECU22は、一時的に減圧モードを選択し、その後、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しくなるまで保持モードを選択する。また、実際の車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtを上回ると、ECU22は、増圧モードを選択し、その後、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しくなるまで増圧モードを選択する。
【0058】
但し、本実施形態では、ブレーキモードとして第1自動ブレーキモード又は第2自動ブレーキモードが選択され、ABS制御が実行され且つ車体速度Vvが閾値TH_Vv以下である場合、減圧モードの選択が禁止される。このため、ECU22は、減圧モード又は保持モードしか選択することができない。
【0059】
本実施形態において、閾値TH_Vvには、車体を横移動させる可能性が低い速度が設定される。車体を横移動させる可能性が低い速度とは、例えば、横滑り防止機能114及び回避操作支援機能116の少なくとも一方を作動させるか否かを判定する速度閾値(例えば、30〜40km/hの中から選択された値)とすることができる。
【0060】
ステップS9において、ECU22は、ステップS8で選択したバルブモードに応じて(S6:YESの場合)又はステップS5で演算した制動力に応じて(S6:NOの場合)、各バルブを制御する。
【0061】
図5には、ABS制御等に応じてINバルブ64a〜64d、OUTバルブ66a〜66d、レギュレータバルブ68a、68bの開閉制御及びポンプ72a、72bのオンオフ制御を示す図である。図5に示すように、ABS制御を伴わない通常制御(パターン1)では、ノーマルオープン型のINバルブ64a〜64d及びレギュレータバルブ68a、68bはいずれも開(OFF)であり、ノーマルクローズ型のOUTバルブ66a〜66dは閉(OFF)である。また、ポンプ72a、72bはオフ(OFF)とする。
【0062】
ブレーキアシスト制御又は自動ブレーキ制御を伴わないABS制御(パターン2)では、レギュレータバルブ68a、68bは開(OFF)とされ、ポンプ72a、72bはオン(ON)にされた状態で、実際の車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの関係に応じてINバルブ64a〜64d及びOUTバルブ66a〜66dが開閉(ON/OFF)される。すなわち、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtを上回っている場合、INバルブ64a〜64dが開に、OUTバルブ66a〜66dが閉とされる。車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtの差D1が閾値TH_D1を下回っている場合、INバルブ64a〜64dが閉に、OUTバルブ66a〜66dが開とされる。車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しい場合、INバルブ64a〜64d及びOUTバルブ66a〜66dいずれも閉とされる。
【0063】
ブレーキアシスト制御を伴うABS制御(パターン3)では、レギュレータバルブ68a、68bは、マスタシリンダ60側とホイールシリンダ62a〜62d側との差圧に応じて開閉制御される。他にも、レギュレータバルブ68a、68bを比較的少ない駆動電流Irvにより少し閉じ、ポンプ72a、72bをオンにした状態で、パターン2と同様、実際の車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの関係に応じてINバルブ64a〜64d及びOUTバルブ66a〜66dを開閉する制御であってもよい。これにより、ブレーキペダル54の操作に伴うブレーキ液圧Pbによる制動を基本としつつ、ブレーキアシスト制御によるブレーキ液圧Pbを発生させてブレーキペダル54の操作を補助することが可能となる。
【0064】
自動ブレーキ制御を伴うABS制御(パターン4)では、レギュレータバルブ68a、68bは閉じられる。他にも、レギュレータバルブ68a、68bを比較的大きな駆動電流Irvにより大きく閉じ、ポンプ72a、72bをオンにした状態で、パターン2、3と同様、実際の車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの関係に応じてINバルブ64a〜64d及びOUTバルブ66a〜66dを開閉する制御であってもよい。従って、パターン3と比較して、パターン4では、ポンプ72a、72bからホイールシリンダ62a〜62dに付加されるブレーキ液圧Pbが大きくなり、より大きな制動力Fbを生じさせることができる。これにより、自動ブレーキ制御により発生させたブレーキ液圧Pbによる制動を行うことが可能となる。
【0065】
(2)ブレーキ機械系16の制御の具体例
(a)ABS制御のみを実行する場合
