説明

制御された血清中薬物動態を有するヒトタンパク質スキャフォールド

本発明は、ヒト血清アルブミンのドメインIII、ドメインIIIa、もしくはドメインIIIb、またはドメインIII、ドメインIIIa、もしくはドメインIIIbに対して実質的な配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質スキャフォールドと、該タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されているターゲティング部分と、タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されている治療部分および/またはイメージング部分とを含むコンストラクトを提供する。本スキャフォールドはコンストラクトの血清中薬物動態を調整するために改変することができる。本コンストラクトの作製方法に加えて、本コンストラクトの治療、イメージングおよび診断的使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2009年4月8日に出願された米国仮特許出願第61/167844号の優先権の利益を主張し、その内容は、あらゆる面でその全てが引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究および開発の下になされた発明の権利に関する記載]
本発明は、米国国立衛生研究所によって交付された助成金番号CA086306の政府支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
[コンパクトディスクに収録して提出される「配列表」、表またはコンピュータプログラムリスト付属書類の参照]
該当なし
【0004】
[発明の分野]
本発明は、1つまたはそれ以上のターゲティング部分と1つまたはそれ以上のイメージング部分、診断部分、または治療部分とが取り付けられたスキャフォールドとしてのヒト血清アルブミンドメインIIIを含むコンストラクト、それらの組成物、およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0005】
[発明の背景]
この10年間に、コンビナトリアルライブラリー技術は、さまざまなターゲットまたは組織に高い特異性およびアフィニティーで結合するように選択されたペプチド、アプタマーおよび小化学分子を含む数多くの分子をもたらしてきた(Ainaら, 2007;BarbasおよびWhite, 2009;Bembenekら, 2009)。しかし生体内に投与した場合、これらの分子は、一過性の血清内残留と、イメージング応用または治療応用にとって十分なレベルになるまでターゲット部位に蓄積できないこととを特徴とする、最適とはいえない薬物動態(PK)を示すことが多い。この問題に対処するために、それらのターゲティング分子をスキャフォールドに取り付けることができる。最近の総説にいくつかのスキャフォールドが記載されている(GronwallおよびStahl, 2009;NuttallおよびWalsh, 2008)。しかし、それらは非ヒト由来であるか(例えばブドウ球菌プロテインAに由来するアフィボディ(affibody)(Friedmanら, 2007)、ラクダ科動物およびサメの単一ドメイン抗体アイソタイプ(Saerensら, 2008)、植物サイクロチドに由来するシステイン・ノット・ミニタンパク(Simonsenら, 2008))、または制御可能なPKを与えることができない(アンキリン、アドネクチン(adnectin)、アビマー(avimer)、リポカリンおよびアンチカリン(anticalin)(NuttallおよびWalsh, 2008))。
【0006】
ヒト血清アルブミン(HSA;67kDa)は人体において最も豊富なタンパク質であり(30〜50g/L)、既に承認薬(すなわちNovartisのAlbuferon(登録商標))に組み込まれている。前臨床試験では、HSAが薬物送達用の単体分子(Burgerら, 2001;Kratzら, 2000;Wosikowskiら, 2003)および遺伝子送達用のベクター(Ainaら, 2007)として利用され、成功を収めている。融合タンパク質として、HSAは、インターフェロン-α(Osbornら, 2002)、インターロイキン-2(Melderら, 2005)、組換え二重特異性抗体分子(Mullerら, 2007)またはscFv抗体フラグメント(Yazakiら, 2008)などの分子のPKを改善する能力を示している。IgGと同様に、HSAは、ブランベル(Brambell)受容体とも呼ばれる新生児型Fc受容体FcRnと相互作用する(Chaudhuryら, 2003)。この相互作用がアルブミンの長時間にわたる血清内残留の原因である。簡単に述べると、アルブミン分子は、循環から液相飲作用によって血管内皮細胞のエンドソームに取り込まれる。初期エンドソーム(pH約6.5)において、アルブミンは、このコンパートメント内に存在するFcRnに結合する。エンドソームとリソソームが融合すると、エンドソームの未結合内容物は放出されて分解されるが、FcRnに結合したアルブミンは保護される。エンドソームは、一回りして、循環の中性環境(pH7.4)に面する内皮細胞の頂端側に戻り、そこでアルブミンが再びFcRnによって血中に放出される。具体的には、HSAドメインIII(DIII;23kDa)が、pH依存的にFcRnに結合することが示されている(Chaudhuryら, 2006)。HSA DIII中の3つの保存されたヒスチジン残基(H535、H510およびH464)がHSA-FcRn相互作用に関与するという仮説が立てられている(Bosら, 1989;Chaudhuryら, 2006)。
【0007】
現在、臨床においてがん治療に使用されるターゲティング剤の中で最も成功しているのは、インタクトな抗体(例えばトラスツズマブ、リツキシマブ、ベバシズマブ)である。抗体を使用することの利点は、それらが極めて優れたターゲットアフィニティーおよびターゲット特異性と、良好な安全性プロファイルとを有することに加えて、それらが治療効果を達成するのに必要な薬物動態(PK)も有することにある。抗体の持続的な循環内残留は、主として、そのFcドメインがFcRnと相互作用するおかげである。抗体のFcドメインは、サイズがHSA DIIIの2倍であることに加えて、他の内在性Fc受容体とも相互作用する。この生物学的機能は、臨床応用において望ましくない副作用につながりうる。抗体の欠点としては、ターゲットアクセシビリティに伴う一定の制約も挙げられるが、主な欠点は、製造プロセスが長く極めて面倒なことにあり、それが抗体薬のコストを増加させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ペプチドおよびアプタマーを含む他のターゲティング部分も、さまざまなターゲットに対してナノモル濃度領域のアフィニティーと高い特異性とを示すように選択することができ、抗体よりもはるかに迅速かつ安価に製造される。大きな短所は、これらの低分子量ターゲティング剤が典型的には循環から極めて迅速に消失することであり、典型的な血清中半減期は数分程度である。これは、低いターゲット取り込みにつながり、画像診断および治療における臨床使用に関するそれらの潜在能力を制限する。現代の医学において、標的イメージング剤および標的治療剤に関して望ましいPKを調整できることは、極めて大切である。本発明が提供するインビボ処置およびインビボイメージングのための組成物および方法では、生体分子をターゲティングすることができ、かつ、分子質量を著しく変化させずに、ある範囲の循環半減期で長時間にわたって血清内に残留することができる分子を使用する。本発明は、イメージングおよび/または治療を含むインビボ応用に必要とされる適当な薬物動態特性を有する、ペプチド、アプタマーまたは小化学物質などといった、腫瘍ターゲティング分子になりうる低分子量の低免疫原性または非免疫原性薬剤の必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の概要]
第1の態様において、本発明は、HSA-DIIIと、HSA-DIIIにコンジュゲートされた1つまたはそれ以上の小分子ターゲティング剤ならびにHSA-DIIIにコンジュゲートされたイメージング部分または治療部分の1つまたはそれ以上とを含むコンストラクトの作製における、スキャフォールドとしてのHSA DIIIの使用を提供する。HSA-DIIIスキャフォールドまたはHSA-DIII担体は、個別に調整された(tailored)薬物動態(PK)を有するコンストラクトが得られるように改変(modify)することができ、また、多価性および/または多重特異性の可能性をもたらし、機能性基を取り付けるための残基も提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明は、a)タンパク質スキャフォールド、ここで、スキャフォールドは、ヒト血清アルブミンのドメインIII、ドメインIIIaもしくはドメインIIIb、または変化したそのFcRn受容体結合特性に基づいて選択されたその変異体を含む;
b)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されているターゲティング部分;および
c)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されている治療部分またはイメージング部分を含むコンストラクトを提供する。
【0011】
もう一つの態様において、本発明は、ある疾患または症状(condition)を有するか有すると疑われる対象に本発明のコンストラクトを投与することによって、対象における前記疾患または症状に関連する生体分子を検出する方法であって、コンストラクトのターゲティング部分が前記生体分子に結合し、コンストラクトに結合しているイメージング剤が検出される方法を提供する。いくつかの実施形態では疾患または症状の有無が診断される。
【0012】
さらにもう一つの態様において、本発明は、ある組織におけるある生体分子の過剰発現の存在に関連する疾患または症状の標的治療の方法であって、前記疾患または症状を有する対象に、治療有効量の本発明のコンストラクトを投与することを含み、コンストラクトのターゲティング部分が前記生体分子に結合し、コンストラクトの治療剤が前記生体分子の存在に関連する組織または細胞における前記疾患または症状を処置する方法を提供する。
【0013】
さらにもう一つの態様において、本発明では、本発明の標的イメージング用および標的治療用コンストラクトの設計においてスキャフォールドとして使用するための、さまざまなターゲット特異性および/または予め定められたFcRnアフィニティーを有する改変ドメインIIIタンパク質のライブラリーを提供することが考えられる。もう一つの実施形態において、本発明は、本発明に従って使用するためのドメインIIIスキャフォールドおよびその変異体の1つまたはそれ以上をコードする核酸を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、ドメインIIIスキャフォールドの発現を制御する遺伝子調節因子に作動的に連結された前記核酸を含むベクターを提供し、それらのベクターまたは核酸を含有する細胞も提供する。
【0014】
本発明の全ての実施形態および態様において、いくつかの実施形態では、コンストラクトはHSAのドメインIまたはドメインIIのどちらか一方または両方を含まないか、あるいは、コンストラクトはHSAのドメインIIの5、10、15、または20個を超える連続するアミノ酸の配列を含まないという条件が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)Db-DIIIコンストラクトの遺伝子アセンブリ。L−哺乳動物細胞分泌のためのシグナルペプチドリーダー;可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)抗体鎖は8(グリシン、セリンリッチ)アミノ酸リンカーで接合されて、単鎖可変領域フラグメント(scFv、25kDa)を形成する。scFvは18アミノ酸リンカーによってHSA DIII遺伝子につながれる。あるDIIIを別のDIIIと(例えばWTをH535Aなどと)容易に交換できるように、DIIIはカセット内でSpeI制限部位とEcoRI制限部位に挟まれている。(B)2つのscFv-DIII分子が非共有結合的二量体を形成している、Db-DIIIタンパク質のカートゥーン(cartoon)表示。
【図2】(A)4つのDb-DIIIタンパク質のSDS-PAGE:レーン1、2、および3はそれぞれNR条件下のH535A、H510AおよびH464A、レーン5はR条件下のWT。(B)NR条件下(レーン2;APコンジュゲート抗マウスFab mAbでプローブしたもの)およびR条件下(レーン3;HRP-プロテインLでプローブしたもの)でのDb-DIII WTのウェスタンブロット。(C)Superdex 200カラムと0.5ml/分の流速を使った、サイズ排除クロマトグラフィー。Db-DIII WTタンパク質は28.17分に溶出した。ピークの積分により純度は約98%と見積もられた。
【図3】(A)ハーフドメインDIIIa(緑色)およびDIIIb(黄色)から構成されるHSA DIIIのPyMOLモデル。6個のジスルフィド橋が赤色で示されている。残基H535、H510およびH464の位置を矢印で示す。DIIIa中に位置するH464残基をAに突然変異させて、DIII H464A変異体を作製した。DIIIb中に位置するアミノ酸H535およびH510をそれぞれAと交換して、DIII H535A変異体およびDIII H510A変異体を作製した。(B)HSA DIII分子(緑色)とFcRn分子(橙色)およびFcRn分子(橙色)のドッキングモデル。赤い部分はIgG結合に関与するFcRn上の残基であり、一方、FcRn分子とDIII分子の境界面にあって互いに相互作用している残基は青色で示されている。(C)各Dbが両C末端に2つのDIIIタンパク質を保持している、二価Db-DIII分子のモデル。Dbを構成するscFv単量体が明緑色および暗緑色で描かれ、18アミノ酸リンカーが青色で、またDIII分子が黄色で描かれている。
【図4】CEA陽性LS174T腫瘍(左)およびCEA陰性C6腫瘍(右)の異種移植を受けた無胸腺ヌードマウスの小動物PET/CTイメージング。マウスに、124I標識Db-DIIIタンパク質(WT、H535A、H510A、またはH464A)と、参照としての抗CEA Dbを注入した。マウスを5つの異なる時点で10分間イメージングした。その冠状断面を示す。腫瘍および臓器位置の解剖学的参照用に同時記録したPET/CT画像を含める。
【図5】(A)PET画像の腫瘍対軟組織ROI解析。(B)各時点におけるPET画像からの放射能(%ID/g)の定量によって作成された血中放射能曲線。
【図6】細胞結合アッセイ。増加する一連の濃度のAlexa 647コンジュゲートHSA、DIII WT、H535A、H510AおよびH464Aタンパク質を、ヒトFcRnを形質導入した293細胞と共にインキュベートした。対照として、AlexaコンジュゲートHSAを非トランスフェクト293細胞と共にインキュベートした。
【図7】131I標識したHSAおよびDIIIタンパク質のBalb/cマウスにおける血中放射能曲線。
【図8】Db-DIIIのDNA配列および翻訳されたタンパク質配列。次に挙げるDNAセグメントおよびタンパク質セグメントの具体的配列および開始点を要約している:制限酵素消化部位、コザック配列、リーダー−分泌シグナルペプチド、VL、8アミノ酸ドメイン間ペプチドリンカー、VH、DbとHSA DIIIの間の18アミノ酸リンカー;Db-DIII変異体を作製するために個別にアラニンに突然変異させたヒスチジン残基H535、H510AおよびH464、ならびに2つの停止コドンとそれに続く制限酵素切断部位。
【図9】(A)DIII WT、(B)HSA DIIIaおよび(C)HSA DIIIbのDNA配列および翻訳されたタンパク質配列。次に挙げるDNAセグメントおよびタンパク質配列の重要な配列および開始点が示されている:クローニングに使用した制限酵素消化部位、コザック配列、リーダー、HSA DIIIa、HSA DIIIbの開始点、ヒスチジン残基 H535、H510およびH464、c-Mycペプチド、2つの停止コドンとそれに続く制限酵素切断部位。
【図10】124I標識抗CEAペプチド-DIIIbコンジュゲートの小動物PET/CTイメージング。注入の4、20および27時間後における10分間のスタティックスキャン。冠状断面を示す。CEA陽性腫瘍(LS174T)およびCEA陰性腫瘍(C6)を矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[詳細な説明]
本発明は、HSA-DIIIと、HSA-DIIIにコンジュゲートされた1つまたはそれ以上の小分子ターゲティング剤およびHSA-DIIIにコンジュゲートされたイメージング部分または治療部分の1つまたはそれ以上とを含むコンストラクトの作製における、スキャフォールドとしてのHSA DIIIの使用を提供する。FcRn受容体への結合に影響を及ぼすか、ターゲティング部分、治療部分およびイメージング部分の取り付け部位を追加することになるような、ドメインIII内のアミノ酸配列改変を選択することにより、HSA-DIIIスキャフォールドまたはHSA-DIII担体は、個別に調整された薬物動態(PK)を有するコンストラクトが得られるように改変することができ、また、多価性および/または多重特異性の可能性をもたらし、機能性基を取り付けるための残基も提供する。
【0017】
