説明

制御弁式鉛蓄電池の製造方法

【課題】極柱とブッシングとの十分なTIG溶接が可能となる制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】蓋5にインサートされているブッシング10と極柱9との嵌合部を、アース棒24を軸とし、コンパスで円を描くように電極棒22を回転させながらTIG溶接をして制御弁式鉛蓄電池の製造する。ここで、ブッシング10の上部には、複数の凸部と凹部とを形成し、凸部の高さを凹部に対して約5mm高くする。そして、トーチ21の先端の電極棒22が凸部の上方に来た場合には、アーク23は凸部に照射され、電極棒22が凹部の上方に来た場合には、アーク23は極柱9に照射されるようにしてブッシング10と極柱9との嵌合部を溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来から使用されている一般的な制御弁式鉛蓄電池の構造を示している切欠き断面斜視図である。すなわち、正極板1や負極板2などの発電素子がセパレータ3を介して積層されており、それぞれ正極板1や負極板2の耳部8が、極柱9を有するストラップ6に溶接されて極板群を形成する。
【0003】
次に、極板群を電槽4に収納した後に、図示されていないブッシング10がインサート成形されている蓋5を被せる(図3)。なお、電槽4や蓋5には熱可塑性の樹脂、例えば、ポリプロピレン樹脂が用いられている。そして、極板群の上部の極柱9を、略円筒形状をしたブッシング10の中央の穴部を貫通するように嵌合させ、電槽4と蓋5との対向部分を接合、例えば、熱溶着をして一体化する。
【0004】
ここで、蓋5のブッシング10と極柱9との嵌合部を、図5に示されるようなアース棒24が装着され、トーチ21が固定されているスプリング内臓軸受け27を有するTIG溶接装置を用いて、アース棒24を軸として、コンパスで円を描くようにトーチ21の先端の電極棒22を回転させながら溶接する手法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
鉛合金製の極柱9の上方には、外部負荷に接続をするための端子7が埋め込まれており、その中央にはネジ部15が切られている(図5)。そして、端子7の部分に図示されていない圧着端子などの付いたリード線を、ボルトなどを用いて締め付けることによって固定している。
【0006】
【特許文献1】特願2003−426087号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したTIG溶接装置を用い、アース棒24を軸として電極棒22を回転させながら溶接する手法では、電極棒22からのアーク23が、極柱9とブッシング10との嵌合部分から外れて、極柱9の部分のみに照射される場合や、ブッシング10の部分のみに照射される場合があった。その結果、極柱9とブッシング10との十分な溶接ができない場合や、ブッシング10の部分から溶解した鉛合金が蓋5の部分にはみ出すという問題点があった。
【0008】
本発明の目的は、極柱9とブッシング10との間で、十分な溶接が可能となる制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明に係わる請求項1の発明は、蓋にインサートされているブッシングと、極柱との嵌合部を、アース棒を軸とし、コンパスで円を描くようにトーチの先端の電極棒を回転させながらTIG溶接をして製造する制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、
前記ブッシングの上部には、複数の凸部と凹部とが形成されており、
前記電極棒が前記凸部の上方に来た場合には、アークは該凸部に照射され、
前記電極棒が前記凹部の上方に来た場合には、アークは前記極柱に照射されるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記凸部の高さを前記凹部に対して、2mm〜10mm高くすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、極柱9とブッシング10との間で、十分なTIG溶接ができるとともに、溶接時において、溶解した鉛等が蓋5の部分にはみ出すことがなく、信頼性の高い制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明の実施をするための最良の形態について、図1〜5を用いて詳細に説明をする。なお、以下において、2V−1000Ah(ただし、20時間率放電容量)の制御弁式鉛蓄電池を製造する場合について具体的に説明する。
【0013】
1.蓋の作製
図示されていないブッシング10がインサート成型されており、ポリプロピレン樹脂を材料とする従来から使用されている蓋5を用いて以下の検討をした(図3〜5)。本発明に係わるブッシング10は鉛合金製であり、略円筒形状をしており、上部には凹凸部12を有し、その外側面部分には多数の環状突部11を有している(図1)。一方、従来から使用されているブッシング10は、図2に示すように、上部には凹凸部12を有しないものである。なお、使用したブッシング10は鉛合金製であり、鋳造によって製造がされている。
