説明

制御される新たな微細構造を有するαタンタルフィルムおよびβタンタルフィルムを形成する方法

新たな微細構造を有する薄膜タンタルフィルムが提供される。該フィルムは、ナノ結晶、単結晶および非晶質等の微細構造を有する。このようなフィルムは、非常に良好な拡散バリア特性を有し、マイクロエレクトロニクスデバイスにおいて有利である。パルスレーザ沈着法(PLD)および分子ビームエピタクシー(MBE)沈着法を使用してこのようなフィルムを形成する方法と、このようなフィルムを含むマイクロエレクトロニクスデバイスも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、改善された耐拡散性を実現する、新たな微細構造を有するタンタルフィルムに関する。ここではとりわけ、単結晶、ナノ結晶および非晶質のタンタルフィルムを提供する。このようなフィルムは、銅接続部とシリコン基板との間に拡散バリアを必要とするマイクロエレクトロニクスアプリケーションにおいて有利である。このようなフィルムを基板上に沈着する方法と、タンタルバリアフィルムを有する製品も記載されている。
【0002】
本発明の背景技術
銅金属(Cu)は、低抵抗であり(バルクで1.67μΩ・cm)かつ電子マイグレーションおよび応力マイグレーションに対して高い耐性を有するため、シリコンマイクロエレクトロニクスデバイスに含まれる接続層として、非常に大きな注目を集めている。 O. Olowolafe, J. Li, J. W. Mayer: J. Appl. Physics., 68 (12), 6207 (1990); S. P. Murarka, Mater. Sci. Eng., R. 19,87 (1997)。しかし、Cuがシリコンへの高い拡散率(D≒10−8cm/s)を有するため、致命的な不純物が生じ、これによってシリコンマイクロエレクトロニクスデバイスにおける少数キャリア寿命が短縮される。 S. P. Murarka, Mater. Sci. Eng., R. 19, 87 (1997)。本願のいずれかの部分で引用された刊行物記事および特許公報はすべて、参照によって明示的に本願の開示内容に含まれる。
【0003】
したがって、Cuを接続層として集積するためには、シリコンへのCu拡散を阻止する薄膜の拡散バリアが必要である。Taは、Cuメタライゼーションに対する拡散バリア材料のうちで、最も有望なものの1つである。というのも、Taは比較的高い融点(3287K)を有し、かつ格子拡散のための活性化エネルギーが高いからである。この活性化エネルギーは、バルクTaで約4.8eVである。さらに、Taは熱力学的にCuより安定的である。というのも、Taは融点までほぼ完全に不混和性であり、反応していかなる化合物も形成しないからである。 A. E. Kaloyeros and E. Eisenbraun, Annu. Rev. Mater. Sci. 30, 363 (2000); Massalski TB. 1990. Binary Phase Diagranm. Westerville, OH: Am. SOC. Met.
SiとTaとの反応には、650℃と同等に高い温度が必要とされ、これによってSi/Ta界面が十分に安定的になる。G. Ottaviani. Thin Solid Films 140 (1985), p. 3.また、Taフィルムは安定的な酸化物(Ta)も形成する。この酸化物はCu拡散に対する保護層を形成し、SiOへの付着を改善する。また、Ta層が完全にTaに変換されるまで、この酸化物によって下方にあるCuが酸化から保護される。 T. Ichikawa, M. Takeyama, A. Noya, Jpn. J. Appl. Phys., Part 1 35, 1844 (1996)。
【0004】
タンタルは2つの相として存在する。すなわち、低抵抗(15〜30μΩcm)のα相(bcc相または「体心立方」相とも称される)および比較的高抵抗の(150〜200μΩcm)のβ相(正方晶構造)として存在する。Taが物理蒸着(PVD)法によって沈着される場合、β相が容易に形成される。α‐Taの形態を得る手法は、再現するのが比較的困難であり、基板の加熱、および/または、低準位の不純物をフィルムに導入すること、および/または、特別なベース層を使用することを必要とするのが判明している。この特別なベース層は、たとえば誘電体とTaとの間に設けられるTaNである。
【0005】
薄膜のフィルムの微細構造は、拡散特性および電気伝導度等の特性を調整するのに重要な役割を果たす。単結晶のα‐Taの抵抗は、粒界散乱の欠如に起因してさらに低くなることが期待される。単結晶のバリア層も非晶質のバリア層も、多結晶の層と比較して頑強な拡散バリアであることが期待される。というのもこれらは、短絡拡散経路として作用する粒界を欠如しているからである。粒界が短絡経路または迅速な拡散経路を形成するのは、粒界に沿った活性化エネルギーが、粒界構造に依存して約2.4eV以下(バルク格子拡散の活性化エネルギーの半分)であるからだ。単結晶のα‐Ta層が、粒界の欠如と高い融点とに起因して温度に対して安定的であるのに対し、非晶質のフィルムは高温での再結晶化に対して不安定である。
【0006】
高温での再結晶化を阻止するために、TaフィルムにCeO等のドーパントをドープして非晶質Taフィルムを実現する研究がなされている。これは800℃まで安定的であることが判明しているが、抵抗の著しい上昇が見られた。 D. Yoon, K. Baik and S. Lee, J. Vac. Sci. Technol. B. 17 (1):174-81 (1999)。また、NおよびOを低濃度ドーピングすることによって、600℃まで安定的な拡散バリアとなるナノ結晶Taフィルムが生成された。M. Stavrev, D. Fischer, A. Preu, C. Wenzel, N. Mattern, 1997, Microelectron. Eng. 33: 269-75; T. Laurila, K. Zeng, J. Molarius, I. Suni, J. K. Kivilahti; J. Appl. Phys., 88, 3377, (2000)。次世代のデバイスの集積回路においてさらに低いRC遅延の要件を満たすためには、低抵抗のバリア層が非常に望まれている。S. P. Murarka, Mater. Sci. Eng., R. 19, 87 (1997)。
【0007】
α‐Taフィルムもβ‐Taフィルムも、多結晶微細構造を有するように形成することができる。このような微細構造を有するフィルムは、マイクロエレクトロニクスデバイスで使用するのに比較的望ましくない。というのも、Cuがこのフィルムに沿って粒界で拡散するからである。非晶質(α‐Taでもβ‐Taでもない)、ナノ結晶α‐Taおよび単結晶α‐Taを含むタンタルフィルムの別の微細構造が、粒界の完全な欠如のために(単結晶および非晶質の場合)、改善された拡散バリア特性を実現するとして期待されている。ナノ結晶形態の場合には粒界が含まれており、層を通る経路は非常に曲折しているので、この形態もまた良好なバリアとして作用する。
【0008】
