説明

制御システム

【課題】スマートエントリーシステムにおいて、キーから送信された識別信号(RF信号)が車両に到達しないようにし、かつリモートキーレスエントリーシステムにおける開錠、施錠指令信号は車両に到達させるように制御することにより、リモートキーレスエントリーシステムは正常に機能させつつ、リレーアタックによる車両盗難を効果的に防止できる制御システムを提供する。
【解決手段】ユーザが携帯するキー3は、RF送信部31における減衰率を調節する。アンロックスイッチ36が押下された場合は低減衰率にしてRF送信部31からドア開錠信号を送信するので、遠くからドアを開錠できる。ポーリング信号を受信した場合は高減衰率にしてRF送信部31からID34を送信するので、リレーアタックの場合に所有者が車両から離れている場合はRF信号が車両に到達せず、リレーアタックは成功しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のスマートキーシステム(スマートエントリーシステム、スマートスタートシステム)が普及している。現状のスマートエントリーシステムにおいては、例えばユーザがドアハンドル接触やエンジンスタートスイッチの押下といった操作を行うと、ポーリング信号が送信され、スマートキーから返信されたIDとマスターIDとで照合がとれた時点でドア開錠やエンジン始動が実行される。
【0003】
例えば下記特許文献1には、スマートキーシステムにおいて、乗員に運転継続の意思があるか否かを判定する手段を装備して、携帯機が車両から離間し、携帯機の不所持者に運転継続の意思がある場合には内燃機関の再始動を許可し、車両の盗難をより確実に防止するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−153190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スマートキーシステムにはリレーアタックと呼ばれる盗難の手法が知られている。それは図6に示されている。この手法では、車両から所有者が離れている状況において、車両と所有者との間に盗難者A、Bが位置する。所有者はスマートキーを携帯しているとする。盗難者A、Bは電波中継器を所持している。
【0006】
この状態で、まず車両から発信されたポーリング信号を盗難者A、Bが中継して所有者の場所まで伝達する。通常ポーリング信号の到達範囲は車両周辺に限定されているが、盗難者A、Bの中継により所有者の所までポーリング信号を届かせることができる。車両の所有者が携帯するスマートキーは、ポーリング信号を受信したら、自身が記憶しているスマートキー固有のIDコードをRF信号として返信する。
【0007】
返信されたRF信号は車両まで到達する。車両は受信したRF信号に対してマスターIDとの間で照合処理を実行する。RF信号は所有者の持つスマートキーから送信された信号なので、当然照合は成功となる。これにより車両はドアの開錠許可状態となる。こうして盗難者は車両に侵入することが可能となる。
【0008】
さらに、盗難者Aが車両に搭乗した後に、同様の手順を繰り返すと、車室内照合が成功して、車両はエンジン始動が許可される。こうして盗難者が車両を走行させることが可能となる。以上がリレーアタックの概要である。
【0009】
こうしたリレーアタックに対する効果的な対策が当然必要である。リレーアタックは通常、車両の所有者が車両から遠く離れている場合に行われる。したがって車両から遠く離れたスマートキーから送信されたRF信号が車両まで到達しないようにすれば、リレーアタックによる車両盗難を防止する有効な方策となると考えられる。
【0010】
その際考慮すべき点として、スマートエントリーシステムとリモートキーレスエントリーシステム(RKE)との並存がある。今日、車両のドア開錠システムとして、スマートエントリーシステムとRKEとを並存させる場合が多い。RKEは、ユーザが携帯するキーに、車両のドアを開錠するためのアンロックボタン、施錠するためのロックボタンを装備して、ユーザがそれらを押下したことが無線で車両に伝えられて、車両のドアが開錠、または施錠されるシステムである。
【0011】
したがってスマートエントリーシステムとRKEとを並存させたシステムにおいては、上記のとおりスマートエントリーシステムにおけRF信号は車両まで到達させず、RKEにおけるロック、アンロックの無線信号(RF信号)は車両まで到達させるような工夫が必要となる。