本発明者らは、固有の血清安定性を特徴とするHSAドメインIIIタンパク質スキャフォールド上に低分子量腫瘍ターゲティング分子を取り付け、移植し、またはディスプレイすると、改善された薬物動態プロファイルおよびターゲット取り込みを達成できることを見いだした。腫瘍蓄積を最大にすることは、結果として、イメージング応用においてはより強いシグナルに、また、治療においては十分な薬物負荷量送達につながりうる。また、HSA DIIIスキャフォールドは、機能性基(例えば放射性核種、細胞毒性薬、毒素)をコンジュゲートするための残基を提供することができ、疎水性ターゲティング分子の溶解度を高めることもできる。このスキャフォールドは、それが、1)ほとんどの場合、非免疫原性でありうること、2)さまざまな応用に対して最適な血清内残留をもたらす能力を有しうる(調整可能である)こと、3)低い分子質量を有することができ、それが血管外遊出、腫瘍浸透、および腎クリアランス(<60kDa)を容易にし、それらはイメージング応用にとって好ましいこと、4)アビディティ効果(同じスキャフォールド上の2〜3個のターゲティング分子)を使用することまたは多重特異性を導入することによって、ターゲティング分子の機能的アフィニティーを増加させるためのプラットフォームになりうること、および5)血清に可溶であることができ、それが、その表面に取り付けられた分子も可溶性にするという点で、有利である。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明は、a)タンパク質スキャフォールド、ここで、スキャフォールドは、ヒト血清アルブミンのドメインIII、ドメインIIIaもしくはドメインIIIb、またはその変異体を含む;b)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されているターゲティング部分;およびc)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されている治療部分またはイメージング部分を含む化合物/コンストラクトを提供する。ターゲティング部分は、ターゲット組織またはターゲット細胞の受容体に結合するリガンドである。したがって、いくつかの実施形態では、ターゲティング部分が抗体であるか、より好ましくは免疫学的に活性なそのフラグメントであって、その抗体またはフラグメントは、ターゲット組織またはターゲット細胞の生体分子(例えば腫瘍特異的抗原)に結合することができる。好ましくは、抗体は、scFvダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、またはミニボディ(minibody)である。いくつかの実施形態では、ターゲティング部分が核酸アプタマーである。ターゲティング部分は、対象中に存在するか対象のターゲット組織またはターゲット細胞上に存在する生体分子に結合する能力を有する。好ましくは、生体分子は腫瘍特異的抗原であるか、標的組織または標的細胞におけるその存在がある疾患または健康状態に関連する他の生体分子、またはある疾患もしくは健康状態において過剰発現する他の生体分子である。考えられる腫瘍特異的抗原には、CEA、CD20、HER2/neu、PSCA、PSMA、CA-125、CA-19-9、c-Met、MUC1、RCAS1、Ep-CAM、Melan-A/MART1、RHA-MM、VEGF、EGFR、インテグリン、およびフィブロネクチンのED-Bなどがあるが、これらに限るわけではない。したがって、いくつかの実施形態では、ターゲット組織またはターゲット細胞ががん性組織またはがん性細胞である。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、ターゲティング部分、イメージング部分、または治療部分の少なくとも一つまたは全部が、非ペプチドリンカーまたは非ペプチド結合によって、スキャフォールドに共有結合で取り付けられいる。別の実施形態では、ターゲティング部分、イメージング部分、または治療部分の少なくとも一つまたは全部が、ヘテロ二官能性クロスリンカー、ホモ二官能性クロスリンカー、ゼロ距離(zero-length)クロスリンカー、ジスルフィド結合、または生理学的に切断可能なクロスリンカーによって、スキャフォールドに共有結合で取り付けられている。ターゲティング部分、イメージング部分および治療部分用のリンカーは、好ましくは、2〜50原子長(例えば2〜10、4〜40、10〜30原子長)である。2つ以上のターゲティング部分、イメージング部分または治療部分をドメインIIIスキャフォールドに取り付けてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、小ペプチドまたは他のターゲティング部分(アプタマー、化学物質)が、HSA DIIIに遺伝子的に融合されるか、コンジュゲートされ;別の実施形態では、タンパク質(例えば抗体、抗体フラグメント、酵素、受容体リガンド、サイトカイン、ケモカイン、成長因子)が、ターゲティング部分として、HSA DIIIスキャフォールドに融合され;また、3)ナノ粒子、磁気材料、量子ドット、放射性核種、または化学化合物を、イメージング部分としてHSA DIIIスキャフォールドに取り付けることができる。
【0021】
分子イメージング用途には、ガンマカメラもしくはSPECTカメラまたはPETスキャナを使って検出するために、さまざまな放射性核種(radionuclide)をタンパク質スキャフォールドに取り付けることができる。MRイメージング用に、磁気材料をコンジュゲートすることができる。光学的イメージング用に、HSA DIIIスキャフォールドを蛍光色素、蛍光タンパク質、または生物発光酵素(例えばホタル、ウミシイタケまたはガウシア(Gaussia)ルシフェラーゼ)に融合することができる。
【0022】
治療的応用には、治療用放射性核種(radionucleide)、細胞毒性薬、毒素、サイトカイン、酵素、または他の治療部分を、腫瘍へのターゲット特異的送達のために、標的HSA DIIIスキャフォールドに連結することができる。いくつかの実施形態では、DIIIへの連結が生理的条件下での切断(例えば酵素的切断、リソソーム(lysozome)で起こるような酸分解)を受けやすい。
【0023】
本発明には、HSAより低い分子質量(例えば23または11kDa)を有し、そこに取り付けられた分子の血清内残留を所定の程度に改変または延長することができる、低免疫原性または非免疫原性(low or non-imunogenic)のヒトHSAドメインIIIタンパク質を提供するという利点がある。
【0024】
上記の実施形態のいずれにおいても、HSAドメインIIIは好ましくは野生型であるもの、およびFcRn受容体へのドメインの結合を変化させる突然変異をH535、H510、またはH464に有するものである。いくつかの実施形態では、その突然変異がH535A、H510A、H464A;H535AおよびH510AおよびH464A;H535AおよびH464A;H535AおよびH510A;またはH510AおよびH464Aである。上述の実施形態のうち、いくつかの実施形態では、タンパク質スキャフォールドが本質的に、HSAドメインIII、ドメインIIIaまたはドメインIIIbからなるか、配列がそれらと実質的に同一であるポリペプチドからなる。
【0025】
いくつかの実施形態において、コンストラクトの治療部分は薬物である。例えば、治療部分は、治療用放射性核種、細胞毒性薬、サイトカイン、化学療法剤、放射線増感剤、または酵素である。さらなる実施形態では、複数の治療部分が、タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されている。
【0026】
別の実施形態では、コンストラクトがイメージング剤を含む。適切なイメージング剤には、放射性核種、磁気材料、常磁性粒子、発蛍光団、クロモゲン(chromogen)、量子ドット、ナノ粒子、および生物発光酵素などがあるが、これらに限るわけではない。1つまたは複数のイメージング剤をスキャフォールドに共有結合で連結することができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、コンストラクトは一価または多価である。例えば、コンストラクトのターゲティング部分または他の要素(例えばDIIIスキャフォールドに結合したターゲティング部分、図3参照)は、それら自体、そのHSA DIIIスキャフォールドに共有結合によって接合または連結されたその各要素ごとに、一価、二価、三価、または多価であることができる。
【0028】
もう一つの態様において、本発明は、対象におけるある疾患または症状に関連する生体分子を検出する方法であって、前記疾患または症状を有するか有すると疑われる対象に、本発明のコンストラクトを投与し(ここで、コンストラクトのターゲティング部分は前記生体分子に結合する)、コンストラクトに結合しているイメージング剤を検出することによる方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記疾患または症状の有無が、前記の検出に従って診断される。例えば、生体分子ががんにおいて過剰発現する腫瘍特異的抗原である場合は、本発明のコンストラクトを対象に投与し、そのコンストラクトに結合しているイメージング部分を対象において検出することにより、その腫瘍特異的抗原に関連するがんの有無を決定することができる。腫瘍部位においてコンストラクトのイメージング部分の局在化が検出されたら、それは、そのがんの存在を示す。いくつかの実施形態では、コンストラクトまたはイメージング剤の血清内残留が、FcRn受容体に対するドメインIII(DIII)のアフィニティーを変化させる突然変異を有するドメインIIIポリペプチドを選択することによって微調整される。イメージングに使用される放射性核種には、SPECTイメージング用のI-131、I-123、In-111およびTc-99m、ならびにPETイメージング用のF-18、I-124、Cu-64、Y-86などがあるが、これらに限るわけではない。
【0029】
さらにもう一つの態様において、本発明は、ある組織におけるある生体分子の過剰発現の存在に関連する疾患または症状の標的治療の方法であって、その疾患または症状を有する対象に、本発明のコンストラクトの治療有効量を投与することを含み、前記コンストラクトのターゲティング部分が前記生体分子に結合し、前記コンストラクトの治療剤が、前記生体分子の存在に関連する組織または細胞における疾患または症状を処置する方法を提供する。例えばいくつかの実施形態では、ターゲティング部分が、あるがんの腫瘍特異的抗原に結合し、処置される疾患または症状が、そのがんであり、治療剤が、治療用放射性核種、細胞毒性薬、サイトカイン、または化学療法剤である。標的DIIIに取り付けることができる治療用化学療法薬には、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、トポテカン、イリノテカンなどがあるが、これらに限るわけではない。DIIIにコンジュゲートすることができる毒素の一例は、オーリスタチン(auristatin)またはシュードモナス外毒素Aである。治療用放射性核種には、β放射体であるY-90、Lu-177、I-131、Sm-153およびSr-89;ならびにα放射体であるRa-223、Th-227、Ac-225、At-211、Bi-212およびBi-213などがあるが、これらに限るわけではない。1つまたはそれ以上の治療剤をDIIIスキャフォールドに共有結合で取り付けることができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、腫瘍/疾患部位への薬物コンジュゲートのターゲティングを可視化すること、分子イメージングによって治療の進行をモニタリングすること、および代謝クリアランスの経路を決定することなどの応用のために、治療用機能性基とイメージング用機能性基の両方を、同じターゲット特異的DIIIプラットフォームに取り付けることができる。
【0031】
したがって本発明は、1)上記治療用およびイメージング用コンストラクトと生理学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬または診断組成物;2)疾患または症状を処置するための医薬の製造における本発明の治療用コンストラクトの使用;および疾患または症状を検出するための診断薬の製造における本発明のイメージング用コンストラクトの使用も提供する。
【0032】
本発明では、選択されたDIIIプラットフォームに腫瘍ターゲティングペプチドを化学的にコンジュゲートすることが考えられる。例えば、担腫瘍対象に124I(t1/2 4.2日)または64Cu(t1/2 12.7時間)で標識されたタンパク質を注入し、それらによる抗原陽性腫瘍のターゲティングを、PETイメージングで評価することができる。放射性核種で標識された、ネイティブ抗体バックボーン上でのこれらの可変領域配列の発現、またはscFv、トリアボディ、ダイアボディもしくはミニボディとしての発現は、ターゲットを担持する細胞のインビボ検出において、とりわけ有用である。上述のバックボーン上またはネイティブ抗体バックボーン上での発現は、ターゲティングにとって好ましいだけでなく、ターゲット生体分子の機能をブロックし、かつ/またはそれらを担持する細胞を殺すか、インビボでのそれらの成長または増殖を阻害するためにも好ましい。
【0033】
もう一つの態様において、本発明では、本発明の標的イメージング用および標的治療用コンストラクトの設計においてスキャフォールドとして使用するための、さまざまな予め定められたFcRnアフィニティーを有する改変ドメインIIIタンパク質のライブラリーを提供することが考えられる。もう一つの実施形態において、本発明は、本発明に従って使用するためのドメインIIIスキャフォールドおよびその変異体の1つまたはそれ以上をコードする核酸を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、ドメインIIIスキャフォールドの発現を制御する遺伝子調節因子に作動的に連結された前記核酸を含むベクターを提供し、それらのベクターまたは核酸を含有する細胞も提供する。
【0034】
HSA DIII中の3つの保存されたヒスチジン残基−H535、H510およびH464は、HSA-FcRn結合に関与するという仮説が立てられており、これらの残基における変異体も特に考えられる。HSA-FcRn相互作用を調整する能力を評価するために、本発明者らは、抗CEAダイアボディ(Db、2つのscFvの非共有結合的二量体;55kDa)とHSA DIII野生型(WT、突然変異なし)またはそれぞれH535、H510もしくはH464のアラニン残基への突然変異を組み込んだ3つの変異体のうちの1つのどちらか一方とからなる融合タンパク質を作製し、発現させた。124I標識Db-DIIIタンパク質を注入した異種移植無胸腺マウスの小動物PET/CTイメージングにより、腫瘍ターゲティングを保ったままDbの血清内残留を延長するHSA DIIIの能力が明らかになった。画像解析および体内分布研究により、Db-DIII WTは推定平均滞留時間(MRT)が56.7時間で循環中に最も長く滞留し、続いてDb-DIII H535A(25時間)>H510A(20時間)>H464A(17時間)およびDb(2.9時間)であることが示された。HSA DIII WTおよび変異体(H535A、H510AおよびH464A)、ならびにサブドメインDIIIa(アミノ酸残基384〜492;14.2kDa)およびDIIIb(510〜585;12.2kDa)を作製した。各131I標識DIIIタンパク質をBalb/cマウスに静脈内注入することにより、それらの血中薬物動態プロファイルを、インビボで評価した。血液を8つの異なる時点(0〜72時間)で尾から採取し、ガンマウェルカウンターで放射能をカウントした。各タンパク質の血清中消失半減期(terminal serum half life)(t1/2β)は、次のように決定された:DIII WT(15.3時間)、H535A(10.7時間)、H464A(10.2時間)、H510A(9.75時間)、DIIIa(8.93時間)およびDIIIb(6.87時間)、これに対してHSAタンパク質全体(17.3h)。腫瘍ターゲティング分子(ペプチド、アプタマーまたは小化学物質部分)を移植または化学的にコンジュゲートするために、そしてまた直接的にコンビナトリアルディスプレイライブラリーを作成するために、選ばれたDIIIタンパク質がスキャフォールドとして使用されることになる。イメージング応用には、診断目的に適した薬物動態を有するターゲット特異的スキャフォールドを使用することができる。あるいは、治療にとって最適な特徴を有する標的スキャフォールドに潜在的抗腫瘍薬をコンジュゲートして、がん処置に利用することができるだろう。
【0035】
本発明は、DIII中のさらに2つの残基(すなわちグルタミン酸残基E505およびE531)がFcRnとの相互作用にとって重要であることを示すドッキングモデルも提供する。したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、位置E505および/またはE531にアミノ酸置換を有し、それ以外の点ではHSAのドメインIII、IIIa、またはIIIb配列と同一であるか実質的に同一である、変異型DIII、DIIIa、またはDIIIbタンパク質スキャフォールドおよび核酸、ならびにそれらの核酸を含むベクターおよび形質導入細胞を提供する。いくつかの実施形態では、これらの残基の一方または両方がアスパラギン酸で置換されており、別の実施形態では、これらのアミノ酸の一方または両方が非荷電アミノ酸で置換されており、さらなる実施形態では、E505およびE531の一方または両方がアラニンまたはグリシンで置換されている。さらなる別の実施形態では、置換が、FcRnへのDIII結合に摂動を加えることでターゲット特異的なDIIIイメージング剤または治療剤の循環半減期を調整するE505D、A、G、I、V、もしくはL、またはE531D、A、G、I、V、もしくはL置換である。
【0036】
ターゲティング部分は、ターゲット生体分子に結合する能力を有する任意の分子であることができる。いくつかの実施形態では、ターゲット分子が、細胞の外表面に存在する腫瘍特異的抗原である。ターゲティング部分は抗体であるか、より好ましくは、その抗体によって認識される分子に対するアフィニティーを有する抗体のフラグメントであることができる。好ましい実施形態では、抗体がscFv、ダイアボディ、ミニボディ、またはトリアボディである。いくつかの実施形態では、ターゲティング部分が、生体分子に結合する能力を有する核酸アプタマーまたは小ペプチド(例えば5〜30アミノ酸長、2〜20アミノ酸長)である。好ましくは、ターゲティング部分は、生体分子に対して高いアフィニティーを有し、100nM未満、30nM未満、10nM未満、または1nM未満のKdを有する。また、スキャフォールド1個につき、ターゲット生体分子に対してこれらのアフィニティーまたはこれらより低いアフィニティーを有する複数のターゲティング部分(2個、3個、4個またはそれ以上)を使用することで、ターゲット細胞への結合を、アビディティ効果によって強化することもできる。
【0037】
「イメージング剤またはイメージング部分」という用語は、本明細書では、直接的にまたはシグナル生成系の追加要素との相互作用によって検出可能なシグナルを与える能力を有する薬剤または部分を指すために使用される。好ましくは、シグナルがコンストラクトにより対象の体内で生成された場合に、そのシグナルを体外から検出することができる。
【0038】
「治療部分」とは、疾患または症状を処置するのに有用であるか、対象、標的組織および/または標的細胞に対して他の何らかの意図した利益を有する薬剤を指す。治療部分は治療薬、ホルモン、サイトカイン、インターフェロン、抗体もしくは抗体フラグメント、核酸アプタマー、酵素、ポリペプチド、毒素、細胞毒、または化学療法剤であることができる。治療部分は放射線増感剤であることができる。
