説明

制御放出組成物

【課題】植物の保存に有効な揮発性成分を徐々に放出する組成物及び保存方法を提供する。
【解決手段】(a)(i)1種以上の固体疎水性物質と、(ii)1種以上の固体親水性物質とを含む溶融可能な固体マトリックス、並びに(b)前記マトリックス中に分布した、分子封入剤に封入された揮発性シクロプロペン化合物の封入複合体の1種以上を含む組成物。植物または植物の部分及び前記組成物を容器内に配置し、1日以上とどまらせることを含む、植物または植物の部分を処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
揮発性化合物の取り扱いは様々な問題を生じさせる。揮発性化合物の取り扱いをより容易にする1つの方法は、分子封入剤が揮発性化合物の分子を封入している分子封入複合体を形成することである。ある場合には、分子封入複合体は粉体の形態であり、この粉体は場合によっては他の材料の他の固体粒子とブレンドされることができ、ブレンドされた粉体を形成することができる。この粉体は、一般的に、純粋な揮発性化合物よりも貯蔵し、輸送しおよび/または使用するのが容易である。
【0002】
この粉体中に含まれる揮発性化合物を使用することが望まれる場合には、一般的な方法の1つはこの粉体を放出化合物と接触させることを伴い、この放出化合物は封入複合体と接触する際に、分子封入複合体から揮発性化合物の放出を促進しもしくは引き起こす化合物である。いくつかの有用な分子封入複合体のためには、水が放出化合物である。
【0003】
しかし、粉体として分子封入複合体を提供することは、揮発性化合物の使用に関連する全ての課題を解決するわけではない。例えば、この粉体から揮発性化合物を放出させるために放出化合物を使用する場合には、この粉体と放出化合物との間の接触が緊密ではない場合があり、そして揮発性化合物の放出は不完全もしくは望ましくなく遅いか、またはこれら両方である場合がある。これらの場合には、揮発性化合物の放出を増強させる何らかの手立て、例えば、揮発性化合物を放出させるために望ましくない長時間待つこと;何らかの機械的補助(例えば、振とう、攪拌、ガスを水に強制的に送り込んで泡を作り出すことなど)を提供すること;または水との接触の際に発泡作用を引き起こす添加剤をこの粉体に提供することなどの手立てを取る必要がある場合がある。米国特許第6,426,319号は、水吸収剤材料と混合された、分子封入剤とシクロプロペン化合物との分子封入複合体を含む組成物を記載する。
【0004】
多くの状況においては、揮発性化合物を含む組成物が放出化合物に曝される場合に、揮発性化合物が徐々に放出されることが望まれる。しかし、米国特許第6,426,319号のもののような組成物は一般的には、水蒸気に曝される際に、シクロプロペン化合物を比較的素早く放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,426,319号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分子封入複合体において有用な揮発性化合物を含み、かつ液体の水もしくは水蒸気に曝される際に望ましく徐々にその有用な揮発性化合物を放出する組成物を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下が本発明の提示である。
本発明の第1の形態は(a)(i)1種以上の固体疎水性物質と、(ii)1種以上の固体親水性物質とを含む溶融可能な(meltable)固体マトリックス、並びに(b)前記マトリックス中に分布した、分子封入剤に封入された揮発性シクロプロペン化合物の封入複合体の1種以上を含む組成物である。
【0008】
本発明の別の形態は、植物または植物の部分および第1の形態の組成物を容器内に配置し、並びに前記植物または植物の部分および請求項1の前記組成物を一緒に前記容器内に1日以上とどまらせることを含む、植物または植物の部分を処理する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下が本発明の詳細な説明である。
本明細書において使用される場合、文脈が他に明確に示さない限りは、以下の用語は指定された定義を有する。
【0010】
本明細書において使用される場合、「炭化水素」とは、その原子が1以上の炭素原子、1以上の水素原子を含むが他の原子を含まない化学基または化合物をいう。
【0011】