【0012】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、スマートエントリーシステムにおけるキーから送信された識別信号(RF信号)が車両に到達しないようにし、かつリモートキーレスエントリーシステムにおける開錠、施錠指令信号は車両に到達させるように制御することにより、リモートキーレスエントリーシステムは正常に機能させつつ、リレーアタックによる車両盗難を効果的に防止できる制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明に係る制御システムは、使用者が携帯可能であり、無線通信機能を有する第1通信部と、車両のドアの開錠を指令する使用者からの指令入力を受け付ける入力手段と、を備えた携帯機と、車両に備えられて、前記第1通信部との無線通信機能を有する第2通信部と、前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のドアを開錠する第1開錠手段と、前記入力手段が前記指令入力を受け付けたことを示す開錠指令信号が第1通信部から送信され、その開錠指令信号が第2通信部により受信されたら車両のドアを開錠する第2開錠手段と、を備え、前記第1通信部は、前記識別信号の送信時と前記開錠指令信号の送信時とで送信する信号を異なる減衰率で減衰させる減衰手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
これにより本発明に係る制御システムでは、いわゆるスマートエントリーシステムに係る第1開錠手段と、いわゆるリモートキーレスエントリーシステムに係る第2開錠手段と、を備えた状態で、スマートエントリーシステムにおける識別信号の送信時とリモートキーレスエントリーシステムにおける開錠指令信号の送信時とで送信アンテナへ伝達される信号の減衰率が異なるように制御する。したがってスマートエントリーシステムにおいてはリレーアタックによる被害の抑制となり、リモートキーレスエントリーシステムにおいては車両から遠い場所からドアを開錠させるような減衰率に調節することが可能となる。よってスマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる。
【0015】
また前記減衰手段は、前記識別信号の送信時の方が前記開錠指令信号の送信時より減衰率を大きくするとしてもよい。
【0016】
これにより識別信号の送信時の方が開錠指令信号の送信時より減衰率が大きくなるように制御するので、スマートエントリーシステムにおいては減衰率を大きくして車両から遠く離れたキーからの識別信号が車両まで届かないようにしてリレーアタックによる被害を抑制する。そしてリモートキーレスエントリーシステムにおいては、減衰率を小さくして、車両から遠い場所からドアを開錠できるようにする。よってスマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる。
【0017】
また前記識別信号及び開錠指令信号の送信経路が、高減衰率の第1経路と低減衰率の第2経路とに分岐されており、前記減衰手段は、前記識別信号の送信の場合は前記第1経路に、前記開錠指令信号の送信の場合は前記第2経路に切り替える切替手段を備えたとしてもよい。
【0018】
これにより識別信号及び開錠指令信号の送信経路が2つに分岐されており、識別信号の送信の場合は高減衰率の経路に、開錠指令信号の送信の場合は低減衰率の経路に切り替えるので、減衰率の異なる2つの経路と切替部とを有する構成を装備して、スマートエントリーシステムにおいては高減衰率の経路を用いて車両から遠く離れたキーからの識別信号が車両まで届かないようにしてリレーアタックによる被害を抑制し、リモートキーレスエントリーシステムにおいては、低減衰率の経路を用いて、車両から遠い場所からドアを開錠できるようにする。よってスマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる。
【0019】
また前記減衰手段によって調節される前記識別信号の送信時の信号の減衰率は、車両のドアハンドルに接触する位置にいる使用者に所持された前記携帯機から送信された前記識別信号が前記第2通信部によって受信可能な減衰率であるとしてもよい。
【0020】