Catania, P. et al. による『Low resistivity body-centered cubic tantalum thin films as diffusion barriers between copper and silicon』(J. Vac. Sci. Technol. A 10 (5), Sep/Oct、1992年)では、Taフィルムの成長において、沈着プロセス時のイオン衝撃が重要な役割を果たし、bccフィルムは650℃まで銅とシリコンとの相互拡散を示さなかったことが開示されている。
【0009】
Molarius, J. M. T. et al. による『R.F.-Sputtered tantalum-based diffusion barriers between copper and silicon』(Superficies y Vacio 9, 206-209、1999年12月)では、RFスパッタリング技術をタンタルベースの拡散バリアの形成に適用することが開示されている。
【0010】
Donohue, H.G. et al. による『Low-resistivity PVD alpha-tantalum: phase formation and integration in ultra-low k dielectric/copper damascene structures』(Trikon Technologies, Ringland Way, Newport, NP182TA、イギリス)に、PVDタンタル拡散バリアを低抵抗のα相で、Cu/超low−k集積において形成することが開示されており、α‐Ta相形成のメカニズムと別のフィルム特性とが記載されている。
【0011】
Kim, H. et al. による『Diffusion barrier properties of transition metal thin films grown by plasma-enhanced atomic-layer deposition』(J. Vac. Sci. Technol. B. 20 (4), Jul/Aug 2002)には、プラズマ増強原子層沈着を行い、前駆体としてTaCl5と水素原子とを使用することにより、β‐Ta薄膜フィルムをSi(001)と多結晶のSi基板とに成長させることが開示されている。成長したフィルムは、150〜180μcmの抵抗を有する。
【0012】
米国特許公報5281485に、窒素環境で反応性スパッタリングを使用して、αタンタルフィルムをTa(N)の種層に形成することが開示されている。
【0013】
米国特許公報6110598に、タンタルフィルムを沈着して窒化タンタルフィルムを重ねる方法が開示されている。ここでは、六方晶構造を有する窒化タンタルフィルムと、体心立方(bcc)構造を有するタンタルフィルムとを製造するために、沈着中にガス圧を制限する。
【0014】
米国特許公報6458255に、スパッタリング沈着法と加熱された基板とを使用して、超低抵抗のαタンタルフィルムおよびβタンタルフィルムを形成することが開示されている。
【0015】
米国特許公報6794338には、基板と、該基板上に酸化タンタルフィルムの非晶質層とを有する製品が開示されている。
【0016】
ここで望ましいのは、マイクロエレクトロニクスデバイスの製造で産業的に使用できる、所望の微細構造を有するタンタルフィルムを形成する再現可能かつ確実な方法である。
【0017】
本発明の概要
したがって本発明の1つの側面では、2θ=38°にある幅広いX線回折ピークと、連続的な電子回折リングとを特徴とする、ナノ結晶微細構造を有するタンタルフィルムが提供される。
【0018】
付加的な側面では、2θ=55°にあるX線回折ピークと、特徴的な(100)スポット回折パターンとを特徴とする、単結晶微細構造を有するタンタルフィルムが提供される。
【0019】
また別の側面では、本発明は、2θ=30〜35°にある散乱X線回折ピークと、電子回折パターンに設けられた散乱リングとを特徴とする、非晶質微細構造を有するタンタルフィルムを提供する。
【0020】
また、上記のタンタルフィルムを沈着する方法も提供する。1つの側面では、タンタルフィルムを形成する方法は次のステップを含む。すなわち、
基板を設けるステップと、
オプションとして、該基板を予熱するステップと、
真空室を設けるステップと、
沈着パラメータ、真空室パラメータおよび基板パラメータを、所望の微細構造の実現に必要とされる程度に調整するステップと、
真空室内において10−4〜10−10の動作圧力で、基板上にタンタルフィルムを沈着するステップ
とを含む。基板上にタンタルフィルムを沈着するために使用される手法は、化学蒸着法、熱蒸着法、(加速)分子ビームエピタクシー法、原子層沈着法、陰極アーク沈着法、レーザアシスト沈着法、金属有機沈着法、プラズマ増強沈着法、スパッタリング沈着法、イオンビーム沈着法およびパルスレーザ沈着法を含むグループのうちから選択された手法である。
【0021】
本発明の付加的な側面では、タンタルフィルムを基板上に沈着するステップは、タンタルにエネルギー供給するステップと、該タンタルを基板上に沈着するステップと、タンタルをクエンチすることにより、結晶相の形成が抑制される温度で非晶質形態を運動学的にトラップするステップとを有する。
【0022】
本発明の別の側面では、シリコン基板と、該シリコン基板上に配置されたタンタルフィルムと、該タンタルフィルム上に沈着された銅層とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスを提供する。幾つかの実施形態では、タンタルフィルムは非晶質の微細構造を有し、別の実施形態では、タンタルフィルムはナノ結晶の微細構造を有し、さらに別の実施形態では、タンタルフィルムは単結晶の微細構造を有する。これらの実施形態はすべて、基板とタンタル層との間に配置された付加的なバッファ層を有することができる。
【0023】
本発明は、添付図面と、詳細な説明と、請求の範囲とに詳細に記載されている。
【0024】
図面の簡単な説明
本発明を、以下の図面によって詳細に説明する。
【0025】
図1 シリコン基板10上にバッファなしで行われるTaフィルム20の形成(図1(a))の概略的な断面図と、シリコン基板10上にバッファ層40とともに形成されるTaフィルム20の形成(図1(b))の概略的な断面図とを示す。
【0026】
図2 パルスレーザ沈着およびマグネトロンスパッタリングによってSi(100)基板上に沈着されたTaフィルムのXRD(X-ray diffraction)スペクトルを示す。
【0027】
図3 Si(100)基板上のTaフィルムの<110>断面のTEM顕微鏡写真を示す。(a)は、非晶質層の厚さ全体を示す低い拡大率のイメージであり、(b)は、非晶質相の選択された領域の回折パターンを示すはめ込みイメージを有する高分解能イメージである。
【0028】
図4は、Taフィルム表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真と、はめ込みイメージのX線EDS(energy dispersive spectroscopy)スペクトルである。
【0029】
図5 (a)は、EELS分析の位置を示すTaフィルムの断面のTEMイメージを示しており、(b)は、(a)に示された位置1,2,3および4に相応するEELSスペクトルを示す。
【0030】
