説明

制動装置

【課題】磁気粘性流体の使用量を必要最小限に抑えることが可能で、かつより安定した制動力を得ることができる制動装置を提供する。
【解決手段】本発明の制動装置は、中空のハウジング10と、ハウジング10の内部で回転可能なロータ30と、ハウジング10の内周面とそれに向き合うロータ30の外周面との間に形成される隙間であって、該隙間の向かい合った2つの開口部がそれぞれハウジング10の内周面に交差する面によって閉塞される空隙90と、空隙90に充填される磁気粘性流体40と、空隙90からの磁気粘性流体40の漏出を防止するシール部材50と、ハウジング10の内部に配置され、磁気粘性流体40に印加される磁場を発生させるコイル60とを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を用いた制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非可動体と、該非可動体の外部又は内部で回転可能な可動体と、該可動体と前記非可動体との間に充填される磁気粘性流体と、該磁気粘性流体に印加される磁場を発生させるコイルとを備えた制動装置が知られている。
【0003】
この種の制動装置は、磁場を磁気粘性流体に印加し、それにより磁気粘性流体の粘度が増加することを利用して、可動体の回転速度を減速させたり、その回転を停止させたりするものである。磁気粘性流体に印加される磁場は、コイルに電流を流すことによって発生させている。
【0004】
例えば、米国特許第6,186,290号明細書には、2つの装置が開示されている。第1の装置は、非可動体である磁極片(45)と、磁極片(45)の外部で回転可能な可動体である周壁(26)と、周壁(26)と磁極片(45)との間に形成される空隙(46)と、空隙(46)に充填される磁気粘性流体(48)と、磁気粘性流体(48)に印加される磁場を発生させるコイル(60)とを備えている。第2の装置は、非可動体であるシャフト(124)と、シャフト(124)の外部で回転可能な可動体であるローラ(120)と、シャフト(124)の外周面とそれに向き合うローラ(120)の内周面との間に形成される空隙(146)と、空隙(146)に充填される磁気粘性流体(148)と、磁気粘性流体(148)に印加される磁場を発生させるコイル(160)とを備えている。
【0005】
しかしながら、いずれの装置も空隙(46,146)と連通する空間(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生しない領域)まで磁気粘性流体が充填される構造であるため、多量な磁気粘性流体が使用されている。磁気粘性流体は高価であるため、そのような構造では、製造コストが高くつくという問題がある。
【0006】
特開2008−202744号公報には、非可動体であるケース(1)と、ケース(1)の内部で回転可能な可動体であるプレート(3)と、プレート(3)とケース側プレート(11)との間に形成される空隙と、該空隙に充填される磁気粘性流体と、該磁気粘性流体に印加される磁場を発生させるコイル(4)とを備える装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、この装置も、空隙と連通する空間(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生しない領域)まで磁気粘性流体が充填される構造であるため、多量な磁気粘性流体を必要とするという欠点がある。
【0008】
磁気粘性流体は、合成油等の流体中に強磁性粒子を分散させた懸濁液であり、無磁場の状態では低粘度の液体であるため、従来のように、制動力を実質的に発生させる空隙(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生する領域)のみならず、制動力を実質的に発生させない空間(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生しない領域)にも磁気粘性流体が充填される構造では、流体中の強磁性粒子が沈殿しやすくなり、その結果、制動力が低下し、制動特性が安定しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,186,290号明細書
【特許文献2】特開2008−202744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、磁気粘性流体の使用量を必要最小限に抑えることが可能で、かつより安定した制動力を得ることができる制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の制動装置を提供する。