本明細書において使用される場合、「マトリックス」とは、固体であってかつ連続性を有する材料である。マトリックスを含む組成物の巨視的(macroscopic)サンプルにおいては、マトリックスは連続三次元体を形成するであろう。マトリックスはそのサンプルの表面全体に接続していることができ、それがそのサンプルの表面全体に接続していない場合には、それはそのサンプルの表面上の複数の場所に接続しているであろう。サンプルの全表面積の少なくとも50%はマトリックスに接続しているであろう。マトリックスは純粋な材料であってよく、または2種以上の材料の混合物であってよい。
【0012】
巨視的サンプルは少なくとも1立方センチメートルの体積を有しかつ3mm以上の最短軸を有する物体である。軸はその物体の質量中心を通り、かつその物体の表面上に存在する端点を有する線セグメントである。
【0013】
マトリックスが混合物である場合には、混合物中の成分は溶液もしくは分散物またはこの組み合わせを形成していてよい。溶液においては、成分は互いに混和性であり、すなわち、それらは互いに溶解されうる(すなわち、分子レベルで緊密に混合されている)。分散物においては、1つの成分(または、成分の溶液)が連続相として存在し、かつ1以上の他の成分が、連続相全体にわたって分布した小粒子(直径1ミリメートル以下)として存在する。
【0014】
粒子(粉体であるか、またはマトリックス中に分散されているかに関わらず)はその直径によって特徴付けられる。粒子が球状でない場合には、その粒子の直径は本明細書においては、粒子として同じ体積を有する球体の直径であると見なされる。
【0015】
本明細書において使用される場合、材料が少なくとも0℃〜40℃を含む温度の範囲にわたって固体状態にある場合には、材料は固体であると称される。固体には、例えば、結晶質固体、非晶質ガラス状固体、ワックス状固体、およびゴム状固体が挙げられる。固体の巨視的サンプルはそれ自体の重量の下で感知できるほどには変形しないであろう。25℃で7日間平坦面上に配置されている、1cm×1cm×1cmサイズの固体材料の立方体は、その高さの少なくとも95%を維持するであろう。
【0016】
本明細書において使用される場合、材料が本明細書において上で定義される固体であり、かつ材料が40℃より高く120℃より低い融点もしくは軟化点も有する場合には、材料は溶融可能な固体であると称される。軟化点は、その温度を超えると材料が液体であるか、または液体でなくても、例えば、攪拌機、押出機またはニーダーなどの機械装置を用いてブレンドされるまたはパルプ状に粉砕される(masticated)のに充分柔らかい温度である。
【0017】
本明細書においては、化合物が1気圧で100℃以下の沸点を有する場合には、化合物は揮発性であると称される。
【0018】
本明細書において使用される場合、疎水性物質は以下の疎水性基準の1以上を満たす物質である。第1の疎水性基準は水接触角である。物質の清浄な表面が水滴との90°以上の接触角を有する場合には、その物質は疎水性である。この接触角は試験D7334−08(ASTMインターナショナル、ウェストコンショッケン(West Conshohocken)ペンシルベニア州、米国)によって測定される。
【0019】
第2の疎水性基準は組成である。物質が純然たる疎水性物質であるかまたは物質が疎水性混合物である場合には、その物質は疎水性である。疎水性混合物は1種以上の純然たる疎水性物質を含み、その混合物中の純然たる疎水性物質の全ての量は、混合物の重量を基準にして75重量%以上である。ある物質の分子が1以上の脂肪基を有する場合およびその物質が25℃で水の重量を基準にして1重量%未満の水中溶解度を有する場合には、その物質は純然たる疎水性物質である。脂肪基は以下のものの1つである:(1)8個以上の炭素原子を有し、水素原子と炭素原子だけを有し、線状、分岐、環式またはその組み合わせである脂肪族基;(2)1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換えられているカテゴリー(1)の化学基;または(3)シリコーン基。シリコーン基は5個以上のシロキサン基の線状鎖を含む基である。シロキサン基は以下の構造(I)を有する:
【化1】

式中、各Rは全ての他のRから独立して、水素、6個以下の炭素原子を有する炭化水素基、または他のシロキサン基である。
【0020】
第3の疎水性基準は水吸収性である。疎水性物質が100%相対湿度の空気と25℃で平衡状態にある場合には、吸収された水の重量を親水性物質の乾燥重量で割った商が0.0001以下であるような量でこの疎水性物質はこの空気から水を吸収するであろう。
【0021】
第4の疎水性基準は水蒸気透過速度である。40マイクロメートルの厚さの疎水性材料の膜が37.8℃および90%相対湿度で試験される場合には、その水蒸気透過速度は1日あたりで膜の平方メートルあたり25グラム未満の水蒸気である。
【0022】