図6 (a)は、(002)配向を有する多結晶β‐TaフィルムのX線回折パターンを示しており、(b)は、MSによって成長した多結晶Taフィルムの高分解能TEMイメージを示している。挿入イメージは、非晶質Taを有さない拡大されたCu/Ta界面および該フィルムの回折パターンである。
【0031】
図7 約650℃で1時間にわたってアニールされたCu/非晶質Ta(PLD)/SiフィルムのSIMSプロフィール(a)と、沈着されたサンプルであるCu/非晶質Ta(PLD)/SiフィルムのSIMSプロフィール(b)とを示す。この非晶質Taフィルムにおいて、Cuの有意な拡散は観察されなかった。レーザ切除によってTaフィルムの非晶質化を引き起こすTaフィルムでは、OおよびSiの存在が観察された。
【0032】
図8 約650℃で1時間にわたってアニールされたCu/多結晶Ta(MS)/SiフィルムのSIMSプロフィール(a)と、沈着されたサンプルであるCu/多結晶Ta(MS)/SiフィルムのSIMSプロフィール(b)とを示す。多結晶TaフィルムおよびSi基板双方に、Cuの有意な拡散が観察された。
【0033】
図9 PLDによって成長し、700℃±30℃で30分にわたってアニールされ、Taフィルムの結晶化が引き起こされたTaフィルムの高分解能TEMイメージを示す。
【0034】
図10 (a)は、約650℃で1時間にわたってアニールされた非晶質TaフィルムのZコントラストイメージであり、全拡散距離は矢印によって示されている。(b)は、タンタルフィルム中にCuおよびOが存在することを示すためのEELSスペクトルである。
【0035】
図11は、12〜300Kの温度範囲で測定された、非晶質Ta(PLD)および多結晶Ta(MS)の電気抵抗の測定結果を示す。
【0036】
図12(a)および(b)は、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30と、バッファ層40とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(b))と、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30とを有し、バッファ層40を有さないマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(a))とを示す。
【0037】
有利な実施形態の詳細な説明
例で使用される場合を除き、または明示的に規定されない限りは、ここで使用されるすべての数に「約」という用語が前置される場合と同等であると理解される。このことは、明示的に記載されていない場合も同様である。また、ここで挙げられた数の範囲はすべて、ここに含まれる部分範囲のすべてを含むものとする。
【0038】
ここで使用される「非晶質」という用語は、実質的に結晶構造を欠如していることを意味する。また、ここで使用される「ナノ結晶」という用語は、5〜1,000nmの結晶粒サイズを有する結晶微細構造を指し、有利には10〜100nmの結晶粒サイズを有する結晶微細構造を指す。
【0039】
「単結晶」という用語は、大角度結晶粒界の欠如と規則的な原子構造配列とを特徴とするタンタルフィルムを指す。ここで使用される「単結晶」という用語は、大角度粒界を有さない材料を含んでいるが、転位、双晶および積層欠陥を含むことがある。この用語は、超格子、エピタクシー、配向された結晶、または拡大された結晶も含む(拡大された結晶が単結晶であるとして使用される場合、または拡大された結晶が個別に単結晶として使用される場合)。
【0040】
当分野では、数多くの金属膜沈着法が公知になっている。このような金属膜沈着法にはたとえば、化学蒸着法、熱蒸着法、(加速)分子ビームエピタクシー(MBE)、原子層沈着法(ALD)、陰極アーク、レーザアシスト沈着法、金属有機沈着法、プラズマ増強沈着法、たとえばRF,マグネトロンまたはイオンビームスパッタリング等のスパッタリング法、イオンビーム沈着法およびパルスレーザ沈着法が含まれる。上記で挙げられた沈着法はすべて、関連の沈着変数および基板変数をスケーリングすることによって本発明のタンタルフィルムを沈着するのに使用することができる。
【0041】
したがって本発明の幾つかの側面では、2θ=38°、55°および69°にある幅広いx線回折ピークと、連続的な電子回折リングとを特徴とする、ナノ結晶微細構造を有するαタンタルフィルムが提供される。本発明はまた、幾つかの実施形態において、2θ=55(200)にあるX線回折ピークと、0.33mmの格子定数に相応する特徴的なスポット電子回折パターンとを特徴とする、単結晶微細構造を有するαタンタルフィルムを提供する。単結晶タンタルフィルムは、15〜30μΩcmの間の抵抗を有することが判明している(下記の例を参照されたい)。
【0042】
ナノ結晶のαタンタルフィルムは、30〜50μΩ cmの範囲内にある比較的高い抵抗を有し、この抵抗は、結晶粒サイズが低減されるほど上昇する。通常、このようなフィルムの厚さは5〜1000nmであり、10〜100nmである場合がある。しかしこの厚さは、フィルムが使用される特定のデバイスに依存して変化する。このことは、当業者であれば理解できる。
【0043】
別の側面では、本発明は、2θ=30〜35にある散乱X線回折ピークと、電子回折パターンに設けられた散乱リングとを特徴とする、非晶質微細構造を有するタンタルフィルムを提供する。
【0044】
この例で説明したように、非晶質フィルムは250〜275μΩ cmの抵抗を有することが判明している。3つのフィルム(単結晶、ナノ結晶および非晶質)はすべて、銅とともに650〜750℃の間の温度で1時間にわたってアニールされた後、10nmを下回る正味の拡散距離を有することが判明している。
【0045】
予め存在すると仮定されているが、ナノ結晶タンタルフィルム、単結晶タンタルフィルムおよび非晶質タンタルフィルムは、X線回折等の分析法によって実証されていなかった。3つのフィルムはすべて、たとえばTa(N),Taまたは別の種類の材料等の種層を必要とせずに沈着できる。
【0046】
付加的な側面では本発明はタンタルフィルムを基板上に形成する方法を提供する。この方法は、基板を設けるステップと、オプションとして該基板を予熱するステップと、真空室を10−4〜10−10の動作圧力で設けるステップと、該真空室内で基板上にタンタルフィルムを沈着するステップとを有する。基板上にタンタルフィルムを沈着するためには、化学蒸着法、熱蒸着法、(加速)分子ビームエピタクシー(MBE)、原子層沈着法(ALD)、陰極アーク沈着法、レーザアシスト沈着法、金属有機沈着法、プラズマ増強沈着法、スパッタリング沈着法、イオンビーム沈着法およびパルスレーザ沈着法(PLD)を含むグループから選択された沈着法を使用する。たとえば核種の平均エネルギー、エネルギー密度、たとえばパルスレーザ沈着の場合にはパルス期間および波長等である沈着パラメータは、所望の微細構造を実現するために適切な設定(このことは、以下でより完全に説明する)に調整される。同様に、真空室パラメータおよび/または基板パラメータ(温度、大気および真空の特性等)も、所望の微細構造が実現されるように調整される。当業者であれば、本方法を種々の沈着手段に対して、使用される特定の手法のパラメータをスケーリングすることによって適合することができる。
【0047】