これにより識別信号の送信時の減衰率は車両のドアハンドルに接触する位置にいる使用者に所持された携帯機から送信された識別信号が前記第2通信部によって受信可能な減衰率とするので、このようにスマートエントリーシステム時の減衰率を具体的に制御して、スマートエントリーシステムにおける車両の所有者によるドア開錠は適切に実行でき、リレーアタックによる車両盗難は抑制できるような高い減衰率とすることができる。したがってリモートキーレスエントリーシステムにおけるリレーアタック対策のために減衰率を制御することとは独立にスマートエントリーシステム時における減衰率を制御して、スマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる。
【0021】
また前記減衰手段によって調節される前記開錠指令信号の送信時の信号の減衰率は、車両のドアハンドルに接触する位置よりも車両から離れた位置にいる使用者に所持された前記携帯機から送信された前記開錠指令信号が前記第2通信部によって受信可能な減衰率であるとしてもよい。
【0022】
これにより開錠指令信号の送信時の減衰率は、車両のドアハンドルに接触する位置よりも車両から離れた位置にいる使用者に所持された携帯機から送信された開錠指令信号が第2通信部によって受信可能な減衰率とするので、リモートキーレスエントリーシステム時においては、このように具体的に減衰率を制御して、車両から離れた場所からでもユーザは車両のドアを開錠することができる。したがってスマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策のために減衰率を制御することとは独立にリモートキーレスエントリーシステム時における減衰率を制御して、スマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御システムの1実施例における構成図。
【図2】スマートエントリーシステムの場合の処理手順を示すフローチャート。
【図3】スマートスタートシステムの場合の処理手順を示すフローチャート。
【図4】リモートキーレスエントリーシステムの場合の処理手順を示すフローチャート。
【図5】送信信号の送信経路の設計例を示す図。
【図6】リレーアタックの概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。まず図1は、本発明に係る車両の制御システム1(システム、制御装置)の装置構成の概略図である。図1に示されたシステム1は、車両2に備えられた照合制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)4、及びユーザが携帯可能なキー3(スマートキー、電子キー、携帯機)を備える。車両2は自動車であれば何ら限定されず、例えばガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車や、電気自動車、ハイブリッド車でもよい。
【0025】
ECU4は、車室外LF送信部40、車室内LF送信部41、RF受信部42を備える。車室外LF送信部40は、例えば車両2のドアハンドルの部位に装備されて、LF(長波)帯域の電磁波によって車両2の車室外にポーリング信号を送信する。
【0026】
車室内LF送信部41は、車室内に装備されて、LF(長波)帯域の電磁波によって車両2の車室内にポーリング信号を送信する。RF受信部42は、例えば車室内に装備されて、車外、車室内から送信されたRF信号を受信する。
【0027】
ECU4は通常のコンピュータの構造を有するとし、各種演算や情報処理を司るCPU、CPUの作業領域としての一時記憶部であるRAM、各種情報を記憶するための不揮発性のメモリ43を備える。メモリ43には、後述するマスターID44が記憶されているとする。
【0028】
車両2のドア5には、ロック機構50、タッチセンサ51、ロックボタン52、キーシリンダ53が装備されている。ロック機構50により、ドアが施錠あるいは開錠される。タッチセンサ51は、車両2のドアハンドルに装備されて、ユーザがドアハンドルを握ったことを検出するセンサである。
【0029】
ロックボタン52は、スマートキーシステムにおけるドアの施錠ボタンであり、ドアハンドル付近に備えられて、車室外照合が成功の場合にユーザが押下するとドアが施錠されるボタンである。キーシリンダ53は、ドアハンドル付近に備えられたメカニカルキー部37が挿入するための孔部である。
