説明

制御された単分子層形成のための方法及びデバイス

本発明は、例えば、1つ又は複数のリン脂質又はコレステロール結合核酸を含んでいる、単分子層を形成するための方法及びデバイスを開示する。単分子層は、例えば、疎水性物質を含有している表面上に存在するか、又は表面と結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年3月26日出願の米国特許仮出願第60/908,872号の優先権を主張して、その内容全体は参照により本明細書に明確に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
ポリマー、バイオマテリアル及び他のソフトマテリアルは、基礎と応用の両方の見地から、ますます重要性が高まりつつある。材料の適用範囲は、ナノスケール(例えば、生体分子材料及びコポリマの中間相)から顕微鏡的(マイクロエレクトロニクス)、さらには巨視的(高性能構造複合材料)までに及ぶ。材料の開発と密接に関連しているのは、適用の小型化であり、これは、例えば、非侵襲的インビボ診断、ならびに化学的及び電気化学的治療のための分子レベルの化学センシングを伴う生物医学用マイクロマシン、のような超微細デバイスをもたらす。この小型化を達成するため、ナノスケール構造体及び成分を産出する高度に制御された方法をもたらす、自己集合(self-assembly)方法が活用され、開発されている。現時点では、マイクロ及びナノ構造体表面上での自己集合生体分子(例えば、脂質、ポリペプチド、DNA及び生体高分子)に使用するためのマイクロチャネル及びパターン化表面を開発する試みはまだ成功を収めていない。高度配向性で可変次元の自己集合体は、例えば、ナノワイヤ及びナノ導管のような、ナノ及びマイクロスケールの無機/有機構造体の加工処理用の鋳型として使用されている。例えば、医療移植片及びインビボでの薬剤送達システムにおいて、生体適合性材料への需要が急速に増大しつつある。
【0003】
さらに、生体膜の機能的及び生理的局面への洞察を得るには、サポートする脂質単分子層、二分子層及び多分子層の化学的及び動的性質を検討する必要があり、既存の手法では不十分である。固体表面結合平面膜の利点を生かしたシステム及び方法が得られることは、エバネセント場分光法(Watts,T., H.Gaub, and H.McConnell, 1986. Nature, 320:179−181)のような表面感受性技術が適用可能であるから、有用である。今までのところ、リン脂質膜に関する入手可能な検討の大部分は、集合体及び分子組織化工程にわたる制御を欠いている、ラングミュア・ブロジェット(Langmuir-Blodgett)法又は小胞融合によって製造された静的脂質層を使用して実施されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在の固定化手法の大半は、長いインキュベーション期間、複数回の洗浄工程及び強い化学処理工程を含み、それらは固定化システムの適用性を複雑で面倒なものにしている。従って、生体分子を表面に固定化するための方法と技能が当該技術分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、固体基板上の単分子層フィルムを形成するための方法及びデバイスを開示する。より詳細には、本発明は、ナノテクノロジー及びナノバイオテクノロジー及び固体−ソフトマター界面に関する。
【0006】
両親媒性分子又は一般に少なくとも1つの疎水性部分を含む分子の自己集合体を制御して、主として疎水性特性を有する固体表面と定義された組成の自己集合した又は吸着した分子の単分子層との間に定義された界面を作製するための方法及び技術が本明細書に開示される。例えば、単分子層は、1つ又はそれ以上のリン脂質、DNA、ペプチド、膜タンパク質を含むタンパク質、液晶、又はそれらの混合物を含んでいてよい。
【0007】
本明細書において提供される方法及びシステムは、自己集合又は自己会合に依存する方法を利用する多くの領域及び分野において、例えば、生体膜研究において、またSPR及びQCMを含む薬剤スクリーニング、生体高分子分離及びバイオセンシングにおいても適用可能である。したがって、デバイスの形状は、例えば、薄膜における分離、反応及び混合現象に対して活用できる特異的機能性を促進するために設計され、カスタマイズされてもよい。さらなる例として、本明細書に提供される方法及びシステムは、表面支援(二次元)超分子及び高分子集合及び合成のため、ならびにナノスケール構造体及びデバイスの生産のために使用できる。一般にそれは、二次元マイクロ流体学又は薄膜流体学のプラットフォームについての基礎を形成する。
【0008】
本明細書は、一態様により、疎水性表面を有する基板を含んでいるデバイスを開示していて、その疎水性表面は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合する。
【0009】
一実施態様では、疎水性表面は、チェンバ、カラム、二次元表面(例えば、96、384又は1536ウェルマイクロタイタプレート)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)結晶、表面プラズモン共鳴(SPR)、チップ、顕微鏡カバーガラス、マイクロ流体チップ、サンドイッチ細胞、又はチャネル(例えば、及び/又はナノメートル〜メートル次元の他の何れかの幾何学的形状)の全部もしくは一部を含む、又は全部もしくは一部を形成する。
【0010】
別の実施態様では、疎水性表面は、SU−8、硬化焼成SU−8、疎水性ポリマー、ガラス、セラミック、金属、又は液晶(SU−8様特性を有する他の物質、又は水との高接触角を有する物質)の1つ又はそれ以上を含む。
【0011】
一実施態様では、疎水性表面はサブ構造体のパターンを含む。
別の実施態様では、サブ構造体は、層内の穿孔、層内の穴、層上の柱又は他の物質、パッチ、又は固定化された粒子、フィルム、化学物質、又は分子の1つ又はそれ以上を含む。
【0012】
一実施態様では、層内の穿孔、層内の穴、層上の柱又は他の物質、パッチ、又は固定化された粒子、フィルム、化学物質、又は分子は、薄膜、周囲の溶液及び/又は周囲の空気、ガスもしくは真空中に存在する物質又は化合物への触媒の、結合の、化学吸着の、物理吸着の、(若しくは反応性)、又は調節の効果を含む。
【0013】
別の実施態様では、サブ構造体は、1つ又はそれ以上の秩序づけられた(例えば、配列された)又は無秩序な方式に配置されていて、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の拡散フィルムによって完全にもしくは部分的に覆われるように又は囲まれるように適合されている。
【0014】
別の実施態様では、疎水性表面は、化学反応、表面支援性合成手順、触媒プロセス、超分子自己集合、又は親和性に基づく分離(例えば、サブ構造体上又はサブ構造体内に固定化された物質又は反応物と拡散フィルムの活性成分との間で実施することができる)を含むプロセスに適合している。
【0015】
一実施態様では、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子は、リン脂質、両親媒性分子(例えば、洗浄剤)界面活性剤、タンパク質(例えば、膜タンパク質、疎水性部分で修飾されたタンパク質)、ペプチド(例えば、長ペプチド又は短ペプチド、疎水性部分で修飾されたペプチド)、核酸、オリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA及びsiRNA)、疎水性部分で修飾された分子(例えば、疎水性表面と強力な疎水性相互作用を形成する能力を有する上記すべての脂質尾部)の1つ又はそれ以上を含む。
【0016】
一実施態様では、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子はフィルムを含む。
別の実施態様では、フィルムは、液体、固体、液晶又はゲルの1つ又はそれ以上を含む。
【0017】
一実施態様では、デバイスは温度制御装置をさらに含む。
一実施態様では、温度制御装置は、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の相転移及び拡散挙動が制御可能であるような制御を可能にする。
【0018】
一実施態様では、疎水性表面は、エンボス加工された又は刻み込まれた幾何パターン(例えば、2D及び3D)の1つ又はそれ以上を含む。
1つの態様によれば、疎水性表面、疎水性がより低い表面、及び疎水性表面を少なくとも部分的に覆いそして疎水性表面に限局される少なくとも1つの疎水性部分を有する分子のフィルムを含む基板を含むデバイスが、本明細書に開示される。
【0019】
1つの態様によれば、結合している極性(例えば、水性)環境において形成される薄膜単分子層表面を有する疎水性表面を含有する基板を含むデバイスであって、薄膜単分子層表面が疎水性表面上にリン脂質リポソームを配置することによって形成され、リン脂質リポソームが、疎水性表面上に配置されたとき拡散して薄膜単分子層表面を形成する、デバイスが本明細書に開示される。
【0020】
別の実施態様では、薄膜単分子層は、1つ又はそれ以上の付加的な成分をさらに含む。
一実施態様では、さらなる成分は、他の脂質、膜タンパク質、膜に分配するように適合された分子もしくは粒子(例えば、薬剤及び染料)、又は膜に分配するように適合された別の分子に結合している分子及び粒子の1つ又はそれ以上を含む。
【0021】
別の実施態様では、1つ又はそれ以上の付加的な成分は、疎水性部分(例えば、コレステロール)と結合したオリゴヌクレオチド(例えば、DNA)を含む。
【0022】
1つの態様によれば、混合領域と連通している第一及び第二注入容器を含んでいるミキサーを含有する基板を含むデバイスであって、ここで、注入容器、第一及び第二連通領域ならびに混合領域が、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合している疎水性表面を含んでいる、デバイスが本明細書に開示される。
【0023】
一実施態様では、基板は、混合領域と連通している1つ又はそれ以上の付加的な注入容器をさらに含む。
一実施態様では、基板は、疎水性表面を取り囲むより疎水性の低い表面をさらに含む。
別の実施態様では、基板は、パターン化されたSU−8(疎水性表面)及びTi/Au(より疎水性の低い)表面を有する金被覆ガラスを含む。
【0024】
一実施態様では、デバイスは1つ又はそれ以上の付加的なミキサーをさらに含む。
一実施態様では、デバイスは、混合領域に連通する流入及び廃棄チャネル、ならびに反応器(例えば、触媒反応器及び検出器)、(例えば、蛍光又は電気化学的検出器)へのチャネルをさらに含む。
【0025】
別の実施態様では、注入口は、円形、正方形、五角形、六角形、三角形、長方形又は他の何れかの幾何学的形状である。
別の実施態様では、混合領域は、菱形、三角形、長方形、六角形、五角形、円形、又は他の何れかの幾何学的形状である。
【0026】
一実施態様では、デバイスは、薬剤スクリーニング、センサへの適用、QCMへの適用、SPRへの適用、エバネセント波蛍光への適用、触媒作用、分子の組織化(例えば、分子合成又はデバイス合成)、又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子で作られる分子的に薄い層もしくはフィルムの形成のために使用される。
【0027】
別の実施態様では、デバイスは試料注入口をさらに含む。
一実施態様では、デバイスは検出器をさらに含む。
一実施態様では、検出器は、質量分析法、表面プラズモン共鳴(SPR)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)、蛍光検出器、蛍光相関検出器、化学発光検出器又は電気化学的検出器の1つ又はそれ以上を含む。
【0028】
一実施態様では、使用する質量分析法は、MALDI MS(MALDI−TOF及びMALDI−TOF−TOF)又はエレクトロスプレーイオン化(ESI MS−MS)の1つ又はそれ以上から選択される。
一実施態様では、デバイスは、試料分離装置、分画器又はマニピュレータの1つ又はそれ以上をさらに含む。
別の実施態様では、分離装置は、キャピラリ電気泳動(CE)、液体クロマトグラフィ(LC)、ゲルクロマトグラフィ及びゲル電気泳動分離装置の1つ又はそれ以上から選択される。
【0029】
1つの態様によれば、疎水性表面上に(特定の組成の)第一リポソームを配置し、そして疎水性表面上に異なる組成物の第二リポソームを配置して、第一リポソームと第二リポソームが疎水性表面上で拡散して混合することを含む、表面上でリポソームを混合する方法が、本明細書に開示される。
【0030】
一実施態様では、第一リポソームと第二リポソームから供与される物質の量は、第一リポソームと第二リポソームの大きさの1つ又はそれ以上によって、又はタイミングによって制御される。
一実施態様では、前記方法は、第一リポソームと第二リポソームの一方又は両方の少なくとも一部を回収する(例えば、それらが所望量の脂質を表面に供与した後)ことをさらに含む。
【0031】
一実施態様では、リポソームは、マイクロピペット、光ピンセット又はマイクロ流体デバイスの1つ又はそれ以上によって、疎水性表面に配置される。
別の実施態様では、第一リポソームと第二リポソームから形成されるフィルムの化学量論的制御が得られる。
【0032】
別の実施態様では、第一リポソームと第二リポソームの拡散した単分子層の混合によって機能性表面が作製される。
一実施態様では、機能性表面は、二次元又は三次元デバイスの1つ又はそれ以上を含む。
【0033】
別の実施態様では、二次元又は三次元デバイスは、巨視的又は顕微鏡的次元のチェンバ、毛管、カラム又は他の何れかのデバイスを含む。
別の実施態様では、機能性表面は、触媒表面、結合表面、又は物理的もしくは化学的操作を支援する表面の1つ又はそれ以上を含む。
【0034】
別の実施態様では、疎水性表面は、疎水性表面とより疎水性の低い表面のアレイを含む。
別の実施態様では、方法は、巨視的次元又は顕微鏡的次元の表面のアレイを作製することを含む。
【0035】
一実施態様では、第一リポソームは拡散して第一フィルムを形成し、フィルムと結合するか又は反応する(例えば、フィルムがその性質を変化させるように)他の分子を添加することによって、第一フィルムを機能化する(又は変化させる)。
別の実施態様では、リポソームは、超分子構造体、ナノ構造体、核酸アレイ、タンパク質アレイ、他の分子実体のアレイ、粒子アレイを形成する。
【0036】
一実施態様では、1つ又はそれ以上の第一リポソーム又は第二リポソームは、オリゴヌクレオチド、疎水性部分と結合したオリゴヌクレオチド、膜タンパク質、膜に分配するように適合された分子もしくは粒子、又は膜に分配するように適合された別の分子に結合している分子及び粒子を含む。
【0037】
一実施態様では、方法は、検出しようとする試料と基板を接触させることをさらに含む。
一実施態様では、試料は、核酸もしくは他の部位特異的な分子認識分子(例えば、タンパク質、抗体もしくはそのフラグメント、又はレクチン)、酵素、阻害剤、結合パートナー又は基質を含む。
【0038】
一実施態様では、方法は、フィルムを化学的又は物理的に修飾することの1つ又はそれ以上をさらに含む。
別の実施態様では、化学的若しくは物理的調節又は操作の異なる工程、或いは検出の異なる工程が、同じ試料に関して並行して実施される。
【0039】
一実施態様では、化学的若しくは物理的調節又は操作の異なる工程、或いは検出の異なる工程が、異なる試料に関して並行して実施される。
一実施態様では、方法は、第一リポソームと第二リポソームから形成されたフィルムを乾燥させることをさらに含む。
【0040】
別の実施態様では、フィルムは、核酸フィルム又はタンパク質フィルムの1つ又はそれ以上を含む。
一実施態様では、方法は、核酸フィルムを基板の表面上で乾燥させることをさらに含む。
【0041】
一実施態様では、方法は、核酸フィルムを乾燥状態で保存することをさらに含む。
一実施態様では、方法は、フィルムを再水和することをさらに含む。
【0042】
一実施態様では、方法は、フィルムと試料の間の相互作用を検出することをさらに含む。
1つの態様によれば、多重膜小胞を緩衝液に懸濁し、そして疎水性表面を含有している基板上に小胞を配置して、それにより小胞が表面上に単分子層として拡散することを含む、動的液膜形成の方法が本明細書に開示される。
【0043】
一実施態様では、方法は、第二多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞と第二小胞が拡散して混合することをさらに含む。
一実施態様では、方法は、第三多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞、第二小胞及び第三小胞が拡散して混合することをさらに含む。
【0044】
一実施態様では、基板は請求項17に記載のデバイスを含む。
別の実施態様では、拡散係数は約0.01〜約500μm/秒を含んでいる。
【0045】
1つの態様によれば、修飾核酸分子を基板の疎水性表面に配置して、修飾核酸分子が表面と結合することを含む、核酸フィルムを形成する方法が本明細書に開示される。
一実施態様では、修飾核酸分子は、コレステリル−テトラエチレングリコール修飾オリゴヌクレオチド(ヘキサエチレングリコール/ポリエチレングリコール)を含む。
【0046】
一実施態様では、方法は、第二修飾核酸分子を基板の疎水性表面上に配置することをさらに含む。
別の実施態様では、修飾核酸分子は、同じ配列又は異なる配列の核酸を含む。
【0047】
一実施態様では、第二修飾核酸分子は基板の第二疎水性構造上に配置される。
一実施態様では、方法は、3つ又はそれ以上の修飾核酸分子試料を基板上に配置することをさらに含む。
一実施態様では、試料は、隣接疎水性表面上又は、各々がより疎水性の低い表面に囲まれた個別の疎水性表面上に配置される。
【0048】
別の実施態様では、個別の疎水性表面は、約1nm〜約5cmの寸法特性を包含する。
一実施態様では、修飾核酸分子は、約10〜約200pmol/cmの表面被覆率を包含する。
【0049】
一実施態様では、修飾核酸分子は、約20〜約95pmol/cmの表面被覆率を包含する。
別の実施態様では、修飾核酸分子は、約1012〜約1013分子/cmのフィルム密度を包含する。