図6は、ABS制御のみを実行する場合(上記パターン2)の一例を示すタイムチャートである。時点t1において、車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1(=Vw−Vwt)が閾値TH_D1を下回ると、ECU22は、ABS制御で用いるバルブモードとして、増圧モードから減圧モードに切り替える。そして、時点t2まで減圧モードを維持したのち、時点t2において減圧モードから保持モードに切り替える。時点t1から時点t2まで一時的に減圧モードを選択する際、ECU22は、INバルブ64a〜64dを閉(ON)とし、OUTバルブ66a〜66dを開(ON)とする。これにより、ホイールシリンダ62a〜62dにおけるブレーキ液圧Pbが減少する。但し、ブレーキ機械系16の特性上、ブレーキ液圧Pbの減少には若干の応答遅れが発生する。従って、図6では、時点t3まで車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1が増加し、その後、差D1が減少する。このため、ECU22は、このような応答遅れを考慮して減圧モードを選択する期間を時点t1〜t2までとしている。
【0066】
時点t4において、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しくなると、ECU22は、保持モードから増圧モードに切り替え、増圧モードを維持する。この場合、ECU22は、INバルブ64a〜64dを開(OFF)とし、OUTバルブ66a〜66dを閉(OFF)とする。これにより、ホイールシリンダ62a〜62dにおけるブレーキ液圧Pbが減少する。但し、減圧モードの場合と同様、ブレーキ機械系16の特性上、ブレーキ液圧Pbの減少には若干の応答遅れが発生する。従って、図6では、時点t5まで車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1が増加し、その後、差D1が減少する。
【0067】
時点t6において、車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtの差D1が閾値TH_D1を下回ると、ECU22は、保持モードから減圧モードに切り替える。そして、時点t7まで減圧モードを維持したのち、時点t7において減圧モードから保持モードに切り替える。その後、時点t8において、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しくなると、ECU22は、増圧モードを選択する。
【0068】
図6に示すように、ABS制御のみを実行する場合(上記パターン2)、レギュレータバルブ68a、68bは開(OFF)のままである。加えて、自動ブレーキ制御の作動を示す自動ブレーキフラグはオフのままである。
【0069】
なお、ブレーキアシスト制御を伴うABS制御を実行する場合(上記パターン3)も、ABS制御のみを実行する場合(上記パターン2)と同様、レギュレータバルブ68a、68bは開(OFF)のままであると共に、自動ブレーキ制御の作動を示す自動ブレーキフラグはオフのままである。
【0070】
(b)自動ブレーキ制御を伴うABS制御を実行する場合
図7は、自動ブレーキ制御を伴うABS制御を実行する場合(上記パターン4)の一例を示すタイムチャートである。時点t11において、車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1が閾値TH_D1を下回ると、ECU22は、ABS制御で用いるバルブモードとして、増圧モードから減圧モードに切り替える。そして、時点t12まで減圧モードを維持した後、時点t12において減圧モードから保持モードに切り替える。時点t12〜t13まで車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差が増加し、その後、当該差が減少する。
【0071】
時点t14において、車輪速度Vwが目標車輪速度Vwtと等しくなると、ECU22は、保持モードから増圧モードに切り替え、増圧モードを維持する。時点t15まで車輪速度Vwと目標車輪速度Vwtとの差D1が増加し、その後、差D1が減少する。
【0072】
時点t16において、自動ブレーキフラグがオン(ON)になると、ECU22は、駆動電流Irvによりレギュレータバルブ68a、68bを大きく閉じる。上記の通り、ブレーキアシスト制御が選択されている場合、レギュレータバルブ68a、68bの駆動電流Irvは「小」とされ、自動ブレーキ制御(第1自動ブレーキ制御又は第2ブレーキ制御)が選択されている場合、レギュレータバルブ68a、68bの駆動電流Irvは「大」とされる。また、時点t16において、ECU22は、目標車輪速度Vwtを引き下げると共に、減圧モードの選択を禁止する。これにより、ブレーキ液圧Pbが高い状態が維持され易くなるため、車体の減速度が大きくなる。
【0073】