【0030】
なおドア5は車両2に装備された複数のドア(運転席側ドア、助手席側ドア、後部座席右側、左側ドアなど)を指すとし、その個々のドアにロック機構50、タッチセンサ51、ロックボタン52、キーシリンダ53が装備されているとすればよい。
【0031】
また車両2は、車室内の運転席近傍にキーシリンダ60、エンジンスタートスイッチ61を備える。キーシリンダ60はメカニカルキー部37を挿入するための孔部であり、挿入されたメカニカルキーの回動角度によって車両2のエンジンを始動させるスイッチであるクランキングスイッチ(SW)、車両2のエンジンを動作させ続けるためのイグニション(イグニッション)スイッチ、車両2のエンジンを始動させず各種電気装置を機能させるためのアクセサリースイッチのオンオフが制御される。
【0032】
エンジンスタートスイッチ61はスマートスタートシステムにおけるエンジン始動のためのスイッチであり、車室内照合が成功の状態でユーザが押下するとエンジンが始動するスイッチである。以上の各部は車内通信(CAN通信)により接続されて情報の受け渡しが可能となっている。
【0033】
キー3はスマートキーシステムに関わる電子キーであり、ユーザが携帯可能で、LF受信部30、RF送信部31、制御部32、メモリ33、ロックスイッチ35(ロックボタン)、アンロックスイッチ36(アンロックボタン)、メカニカルキー部37を備える。メモリ33には、当該キー3に固有の識別信号34(IDコード、ID)が記憶されている。
【0034】
LF受信部30は、上述のポーリング信号を受信する。RF送信部31は、ポーリング信号の受信を受けて、当該キー3固有のIDコード34をRF信号として送信する。さらにRF送信部31は、本発明の主要部として、減衰器31cを備える。
【0035】
RF送信部31の具体的な構成例が図5に示されている。図5(a)の例では、可変減衰率の減衰器31cが使用されている。図5(a)のRF送信部31は、送信IC31a、アンテナ31b、減衰器31c、マイコン31dを備える。送信IC31aはアンテナ31bから送信する信号(RF信号)の情報内容を処理するICである。
【0036】
マイコン31dは、アンテナ31bから送信するRF信号が、ID34を含む識別信号か、それともユーザがアンロックスイッチを押下したことを示す信号か、の情報をキー3の制御部32から取得して、その情報に応じて減衰器31cにおける減衰率を制御する。
【0037】
後述するとおり、アンテナ31bから送信するRF信号が、ID34を含む識別信号の場合は、減衰器31cにおける減衰率は所定の高減衰率とし、アンテナ31bから送信するRF信号が、ユーザがアンロックスイッチを押下したことを示す信号の場合は、減衰器31cにおける減衰率は所定の低減衰率とする。図5(a)に示されているとおり、具体的に減衰器31cは可変抵抗器によって構成すればよい。
【0038】
図5(b)の例では、RF送信部31は、送信IC31a、アンテナ31b、減衰器31c、マイコン31dを備える。またRF信号の送信経路は経路31g、経路31fに分岐されており、経路31fの側にのみ減衰器31cが配置されている。減衰器31cは例えば固定電気抵抗とすればよい。
【0039】
マイコン31dは、アンテナ31bから送信するRF信号が、ID34を含む識別信号か、それともユーザがアンロックスイッチを押下したことを示す信号か、の情報をキー3の制御部32から取得して、その情報に応じてスイッチ31eを切り替える。
【0040】
後述するとおり、アンテナ31bから送信するRF信号が、ID34を含む識別信号の場合は、スイッチ31eを経路31f側に切り替え、アンテナ31bから送信するRF信号が、ユーザがアンロックスイッチを押下したことを示す信号の場合は、スイッチ31eを経路31g側に切り替える。
【0041】
図1に戻って、ロックスイッチ35、アンロックスイッチ36はワイヤレスキーレスエントリーシステムにおけるドアの開錠、施錠に関するスイッチである。ユーザが車両外の通信範囲内でロックスイッチ35を押下すると車両2のドア5が施錠され、アンロックスイッチ36を押下すると開錠(許可)状態となる。
【0042】