ユーザの要望および製造される製品に依存して、適切であればどのような基板を使用してもよい。適切な基板には、ポリマー材料、金属、セラミックス、ファイバ補強材料、およびこれらのうちいずれかの組み合わせが含まれるが、これらに制限されない。マイクロエレクトロニクスデバイスの製造で有利なのは、シリコン基板を使用することである。
【0048】
1つの側面では、真空室の動作圧力は10−4〜10−10Torrである。たとえば非晶質の微細構造フィルム等の幾つかの実施形態では、動作圧力は有利には10−5〜10−7Torrである。単結晶微細構造フィルムおよびナノ結晶微細構造フィルムを沈着する方法等の別の実施形態では、動作圧力は有利には10−7〜10−10Torrである。
【0049】
幾つかの側面では、基板は100〜200℃の温度まで予熱されるか、または130°〜170°の温度まで予熱され、これによって得られるタンタルフィルムはナノ結晶微細構造を有する。別の側面では、基板は当出願人の米国特許公報5406123に記載されているように、エピタキシャル成長される。基板は沈着の前に、600℃〜750℃の温度まで予熱され、630°〜670°の温度まで予熱される場合がある。タンタルフィルムは、US5406123に記載されているようにプレーナマッチングによって沈着され、それによって得られるタンタルフィルムは単結晶微細構造を有する。ナノ結晶タンタルフィルムも単結晶タンタルフィルムも、たとえばパルスレーザ沈着法を使用して、当分野において公知であるように沈着することができる。非晶質タンタルフィルムの場合、基板を予熱する必要はなく、基板温度の範囲はおおよそ、室温(大気温度)(21℃)〜750℃の温度までとすることができる。
【0050】
沈着法がパルスレーザ沈着法である場合、以下のパラメータを調整する:
エネルギー密度:2〜5J/cm。3〜4J/cmの場合もある。
パルス期間:10〜60nsec。15〜30nsesの場合もある。
波長:193〜308nm。特定の値は、193nm、248nmおよび308nm。
繰り返しレート:5〜10Hz。これらのパラメータ値は、分子ビームエピタクシー沈着法を使用する場合にも使用することができる。
【0051】
付加的な側面では、酸素を真空室に導入して、酸素ドープされた非晶質タンタルフィルムを製造する。しかし本発明の方法は、酸素を真空室に導入することなく非晶質タンタルフィルムを製造することができる。ここでは非晶質タンタルフィルムは、検出限度を下回る酸素不純物量、0.1原子%を下回る酸素不純物率を有する。
【0052】
本発明はまた、マイクロエレクトロニクスデバイス(集積回路)、磁気デバイス、光学的(発光ダイオード)デバイス等の製品も提供する。ここでは拡散バリアは、化学的組成および微細構造を保護し、ひいては動作中にデバイスの有効な特性を維持するために必要とされる。
【0053】
タンタルフィルムは、非晶質、ナノ結晶または単結晶の微細構造を有することができる。図12(a)および(b)は、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30と、バッファ層40とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(b))と、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30とを有し、バッファ層40を有さないマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(a))とを示す。このマイクロエレクトロニクスデバイスは、たとえばLEDである。マイクロエレクトロニクスデバイスにおける銅沈着法は、当分野では周知である。バッファ層は、上記の微細構造のうちいずれかを有するタンタルフィルムとともに使用される。別の実施形態ではマイクロデバイスは、ポリマー材料から作製された基板等のシリコンと異なる基板を有する。
【0054】
実施例
走査型透過電子顕微鏡Z(STEM Z)コントラストイメージングにより、原子番号(Zに依存する)の差異に基づいて、元素のコントラストが得られる。電子エネルギー損失分光法(EELS)では、特定の元素の電子の特徴的なエネルギー損失を検出することによって、組成分析を行うことができる。これら双方の手法により、分解能が10nmのオーダであるSIMSプロフィールと比較して、高精度(0.16nmの空間分解能)でCuの拡散プロフィールを検出するための強力なツールが実現される。したがってHRTEM、STEM‐ZコントラストイメージングおよびEELSを使用して、非晶質から単結晶までにわたる微細構造を有するα‐Taフィルムで原子構造イメージングおよび組成分析が実現され、広範囲のSIMS検証結果と比較した結果が得られた。
【0055】
非晶質からナノ結晶、多結晶、単結晶までにわたる微細構造を有するαタンタル(α‐Ta)フィルムを、バッファ層を有するシリコン(Si)基板と、バッファ層を有さないシリコン(Si)基板とに形成した。ナノサイズから単結晶および非晶質のタンタルまでにわたる結晶粒サイズを有するαタンタル(α‐Ta)の薄膜フィルムを、不平衡パルスレーザ沈着技術によって製造し、該薄膜フィルムの電気的特性および拡散特性を、マグネトロンスパッタリングによって製造されたβタンタル(β‐Ta)フィルムの特性と比較した。単結晶のα‐Taフィルムは、バッファ層を有するシリコン(Si)基板およびバッファ層を有さないシリコン(Si)基板上に、ドメインマッチングエピタクシー(米国特許公報5406123に記載)によって形成される。ここでは、格子面の整数倍数は、フィルム‐基板の界面にわたってマッチングされる。α‐Taのエピタキシャル成長を行うためのテンプレートを形成するために、窒化チタン(TiN)および窒化タンタル(TaN)等のバッファ層を使用した。このようなフィルムの微細構造および原子構造は、X線回折および高分解能電子顕微鏡によって調査され、元素分析は電子エネルギー損失分光法およびX線分散分析を使用して行われた。温度範囲(10〜300K)で測定された抵抗の測定結果で、室温における値がα‐Taで15〜30μΩ・cm、β‐Taで180〜200μΩ・cm、非晶質タンタル(「a‐Ta」)で250〜275μΩ・cmが示された。α‐Taおよびβ‐Taでは、抵抗温度係数(TCR)は特徴的な金属のふるまいと同様に正であることが判明したのに対し、a‐TaではTCRは負であった。これは、高抵抗の無秩序の金属の特徴である。非晶質タンタルは、650〜700℃まで安定している。電子エネルギー損失分光法(EELS)およびラザフォード後方散乱の測定で、a‐Taフィルムに含まれる酸素含有率が0.1原子%未満であるという結果が得られた。EELSおよび2次イオン質量分析計(SIMS)、走査型透過電子顕微鏡Zコントラスト(STEM‐Z)イメージングおよび電子エネルギー損失分光法(EELS)の検証を行うと、1時間にわたる650℃のアニールの後、a‐Taフィルムおよび単結晶α‐Taフィルムは10nmを下回るCu拡散距離を示すのに対し、多結晶Taフィルムはとりわけ粒界に沿って有意なCu拡散を示す。したがってa‐Taおよび単結晶α‐Taの方が、粒界を有する多結晶のα‐Taフィルムおよびβ‐Taフィルムと比較して、Cuメタライゼーションに対して格段に優れた拡散バリアを実現する。a‐Taおよび単結晶α‐Taのこの優れた拡散特性は、α‐Taの低抵抗のエピタキシャル層と組み合わせられると、次世代のシリコンマイクロエレクトロニクスデバイスにおいて銅メタライゼーションのために最適なソリューションを実現する。