【0050】
一実施態様では、方法は、相補的核酸を核酸フィルムにハイブリダイズすることをさらに含む。
他の実施態様を以下に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1Aは、Tiの接着層、金の基層及び疎水性物質(SU−8ポリマー)の最上層で被覆された担体基板(例えば、ガラス)である、1つの実施態様の概略図を示す。 図1Bは、パターン化された表面デバイスの概略図を示す。Tiの接着層、金の基層及び疎水性物質(SU−8ポリマー)のマイクロ構造化最上層で被覆された担体基板(例えば、ガラス)が示されている。 図1Cは、2つ(上の列)、3つ(中央の列)又は4つ(下の列)の別個の注入領域(φ25μm)、レーン(幅5μm)及び中心混合領域を有する3つの異なる最上部構造体を含有している、図1Bに示すものと同じ一般的構造のパターン化された表面デバイスの明視野顕微鏡写真を示す。 図1Dは、拡散レーン上に固定点を有するパターン化表面の概略図を示す。固定点はエンボス加工されているか又は包埋されており、拡散脂質フィルム中の成分との化学的又は物理的相互作用のための官能基を担持する。
【図2A】視覚化と制御のための倒立顕微鏡;注入針の位置づけのためのマイクロマニピュレータ;注入針;可溶性又懸濁物質の沈着のためのポンプ;及びデバイス上の脂質などの化学物質、及び温度制御のための抵抗加熱装置を含む、構成要素の中に置かれたパターン化デバイスを描画した、実験の設定を示す。
【図2B】フィルム拡散の視覚化のための蛇行レーンの明視野顕微鏡画像を示す。リン脂質沈着物(多重膜小胞、φ5μm)は中心注入領域に位置する。円形SU−8構造体の直径:25μm。
【図2C】疎水性の平面デバイス表面上に疎水性尾部基(例えば、リン脂質)を有する両親媒性種を含有している、分子フィルムの円形拡散の概略図を示す。高くなった中心構造は、多重膜小胞を含む脂質沈着物を示す。矢印は拡散の等方性配向を示す。
【図2D】図2Bに示す平面構造のSU−8デバイス上でのリン脂質フィルムの拡散を示す時系列蛍光顕微鏡写真である。パネル(i):沈着の19分後、パネル(ii):沈着の30分後、パネル(iii):沈着の208分後、パネル(iv):沈着の499分後。円形SU−8構造体の直径は25μmである。
【図3A】図1Aと同様のSU−8で被覆されたデバイス上の2つの成分の脂質混合を示す時系列蛍光顕微鏡写真である。パネル(i):4分後、パネル(ii):6分後の経過、パネル(iii):9分後、パネル(iv):27分後。2つの脂質画分の1つは蛍光標識されており(より明るく見える)、他方は標識されていない(暗く見える)。混合は、標識成分の蛍光の減少として認められる。円形構造体の直径は25μmである。
【図3B】図1Cに示すような、3つのレーン混合表面を有するデバイス上での3つの成分の脂質混合を示す時系列顕微鏡写真である。パネル(i):リン脂質の沈着直後の明視野顕微鏡写真;パネル(ii)〜(vi):蛍光顕微鏡写真;パネル(ii):リン脂質の沈着直後の、0分時点、パネル(iii):20分後の経過;パネル(iv):90分後;パネル(v):210分後;(vi)240分後。3つの注入領域に沈着した3つの脂質画分は、それらの拡散を同時に追跡するため3つの異なる蛍光を発する染料で標識されている。円形SU−8構造体の直径は25μmであり、画像はコントラストをより良好にするため反転色になっている。
【図3C】機能性フィルム成分の存在下での単一レーン表面を有するデバイス上の脂質拡散と混合の概略図を示す。拡散する脂質フィルムは、各注入領域の中心部の多重膜小胞から生じる。パネル(i):各々が2つの活性成分の1つを担持している、2つの脂質成分を有する単一レーン拡散及び混合デバイスの図。脂質拡散は、単一レーンで相互に連結された2つの注入領域に位置する2つの多重膜小胞から生じる。付加成分は拡散脂質と共に移動し、レーンの中心領域(挿入図)で混合したとき互いに反応する。パネル(ii):単一レーン表面での脂質拡散に基づく分離デバイスの概略図を示す。フィルムを形成する脂質は、1つの注入領域内の単一多重膜小胞から生じる。注入領域に接続された単一レーンは、丸で囲まれたドットとして示されている、活性な機能化された表面サブ構造体を含む。この実施態様では、2つの相互に非反応性の成分が拡散脂質物質と混合され、2つのうちの一方は活性な表面領域と反応性であり、他方の成分は非反応性である。レーンを経て拡散したとき、2つの物質はレーンの中央部分(挿入図)の活性化表面領域に達する。反応性成分は保持され、非反応性成分は移動を続けて、この二次元ナノ流体フィルムデバイス内の2つの成分を有効に分離する。
【図4】ドープした極性ダイズ脂質試料のモル分率Фに対して蛍光強度Iをプロットすることにより、2つのリン脂質沈着物(1つは標識され、1つは標識されていない)の混合の数量化を示す。Ф=0を除き、●及びXは同一構造体に関する独立した測定値を表す。測定は、構造体全体にわたる脂質の等しい分布を達成するため脂質適用の約16時間後に実施した。データ点の各々の対は、表面上の脂質フィルム組成物の記号表示を伴う。
【図5A】パターン化表面デバイス上でのDNA固定化及びハイブリダイゼーション手順の概略図を示す。パネル(i):コレステロール−TEG−ssDNAを含む溶液を、手操作によりパターン化SU−8/金基板上にピペットで分注する。パネル(ii):インキュベーション期間後、カバーガラス(例えば、表面又は基板)を洗浄し、乾燥させて、再水和し、疎水性SU−8領域だけに吸着されたssDNAを残す。パネル(iii):cDNAを含む溶液をピペットで基板上に分注する。ハイブリダイゼーションを生じさせるためのインキュベーション期間後、カバーガラス(例えば、表面又は基板)を洗浄し、乾燥させて、再水和する。パネル(iv):DNA/cDNA二本鎖が疎水性SU−8領域で選択的に構築される。
【図5B】分子レベルでのデバイス上のDNA固定化及びハイブリダイゼーションの概略図を示す。パネル(i)、(ii):蛍光標識した(標識1,500〜600nm発光)コレステロール−ssDNAコンジュゲートをデバイス上の疎水性SU−8構造体に固定化する。パネル(iii)、(iv):蛍光標識した(標識2,550〜700nm発光)相補的ssDNAを溶液に添加し、表面に固定化されたssDNAとハイブリダイズさせる。構造化された表面の疎水性SU−8領域でのみ二本鎖標識dsDNAが得られる。
【図5C】蛍光標識したコレステロール−TEG−DNAコンジュゲートの固定化検出を示す蛍光顕微鏡写真である。パネル(i):インキュベーションの15分後に緩衝液中のSU−8に固定化されたDNA1の蛍光(λexc=633nm、λem=660〜750nm)。パネル(ii):インキュベーションの25分後に緩衝液中のSU−8に固定化されたDNA3の蛍光(λexc=488nm、λem=500〜540nm)。画像は人工色で示されている。
【図6】DNA3+c−DNA3/4プローブ対を使用したFRETによるハイブリダイゼーション検出を示す。左側の欄は、DNA3の蛍光(500−540nmの発光チャネル、488nmの励起波長での検出)を示す。右側の欄は、c−DNA3/4の蛍光(550−620nmの発光チャネル、488nmの励起波長での検出)を示す。パネル(i)、(ii):沈着及びDNA3溶液の洗浄後の、乾燥及び緩衝液による再水和。パネル(iii)、(iv):緩衝液の洗浄とc−DNA3/4溶液の添加。パネル(v)、(vi):c−DNA3/4溶液の洗浄、乾燥及び緩衝液による再水和。欄の下のグラフは、各々のパネルi〜viについての強度データを数量化している。
【図7】光退色後蛍光回復(FRAP)を時系列で示す。蛍光顕微鏡写真は、緩衝液中550−620nmの発光チャネルを使用して543nmの励起波長で撮影している。パネル(i):DNA1+c−DNA1/2プローブ対。退色前、t=0秒、t=300秒、t=600秒。パネル(ii):DNA3+c−DNA3/4プローブ対。退色前、t=0秒、t=300秒、t=600秒。パネル(iii):2つのシリーズについての時間に対する退色領域の蛍光回復。蛍光強度値は100に正規化されている。
【図8】DEPE脂質拡散のサーモトロピックスイッチングを示す。(a)左側及び右側円形パッドに適用されたSPE脂質小胞を有するSU−8構造体の透過型顕微鏡写真。ローダミンホスファチジルエタノールアミンでドープしたDEPE粒子を中央の円形パッド上に置いた。(b)直流電流を流して、それによってデバイスを加熱した、コイル状の薄いTi/Auフィルムに配列されたSU−8構造体。(c〜f)(a)に対応する蛍光顕微鏡写真の重ね合わせ。DEPE(中央)は、温度がTを超えて上昇したとき単分子層内に拡散する(c〜d)。T未満で拡散が停止することを示すため、カルボフルオレセインホスファチジルエタノールアミンでドープしたSPE脂質(励起488nm、発光500〜560nm)及びAlexa 633ホスファチジルエタノールアミンでドープしたSPE(励起633nm、発光640〜800nm)を、それぞれ左側と右側のパッドに沈着させた。SPE脂質単分子層フィルムはSU−8構造体上に拡散するが、DEPEの拡散はその大きさを維持する(励起543nm、発光550〜650nm)(e〜f)。
【発明を実施するための形態】
【0052】
明確に定義付けされた表面上の分子単分子層の形成が、様々な化学反応デバイス、センサ又はスクリーニング装置を構築するためならびに他の適用に対して、極めて望ましい。特定の疎水性修飾又は表面処理を必要としない、疎水性表面を備えたデバイスが本明細書に提供される。本明細書に記載のデバイスは、疎水性表面を覆う物質の少なくとも1つの分子的に薄い層を更に含有していて、そしてそのような分子的に薄い層を形成するための方法をさらに含む。本明細書に使用される、「分子的に薄い」とは、約0.1nm〜約1000μm;約10nm〜約200μm;又は約100nm〜約100μm;約500nm〜約100μm;又はそれらの間の何れかの単一値又は部分的範囲の厚さを含む。
【0053】
脂質−表面界面からの脂質二分子層の自発的集合と成長については、比較的欠陥のない脂質膜の調製のためのその簡単で広く適用できる方法に起因して、ますます関心を集めている(Goennenwein S. et al., Biophys.J.85:646-655(2003); Salafsky J. et al., Biochemistry 35(47):14773-14781(1996))。本明細書に開示する方法は、例えば、水性媒質中の堆積脂質貯蔵容器から開始される、固体基板上での単一脂質二分子層の自発的成長を含んでいる。実験的に観察された挙動を説明するための物理的モデルが提案されている(Czolkos I. et al., Nano Letters 7:1980-1984(2007))。本明細書に提示される方法とシステムは、マイクロ及びナノ流体系、バイオセンサ及び他の分析手法内で、タンパク質及びDNAなどの、それらの擬似天然環境(quasi-native environment)における生体高分子の直接操作を可能にする。
【0054】
本明細書に記載の方法及びシステムの使用の一例は、表面結合膜への機能的膜タンパク質の組込みである。これまでに、膜の自己拡散への脂質−基板界面特性は検討されている(S.Goennenwein et al.,(2003)Biophys.J.85,646-655)。雲母、ガラス及びポリマー被覆ガラスなどの種々の基板材料の適合性に関して報告されていて、これらの材料がある程度まで二分子層の自己拡散を誘導できることが示された。シリコンは、特に、電子装置に接続することを通して分子センシング又は検出技術を含む多様な適用のための潜在的可能性を示す。脂質層の形成とナノ力学を支配するいくつかの他の因子、例えば、電解質濃度、温度及び電場が検討されてきた。しかしながら、これまで、脂質単分子層の制御された拡散を可能にする適切なインターフェースは報告されていない。そこで、本明細書において、脂質単分子層の拡散を制御するための適切なインターフェースを提供する方法とシステムが提示される。
【0055】
本明細書で提示する方法及びシステムの使用の別の例は、検出に適用するためのDNAの開発である。生物工学における多くの適用では、DNAの位置決定能力(addressability)と分子認識に基づいている。従って、これに関して、種々の基板上で高い表面被覆率及び一本鎖DNA(ssDNA)の機能的アクセス可能性をもたらす効率的な固定化手順が、非常に重要になる。DNAマイクロアレイは、ラボ・オン・チップ合成によって又はあらかじめ合成されたDNAの固体支持体への固定化によって作成することができる。前者の方法は複雑であり、種々のシステムをモデリングするためにあまり柔軟性があるとは言えないが、後者の方法はより安価であり、研究への適用においてより好ましい。これに関して、固定化用の固体支持体は、固相生化学反応の効率を決定するのを助け、したがってマイクロアレイの利用に役立つ。これまでに、DNAは、基板及び/又はオリゴヌクレオチドのいずれかが化学修飾された多種多様な基板に結合されている。
【0056】
疎水性表面での制御された組成の可変次元の分子単分子層フィルムの形成のための方法及びデバイスが本明細書にさらに提示されていて、ここでデバイスは、表面がそのままの状態で疎水性であるので、特定の疎水性修飾又は表面の処理を必要としない。デバイスは、一実施態様では、例えば、親水性支持体上で、マイクロ構造体としてパターン化することができる疎水性基板を含む。修飾DNA(例えば、コレステリル結合DNA)、脂質、膜タンパク質を含むタンパク質、液晶ならびに他の両親媒性分子を含む薄い分子フィルムが疎水性表面上に形成される。フィルムの化学量論及び組成は制御することができる。例えば、フィルムの化学量論及び組成は、そこからフィルムが成長するリポソームに含まれる物質の量を制御することによって、規定された領域の表面で種々の物質でドープした種々のフィルムを混合することによって、種々の幅のレーンからのフィルムを混合することによって、種々のフィルムが表面に導入される時間を制御することによって、又は例えば、温度でフィルムの相状態を制御することによって、制御することができる。さらに、リポソームなどの前駆体集合物を表面に配置するためのマイクロディスペンシング技術も開示する。本明細書で開示する方法及びデバイスは、高度に定義された分子相互作用による自己集合又は自己会合に基づく方法を用いる多くの領域及び分野において適用可能である。そのような分野の例は、例えば、生体膜研究、薬剤スクリーニング、分離、分別、精製、生体高分子分離、単分子研究、及び表面プラズモン共鳴(SPR)分光法及び水晶振動子マイクロバランス(QCM)技術などのバイオセンシングを含む。
【0057】
生物工学及び生体分析学における多くの適用では、表面支援DNAハイブリダイゼーションに基づいている。従って、種々の基板上で高い表面被覆率及び一本鎖DNA(ssDNA)の機能的アクセス可能性をもたらす効率的な固定化手順が、非常に重要になる。DNAは、ガラス、シリコン、溶融シリカ、Si、金、SU−8、PDMS、PVA及びPMMAに共有結合されてきた。これらすべての場合に、基板及び/又はオリゴヌクレオチドのいずれかが化学修飾される必要がある。DNAは、オンチップ合成によって又はあらかじめ合成されたDNAの固定化によって、固体支持体上のあらかじめ定められた場所に位置づけられる。オンチップ合成は高密度のアレイを提供するが、DNA配列の長さ、合成の信頼度及び価格的な面で実質的制約がある。これに対し、DNAの固定化に基づく方法は、一般により簡単で、安価であり、用途が広い。大部分の固定化技術は、数時間のインキュベーション時間、複数回の洗浄工程、及び強い化学物質処理を含む。DNAの非共有結合表面吸着は、面倒で費用と時間のかかる基板の活性化/修飾及びその後の固定化手順を自動化するための最も簡単で容易な方法である。
【0058】
本明細書で使用する「アレイ」とは、例えば、(a)その表面の別個の場所に配置された1つ又はそれ以上の構成要素を有する固体支持体、又は(b)各々がその表面の別個の場所に配置された1つ又は複数の構成要素を有する、複数の固体支持体を含む。アレイは、本発明のパラメータ内で構成要素のすべての可能な順列置換を含むことができる。例えば、アレイは、すべての脂質のマイクロアレイ、複数の化合物を有するマイクロアレイ、脂質小胞を含む複数の化合物を有するマイクロアレイ等であってよい。
【0059】
本発明の方法及びデバイスにおいて有用な脂質の例を以下に示す。当業者が本開示を利用して確認できるような他の脂質も使用できる。天然脂質は、例えば、リピドA(解毒リピドA)、コレステロール、スフィンゴ脂質(スフィンゴシン及びD−エリスロ−スフィンゴシン、スフィンゴミエリン、セラミド、セレブロシド、脳スルファチドなどの誘導体)、ガングリオシド、スフィンゴシン誘導体(グルコシルセラミド)、フィトスフィンゴシン及び誘導体(フィトスフィンゴシン、D−リボ−フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート、N−アシルフィトスフィンゴシンC2、N−アシルフィトスフィンゴシンC8、N−アシルフィトスフィンゴシンC18)、コリン(ホスファチジルコリン、血小板活性化因子)、エタノールアミン(ホスファチジルエタノールアミン)、グリセロール(ホスファチジル−DL−グリセロール)、イノシトール(ホスファチジルイノシトール)、ホスファチジルイノシトール、セリン(ホスファチジルセリン(ナトリウム塩))、カルジオリピン、ホスファチジン酸、卵由来物質(卵誘導体)、リゾ(モノアシル)誘導体(リゾホスファチド)、水素化リン脂質、脂肪組織抽出物(脳&卵、大腸菌&心臓、肝&ダイズ)、及び組織由来リン脂質の脂肪酸内容物(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン)を含む。
【0060】