【0039】
ターゲティング部分、イメージング部分、または治療部分をスキャフォールドに接合するために使用されるリンカーは、共有結合または1〜100原子長もしくはそれ以上の長さの原子の鎖を含むことができる。リンカーは鎖中に炭素、窒素、硫黄、または酸素原子を含むことができる。具体的には、炭素鎖(例えば約5〜約50炭素のもの)が考えられる。リンカーは核酸またはアミノ酸を含むことができる。リンカーとしての炭素鎖の例には、アルキル、アルケン、またはアルデヒドなどがあるが、これらに限るわけではない。炭素鎖は、置換鎖、無置換鎖、非分岐鎖または分岐鎖の1つまたはそれ以上であることができる。リンカーは約5〜約50ナノメートル、3〜30nm、より好ましくは約5〜約10nmの長さを含むことができる。リンカーの例として、約10炭素〜約20炭素の長さを有する炭素鎖を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。ポリアルキレングリコール(例えばPEG)リンカーも考えられる。リンカーは非ペプチド結合を含むことができる。リンカーには、ヘテロ二官能性クロスリンカー、ホモ二官能性クロスリンカー、ゼロ距離クロスリンカー、ジスルフィド結合、または生理学的に切断可能なクロスリンカーが含まれるが、これらに限るわけではない。ターゲティング部分、イメージング部分および治療部分用のリンカーは、好ましくは、2〜80原子長(例えば2〜10、4〜40、10〜30、2〜50原子長)である。融合される薬剤がポリペプチドである場合は、ドメインIIIとターゲティング剤、イメージング剤、または治療剤の少なくとも一つとの融合タンパク質も考えられる。ターゲティング剤、イメージング剤および治療剤が、それぞれ、スキャフォールドに融合タンパク質として接合されえないこと、あるいは別のアミノ酸またはペプチド結合によってスキャフォールドに接合されないことも考えられる。
【0040】
イメージング剤および治療部分は、当技術分野において周知の通常の方法を使って、DIIIタンパク質スキャフォールドに直接的にコンジュゲートすることができる。放射性ラベルおよび非放射性ラベルがよく使用される(核酸およびタンパク質を標識するための酵素的、光化学的および化学的方法を概観するには、Greg T. Hermanson編「Bioconjugate Techniques」第2版、Academic Press, Inc.刊、2008、1202頁を参照されたい)。
【0041】
アプタマーは特異的ターゲット分子に結合するオリゴ核酸分子である。アプタマーは通常、大きなランダム配列プールに対する選択操作によって作出される。当技術分野で周知の方法により、インビトロ選択を繰り返すことによって、すなわちSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法によって、小分子、タンパク質、核酸などのさまざまな分子ターゲット、そしてさらには細胞および組織などに結合する核酸アプタマーを得ることができる。当技術分野ではよく知られているとおり、核酸アプタマーは、核酸ベースの複雑なコンビナトリアルシェイプ(shape)ライブラリー(例えば1ライブラリーあたり>1014シェイプ)のインビトロスクリーニングにより、SELEXと呼ばれるプロセスを使って作製することができる(引用により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20090004667号を参照されたい)。SELEXは、ランダムなRNA配列プールのライブラリーが、選ばれたタンパク質ターゲットと共にインキュベートされる、反復プロセスである。次いで、相互作用するRNAを非結合RNAから分割し、次に、逆転写後のポリメラーゼ連鎖反応による増幅(RT/PCR)によって、それらを増幅する。2'フルオロ修飾ピリミジンの組込みを許す突然変異型T7 RNAポリメラーゼを使ったインビトロ転写により、DNAテンプレートを使って、濃縮されたRNAプールを作出することができる。これらの修飾は、RNAのヌクレアーゼ耐性を高める。濃縮されたRNAプールの作出をもたらすステップを、「選択ラウンド」と呼ぶ。あるタンパク質ターゲットに対する選択ラウンドを、典型的には、結合アフィニティーの向上がプラトーに達するまで続ける。次に個々のクローンをプールから単離し、その配列を決定することができる。アプタマーは抗体に匹敵するか抗体をしのぐ分子認識特性を与えることができる。アプタマーは、その特異的認識の他にも、抗体に対して有利な点がある。アプタマーは、試験管中で完全に操作することができ、化学合成によって容易に製造される。アプタマーは望ましい貯蔵特性および溶解特性も有し、治療的応用において誘発する免疫原性が比較的少ないか全くない。本発明に従って使用されるアプタマーは、CEA、CD20、HER2/neu、PSCA、PSMA、CA-125、CA-19-9、c-Met、MUC1、RCAS1、Ep-CAM、Melan-A/MART1、RHA-MM、VEGF、EGFR、インテグリン、およびフィブロネクチンのED-Bに対して高いアフィニティーで結合する(例えば100nM未満、10nM未満または1nM未満のKdを有する)核酸であることができる。アプタマーは、好ましくは、10〜30、10〜20、または15〜25核酸長(nucleic acids in length)である。
【0042】
本発明のドメインIIIのアミノ酸配列は、HSAドメインIII、IIIa、またはIIIbの配列(それぞれ図9a、b、c参照)またはそれらと実質的に同一な配列である。ドメインIIIは、1)図9a、9b、または9cのポリペプチドに対し、好ましくは全配列にわたって、または少なくとも約15、20、25、50、75、100、125、150アミノ酸もしくはそれ以上の領域にわたって、約90%より高い、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、そのようなアミノ酸配列からなるか、本質的にそのようなアミノ酸配列からなり、FcRn(ブランベル)受容体に結合することができる。ドメインIII(アミノ酸残基384〜585)は2つのサブドメインDIIIa(アミノ酸残基384〜492)およびDIIIb(アミノ酸残基510〜585)を有する(HSAの配列および構造については、引用により本明細書に組み込まれるSugioら, Protein Engineering, Vol.12, No.6, 439-446, June 1999を参照されたい)。いくつかの実施形態において、本願請求項のドメインIIIは、HSAのドメインIII、ドメインIIIaまたはドメインIIIbを含むか、それらのドメインからなるか、または本質的にそれらのドメインからなるポリペプチド、および本明細書に開示するそれらのH535、H510、またはH464変異体である。
【0043】
本発明のドメインIII、ドメインIIIa、またはドメインIIIbは、それぞれ図9a、b、またはcのポリペプチドの保存的に改変された変異体であってもよい。好ましい実施形態において、変異体はFcRn(ブランベル)受容体に対して変化したアフィニティーを有し、それがその血清内残留を微調整する。いくつかの実施形態では、これらのドメインの位置H535、H510、H464にあるヒスチジン残基の1つまたはそれ以上を欠失させるか、別の塩基性または非塩基性アミノ酸で置き換える。いくつかの実施形態では、ドメインIII配列が、H535AまたはG、H510AまたはG、H464AまたはGの1つまたはそれ以上である置換を有するか、そのような置換を一つだけ有する。いくつかのさらなる実施形態では、置換がH535A、H510A、H464Aのうちの1個、2個、または3個である。別の実施形態では、置換が、H535V、I、もしくはL;H510V、L、もしくはI;またはH464V、L、もしくはIのいずれか1つまたはそれ以上である。さらなる実施形態では、他の保存的置換(1、2、3、4個またはそれ以上)が、ドメインIII、IIIa、またはIIIbスキャフォールドの他の位置に加えられる。HSA配列はGenBank:AAA98797.1にも記載されている。
【0044】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書では可換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。ポリペプチドを得る(例えば製造する、単離する、精製する、合成する、および組換え生産する)ための方法は、当業者には周知である。
【0045】
用語「アミノ酸」は、天然および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同じように機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸ミメティックを指す。好ましいアミノ酸は人体に見いだされる天然アミノ酸である。天然アミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるもの、ならびにその後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンなどである。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造(すなわち水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基)を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどである。そのような類似体は修飾されたR基を有するか(例えばノルロイシン)、または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造を保っている。アミノ酸ミメティックとは、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同じように機能する化学化合物を指す。
【0046】
アミノ酸は、本明細書では、IUPAC-IUB生化学命名委員会によって勧告された、一般に知られているその3文字記号または1文字記号によって表す場合がある。同様に、ヌクレオチドも、一般に受け入れられている一文字コードで表す場合がある。
【0047】
アミノ酸配列の「保存的に改変された(conservatively modified)変異体」に関して、コードされた配列中の単一のアミノ酸またはごく一部のアミノ酸を変化させ、付加し、または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列への個々の置換、欠失または付加であって、その変化が化学的に類似するアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらすものが、「保存的に改変された変異体」であることは、当業者には理解されるであろう。機能的に類似するアミノ酸を記載した保存的置換表は、当技術分野ではよく知られている。保存的に改変されたそのような変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子を排除するものではなく、それらに付け加えられるものである。
【0048】
次に挙げる8つの群は、それぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含んでいる:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えばCreighton, Proteins (1984)参照)。
【0049】
Hollingerら, PNAS (USA) 90(14):6444-6448 (1993)によって初めて記載されたダイアボディは、本明細書に開示する重鎖および軽鎖を使って構築することができ、本明細書に開示する個々のCDR領域を使って構築することもできる。典型的には、ダイアボディフラグメントは、短すぎて同じ鎖上の二つのドメイン間でのペアリングを許さないリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)につながれた重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、一つのフラグメントのVHおよびVLドメインは、もう一つのフラグメントの相補的VHおよびVLドメインとペアを形成することによって、2つの抗原結合部位を形成せざるを得ない。3つの抗原結合部位を有するトリアボディを同様に構築することができる。Fvフラグメントは、非共有結合的相互作用によって一つにまとめられたVLドメインとVHドメインとを含む完全な抗原結合部位を含有する。本発明が包含するFvフラグメントには、VHドメインとVLドメインがグルタルアルデヒド、分子間ジスルフィド、または他のリンカーで架橋されているコンストラクトも含まれる。重鎖および軽鎖の可変ドメインを一つに融合して、親免疫グロブリンの元の特異性を保持している単鎖可変フラグメント(scFv)を形成させることができる。Gruberら, J.Immunol. 152(12):5368-74 (1994)によって初めて記載された単鎖Fv(scFv)二量体は、本明細書に開示する重鎖および軽鎖を使って構築することができ、本明細書に開示する個々のCDR領域を使って構築することもできる。当技術分野で知られる多くの技法を使って、本発明の特異的結合コンストラクトを作製することができる(あらゆる面で、特にミニボディおよびダイアボディの設計に関して、引用によりそれぞれ本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20070196274号および米国特許出願公開第20050163782号を参照されたい)。
【0050】
二重特異性抗体は、化学的架橋によって、またはハイブリッドハイブリドーマ技術によって、作製することができる。あるいは、二重特異性抗体分子を組換え技法で製造することもできる(二重特異性抗体参照)。二量体化は、VHドメインとVLドメインを接合するリンカーの長さを、scFvフラグメントを作製するために通常使用される約15アミノ酸から約5アミノ酸へと減らすことによって、促進することができる。これらのリンカーは、VHドメインとVLドメインの鎖内アセンブリにとって有利である。適切な短いリンカーはSGGGSであるが、他のリンカーを使用することもできる。こうして、2つのフラグメントが集合して二量体分子になる。リンカーの長さを0〜2アミノ酸へとさらに減少させることで、三量体(トリアボディ)または四量体(テトラボディ)分子を作製することができる。
【0051】
例えば組換え抗体、モノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体などの抗体の製造には、当技術分野において知られる多くの技法を使用することができる(例えばKohlerおよびMilstein, Nature 256:495-497 (1975);Kozborら, Immunology Today 4:72 (1983);Coleら「Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy」Alan R. Liss, Inc., pp.77-96 (1985);Coligan「Current Protocols in Immunology」(1991);HarlowおよびLane「Antibodies, A Laboratory Manual」(1988);およびGoding「Monoclonal Antibodies: Principles and Practice」(第2版, 1986)参照)。目的の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングすることができる。例えばモノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、それらを使って組換えモノクローナル抗体を製造することができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーを、ハイブリドーマまたは形質細胞から作成することもできる。重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子のランダムな組合せにより、異なる抗原特異性を有する大きな抗体プールが生成する(例えばKuby「Immunology」(第3版, 1997)参照)。本発明のポリペプチドに対する抗体が製造されるように、単鎖抗体または組換え抗体を製造するための技法(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)を適合させることができる。また、トランスジェニックマウス、または他の生物、例えば他の哺乳動物を使って、ヒト化抗体またはヒト抗体を発現させることもできる(例えば米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号;Marksら, Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonbergら, Nature 368:856-859 (1994);Morrison, Nature 368:812-13 (1994);Fishwildら, Nature Biotechnology 14:845-51 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996);ならびにLonbergおよびHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)を参照されたい)。あるいは、ファージディスプレイ技術を使って、選ばれた抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロ二量体型Fabフラグメントを同定することもできる(例えばMcCaffertyら, Nature 348:552-554 (1990);Marksら, Biotechnology 10:779-783 (1992)参照)。抗体を二重特異性にすること、すなわち2つの異なる抗原を認識できるようにすることもできる(例えばWO 93/08829, Trauneckerら, EMBO J. 10:3655-3659 (1991);およびSureshら, Methods in Enzymology 121:210 (1986)参照)。抗体はヘテロコンジュゲート(heteroconjugate)、例えば共有結合によって接合された2つの抗体、またはイムノトキシンであることもできる(例えば米国特許第4,676,980号、WO 91/00360;WO 92/200373;およびEP 03089参照)。