3.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であり、且つABS制御及び自動ブレーキ制御を実行しているとき、ABS制御によるブレーキ液圧Pbの減少を抑制する。換言すると、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であるときの自動ブレーキ時には、通常時とは異なるABS制御を用いる。一般に、アンチロックブレーキは、操舵性能を維持しつつ、制動力Fbの最大化を企図するものであり、操舵性能を考慮する分、制動力Fbは若干低く抑えられる。閾値TH_Vvが、例えば、車体を横移動させる可能性が極めて低い速度である場合、前方の障害物(先行車を含む。)を回避するためステアリング操作を支援する制御(回避操作支援機能116)や、当該障害物を回避する際に車両10の姿勢を維持する制御(横滑り防止機能114を含む車両姿勢制御)等を考慮する必要がほとんどない。このような場合、アンチロックブレーキによるブレーキ液圧Pbの減少を抑制することで、緊急ブレーキ時に、車両10をより早く減速させることが可能となる。
【0074】
本実施形態では、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であり、且つ自動ブレーキ及びアンチロックブレーキが作動しているとき、ブレーキ液圧Pbの減少を禁止する。ブレーキ液圧Pbの減少を禁止することにより、車輪18にかかるブレーキ液圧Pbを高圧に維持できるため、ブレーキ時の制動性能を高くすることが可能となる。
【0075】
本実施形態では、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であり、且つ自動ブレーキ及びアンチロックブレーキが作動しているとき、目標車輪速度Vwtを通常よりも低くする。これにより、実際の車輪速度Vwを目標車輪速度Vwtと等しくするためには、より大きな制動力Fbを生成する必要が生じる。このため、緊急ブレーキが効き易くなり、緊急ブレーキ時に、車両10をより早く減速させることが可能となる。
【0076】
本実施形態では、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であるとき、ABS制御及び自動ブレーキ制御を実行しているときの目標車輪速度Vwtは、ABS制御及びブレーキアシスト制御を実行しているときの目標車輪速度Vwtよりも低く設定される。これにより、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下であり且つ緊急自動ブレーキ制御を実行中である場合、緊急自動ブレーキが効き易くなり、緊急自動ブレーキ時に、車両10をより早く減速させることが可能となる。
【0077】
B.変形例
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0078】
1.車両10
上記実施形態では、車両10は四輪車であったが、これに限られず、例えば、二輪車、トラック、バス等であってもよい。
【0079】
2.相対距離Dr
上記実施形態では、自車10と障害物(先行車)との相対距離Drの判定をレーダ30の出力に基づいて行ったが、これに限られず、例えば、画像センサからの出力を用いて判定してもよい。
【0080】
3.ABS制御(ABS機能110)及び緊急ブレーキ制御(緊急ブレーキ機能118)
(1)ABS制御(ABS機能110)
上記実施形態では、バルブモードの切替えの指標として目標車輪速度Vwtを用いたが、これに限らない。例えば、車体車速Vv若しくはその目標値、車輪速度Vw、ブレーキ液圧Pb若しくはその目標値又はスリップ率S若しくは目標スリップ率Stを用いてもよい。
【0081】
(2)緊急ブレーキ制御(緊急ブレーキ機能118)
上記実施形態では、緊急ブレーキ制御として、ブレーキアシスト制御(ブレーキアシスト機能120)及び自動ブレーキ制御(自動ブレーキ機能122)を用いたが、これに限らない。例えば、ブレーキアシスト制御又は自動ブレーキ制御のいずれか一方のみを用いることもできる。また、自動ブレーキ制御(自動ブレーキ機能122)として、第1自動ブレーキ制御と第2自動ブレーキ制御を用いたが、これに限らず、いずれか一方のみとし、又はさらに別の自動ブレーキ制御を設けてもよい。
【0082】
(3)減圧モードの制限
上記実施形態では、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下のときに減圧モードの選択を禁止したが、減圧モードを禁止する条件はこれに限らない。換言すると、上記実施形態では、舵角θsが変更される可能性を判定するために、車体速度Vvとその閾値TH_Vvを用いたが、舵角θsが変更される可能性を判定する手段及び方法は、これに限らない。例えば、車体速度Vvの目標値、車輪速度Vw(平均値を含む。)又は目標車輪速度Vwtが所定の閾値以下のときに減圧モードの選択を禁止してもよい。或いは、TTCが所定の閾値以下となってから所定時間、舵角θsの変化量を演算し、当該所定期間内において舵角θsの変化量がほとんど検出されない場合(例えば、舵角θsの変化量に関する閾値又は領域を設け、当該変化量が閾値を下回る場合又は当該領域内にある場合)、減圧モードを禁止することも可能である。
【0083】
なお、舵角θsが変更される可能性の判定の代わりに、操向ハンドル50にかかるトルクTQが変更される可能性(換言すると、トルクTQの変化量がほとんど検出されない可能性)の判定を行ってもよい。
【0084】
上記実施形態では、車体速度Vvが閾値TH_Vv以下のときに減圧モードの選択を禁止したが、減圧モードの禁止までは行わずに、減圧モードを制限してもよい。例えば、減圧モードの時間の短縮又は所定期間内の回数制限を行うこともできる。