スフィンゴ脂質は、例えば、スフィンゴシン(D−エリスロスフィンゴシン、スフィンゴシン−1−ホスフェート、N,N−ジメチルスフィンゴシン、N,N,N−トリメチルスフィンゴシン、スフィンゴシルホスホリルコリン、スフィンゴミエリン、グリコシル化スフィンゴシン)、セラミド誘導体(セラミド、D−エリスロセラミド−1−ホスフェート、グリコシル化セラミド)、スフィンガニン(ジヒドロスフィンゴシン)(スフィンガニン−1−ホスフェート、スフィンガニン(C20)、D−エリスロスフィンガニン、N−アシル−スフィンガニンC2、N−アシル−スフィンガニンC8、N−アシル−スフィンガニンC16、N−アシル−スフィンガニンC18、N−アシル−スフィンガニンC24、N−アシル−スフィンガニンC24:1、グリコシル化(C18)スフィンゴシン及びリン脂質誘導体(グリコシル化スフィンゴシン)(スフィンゴシン、β−D−グルコシル、スフィンゴシン、β−D−ガラクトシル、スフィンゴシン、β−D−ラクトシル)、グリコシル化セラミド(D−グルコシル−β1−1’セラミド(C8)、D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C8)、D−ラクトシル−β1−1’セラミド(C8)、D−グルコシル−β1−1’セラミド(C12)、D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C12)、D−ラクトシル−β1−1’セラミド(C12))、グリコシル化ホスファチジルエタノールアミン(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−ラクトース)、D−エリスロ(C17)誘導体(D−エリスロスフィンゴシン、D−エリスロスフィンゴシン−1−ホスフェート)、D−エリスロ(C20)誘導体(D−エリスロスフィンゴシン)、及びL−トレオ(C18)誘導体(L−トレオスフィンゴシン、サフィンゴール(L−トレオジヒドロスフィンゴシン))を含む。
【0061】
合成グリセロールベースの脂質は、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ジアシルグリセリド、コレステロール、PEG脂質、共役のために官能基化された脂質、様々な頭部を有するリン脂質、pH感受性リポソームのための脂質、金属キレート化脂質、抗原性リン脂質、ドキシル脂質、蛍光脂質、リゾリン脂質、アルキルホスホコリン、酸化脂質、ビオチニル化脂質、エーテル脂質、プラスモロゲン脂質、ジフィタノイルリン脂質、重合可能脂質、臭素化リン脂質、フッ素化リン脂質、重水素化脂質、ドキシル脂質、蛍光脂質、酵素活性化剤(DG、PS)、酵素阻害剤(v−CAM、PKCの阻害剤)、生物活性グリセロールベースの脂質(血小板活性化因子脂質、セカンドメッセンジャー脂質)、脂質代謝中間体(アシル補酵素A、CDP−ジアシルグリセロール、及びVPC−Gタンパク質共役受容体(LPA/LPA受容体アンタゴニスト、LPA受容体アゴニスト、S1P/S1P受容体アンタゴニスト、S1P/S1P受容体アゴニスト)を含む。
【0062】
エーテル脂質は、例えば、ジエーテル脂質(ジアルキルホスファチジルコリン、ジフィタニルエーテル脂質)、アルキルホスホコリン(ドデシルホスホコリン)、O−アルキルジアシルホスファチジルコリン(1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン及び誘導体)、ならびに合成PAF及び誘導体(1−アルキル−2−アシル−グリセロール−3−ホスホコリン及び誘導体)を含む。
【0063】
ポリマー及び重合可能な脂質は、例えば、ジアセチレンリン脂質、mPEGリン脂質及びmPEGセラミド(ポリ(エチレングリコール)−脂質コンジュゲート、mPeg 350PE、mPEG 550PE、mPEG 750PE、mPEG 1000PE、mPEG 2000PE、mPEG 3000PE、mPEG 5000PE、mPEG 750セラミド、mPEG 2000セラミド、mPEG 5000セラミド)、及び官能基化されたPEG脂質を含む。
【0064】
蛍光脂質は、例えば、グリセロールベース(ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン)及びスフィンゴシンベース(スフィンゴシン、スフィンゴシン−1−ホスフェート、セラミド、スフィンゴミエリン、フィトスフィンゴシン、ガラクトシルセレブロシド)の脂肪酸標識脂質、頭部標識脂質(ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、Alexa Fluor 633ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルセリン)、及び25−NBDコレステロールを含む。
【0065】
酸化脂質は、例えば、1−パルミトイル−2−アゼラオイル−sn−グリセロ−ホスホコリン、1−O−ヘキサデシル−2−アゼオラオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−(9’−オキソ−ノナノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、及び1−パルミトイル−2−(5’−オキソ−バレロイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを含む。
【0066】
脂質はまた、例えば、DEPE、DLPC、DMPC、DPPC、DSPC、DOPC、DMPE、DPPE、DOPE、DMPA−Na、DPPA−Na、DOPA−Na、DMPG−Na、DPPG−Na、DOPG−Na、DMPS−Na、DPPS−Na、DOPS−Na、DOPE−グルタリル−Na、テトラミリストイルカルジオリピン(Na)、DPPE−mPEG−2000−Na、DPPE−mPEG−5000−Na、DPPEカルボキシPEG 2000−Na及びDOTAP−Clを含む。
【0067】
デバイス
1つの態様では、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合している疎水性表面を有する基板を含むデバイスが、本明細書に開示される。
【0068】
疎水性表面は、本明細書で使用するとき、水との高接触角を有する表面又は物質を示す。具体的には、接触角は、例えば、約88〜約179°、約90〜約150°、約110〜約130°又はそれらの間の何れかの範囲又は単一値に及んでいてよい。例示的な疎水性表面は、例えば、SU−8、硬化焼成SU−8、疎水性ポリマー、ガラス、セラミック、金属、又は液晶を含む。
【0069】
デバイスの疎水性表面は、パターン化されてよく、そして/又は疎水性表面のサブ構造体を有していてよい。例えば、疎水性表面は、より疎水性の低い表面によって囲まれた疎水性表面のアレイを形成できる。本明細書で使用する、より疎水性の低い表面とは、例えば、疎水性表面よりも疎水性が低く、脂質拡散を支援しない表面を示す。より疎水性の低い表面についての接触角は、例えば、約20〜約87°、約25〜約80°、約30〜約70°、約40〜約60°又はそれらの間の何れかの部分範囲又は単一値に及んでいてよい。疎水性表面のパターンは何れの形状であってもよく、機能的設計(例えば、脂質単分子層の混合を促進するための本明細書に記載のミキサー設計)であってもよい。
【0070】
疎水性表面は、例えば、分子の適用又は位置づけのため及び分子の混合のための部位を提供するように、例えば、機能的にパターン化することができる。例えば、基板は、混合領域と連通している第一及び第二の注入パッドを含有しているミキサーを含んでいてもよく、注入領域、第一及び第二の連通領域ならびに混合領域は、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合する疎水性表面を含んでいる。基板は、混合領域と連通している1つ又はそれ以上の付加的な注入領域をさらに含んでいてよい。他の実施態様では、基板は、1つ又はそれ以上の付加的なミキサーをさらに含でいてよい。ミキサーは、アレイ形式にパターン化されていてもよく又は基板の表面上でランダムに配列されていてもよい。基板の注入口は、例えば、円形、正方形、五角形、六角形、三角形、長方形又は他の何れかの幾何学的形状であってもよい。混合領域は、例えば、菱形、三角形、長方形、六角形、五角形、円形又は他の何れかの幾何学的形状であってもよい。注入パッドと混合領域の間の通路、例えば、チャネルは、例えば、約数nm〜約数cmの長さで約数nm〜約数cmの幅;約0.1nm〜約20cmの長さで約0.1nm〜約20cmの幅;約10nm〜約10cmの長さで約10nm〜約10cmの幅;約100nm〜約5cmの長さで約100nm〜約5cmの幅又はそれらの間の何れかの部分範囲もしくは単一値、又は長さと幅の寸法の何れかの組合せであってよい。連絡通路の経路は、直線状、曲線状、蛇行、又は特定の目的のために当業者に適切と判定された何れかの他の形状であってよい。
【0071】
一実施態様では、基板は、疎水性表面を取り囲むより疎水性の低い表面を有する。少なくとも1つの疎水性部分を有する分子は、例えば、疎水性表面上でのみ拡散し、より疎水性の低い表面では拡散しない。基板は、混合領域(1つ又は複数)に連通する流入及び廃棄物チャネル、ならびに反応器、例えば、触媒反応器及び検出器、例えば、蛍光又は電気化学的検出器へのチャネルを含んでいてよい。
【0072】
基板は、一般に閉じたマイクロ流体ネットワークを形成するように相互に接続された通路の1つ又はそれ以上のセットを含むことができる。そのようなマイクロ流体ネットワークは、ネットワークの末端又はネットワークの中間部に外界に通じる1つ、2つ又はそれ以上の開口部を含んでいてよい。そのような開口部は液体を受け入れ、貯蔵し、及び/又は分配する。分配された液体は、マイクロ流体ネットワーク又はマイクロ流体システムの外側部位に直接流入する。そのような開口部は、一般に流入及び/又は排出機構において機能し、貯蔵容器(reservoir)を含むことができる。
【0073】
基板はまた、液体、試薬及び/又はフィルムの操作又は分析に寄与する他の何れかの適切な特性又は機構を含むことができる。例えば、基板は、液体又はフィルムの流速及び/又は通路の態様を決定する調節又は制御機構を含むことができる。そのような調節機構には、弁及び/又はポンプが含まれていてもよい。あるいは、又は加えて、基板は、液体又はフィルムの温度、圧力、流速、光への暴露、電場への暴露、磁場強度等を測定する、調節する及び/又は感知する機構を含むことができる。従って、基板は、加熱器、冷却器、電極、レンズ、回折格子、光源、圧力センサ、圧力変換器、マイクロプロセッサ、マイクロエレクトロニクス等を含むことができる。さらに、各々のデバイス又はシステムは、所定のデバイス又はシステムを特定するための符号として働く1つ又はそれ以上の特性を含んでいてよい。特性は、区別的な位置、固有性及び/又は他の性質(光学特性など)を有する、白黒又は着色バーコード、単語、数等のような、何れかの検出可能な形状もしくは記号、又は形状もしくは記号のセットを含むことができる。
【0074】
基板は、何れかの適切な物質又は適切な物質の組合せで形成されていてよい。適切な物質は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのエラストマー;ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等のようなプラスチック;ガラス;セラミック;ゾル−ゲル;シリコン及び/又は他の半金属;金属又は金属酸化物;タンパク質(ゼラチン、ポリリシン、血清アルブミン、コラーゲン等)、核酸、微生物等のような生体高分子、混合物及び/又は粒子等を含むことができる。
【0075】
チップとも称される基板は、何れかの適切な構造を有していてよい。そのようなデバイスは、単一成分からの単一構造体として、又は2つもしくはそれ以上の成分の多成分構造体として製造できる。2つ又はそれ以上の成分は、何れかの適切な相対的空間関係を有し、何れかの適切な結合機構によって互いに結合できる。
【0076】
幾つかの実施態様では、成分の2つ又はそれ以上は、対面して配置されてもよく、比較的薄い層として製造されてもよい。比較的薄い層は、機能に基づき、異なる厚さを有することができる。例えば、幾つかの層の厚さは、とりわけ、約10〜250μm、約20〜200μm、又は約50〜150μmであってよい。他の層は実質的により厚くてもよく、幾つかの場合にはシステムに機械的強度を与える。そのような他の層の厚さは、とりわけ、約0.25〜2cm、0.4〜1.5cm、又は0.5〜1cmであってよい。1つ又はそれ以上の付加的な層は、基板層として機能する実質的に平らな層であってよく、幾つかの場合には、一部又は全部のマイクロ流体通路に床部分を与える。
【0077】
本明細書に記載のデバイスの成分は、システムについての所望の適用及び製造に使用する物質に基づき、何れかの適切な機構によって製造することができる。例えば、1つ又はそれ以上の成分は、適切な鋳型を使用して成形することができ、刻み込まれる及び/又はエンボス加工することができる。そのような鋳型は、とりわけ、マイクロマシニング、エッチング、ソフトリソグラフィ、材料堆積、裁断及び/又は打ち抜きによって何れかの適切な材料で形成することができる。あるいは、又は加えて、マイクロ流体システムの成分は、エッチング、マイクロマシニング、裁断、打ち抜き及び/又は材料堆積によって鋳型なしで製造することができる。
【0078】
デバイス及びデバイスの部品は、別々に製造され、接合され、適宜にさらに改変することができる。例えば、異なる層として製造されるとき、成分は、一般に対面で結合させることができる。これらの別々の成分は、例えば、表面化学を改変する反応性化学物質、粒子結合剤、分析を容易にするための試薬等で表面処理されてもよい。そのような表面処理は、表面の別個の部分に限局されてもよく、又は比較的限局されなくてもよい。一部の実施態様では、別々の層を製造し、次に打ち抜いて及び/又は裁断して付加的な構造体を産出することができる。そのような打ち抜き及び/又は裁断は、異なる成分を接合する前及び/又は後に実施することができる。製造の方法は当業者に周知である。
【0079】
通路は一般に、物質(例えば、液体、粒子及び/又は試薬)がそれを通って、それを越えて又はそれに沿ってデバイスシステム内を通過できる何れかの適切な経路、チャネル又は導管を含む。一般にはチャネル形態の、流体的に連絡する通路のセットは、まとめてマイクロ流体ネットワークと称することができる。幾つかの場合には、通路は、床、天井及び壁を形成する表面を有すると記述されていてもよい。通路は、とりわけ、幅、高さ、長さ及び/又は断面プロフィールを含む、何れかの適切な寸法及び形状を有していてもよく、またとりわけ、直線、円形及び/又は曲線を含む、何れかの適切な経路をたどることができる。通路はまた、陥凹、突起及び/又はアパーチャを含む、何れかの適切な表面輪郭を有していてもよく、またチャネル内の何れかの適切な位置に何れかの適切な表面化学又は透過性を有することができる。適切な表面化学は、通路形成の前、形成の間及び/又は形成後に、化学物質及び/又は試薬の添加及び/又は処理による表面修飾を含むことができる。
【0080】
幾つかの場合、通路、特にチャネルと混合領域は、機能により記述されていてもよい。例えば、通路は、特定の適用における物質の流れの方向、特定標準構造に対する関係、及び/又は担持される物質の種類に従って記述されていてもよい。したがって、通路は、一般に物質を部位に運ぶ注入口通路(又はチャネル)、及び一般に部位から物質を運ぶ出口通路(又はチャネル)であってよい。加えて、通路は、粒子通路(又はチャネル)、試薬通路(又はチャネル)、収束通路(又はチャネル)、灌流通路(又はチャネル)、廃棄物通路(又はチャネル)等に言及されてもよい。
【0081】
通路は、何れかの適切なマイクロ流体ネットワークを形成するために枝分かれしていてもよく、交わっていてもよく、及び/又は行き止まりになっていてもよい。従って、通路は、とりわけ、粒子の位置づけ、選別、保持、処理、検出、伝播、保存、混合及び/又は放出において機能することができる。
【0082】
貯蔵容器は一般に、加工操作(例えば、測定、処理及び/又は流れ)の前、操作中、操作と操作の間、及び/又は操作後に、物質(例えば、液体、粒子及び/又は試薬)を貯蔵するための何れかの適切な容器又はチェンバを含む。ウェルとも称される貯蔵容器は、流入、中間及び/又は排出貯蔵容器を含有することができる。流入貯蔵容器は、物質を基板の一部分に投入する前に物質(例えば、液体、粒子、小胞及び/又は試薬)を貯蔵することができる。これに対し、中間貯蔵容器は、加工操作中及び/又は操作と操作の間、物質を貯蔵することができる。最終的に、排出貯蔵容器は、チップから、例えば、外部処理装置又は廃棄物へと排出する前、又はチップの処分の前に物質を貯蔵することができる。
【0083】
調節装置は一般に、物質(例えば、液体、粒子及び/又は試薬)の運動を生み出す及び/又は調節するための何れかの適切な機構を含む。適切な調節装置は、とりわけ、弁、ポンプ及び/又は電極を含むことができる。調節装置は、積極的に流れを促進することによって及び/又は能動的又は受動的な流れを制限することによって機能してもよい。調節装置によって仲介される適切な機能は、流体ネットワークの混合、選別、連結(又は隔離)等を含んでいてもよい。
【0084】
粒子は小胞であってよい。小胞は一般に、脂質エンベロープによって規定される何れかの非細胞由来粒子を含む。小胞は、それらのエンベロープ内又は内部に何れかの適切な成分を含むことができる。適切な成分は、とりわけ、化合物、ポリマー、複合体、混合物、集合体及び/又は粒子を含んでいてよい。例示的な成分は、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、薬剤候補物質、受容体、核酸、リガンド等を含んでいてよい。
【0085】
適切な基板は、例えば、パターン化されたSU−8(疎水性表面)及びTi/Au(より疎水性の低い)表面を有する金被覆ガラス、ガラス上のSU−8、TiO又はSiO上のSU−8、親水性SU−8上の疎水性SU−8、プラスチック上のSU−8、セラミック上のSU−8、ゴム上のSU−8、ならびに上記に示す組合せでの他のSU−8様物質(ポリマー、エポキシ、ガラス、セラミック、ゴム、ゲルを含む)を含む。
【0086】
疎水性表面は、固体表面であるか、又はもう1つ別の表面上の層であってよい。例えば、疎水性表面は、別の表面上の微細加工されたフォトレジスト層であってもよい。その他の表面は、固体材料であるか又は層状構造体であってよい。例えば、基板は、例えば、スパッタリングによって適用される、Ti/Au層を有するガラスであってよい。この開示を利用して、当業者は、疎水性表面を有する基板をどのようにして作製するかを理解するであろう。疎水性表面のパターンは、マイクロチップ製造の当業者に公知の技術によって作製することができる。
【0087】