【0052】
非ヒト抗体をヒト化または霊長類化するための方法は当技術分野においてよく知られている。一般に、ヒト化抗体には、ヒト以外の供給源に由来するアミノ酸残基が1つまたはそれ以上導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしばインポート(import)残基と呼ばれ、それらは典型的にはインポート可変ドメインから選ばれる。ヒト化は、本質的に、Winterとその共同研究者らの方法(例えばJonesら, Nature 321:522-525 (1986);Riechmannら, Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyenら, Science 239:1534-1536 (1988)およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992))参照)に従って、齧歯類CDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに使用することによって、行うことができる。したがって、そのようなヒト化抗体は、インタクトなヒト可変ドメインのごく一部が非ヒト種由来の対応する配列で置換されているキメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。実際上、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基と場合によってはいくつかのFR残基が齧歯類抗体中の類似の部位に由来する残基で置換されているヒト抗体である。
【0053】
「キメラ抗体」は、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるまたは改変されたクラス、エフェクター機能および/または種の定常領域に連結されるか、そのキメラ抗体に新しい性質を付与する完全に異なる分子、例えば酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに連結されるように、定常領域またはその一部が改変、置換、または交換されているか、(b)可変領域またはその一部が、異なる抗原特異性または改変された抗原特異性を有する可変領域で、改変、置換、または交換されている抗体分子である。
【0054】
タンパク質またはペプチドに関して、抗体に「特異的(または選択的)に結合する」または「と特異的(または選択的)に免疫反応する」という表現は、多くの場合、タンパク質および他の生物製剤(biologics)の不均一な集団における、タンパク質の存在を決定する結合反応を指す。したがって、指定されたイムノアッセイ条件下で、指定の抗体は、バックグラウンドの少なくとも2倍、典型的にはバックグラウンドの10〜100倍以上、特定のタンパク質に結合する。そのような条件での抗体への特異的結合には、特定のタンパク質に対するその特異性によって選択された抗体が必要である。例えば、ポリクローナル抗体は、選ばれた抗原と特異的に免疫反応し、他のタンパク質とは免疫反応しないポリクローナル抗体だけが得られるように、選択することができる。この選択は、他の分子と交差反応する抗体を差し引くことによって達成することができる。さまざまなイムノアッセイフォーマットを使って、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、あるタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために日常的に使用される(例えば、特異的免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイフォーマットおよび条件の説明については、HarlowおよびLane「Using Antibodies, A Laboratory Manual」(1998)を参照されたい)。
【0055】
核酸は、それがもう一つの核酸配列と機能的な関係に置かれている場合に、「作動的に連結されている」という。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAは、それが、あるポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現するのであれば、そのポリペプチドのDNAに作動的に連結されており、プロモーターまたはエンハンサーは、それがあるコード配列の転写に影響を及ぼすのであれば、その配列に作動的に連結されており、リボソーム結合部位は、それが翻訳を容易にするような位置にあるのであれば、コード配列に作動的に連結されている。一般に「作動的に連結されている」とは、連結されているDNA配列が互いの近くにあり、分泌リーダーの場合には、連続しており、かつ解読相が一致していることを意味する。ただしエンハンサーは連続している必要はない。連結は、都合のよい制限部位におけるライゲーションによって達成される。そのような部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣例に従って使用される。
【0056】
「保存的に改変された変異体」という用語は、アミノ酸配列と核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一なまたは本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸を指すか、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列を指す。遺伝暗号の縮重ゆえに、機能的に同一な多数の核酸が、任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはいずれも、アミノ酸アラニンをコードすることになる。したがって、あるコドンによってアラニンが指定される場合はその位置ごとに、そのコドンは、コードされているポリペプチドを変化させることなく、記載した対応するコドンのどれにでも、変化させることができる。そのような核酸変異が「サイレント変異」であり、これは保存的に改変された変異の一種である。あるポリペプチドをコードする本明細書に記載の核酸配列はいずれも、その核酸の考えうる全てのサイレント変異も表す。核酸中の各コドン(通常はメチオニンを表す唯一のコドンであるAUGと、通常はトリプトファンを表す唯一のコドンであるTGGを除く)を、機能的に同一な分子を与えるように改変しうることは、当業者には理解されるであろう。したがって、あるポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、発現産物については、各記載の配列に暗黙のうちに含まれているが、実際のプローブ配列についてはそうではない。
【0057】
2つまたはそれ以上の核酸配列またはポリペプチド配列に関して、「同一」または「同一性」パーセントという用語は、同じであるか、BLASTまたはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを使って後述のデフォルトパラメータで測定するか、手作業によるアラインメントおよび目視検査によって測定した場合に、指定されたパーセンテージのアミノ酸残基またはヌクレオチドが同一(すなわち、比較ウインドウまたは指定された領域において比較し、最大限の一致が得られるようにアラインメントした場合に、指定された領域において、約60%の同一性、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性)である、2つまたはそれ以上の配列またはサブ配列を指す(例えばNCBIウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/などを参照されたい)。その場合、このような配列を「実質的に同一」であるという。この定義は、試験配列の相補配列(compliment)も指し、または試験配列の相補配列にも適用されうる。この定義には、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列も包含される。後述するように、好ましいアルゴリズムはギャップなどを考慮することができる。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸または25ヌクレオチドの長さを有する領域にわたって存在し、より好ましくは、50〜100アミノ酸または50〜100ヌクレオチドの長さを有する領域にわたって存在する。
【0058】
配列比較では、典型的には、一つの配列を参照配列とし、試験配列をそれと比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合は、試験配列と参照配列をコンピュータに入力し、必要であればサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。好ましくは、デフォルトのプログラムパラメータを使用するか、代替パラメータを指定することができる。そうすれば、配列比較アルゴリズムが、そのプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントを計算することになる。
【0059】
本明細書にいう「比較ウインドウ」は、参照配列の20個〜全長、通常は約25〜100個、または50〜約150個、より一般的には約100〜約150個の位置からなる群より選択される連続する位置の数のいずれか一つのセグメントであって、その中で、配列を、参照配列の同じ数の連続する位置と、それら2つの配列を最適にアラインメントした後に比較することができるセグメントへの言及を包含する。比較のために配列をアラインメントする方法は、当技術分野ではよく知られている。比較のための配列の最適アラインメントは、例えばSmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)のローカル・ホモロジー・アルゴリズムによって行うか、NeedlemanおよびWunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)のホモロジー・アラインメント・アルゴリズムによって行うか、PearsonおよびLipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性検索法(search for similarity method)によって行うか、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group、575サイエンスドライブ、ウィスコンシン州マディソン)のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって行うか、または手作業によるアラインメントと目視検査とによって行うことができる(例えば「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubelら編、1995年増補版)参照)。
【0060】
配列同一性パーセントおよび配列類似性パーセントを決定するのに適したアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschulら, Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)およびAltschulら, J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に、それぞれ記載されている。本発明の核酸およびタンパク質について配列同一性パーセントを決定するには、BLASTおよびBLAST2.0が、本明細書に記載するパラメータで使用される。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)により、公に利用できる。このアルゴリズムでは、まず最初に、クエリ配列中の長さWの短いワードであって、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントした場合に、マッチするか、何らかの正の値を持つ閾スコアTを満たすものを同定することによって、高スコア配列ペア(high scoring sequenece pair:HSP)を同定する。Tは隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschulら、前掲)。これらの初期隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見いだすための検索を開始するために、シード(seed)として働く。ワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(マッチする残基対に対する報酬スコア(reward score);常に>0)およびN(ミスマッチする残基に対するペナルティスコア(penalty score);常に<0)を使って計算される。アミノ酸配列の場合は、スコア行列(scoring matrix)を使って累積スコアを計算する。各方向へのワードヒットの伸長は、累積アラインメントスコアが、その最大達成値から量Xだけ低下するか;1つまたはそれ以上の負のスコアを持つ残基アラインメントによって累積スコアが0以下になるか;またはどちらかの配列の末端に到達したら、停止させる。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXは、アラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)では、デフォルトとして、ワード長(wordlength:W)11、期待値(expectation;E)10、M=5、N=−4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合は、BLASTPプログラムが、デフォルトとして、ワード長3および期待値(E)10、ならびにBLOSUM62スコア行列(HenikoffおよびHenikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)参照)、アラインメント(alignments;B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、ならびに両鎖の比較を使用する。
【0061】
「核酸」とはデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそのポリマー(一本鎖型または二本鎖型)ならびにそれらの相補鎖を指す。この用語は、合成物、天然物および非天然物であって、参照核酸と類似する結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同じように代謝される、既知のヌクレオチド類似体または修飾されたバックボーン残基もしくはバックボーン結合を含有する核酸を包含する。そのような類似体の例には、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などがあるが、これらに限定するわけではない。
【0062】
別段の表示がない限り、特定の核酸配列は、明示した配列だけでなく、保存的に改変されたその変異体(例えば縮重コドン置換)および相補配列も、暗黙のうちに包含する。具体的に述べると、縮重コドン置換は、1つまたはそれ以上の選ばれた(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成することができる(Batzerら, Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsukaら, J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossoliniら, Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドという用語と可換的に使用される。
【0063】
特定の核酸配列は「スプライス変異体」も暗黙のうちに包含する。同様に、ある核酸によってコードされる特定のタンパク質も、その核酸のスプライス変異体によってコードされる任意のタンパク質を暗黙のうちに包含する。「スプライス変異体」は、その名が示唆するとおり、遺伝子の選択的スプライシングの産物である。転写後、初期核酸転写産物は、異なる(選択的)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードすることになるようにスプライシングされる場合がある。スプライス変異体の産生機序はさまざまであるが、エキソンの選択的スプライシングを含む。リードスルー転写によって同じ核酸から生じる選択的ポリペプチドもこの定義に包含される。スプライシング反応の産物は組換え型のスプライス産物を含めていずれも、この定義に包含される。カリウム・チャネル・スプライス変異体の一例が、Leicherら, J. Biol. Chem. 273(52):35095-35101 (1998)において議論されている。
【0064】
「異種(heterologous)」という用語が、核酸の一部分に関して使用される場合、それは、その核酸が、自然界では互いに同じ関係では見いだされない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むことを示す。例えば、新しい機能的核酸を作るために、無関係な遺伝子に由来する2つまたはそれ以上の配列、例えばある供給源に由来するプロモーターと別の供給源に由来するコード領域とを有する核酸が、典型的には組換え的に作製される。同様に、異種タンパク質とは、そのタンパク質が、自然界では互いに同じ関係では見いだされない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むこと(例えば融合タンパク質)を示す。