【0056】
図1(a)およびa(b)は、本発明の幾つかの実施形態にしたがって製造されるマイクロエレクトロニクス構造の断面図である。図1(a)に示されているように、シリコン基板10、たとえば(100)シリコン基板が設けられる。シリコン基板を製造する技術は当業者に周知であるから、ここで詳細に説明する必要はない。また図1(a)には、α(アルファ)相およびβ(ベータ)相の非晶質構造、ナノ結晶構造、多結晶構造および単結晶構造を有するTa薄膜フィルム20がシリコン基板上に直接形成されているのが示されている。幾つかの実施形態では、ドメインエピタクシー(たとえば米国特許公報5406123に記載されている)を使用して、単結晶Taフィルムをシリコン基板10上に直接沈着する。図1(b)に示されているように、幾つかの実施形態では、バッファ層40をTa20の成長前に形成する。
【0057】
このようなバッファ層(たとえばTiNまたはTaN)は単結晶の形態で成長することができる。このような形態は、単結晶Taフィルムの形成を容易にする。
【0058】
幾つかの実施形態では、Si(100)基板を洗浄し、HF手段を使用して固有の酸化物層を約1.5nmの厚さに除去して、水素基を末端に有する(100)Si表面を作製した。Taの均質なフィルムをSi(100)上に沈着するため、ナノ結晶、多結晶および単結晶のα‐Taフィルムの場合にはレーザMBE(分子ビームエピタクシー(molecular beam epitaxy))を使用し、a‐Taの場合にはパルスレーザ沈着法(PLD)を使用し、β‐Taの場合にはdcマグネトロンスパッタリング(MS)を使用した。
【0059】
拡散検証を行うのに際し、Ta/Si(100)基板上への均質なCu層のin-situ沈着は、PLDを使用して行われた。PLDの場合にはフィルムは、ターボ分子ポンプによって1×10−7Torrのベース圧力まで排気されたステンレス鋼真空室内部で沈着され、TaおよびCuのターゲットを切除するためにKrFエキシマレーザ(λ=248nm、τ〜25ns)を使用した。高温プレスされたTaおよび高純度のCuのターゲットは、回転ターゲットホルダに取り付けられ、3.0〜3.5J/cmのエネルギー密度で切除された。TaフィルムおよびCuフィルムは5〜10Hzのレーザ繰り返しレートで、それぞれ20分および10分にわたって沈着され、それぞれ50nmの厚さおよび20nmの厚さに形成された。
【0060】
レーザMBEの場合、層を形成するために、高出力KrFレーザが設けられた超高真空室を使用した。ここでは、沈着パラメータは以下の通りであった:
ベース圧力 −4×10−9Torr
レーザパルスレート 5〜10Hz
レーザ放射波長 −248nm
パルス幅 25〜35nsec
レーザパルスエネルギー(出力ポート) 600〜800mJ
レーザパルスエネルギー密度 3.0〜4.0J/cm
dcマグネトロンスパッタリング沈着では、純度99.999%のArガスを、沈着中に20sccmの流速で使用した。沈着中に3×10−4Torr(Ar)で放電を維持するためには、空洞陰極電子源を使用した。300Wで90nmの厚さのTaフィルムが沈着された。これから、沈着速度は約50nm/分になる。
【0061】
このフィルムをX線回折によって、Cu‐Kα源が設けられ5KWと同等に高いパワーで動作するリガク回折計を使用して分析した。このフィルムに含まれる酸素含有量を評価するため、2.0MeVのαイオンを使用するRBS(ラザフォード後方散乱)測定およびEELSによる検証を行った。このフィルムが有する微細構造の性質を、断面サンプルを使用して、1.8Åの2点間分解能を有する200−keVのJEOL 2010F高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)で検証した。
【0062】
これらのサンプルを、1×10−10Torrのベース圧力かつ最大700℃でアニールした。SIMS、STEM‐Zコントラストイメージングと、0.16nmの分解能を有するEELSとを使用して、異なる微細構造を有するTaフィルムにおけるCu拡散のふるまいを検証した。SIMS分析は、CAMECA IMS‐6fを使用して行った。10keV、200nAのCs1次イオンビームを、150×150μmの領域にわたって、1600m/Δmの質量分解能で走査した。
【0063】
図2は、PLD、レーザMBEおよびDCマグネトロンスパッタリングによって室温でSi(100)上に沈着されたフィルムのXRDパターンを示す。スパッタリングによって沈着されたフィルムでは、多結晶β‐Ta(002)に相応する急峻なピークが観察され、レーザMBEによって沈着されたフィルムでは、α‐Ta(110)に相応する比較的小さいピークが観察され、PLDによって沈着されたフィルムでは、幅広いピークが観察された。この幅広いピークは、PLDによって沈着されたフィルムが非晶質であることを示唆する。PLDによって沈着されたTaフィルムの非晶質構造を確認するため、高分解能TEMによる検証を行った。図3(a)は、Ta/Si(100)界面の低倍率の断面イメージである。ここでは、フィルムの厚さが約50nmであることが示されている。図3(b)は、Ta/Si界面の高分解能イメージである。ここでは、Taフィルムが非晶質であることが観察され、結晶シリコン基板の構造がTaフィルムの非晶質構造に対する標準として使用される。フィルム構造は完全に非晶質であり、局所的な秩序化を有する領域は全く観察されない。図3(b)にはめ込みイメージとして示された選択領域回折パターン(SAD)は、非晶質材料に特有の拡散リングパターンを示している。Ta/Si界面は十分に明確であり、目に見える酸化物層を全く有さない。図4は、PLDによって沈着されたTaフィルムのSEM顕微鏡写真であり、表面のモルフォロジーを示す。この顕微鏡写真から、フィルム表面が滑らかであり、空隙または多孔部分等の目に見える欠陥を全く有さないことが見て取れる。特記すべき別の観察結果は、高倍率でも結晶粒が発見されないことである。このこともまた、フィルムが非晶質であることを示唆する。Taフィルム表面に施されたEDSが、図4中のはめ込みイメージとして示されている。これは、検出限界においてフィルム中にOまたはNが存在しないことを示唆している。
【0064】
フィルムに含まれる酸素含有量もEELSによって、高分解能TEMおよびRBS(ラザフォード後方散乱)技術で調査した。図5(a)は、EELSが行われた、Ta/Si界面を含むTaフィルムの種々の位置を示す高倍率のTEMイメージであり、図5(b)は、相応のEELSスペクトルを示す。このEELSスペクトルから、界面およびフィルム内部におけるOおよびNの濃度が非常に低く、EELSによって検出されないことが理解できる。該フィルム内部で検出された元素はSiだけであり、界面から約1nmの距離にある。RBSおよびチャネリングによる検証により、非晶質タンタル構造が存在することが確認された。というのも、ランダムなチャネリング収量と整合されたチャネリング収量との間に差が存在しないからである。このランダムなスペクトルは、0.1原子%未満の推定濃度を有する酸素散乱の何らかの示唆を示している。
【0065】