疎水性物質又はより疎水性の低い物質のサブ構造体は、例えば、層内の穿孔、層内の穴、層の柱又は層上の他の物質、パッチ、チャネル、チャネルを通して連絡しているウェル、固定化された粒子、固定化された分子、又はそれらの組合せであってもよい。サブ構造体は、例えば、秩序づけられた(例えば、配列された)パターン又は無秩序なパターン、又はそれらの組合せで配置されていてもよい。サブ構造体は、単分子層によって完全にもしくは部分的に覆われる、又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の拡散フィルムによって囲まれるように適合されている。疎水性表面は、サブ構造体に加えて又はサブ構造体の一部として、エンボス加工された又は刻み込まれた幾何パターン(例えば、2D及び3D)の1つ又はそれ以上を含むことができる。疎水性表面のサブ構造体は、より疎水性の低い表面によって囲まれていてもよい。サブ構造体はまた、巨視的又は顕微鏡的次元であってもよい。
【0088】
基板の疎水性表面は、プロセスに適合されるか又はプロセスを実施するために適合される。そのようなプロセスは、例えば、化学反応、表面支援性合成手順、触媒プロセス、超分子自己集合、又は親和性に基づく分離(例えば、サブ構造体上もしくはサブ構造体内に固定化された物質もしくは反応物と拡散フィルムの活性成分との間、又はその後もしくは同時に混合される、基板上に配置された1つ又はそれ以上の小胞と結合した物質又は反応物の間)を含む。
【0089】
疎水性表面上で配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散させることができ、そして少なくとも1つの疎水性部分を有する分子は、例えば、リン脂質、両親媒性分子(例えば、洗浄剤)、界面活性剤、タンパク質(例えば、膜タンパク質、疎水性部分で修飾されたタンパク質)、ペプチド(例えば、長ペプチド又は短ペプチド、疎水性部分で修飾されたペプチド)、オリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA及びsiRNA)、疎水性部分で修飾された分子(例えば、疎水性表面と強力な疎水性相互作用を形成する能力を有する上記すべての脂質尾部)を含む。分子は、当業者に公知の何れかの組合せで互いに結合することができる。例えば、(モノ−、ジ−、トリ−)コレステリル結合DNA、フェロセン結合DNA、ピレン結合DNA、芳香族と結合したDNA、脂質と結合したDNA、ナフタレンなどの芳香族化合物、及びFMOC誘導体、ならびに脂質、及びアルカン、アルケン及びアルキンと結合したペプチド及びタンパク質。分子は、例えば、疎水性部分(例えば、コレステロール)と結合したオリゴヌクレオチド(例えば、DNA)を含む、1つ又はそれ以上の付加的な成分を含むことができる。薄膜単分子層も、したがって、1つ又はそれ以上の付加的な成分を含むことができる。付加的な成分はまた、他の脂質、膜タンパク質、膜に分配するように適合された分子もしくは粒子(例えば、薬剤及び染料)、又は膜に分配するように適合された別の分子に結合している分子及び粒子の1つ又はそれ以上を含むことができる。
【0090】
一実施態様では、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子はフィルムを含む。例えば、分子の疎水性表面への配置もしくは適用の前、配置もしくは適用の間、又は配置もしくは適用後に、分子はフィルムであるか又はフィルムを形成する。フィルムは分子的に薄いフィルムであってよい。フィルムは、液体、固体、液晶又はゲル、又はそれらの組合せであってよい。フィルムはまた、DNAフィルム及び/又はタンパク質フィルムを含むことができる。
【0091】
一実施態様では、本明細書に記載のデバイスは温度制御装置をさらに含むことができる。温度制御装置は、例えば、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の相転移及び拡散挙動に対する制御を可能にする。相転移温度未満では、フィルムは固体として挙動し、全く拡散しないか又は非常に緩慢に拡散し、そして全く混合しないか又はほとんど混合しない。相転移温度を超えると、フィルムは液体として挙動し、拡散して混合する。温度制御はまた、薄膜内で起こる反応の速度を制御するためにも使用できる(アレニウスの関係)。
【0092】
1つの態様では、疎水性表面、疎水性がより低い表面、及び疎水性表面を少なくとも部分的に覆って、疎水性表面に限局される少なくとも1つの疎水性部分を有する分子のフィルムを含有している基板を含むデバイスが、本明細書に提示される。少なくとも1つの疎水性部分を有する分子はまた、疎水性部分を完全に覆ってもよい。分子は、例えば、表面を部分的に又は完全に覆うために表面上に単分子層フィルムを形成する。
【0093】
1つの態様では、結合している極性(例えば、水性)環境において形成される薄膜単分子層表面を有する疎水性表面を含有している基板を含むデバイスが本明細書に提示され、前記薄膜単分子層表面は疎水性表面上にリン脂質リポソームを配置することによって形成され、リン脂質リポソームは、疎水性表面上に配置されたとき拡散して薄膜単分子層表面を形成する。
【0094】
本明細書で開示するデバイスは、例えば、二次元マイクロ流体工学、薄膜マイクロ流体工学、分離、分別、単分子研究、薬剤スクリーニング、センサ適用、QCM適用、SPR適用、エバネセント波蛍光適用、触媒作用、分子の構築(例えば、分子合成又はデバイス合成)、又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子で作られる分子的に薄い層もしくはフィルムの形成のために使用することができる。
【0095】
一実施態様では、被覆する薄膜は、完全に疎水性であるか又は少なくとも分子内に1つの疎水性部分を含む(例えば、両親媒性物質)。適切な疎水性表面の例は、例えば、SU−8、特に硬化焼成SU−8及び他の疎水性ポリマー、エポキシ、ガラス、セラミック、金属、液晶、及び水との高接触角を有する、例えば、約88〜約179°、約90〜約150°、約110〜約130°又はそれらの間の何れかの部分範囲又は単一値の接触角を有する他の物質を含む。単分子層は、例えば、疎水性表面への拡散又は吸着(又は他の原理による結合)によって、例えば、表面上での自己集合によって形成される。形成されたフィルムは、結晶、固体もしくは固体様であるか、又は液体、液晶又は液体様物質、例えば、POPCのようなリン脂質であってよい。そのような単分子層を形成するのに適したデバイスは、部分的に被覆された疎水性表面を含むことができて、その他の部分は、疎水性表面で形成される疎水性フィルムが疎水性部分に限局されるように、より疎水性が低い。したがって、パターン化表面(例えば、Au上のSU−8)は、一次元、二次元又は三次元で作製することができる。デバイスは、分子を疎水性表面に適用して組織化するためのマイクロインジェクション及び自己集合技術などの顕微操作の使用を可能にする。また、光トラップ又は光ピンセット及び磁気トラップならびにマイクロ流体法などの物質移動及び試料適用のための他の技術と組み合わせることも可能である。さらに、デバイス(疎水性/親水性の二重特徴を有する、設計された構造化表面)は、制御された組成を有するフィルムの形成を支援するように作製することができる。これらのタイプの化学量論的に制御されたフィルムは、特に、疎水性表面上で移動性又は拡散性であるフィルムを実現するのに適する。そのようなフィルムの例は、リン脂質で作られる。
【0096】
一実施態様では、デバイスは、SU−8又は硬化焼成SU−8などの疎水性コーティングで被覆された(例えば、完全に被覆された)チップ表面を含むことができる。図1Aに概略的に示されるように、そのようなデバイスは、例えば、層状構造体であってもよい。本明細書では、エポキシベースのネガ型フォトレジストSU−8を、Ti/Auでスパッタした顕微鏡カバーガラスにスピンコーティングした。図1Bは、特定パターン内に疎水性特性を有する親水性チップ表面を示す概略図である。SU−8のトポグラフィ構造を、Ti/Au層でスパッタした顕微鏡カバーガラスにスピンコーティングした。図1Cは、Ti/Au層でスパッタした顕微鏡カバーガラスにスピンコーティングしたSU−8によって作られた3つの異なるタイプの構造化デバイスの明視野顕微鏡画像である。最初のタイプは、2つのフィルム成分のための混合デバイスであり、2番目は3つのフィルム成分のための混合デバイスであり、3番目は4つのフィルム成分のための混合デバイスである。デバイスは、部分的に、疎水性基層としての金の薄膜及び疎水性エポキシフォトレジストMichrochem SU−8の薄い平面構造体で被覆された、顕微鏡検査に使用されるホウケイ酸対物カバーガラスなどのガラス担体基板から成る。示されているデバイスでは、平面構造体は、金被覆カバーガラスの表面の8×12mmの面積を被覆する。デバイスのこの特定実施態様は顕微鏡観察に適しており、十分な光透過性が維持される。図1Cに示す構造体は、マイクロメートル範囲(例えば、約1〜約25μm、約5〜約20μm、約10〜約15μm、約12〜約14μm、又はその中に含まれる何れかの部分範囲又は単一値)の寸法特性、及び>20nm(又は約0.01〜約2μm、約0.1〜約1μm、約0.5〜約0.9μm、又はその中に含まれる何れかの部分範囲又は単一値)の厚さを有する。デバイスは、例えば、クリーンルーム条件下で実施する必要のないエポキシ樹脂の架橋を完了させるための硬化焼成の最終工程を除き、クリーンルーム条件下で製造される。しかし、より簡単なデバイスは、様々な表面へのSU−8の堆積によって作製することができる。
【0097】
本明細書で述べるチップデバイスは、例えば、画像化及び操作のために倒立顕微鏡に取り付けることができる。図2Aは、ロボット成分によって自動化することもできる、試料注入とデバイスの周囲の操作ワークステーションの一例を提示する。マイクロポジショナによって又は手動で制御されるマイクロピペットは、材料を直接チップ表面に送達するため、例えば、注入パッドへの局所注入のため、あるいはデバイスを覆う溶液中に直接送達するために使用できる。実験は、例えば、液相(例えば、水溶液)中で実施することができるが、デバイスは気相実験にも適合させやすい。
【0098】
種々の構造の脂質、修飾DNA(例えば、コレステリル結合DNA)、膜タンパク質を含むタンパク質などの物質の複雑なセットが、単分子層フィルムを形成するため又は混合もしくは化学反応を開始させるために疎水性表面と共に使用できる。少なくとも2つの異なる成分を同じ疎水性表面上の空間的に離れた領域に配置するとき、フィルムの移動度が十分に大きい場合、例えば、表面上で約0.01μm/秒より大きい場合は、拡散と混合を生じさせることができる。これは、例えば、リン脂質と他の脂質に関して可能である。同じ構造、密接に関連する構造又は異なる構造の物質は、このようにして接触範囲内に近接され、混合して、化学反応(例えば、電子移動反応、酸化、還元、及び考えられる他のすべての種類の反応)を受け、他の成分の化学反応(例えば、酵素反応など)を触媒又は阻害し、フィルムから物質を放出する(例えば、二本鎖からのssDNAの遊離)、又は新たな物質の付着、例えば、DNAの場合はハイブリダイゼーションを可能にするように、表面を修飾することができる。したがって、デバイスの形状は、例えば、薄膜における分離、反応及び混合現象に利用できる特定の機能性を促進するために最適化することができる。さらなる例として、この技術は、表面支援(二次元)超分子及び高分子集合及び合成のため、ならびにナノスケール構造体及びデバイスの生産のために使用できる。一般に、この技術は二次元マイクロ流体プラットフォームの基礎を形成する。
【0099】
図2Bは、円形注入パッドから放射状に広がる蛇行パターンとして金表面にパターン化されたSU−8を有するデバイスの一部を示す。動的接触角測定は、SU−8(実施例1に示す手順に従って作製された)上の水接触角が、疎水性であることを示す91.4°±1.5°であり、一方、金(実施例1に示す手順に従って作製された)上の接触角は77.9°±3.2°、すなわち親水性であることを示した。円形注入パッド上に、図2Aに示すように試料適用のために圧力を用いるマイクロマニピュレータ及びマイクロインジェクタによって制御されるホールピペットを使用して、多重膜小胞を配置した。多重層リポソームは、疎水性尾部と親水性頭部を特徴とする、両親媒性リン脂質分子から成る。リポソームがデバイスの疎水性SU−8表面に適用されたとき、図2Cに概略的に示すように単分子層フィルムが形成し始める。脂質はSU−8表面だけを湿らせ、周囲の金は脂質から離れたままである。リン脂質の疎水性部分はSU−8と接触し、親水性頭部は水相へと配向する。拡散は、疎水性表面が完全に覆われるまで、又は脂質貯蔵容器が枯渇するまで、例えば、矢印で示すようにすべての方向に環状に起こる。拡散の先端部の張力は、脂質/SU−8の接着エネルギーに等しい。特定の学術理論に縛られるのを望むものではないが、沈着した脂質フィルムの検討は、脂質単分子層が存在するという結論を導いた。脂質フィルムの運動性を評価するために光退色後蛍光回復(FRAP)実験を用いた。見出した拡散定数は単分子層の存在と一致した。その値は、浮遊リン脂質二分子層についての拡散定数よりもおよそ一桁低い。脂質分子の疎水性尾部とSU−8表面との間の摩擦が拡散定数のこの低い値を説明し、脂質は、実際に、SU−8へと向かう疎水性尾部と水性緩衝液へと向かう親水性頭部を有する脂質単分子層として拡散すると結論付けられる。図2Dは、リン脂質単分子層フィルムが、蛍光標識したダイズ脂質抽出物から作られた多重膜小胞の沈着後の拡散によってSU−8レーン上に形成されることの一例を示す。脂質は疎水性表面上でのみ拡散し、親水性表面では拡散しないので、この技術は、制御された二次元マイクロ流体工学を実施する可能性を提供するものである。固体チャネルにおける水様溶媒のマイクロ流体工学と比較してこの技術の興味深い局面は、拡散する脂質フィルムに関して固定された滑りなし境界条件が存在しないことである。
【0100】
前記技術はまた、脂質供給源をSU−8表面に適用し、共焦点顕微鏡で拡散を観測して、所望の被覆率に達した後マイクロピペットで脂質供給源を取り除くことにより、脂質沈着を制御する機会を提供するものである。したがって、試料注入を定量的に正確に制御することができる。これらの手法は、したがって、本発明者らが表面上にて二次元で混合及び化学的変換を実施することを可能にする。ほぼ平方マイクロメートル程度(ならびにより小さい及びより大きい)、例えば、約0.01μm〜約数百マイクロメートルの所望サイズの構造体が製造でき、種々の化合物でドープすることができる脂質供給源を添加すること及び除去することによって、化学反応物の量に対する直接の制御が達成される。これは、従来の化学反応器における種々の化合物の体積分率に相当する。
【0101】
さらに、脂質拡散と混合により、デバイス上に異なる脂質又は反応性種及び成分を含む、あらかじめ定義された化学量論のリン脂質単分子層フィルムを生産する方法が実施可能である。最初に、異なる組成の2つのリポソームがSU−8上に拡散し、それらの最先端が接触した場合、それらが拡散によって内容物を混合する。これは図3Aに示されており、ダイズ極性抽出物(SPE)脂質と合成脂質(DOTAP)のフィルムが形成され、混合される。混合後、形成されたフィルムは、2つのそれぞれのパッチからの物質の量に比例する2つの成分を含有する。脂質を化学量論的に混合することの原理をさらに示すため、1つの実施態様は、n成分系(nは1より大きい何れかの整数であってよい)における混合を促進する公知の大きさと特定形状のSU−8構造体を含む。図3Bに示す3成分混合デバイスを使用して、異なる脂質画分を3つの異なる注入部位に連続的に適用し、それらが表面の中心部の三角形領域でどのように混合するかを観測することができる。
【0102】
二次元マイクロ流体プラットフォームは、したがって、化学分析及び合成における様々な適用に適する。例えば、表面上で分子を形成するために必要なそれぞれの成分(反応物)を含有する脂質を混合することにより、フィルム内で高分子を構築することができる。超分子集合体も、最初は別々の脂質画分に含まれる、超分子構築の種々の成分を混合することによって形成することができる。例えば、相補的一本鎖DNA分子を、個々の脂質フィルム中で2つの異なる鎖を供給することによって表面上でハイブリダイズさせることができる。この種の表面化学を実施可能にするためには、当該技術分野で公知の方法により、分子、例えば、DNAを、拡散脂質フィルム中で脂質として挙動する脂質と化学的に結合することが有利である。
【0103】
デバイスは、2つ又はそれ以上の付加的な成分の反応性混合(例えば、相補的DNA鎖のハイブリダイゼーション、例えば、ペプチド、DNA、芳香族化合物、脂質、アルカン、アルケン、アルキンならびに他の化合物の二量体化、オリゴマー化及び重合、共有結合を導く反応、二次元結晶の形成を導く混合、個々の構築ブロックの集合/会合からの超分子合成、自己集合反応、構築ブロックを一緒にすることによる自己組織化反応、構築ブロックを一緒にすることによるナノデバイス及びナノ構造体の製造)のために利用でき、それらは、注入領域への脂質の沈着の前に拡散脂質材料に添加されて、形成する脂質フィルムと共に拡散するか、又は完全に広がったフィルムの形成後に拡散脂質材料に添加される。各々の沈着スポットは、1つ又はそれ以上のそのような添加成分を含有することができる。図3C、パネル(i)は、拡散レーンによって相互に連結された2つの沈着領域を含むデバイスを示す。各々の沈着領域に、1つ又はそれ以上の活性添加物と共に、脂質材料を多重膜小胞として沈着させる。2つの脂質沈着物は、各々が活性物質を担持しながら、レーンを越えて互いの方へと拡散する。接触したとき、機能性物質が、自己集合又は他の会合プロセス、触媒プロセス又は結合機構を含む化学反応において又は他の相互作用によって、相互作用するか又は結合する。図3C、パネル(i)には、2つの活性物質の結合が描画されている。この方法は、活性添加物の正確な比率の確立を可能にし、したがって会合又は反応プロセスに対する制御を可能にする。このプロセスは2つの活性物質又は2つの脂質沈着物に限定されず、物質の何れの組合せも可能である。例えば、DNAの六角形構造体は、六角形の6本又は6本未満の異なる鎖が、各々が個々の鎖を担持する6つの異なる拡散脂質フィルムによって提供される、クリック化学に基づいて作製できる。