【0065】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という表現は、あるプローブが、典型的には複雑な核酸混合物において、そのターゲットサブ配列にはハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしないであろう条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、状況が異なれば異なるであろう。長い配列ほど高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する包括的な指針は、Tijssen「Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes」の「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に見いだされる。一般に、ストリンジェントな条件は、所定のイオン強度、pHにおいて、その特定配列の熱融解点(Tm)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tmはターゲットに対して相補的なプローブの50%が平衡時にターゲット配列にハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(ターゲット配列が過剰に存在する時、Tmでは、平衡時にプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤の天下によって達成することもできる。選択的または特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の典型例は、次のとおりであることができる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーションと、0.2×SSCおよび0.1%SDS中、65℃での洗浄。
【0066】
ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸も、それらがコードするポリペプチドが実質的に同一であるならば、実質的に同一である。これは、例えばある核酸のコピーが、遺伝暗号によって許容される最大限のコドン縮重を使って作製された場合に起こる。そのような場合、核酸は、典型的には、中等度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。「中等度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の典型例には、40%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSのバッファー中、37℃でのハイブリダイゼーションと、1×SSC中、45℃での洗浄が含まれる。陽性ハイブリダイゼーションはバックグラウンドの少なくとも2倍である。代替的なハイブリダイゼーション条件および洗浄条件を利用して、類似するストリンジェンシーの条件を得ることができることは、当業者には容易に理解されるであろう。ハイブリダイゼーションパラメータを決定するためのさらなる指針は、数多くの参考文献と、例えばAusubelら編「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons)などに記載されている。
【0067】
PCRの場合、低ストリンジェンシー増幅には約36℃の温度が典型的であるが、アニーリング温度はプライマーの長さに依存して約32℃〜48℃の間でさまざまでありうる。高ストリンジェンシーPCR増幅の場合は、約62℃の温度が典型的であるが、高ストリンジェンシーアニーリング温度は、プライマーの長さと特異性に依存して、約50℃〜約65℃の範囲にわたりうる。典型的なサイクル条件は、高ストリンジェンシー増幅でも低ストリンジェンシー増幅でも、90℃〜95℃で30秒〜2分間の変性相、30秒〜2分間続くアニーリング相、および約72℃で1〜2分間の伸長相を含む。低および高ストリンジェンシー増幅反応に関するプロトコールと指針は、例えばInnisら (1990)「PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications」(Academic Press, Inc.、ニューヨーク)に記載されている。
【0068】
「ラベル」または「検出可能部分」または「イメージング剤またはイメージング部分」は、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、化学的手段、放射線的手段、または他の物理的手段によって検出可能な化合物である。例えば、有用なラベルには、32P、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えばELISAでよく使用されるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、または、例えば放射性ラベルをペプチド中に組み込むことなどによって検出可能にすることができるか、そのペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために使用することができる、ハプテンおよびタンパク質などがある。好ましいイメージング剤またはイメージング部分は、磁気、蛍光、または放射能である。ラベルによって生じたシグナルをインビトロおよびインビボで検出する方法は、当技術分野ではよく知られている。
【0069】
例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターなどに関して使用する場合、「組換え」という用語は、その細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくは異種タンパク質の導入、またはネイティブ核酸もしくはネイティブタンパク質の改変によって改変されていること、またはその細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。したがって、例えば組換え細胞は、ネイティブ(非組換え)型の細胞には見いだされない遺伝子を発現するか、本来なら異常発現するか、過少発現するか、または全く発現しないネイティブ遺伝子を発現する。
【0070】
組成物
本発明のコンストラクトが、本発明に関して医薬目的で使用される場合、それは典型的には、適切なバッファー中に製剤化され、そのバッファーは、任意の医薬上許容されるバッファー、例えばリン酸緩衝食塩水またはリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリスバッファー、グリシンバッファー、滅菌水、および当業者に知られる他のバッファー、例えばGoodら, Biochemistry 5:467 (1966)に記載されているものなどであることができる。組成物は、さらに安定剤、強化剤(enhancer)、または他の医薬上許容される担体もしくは媒体を含むことができる。医薬上許容される担体は、例えば本発明の核酸またはポリペプチドおよび他の関連ベクターを安定化するように作用する生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物としては、例えば、グルコース、スクロースまたはデキストランなどの糖質;アスコルビン酸またはグルタチオンなどの酸化防止剤;キレート剤;低分子量タンパク質または他の安定剤または賦形剤を挙げることができる。他の生理学的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤、微生物の成長または作用を防止するのにとりわけ有用な保存剤などがある。さまざまな保存剤がよく知られており、例えばフェノールおよびアスコルビン酸が含まれる。担体、安定剤、または佐剤の例は「Remington's Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing Company、ペンシルベニア州フィラデルフィア)第17版(1985)に見いだすことができる。
【0071】
本発明の医薬組成物は、治療有効量の本発明のコンストラクトと医薬上許容される担体とを含む。本明細書において「治療的に有効な用量または量」とは、投与の目的である効果(例えば網膜剥離の処置または防止)をもたらす用量を意味する。正確な用量および製剤は、処置の目的に依存し、当業者は公知の技法を使ってそれらを確かめることができる(例えばLieberman「Pharmaceutical Dosage Forms」(第1〜3巻、1992);Lloyd「The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding」(1999);「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」第20版、Gennaro編(2003)およびPickar「Dosage Calculations」(1999)参照)。コンストラクトが塩である場合、それは「医薬上許容される塩」として製剤化される。
【0072】
「医薬上許容される塩」には、投与経路に応じて、比較的無毒性の酸または塩基を使って製造される活性化合物の塩が包含される。本発明の阻害剤が比較的酸性の官能基を含有する場合、中性型のそのような化合物を十分な量の所望の塩基と、ニートで、または適切な不活性溶媒中で接触させることにより、塩基付加塩を得ることができる。医薬上許容される塩基付加塩の例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、またはマグネシウム塩などの塩が挙げられる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含有する場合は、中性型のそのような化合物を十分な量の所望の酸と、ニートで、または適切な不活性溶媒中で接触させることにより、酸付加塩を得ることができる。医薬上許容される酸付加塩の例として、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素塩、リン酸、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、硫酸、硫酸一水素塩、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などのような無機酸から誘導されるもの、および酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などのような比較的無毒性な有機酸から誘導されるものが挙げられる。アルギン酸などのアミノ酸の塩およびグルクロン酸またはガラクツロン酸(galactunoric acid)などの有機酸の塩も含まれる(例えばBergeら, Journal of Pharmaceutical Science 66:1-19 (1977)参照)。本発明の一定の特定化合物は、その化合物を塩基付加塩または酸付加塩に変換することを可能にする塩基性官能基と酸性官能基の両方を含有している。
【0073】
中性型の化合物は、塩を塩基または酸と接触させ、従来の方法で親化合物を単離することによって再生させることができる。親型の化合物は、一定の物理的性質、例えば極性溶媒への溶解度などがさまざまな塩とは異なるものの、その他の点では、塩は、本発明の目的にとって、親型の化合物と等価である。
【0074】
塩型に加えて、本発明は、プロドラッグ型の化合物も提供する。本明細書に記載する化合物のプロドラッグは、生理的条件下で容易に化学的変化を起こして本発明の化合物を与える化合物である。また、プロドラッグは、化学的または生化学的方法により、エクスビボ環境で、本発明の化合物に変換することもできる。例えば、適切な酵素または化学試薬と一緒に経皮パッチレザーバに入れた場合、プロドラッグを本発明の化合物にゆっくり変換することができる。
【0075】
本発明の一定の化合物は、非溶媒和型でも、水和型を含む溶媒和型でも存在することができる。一般に溶媒和型は非溶媒和型と等価であり、本発明の範囲に包含されるものとする。本発明の一定の化合物は、複数の結晶形または無定形で存在しうる。一般に、本発明で考えられる使用にとっては、全ての物理的形態が等価であり、それらはいずれも本発明の範囲に包含されるものとする。
【0076】
核酸およびポリペプチドなどの生体高分子の他に、本発明の一定の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有し、ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体および個々の異性体は全て、本発明の範囲に包含されるものとする。化合物がアミノ酸または核酸を含む好ましい実施形態では、アミノ酸および核酸がそれぞれ主要な天然の生物学的エナンチオマーである。
【0077】
投与用の組成物は、一般に、医薬上許容される担体、好ましくは水性担体に溶解された本明細書に記載の薬剤を含むであろう。例えば緩衝食塩水など、さまざまな水性担体を使用することができる。これらの溶液は滅菌されており、一般に、望ましくない物質を含まない。これらの組成物は従来の周知の滅菌技法で滅菌することができる。組成物は、生理的条件に近づけるために、必要に応じて、pH調節および緩衝剤、毒性調節剤(toxicity adjusting agent)などの医薬上許容される補助物質、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有することができる。これらの製剤における活性剤の濃度は幅広く多様であることができ、選択した特定の投与様式およびその患者の必要に応じて、主として液量、粘度、体重などに基づいて選択されるであろう。
【0078】
本発明における使用に適した製剤は、引用により本明細書に組み込まれる「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」第20版、Gennaro編(2003)に見いだされる。さらにまた、薬物送達方法の概略については、引用により本明細書に組み込まれるLanger, Science 249:1527-1533 (1990)を参照されたい。本明細書に記載する医薬組成物は、当業者に知られる方法で、すなわち従来の混合、溶解、造粒、糖衣形成、研和、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスによって、製造することができる。下記の方法および賦形剤は単なる例示であって、決して限定ではない。
【0079】
注入には、本発明の化合物を、水溶液に、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水などの生理学的に適合するバッファーに、製剤化することができる。経粘膜投与には、透過させるべき障壁に適した浸透剤を製剤中に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では広く知られている。
【0080】
経口投与には、当技術分野において周知の医薬上許容される担体と混合することにより、本発明に従って使用される阻害剤を、容易に製剤化することができる。そのような担体は、化合物を、処置されるべき患者が経口摂取するための錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、乳剤、親油性懸濁剤および親水性懸濁剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化することを可能にする。経口使用される医薬調製物は、化合物を固形賦形剤と混合し、得られた混合物を場合によっては粉砕し、その顆粒混合物を、所望であれば適切な補助剤を添加した後に、錠剤または糖衣錠核が得られるように加工することによって得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖類などの充填剤;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などである。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を加えることができる。
【0081】
医薬組成物は、投与の方法に応じて、さまざまな剤形および量で投与することができる。例えば、経口投与に適した単位剤形には、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤および口中剤などがあるが、これらに限るわけではない。経口投与される場合、抗体は、消化から保護されるべきであると認識されている。これは、典型的には、それらの分子を、それらを酸性および酵素加水分解に対して耐性にする組成物との複合体にするか、それらの分子を適当に耐性な担体、例えばリポソームまたは保護障壁などに封入することによって達成される。薬剤を消化から保護する手段は当技術分野ではよく知られている。
【0082】
医薬製剤、特に本発明のコンストラクトの医薬製剤は、望ましい純度を有するコンストラクトを、随意の医薬上許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって、製造することができる。そのような製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液であることができる。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される投薬量および濃度において、受容者にとって無毒性である。許容される担体、賦形剤または安定剤は、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;酸化防止剤(例えばアスコルビン酸)、保存剤、低分子量ポリペプチド;血清アルブミンまたはゼラチンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyllolidone)などの親水性ポリマー;およびアミノ酸、単糖、二糖、および他の糖質、例えばグルコース、マンノース、またはデキストリン;キレート剤;ならびにイオン性および非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート);ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤であることができる。いくつかの実施形態では、コンストラクトを、0.5〜200mg/ml、または10〜50mg/mlの濃度で製剤化することができる。
【0083】
本発明のコンストラクトを含有する組成物は、診断的処置、治療的処置または予防的処置のために投与することができる。治療的応用では、組成物が患者に「治療有効量」で投与される。患者が必要としかつ認容する投薬量および頻度に応じて、組成物を単回または複数回投与することができる。本発明に関して、「患者」または「対象」には、ヒトと他の動物、特に哺乳動物がどちらも包含される。したがってこれらの方法は、ヒトの治療にも、獣医学的応用にも適用することができる。好ましい実施形態では、患者が哺乳動物、好ましくは霊長類であり、最も好ましくは患者がヒトである。
【0084】
本明細書で使用する用語「担体」は、生物系にインビボまたはインビトロで適用される活性剤(例えば治療剤などの薬物)のための希釈剤または媒体として使用される典型的に不活性な物質を指す。この用語は、組成物に粘着性を付与する典型的に不活性な物質も包含する。