【0085】
(4)目標車輪速度Vwtの低下
上記実施形態では、自動ブレーキフラグが立ったとき、目標車輪速度Vwtを低下させたが(図7のt16)、そのような低下を行わないことも可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…車両(自車) 12…制動力制御装置
18fl、18fr、18rl、18rr…車輪
22…ECU(ステアリング操作変更可能性判定部)
72a、72b…ポンプ(加圧手段) 74…ポンプモータ(加圧手段)
110…ABS機能(アンチロックブレーキ制御手段、アンチロックブレーキ部)
118…緊急ブレーキ機能(緊急ブレーキ制御手段)
120…ブレーキアシスト機能(緊急ブレーキアシスト手段)
122…自動ブレーキ機能(緊急自動ブレーキ手段)
Fb…制動力 Pb…ブレーキ液圧
S…スリップ率 TH_Vv…閾値(所定速度)
Vv…車体速度 Vw…車輪速度
Vwt…目標車輪速度 θs…ステアリング角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪速度、車体速度、ブレーキ液圧又はスリップ率が目標値となるようにブレーキ液圧を減少、保持又は増加させて車両の車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御手段と、
緊急時に通常のブレーキ液圧よりも高い液圧を発生させる緊急ブレーキ制御手段と
を備える制動力制御装置であって、
車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ制御手段による緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキ制御手段によるアンチロックブレーキが作動しているとき、前記アンチロックブレーキによる前記ブレーキ液圧の減少を抑制する
ことを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の制動力制御装置において、
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキが作動しているとき、前記ブレーキ液圧の減少を禁止する
ことを特徴とする制動力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の制動力制御装置において、
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であり、且つ前記緊急ブレーキ及び前記アンチロックブレーキが作動しているとき、前記車輪速度若しくは前記車体速度の目標値を通常よりも低くする、又は前記ブレーキ液圧若しくは前記スリップ率の目標値を通常よりも高くする
ことを特徴とする制動力制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の制動力制御装置において、
前記緊急ブレーキ制御手段は、
加圧手段により前記ブレーキ液圧を自動的に増加させる緊急自動ブレーキ手段と、
運転者の操作に伴って発生する前記ブレーキ液圧を前記加圧手段により増加させる緊急ブレーキアシスト手段と
を有し、
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であるとき、前記緊急自動ブレーキ手段及び前記アンチロックブレーキ手段を作動させるときの前記車輪速度若しくは前記車輪速度の目標値は、前記緊急ブレーキアシスト手段及び前記アンチロック制御手段を作動させるときよりも低く設定される、又は
前記車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が前記所定速度以下であるとき、前記緊急自動ブレーキ手段及び前記アンチロックブレーキ手段を作動させるときの前記ブレーキ液圧若しくは前記スリップ率の目標値は、前記緊急ブレーキアシスト手段及び前記アンチロック制御手段を作動させるときよりも高く設定される
ことを特徴とする制動力制御装置。
【請求項5】
車輪に対する制動力を制御する制動力制御装置であって、
前記車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ部と、
運転者の操作によりステアリング舵角又はステアリングトルクが変更される可能性を判定するステアリング操作可能性判定部と
を備え、
車体速度若しくは車輪速度又はこれらの目標値が同じ場合、前記ステアリング舵角又は前記ステアリングトルクが変更される可能性が低いときの前記制動力を、前記ステアリング舵角又は前記ステアリングトルクが変更される可能性が高いときの前記制動力よりも高く設定する
ことを特徴とする制動力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−214189(P2012−214189A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82288(P2011−82288)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】