説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】極板群を収容した電槽の側壁の内側への反りを確実に矯正し、電槽と蓋との安定良好な溶着を行うことができる制御弁式鉛蓄電池を提供すること。
【解決手段】電槽11内に収容される極板群21と、この極板群21上に配置されて電槽11の側壁のうち、極板群21の積層方向に沿って延びると共に対向する両側壁12,12間に差し渡される矯正板40とを備え、電槽11に蓋13が熱溶着された制御弁式鉛蓄電池10において、矯正板40は、側壁12の一方が内側に反りを生じ、矯正板40が撓む場合、この反りに伴って当該矯正板40の略中央部40Aが側壁12に当接する端部40Bよりも下方に撓むように、上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極板群を収容した電槽と蓋とを熱溶着(ヒートシール)により密閉する制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、正極板と負極板とをセパレータを介し交互に積層して成る極板群を電槽内に収容し、この電槽の開口縁に蓋を熱溶着した制御弁式鉛蓄電池が知られている。この種の鉛蓄電池では、極板群に含浸した電解液を極板群内に均一に分布させると共に、負極で酸素を吸収することにより、長期に亘るメンテナンスフリー化を実現することができ、情報通信機器や無停電電源装置等の非常時バックアップ電源に広く実用化されている。
制御弁式鉛蓄電池の性能の向上を図るには、極板群を電槽内に適度な圧縮状態で収容することが効果的であるとされている。しかし、極板群を電槽内に適度な圧縮状態で収容すると、電槽の側壁のうち、極板群の積層方向と略平行に延びる側壁は、極板群の圧迫を受けないことにより、当該側壁が内側に反る現象がしばしば発生する。このため、電槽と蓋との接合面同士にずれが生じ、このずれが大きいと接合不良を起こして気密不良を起こす問題があった。特に、底面と比較して支持部材のない両側壁の開口縁に近い上端部の反りが大きい。また、製造時に接合不良とならなくても、接合不足の部分が長期間使用された場合にひび割れが発生し、気密不良となる可能性があった。
この問題を解決するために、出願人は、上記電槽の両側壁の開口縁に近い上端部の内面間の寸法に一致する、或いは、少し短い寸法の長さを有する矯正板を正極ストラップ及び負極ストラップの上面に架設すると共に、当該矯正板の両端を両側壁の上端部の内面に当接させることにより、側壁の内側への反りを矯正する制御弁式鉛蓄電池を提案している(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、上記した矯正板は、導電性及び電解液との反応性の小さい樹脂材で形成されており、電槽の側壁が内側に反った場合、当該矯正板は、この反りに伴い中央部が上方もしくは下方に撓み、その復元力によって側壁の反りを矯正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−71663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電槽と蓋とを熱溶着する際には、電槽の上方から開口縁に熱せられた熱板(プラテン)を接触させ、この開口縁の樹脂材を溶かして行う。また、電槽の側壁のうち、極板群の積層方向と略平行に延びる側壁が内側に反った場合、矯正板は特定の方向に撓むわけではないため、例えば、当該矯正板の中央部が上方に撓んだ場合には、この中央部が熱板に接近することにより、熱板の熱で軟化されて矯正板の復元力が低下する。このため、矯正板は本来の矯正作用を失うことにより、両側壁の矯正を確実に行うことができないという問題が判明した。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、極板群を収容した電槽の側壁の内側への反りを確実に矯正し、電槽と蓋との安定良好な溶着を行うことができる制御弁式鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、電槽内に収容される極板群と、この極板群上に配置されて前記電槽の側壁のうち、極板群の積層方向に沿って延びると共に対向する両側壁間に差し渡される矯正板とを備え、前記電槽に蓋が熱溶着された制御弁式鉛蓄電池において、前記矯正板は、前記側壁が内側に反りを生じ、前記矯正板が撓む場合、この反りに伴って当該矯正板の略中央部が前記側壁に当接する端部よりも下方に撓むように、上面側の剛性を下面側よりも小さく形成したことを特徴とする。
【0006】
この構成において、前記矯正板は、前記上面がリブを形成しない平坦面とし、前記下面にのみに一の側壁から他の側壁に向かって長手方向に延びる複数のリブを形成しても良い。
【0007】
また、前記矯正板は、前記上面及び前記下面にそれぞれ、一の側壁から他の側壁に向かって延びる複数のリブを備え、前記下面側のリブは、前記上面側のリブよりも幅広に形成されても良い。さらに、前記上面側のリブ間の溝は、前記下面側のリブ間の溝よりも幅広に形成されていても良い。また、前記上面及び下面に、それぞれ同数のリブを形成しても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、矯正板は上面側の剛性を下面側よりも小さく形成しているため、極板群の積層方向に沿って延びる電槽の側壁が内側に反った場合、当該矯正板は、略中央部が側壁に当接する端部よりも下方に撓むことにより、この略中央部が熱板に接近して、矯正板の復元力が低下することを防止できる。従って、極板群を収容した電槽の側壁の内側への反りを確実に矯正し、電槽と蓋との安定良好な溶着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池における電槽に蓋を設けて密閉する前の状態を示す上面図である。