【0085】
本発明の組成物は、従来の周知の滅菌技法によって滅菌するか、滅菌条件下で製造することができる。水溶液は、使用できる状態に包装するか、無菌条件下で濾過し、凍結乾燥して、その凍結乾燥調製物を投与前に滅菌水溶液と混合することができる。組成物は、生理的条件に近づけるために、必要に応じて、pH調節および緩衝剤、張性調節剤、湿潤剤などの医薬的または生理学的に許容される補助物質、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、およびオレイン酸トリエタノールアミンなどを含有することができる。
【0086】
処置方法
「処置する」または「処置」という用語には、
(1)疾患を防止すること、すなわち、その生物(organism)にばく露されているかもしれないが、疾患の症状をまだ経験または呈示していない哺乳動物において、疾患の臨床症状が発生しないようにすること、
(2)疾患を阻害すること、すなわち疾患またはその臨床症状の発生を抑止または低減すること。これには、観察される剥離(detachment)の程度または剥離を有する対象の数もしくは対象が剥離を有するリスクを低減することが含まれる。
(3)疾患を軽減すること、すなわち、疾患またはその臨床症状の退縮を引き起こすこと
が含まれる。
【0087】
本発明に従って使用されるコンストラクトは、任意の投与経路(例えば静脈内、局所外用、腹腔内、非経口、経口、腟内、直腸内、眼、硝子体内および眼内)で投与することができる。それらはボーラスとして投与するか、ある時間にわたって持続注入によって投与するか、筋肉内、腹腔内、皮下、経口、局所外用、または吸入経路によって投与することができる。抗体の静脈内投与または皮下投与は好ましい。投与は局所的または全身的であることができる。これらは、当該疾患と診断された対象、疾患歴がある対象、または疾患のリスクがある対象に投与することができる。
【実施例】
【0088】
[実施例]
以下の実施例は、本願請求項の発明を例示するために提供するものであって、それを限定するものではない。CEAとドメインIIIスキャフォールドとの融合タンパク質(図8参照)を使って本発明を例示するが、スキャフォールドをターゲティング剤および/またはイメージング剤および治療剤にコンジュゲートする方法は、他にも考えられる。
【0089】
[実施例1]
本発明者らは、がん胎児性抗原(CEA)をターゲットとする詳細に研究された抗体フラグメントと、HSA DIII野生型(WT、非突然変異型)またはH535、H510もしくはH464のアラニン残基への突然変異を組み込んだ3つのHSA DIII変異体の一つとからなる融合タンパク質を調べた。異種移植無胸腺ヌードマウスに124I標識Db-DIIIまたはDbタンパク質を注入し、インビボでDbの血清内残留を調整するHSA DIIIの能力を評価するために、連続小動物PET/CTイメージング研究を行った。加えて、本発明者らは、アルブミンのFcRn結合および循環内残留にとってのH535、H510およびH464残基の相対的重要性に関する結論を引き出すこともできた。
【0090】
材料と方法
Db-DIIIコンストラクトの作製
テンプレートとして市販のHSA cDNA(OriGene Technologies、メリーランド州ロックビル)を使用し、5'SpeI制限部位と3'EcoRI制限部位を導入するプライマーを使って、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、HSA DIII遺伝子を増幅した。プライマー配列は次のとおりとした:
フォワード:SpeI-DIII:5'-CCACTAGTGGCGAAGAGCCTCAGAATTTAATC-3'
リバース:DIII-EcoRI:5'-GAGAATTCTATTATAAGCCTAAGGCAGCTTGAC-3'。
DIIIにおけるヒスチジン残基H535、H510またはH464のアラニンへの突然変異は、Quick-Change突然変異誘発キット(Stratagene、カリフォルニア州ラホーヤ)を適当な突然変異誘発プライマー(フォワードプライマーだけを掲載する)と共に使用することにより、部位特異的突然変異誘発法によって導入した:
H464A(位置464のヒスチジン残基をアラニン残基と交換する)
5'-CTGAACCAGTTATGTGTGTTGGCTGAGAAAACGCCAGTAAGTGAC-3'
H510A
5'-GTTTAATGCTGAAACATTCACCTTCGCTGCAGATATATGCACAC-3'
H535A
5'-CTGCACTTGTTGAGCTCGTGAAAGCCAAGCCCAAGGCAAC-3'。
完全なDIII(WT、H535A、H510AおよびH464A)遺伝子をpCR2.1-Topoベクター(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)にクローニングしてから、抗CEA Db(Wuら, 1999)を既に含有しているpUC18ベクター(New England Biolabs、マサチューセッツ州ベバリー)に移した。そのpUC18ベクターからDb-DIII遺伝子全体を切り出し、pEE12哺乳類発現ベクター(Bebbingtonら, 1992)に、XbaI部位とEcoRI部位を使ってライゲーションした。
【0091】
発現、選択および精製
NS0マウス骨髄腫細胞(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を、5%熱失活透析ウシ胎仔血清(FBS;Omega Scientific Inc.、カリフォルニア州ターザナ)、1%v/vの200mM L-グルタミン(Mediatech, Inc.、バージニア州マナッサス)および1%v/vのペニシリン-ストレプトマイシン(10,000IU/mlペニシリン、10,000μg/mlストレプトマイシン;Mediatech Inc.)を補足した非選択的グルタミン非含有ダルベッコ変法イーグル培地(DME/High Modified;SAFC Biosciences、カンザス州ルネクサ)で維持した。以前に記述されているように(Kenanovaら, 2005)、対数増殖期のNS0細胞1×107個に、SalI(New England Biolabs、マサチューセッツ州イプスウィッチ)による消化で線状化した10μgのpEE12-Db-DIII DNAを、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。
【0092】
Db-DIII産生をELISAによってアッセイし、ウェスタンブロットによって確認した。ELISAには、Db-DIIIタンパク質を捕捉するためにプロテインA(Thermo Fisher Scientific、イリノイ州ロックフォード)を使用した。ELISAでもウェスタンブロットでも検出にはアルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲート抗マウスFab特異的抗体(Sigma-Aldrich)が役だった。トランスフェクションされたNS0細胞を、5%熱失活透析FBS(Omega Scientific Inc.)、2%v/vの50×GSサプリメント(SAFC Biosciences)および1%v/vペニシリン-ストレプトマイシン(Mediatech Inc.)を補足した選択的グルタミン非含有DME/High Modified培地(SAFC Biosciences)で維持した。多量のDb-DIIIタンパク質を発現する選択されたクローンを、2%熱失活透析FBS(Omega Scientific Inc.)および1%v/vペニシリン-ストレプトマイシン(Mediatech Inc.)を補足した300mlの選択培地を含有するトリプルフラスコ(Nunclon、ニューヨーク州ロチェスター)へと、徐々に拡張した。
【0093】
培養が終末期状態(terminal state)に達したら(約3週間)、収集した上清を遠心分離し、濾過し、30,000Da分子量カットオフ(mwco)フィルタを有するLab Scaleタンジェンシャルフロー濾過(TFF)システム(Millipore、マサチューセッツ州ビルリカ)で濃縮した。AKTA Purifier(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を使って、プロテインAカラム(Thermo Fisher Scientific, Inc.)で、Db-DIIIタンパク質を精製した。結合したタンパク質を、1×PBS中の15%の0.2Mクエン酸緩衝液(pH2.1)で溶出させ、溶出したタンパク質に80%v/vの1Mトリス塩基(pH8.2)を直接加えることによって、pHを直ちに中性にした。純粋なDb-DIIIタンパク質を含有する画分をプールし、1×PBSに対して透析し、Vivaspin 20(mwco:30,000;Sartorius Stedim Biotech Gmbh、ドイツ・ゲッチンゲン)で濃縮した。精製Db-DIIIタンパク質の最終濃度は、A280により、吸光係数ε=1.5を使って決定した。
【0094】
Db-DIIIタンパク質の特徴付け
精製Db-DIIIタンパク質を、非還元(NR)条件下および還元(R)条件下のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロット、質量分析ならびにサイズ排除クロマトグラフィーで分析した。タンパク質を還元するために、1Mジチオスレイトール(DTT)を最終濃度が0.2Mになるように加えた。SDS-PAGEには、4-20%勾配のトリス-HClレディーゲル(ready gel)(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で泳動を行い、Instant Blue Coomassieベース溶液(Expedion Protein Solutions、英国ケンブリッジ)で発色させた。ウェスタンブロットにおけるDb-DIIIタンパク質の検出は、APコンジュゲートヤギ抗マウスFab特異的mAb(Sigma-Aldrich)で、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート(BCIP)(Promega、ウィスコンシン州マディソン)AP基質を使って達成するか、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートプロテインL(Sigma-Aldrich)を、4-クロロ-1-ナフトール/3,3'-ジアミノベンジジン(CN/DAB)基質キット(Thermo Scientific、イリノイ州ロックフォート)で呈色させることによって達成した。
【0095】
LTQ-FT Ultraリニアイオントラップフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析計(Thermo Fisher)を使った質量分析を行って、精製タンパク質の実体を確認した。簡単に述べると、http://massspec.wiki.zoho.com/In-Gel-Trypsin-Digest.htmlに詳述されているゲル内トリプシン消化法(in-gel trypsin digest procedure)後に、Db-DIIIタンパク質を単離した。Eksigent nano-LCと統合されたLTQ-FT(Thermo Fisher)で、ナノ液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析(nLC-MSMS)および衝突活性化解離(CAD)フラグメンテーションとを行った。Mascotプログラム(Matrix Science、英国)およびSequestプログラム(Thermo Fisher)を使って、スペクトルを、最新のInternational Protein Indexデータベース(バージョン3.54、39,925エントリー)に対して検索した。結果を、厳密なスコアフィルタリング(strict score filtering)基準と10ppm質量分解能フィルタ(10ppm mass resolution filter)を使ってフィルタリングした。同定されたペプチドをDb-DIII配列とも対応させた。
【0096】
精製後のDb-DIIIタンパク質純度、ネイティブ非変性条件下(1×PBS、pH7.4)でのDb-DIIIタンパク質コンフォメーション、および分子サイズの見積もりの決定は、 Superdex 200HR 10/30カラム(GE Healthcare)を用いるサイズ排除クロマトグラフィーによって行った。
【0097】
PyMOLソフトウェア(DeLano Scientific)を使ってDIII分子およびDb-DIII分子のコンピュータモデルを作成した。また、HSAとDIIIの間のタンパク質ドッキングのモデリングを、公的サーバ(http://zlab.bu.edu/~rong/dock)で利用できるZDOCK-FFTアルゴリズム(Chenら, 2003)を使って達成した。
【0098】
Db-DIII融合タンパク質の放射性ヨウ素標識、異種移植片イメージングおよび体内分布
精製Db-DIII WT、H535A、H510AおよびH464Aを、以前に記述されたIodogen法(Olafsenら, 2006)を使って、陽電子放射体124I(0.02M NaOH中のヨウ化ナトリウム;IBA Molecular、バージニア州スターリング)で放射性ヨウ素標識した。標識反応(0.114〜0.130ml)は0.1mgの精製タンパク質と12.9〜18.0MBqのNa124Iとを含有した。標識効率は、以前に記述されているように(Olafsenら, 2006)、インスタント薄層クロマトグラフィー(ITLC)により、モノクローナル抗体ITLCストリップキット(Biodex Medical Systems、ニューヨーク州シャーリー)を使って測定した。
【0099】
インビボ研究には、7〜8週齢の無胸腺ヌードマウス(Charles River Laboratories、マサチューセッツ州ウィルミントン)の左肩領域に、1〜5×106個のCEA陽性LS174Tヒト結腸癌細胞(American Type Culture Collection、バージニア州マナッサス)を注入し、右肩領域に、ほぼ同数のCEA陰性C6ラット神経膠腫細胞(ATCC)を注入した。腫瘍塊を平均10日間にわたって発生させたところ、最大200mgの重量に達した。1コンストラクトあたり4匹の担腫瘍マウスの尾静脈に、食塩水/1%HSA中の3.9〜5.4MBqの124I標識Db-DIIIまたはDbを注入した。注入したマウスを、5つの異なる時点(4時間、20時間、28時間、44時間および51時間)で、2%イソフルランを使って麻酔し、ベッドに載せ、10分間イメージングした。51時間時点の最終PETスキャン後に10分間のCTスキャンを完了した。全てのイメージング実験にFocus 220小動物PETスキャナ(Siemens Preclinical Solutions、テネシー州ノックスビル)と小動物CAT IIスキャナ(Concorde Microsystems、テネシー州ノックスビル)を利用した。最後のスキャン(51時間)後に、マウスを安楽死させた。血液、腫瘍(LS174TおよびC6)、肝臓、脾臓、腎臓、肺および屠体(carcass)を集め、計量し、Wallac WIZARD自動ガンマカウンター(PerkinElmer Life and Analytical Sciences Inc.、マサチューセッツ州ウェルズリー)でカウントした。減衰補正後に、各タンパク質の標識効率に関する補正および標準誤差(SE)を組み込んで、各組織/臓器について、1グラムあたりのパーセント注入量(percent injected dose)(%ID/g)を計算した。
【0100】
イメージ解析および統計
フィルタ補正逆投影(FBP)アルゴリズム(Defriseら, 1997)を使って全てのイメージを再構築し、AMIDEソフトウェア(LoeningおよびGambhir, 2003)によって表示した。全てのイメージに同じカラー閾値(color threshold)を適用した。関心領域(ROI;楕円体(ellipsoid)、深さ0.4mm、n=4)を、CEA陽性腫瘍の領域および下半身の低放射能軟組織領域(筋)に描いた。腫瘍対軟組織(T:ST)比を個々のマウスについて決定し、各時点およびコンストラクトについて平均した。各イメージにおいて心臓上にROI(n=4)を描き、入力関数(input function)として注入量(単位MBq)およびシリンダファクター(cylinder factor)(単位MBq/cc/イメージユニット)を入力した後に、血液の%ID/gをAMIDEソフトウェアで計算した。ADAPTIIソフトウェアパッケージを使って、各タンパク質の平均滞留時間(MRT)をその血中放射能曲線から計算した(D'argenioおよびSchumitzky, 1979)。全ての比および%ID/g値についてSEを計算し、図示した(エラーバー)。全てのT:ST ROI比および血中放射能曲線を、それぞれ、対応のないスチューデントのt検定を使って比較し、有意差に調べた。0.05以下の両側p値を統計的に有意と見なした。
【0101】
結果
Db-DIIIタンパク質の製造および生化学的特徴付け
a.作製、発現および精製
Db-DIIIコンストラクトは約1.4キロ塩基対の長さを有し、XbaI制限部位とEcoRI制限部位に挟まれている(図1A)。工学的に作製されたDb-DIII分子は、ELISAで決定したところ、トランスフェクションされたNS0細胞の終末期培養物(terminal culture)において、10〜16μg/mlの密度で発現した。プロテインLにはDb-DIIIタンパク質を結合する能力があったが、プロテインAによる捕捉の方が効率がよかった。そこで、精製にはプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを選択した。Dbは、2つのscFv分子の非共有結合的二量体であるから、各Db分子はそのC末端に結合した2つのDIIIタンパク質を有し、分子質量計算値が約101kDである融合タンパク質をもたらす(図1B)。
【0102】
b.SDS-PAGEおよびウェスタンブロット