メカニカルキー部37は、機械的なキー部であり、ドア5のキーシリンダ53や車室内のキーシリンダ60に挿入されて、ドアの開錠、施錠やエンジン始動などが実行される。制御部32は、通常のコンピュータと同様の構造を有するとし、各種情報処理のためのCPUや、CPUの作業領域としての一時記憶部のRAMなどを備えるとする。制御部32によってRF送信部31、制御部32、メモリ33、ロックスイッチ35、アンロックスイッチ36が制御される。
【0043】
以上のとおり本システムは、車両のドアの開錠方法として、3つの方法を備える。第1の方法は、いわゆるスマートエントリーシステムである。この方法では、ユーザによるドアハンドルを握るドア開錠のための操作をタッチセンサ51が検出すると、車室外LF送信部40からキー3へ向けて識別信号(ID34)の返信を指令するLF波によるポーリング信号が送信される。
【0044】
例えば1回のドアハンドルの接触検出につき所定個数のポーリング信号が送信されるとする。キー3はポーリング信号を受信するとID34を含むRF波の信号をRF送信部31から返信する。ECU4は、RF受信部42で受信した信号とマスターID44とを照合して、照合成功ならば、車両のドア5を開錠する、あるいは開錠許可状態とする。
【0045】
第2の方法はいわゆるキーレスエントリーシステムである。この方法では、車外にいるユーザがキー3のアンロックスイッチ36を押下すると開錠指令信号がID34を含むかたちでRF送信部31から送信される。ECU4は、この信号をRF受信部42で受信し、さらにマスターID44との照合が成功したならば、車両のドア5を開錠(許可)状態とする。この状態でユーザがドアハンドルを握ればドアは開錠(開放)される。
【0046】
第3の方法はメカニカルキー部37によるドア開錠である。この方法では、メカニカルキー部37をキーシリンダ53に挿入して回動することによりドア5が開錠される。
【0047】
以上の構成のもとで、システム1は、車両2におけるスマートエントリーシステムにおけるリレーアタックによるドア開錠を防止する処理を実行する。その処理手順は図2に示されている。図2(及び後述の図3、図4)の処理手順は予めプログラム化して例えばメモリ43に記憶しておき、ECU4が呼び出して自動的に実行するとすればよい。図2における右側の処理は、車両2の所有者の正規のキー3による処理である。図2では、RF送信部31を図5(b)の場合としている。
【0048】
図2の処理では、まずS10でECU4は、ユーザによるドアハンドルへの接触をタッチセンサ51が検出したか否かを判定する。タッチセンサ51が接触を検出した場合(S10:YES)はS20に進み、接触を検出していない場合(S10:NO)はS10を繰り返して待ち状態となる。S20に進んだらECU4は、LF信号(ポーリング信号)を車室外LF送信部40から送信する。
【0049】
キー3は、S20で送信されたLF信号をS100でLF受信部30により受信する。そして、キー3は受信した信号がスマートエントリーシステムに関するポーリング信号であることを制御部32で解析して、S110で、RF信号の送信経路を経路31f側に切り替える。そしてECU4はS120で、キー3固有のID34を含むRF信号(識別信号)をアンテナ31cから送信する。
【0050】
続いてS30でECU4は、RF信号を受信したか否かを判定する。RF信号を受信した場合(S30:YES)はS40に進み、RF信号を受信していない場合(S30:NO)はS50に進む。
【0051】
S40に進んだらECU4は、S30で受信が確認されたRF信号とマスターID44との間で照合を行い、照合が成功したか否かを判定する。照合が成功した場合(S40:YES)はS80に進み、照合が不成功であった場合(S40:NO)はS50に進む。S80でECU4は、ロック機構50にドアの開錠を指令する。
【0052】
S50に進んだらECU4は、経過時間が所定時間を超えたか否かを判定する。ここで経過時間とはS20でLF信号を送信してからの経過時間とする。経過時間が所定時間を超えている場合(S50:YES)は図2の処理を終了し、まだ所定時間を超えていない場合(S50:NO)は再びS30に戻ってRF信号の受信を待つ。
【0053】
以上のとおり図2の処理では、車両の所有者が携帯するキー3がポーリング信号(LF信号)を受信したら、S110で経路31fに切り替えて送信する。経路31fには減衰器31c(抵抗器)が配置されている。したがって、もし車両の正規の所有者がドアを開錠しようとしている場合(つまりS10によるドアへの接触が車両2の正規の所有者による接触である場合)には、キー3は車両2の近くにあるので、経路31fの減衰率がが高くてもRF信号(識別信号)は車両2に到達する。そして照合は成功(S40:YES)となってドアは開錠される(S80)。