【図2】図1のA−A線で裁断した部分縦断面図である。
【図3】Aは矯正板の上面図、Bは矯正板の側面図、Cは矯正板の正面図、DはCの部分拡大図である。
【図4】矯正板が撓んだ状態を示す図2相当の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る制御弁式鉛蓄電池について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態である制御弁式鉛蓄電池における電槽に蓋を設けて密閉する前の状態を示す上面図であり、図2は図1のA−A線で裁断した部分縦断面図である。
制御弁式鉛蓄電池10は、図1及び図2に示すように、上面が開口した中空の直方体形状の電槽11と、この電槽11内に収容される極板群21と、当該電槽11の開口縁11Aに熱溶着される蓋(図2参照)13とを備える。電槽11及び蓋13は、例えば、ポリプロピレンやABS樹脂等の合成樹脂材料を用いて射出成型されている。
極板群21は、複数の正極板22と複数の負極板23とを備え、これら正極板22と負極板23とをセパレータ24を介して交互に積層して形成される。その積層方向は図1の上下方向である。正極板22は、それぞれ正極板22の一側(図2において左側)に突出する耳部22aを備え、これら耳部22a,22a・・は、上記積層方向に延びる正極ストラップ25により連結されている。また、負極板23は、それぞれ負極板23の一側(図2において右側)に突出する耳部23aを備え、これら耳部23a,23a・・は、上記積層方向に延びる負極ストラップ26により連結されている。
正極ストラップ25及び負極ストラップ26には、それぞれ正極柱27及び負極柱28が設けられている。
【0011】
本実施形態では、正極板22、負極板23及びセパレータ24が積層された極板群21は、直方体形状の電槽11内に積層方向(極板の厚み方向)に適度に圧縮した状態で収容されている。この場合、極板群21の積層方向と略平行に延びる電槽11の長手側の両側壁12,12は、極板群21の圧力を受けないため、内側に反る現象がしばしば発生する。特に、側壁12,12の上端部は、底面のある下端部と比較して支持部材がないため、より反りが大きい。
このため、電槽11内には、図2に示すように、正極ストラップ25及び負極ストラップ26の上面に載置され、極板群21の積層方向に沿って延びると共に対向する両側壁12,12間に差し渡される矯正板40が設けられている。なお、図1では、矯正板40の上面側のリブは省略してある。
この矯正板40は、両側壁12,12間の内寸に一致、或いは、少し短い寸法の長さを有し、導電性及び電解液との反応性の小さい合成樹脂材料(例えば、ポリプロピレンやABS樹脂)により形成されている。また、矯正板40は、正極柱27と負極柱28との間であって、上記側壁12の幅方向略中央に配置されている。この場合、矯正板40は、図1に示すように、比較的幅広に形成すると、当該矯正板40を防沫板兼用とすることができ、部材数を増やさず多機能を有する構成とできるため、コスト的にも有利である。
【0012】
このように、電槽11内に、対向する両側壁12,12間の内寸に一致、或いは、少し短い寸法の長さを有する矯正板を設けた構成では、電槽11の側壁12が内側に反った場合、矯正板は当該反りに伴い撓むため、その復元力によって側壁12の反りを矯正することができる。
ところで、電槽11と蓋13とを熱溶着する際には、電槽11の上方から開口縁11Aに熱せられた熱板(不図示)を接触させ、この開口縁11Aの合成樹脂材料を溶かして行う。この場合、矯正板を単純な構成とすると、電槽11の側壁12が内側に反った場合、矯正板は特定の方向に撓むわけではないため、例えば、当該矯正板の中央部が上方に撓んだ場合には、この中央部が熱板に接近することにより、熱板の熱で軟化されて矯正板の復元力が低下する。このため、矯正板は本来の矯正作用を失うことにより、両側壁12,12の矯正を確実に行うことができないという問題が生じうる。
本構成では、電槽11の側壁12の内側への反りを確実に矯正するために、矯正板40は、上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成している。
【0013】
次に、矯正板40について説明する。
図3Aは、矯正板40の上面図、図3Bは矯正板40の側面図、図3Cは矯正板40の正面図、図3Dは図3Cの部分拡大図である。
矯正板40は、図3A,図3Cに示すように、上面41及び下面42にそれぞれ、長手方向に延びる複数の上面側リブ41A及び複数の下面側リブ42Aを備え、これら上面側リブ41A,41A間及び下面側リブ42A,42A間には、それぞれ複数の上面側溝41B及び複数の下面側溝42Bが形成されている。上面側リブ41A及び下面側リブ42Aは、矯正板40の剛性を高めるものであり、この矯正板40の厚みを薄く形成することができる。
本実施形態では、上面側リブ41Aと下面側リブ42Aとは同数に設定され、図3Dに示すように、下面側リブ42Aの幅W2は、上面側リブ41Aの幅W1よりも幅広に形成され、さらに、上面側溝41Bの幅L1は、下面側溝42Bの幅L2よりも幅広に形成されている。
これによれば、矯正板40は、上面41側の剛性を下面側の剛性よりも小さく形成されるため、図4に示すように、電槽11の側壁12が内側に反った場合、矯正板40は、略中央部40Aが側壁12に当接する端部40Bよりも下方に撓むことにより、この略中央部40Aが熱板に接近して、矯正板40の復元力が低下することを防止できる。従って、極板群21を収容した電槽11の側壁12の内側への反りを確実に矯正することができるため、電槽11と蓋13との安定良好な溶着を行うことができる。