第5の疎水性基準は以下の通りである:エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマーであるポリマーは、そのコポリマー中の酢酸ビニルの量がコポリマーの重量を基準にして20重量%未満である場合には、疎水性である。
【0023】
本明細書において使用される場合、親水性物質は以下の親水性基準の一方または両方を満たす物質である。第1の親水性基準は水吸収性であり:親水性物質が100%相対湿度の空気と25℃で平衡状態にある場合には、吸収された水の重量を親水性物質の乾燥重量で割った商が0.001以上であるような量でこの親水性物質はその空気から水を吸収するであろう。
【0024】
第2の親水性基準は水蒸気透過速度である。40マイクロメートルの厚さの親水性材料の膜が37.8℃および90%相対湿度で試験される場合には、その水蒸気透過速度は1日あたりで膜の平方メートルあたり50グラムを超える水蒸気である。
【0025】
第3の親水性基準は以下の通りである:エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマーであるポリマーは、そのコポリマー中の酢酸ビニルの量がコポリマーの重量を基準にして20重量%以上である場合には、親水性である。
【0026】
本明細書において使用される場合、保湿剤は、25℃で100%相対湿度の空気と接触して配置される場合に、その空気から水を吸収しうる物質である。保湿剤が25℃で100%相対湿度の空気と平衡に到達する場合には、その保湿剤によって吸収された水の重量をその保湿剤の乾燥重量で割った商は0.1以上である。いくつかの保湿剤は潮解性物質である。潮解性物質は、25℃で100%相対湿度を有する空気と平衡状態で、その潮解性物質の水中液体溶液を形成するのに充分な水をその空気から吸収しうる。
【0027】
本明細書において使用される場合、水吸着性物質は水分子を捕捉する能力を有する孔、トンネル、または他の空洞を有する固体材料である。水吸着性物質の分子は吸着された水分子の存在に対応して膨潤または他の配置換えをしない。水への曝露の前に、これら空洞はからである(すなわち、各空洞は空気のみを含むかまたは真空である)。この空洞に入り、そして有限期間にわたってそこにとどまる水分子は、本明細書においては、「吸着」水と称される。
【0028】
分子封入剤は化合物または化合物の一部分を封入し、生じた組み合わせ物は本明細書においては分子封入複合体と称される。
【0029】
本明細書において使用され、かつTextbook of Polymer Science(テキストブックオブポリマーサイエンス)第2版、1971においてFW Billmeyer(ビルメイヤー),Jr.によって定義されるように、「ポリマー」は、より小さな化学繰り返し単位の反応生成物からなる相対的に大きな分子である。ポリマーは線状、分岐、星形、ループ、超分岐、架橋またはこれらの組み合わせである構造を有することができ;ポリマーは単一種の繰り返し単位を有することができ(ホモポリマー)、またはポリマーは1種より多い繰り返し単位を有することができる(コポリマー)。コポリマーはランダム、シークエンス、ブロック、他の配列で、またはこれらの混合もしくは組み合わせで配列された様々な種類の繰り返し単位を有することができる。同じ化合物および/または異なる化合物と反応してポリマー中の繰り返し単位になる化合物は、本明細書においては「モノマー」と称される。その反応から得られる繰り返し単位は、本明細書においてはそのモノマーの「残基」と称される。
【0030】
ポリマー分子量は標準の方法、例えば、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC、ゲル浸透クロマトグラフィ、すなわちGPCとも称される)によって測定されうる。ポリマーは500以上の数平均分子量(Mw)を有する。
【0031】
ポリマー鎖のいくつかもしくは全てが分岐している場合には、ポリマーは架橋されている。ポリマーの物理的特性に影響するのに充分な分岐が存在し、かつポリマーが有限の分子量を有する場合には、ポリマーは軽度に架橋されている。透過閾値に合格するのに充分な分岐が存在する場合には、ポリマーは充分に架橋されている。充分に架橋されたポリマーはいかなる溶媒にも、同じ組成の線状ポリマーが可溶性である溶媒にさえ可溶性ではない。充分に架橋されたポリマーは無限の分子量を有すると称される。
【0032】
組成物の1つの有用な特性は固形分量である。組成物の固形分量は厚さ1mm以下の組成物の層を製造し、例えば、空気を循環させるオーブン内に100℃で1時間にわたってその層を配置することによって、揮発性化合物を脱離させることにより決定される。揮発物質が脱離した後に残る物質の重量をその組成物の元の重量で割った値をパーセンテージで表したのが、固形分量である。