非晶質フィルムを形成するためには、たとえば溶融、溶解または照射によって材料にエネルギー供給した後、異なる表面を一緒にすることによって急速にエネルギー除去し、(たとえばクエンチによって)さらにエネルギー除去して、結晶相の形成が抑圧される温度で非晶質形態を運動学的にトラップする。 L. J. Chen, Mat. Sci. & Eng. R: Reports, (29) 5 Sept. 2000 (115)。PLD中の非晶質Taの形成メカニズムは、基板上においてTa原子の移動度を低減する酸素不純物から得られるものと推測される。
【0066】
酸素原子がTa原子の移動度を低減すると、Ta原子は効果的に、自分の場所にクエンチされる。移動度のこのような低減により、Taフィルムの再結晶化に必要ないかなる長距離の秩序化の展開も阻止される。このメカニズムは、沈着中に行われる比較的低移動度の不純物の導入によって一般化することができ、長距離の秩序化の展開を阻止し、構造を非晶質にすることができる。
【0067】
α‐Taフィルムをパルスレーザ沈着によって、10−7torr未満の超高真空条件で形成した。ここでは、酸素不純物含有量は極度に少なかった。25℃でこの条件下で沈着されたフィルムは10〜20nmの結晶粒サイズを示し、結晶粒サイズは基板温度が上昇するほど大きくなった。エピタキシャルフィルムは、650℃以上の温度で製造された。α‐Taフィルムのエピタキシャル成長は、TiNバッファ層とのドメインマッチングエピタクシーによって行われた。ここでは、格子面の整数倍数(4/3)は、フィルム‐基板界面にわたって整合されている。J. Narayan et al. Appl. Phys. Lett. 61, 1290 (1992);米国特許公報5406123(1995年4月11日);J. Narayan and B.C. Larson, J. Appl. Phys. 93,278 (2003)。
【0068】
DCマグネトロンスパッタリングによって沈着されたフィルムは、主に(002)配向されたβ‐Ta相である。このことは、図6(a)にX線回折パターンによって示されている。図6(b)に示されたβ‐TaフィルムのHRTEMイメージは、はめ込みイメージに示された回折パターンとともに、約30nmの平均結晶粒サイズを有するTaフィルムの多結晶の性質を示している。Ta層は主に(002)方向に配向されており、線のフリンジが界面に対して平行になっている。断面サンプルの選択領域電子回折パターンが、Si(001)に整合されたTa(002)とCu(111)との間の強い配向関係を示している。Cu(111)と正方晶の対称的なβ‐Ta原子との整合には、ヘテロエピタキシャル成長のための(002)β‐Ta面に、7.6%のミスフィットひずみで疑似6角形の原子配列が必要である。K. W. Kwon, C. Ryu, R. Sinclair, S. S. Wong, Appl. Phys. Lett. 71,3069 (1997)。
【0069】
Taフィルムの非晶質微細構造および多結晶微細構造が得られた後、これらのサンプルをすべて同時に、650℃±30℃で1時間にわたってアニールし、Cuの拡散ふるまいに及ぼされる微細構造の作用を比較した。アニール後、Taフィルム上の拡散されなかったCuの存在が、SIMS実験において、Taフィルム中に拡散されたCuからの信号を隠す可能性がある。このことを克服するために、Taフィルムの頂部のCuフィルムを、(NHOH(20ml);H(20ml),HO(10ml)から成るエッチング剤によって除去した。図7(a)に、650℃±30℃で1時間にわたってアニールされた後の非晶質TaへのCu拡散のSIMSプロフィールが示されており、図7(b)に示されているように、アニールされていないサンプルと比較した。非晶質フィルムは、迅速な拡散経路として作用し迅速な拡散をアシストする粒界を欠如しており、比較的頑強な拡散バリアである。図7で見て取れるように、アニールされたサンプルでもアニールされていないサンプルでも、非晶質Taフィルム中のCuのプロフィールに有意な変化は生じず(SIMSの感度≦10nm以内で)、Si基板内部でCu信号は観測されない。このことは、非晶質Taフィルム中にCuの有意な拡散が存在しないことを指す。アニールされたサンプルでもアニールされていないサンプルでも、PLDによって、フィルム中へのSiの拡散においてTaフィルムの非晶質化を引き起こすO等の不純物の存在が、SIMSプロフィールで見られる。同様に、アニールされたサンプルおよびアニールされていないサンプルに関して、多結晶Taフィルム中へのCuの拡散のSIMSプロフィールが、それぞれ図8(a)および図8(b)に示されている。上層と基板とを繋ぐ、粒界を含む多結晶フィルムの疑似柱状成長が、Cuの迅速な拡散経路として作用する。これらの図で理解できるように、アニールされた多結晶Taフィルム中へのCuの有意な拡散が、アニールされていないTaフィルム中のサンプルと比較してCu信号が有意に上昇したことにより観察される。また、アニールされていないサンプルと比較してSi基板内部のCu信号が有意に上昇したことにより、Cuが多結晶Taフィルム中に過度に拡散されたことも確認される。SIMSプロフィールにおけるピークは、TaおよびSiのマトリクスにおけるCu信号の収量の差に起因して見られる。PLDによる非晶質Taフィルムでは、多結晶Taフィルムと比較するとCuの拡散が格段に小さい。
【0070】
非晶質Taフィルム中の拡散も、ZコントラストイメージングおよびEELSによって検証した。これらによって、化学的組成と、ボンディング特性に関する情報とが得られる。S.Lopatin, S. J. Pennycook, J. Narayan, and G. Duscher, J. Appl. Phys. Lett. 81 2728 (2002)。図9(a)に、650℃で1時間にわたってアニールされたCdTa(PLD 650℃)/SiサンプルのZコントラストイメージが示されている。ここでは、電子ビームによって形成されたプローブでTaフィルムを走査し、図9(b)に示されているようにEELSによってCu信号を検出した。Cu‐Lエッジ開始は、931eVに相応する。アニールされた非晶質サンプルの拡散全長は、約10nmである。単結晶塩化ナトリウム構造のTaNフィルムで同様のSTEMイメージング技術で行われた同様の拡散検証により、所与の温度および時間で約10nmの同様の拡散長さが示された。H. Wang, A. Tiwari, X. Zhang, A. Kvit, and J. Narayan, J. Appl. Phys. Lett. 81,1453 (2002)。構造的な視点から見ると、格子間位置に挿入された比較的小さいN原子を有するTa原子の最密配列として表されるTaNx相は、純粋なTa金属より、Cu拡散に対して格段に高い耐性を有する。しかし、PLDによって沈着された非晶質Taフィルムは格子間位置を欠如しており、単結晶TaNフィルムと同等に効果的な拡散バリアである。したがってPLDによって沈着されたTaフィルムは、化学量論的なTaNを得るための異なる前駆体および技術を使用することによる結果を解消し、種々のTaN相の抵抗のふるまいの変動が回避される。H. Kim, A. J. Kellock, and S. M. Rossnagel, J. Appl. Phys., 92 (12), 7080 (2002)。
【0071】