【0104】
図4は、2つの異なる混合物の積分蛍光強度が2成分ミキサーでの混合比Фにどのように依存するかをグラフに示す。この方法により、いずれの時点でも2つの材料の混合比を正確に判定することが可能である。これは、何れの組成の表面もそのようなデバイス上でin-situで合成できることを示している。
【0105】
加えて、脂質材料の拡散は、表面の温度などのパラメータを含む外部パラメータによって影響させることができる。一実施態様では、これは、温度制御要素をパターン化表面に組み込むことによって、又は赤外光もしくはレーザ光を含む放射法によって達成される。温度制御は、したがって、広範囲にわたって、例えば、ほぼ室温から約95℃まで可能である。一実施態様では、そのような制御要素は、表面プリント抵抗加熱ストリップ(surface-printed resistive heating strip)、加熱ブロック、加熱コイル、赤外光又は、加熱要素が浴溶液に挿入される技術(図2A)を含む何れかの他の方法である。表面加工又は他の加熱法に関連して、相変態などの脂質の温度応答特性は適用の基準である:高温で相転移点を上回ると、脂質は無秩序な液相状態となり、疎水性表面上に拡散することができ、一方相転移温度未満では、脂質は、拡散の可逆的停止を導く、非可動性の結晶相である。一実施態様では、相転移温度は、適用される脂質の化学構造によって、又は異なる化学構造の脂質を混合することによって好都合に制御できる。そこで、温度は、例えば、脂質拡散に基づく二次元マイクロ流体工学において脂質の流れを制御する1つの手段である(図8)。
【0106】
上記で、リン脂質が疎水性SU−8支持体上で吸着し、拡散することが示された。しかし、この方法は、例えば、様々な種類の分子の接着に対しても、それらが表面と相互作用することができる疎水性部分(例えば、疎水性芳香族、アルカン、アルケン又はアルキン結合を有するchol−DNA、DNA、タンパク質、ペプチド)を有することを条件として適用できる。ここで本発明者らは、疎水性部分(コレステロール)による天然DNAの修飾後のDNAに関するそのような例を示す。具体的には、コレステリル修飾オリゴヌクレオチドがSU−8上に効率的に吸着し、一方修飾していない天然状態のオリゴヌクレオチドは溶液中にとどまることを示している。SU−8へのchol−DNAの結合は強い疎水性相互作用を含む。提示する固定化経路は、表面活性化の必要性を排除することにより、機能化された表面を含むDNA固定化のための他の方法に比べて利点を提供している。さらに本発明者らは、固定化されたchol−DNAへの相補的鎖の高く且つ再現可能なハイブリダイゼーション収率を得た。
【0107】
コレステロールに結合され、蛍光染料で標識された一本鎖DNAの、金表面に疎水性パターン化SU−8構造体を有するデバイスへの固定化を、図5A及び5Bに概略的に示す。溶液中のchol−DNAをパターン化されたデバイス(Au上のSU−8)に添加し、chol−DNAは、SU−8へと向かうコレステロール部分によりSU−8表面にのみ付着する。SU−8表面へのchol−DNAの結合は即時であり、例えば、共焦点顕微鏡検査によって視覚化できる。DNAに結合した染料分子に依存して、試料は種々の波長で励起される。
【0108】
さらに、形成されたDNAフィルムは熱安定であり、清浄化し、乾燥させて、長期間保存することができる。基板(例えば、カバーガラス)は、例えば、水で洗浄し、その後窒素流下で穏やかに乾燥させることができる。吸着されたDNAを有する基板は、乾燥状態で長期間保存することができる。図5Cは、表面に吸着した2つの異なる蛍光標識chol−DNAを有するSU−8構造体を示す。
【0109】
最初のDNA鎖の吸着後、2番目の相補的鎖を溶液に添加することができる。次に相補的鎖を表面結合DNAとハイブリダイズさせる。本発明者らは、ハイブリダイゼーションを確認するために2つの異なる手法を使用した。最初のハイブリダイゼーションは、蛍光標識DNA3とその相補的c−DNA3/4の間でのFRETによって示された(配列及び標識情報に関しては表1参照)。図6において、右側のパネル(ii、iv、vi)は受容体の発光を示し、左側のパネル(i、iii、v)は供与体の発光を示しており、どちらも供与体の励起波長で励起した。相補的c−DNA3/4を添加する前に、撮影した蛍光顕微鏡写真は、カバーガラスを6時間乾燥状態に保持した後もSU−8上にとどまる固定化されたDNA3を示している(図6、パネル(i))。c−DNA3/4の添加は、Cy3の蛍光シグナルを有意に上昇させ(図6、パネル(ii)及び(iv))、FAMのシグナルを低下させる(図6、パネル(i)及び(iii))。カバーガラスを洗浄し、乾燥させて、緩衝液で再水和した後、固定化してハイブリダイズさせたchol−DNA+c−DNAの対は、依然としてSU−8上に存在した(図6、パネル(v)及び(vi)参照)。
【0110】
【表1】

【0111】
ハイブリダイゼーションを、また非蛍光固定化プローブに結合した蛍光標識相補的DNA分子によって検出した(図7参照)。ここで本発明者らは、DNA4+c−DNA3/4及びDNA2+c−DNA1/2の対を使用し、光退色後蛍光回復(FRAP)を観測した。どちらの場合も固定化DNA(DNA4及びDNA2)は蛍光標識せず、ハイブリダイゼーションの証拠は相補的鎖(c−DNA3/4及びc−DNA1/2)中のCy3からの蛍光の検出によって得られる。どちらのハイブリダイゼーション実験の結果も、コレステロール修飾オリゴヌクレオチドは、固定化DNAを数時間乾燥状態に保持した後も、それらの相補的鎖にアクセス可能であることを証明している。
【0112】
加えて、このプラットフォームは膜タンパク質の固定化を可能にすると考えられる。膜タンパク質は一般に、高度に疎水性である膜貫通αらせんを含む。したがって、非修飾膜タンパク質は、SU−8を含む本明細書に提示される表面に自発的に吸着すると考えられる。
【0113】
一実施態様では、デバイスは、SU−8などの疎水性コーティングで被覆されたチップ表面を含んでもよく、チップ表面は、層内の穿孔、層内の穴、層の柱又は層上の他の物質、パッチ、又は固定化された粒子、及び分子などのサブ構造体のパターンを含む(図1D)。構造体は、秩序づけられた(配列された)又は無秩序な方式で配置され、拡散フィルムによって完全にもしくは部分的に覆われるか又は囲まれるように(例えば、表面の疎水性パターン化に基づいて)設計される。そのような構造化表面上で、化学反応又は他の表面支援性合成手順、触媒プロセス、超分子自己集合、又はサブ構造体上もしくはサブ構造体内に固定化された材料もしくは反応物と拡散フィルムの活性成分との間での親和性に基づく分離原理を含むプロセスが実施できる(図3C、パネル(ii))。一実施態様では、反応物又は活性成分はサブ構造体を横切る脂質の流れによって運ばれ、二次元マイクロ流体デバイスを生成することができる。
【0114】
別の実施態様では、反応物又は活性成分を構造化表面の注入領域に添加し、あらかじめ形成された脂質フィルム内でサブ構造体化レーン又は領域に達するまで拡散させる。別の実施態様では、そのような反応は、表面プリント加熱器を使用することによる温度勾配、レーザ又はフラッシュランプ照射を用いることによる光、粒子エミッタを用いた放射、又はバルクpH変化もしくはマイクロ流体チャネルを通しての酸性又は塩基性溶液の供給を用いることによるpH勾配などの刺激を含む、外部刺激によって開始させることができる。別の実施態様では、サブ構造体化表面領域は、水晶振動子マイクロバランス(QCM)結晶表面又は表面プラズモン共鳴(SPR)基板表面などのデバイスを含む、分析又は合成機械装置とのインターフェースに配置することができる。
【0115】
特に、SU−8は非常に薄いフィルムとして金上に沈着させることができるので、QCM及びSPRのための広範囲の適用に利用できると考えられる。
【0116】
方法
少なくとも1つの疎水性部分を有する分子、リポソーム及び/又はそれと会合したもしくはそれに結合した分子を混合する方法を、本明細書に記述する。また、本明細書に記載のデバイスを使用する方法を説明する。
【0117】
1つの態様では、リポソームから抽出される脂質フィルムを表面上で混合する方法を説明する。その方法は、疎水性表面上に第一リポソーム(ある特定の組成の)を配置し、そして異なる組成の第二リポソームを疎水性表面上に配置して、第一リポソームと第二リポソームが疎水性表面上で拡散し、混合することを含む。
【0118】
少なくとも1つの疎水性部分を有するリポソーム又は分子は、例えば、マイクロピペット、光ピンセット又はマイクロ流体デバイスの1つ又はそれ以上によって疎水性表面に配置される。例えば、リポソームは、マイクロ流体デバイスを通ってマイクロ流体デバイス上又はデバイス内の疎水性表面へと移動することができる。デバイスは、巨視的又は顕微鏡的次元のチェンバ、毛管、カラム又は他の何れかのデバイスの1つ又はそれ以上をさらに含むことができる。
【0119】
本明細書で述べる方法は、指定量の物質の正確な混合を可能にする。例えば、第一リポソームと第二リポソームから供与される物質の量(又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の量)は、第一リポソームと第二リポソームの大きさの1つ又はそれ以上によって又はタイミングによって制御される。例えば、リポソームの物質量は既知であり、したがって物質の量は、リポソーム又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の測定量を使用することによって制御できる。また、拡散速度が本明細書で検討するように測定でき、この既知の因子を、例えば、固定された大きさの混合領域で、どれぐらいの時間で特定の所望量の物質を拡散させて混合することができるかを決定するための計算において使用できるので、タイミングを用いて混合を制御することができる。一定期間後に、例えば、リポソーム又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の1つ又はそれ以上の一定量を回収する又は取り出すことができる。
【0120】
ある実施態様では、方法は、第一リポソームと第二リポソームの一方又は両方の少なくとも一部を回収する(例えば、それらが所望量の脂質を表面に供与した後に)ことをさらに含む。これは、第一リポソームと第二リポソームから、又は何れかの数のリポソーム又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の集団から形成されるフィルムの化学量論的制御を得ることを可能にする。
【0121】
方法は、1つの実施態様によれば、第一リポソームと第二リポソームの混合によって、又はリポソームの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはそれ以上の集団、又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の集団の混合によって、機能性表面の作製を可能にする。
【0122】
一実施態様では、機能性表面は、二次元又は三次元表面特性の1つ又はそれ以上を含む。機能性表面は、同時に又は選択的に、金属触媒又は酵素を含む表面などの触媒表面、チオールに対して親和性を有する金スポット又はペプチド/タンパク質のHis基に対して親和性を有するNiスポットを含む表面などの結合表面、又は固定化クラウンエーテル、キレート化剤又はある特定の官能基などの物理的又は化学的操作を支援する表面の1つ又はそれ以上を含む。
【0123】
方法はまた、リポソームから又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子からフィルムが形成された後、フィルムを機能化するか又は変化させることを可能にする。これは、例えば、フィルムに結合するか又はフィルムと反応する(例えば、フィルムがその性質を変化させるように)他の分子を添加することによって実施できる。
【0124】
ひとたび本明細書で述べる基板の疎水性表面に適用されると、リポソーム(例えば、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子で作られた)は、例えば、超分子構造体、ナノ構造体、DNAアレイ、タンパク質アレイ、他の分子実体のアレイ、粒子アレイを形成する。
【0125】
本明細書で述べる方法は、部位特異的な分子認識形態(例えば、核酸、例えば、DNA)を、リポソームから又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子から形成されたフィルムにハイブリダイズすることをさらに含むことができる。上述したように、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子は、核酸、タンパク質、レクチン及び結合パートナーによって認識可能な他の分子を自らに結合させることができる。フィルムは、ひとたび形成されれば、当業者に公知の分子認識アッセイにおいて使用することができる。
【0126】
本発明の方法はまた、第一リポソームと第二リポソームから形成されたフィルム、又はリポソームの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはそれ以上の集団又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の集団で作られたフィルムを乾燥させることをさらに含んでいてもよい。
【0127】
一実施態様では、前記方法は、乾燥させたフィルムを再水和することを含む。コレステリル結合DNAフィルムなどのフィルムは、乾燥及び再水和したとき安定である。
【0128】
1つの態様では、多重膜小胞を緩衝液に懸濁し、疎水性表面を含む基板上に小胞を配置して、それにより小胞が表面上に単分子層として拡散することを含む、動的液膜形成の方法が本明細書に提示される。この方法は、第二多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞と第二小胞が拡散して混合することをさらに含んでいてもよい。前記方法は、3番目、4番目、5番目、6番目、7番目又はそれ以上の多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞が拡散して、生じた脂質フィルムが混合することをさらに含んでいてもよい。
【0129】
方法はまた、本明細書において開示する方法により、各々のリポソーム又は分子混合物の拡散係数を決定することを含んでいてよい。リポソーム及び/又は分子は、約0.01〜約数百μm/秒;約0.5〜約500μm/秒;約1〜約100μm/秒;約50〜約75μm/秒、又はその中に含まれる何れかの部分範囲又は単一値の拡散係数を含むことができる。
【0130】
本明細書で開示する方法はまた、マイクロ流体チャネルもしくはマイクロカナルの表面、又はサンドイッチ型層流セルを修飾するためにも使用することができる。
【0131】
リポソームは、本明細書で述べる方法によって、及び当業者に公知の何れかの方法によって、例えば、米国特許出願公開第20070059765号に記載の方法によって作製することができる。
【0132】
本明細書で述べるデバイスは様々な測定のために使用することができる。測定機構は、試料を定性的及び/又は定量的に分析するために何れかの適切な検出方法を使用してもよい。適切な検出方法は、とりわけ、分光法、電気的方法、流体力学的方法、画像化法、及び/又は生物学的方法、特に粒子の分析に適合された又は適合可能な方法を含むことができる。これらの方法は、とりわけ、単一値又は複数値、時間依存的又は時間非依存的(例えば、定常状態又は終点)値、及び/又は平均値もしくは(時間的及び/又は空間的)分布値の検出を含んでいてもよい。これらの方法は、アナログ値及び/又はデジタル値を測定及び/又は出力することができる。
【0133】
分光法は一般に、光(又は波様粒子)の何れかの性質、特に試料との相互作用によって変化する性質の検出を含むことができる。適切な分光法は、とりわけ、吸収、ルミネセンス(光ルミネセンス、化学発光及び電気化学発光を含む)、磁気共鳴(核共鳴及び電子スピン共鳴を含む)、散乱(光散乱、電子散乱及び中性子散乱を含む)、回折、円偏光二色性、及び旋光を含むことができる。適切な光ルミネセンス法は、とりわけ、蛍光強度(FLINT)、蛍光偏光法(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、蛍光寿命(FLT)、全内部反射蛍光法(TIRF)、蛍光相関分光法(FCS)、光退色後蛍光回復(FRAP)、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、及びそれらのリン光及び他の類似体を含むことができる。
【0134】
電気的方法は一般に、何れかの電気的パラメータの検出を含むことができる。適切な電気的パラメータは、とりわけ、電流、電圧、抵抗、静電容量、及び/又は電力を含んでいてよい。
【0135】
流体力学的方法は一般に、とりわけ、粒子(又はその成分もしくは誘導体)とその隣接物質(例えば、他の粒子)、溶媒(何れかのマトリックスを含む)及び/又はマイクロ流体系との間の相互作用の検出を含むことができ、分子の大きさ及び/又は形状を特徴づけるため、又は試料をその成分に分離するために使用することができる。適切な流体力学的方法は、とりわけ、クロマトグラフィ、沈降法、粘度測定及び電気泳動を含むことができる。
【0136】
画像化法は一般に、典型的には試料又はその成分を視覚化するために、とりわけ光学顕微鏡検査及び電子顕微鏡検査を含む、空間的に分布したシグナルの検出を含むことができる。
【0137】
生物学的方法は一般に、典型的には上述したように、別の方法を使用して、粒子によって伝導される、媒介される及び/又は影響される何れかの生物活性の検出を含むことができる。適切な生物学的方法は当業者に周知である。
【0138】