精製Db-DIII WTおよび変異体をNR条件下およびR条件下のSDS-PAGEで分析した(図2A)。Db-DIIIタンパク質は、NR条件下で、約101kDaというその予想分子質量に相当する主要バンドをもたらした(図2A、レーン1、2および3)。SDS-PAGEクーマシー染色ゲル(図2A、レーン1、2および3)と、抗マウスFab特異的抗体でプローブしたウェスタンブロット(図2B、レーン2)の両方に、低分子質量の弱いバンドも2本認められた。還元すると、主要バンド[(scFv-DIII)2;101kDa]は、scFv-DIIIフラグメント(約48kDa)とDIII分子(約23kDa)に相当する2本のバンドに分かれた(図2A、レーン5)。融合タンパク質のDIII部分をポリクローナル抗HSA抗体で検出しようという試みは成功しなかったので、ウェスタンブロットではその代わりに、Db-DIIIタンパク質のDb構成要素に結合するHRPコンジュゲートプロテインLを使用した(図2B、レーン3)。上側のバンド[(scFv-DIII)2;101kDa]と真ん中のバンド(scFv-DIII;48kDa)だけが検出された。したがって、還元タンパク質SDS-PAGEゲル上の約23kDaの下側のバンド(図2A、レーン5)は、DIIIドメインのみを表すはずである。精製タンパク質が実際にDb-DIIIであることを確認するために、質量分析を使用した。DbまたはDIIIアミノ酸配列に合致するペプチドがいくつか決定され、タンパク質の実体が確認された(データ未掲載)。
【0103】
c.サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、Db-DIII WT(101kDa)が単一のピークとして、28.17分の溶出時間で溶出することを示した(図2C)。同じ条件下で、Db-DIII H535A、H510AおよびH464Aタンパク質は、28.2分の平均溶出時間によって特徴付けられ、凝集も多量体化も検出されなかった。サイズ排除クロマトグラフィーピークの積分により、1段階のプロテインAアフィニティーカラム精製後に、約98%のタンパク質純度が明らかになった。
【0104】
d.HSA DIII、DIII-FcRn相互作用およびDb-DIIIのコンピュータモデリング
HSAの結晶構造(Sugioら, 1999)に基づいてHSA DIIIの構造モデルを作成した(図3A)。DIIIは、ループで互いに接続された10個のαヘリックス(DIIIa中に6個およびDIIIb中に4個)から構成されている。残基H464(DIIIa中)、H535およびH510A(共にDIIIb中)が描かれている。HSAとFcRnの結晶構造(Martinら, 2001)を使って、DIIIとFcRnのドッキングモデルも作成した(図3B)。ZDOCKアルゴリズムは、FcRn残基H161およびH166(Andersenら, 2006)ならびにHSA DIII H535、H510およびH464を含む相互作用に偏った。これにより11個の候補構造が得られた。潜在的な強いpH依存的結合に関して、PyMOLを使ってこれらの構造を分別し、分析した。分析から得られた総合的所見は、大半の予想構造においてそうであったように、FcRn残基H166およびH161を取り巻く保存された芳香族残基が、DIII H510およびH535残基の2つと接触すると思われるというものだった。FcRn H166およびH161は、低pH環境においてヒスチジンがプロトン化された時にアフィニティーが増加するであろうDIII上のグルタミン酸残基と相互作用するようだった。また、FcRn残基D102とN101は提案された構造の多くにおいて相互作用し、役割を果たしていると思われる。ZDOCKによって与えられた10番目の構造が、強いpH依存的結合を示す可能性が最も高いと思われた。この構造は、DIII H535とFcRn F157;DIII H510とFcRn W51およびY60;DIII H464とFcRn D101およびN102またはK123のどちらか;FcRn H166とDIII E505;ならびにFcRn H161とDIII E531の間の潜在的相互作用を含んでいた。最後に、T84.66ダイアボディの結晶構造(Carmichaelら, 2003)を使って、Db-DIII分子のモデルを作成した(図3C)。2つのDIII分子は、各二量体型ダイアボディに18アミノ酸リンカーを介して取り付けられており、これが比較的フレキシブルな分子構造をもたらすはずである。
【0105】
放射性標識およびマウス異種移植片イメージング研究
Db-DIII融合タンパク質に関する124I標識効率は63.9〜81.5%の範囲にあり、注入された比放射能は13.0〜18.0GBq/μmolだった。連続小動物PETイメージングにより、腫瘍ターゲティングおよび循環における残留に関して、インビボでDb-DIII融合タンパク質とDb単独とを比較することが可能になった(図4)。イメージから、5つのタンパク質は全てLS174T(CEA陽性)腫瘍をターゲットにすることが明らかになった。腫瘍の解剖学的位置はCTイメージ上に明確に見える。ターゲティングは、DbおよびDb-DIII H464Aについては、4時間で早くも認められ、Db-DIII WT、H535AおよびH510A分子については20時間で認められた。CEA陽性腫瘍におけるシグナルが、どのタンパク質についても、全試験期間(51時間)を通して持続したのに対し、バックグラウンド(循環放射能)は変動した。さまざまな時点におけるDb-DIIIとDbタンパク質のT:ST ROI比の統計的比較(図5A)は、4時間および20時間の時点では、全てのタンパク質が互いに有意差のないT:ST比(P>0.05)を示すことを表している。28時間から44〜51時間までは、Db T:ST比が、全てのDb-DIIIタンパク質より有意に大きい状態が続いた(0.04〜0.01の範囲のP値)。51時間時点において、H535A(P=0.03)、H510A(P=0.02)およびH464A(P=0.01)変異体は、軟組織シグナル減弱の速度が速いために、WTと比較して有意に高いT:ST比を示した。しかし、H510A T:ST比にはH535Aとの有意差がなかった(P=0.1)。H464A T:ST比にもH510A T:ST比との有意差がなかった(P=0.07)。H464A T:ST比はH535Aと有意に異なった(P=0.02)。各時点における血中放射能(%ID/g)のPETイメージ定量により、血中放射能曲線(図5B)の作成と、血中での各タンパク質のMRT(表1)の計算が可能になった。Db-DIII WTは、全てのヒスチジン突然変異体およびDb単独と比較して、有意に遅い血中クリアランス速度を示した(P<0.05)。Db-DIII H535AとH510AおよびH510AとH464Aの血中放射能曲線は互いに有意差がなかったが(それぞれP=0.09およびP=0.08)、H535Aは、H464A変異体と比較して有意に長い血中残留を特徴とした(P=0.01)。したがって、血清MRTが最も長いものから最も短いものへの順序は、Db-DIII WT>H535A≧H510A≧H464A>Dbであり、ここで、Db-DIII H535Aは、H464Aと比較して有意に長い循環滞留時間を有する。51時間における体内分布により、血清内残留の順序が確認された(表2)。Db-DIIIタンパク質については血中で測定される放射能が4.0〜1.6%ID/gの範囲であったのに対し、LS174T腫瘍取り込みは、Dbの0.5%ID/gと比較して2.5〜1.3%ID/gだった。以前の研究により、放射性ヨウ素化T84.66 Dbは、注入の2時間後に最大腫瘍取り込み(13.68±1.49%ID/g)に到達し、その後は、腫瘍中の放射能が減弱し始めることが示されている(Wuら, 1999)。腫瘍塊は、LS174T腫瘍とC6腫瘍に関して、それぞれ平均で161mgおよび126mgだった。長い血清中滞留時間は一般に高いLS174T腫瘍取り込みと関連することが認められた。CEA陽性対陰性腫瘍取り込み比は、51時間の時点で、Db単独では13であったのに対して、Db-DIIIタンパク質では1.5〜2.2の範囲にあった。
【0106】
[表1]循環における残留(血中%ID/g)に関して124I標識Db-DIIIタンパク質を降順(上から下へ)に示した体内分布
【表1】

注:1つのタンパク質につき4匹のマウスからなる群を分析した。臓器取り込みを%ID/gとして表す。
【0107】
[表2]担腫瘍無胸腺ヌードマウスにおけるDb-DIIIおよびDbに関する血中半減期の推定値
【表2】

1AUCは曲線下面積-∫u(t)dt(0から無限大まで)である。2一次Moは一次モーメント:∫t u(t)dt/∫u(t)dtである。ここで、u(t)は測定された(%ID/g)血中曲線である。3平均滞留時間はu(t)がdu/dtで置き換わる点以外は同じ積分フォーマットである。
【0108】
考察
最初のステップとして、またHSA DIIIが調整可能なPKを有するタンパク質スキャフォールドとして作用しうることの原理証明として、本発明者らは、2つの構成要素からなる融合タンパク質を設計した。1つは、インビボで詳細に研究された小さい二価抗体フラグメントである抗CEA T84.66 Dbとした。この抗CEA Dbは、LS174T(CEA陽性)腫瘍担持マウス(Yazakiら, 2001)において、2.89時間(123I)〜3.04時間(111In)の消失β半減期を示す。このDbは、他のタンパク質(すなわちウミシイタケまたはガウシア・ルシフェラーゼ)との融合にも成功しており、そのインビボ・ターゲティング能を保っていた(Venisnikら, 2007;Venisnikら, 2006)。したがって、Dbは、原理証明研究にとって良いモデルターゲティング分子になる。第2の構成要素は、未知の特徴を有するもの、すなわちHSA DIII WTまたは突然変異したH535、H510もしくはH464残基を有するその変異体の一つである。適正なフォールディングを保証するためにDb-DIII融合タンパク質を哺乳動物細胞で発現させた。発現レベルは妥当であり、アフィニティー精製により、計算値101kDaと合致する分子質量のタンパク質が得られた(図2A)。Dbは、SDS-PAGE条件下では互いに分離されて25kDa付近に移動する2つのscFv分子の非共有結合的二量体である(Wuら, 1999)。DIII内でもscFv内でもシステイン残基は全て対を形成しているので(Curryら, 1998;Dugaiczykら, 1982;Wu, 1999)、本発明者らは、Db-DIII分子が、scFv-DIII(約48kDa)分子種として移動するであろうと予想した。興味深いことに、非還元条件下では、タンパク質の大部分は二量体型[(scFv-DIII)2;101kDa]のままであり、SDS条件下で増加した構造安定性を示した。Db-DIIIコンピュータモデル(図3C)をさらに詳しく調べた後、DbとDIIIの間のリンカー長を18アミノ酸から5アミノ酸に減らした(データ未掲載)。この改変は、タンパク質の移動パターンに影響を及ぼさなかった([(scFv-DIII)2];図2A)。この挙動は予想外だったので、SDS-PAGEゲル(図2A)からDb-DIIIタンパク質バンドを切り出し、抽出されたタンパク質を質量分析で分析した(データ未掲載)。その結果、約101kDaのタンパク質は確かにDb-DIIIであることが確認された。SDS安定性および熱安定性の上昇は、β-グリコシダーゼ(Gentileら, 2002)の場合と同様に、2つのscFv-DIII分子間の極性相互作用、イオン相互作用の結果かもしれない。Db-DIIIタンパク質の分子サイズは、生理的条件下でのサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した。Db-DIIIの溶出時間は、同じ条件下で約27.3分(Kenanovaら, 2005)に溶出する類似する分子量の別のタンパク質(scFv-Fc、105kDa)に近い。Db-DIIIはわずかに小さいので28.2分付近に溶出したが、Db単独では38.2分に溶出する(Kenanovaら, 2005)。クロマトグラム上のシングルピーク(図2C)から、高純度であることに加えて、Db-DIIIタンパク質の完全性と、それが単一の分子種として存在することも明らかになった。DIII-FcRnドッキングモデル(図3B)の分析も、H535、H510およびH464残基の考えうるFcRn相互作用パターンを明確にするのに役立ち、FcRn結合にとってのそれらの重要性を明確にすることもできた。ただし、DIIIヒスチジン残基の実際のランキングは、インビボ分子イメージングによって決定した。
【0109】
分子イメージング、具体的にはPETの長所は、トレーサーの注入後に、同じ個体を断層撮影的に複数回イメージングして、PK、腫瘍ターゲティング、交差反応性に関する定量的情報を引き出すことができる点である。この研究では、CEA陽性およびCEA陰性の異種移植片を担持するマウスに、124I標識Db-DIIIまたはDbタンパク質を注入し、5つの異なる時点でイメージングした。これにより、Db-DIIIタンパク質同士を、そしてまたDb-DIIIタンパク質とDb単独とを、循環におけるそれらの残留および腫瘍ターゲティングについて、直接的に比較することが可能になった。Dbは定常的構成要素であるから、Db-DIIIタンパク質間のPKの相違は、DIIIの機能に起因すると考えられた。したがって、間接的にではあるが、PETイメージングにより、本発明者らは、インビボでのDIIIタンパク質の挙動について結論を下すことが可能になった。迅速な血清クリアランスを有するターゲティング剤ほど、早い時点で高いT:ST比を達成する。したがって、もっぱら各時点におけるT:ST ROI比に基づいて(図5A)、本発明者らは、血中クリアランスの順序を、最も速いもの(最も高いT:ST比)から最も遅いもの(最も低いT:ST比)へ、Db>>Db-DIII H464A>H510A>H535A>WTと推定することができた。興味深いことに、統計解析により、Db-DIII H510Aは、H535Aより有意には速く消失していないことがわかった。H535残基とH510残基はどちらもサブドメインDIIIb中に位置する。この知見は、アルブミン内でH510残基とH535残基は冗長であり、FcRnへの結合に関して一方が非機能的になるか、利用できなくなった場合に備えて、互いの予備としての役割を果たしうることを示唆しているのかもしれない。この仮説はまだ解明されていない。両残基の同時突然変異によって、より多くの洞察を得ることができる。全てのタンパク質について各時点でマウス心臓中の放射能を定量することによって作成した血中放射能曲線(図5B)でも、同じ循環クリアランスの順序が確認された。血中放射能曲線の統計的比較でも、Db-DIII H535AはH464Aより有意にゆっくり消失するが、H510Aと比較するとそうではないという、上記と同じ結論が得られた。トレーサー注入後の最初の12時間にはこれ以上多くの時点を設けなかったので、α半減期およびβ半減期よりもMRTの計算の方が実行に適していた。MRTは、Db単独の場合の2.9時間と比較して、Db-DIII WTの約2.4日からDb-DIII H464Aの17時間までの範囲にあった。Db-DIII融合タンパク質の総サイズ(101kDa)は、腎クリアランスに関する閾値(約60kDa)を上回っている。したがって、Db-DIIIタンパク質は肝胆道経路によって除去され、一方、Db(55kDa)は腎臓によって取り除かれる。このように、Dbタンパク質とDb-DIIIタンパク質の分子質量の相違は、MRTの相違の大きな原因になっている。しかし、インビボでのDb-DIII PKを単一アミノ酸突然変異(同じ分子質量)によって調整することができるという事実は、分子サイズの増加とは別に、インビボでの血清中PKを支配するもう一つの分子機序(例えばFcRn相互作用)が存在することを示唆している。さらにまた、突然変異(H535A、H510AまたはH464A)は、総合的なタンパク質血清中滞留時間の微調整も可能にする。数日から数時間までにわたる一連の循環半減期から選択することができる。これは、特別な血清中PK要件を有する診断剤または治療剤のために選択する際に有利である。
【0110】
イメージング研究は、腫瘍ターゲティングを保ちつつDbの循環残留を増加させるHSA DIIIドメインの能力を、明確に証明している。全てのDb-DIIIタンパク質は、Db単独よりも有意に長く、血中に留まった(P<0.05)。Db-DIII融合タンパク質を注入したマウスでは、血中に残っている放射能の直接カウント(%ID/g)が、Dbを注入したマウスの場合より、51時間の時点で50(WT)〜20(H464A)倍高かった。総合すると、本発明者らの知見は、HSA DIII WTおよび突然変異体が単独で、それらに取り付けられた部分の血清中滞留時間を目的に合わせて調整する能力を有するはずであることをを示唆している。DIIIの血中クリアランスランキングは、実験的に決定されたDb-DIIIの順序と同じままであると予想される。また、DIII WTは、T84.66 scFvに対する全HSA分子の効果(Yazakiら, 2008)よりもわずかに多く、Dbの血清内残留を長引かせることができた。LS174T異種移植無胸腺ヌードマウスに125I標識抗CEA scFv-HSA融合タンパク質(約90kDa)を注入した48時間後に、血中の残存放射能は2.79%ID/gであり、これに対して、124I標識Db-DIII WTは51時間において4.00%ID/gだった(表2)。この相違は、Db-DIIIの分子質量の方が大きいということによって説明することができるかもしれない。それでもなお、DIIIはHSA分子全体の血清中半減期を維持するのに必要かつ十分であることが示唆される。H464(DIIIa中に位置する)は、FcRn結合と循環残留に対して最も大きい効果を有するようである。また、H535AおよびH510A突然変異は、WTと比較して有意に速い血中クリアランスをもたらすので、本発明者らは、サブドメインDIIIaとDIIIbの両方が血清内残留の維持に関与すると結論づけることができる。
【0111】
Db-DIIIタンパク質の目的は、制御されたPKを有する単一ドメインスキャフォールドとしての使用に関するHSA DIIIの潜在能力を解明することだった。ターゲティング部分を伴わないDIII WTおよびDIII変異体の発現、ならびにインビボでのそれらのPKの評価が、イメージング応用または治療応用に最適な性質を示すDIIIスキャフォールドの選択に向けた次のステップである。この研究で記述したDIIIスキャフォールドは、腫瘍ターゲティング分子(ペプチド、アプタマー、小化学分子)をグラフトまたは化学的にコンジュゲートするために使用するか、ディスプレイコンビナトリアルライブラリーを作成するために直接使用することができる。イメージングに適したPKを有する標的スキャフォールドは、診断目的に使用することができる。あるいは、がん処置にとって最適な特徴を有する標的スキャフォールドに、潜在的抗腫瘍薬をコンジュゲートすることもできるだろう。
【0112】
[実施例2]
Alexa Fluor 647コンジュゲートDIIIタンパク質による結合研究