【0033】
本発明は1種以上のシクロプロペン化合物の使用を伴う。本明細書において使用される場合、シクロプロペン化合物は下記式:
【化2】

(式中、各R、R、RおよびRは独立して、Hおよび式:
【化3】

の化学基からなる群から選択され;nは0〜12の整数である)
を有する化合物である。各Lは2価の基である。適するL基には、例えば、H、B、C、N、O、P、S、Siまたはこれらの混合から選択される1種以上の原子を含む基が挙げられる。L基内の原子は互いに、単結合、二重結合、三重結合またはこれらの混合によって連結されうる。各L基は線状、分岐、環式、またはこれらの組み合わせであることができる。いずれか1つのR基(すなわち、R、R、RおよびRのいずれか1つ)においては、ヘテロ原子(すなわち、HでもCでもない原子)の総数は0〜6である。
【0034】
独立して、いずれか1つのR基においては、非水素原子の総数が50以下である。
【0035】
各Zは1価の基である。各Zは独立に、水素、ハロ、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロラート(chlorate)、ブロマート(bromate)、ヨーダート(iodate)、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオおよび化学基G(Gは3〜14員環系である)からなる群から選択される。
【0036】
、R、RおよびR基は、独立して、適する基から選択される。R、R、RおよびR基は互いに同じであってよく、または任意の数のそれらは他のものと異なっていてよい。R、R、RおよびRの1以上として使用するのに適する基は、シクロプロペン環に直接結合されていてよく、または介在する基、例えば、ヘテロ原子含有基などを介してシクロプロペン環に結合されていてよい。
【0037】
本明細書において使用される場合、着目した化学基の1以上の水素原子が置換基によって置き換えられている場合には、着目した化学基は「置換」されていると称される。適する置換基には、例えば、アルキル、アルケニル、アセチルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシイミノ、カルボキシ、ハロ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、アルキルスルホニル、アルキルチオ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
適するR、R、RおよびR基には、例えば、下記の基のいずれかの置換体または非置換体が挙げられる:脂肪族、脂肪族−オキシ、アルキルカルボニル、アルキルホスホナト、アルキルホスファト、アルキルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルカルボキシル、アルキルアミノスルホニル、シクロアルキルスルホニル、シクロアルキルアミノ、ヘテロサイクリル(すなわち、少なくとも1つのヘテロ原子を環内に有する芳香族もしくは非芳香族環式基)、アリール、水素、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロラト、ブロマト、ヨーダト、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオ、アセトキシ、カルボエトキシ、シアナト、ニトラト、ニトリト、ペルクロラト、アレニル;ブチルメルカプト、ジエチルホスホナト、ジメチルフェニルシリル、イソキノリル、メルカプト、ナフチル、フェノキシ、フェニル、ピペリジノ、ピリジル、キノリル、トリエチルシリル、およびトリメチルシリル。
【0039】
適するR、R、RおよびR基には、1以上のイオン化可能な置換基を含むものが挙げられる。このようなイオン化可能な基は非イオン化形態または塩形態であることができる。
【0040】
およびRが一緒になって、二重結合によってシクロプロペン環の第3番炭素原子に結合されている単一の基になっている実施形態も意図される。このような化合物のいくつかは米国特許出願公開第2005/0288189号に記載されている。
【0041】