測定方法は、粒子の何れかの適切な特徴を直接及び/又は間接的に(例えば、レポーター分子を通して)検出及び/又は観測することができる。適切な特徴は、とりわけ、粒子の識別、数、濃度、位置(絶対的又は相対的)、組成、構造、配列及び/又は活性を含んでいてよい。検出される特徴は、とりわけ、DNA、RNA、タンパク質、酵素、脂質、炭水化物、イオン、代謝産物、細胞小器官、添加試薬(の結合)、及び/又はそれらの複合体の存在/不在、濃度、局在、構造/修飾、立体配座、形態、活性、数、及び/又は運動などの、分子又は超分子特徴を含んでいてもよい。検出される特徴はまた、とりわけ、形態、成長、アポトーシス、壊死、溶解、生存/死、細胞周期の位置、シグナル伝達経路の活性、分化、転写活性、基質接着、細胞間相互作用、翻訳活性、複製活性、形質転換、熱ショック応答、運動性、拡大、膜の完全性、及び/又は神経突起伸長を含む、何れかの適切な細胞の遺伝子型又は表現型などの細胞特徴を含んでいてもよい。
【0139】
基板は、何れかの適切なウイルス、細胞小器官、ビーズ及び/又は小胞に基づくアッセイ及び/又は方法のために使用することができる。これらのアッセイは、調節剤(化合物、混合物、ポリマー、生体分子、細胞等)の、これらの他の分子のいずれかの中/上に存在する又はいずれかに結合する1つ又はそれ以上の物質(化合物、ポリマー、混合物、細胞等)への結合(又は影響)を測定することができる。あるいは又は加えて、これらのアッセイは、相互作用によって誘導される、活性(例えば、酵素活性)の変化、光学特性(例えば、とりわけ化学発光、蛍光又は吸光度)の変化、及び/又は立体配座の変化を測定することができる。
【0140】
幾つかの実施態様では、フィルムは検出可能な符号を含んでいてよい。そのような符号は、光学特性(例えば、スペクトル、蛍光励起/発光の強度及び/又は程度、吸光度、反射率、屈折率等)などの検出可能な性質を有する1つ又はそれ以上の物質によって付与することができる。1つ又はそれ以上の物質は、非空間的情報を提供するか、又は各々の符号の符号化態様に寄与する別個の空間位置を有していてもよい。符号は、細胞、化合物、タンパク質等のような異なる試料を、異なる符号を有するビーズに結合することを可能にできる。次に、異なる試料を合わせて、一緒に検定し、各々のビーズ上の符号を読み取ることによって同定することができる。細胞結合ビーズのための適切なアッセイは、上述した細胞アッセイのいずれかを含んでいてもよい。
【0141】
この欄に記載のアッセイの一部を実施するための適切な手順は、参照により本明細書に組み込まれている、Joe Sambrook and David Russell, Molecular Cloning :A Laboratory Manual(3rd ed. 2000)に含まれる。
【実施例1】
【0142】
デバイスの製造
Menzel Glaser社の顕微鏡カバーガラスNo.1を清浄にし、3000rpmでSU−8 2000型フォトレジスト(Microchem)を用いて1分間スピンコーティングし、続いて65℃及び95℃でソフト焼成した。次にカバーガラスをKarl Suss MJB3-UV 400マスクアライナにおいて400nm(5mW/cm)のUV光に15秒間露出した。SU−8被覆したカバーガラスを、65℃及び95℃での露出後焼成工程に供した後、SU−8現像液(Microresist Technology GmbH)に浸した。最終工程では、SU−8を水で洗浄し、窒素でブロー乾燥させて、Venticell drying(MMM Medcenter Einrichtungen GmbH)を用いて200℃で30分間硬化焼成した。構造化SU−8表面のために、チタンと金の層を、SU−8適用の前にMS 150 Sputter system(FHR Anlagenbau GmbH)を用いてホウケイ酸カバーガラスにスパッタした。チタン接着層(厚さ2nm)と金層(厚さ8nm)を、それぞれ5Å/秒及び20Å/秒の堆積速度でDCマグネトロンスパッタリングによりカバーガラス上に堆積させた。
【0143】
SU−8プロセスのための暗視野フォトマスクをJEOL JBX-9300FS電子線リソグラフィシステムで作製した。UV−5/0.6レジスト(Shipley Co.)被覆したCr/ソーダ石灰マスクを、マイクロメートル分解能についての一般的なプロセスを使用して(Zhang, J. et al., Micromech. Microeng. 11:20-26(2001))露光し、現像して、エッチング処理した。
【0144】
パターンファイルをCADopia IntelliCADプラットフォームバージョン3.3(IntelliCAD Technology Consortium)で作製した。硬化焼成工程を除き、すべての製造手順はクリーンルーム大気下(ISO 14644−1によるクラス3−6)で実施した。
【0145】
接触角測定
動的接触角測定を、Drop Shape Analysing System 10Mk2(Kruss GmbH)においてMilli−Q水で実施した。得られたデータをDSAバージョン1.80ソフトウエアで解析した。
【実施例2】
【0146】
脂質拡散及び混合
実施例2は、マイクロ加工した疎水性基板(実施例1のデバイス)上での、液膜の制御された動的形成及びいくつかの異なる脂質フィルムの混合を記述する。これまでの製造方法と異なり、この方法は、フィルムに含まれる種々の成分の化学量論的制御を可能にする。緩衝液の液滴に懸濁された多重膜脂質小胞を基板上に配置したとき、脂質は単分子層として速やかに表面上に拡散する。形成される脂質パッチは、図2Cに例示するような円形である。多重膜小胞は最終的に枯渇し、脂質単分子層へと変換される。
【0147】
種々の組成の脂質フィルムの混合は、例えば、多重膜小胞SPE(全体として負に荷電した、ダイズ極性抽出物)脂質とDOTAP(正に荷電した合成脂質)多重膜小胞の混合物を、デバイス表面上の隣接領域に連続的に適用することによって達成される。2つの脂質単分子層の混合の時系列画像を図3Aに示す。実験では、SPE脂質を蛍光染料FM1−43で標識し、DOTAPは修飾しなかった。混合が進むと共に、DOTAPにおける濃度上昇が染料の置換を導くので、SPE脂質パッチ中の蛍光強度は低下する。脂質フィルムが混合しない場合は、2つのフィルムの間に蛍光強度の静止した不連続な境界が得られる。
【0148】
単分子層フィルムは、デバイス表面へと向かう脂質分子の疎水性尾部と、緩衝液に暴露される親水性頭部で形成される(図2C参照)。脂質分子の移動性を確認し、定量化するため、光退色後蛍光回復(FRAP)実験を実施し、拡散定数Dは2.3×10−1μm/秒であると算定した。混合実験では、マイクロ転写技術を用いて多重膜小胞をデバイス表面に沈着させた。これは、疎水性領域(例えば、SU−8を含む、実施例1参照)での制御された組成を有する脂質フィルムの形成を可能にする。このデバイスでは、SU−8と異なって親水性であり、脂質拡散を促進しないAu上では脂質フィルムは形成しない。それぞれ多重膜小胞のための2つ及び3つの注入領域を有し、1つが混合領域の中心に配置されている、2成分及び3成分混合構造を使用した。図2Aは、注入領域における脂質の沈着を制御し、拡散と混合を観測して、必要に応じてマイクロピペットで脂質源を除去することを可能にする、実験の設定の概略図を示す。脂質は、図1C(上段)に示すタイプの構造体上の2つの注入領域に既知量の異なる脂質フィルムを適用することによって化学量論的に混合することができる。脂質画分の1つが蛍光性であり、他の1つが蛍光性でないことにより、互いの画分への2つの脂質フィルムの希釈を観測することができ、異なるフィルム混合比Фでの蛍光強度が測定された(図4)。その関係は線形であり(R=0.944)、この系が検定可能であることを示す。
【0149】
図3Bは、3つの異なる染色を施した多重膜小胞が配置された3成分混合デバイスを示す。拡散脂質単分子層が構造の中心部で混合している。適用される脂質画分の混合比は、適用のタイミングと脂質源の除去によって制御することができる。
【0150】
レーン上の脂質フラックスの拡散係数βは、ラインの幅wとは無関係に、1〜5μm/秒の範囲内である。レーン上の脂質の総流量はレーン幅wに比例する。これは、混合デバイスの中心混合領域へと導く2つのレーンの幅の比w/wが、これらのレーン上で拡散する脂質画分AとBの混合比Фに等しいことを意味する。これは、構造体のトポグラフィ設計により、混合される単分子層中の脂質混合比を制御することが原則として可能であることを示している。
【0151】
脂質拡散手順
裸のカバーガラスを顕微鏡載物台に載せ、再水和した脂質の溶液をそれに塗付した。マイクロ転写技術により、所望量の脂質を多重膜小胞の形態でピペットに吸引することが可能であった。その後このマイクロピペットを液滴から慎重に取り出した。次に、その代わりに、スパッタしたTi/Au及びSU−8構造体を有するカバーガラスを載物台に載せ、PBS緩衝液の液滴を塗付した。マイクロピペットを液滴中まで下げて、吸引した脂質をマイクロ加工したパターン内の所望部位に塗付した。別の脂質画分、例えば、異なる発蛍光団で標識した脂質画分を、SU−8パターンを有するTi/Auカバーガラス上に移すために、この手順を反復した。図2Aは共焦点顕微鏡での実験の設定を例示する。
【0152】
化学物質
ダイズ極性抽出物(SPE)脂質をAvanti Polar Lipids, Alabaster(AL), USAより購入した。KCl、DOTAP、TRIZMA塩基、K−EDTA、KPO、KOH及びグリセロール(99%)はSigma(Steinheim, Germany)より入手した。脱イオン水は、Millipore(Bedford(MA), USA)のMilli−Qシステムから生成した。FM1−43及びローダミンホスファチジルエタノールアミン(Rhodamine PE)は、Molecular Probes(Eugene(OR), USA)から入手した。クロロホルムはVWR International AB(Stockholm, Sweden)より購入した。MgSO及びKHPOはMerck(Darmstadt, GEermany)から入手した。使用したリン酸緩衝液(PBS)は、脱イオン水中にTRIZMA塩基(5mM)、KPO(30mM)、KHPO(30mM)、MgSO(1mM)及びEDTA(0.5mM)を含有していて、KOHでpH7.8に調整した。蛍光Alexa 633 Fluor−ホスファチジルエタノールアミンは、Alexa 633 Fluor スクシンイミジルエステル(Molecular Probes)を、N雰囲気下で25時間、無水塩化メチレン(Aldrich)中のホスファチジルエタノールアミン(Sigma)と1:5の比率で撹拌することによって合成した。脂質は、Karlsson et al. (Karlsson M. et al., Anal. Chem. 726:5857-5862(2000))に記載のように調製した。
【0153】
簡単に述べると、脂質溶液(l%(w/w)1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(カルボキシフルオレセイン)でドープしたDOTAP(Sigma)又はダイズ極性抽出物(SPE)脂質(どちらもAvanti Polar Lipids)、l%(w/w)ローダミンホスファチジルエタノールアミン、FM1−43(どちらもMolecular Probes)、又は蛍光Alexa 633 Fluor−ホスファチジルエタノールアミン)を減圧下で少なくとも40分間乾燥させ、PBS緩衝液(TRIZMA塩基(5mM)、KPO(30mM)、K−EDTA(0.5mM)(すべてSigma)、KHPO(30mM)、MgSO(1mM)(どちらもMerck)、KOH(Sigma)でpH7.8に調整)で約10分間再水和した。
【0154】
巨大多重膜小胞の作製
例えば、約1〜約100μm;約5〜約75μm;約25〜約50μm、又はその中に含まれる何れかの部分範囲又は単一値のGMVの形成を、2工程手順;脂質分散の脱水と、それに続く再水和で実施した。脱水のために、少量(2μl)の脂質懸濁液を慎重にホウケイ酸カバーガラス上に置き、減圧デシケータに入れた。試料が完全に乾燥したとき、脱水を終了し、試料を室温にもどした。乾燥試料を最初に緩衝液5μlで再水和した。3〜5分後、試料中の乱流を最小限に抑えながら、試料を緩衝液で慎重に希釈した。すべての再水和液体を使用前に室温に温めた。
【0155】
注入チップの作製
キャピラリホルダに入れやすくするため後端を注意深く炎鍛造した(flame-forged)毛管(長さ:10cm、光学密度:1mm、内径:0.78mm;Clark Electromedical Instruments, Reading, UK)を担持する注入チップを、ホウケイ酸フィラメントから作製した。塵埃粒子を除去するため使用前に圧縮空気流で毛管をフラッシュした。チップをCOレーザ・プラー装置(P−2000型、Sutter instrument Co., Novato, CA)で延伸した。注入チップの外径は0.25〜2.5μmにわたった。汚染を回避するため、チップは使用の直前に延伸した。
【0156】
顕微操作と微量注入
すべての顕微操作及び材料注入実験は、Leica PL Fluotar 40×対物レンズ及び水圧式顕微操作システム(高い目盛精度のマニピュレータ:Narishige MWH-3,Tokyo、粗マニピュレータ:Narishige MC-35A,Tokyo)を備えた倒立顕微鏡(Leica DM IRB,Wetzlar, Germany)で実施した。
【0157】
画像化
共焦点画像化実験を、Leica TCS SP2共焦点スキャナを備えたLeica IRE2共焦点顕微鏡で実施した。データをMatlabバージョン7.1(R14)及びLeica Confocal Softwareバージョン2.61で処理し、解析した。
【0158】
光退色後蛍光回復
光退色後蛍光回復(FRAP)を、1%(w/w)のモル分率の蛍光ローダミンホスファチジルエタノールアミンでドープしたSPE脂質パッチ上で実施した。多重膜小胞からの正味の脂質の流れを回避するため、脂質源をパッチから取り除いた。脂質パッチの一部を強いレーザ照射によって5秒間退色させ、回復を記録した。次に回復を変形ベッセル関数に適合させ、「特徴的」拡散時間を評価した。データをMatlabバージョン7.1(R14)及びLeica Confocal Softwareバージョン2.61で処理し、解析した。
【0159】
脂質拡散適用
SU−8基板上に置いた緩衝液の液滴中に懸濁した多重膜脂質小胞は、単分子層として表面上に迅速に拡散する。形成される脂質パッチは、図2C及び3Aに示すように円形である。多重膜小胞は最終的に枯渇し、脂質単分子層に変換される。SU−8によって誘発される張力は多重膜小胞の構造を破壊するのに十分である。したがって、SU−8上の脂質の表面接着エネルギーΣは、二分子層の溶解張力σL≒2〜9mN/mより大きい。吸着された脂質は、疎水性表面エネルギーをSU−8と水との間に分け、脂質吸着に関連する表面エネルギーの増加、Σは、SU−8と水との間の表面張力におおよそ等しいと予想される。SU−8はエポキシであり、したがってSU−8/水の表面張力はσepoxy≒47mN/mの高さであり得ると推測するのが妥当である。脂質拡散プロセスの動力学を数量化し、経時的な湿潤領域Aは、拡散プロセスの開始時にはほぼ線形であることを見出した。脂質フィルムのマランゴーニ応力∇σを、脂質フィルムと表面の間の滑り摩擦力(単位面積当たり)と平衡させることによって、拡散の動力学をモデル化した:∇σ−ζv=0。SU−8のレーン上での脂質フィルム拡散に関して、拡散速度はν=√βt(式中、β=S/2ζは拡散係数であり、拡散力Sは、表面上の脂質と貯蔵容器内の脂質との間の自由エネルギーの差(単位面積当たり))である。レーン上での脂質フィルム速度はフィルム全体にわたって均一であるが、円形拡散に関しては速度の勾配が存在する。円形拡散する単分子層に関して、本発明者らは、拡散するフィルムの半径がRlog(R/R)dR/dt=2βによって与えられることを見出した。Rが拡散する多重膜小胞の平均半径に等しいとしてこの等式を数値的に解くと、実験データとの良好な一致が得られる。推定拡散係数は、β=1〜3μm/秒の範囲内である。
【0160】
拡散端の張力は脂質/SU−8の接着エネルギーに等しい:σ(R)=Σ。多重膜小胞において、張力は二分子層の溶解張力に等しいと予想され:σ(R)=σ、拡散力はS=Σ−σである。Σ〜σ〜6mN/m及びβ≒3μm/秒とすると、単分子層とSU−8の間の滑り摩擦は、およそζ〜10Pas/mであると推定され、これは、脂質二分子層内の2枚のシートの間の滑り摩擦、b=0.5×10Pas/mと同程度の大きさである。これは、疎水性SU−8上の脂質単分子層が、脂質二分子層内のシート間の相互作用と非常に類似した相互作用を有するという概念を強く支持するものである。
【0161】
種々の組成を有する脂質フィルムの混合を明らかにするため、本発明者らは、ダイズ極性抽出物(SPE)脂質の多重膜小胞とDOTAP多重膜小胞の混合物をSU−8表面に適用した。DOTAPは、合成の、正に荷電した脂質であり、一方SPEは、全体として負に荷電している脂質の混合物である。2つの脂質単分子層の混合の画像を図3Aに示す。SPE脂質を蛍光染料FM1−43で染色し、DOTAPは染色しなかった。混合が進むと共に、DOTAPにおける濃度上昇が染料の置換を導くので、染色されたSPE脂質パッチ中の蛍光強度は低下する。脂質フィルムが混合しない場合は、2つのフィルムの間に蛍光強度の静止した不連続な境界が得られる。
【0162】
本発明者らは次に、異なる疎水性を有するパターン化基板への多重膜小胞の沈着のためのマイクロ転写技術に基づくプラットフォームを開発した。このプラットフォームは、制御された組成を有する脂質フィルムの形成を可能にする。本発明者らは、SU−8と異なって親水性であり、脂質拡散を促進しないAu上でSU−8パターンを作製した。SU−8はフォトレジストであるので、これは、本発明者らが脂質フィルム形成と制御された化学量論的混合を支援するように設計した形状の、マイクロメートルスケールの構造体を生成する機会をもたらす。本発明者らは、それぞれ多重膜小胞のための2つ及び3つの注入容器を有し、1つが混合領域の中心に配置されている、2成分及び3成分ミキサーを作製した。図2aは実験設定の概略図である。この設定により、注入容器への脂質の注入を制御し、拡散と混合を観測して、マイクロピペットで再び脂質源を取り除くことができる。本発明者らは、図2Aに示すタイプの構造体上の2つの注入容器に既知量の異なる脂質フィルムを適用することによって、脂質を化学量論的に混合することができた。脂質画分の1つは蛍光性であり、他方の1つは蛍光性ではなかった。本発明者らは、互いの画分への2つの脂質フィルムの希釈を観測し、図4に示す、異なるフィルム混合比Фでの蛍光強度を測定した。その関係は線形である(R=0.944)ことが認められ、この系が検定可能であることを示している。