Alexa Fluor 647タンパク質標識キット(Invitrogen、オレゴン州ユージーン)を製造者の説明書に従って使用することにより、発蛍光団Alexa Fluor 647(1.25kDa)をHSA、DIII WT、H535A、H510AおよびH464Aタンパク質にコンジュゲートした。0.316〜3160nMの範囲の各蛍光タンパク質の希釈液(三つ一組)を、ヒトFcRnを発現するコンフルエントな293ヒト胎児腎臓細胞(Petkovaら, Int Immunol. 2006;18:1759-1769)と共に、丸底96ウェルプレート中、pH6.5でインキュベートした。また、Alexa Fluor 647コンジュゲートHSAの希釈液を、FcRn発現を欠く293細胞と共にインキュベートした(対照反応)。1×PBS(pH6.5)による洗浄ステップ後に、Maestro(商標)インビボ蛍光イメージングシステム(CRi、マサチューセッツ州ウォーバーン)により、ディープ・レッド(Deep Red)(671〜705nm)励起フィルタおよびレッド(Red)(700nmロングパス)蛍光フィルタを使って、細胞をイメージングした。同じサイズの関心領域(ROI)を各ウェルに描き、蛍光シグナルを測定し、各希釈液について平均した。Alexa-Fluor 647コンジュゲートDIIIタンパク質濃度の関数としての平均蛍光を使って結合曲線を作成した。50%蛍光が測定されるDIII濃度により、FcRnに関するDIIIタンパク質の相対的結合アフィニティーが示された(図6参照)。
【0113】
ヒトFcRnへのDIIIタンパク質の結合
図7に、発蛍光団コンジュゲートHSAおよびDIIIタンパク質の結合曲線を描く。より左側にシフトした曲線(HSAおよびDIII WT)は、100nM程度の相対的結合アフィニティーで、FcRn発現293細胞への強い結合を表し、続いてDIII H535AおよびH510A(それぞれ約200nMおよび300nM)、そして1μMという最も低い相対的結合アフィニティーを有するDIII H464Aである。Alexa Fluor 647コンジュゲートHSAは(FcRnを欠く)293細胞に結合しなかったことから、FcRnとの特異的相互作用が示唆される。細胞結合研究に基づいて、ヒトFcRnへの結合アフィニティーの順番を高い方から低い方に並べると次のとおりになる:HSA>DIII WT>DIII H535A>DIII H510A>DIII H464A。
【0114】
マウスにおけるDIIIタンパク質の循環半減期
HSAおよびDIIIタンパク質に関する131I標識効率は39.6〜93.6%の範囲にあり、注入された比放射能は1.5〜3.1μCi/μgだった。インタクトなHSAと全てのDIIIタンパク質の血中放射能曲線(図10)は、Db-DIII融合タンパク質で観察されたものと同じ排除順序を示す(この図にはDIIIaとDIIIbが付け加えられている)。さらにまた、FcRnに対するHSAおよびDIIIタンパク質の相対的結合アフィニティーの低下(図7)は、循環残留量の減少に比例している。表3に血中半減期の推定値を要約する。血中クリアランスの順序は、遅いものから速いものへと順に、次のとおりである:HSA>DIII WT>DIII H535A>DIII H510A>DIII H464A>DIIIa>DIIIb。最も遅く消失するタンパク質(DIII WT)から最も速く消失するタンパク質(DIIIb)までの緩速相(slow phase)(β)半減期の幅は約2倍であり、t1/2βは15.3〜6.9時間の範囲にある。循環滞留時間のこのスペクトルにより、所望する応用(例えば治療、イメージング)に最も適合しうるDIIIプラットフォームを選択することが可能になる。
【0115】
[表3]Balb/cマウスにおけるHSAおよびDIIIタンパク質の血中半減期の推定値
【表3】

12つの構成成分の振幅をAαおよびAβで表し、AαとAβの和が総%ID/gである。2t1/2α=ln2/k1おyびt1/2β=ln2/k2である。3曲線下面積(AUC)は、血液取り込み量の時間積分(%ID/g×時間)である。
【0116】
[実施例3]
アプタマー分子の作製と選ばれたDIIIスキャフォールドへのコンジュゲーション
ヌクレアーゼ耐性ピリミジン2'-フルオロUTPおよび2'F CTPを含有する修飾ターゲット特異的アプタマーは、T7 RNAポリメラーゼプロモーターを担持する二本鎖DNAテンプレートから、ランオフ転写によって作製することができる。転写反応は、Y639F突然変異型T7 RNAポリメラーゼを使って行うことができる。反応に使用されるヌクレオチドは、ATP、GTP、2'F dCTPおよび2'F dUTPからなるであろう。アプタマーをDIIIスキャフォールドにコンジュゲートするために、スクシンイミジル6-ヒドラジノニコチンアミドアセトンヒドラゾン(SANH)を、DIIIスキャフォールドのリジン残基と反応させることができる(下図)。2つの分子間のビス-アリールヒドラゾン結合は354nMでUVトレースが可能であるので、コンジュゲーション比を分光学的に決定することができる。精製後に、コンジュゲートされた生成物の全てを、インビトロ(細胞)でターゲットに結合する能力について評価し、次にインビボ(異種移植マウス)でターゲットに結合する能力について評価することができる。
【0117】
スキャフォールドDIII(塗りつぶした円で表す)へのアプタマーのコンジュゲーション化学
最初の反応ステップ後に、未反応のSANHを除去するために、脱塩ステップが必要である。
【化1】

【0118】
ターゲット特異的ペプチドまたは他のタンパク質のバイオコンジュゲーションは、2つのヘテロ二官能性リンカーの使用によって達成される。一つは芳香族ヒドラジン[6-ヒドラジノニコチンアミド(HyNic)]であり、これは、ペプチドまたはタンパク質のC末端またはN末端に合成される。もう一つは、DIIIタンパク質上のランダムなリジン(K)残基に取り付けられる芳香族アルデヒド[4-ホルミルベンズアミド(4FB)]である。4FB組込みプロセスを「DIII」の「修飾」という。ひとたび修飾されたら、官能化されたDIIIとペプチド分子とを脱塩して、過剰のリンカーを除去すると共に、生体分子をコンジュゲーションに適合するバッファー系へと交換する。次に、2つの修飾生体分子を一つに混合すると、2つの分子種の間に、熱的に安定であって、A354nmで分光学的に測定することもできるビス-アリールヒドラゾン結合が形成されることによって、コンジュゲーションが起こる。次にペプチド/DIII比を計算する。SoluLink(カリフォルニア州サンディエゴ)製の市販試薬を使って、このコンジュゲーション反応を完了させることができる。
【0119】
[実施例4]
抗CEAペプチド-DIIIbコンジュゲートの評価:
C末端にHyNic基を有するCEA特異的環状ペプチド(SDWVCEFIKSQWFCNVLASG、Kd=160nM)を業者に委託して合成した(SoluLink)。水溶液中に溶解すると、ペプチドが沈殿した。このペプチドは水への溶解性がないのでそのままではインビボ応用には不適当である。コンジュゲーションに先だって、HyNic修飾ペプチドをジメチルホルムアミド(DMF)有機溶媒に溶解した。SoluLinkによって提供されたプロトコールに従い、精製DIIIbを修飾して、ランダムなリジン残基に4FBを組み込んだ。コンジュゲーション後に、ペプチド/DIII比をA354nmを測定することによって決定したところ、各DIIIb分子につき平均2個のCEA特異的ペプチドであり、このコンジュゲートは水溶液に可溶であった。精製には、Superdex 200カラム(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)によるサイズ排除クロマトグラフィーを使用した。次に、精製された抗CEAペプチド-DIIIbコンジュゲートを124Iで放射性標識し、LS174T(CEA陽性)およびC6(CEA陰性)腫瘍を担持する4匹の無胸腺ヌードマウスに静脈内注入した。小動物PET/CTにより、4、20および27時間の時点で、マウスをイメージングし、その後、マウスを安楽死させて、解剖し、組織/臓器をガンマウェルカウンターでカウントした。下記表4に、注入の27時間後における、1グラムあたりのパーセント注入量計算値(%ID/g)を示す。
【0120】
PET/CTイメージ(図10)は、CEA陽性腫瘍をターゲティングするペプチドDIIIbコンジュゲートの能力を証明している。高い循環放射能が認められることから、腫瘍ターゲティングペプチドの循環半減期を引き延ばすというDIIIbの機能は維持されることが示唆された。しかし、ターゲティング部分(ペプチド)にはターゲットに効率よく結合する能力がないことから、このペプチド-DIIIbコンジュゲートは解離して循環中に戻ることになる。これは、注射の27時間後にLS174T腫瘍取り込み量が比較的低く、血中放射能が高いという、体内分布データ(表4)によって確認される。
【0121】
[表4]担腫瘍マウス(n=4)における124I標識抗CEAペプチド-DIIIbコンジュゲートの体内分布
【表4】

【0122】
5.1という腫瘍/筋比は許容され、抗体イメージングに匹敵する。腫瘍/血液比および(CEA陽性)腫瘍/(CEA陰性)腫瘍比は比較的低く(それぞれ0.51および1.2)、血中の高い放射能と減少した腫瘍ターゲティングを示す。この知見もまた、このコンジュゲートは血中に十分長く留まるが(DIIIb機能)、このペプチドはターゲット(LS174T腫瘍を発現するCEA)に結合する能力が低いことを示唆している。本発明者らは、アビディティだけでは低いアフィニティーを補うことができないので、イメージングの場合、DIIIへのコンジュゲーションには、より高いアフィニティー(例えばKd<10nM)を有するペプチドが好ましいと結論する。
【0123】
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【0124】
本明細書に記載した実施例および実施形態は例示に過ぎず、それを踏まえた様々な変更または改変が当業者には示唆され、それらは本願の要旨および範囲ならびに本願請求項の範囲に包含されると理解される。本明細書において言及した全ての刊行物、特許および特許出願は、あらゆる面で、引用により、その全てが本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒト血清アルブミンのドメインIII、ドメインIIIa、もしくはドメインIIIb、またはドメインIII、ドメインIIIa、もしくはドメインIIIbに対して実質的な配列同一性を有するポリペプチドを含む、タンパク質スキャフォールド;
b)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されているターゲティング部分;および
c)タンパク質スキャフォールドに共有結合で連結されている治療部分またはイメージング部分
を含むコンストラクト。
【請求項2】
ターゲティング部分が、ターゲット組織またはターゲット細胞の受容体に結合するリガンドである、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項3】
ターゲティング部分が、腫瘍特異的抗原に結合する抗体または免疫学的に活性なそのフラグメントである、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項4】
抗体が、抗体の免疫学的に活性なフラグメント、ダイアボディ、トリアボディ、またはミニボディである、請求項3に記載のコンストラクト。
【請求項5】
ターゲティング部分がアプタマーである、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項6】
アプタマーが腫瘍特異的抗原に結合する、請求項5に記載のコンストラクト。
【請求項7】
リガンドが、ターゲット組織またはターゲット細胞において過剰発現するタンパク質に結合する、請求項2に記載のコンストラクト。
【請求項8】
ターゲット組織またはターゲット細胞ががんである、請求項2に記載のコンストラクト。
【請求項9】
ターゲティング部分、イメージング部分、または治療部分の少なくとも一つが、非ペプチドリンカーによってスキャフォールドに共有結合で取り付けられている、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項10】
実質的同一性が90%である、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項11】
実質的同一性が95%である、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項12】
ターゲティング部分、イメージング部分、または治療部分の少なくとも一つが、ヘテロ二官能性クロスリンカー、ホモ二官能性クロスリンカー、ゼロ距離クロスリンカー、ジスルフィド結合、または生理学的に切断可能なクロスリンカーによってスキャフォールドに共有結合で取り付けられている、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項13】
ターゲティング部分が、2〜20原子長のリンカーによってスキャフォールドに共有結合で取り付けられている、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項14】
イメージング部分または治療部分が、2〜20原子長のリンカーによってスキャフォールドに取り付けられている、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項15】
40kda未満の分子量を有する、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項16】
30kda未満の分子量を有する、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項17】
20kda未満の分子量を有する、請求項1に記載のコンストラクト。
【請求項18】
ドメインIIIが野生型であるか、H535、H510、またはH464に突然変異を有する、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項19】
突然変異が、H535A、H510A、またはH464Aである、請求項18に記載のコンストラクト。
【請求項20】
タンパク質スキャフォールドが本質的に、ドメインIII、ドメインIIIa、またはドメインIIIbからなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項21】
ターゲティング部分がペプチド結合によってスキャフォールドにつながれていないことを条件とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項22】
イメージング部分および治療部分がペプチド結合によってスキャフォールドにつながれていないことを条件とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項23】
治療剤を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項24】
治療部分が薬物である、請求項23に記載のコンストラクト。
【請求項25】
治療部分が、治療用放射性核種、細胞毒性薬、サイトカイン、化学療法剤、放射線増感剤、または酵素である、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項26】
複数の治療部分がスキャフォールドに共有結合で連結されている、請求項25に記載のコンストラクト。
【請求項27】
イメージング剤を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクト。
【請求項28】
イメージング剤が、放射性核種、磁気材料、蛍光マーカー、クロモゲン、量子ドット、ナノ粒子、および生物発光酵素からなる群より選択される、請求項27に記載のコンストラクト。
【請求項29】
複数のイメージング剤がスキャフォールドに共有結合で連結されている、請求項27に記載のコンストラクト。
【請求項30】
対象における疾患または症状に関連する生体分子を検出する方法であって、該疾患または症状を有するか、有すると疑われる対象に、請求項27に記載のコンストラクトを投与することを含み、コンストラクトのターゲティング部分が該生体分子に結合し、コンストラクトのイメージング剤が検出される方法。
【請求項31】
疾患または症状の有無が診断される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
生体分子が腫瘍特異的抗原であり、疾患または症状ががんである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
生体分子が、疾患を有する対象の細胞において過剰発現または過少発現する細胞表面受容体またはタンパク質である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
組織における生体分子の過剰発現の存在に関連する疾患または症状を処置する方法であって、該疾患または症状を有する対象に、請求項23に記載のコンストラクトの治療有効量を投与することを含み、コンストラクトのターゲティング部分が該生体分子に結合し、治療剤が該疾患または症状を処置する方法。
【請求項35】
ターゲティング部分が、がんの腫瘍特異的抗原に結合し、疾患または症状が該がんであり、治療剤が治療用放射性核種、細胞毒性薬、サイトカイン、または化学療法剤である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクトと生理学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬または診断組成物。
【請求項37】
疾患または症状を処置するための医薬の製造における、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクトの使用。
【請求項38】
疾患または症状を検出するための診断薬の製造における、請求項1〜17のいずれか一項に記載のコンストラクトの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−523426(P2012−523426A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504836(P2012−504836)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/030291
【国際公開番号】WO2010/118169
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】