1.中空のハウジングと、該ハウジングの内部で回転可能なロータと、前記ハウジングの内周面とそれに向き合う前記ロータの外周面との間に形成される隙間であって、該隙間の向かい合った2つの開口部がそれぞれ前記ハウジングの内周面に交差する面によって閉塞される空隙と、該空隙に充填される磁気粘性流体と、前記空隙からの前記磁気粘性流体の漏出を防止するシール部材と、前記ハウジングの内部に配置され、前記磁気粘性流体に印加される磁場を発生させるコイルとを具備する制動装置。
2.前記ハウジング及び前記ロータが高密度鉄系焼結金属で形成されている前記1に記載の制動装置。
3.前記ハウジング及び前記ロータが純鉄を主成分とする高密度焼結金属で形成されている前記1に記載の制動装置。
4.前記ハウジングが前記ロータを支持する支持部を有し、該支持部の密度が前記ハウジングの前記支持部以外の部分の密度よりも低く設定され、かつ前記支持部に潤滑油が含浸されている前記2又は3に記載の制動装置。
5.前記支持部の密度が7g/cm未満であり、前記ハウジングの前記支持部以外の部分の密度が7g/cm以上である前記4に記載の制動装置。
6.前記ハウジングが前記ロータを支持する支持部を有し、前記ロータが前記支持部に接する被支持部を有し、前記被支持部の密度が前記ロータの前記被支持部以外の部分の密度よりも低く設定され、かつ前記被支持部に潤滑油が含浸されている前記2又は3に記載の制動装置。
7.前記被支持部の密度が7g/cm未満であり、前記ロータの前記被支持部以外の部分の密度が7g/cm以上である前記6に記載の制動装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制動装置によれば、磁気粘性流体が、ハウジングの内周面とそれに向き合うロータの外周面との間に形成される隙間であって、該隙間の向かい合った2つの開口部がそれぞれハウジングの内周面に交差する面によって閉塞される空隙に充填されるとともに、その空隙からの磁気粘性流体の漏出を防止するシール部材を備えている。したがって、磁気粘性流体は、制動力が実質的に発生する空隙(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生する領域)だけに充填されることになるので、磁気粘性流体の使用量を必要最小限に抑えることが可能になる。また、制動力を実質的に発生させない空間(すなわち、磁気粘性流体の剪断応力が発生しない領域)には、磁気粘性流体が充填されない構造であるため、流体中の強磁性粒子が沈殿し難く、その結果、制動特性をより安定させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例1及び2に係る制動装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係る制動装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1に係る制動装置の内部構造の部分拡大図である。
【図4】図4は、本発明の実施例2に係る制動装置の内部構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明するが、本発明の技術的範囲は以下の説明の内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係る制動装置を示す斜視図、図2は、本発明の実施例1に係る制動装置の内部構造を示す断面図、図3は、本発明の実施例1に係る制動装置の内部構造の部分拡大図である。
【0016】
本実施例に係る制動装置は、ハウジング10、プラグ20、ロータ30、磁気粘性流体40、シール部材50及びコイル60を有して構成されている(図1乃至図3参照)。
【0017】
ハウジング10は、中空であり、円筒形の第1周壁部11、第1周壁部11の内径よりも大きい内径を有する円筒形の第2周壁部12及び第1周壁部11の端部を塞ぐ底壁部14を有して構成されている(図1及び図2参照)。第1周壁部11は、第1周壁部11の外周面から突出するフランジ部16及び第1周壁部11を貫通する孔部17を有して構成されている(図1参照)。フランジ部16は、ハウジング10の固定に用いられるものである。孔部17は、ハウジング10の内部にリード線80を引き込むための穴である。第1周壁部11と第2周壁部12との間には、第1周壁部11と直交する座部13が介在している(図2参照)。底壁部14の中央には、底壁部14の内面から突出する軸状の支持部15が設けられている(図2参照)。支持部15は、ロータ30を支持するために設けられたものである。
【0018】
プラグ20は、円板であり、プラグ20の内面が座部13の内面に接するように配置された後、第2周壁部12の端部12aをかしめることによって、ハウジング10に取り付けられている(図2参照)。プラグ20の中央には、プラグ20を貫通する孔部21が形成されており、この孔部21にはロータ30の軸部31が挿通される(図2参照)。
【0019】