【0054】
一方、もしリレーアタックが行われている場合(つまりS10によるドアへの接触が盗難者による接触である場合)には、通常キー3は車両2の遠くにあるので、経路31fの減衰率が高いことによりRF信号(識別信号)は車両2に到達しない。したがって所定時間が経過してもRF信号は受信されない(S50:YES)ので、ドアは開錠されない。したがってリレーアタックによる車両ドアの開錠は抑制される。以上が図2の処理である。
【0055】
次に図3を説明する。図2がスマートエントリー(スマートキーを用いたドア開錠)におけるリレーアタック対策の処理手順であったのに対して、図2はスマートスタート(スマートキーを用いたエンジン始動)におけるリレーアタック対策の処理手順である。図3の各処理のうちで図2と同じ符号の部分は、図2と同じ処理を行う。以下で図2と異なる部分を説明する。
【0056】
図3の処理では、図2のS10がS15に置き換えられる。S15でECU4は、エンジンスタートスイッチ61に対するユーザによるオン操作が行われたか否かを判定する。エンジンスタートスイッチ61に対するオン操作が行われた場合(S15:YES)はS20へ進み、エンジンスタートスイッチ61に対するオン操作が行われていない場合(S15:NO)はS10を繰り返してオン操作を待つ。また図3では、図2のS80がS85に置き換えられる。S85でECU4は、エンジンを始動する。
【0057】
図3の処理においても、図2と同様の原理が働いて、リレーアタックによるエンジン始動は抑制される。すなわちもし車両の正規の所有者がエンジンを始動しようとしている場合(つまりS15によるエンジンスタートスイッチのオン操作が車両2の正規の所有者による操作である場合)には、キー3は車両2の車室内にあるので、経路31fの減衰率が高くてもRF信号(識別信号)はRF受信部42に到達する。そして照合は成功(S40:YES)となってエンジンは始動される(S85)。
【0058】
一方、もしリレーアタックが行われている場合(つまりS15によるエンジンスタートスイッチのオン操作が盗難者による操作である場合)には、キー3は車両2の遠くにあるので、経路31fの減衰率が高いことによりRF信号(識別信号)はRF受信部42に到達しない。したがって所定時間が経過してもRF信号は受信されない(S50:YES)ので、エンジンは始動しない。したがってリレーアタックによるエンジンの始動は抑制される。以上が図3の処理である。
【0059】
次に図4を説明する。図2、3がスマートキーシステムに関する処理であったのに対して、図4はリモートキーレスエントリーシステム(RKE)に関する処理である。RKEでは、ユーザがロックスイッチ35、アンロックスイッチ36を押下することにより、ドアが施錠、開錠される。
【0060】
具体的に図4の処理ではまずS200で、ユーザがキー3に備えられたアンロックボタン36を押下したことを制御部32が検出したか否かを判断する。アンロックボタン36を押下したことが検出された場合(S200:YES)は、S210に進み、アンロックボタン36の押下が検出されない場合(S200:NO)はS200を繰り返して待ち状態とする。
【0061】
S210に進んだらキー3は、RF送信信号の送信経路を経路31g側に切り替える。そしてS220で制御部32は、アンロックボタンが押下された情報を含むRF信号(アンロック信号)をRF送信部31から送信する。アンロック信号にはID34の情報を含ませるとする。
【0062】
ECU4ではS230で、RF受信部42がアンロック信号を受信したか否かを判定する。アンロック信号を受信した場合(S230:YES)はS240に進み、アンロック信号を受信していない場合(S230:NO)はS230を繰り返してアンロック信号の待ち状態とする。
【0063】
S240に進んだらECU4は、受信したアンロック信号に含まれるID34とマスターID44とを照合する。照合が成功した場合(S240:YES)はS250に進み、照合が不成功の場合(S240:NO)はS230に戻ってアンロック信号の待ち状態となる。S250に進んだらECU4は、正規のキー3からのアンロック信号を受信したので、車両2のドア5を開錠する。