【0163】
さらに、脂質単分子層混合の動力学を追跡することができる。明らかに、広範囲の脂質混合比が表面上で認められる。蛍光強度の有意の変化が起こるためには数分を要することがわかる。まず第一に、比較的低い拡散定数の脂質がこの種の検討には好都合である。第二に、脂質の間に限られた連結サイズを有する菱形が存在する、SU−8構造体の意図的な設計は、末端注入容器の間が単純な直線である場合に比べて混合の減速に寄与する。
【0164】
図3Bは、3つの異なる染色を施した多重膜小胞が配置された3成分混合デバイスを示す。拡散脂質単分子層が構造の中心部で混合している。本発明者らはさらに、4つ又はそれ以上の異なる脂質フィルムを混合するためのより高次の構造体を作製することができる。適用される脂質画分の混合比は、適用のタイミングと脂質源の除去によって制御することができる。本発明者らは、レーン上の脂質フラックスの拡散係数βは、ラインの幅wとは無関係に、1〜5μm/秒の範囲内であると測定した。レーンがレーン幅に比べて長いとき、脂質注入容器上の界面活性剤流れによる散逸は、レーン上の散逸と比較して無視できる程度であり、νlane=√β/t(式中、t=0は脂質が注入容器からレーンに入る時点である)である。レーン上の脂質の総流量は、したがって、レーン幅wに比例する。これは、混合デバイスの中心混合領域へとつながる2つのレーンの幅の比wA/wBが、これらのレーン上で拡散する脂質画分AとBの混合比Фに等しいことを意味する。これは、本発明者らが、原則的に、混合される単分子層中の脂質混合比を構造体のトポグラフィ設計によって制御できることを示している。
【実施例3】
【0165】
オリゴヌクレオチドの固定化
実施例3は、金表面上にマイクロ加工されたSU−8部位を含む、実施例1で述べたデバイスの疎水性領域へのコレステリル−テトラエチレングリコール修飾オリゴヌクレオチド(chol−DNA)の高収率固定化のための、迅速で簡単な1工程手順である(図1参照)。
【0166】
プロセスは、おそらくデバイス特性の疎水性とオリゴヌクレオチドの5’又は3’位置におけるコレステリル−TEG修飾に基づく、基板とDNAの間の相互作用を用いる、単純なものである。SU−8上の固定化DNAは、強固で効率的な結合、高い表面被覆率を示し、相補的鎖によるハイブリダイゼーションにアクセス可能である。共有結合によるDNA固定化についての表面被覆率値は1012〜1013分子/cm(20〜95pmol/cm)の範囲内である。固定化されたchol−DNAは、様々な期間(数時間まで)乾燥状態に保持された後も依然として機能性であり、貯蔵寿命を示す。chol−DNA(表1参照)の固定化とハイブリダイゼーションの観測は、レーザ走査型共焦点顕微鏡検査(LSCM)による蛍光検出によって実施した。
【0167】
DNAの固定化
chol−DNAを含む溶液をピペットで分注し、デバイス上でインキュベートした(図5A参照)。液滴の適用後、chol−DNAは数秒以内にSU−8表面に吸着した。カバーガラスチップを洗浄し、乾燥させて、緩衝液で再水和した後、蛍光画像を記録した。図5Cのパネル(i)及び(ii)は、それぞれ15分及び25分のインキュベーション時間後の固定化DNA1及びDNA3を示す。コレステロール不含のc−DNA3/4を使用して実施した対照実験は、コレステロールがSU−8表面へのDNAの吸着に決定的な役割を果たすという事実のゆえに、SU−8表面が実質的にDNA不含であることを明らかに示している(データは示していない)。
【0168】
固定化chol−TEG−5’−GCGAGTTTCG−3’−Cy5及びchol−TEG−5’−GCGAGTTTCG−3’の表面被覆率を、UV−Vis分光光度計を用いて測定し、吸着されたchol−DNAの量を算定した。chol−DNAの表面密度は、1012〜1013分子/cmに相当する20〜95pmol/cmの範囲内であり、ssDNAの単分子層の最大固定化密度、150pmol/cmに比較できる。1個のssDNA分子によって被覆される面積は、したがって、333Å〜1250Åであると測定された。高い表面被覆率と固定化効率の高い収率は、吸着層が緻密であり、欠陥がないことが認められる共焦点顕微鏡写真と強く関連している。SU−8コレステロール相互作用の安定性を確認するため、固定化chol−DNAを有するデバイスを周囲空気中、室温で6時間乾燥状態に保持し、その後緩衝液で再水和した。蛍光強度データから、空気中での保存後に固定化chol−DNAの〜40%だけが失われたと算定された。
【0169】
SU−8に結合したssDNAへの相補的DNAのハイブリダイゼーション蛍光標識chol−DNAを含む溶液をピペットで分注し、デバイス上でインキュベートした(図5B、パネル(i)及び(ii))。インキュベーション後、デバイスを洗浄し、蛍光標識した相補的ssDNAを含む溶液を添加する。適用後、相補的ssDNAを固定化したchol−DNAにハイブリダイズさせる(図5B、パネル(iii)及び(iv))。DNA3をデバイス上に固定化し、6時間乾燥状態に保持したとき、どちらもFAM標識励起波長下で、図6、パネル(i)はFAM標識発光を示し、図6、パネル(ii)はCy3標識発光を示す。次にc−DNA3/4を添加し、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によってハイブリダイゼーションを観測する。供与体であるFAM標識を励起して、供与体と受容体の発光を記録し、後者はハイブリダイゼーションが起こったことを示す。FAM標識の蛍光シグナルは減少し(図6、パネル(iii)参照)、一方Cy3標識についてのシグナルは有意に増加する(図6、パネル(iv)参照)。どちらもFAM標識励起波長下で、図6、パネル(v)はFAM標識発光を示し、図6、パネル(vi)はCy3標識発光を示しており、デバイスを洗浄し、緩衝液で再水和した後も、固定化してハイブリダイズさせたDNAが依然としてSU−8表面上に存在することを示す。蛍光シグナル強度の変化が図6、パネル(vii)及び(viii)に示されており、固定化及びハイブリダイゼーション工程、すなわち蛍光強度の上昇と低下を明らかにしている。さらに、ハイブリダイゼーションはまた、DNA2+C−DNA1/2(図7、パネル(i)参照)及びDNA4+c−DNA3/4(図7、パネル(ii)参照)の対を使用して、固定化非蛍光ssDNAに結合した相補的一本鎖におけるCy3標識からの蛍光の検出によっても示される。より高いレーザ強度を使用して対象とする領域を退色させ、退色スポットの蛍光回復(図7C参照)をCy3標識励起波長下で観測した。結論として、ハイブリダイゼーション実験の結果は、コレステロール修飾オリゴヌクレオチドが、固定化DNAを数時間乾燥状態に保持した後も、それらの相補的鎖に対してアクセス可能であることを証明している。
【0170】
化学物質及びDNAプローブ
すべての実験は、脱イオン水中にTRIZMA塩基(5mM)、KPO(30mM)、KHPO(30mM)、MgSO(1mM)及びEDTA(0.5mM)を含むリン酸緩衝液(KOHでpH7.8に調整)中で実施した。10量体及び20量体のオリゴヌクレオチドは、それぞれATDbio(Southampton, UK)及びMedprobe(Lund, Sweden)より購入した。実験を実施する前に、Varian(Victoria,Australia)から入手したCARY 4000紫外線可視分光光度計での吸光度測定によってDNA濃度を分析した。
【0171】
基板の作製
Menzel Glaser(Braunschweig, Germany)から入手した顕微鏡カバーガラス(25mm×50mm)を基板として使用した。カバーガラスを、脱イオン水中での5分間の超音波処理、及びそれに続いて、AMO GmbH(Aachen, Germany)のマイクロ波プラズマシステム、Tepla Plasma Batch System 300における250Wの酸素プラズマで2分間のプラズマ洗浄工程によって、十分に清浄化した。SU−8フォトレジストを適用する前に、主チェンバにおける基本圧力5×10−7mbarを有するFHR Anlagenbau GmbH(Ottendorf-Okrilla, Germany)のMS 150スパッタシステムを、清浄なカバーガラスへのTi/Auフィルムの沈着のために使用する。チタン接着層(2nm)及び金層(8nm)を、5×10−3mbarのプロセス圧、それぞれ5Å/秒及び20Å/秒の堆積速度でDCマグネトロンスパッタリングによりカバーガラスに沈着させた。SU−8プロセスのための暗視野フォトマスクは、JEOL JBX-9300FS電子線リソグラフィシステムで作製した。UV−5/0.6レジスト(Shipley Co., 455 Forest St., Marlborough, USA)被覆したCr/ソーダ石灰マスクブランク(3インチサイズ)を、μm分解能についての一般的なプロセスを使用して露光し、現像して、エッチング処理した。パターンファイルはCADopia IntelliCADプラットフォームで作製した。レジストを適用する前に、金被覆カバーガラスを脱イオン水で洗浄し、窒素でブロー乾燥させた。次に、MicroChem(Newton, USA)から市販されているSU−8 2002を、スパッタしたTi/Auフィルム上に3000rpmでスピンコーティングした。フォトレジストの適用後に、65℃及び95℃で6分間ソフト焼成し、Karl Suss MJB3-UV 400マスクアライナにおいてマスクを通して400nm、6mW/cmのUV光に15秒間露出して、65℃及び95℃で1分間の露出後焼成、及びMicroresist Technology GmbH(Berlin, Germany) から入手したSU−8現像液浴中での現像を実施した。最後に
、カバーガラスを脱イオン水で十分に洗浄し、窒素でブロー乾燥させて、MMM Medcenter Einrichtungen GmbH(Grafelfing,Germany) から入手したVenticellオーブンにおいて200℃で30分間硬化焼成した。
【0172】
接触角測定
SU−8及び金表面での動的接触角測定を、Kruss GmbH(Hamburg,Germany)のDrop Shape Analysing System 10Mk2においてMilli−Q水で実施した。
【0173】
DNA吸光度測定
1、2、3及び4μMのDNA1及びDNA2の溶液を、PBS緩衝液を用いて調製した。保存溶液の濃度をUV−Vis分光光度計で測定した。その後、保存溶液の液滴を規定された領域のSU−8表面に塗布した。室温で15分間のインキュベーション後、上清を取り、その吸光度スペクトルを記録した。保存溶液と上清の間の濃度の差はSU−8表面に吸着されたDNA分子の量を示し、そこから固定化DNA密度を算定した。
【0174】
固定化及びハイブリダイゼーションの検出
蛍光標識オリゴヌクレオチドを、Leica TCS SP2スキャナ(Wetzlar,Germany)を備えたLeica IRE2共焦点顕微鏡で走査した。固定化及びハイブリダイゼーション実験は、開放大気中、室温で実施した。固定化実験のために、SU−8構造化カバーガラスを共焦点顕微鏡の載物台に置き、chol−DNA分子を含む2μM、250μL溶液を手操作によりカバーガラス上にピペットで分注した。規定のインキュベーション期間後、すなわちDNA1とDNA2については15分後、DNA3とDNA4については25分後に、カバーガラスをMilliQ水で洗浄し、窒素流下で穏やかに乾燥させた。次に、カバーガラスを緩衝液で再水和し、蛍光標識chol−DNA分子に関して蛍光顕微鏡写真を記録した。同じ手順をハイブリダイゼーション実験についても反復したが、再水和工程だけが異なった。緩衝液で再水和する代わりに、固定化chol−DNAを含むカバーガラスを、相補的DNAを含む2μM、250μL溶液で再水和した。規定のインキュベーション期間後、すなわちc−DNA1/2については15分後、c−DNA3/4については25分後に、カバーガラスをMilliQ水で洗浄し、窒素流下で穏やかに乾燥させた。次にカバーガラスを緩衝液で再水和し、蛍光顕微鏡写真を記録した。DNA4+c−DNA3/4及びDNA2+c−DNA1/2プローブ対に関して、光退色後蛍光回復(FRAP)実験を実施した。高強度レーザを用いて対象領域を退色させた。その後蛍光回復を観測した。
【0175】
チップの製造
マイクロチップの製造のために、Ti/Au層を最初に顕微鏡カバーガラスの上にスパッタし、次にSU−8スピンコーティングを実施した。マイクロメートルサイズのSU−8構造体を、マスクを通してのUV光露出を用いてパターン化した。チップを、最後に、200℃で30分間硬化焼成した。最終的なマイクロ加工されたチップは、したがって、明確に区別できる表面特性を備える2つの層を含んでいた。金表面は親水性であり(水との接触角:77.9°±3.2°)、SU−8構造体は疎水性である(水との接触角:91.4°±1.5°)。
【0176】
SU−8の自己蛍光とssDNAの表面被覆率
SU−8の自己蛍光からDNAプローブの蛍光を識別することができるように、パターン化SU−8表面を種々の励起波長で走査した。SU−8層の厚さを減じると、自己蛍光の減少を導く(Marie, E. et al. Biosensors and Bioelectronics 21, 1327-1332(2006))。しかし、本発明者らのSU−8層は厚さ約2μmであり、その自己蛍光は、488nmの励起波長を使用したときしか考慮に入れる必要がない。UV−Vis分光光度計を用いて固定化Chol−TEG−5’−GCGAGTTTCG−3’−Cy5及びChol−TEG−5’−GCGAGTTTCG−3’の表面被覆率を測定した。chol−DNAを含む保存溶液、及びチップに適用した液滴から収集した試料の吸光度測定を記録した。濃度差から吸着されたchol−DNAの量を算定した。chol−DNAの表面密度は、1012〜1013分子/cmに相当する20〜95pmol/cmの範囲内であった。この結果は、ssDNAの単分子層の最大固定化密度である150pmol/cmと比較できる(この範囲では分子は直径20Åの円筒状であり、表面の平面に対して垂直に配向すると考えられる)。1個のssDNA分子によって被覆される面積は、したがって、本発明者らの実験では1250Å〜333Åであった。比較として、ssDNAの緊密に充填した完全単分子層(コレステリル−TEG修飾なし)における1個のssDNA分子の理論的面積被覆率は111Åである。
【0177】
固定化の検出及びssDNAチップの安定性
chol−DNA(表1参照)の固定化とハイブリダイゼーションの観測を、レーザ走査型共焦点顕微鏡検査(LSCM)による蛍光検出によって実施した。chol−DNAを含む溶液をピペットで分注し、チップ上でインキュベートした(図5A参照)。液滴の適用後、chol−DNAは数秒以内にSU−8表面に吸着した。チップを洗浄し、乾燥させて、緩衝液で再水和した後、蛍光画像を記録した。図5Cのパネル(i)及び(ii)は、それぞれ15分及び25分のインキュベーション時間後の固定化DNA1及びDNA3を示す。コレステロール不含のc−DNA3/4を使用して実施した対照実験は、SU−8表面が実質的にDNA不含であることを明らかに示す(データは示していない)。これらの結果は、コレステロールがSU−8表面へのDNAの吸着に決定的な役割を果たすことを強く示唆する。インキュベーション時間及び濃度の上昇は、DNAの10量体及び20量体のいずれに関しても、蛍光強度を有意に変化させない(データは示していない)。これは、SU−8表面がchol−DNAで容易に飽和することを示唆している。SU−8コレステロール相互作用の安定性を検討するため、固定化chol−DNAを有するチップを棚の上で6時間乾燥状態に保持し、その後緩衝液で再水和した。図6のパネルi及びiiiの蛍光強度データから、空気中での保存後に固定化chol−DNAの〜40%だけが失われたと算定された。
【0178】
SU−8に結合したssDNAへの相補的DNAのハイブリダイゼーション
本発明者らは、ハイブリダイゼーションを確認するために2つの異なる手法を使用した。最初のハイブリダイゼーションは、蛍光標識DNA3とその相補的c−DNA3/4の間での蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)画像化(図6参照)によって示された。図6において、右側のパネルは受容体の発光を示し、左側のパネルは供与体の発光を示しており、どちらも供与体の励起波長で励起した。相補的c−DNA3/4を添加する前に、蛍光顕微鏡写真は、チップを6時間乾燥状態に保持した後のSU−8上の固定化DNA3を示す(図6i)。図6iiと6ivを比較すると、c−DNA3/4の添加はCy3標識の蛍光シグナルを有意に上昇させ、FAM標識のシグナルを低下させる(図6i及び6iiiを比較)。これは、標識対の間のFRET、及びそれゆえDNAハイブリダイゼーションを証明している。チップを洗浄し、乾燥させて、緩衝液で再水和した後、固定化してハイブリダイズしたDNA3+c−DNA3/4の対は依然としてSU−8表面に存在した(図6v及び6vi参照)。ハイブリダイゼーションはまた、標識していない固定化chol−DNAに結合した蛍光標識相補的DNA鎖の検出によっても確認された(図7参照)。上述したように、コレステリル部分を欠くオリゴヌクレオチドはSU−8表面に吸着しない。本発明者らは、DNA4+c−DNA3/4ならびにDNA2+c−DNA1/2の対を使用し、光退色後蛍光回復(FRAP)を観測した。固定化DNA(DNA4及びDNA2)は標識せず、ハイブリダイゼーションの証拠は相補的鎖(c−DNA3/4及びc−DNA1/2)中のCy3からの蛍光の検出によって得られる。高いレーザ光強度を使用して、対象とする規定領域を退色させ、退色スポットの蛍光回復を観測した。溶液から基板への退色及び非退色二本鎖オリゴヌクレオチド(dsDNA)の交換の動力学はまだ確認されていないが、dsDNA−チップシステムが平衡するとき、より短いオリゴヌクレオチドは、より長いオリゴヌクレオチドと比較してより速い脱離/吸着挙動を示す。しかし、退色スポットは、実験時間枠内では完全には回復しなかった。結論として、ハイブリダイゼーション実験からの結果は、コレステリル−TEG修飾オリゴヌクレオチドが、固定化DNAを数時間乾燥状態に保持した後も、それらの相補的鎖に対してアクセス可能であることを証明している。