ロータ30は、軸部31及び円板部32を有して構成されている(図2参照)。軸部31は、支持部15の先端がはまり込む凹状の被支持部33を有する(図2参照)。ロータ30は、被支持部33及び軸部31の外周面がそれぞれハウジング10に設けられた支持部15及びプラグ20に設けられた孔部21によって回転可能に支持されている(図2参照)。円板部32は、第1周壁部11の内径よりも小さい外径を有する。円板部32は、ハウジング10の内部において、円板部32の外周面32aと交差する円板部32の第1面32bがプラグ20の内面に接し、円板部32の外周面32aと交差する円板部32の第2面32c(第1面32bの反対側の面)がコイルボビン70の外面に接するように配置されている(図3参照)。
【0020】
磁気粘性流体40は、合成油等の流体中に強磁性粒子を分散させた懸濁液であり、無磁場の状態では低粘度の液体であるが、磁場を印加すると分散していた粒子が互いに連結して架橋構造を形成し、磁場強度に応じて見掛けの粘度が増加する性質を有するものである。磁気粘性流体40は、本実施例では、ハウジング10の内周面である第1周壁部11の内周面11aとそれに向き合うロータ30の外周面である円板部32の外周面32aとの間に形成される隙間であって、該隙間の向かい合った2つの開口部がそれぞれハウジング10の内周面(第1周壁部11の内周面11a)に交差する面であるプラグ20の内面及びコイルボビン70の外面によって閉塞される空隙90に充填されている。
【0021】
シール部材50は、空隙90からの磁気粘性流体40の漏出を防止するために、プラグ20の内面と座部13の内面との間、円板部32の第1面32bとプラグ20の内面との間、円板部32の第2面32cとコイルボビン70の外面との間及び第1周壁部11の内周面11aとコイルボビン70の端面との間にそれぞれ設けられている(図3参照)。
【0022】
コイル60は、支持部15の周囲に配置されるコイルボビン70に巻かれており、コイル60には、リード線80が接続されている(図2参照)。
【0023】
上記したハウジング10及びロータ30は、高密度鉄系焼結金属で形成されることが好ましい。鉄系焼結金属は、他の焼結金属と比較して透磁率が高いからである。ハウジング10及びロータ30の他の形成材料としては、純鉄を主成分とする高密度焼結金属が好ましい。純鉄を主成分とする焼結金属は、他の鉄系焼結金属と比較して透磁率が高いからである。ハウジング10及びロータ30を焼結金属で形成する場合に、それらの密度は、6g/cm以上であることが好ましい。6g/cm未満では、磁気粘性流体40がハウジング10又はロータ30を介して外部に漏出するおそれが高いからである。磁気粘性流体40の外部への漏出を確実に防止するには、それらの密度は、7g/cm以上であることが好ましい。
【0024】
ハウジング10を焼結金属で形成する場合には、支持部15の密度を支持部15以外の部分(すなわち、第1周壁部11、第2周壁部12、座部13及び底壁部14)の密度よりも低く設定し、かつ支持部15に潤滑油を含浸させることが好ましい。この場合、潤滑油を含浸させるために支持部15の密度を7g/cm未満とし、また、磁気粘性流体40の漏出を防止するために支持部15以外の部分の密度を7g/cm以上とすることが好ましい。本実施例では、支持部15の密度を6.5〜6.9g/cmとした。それにより、軸受け部材を設置しなくても、ロータ30を円滑に回転させることができ、また、支持部15及び被支持部33の耐摩耗性を向上させることができた。また、本実施例では、支持部15以外の部分の密度を7.2g/cm以上とした。それにより、磁気粘性流体40の漏出を確実に防ぐことができた。
【0025】
上記のように構成される制動装置は、リード線80を介してコイル60に電流を供給することにより磁場が発生し、この磁場は、空隙90の全ての領域に亘って及び、空隙90に充填された磁気粘性流体40に印加される。磁気粘性流体40は、磁場強度に応じて見掛けの粘度が増加する性質を有するため、磁場強度が高まるにつれて磁気粘性流体40の剪断応力も高まる。したがって、回転するロータ30の回転速度を減速させたり、ロータ30の回転を停止させたりする制動力も磁場強度が高くなるにしたがって大きくなる。
【0026】
本実施例に係る制動装置によれば、磁気粘性流体40は、制動力が実質的に発生する空隙90(すなわち、磁気粘性流体40の剪断応力が発生する領域)だけに充填されることになるので、磁気粘性流体40の使用量を必要最小限に抑えることが可能になる。また、制動力が実質的に発生しない空間(すなわち、磁気粘性流体40の剪断応力が発生しない領域)には、磁気粘性流体40が充填されない構造であるため、流体中の強磁性粒子が沈殿し難く、その結果、制動特性をより安定させることが可能になる。
【実施例2】
【0027】
図1は、本発明の実施例2に係る制動装置を示す斜視図、図4は、本発明の実施例2に係る制動装置の内部構造を示す断面図である。