【0064】
以上のとおり図4の処理では、ユーザによるアンロックボタンの押下を検知したらRF信号送信の送信経路を経路31gに切り替える。経路31gは減衰器31cが配置されておらず低減衰率である。したがってユーザが車両から離れた場所にいても、アンロック信号は車両2まで届いてドアを開錠することができる。
【0065】
図2、3、4より本発明では、スマートエントリーシステムにおける識別信号(ID34)の送信の場合は減衰率の高い経路31fに切り替えてリレーアタックによる車両盗難を抑制し、リモートキーレスエントリーシステム(RKE)におけるアンロック信号の送信の場合には、減衰率の低い経路31gに切り替えて遠くからでもドアの開錠ができるようにする。したがって本発明ではリレーアタック対策によってRKEの利便性が低下することがない。
【0066】
なお図2、3、4では図5(b)の場合を示したが、図5(a)の場合はあきらかに、S110では、可変減衰器31cの減衰率を所定の高減衰率に調節し、S210では、可変減衰器31cの減衰率を所定の低減衰率に調節すればよい。
【0067】
上記説明での高減衰率とは、車両のドアハンドルに接触する位置にいる使用者に所持されたキー3から送信された識別信号がRF受信部42によって受信可能な減衰率であるように設定すればよい。また低減衰率とは、車両のドアハンドルに接触する位置よりも車両から(所定距離)離れた位置にいる使用者に所持されたキー3から送信されたアンロック信号がRF受信部42によって受信可能な減衰率であるように設定すればよい。
【符号の説明】
【0068】
1 制御システム
2 車両
3 キー(携帯機)
4 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が携帯可能であり、無線通信機能を有する第1通信部と、車両のドアの開錠を指令する使用者からの指令入力を受け付ける入力手段と、を備えた携帯機と、
車両に備えられて、前記第1通信部との無線通信機能を有する第2通信部と、
前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のドアを開錠する第1開錠手段と、
前記入力手段が前記指令入力を受け付けたことを示す開錠指令信号が第1通信部から送信され、その開錠指令信号が第2通信部により受信されたら車両のドアを開錠する第2開錠手段と、を備え、
前記第1通信部は、前記識別信号の送信時と前記開錠指令信号の送信時とで送信する信号を異なる減衰率で減衰させる減衰手段を備えたことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記減衰手段は、前記識別信号の送信時の方が前記開錠指令信号の送信時より減衰率を大きくする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記識別信号及び開錠指令信号の送信経路が、高減衰率の第1経路と低減衰率の第2経路とに分岐されており、
前記減衰手段は、前記識別信号の送信の場合は前記第1経路に、前記開錠指令信号の送信の場合は前記第2経路に切り替える切替手段を備えた請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
前記減衰手段によって調節される前記識別信号の送信時の信号の減衰率は、車両のドアハンドルに接触する位置にいる使用者に所持された前記携帯機から送信された前記識別信号が前記第2通信部によって受信可能な減衰率である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項5】
前記減衰手段によって調節される前記開錠指令信号の送信時の信号の減衰率は、車両のドアハンドルに接触する位置よりも車両から離れた位置にいる使用者に所持された前記携帯機から送信された前記開錠指令信号が前記第2通信部によって受信可能な減衰率である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−51421(P2012−51421A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193813(P2010−193813)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】