【0014】
2.制御弁式鉛蓄電池
図4は、従来から使用されている一般的な制御弁式鉛蓄電池の構造を示す切欠き断面斜視図である。すなわち、正極板1や負極板2などの発電素子がセパレータ3を介して積層されており、正極板1や負極板2の耳部18が鉛合金製の極柱9を有するストラップ6に溶接されて極板群を形成する。
【0015】
次に、図3に示すように、極柱9を有する極板群を電槽4に収納した後に、図示されていないブッシング10がインサート成形されている蓋5を極柱9の上方から被せる。すなわち、極板群の極柱9は、略円筒形状をしたブッシング10の中央の穴部を貫通するように嵌合させ、電槽4と蓋5との対向部分を接合、例えば、熱溶着をして一体化する。
【0016】
ここで、極柱9の上方には、外部の負荷に接続をするための端子7が埋め込まれており、その中央部分にはネジ部15を有し、雌ネジが切られている。そして、端子7に、図示されていない圧着端子などの付いたリード線をボルトなどを用いて締め付けることによって、圧着端子がこの部分に固定される。
【0017】
3.TIG溶接
蓋5にインサートされているブッシング10と極柱9の嵌合部とを、上述した特許文献1の方法で、すなわち、アース棒24を軸とし、コンパスで円を描くように電極棒22を回転させながらTIG溶接をした。ここで、TIG溶接される極柱9の先端部分の直径は約35mmであり、ブッシング10の内径は約57mmである。
【0018】
図1に示す本発明に係わるブッシング10は、その上部には凹凸部12を有している。すなわち、ブッシング10の上部には、複数の凸部13と凹部14が形成されている。
そして、これらの凸部13と凹部14によって、トーチ21の先端の電極棒22とブッシング10との距離を変えることができる。ここで、凸部13の高さを凹部13に対して、約5mm高くなるようにした。
【0019】
したがって、トーチ21の先端の電極棒22がブッシング10の凸部13の上方に来た場合には、アーク23は主にブッシング10の凸部13に照射されるようにした。一方、トーチ21の先端の電極棒22がブッシング10の凹部13に上方に来た場合には、アーク23は主に極柱9に照射されることになる。
【0020】
すなわち、トーチ21の先端の電極棒22とブッシング10との距離を変えることによって、アーク23がブッシング10と極柱9とを交互に当てることができるようにした。ここで、凸部13の高さを凹部13に対して、2mm〜10mm程度高くすると、ブッシング10と極柱9とを、交互にアーク23を当てながら溶接をすることができる。加えて、極柱9とブッシング10との間で十分な溶接ができるとともに、ブッシング10から溶解した鉛等が蓋5の部分にはみ出すこともない。したがって、信頼性の高い制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、TIG溶接装置を用いて、アース棒を軸としてコンパスで円を描くように回転させながら、極柱とブッシングとの嵌合部分にアークを照射して溶接する制御弁式鉛蓄電池の製造方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わるブッシングの概略図である。
【図2】従来のブッシングの概略図である。
【図3】電槽に蓋を被せて溶着する工程の概略図である。
【図4】制御弁式鉛蓄電池の切欠き断面斜視図である。
【図5】本発明に係わる溶接方法を示す要部概略図である。
【符号の説明】
【0023】
1:正極板、2:負極板、3:セパレータ、4:電槽、5:蓋、6:ストラップ、
7:端子、8:安全弁部、9:極柱、10:ブッシング、11:環状突部、12:凹凸部、
13:凸部、14:凹部、15:ネジ部、18:耳部、21:トーチ、22:電極棒、
23:アーク、24:アース棒、26:固定アーム、27:スプリング内臓軸受け、
28:スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋にインサートされているブッシングと、極柱との嵌合部を、アース棒を軸とし、コンパスで円を描くようにトーチの先端の電極棒を回転させながらTIG溶接をして製造する制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、
前記ブッシングの上部には、複数の凸部と凹部とが形成されており、
前記電極棒が前記凸部の上方に来た場合には、アークは該凸部に照射され、
前記電極棒が前記凹部の上方に来た場合には、アークは前記極柱に照射されるようにしたことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記凸部の高さを前記凹部に対して、2mm〜10mm高くすることを特徴とする請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−185761(P2006−185761A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378472(P2004−378472)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】