【0028】
本実施例に係る制動装置は、ハウジング10及びロータ30の構造が実施例1に係る制動装置と異なる。
【0029】
すなわち、本実施例では、ハウジング10の底壁部14に設けられた支持部15が孔部18を有している(図4参照)。この孔部18は、支持部15及び底壁部14を貫通するように形成されている。また、本実施例では、ロータ30の軸部31が孔部18に挿通される軸状の被支持部33を有している(図4参照)。
【0030】
上記したハウジング10及びロータ30は、実施例1と同様に、高密度鉄系焼結金属で形成されることが好ましい。また、ハウジング10及びロータ30の他の形成材料としては、純鉄を主成分とする高密度焼結金属が好ましい。さらに、ハウジング10及びロータ30を焼結金属で形成する場合に、それらの密度は、6g/cm以上であることが好ましく、磁気粘性流体40の外部への漏出を確実に防止するには、それらの密度は、7g/cm以上であることが好ましい。
【0031】
ロータ30を焼結金属で形成する場合には、被支持部33の密度を被支持部33以外の部分(すなわち、軸部31及び円板部32)の密度よりも低く設定し、かつ被支持部33に潤滑油を含浸させることが好ましい。この場合、潤滑油を含浸させるために被支持部33の密度を7g/cm未満とし、また、磁気粘性流体40の漏出を防止するために被支持部33以外の部分の密度を7g/cm以上とすることが好ましい。本実施例では、被支持部33の密度を6.5〜6.9g/cmとした。それにより、軸受け部材を設置しなくても、ロータ30を円滑に回転させることができ、また、支持部15及び被支持部33の耐摩耗性を向上させることができた。また、本実施例では、被支持部33以外の部分の密度を7.2g/cm以上とした。それにより、磁気粘性流体40の漏出を確実に防ぐことができた。
【0032】
本実施例に係る制動装置も、磁気粘性流体40が充填される空隙90は、実施例1と同様に構成されている。したがって、磁気粘性流体40の使用量を必要最小限に抑えることが可能になる。また、制動力が実質的に発生しない空間(磁気粘性流体40の剪断応力が発生しない領域)には、磁気粘性流体40が充填されない構造であるため、流体中の強磁性粒子が沈殿し難く、その結果、制動特性をより安定させることが可能になる。
【符号の説明】
【0033】
10 ハウジング
11 第1周壁部
12 第2周壁部
13 座部
14 底壁部
15 支持部
16 フランジ部
17 孔部
18 孔部
20 プラグ
21 孔部
30 ロータ
31 軸部
32 円板部
33 被支持部
40 磁気粘性流体
50 シール部材
60 コイル
70 コイルボビン
80 リード線
90 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のハウジングと、
該ハウジングの内部で回転可能なロータと、
前記ハウジングの内周面とそれに向き合う前記ロータの外周面との間に形成される隙間であって、該隙間の向かい合った2つの開口部がそれぞれ前記ハウジングの内周面に交差する面によって閉塞される空隙と、
該空隙に充填される磁気粘性流体と、
前記空隙からの前記磁気粘性流体の漏出を防止するシール部材と、
前記ハウジングの内部に配置され、前記磁気粘性流体に印加される磁場を発生させるコイルとを具備する制動装置。
【請求項2】
前記ハウジング及び前記ロータが高密度鉄系焼結金属で形成されている請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記ハウジング及び前記ロータが純鉄を主成分とする高密度焼結金属で形成されている請求項1に記載の制動装置。
【請求項4】
前記ハウジングが前記ロータを支持する支持部を有し、該支持部の密度が前記ハウジングの前記支持部以外の部分の密度よりも低く設定され、かつ前記支持部に潤滑油が含浸されている請求項2又は3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記支持部の密度が7g/cm未満であり、前記ハウジングの前記支持部以外の部分の密度が7g/cm以上である請求項4に記載の制動装置。
【請求項6】
前記ハウジングが前記ロータを支持する支持部を有し、前記ロータが前記支持部に接する被支持部を有し、前記被支持部の密度が前記ロータの前記被支持部以外の部分の密度よりも低く設定され、かつ前記被支持部に潤滑油が含浸されている請求項2又は3に記載の制動装置。
【請求項7】
前記被支持部の密度が7g/cm未満であり、前記ロータの前記被支持部以外の部分の密度が7g/cm以上である請求項6に記載の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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