【0179】
硬化焼成したSU−8表面にコレステリル修飾オリゴヌクレオチドを固定化するための直接的な1工程プロセスが、本明細書に提示される。基板とDNAの間の結合は、おそらくSU−8の疎水性とオリゴヌクレオチドの5’又は3’位置におけるコレステリル−TEG−修飾に基づいている。SU−8上に固定化されたDNAは強固で効率的な結合、高い表面被覆率を示し、相補的鎖によるハイブリダイゼーションにアクセス可能である。共有結合によるDNA固定化についてのこれまでの表面被覆率値は1011〜1012分子/cmの範囲内である。本明細書において、本発明者らは、簡単な1工程固定化手順において10倍高い表面被覆率を達成している。さらに、固定化されたchol−DNAは、数時間乾燥状態に保持された後も依然として機能性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合している疎水性表面を有する基板を含んでいる、デバイス。
【請求項2】
疎水性表面が、チェンバ、カラム、二次元表面、水晶振動子マイクロバランス(QCM)結晶、表面プラズモン共鳴(SPR)、チップ、顕微鏡カバーガラス、マイクロ流体チップ、サンドイッチ細胞、又はチャネルの全部もしくは一部を含むか、又は全部もしくは一部を形成する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
疎水性表面が、SU−8、硬化焼成SU−8、疎水性ポリマー、ガラス、セラミック、金属、又は液晶の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
疎水性表面がサブ構造体のパターンを含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
サブ構造体が、層内の穿孔、層内の穴、層上の柱又は他の物質、パッチ、又は固定化された粒子、フィルム、化学物質、又は分子の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
層内の穿孔、層内の穴、層上の柱又は他の物質、パッチ、又は固定化された粒子、フィルム、化学物質、又は分子が、薄膜、周囲の溶液及び/又は周囲の空気、ガスもしくは真空中に存在する物質又は化合物への、触媒の、結合の、化学吸着の、物理吸着の、又は調節の効果を含んでいる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
サブ構造体が、秩序づけられた(例えば、配列された)又は無秩序な方式の1つ又はそれ以上に配置されていて、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の拡散フィルムによって完全にもしくは部分的に覆われるか又は囲まれるように適合されている、請求項4に記載のデバイス。
【請求項8】
疎水性表面が、化学反応、表面支援性合成手順、触媒プロセス、超分子自己集合、又は親和性に基づく分離を含むプロセスに適合している、請求項4に記載のデバイス。
【請求項9】
少なくとも1つの疎水性部分を有する分子が、リン脂質、両親媒性分子、界面活性剤、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、疎水性部分で修飾された分子の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
少なくとも1つの疎水性部分を有する分子がフィルムを含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
フィルムが、液体、固体、液晶又はゲルの1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
温度制御装置をさらに含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
温度制御装置が、少なくとも1つの疎水性部分を有する、薄膜を含む分子又は分子集合体の相転移及び拡散挙動に対する制御を可能にする、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
疎水性表面が、エンボス加工されたか又は刻み込まれた幾何パターンの1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
疎水性表面、疎水性がより低い表面、及び疎水性表面を少なくとも部分的に覆い、疎水性表面に限局される少なくとも1つの疎水性部分を有する分子のフィルムを含有している基板を含んでいる、デバイス。
【請求項16】
結合している極性環境において形成される薄膜単分子層表面を有する疎水性表面を含有している基板を含むデバイスであって、薄膜単分子層表面が疎水性表面上にリン脂質リポソームを配置することによって形成され、リン脂質リポソームが、疎水性表面上に配置されたとき拡散して薄膜単分子層表面を形成する、デバイス。
【請求項17】
薄膜単分子層が、1つ又はそれ以上の付加的な成分をさらに含んでいる、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
さらなる成分が、他の脂質、膜タンパク質、膜に分配するように適合された分子もしくは粒子、又は膜に分配するように適合された別の分子に結合している分子及び粒子の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
1つ又はそれ以上の付加的な成分が、疎水性部分と結合したオリゴヌクレオチドを含んでいる、請求項17に記載のデバイス。
【請求項20】
混合領域と連通している第一及び第二の注入容器を含有するミキサーを含んでいる基板を含むデバイスであって、注入容器、第一及び第二連通領域ならびに混合領域が、少なくとも1つの疎水性部分を有する分子の配向結合又は配向付着及び/又は配向拡散に適合している疎水性表面を含んでいる、デバイス。
【請求項21】
基板が、混合領域と連通している1つ又はそれ以上の付加的な注入容器をさらに含んでいる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
基板が、疎水性表面を取り囲むより疎水性の低い表面をさらに含んでいる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項23】
基板が、パターン化されたSU−8及びTi/Au表面を有する金被覆ガラスを含んでいる、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
1つ又はそれ以上の付加的なミキサーをさらに含んでいる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項25】
混合領域に連通する流入及び廃棄物チャネル、ならびに反応器へのチャネルをさらに含んでいる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項26】
注入口が、円形、正方形、五角形、六角形、三角形、長方形又は他の何れかの幾何学的形状である、請求項20に記載のデバイス。
【請求項27】
混合領域が、菱形、三角形、長方形、六角形、五角形、円形、又は他の何れかの幾何学的形状である、請求項20に記載のデバイス。
【請求項28】
デバイスが、薬剤スクリーニング、センサ適用、QCM適用、SPR適用、エバネセント波蛍光適用、触媒作用、分子の組織化、又は少なくとも1つの疎水性部分を有する分子で作られる分子的に薄い層もしくはフィルムの形成のために使用される、請求項1、15又は16に記載のデバイス。
【請求項29】
デバイスが試料注入口をさらに含んでいる、請求項1、15又は16に記載のデバイス。
【請求項30】
デバイスが検出器をさらに含んでいる、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
検出器が、質量分析法、表面プラズモン共鳴(SPR)、水晶振動子マイクロバランス(QCM);蛍光検出器、蛍光相関検出器、化学発光検出器又は電気化学的検出器の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
使用する質量分析法が、MALDI MS(MALDI−TOF及びMALDI−TOF−TOF)又はエレクトロスプレーイオン化(ESI MS−MS)の1つ又はそれ以上から選択される、請求項31に記載のデバイス。
【請求項33】
試料分離装置、分画器又はマニピュレータの1つ又はそれ以上をさらに含んでいる、請求項1、15又は16に記載のデバイス。
【請求項34】
分離装置が、キャピラリ電気泳動(CE)、液体クロマトグラフィ(LC)、ゲルクロマトグラフィ及びゲル電気泳動分離装置の1つ又はそれ以上から選択される、請求項1、15又は16に記載のデバイス。
【請求項35】
方法が、
疎水性表面上に第一リポソームを配置し、そして
疎水性表面上に異なる組成の第二リポソームを配置して、
第一リポソームと第二リポソームが疎水性表面上で拡散し、生じた脂質フィルムが混合することを包含している、表面上でリポソームを混合する方法。
【請求項36】
第一リポソームと第二リポソームから供与される物質の量が、第一リポソームと第二リポソームの大きさの1つ又はそれ以上によって、又はタイミングによって制御される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記方法が、第一リポソームと第二リポソームの一方又は両方の少なくとも一部を回収することをさらに包含している、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
リポソームが、マイクロピペット、光ピンセット又はマイクロ流体デバイスの1つ又はそれ以上によって疎水性表面に配置される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
第一リポソームと第二リポソームから形成されるフィルムの化学量論的制御が得られる、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
第一リポソームと第二リポソームの混合によって機能性表面が作製される、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
機能性表面が、二次元又は三次元デバイスの1つ又はそれ以上を含有している、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
二次元又は三次元デバイスが、巨視的又は顕微鏡的次元のチェンバ、毛管、カラム又は他の何れかのデバイスを含有している、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
機能性表面が、触媒表面、結合表面、又は物理的もしくは化学的操作を支援する表面の1つ又はそれ以上を含んでいる、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
疎水性表面が、疎水性表面とより疎水性の低い表面のアレイを含有している、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
方法が、巨視的次元又は顕微鏡的次元の表面のアレイを作製する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
第一リポソームが拡散して第一フィルムを形成し、そしてフィルムと結合するか又は反応する他の分子を添加することによって第一フィルムを機能化する、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
リポソームが、超分子構造体、ナノ構造体、核酸アレイ、タンパク質アレイ、他の分子実体のアレイ、粒子アレイを形成する、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
第一リポソーム又は第二リポソームの1つ又はそれ以上が、オリゴヌクレオチド、疎水性部分と結合したオリゴヌクレオチド、膜タンパク質、膜に分配するように適合された分子もしくは粒子、又は膜に分配するように適合された別の分子に結合している分子及び粒子を含んでいる、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
検出しようとする試料と基板を接触させることをさらに包含している、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
試料が、核酸もしくは他の部位特異的な分子認識分子、酵素、阻害剤、結合パートナー又は基質を含有している、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
フィルムを化学的又は物理的に修飾することの1つ又はそれ以上をさらに包含している、請求項35又は48に記載の方法。
【請求項52】
化学的もしくは物理的調節もしくは操作の異なる工程又は検出の異なる工程が、同じ試料に関して並行して実施される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
化学的もしくは物理的調節もしくは操作の異なる工程又は検出の異なる工程が、異なる試料に関して並行して実施される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
第一リポソームと第二リポソームから形成されたフィルムを乾燥させることをさらに包含している、請求項35に記載の方法。
【請求項55】
フィルムが、核酸フィルム又はタンパク質フィルムの1つ又はそれ以上を含有している、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
核酸フィルムを基板の表面上で乾燥させることをさらに包含している、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
核酸フィルムを乾燥状態で保存することをさらに包含している、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
フィルムを再水和することをさらに包含している、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
フィルムと試料の間の相互作用を検出することをさらに包含している、請求項50に記載の方法。
【請求項60】
方法が、
多重膜小胞を緩衝液に懸濁し、そして
疎水性表面を含有している基板上に小胞を配置して、それにより小胞が表面上に単分子層として拡散することを包含している、動的液膜形成の方法。
【請求項61】
第二多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞と第二小胞が拡散して混合することをさらに包含している、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
第三多重膜小胞を基板上に配置し、それにより小胞、第二小胞及び第三小胞が拡散して混合することをさらに包含している、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
基板が請求項20に記載のデバイスを含んでいる、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
拡散係数が約0.01〜約500μm/秒を包含している、請求項60に記載の方法。
【請求項65】
方法が、修飾核酸分子を基板の疎水性表面に配置し、修飾核酸分子が表面と結合して、それにより核酸フィルムを形成することを包含している、核酸フィルムを形成する方法。
【請求項66】
修飾核酸分子がコレステリル−テトラエチレングリコール修飾オリゴヌクレオチドを含んでいる、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
第二修飾核酸分子を基板の疎水性表面上に配置することをさらに包含している、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
修飾核酸分子が同じ配列又は異なる配列の核酸を含んでいる、請求項65又は67に記載の方法。
【請求項69】
第二修飾核酸分子が基板の第二疎水性表面上に配置される、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
3つ又はそれ以上の修飾核酸分子試料を基板上に配置することをさらに含んでいる、請求項67に記載の方法。
【請求項71】
試料が、隣接疎水性表面上又は各々がより疎水性の低い表面に囲まれた個別の疎水性表面上に配置される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
個別の疎水性表面が約1nm〜約5cmの寸法特性を包含している、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
修飾核酸分子が約10〜約200pmol/cmの表面被覆率を包含している、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
修飾核酸分子が約20〜約95pmol/cmの表面被覆率を包含している、請求項65に記載の方法。
【請求項75】
修飾核酸分子が、約1012〜約1013分子/cmのフィルム密度を包含している、請求項65に記載の方法。
【請求項76】
相補的核酸を核酸フィルムにハイブリダイズすることをさらに包含している、請求項65に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−531972(P2010−531972A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500391(P2010−500391)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003026
【国際公開番号】WO2009/024869
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(310008321)ナノキシス アーベー (1)
【Fターム(参考)】