【0014】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、電槽11内に収容される極板群21と、この極板群21上に配置されて電槽11の対向する両側壁12,12間に差し渡される矯正板40とを備え、電槽11に蓋13が熱溶着された制御弁式鉛蓄電池10において、矯正板40は、上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成したため、側壁12が内側に反りを生じた場合、この反りに伴って当該矯正板40の略中央部40Aが側壁12に当接する端部40Bよりも下方に撓むことにより、この略中央部40Aが熱板に接近して、矯正板40の復元力が低下することを防止できる。従って、極板群21を収容した電槽11の側壁12の内側への反りを確実に矯正することができるため、電槽11と蓋13との安定良好な溶着を行うことができる。
【0015】
また、本実施形態では、矯正板40の上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成した例として、両面にリブを形成した例を示したが、上面41側を、上面側リブ41Aを形成しない平坦面として、下面42側にのみ下面側リブ42Aを形成しても良い。なお、この実施形態は図示しないが、図3A,図3C,図3Dにおいて、上面側溝41Bをなくして、上面側リブ41Aと同じ高さの平坦面としたものである。
【0016】
また、本実施形態によれば、矯正板40は、上面41及び下面42にそれぞれ、電槽11の一の側壁12から他の側壁12に向かって延びる複数の上面側リブ41A及び下面側リブ42Aを備え、下面側リブ42Aは、上面側リブ41Aよりも幅広に形成されているため、簡単な構成で、矯正板40の上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成することができる。
【0017】
さらに、本実施形態によれば、上面側リブ41A,41A間に形成される上面側溝41Bは、下面側リブ42A,42A間に形成される下面側溝42Bよりも幅広に形成されているため、簡単な構成で、矯正板40の上面41側の剛性を下面42側よりも小さく形成することができる。
【0018】
また、本実施形態によれば、矯正板40の上面41及び下面42に、それぞれ同数の上面側リブ41A及び下面側リブ42Aを形成したため、上面41側の剛性が下面42側よりも小さい矯正板40を簡単に形成することができる。
【0019】
なお、上記した実施形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、上面側リブ41Aと、下面側リブ42Aとを同数に形成しているが、上面41側の剛性が下面42側よりも小さくなれば、当該リブの数を異ならせても良いことは勿論である。
また、本実施形態では、矯正板40は、上面41及び下面42にそれぞれ幅の異なる上面側リブ41A及び下面側リブ42Aを形成した構成としたが、例えば、剛性の異なる2枚の板材を貼り合わせる等接合して、上面側の剛性が下面側よりも小さく形成しても良い。
また、本実施形態では、電槽11内に極板群21を収容し、正極ストラップ25及び負極ストラップ26にそれぞれ正極柱27及び負極柱28を設けて成る1つのセルから成る制御弁式鉛蓄電池10について説明したが、電槽11内に1つの仕切壁により形成した複数のセル室内にそれぞれ極板群を収容して成るモノブロックタイプの制御弁式鉛蓄電池にも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0020】
10 制御弁式鉛蓄電池
11 電槽
11A 開口縁
12 側壁
13 蓋
21 極板群
22 正極板
23 負極板
24 セパレータ
25 正極ストラップ
26 負極ストラップ
40 矯正板
40A 略中央部
40B 端部
41 上面
41A 上面側リブ(リブ)
41B 上面側溝(溝)
42 下面
42A 下面側リブ(リブ)
42B 下面側溝(溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽内に収容される極板群と、この極板群上に配置されて前記電槽の側壁のうち、極板群の積層方向に沿って延びると共に対向する両側壁間に差し渡される矯正板とを備え、前記電槽に蓋が熱溶着された制御弁式鉛蓄電池において、
前記矯正板は、前記側壁が内側に反りを生じ、前記矯正板が撓む場合、この反りに伴って当該矯正板の略中央部が前記側壁に当接する端部よりも下方に撓むように、上面側の剛性を下面側よりも小さく形成したことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記矯正板は、前記上面がリブを形成しない平坦面とし、前記下面にのみに一の側壁から他の側壁に向かって長手方向に延びる複数のリブを形成したことを特徴とする請求項1に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記矯正板は、前記上面及び前記下面にそれぞれ、一の側壁から他の側壁に向かって延びる複数のリブを備え、前記下面側のリブは、前記上面側のリブよりも幅広に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項4】
前記上面側のリブ間の溝は、前記下面側のリブ間の溝よりも幅広に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項5】
前記上面及び下面に、それぞれ同数のリブを形成したことを特徴とする請求項3または4に記載の制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69619(P2013−69619A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208856(P2011−208856)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】