Taフィルムの非晶質の性質は700℃まで安定的であることが判明した。700℃を超えるとTaフィルムは、図10中のアニールされたTaフィルムのHRTEMイメージに示されているように、再結晶化を開始する。この温度で非晶質Taフィルムおよび多結晶Taフィルム双方において行われたSIMS実験により、粒界拡散に起因するTaフィルムおよびSi基板へのCuの有意な拡散が見られた。それに対して単結晶Taフィルムは、800℃を超える温度でも非常に安定的であり、単結晶Taフィルムへの銅の有意な拡散は見られなかった。
【0072】
次世代のデバイスのための集積回路におけるRC遅延を小さくするためには、バリア層は接続部の抵抗を調整するのにも重要な役割を果たす。バリア層の微細構造が、フィルムの抵抗のふるまいに重要な役割を果たす。図11は、PLDによって成長した非晶質フィルムの12〜300Kの温度範囲における抵抗のふるまいと、MSによって成長した多結晶フィルムの同温度範囲における抵抗のふるまいとを示す。非晶質フィルムは負の抵抗温度係数(TCR)値を示すのに対し、多結晶フィルムは正のTCRのふるまいを示す。TCRのふるまいの負から正への同様の移り変わりも、すでに観察されている。P. Catania, R. A. Roy, and J. J. Cuomo, J. Appl. Phys. 74 (2), 15 July (1993)。これは、結晶構造の変化に起因する。非晶質フィルムにおける負のTCRのふるまいは、システムにおける弱い局所化と増強された電子間相互作用とに起因する。このことは、幾つかの別の金属および合金でも観察されている。M. A. Howson, D. Greig, Phys Rev B, 30,4805 (1984)。H. Kim, A. J. Kellock, and S. M. Rossnagel, J. Appl. Phys., 92 (12), 7080 (2002) の約220μΩcmの抵抗を有する純粋なβ‐Taと比較すると、レーザ切除によって製造された非晶質Taフィルムの抵抗値は室温で約275μΩcmの範囲にあり、温度が上昇すると負のTCRのふるまいに起因して低減される。このことによって、接続部における遅延の制約が満たされる。α‐Taの室温抵抗は、微細構造が単結晶材料からナノ結晶材料へ変化するにつれて、15〜30μΩcmの間で変化することが検出された。
【0073】
非晶質Taフィルム、ナノ結晶Taフィルム、多結晶Taフィルムおよび単結晶Taフィルムは、パルスレーザ沈着およびDCマグネトロンスパッタリング技術によって製造された。X線回折および高分解能透過電子顕微鏡技術により、これらのフィルムの微細構造が確認される。非晶質Taの形成は、沈着中に導入された酸素の量をトレーシングすることに繋がる。酸素原子はTa原子を局所的にトラップし、構造に長距離の秩序が形成されるのを阻止する。シリコン上の単結晶Taフィルムは800℃を上回る温度でも安定的であったのに対し、非晶質Taフィルムは700℃以上で再結晶化した。温度範囲(10〜300K)で測定された抵抗の測定結果で、室温における値がα‐Taで15〜30μΩ・cm、β‐Taで180〜200μΩ・cm、a‐Taで250〜275μΩ・cmが示された。α‐Taおよびβ‐Taでは、抵抗の温度係数(TCR)は特徴的な金属のふるまいと同様に正であることが判明したのに対し、a‐TaではTCRは負であった。これは、高抵抗の無秩序の金属の特徴である。Cu層/Ta層/Si層の拡散特性は、非晶質Taおよび単結晶Taの方が、粒界が銅に対して迅速な拡散経路を提供する多結晶Taフィルムより格段に優れた拡散バリアであることを示した。しかし、非晶質構造は700℃で再結晶化されると、その優れた拡散特性を失う。
【0074】
したがって、α‐Taの低抵抗と組み合わされた非晶質Taフィルムおよび単結晶Taフィルムにより、次世代のシリコンマイクロエレクトロニクスデバイスにおけるCu拡散の問題に対して非常に良好な解決手段が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】シリコン基板10上にバッファなしで行われるTaフィルム20の形成(図1(a))の概略的な断面図と、シリコン基板10上にバッファ層40とともに形成されるTaフィルム20の形成(図1(b))の概略的な断面図とを示す。
【図2】パルスレーザ沈着およびマグネトロンスパッタリングによってSi(100)基板上に沈着されたTaフィルムのXRD(X-ray diffraction)スペクトルを示す。
【図3】Si(100)基板上のTaフィルムの<110>断面のTEM顕微鏡写真を示す。(a)は、非晶質層の厚さ全体を示す低い拡大率のイメージであり、(b)は、非晶質相の選択された領域の回折パターンを示すはめ込みイメージを有する高分解能イメージである。
【図4】Taフィルム表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真と、はめ込みイメージのX線EDS(energy dispersive spectroscopy)スペクトルである。
【図5】(a)は、EELS分析の位置を示すTaフィルムの断面のTEMイメージを示しており、(b)は、(a)に示された位置1,2,3および4に相応するEELSスペクトルを示す。
【図6】(a)は、(002)配向を有する多結晶β‐TaフィルムのX線回折パターンを示しており、(b)は、MSによって成長した多結晶Taフィルムの高分解能TEMイメージを示している。挿入イメージは、非晶質Taを有さない拡大されたCu/Ta界面および該フィルムの回折パターンである。
【図7】約650℃で1時間にわたってアニールされたCu/非晶質Ta(PLD)/SiフィルムのSIMSプロフィール(a)と、沈着されたサンプルであるCu/非晶質Ta(PLD)/SiフィルムのSIMSプロフィール(b)とを示す。
【図8】約650℃で1時間にわたってアニールされたCu/多結晶Ta(MS)/SiフィルムのSIMSプロフィール(a)と、沈着されたサンプルであるCu/多結晶Ta(MS)/SiフィルムのSIMSプロフィール(b)とを示す。
【図9】PLDによって成長し、700℃±30℃で30分にわたってアニールされ、Taフィルムの結晶化が引き起こされたTaフィルムの高分解能TEMイメージを示す。
【図10】(a)は、約650℃で1時間にわたってアニールされた非晶質TaフィルムのZコントラストイメージであり、全拡散距離は矢印によって示されている。(b)は、タンタルフィルム中にCuおよびOが存在することを示すためのEELSスペクトルである。
【図11】12〜300Kの温度範囲で測定された、非晶質Ta(PLD)および多結晶Ta(MS)の電気抵抗の測定結果を示す。
【図12】(a)および(b)は、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30と、バッファ層40とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(b))と、シリコン基板10と、タンタル層20と、銅層30とを有し、バッファ層40を有さないマイクロエレクトロニクスデバイスの断面(図12(a))とを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶微細構造を有するタンタルフィルムにおいて、
2θ=38で幅広いX線回折ピークを有し、かつ連続的な電子回折リングを有することを特徴とする、タンタルフィルム。
【請求項2】
タンタルはαタンタルである、請求項1記載のタンタルフィルム。
【請求項3】
30〜50μΩ cmの抵抗を有する、請求項1記載のタンタルフィルム。
【請求項4】
650〜750℃の間の温度で1時間にわたって銅と一緒にアニールされた後、10nm未満の正味の拡散距離を有する、請求項1記載のタンタルフィルム。
【請求項5】
単結晶微細構造を有するタンタルフィルムにおいて、
2θ=55°でX線回折ピークを有し、かつ特徴的な(100)スポット回折パターンを有することを特徴とする、タンタルフィルム。
【請求項6】
タンタルはαタンタルである、請求項5記載のタンタルフィルム。
【請求項7】
15〜30μΩ cmの抵抗を有する、請求項5記載のタンタルフィルム。
【請求項8】
650〜750℃の間の温度で1時間にわたって銅と一緒にアニールされた後、10nm未満の正味の拡散距離を有する、請求項5記載のタンタルフィルム。
【請求項9】
非晶質微細構造を有するタンタルフィルムにおいて、
2θ=30〜35°で拡散X線回折ピークを有し、かつ電子回折パターンに拡散リングを有することを特徴とする、タンタルフィルム。
【請求項10】
250〜275μΩ cmの抵抗を有する、請求項9記載のタンタルフィルム。
【請求項11】
650〜750℃の間の温度で1時間にわたって銅と一緒にアニールされた後、10nm未満の正味の拡散距離を有する、請求項9記載のタンタルフィルム。
【請求項12】
タンタルフィルムを形成する方法において、
基板を設けるステップと、
オプションとして、該基板を予熱するステップと、
真空室を設けるステップと、
沈着パラメータ、真空室パラメータおよび基板パラメータを、所望の微細構造を実現するのに必要な程度に調整するステップと、
化学蒸着法と、熱蒸着法と、(加速)分子ビームエピタクシーと、原子層沈着法と、陰極アーク沈着法と、レーザアシスト沈着法と、金属有機沈着法と、プラズマ増強沈着法と、スパッタリング沈着法と、イオンビーム沈着法と、パルスレーザ沈着法とを有するグループから選択された手法により、該真空室内で該基板上にタンタルフィルムを、10−4〜10−10の動作圧力で沈着するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項13】
前記動作圧力は、10−5〜10−10Torrの間である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記沈着法は、パルスレーザ沈着法または分子ビームエピタクシー法であり、
レーザを、2〜5J/cmのエネルギー密度に調整する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記沈着パラメータはパルス期間であり、
該沈着パラメータを、10〜60nsecに調整する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記沈着パラメータは波長であり、
該沈着パラメータを、193〜308nmに調整する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記基板を、100〜200℃の間の温度まで予熱し、
タンタルフィルムは、ナノ結晶微細構造を有する、請求項12記載の方法。
【請求項18】
前記真空室の動作圧力は、10−7〜10−10Torrである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記基板をエピタキシャル成長し、600〜750℃の温度まで予熱し、
タンタルフィルムは単結晶微細構造を有する、請求項12記載の方法。
【請求項20】
前記真空室の動作圧力は、10−7〜10−10Torrである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記基板は、沈着中に20〜30℃であり、
タンタルフィルムは非晶質微細構造を有する、請求項12記載の方法。
【請求項22】
前記動作圧力は、10−5〜10−7Torrである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
シリコン基板と、該シリコン基板上に沈着されたタンタルフィルムと、該タンタルフィルム上に配置された銅層とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスにおいて、
該タンタルフィルムは、非晶質微細構造を有することを特徴とする、マイクロエレクトロニクスデバイス。
【請求項24】
シリコン基板と、該シリコン基板上に沈着されたタンタルフィルムと、該タンタルフィルム上に配置された銅層とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスにおいて、
該タンタルフィルムは、ナノ結晶微細構造を有することを特徴とする、マイクロエレクトロニクスデバイス。
【請求項25】
シリコン基板と、該シリコン基板上に沈着されたタンタルフィルムと、該タンタルフィルム上に配置された銅層とを有するマイクロエレクトロニクスデバイスにおいて、
該タンタルフィルムは、単結晶微細構造を有することを特徴とする、マイクロエレクトロニクス。
【請求項26】
前記シリコン基板とタンタルフィルムとの間に沈着された、TiNまたはTaNのバッファ層を有する、請求項25記載のマイクロエレクトロニクスデバイス。
【請求項27】
タンタルフィルムを基板上に沈着する方法において、
タンタルにエネルギー供給し、
該タンタルを基板上に沈着し、
該タンタルをクエンチすることにより、結晶相の形成が抑圧される温度で非晶質形態を運動学的にトラップすることを特徴とする方法。
【請求項28】
前記温度は、20〜600℃である、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−530407(P2007−530407A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505156(P2007−505156)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/009763
【国際公開番号】WO2005/095263
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503153986)ハー ツェー シュタルク インコーポレイテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck, Inc.
【住所又は居所原語表記】45 Industrial Place, Newton, MA 02461, USA
【出願人】(506320901)ノース キャロライナ ステート ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】North Carolina State University
【住所又は居所原語表記】Campus Box 8210, 920 Main Campus Dr., Ste. 400, Raleigh, NC 27606, USA
【Fターム(参考)】