好ましい実施形態においては、R、R、RおよびRのそれぞれが独立して水素または置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、フェニルまたはナフチル基であり、置換基は存在する場合には、独立して、ハロゲン、アルコキシ、または置換もしくは非置換のフェノキシである1種以上のシクロプロペン化合物が使用される。より好ましい実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が水素であり、および水素でないR、R、RおよびRのそれぞれが独立して置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、フェニルまたはナフチル基であり、置換基は存在する場合には、独立して、ハロゲン、アルコキシ、または置換もしくは非置換のフェノキシである。より好ましい実施形態においては、R、RおよびRのそれぞれが水素であり、およびRが独立して水素または非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、フェニルもしくはナフチル基である。
【0042】
好ましい実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が水素であり、水素でないR、R、RおよびRのそれぞれが(C1−C4)アルキルである1種以上のシクロプロペン化合物が使用される。より好ましい実施形態においては、Rが(C1−C4)アルキルであり、およびR、RおよびRのそれぞれが水素である。より好ましい実施形態においては、Rはメチルであり、およびR、RおよびRのそれぞれは水素であり、そしてそのシクロプロペン化合物は本明細書においては「1−MCP」と称される。
【0043】
好ましい実施形態においては、1気圧で25℃以下の沸点を有するシクロプロペン化合物が使用され、より好ましいのは15℃以下である。独立して、好ましい実施形態においては、1気圧で−100℃以上の沸点を有するシクロプロペン化合物が使用され、より好ましいのは−50℃以上であり、より好ましいのは−25℃以上であり、より好ましいのは0℃以上である。
【0044】
本発明の組成物は少なくとも1種の分子封入剤(molecular encapsulating agent)を含み、この分子封入剤は1種以上のシクロプロペン化合物または1種以上のシクロプロペン化合物の一部分を封入する。シクロプロペン化合物分子またはシクロプロペン化合物分子の一部分を分子封入剤の分子中に封入して含む複合体は、本明細書においては、「シクロプロペン化合物複合体」と称される。
【0045】
好ましい実施形態においては、少なくとも1種のシクロプロペン化合物複合体が存在し、それは封入複合体である。この封入複合体においては、分子封入剤は空洞を形成し、そしてシクロプロペン化合物またはシクロプロペン化合物の一部分がその空洞内に位置する。
【0046】
好ましくは、この封入複合体においては、分子封入剤の空洞の内部は実質的に非極性もしくは水非混和性、またはその双方であり、そしてシクロプロペン化合物(またはその空洞内に位置するシクロプロペン化合物の部分)も実質的に非極性もしくは水非混和性、またはその双方である。本発明は特定の理論またはメカニズムに限定されないが、この非極性シクロプロペン化合物複合体においては、ファンデルワールス力もしくは水非混和性相互作用、またはその双方がシクロプロペン化合物分子またはその部分を分子封入剤の空洞内に実質的な時間量にわたってとどまらせると考えられる。
【0047】
分子封入剤の量は、分子封入剤のモル数をシクロプロペン化合物のモル数で割った商(Q1)によって有用に特徴付けられうる。好ましい実施形態においては、Q1は0.1以上;より好ましくは0.2以上;より好ましくは0.5以上;より好ましくは0.9以上である。独立して、好ましい実施形態においては、Q1は10以下;より好ましくは5以下;より好ましくは2以下;より好ましくは1.5以下である。
【0048】
適する分子封入剤には、例えば、有機および無機分子封入剤が挙げられる。好ましいのは有機分子封入剤であり、これには、例えば、置換シクロデキストリン、非置換シクロデキストリン、およびクラウンエーテルが挙げられる。適する無機分子封入剤には、例えば、ゼオライトが挙げられる。適する分子封入剤の混合物も適する。好ましい実施形態においては、封入剤は、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、またはこれらの混合物である。より好ましい本発明の実施形態においては、アルファシクロデキストリンが使用される。
【0049】
本発明は1種以上の固体疎水性物質(i)(本明細書においては、同意語として「疎水性物質(i)」または「物質(i)」と称される)の使用を伴う。好ましい疎水性物質(i)は脂肪化合物、炭化水素ワックス、オレフィンポリマーおよびこれらの混合物である。
【0050】
脂肪化合物は1以上の脂肪基を有する化合物である。脂肪化合物には、例えば、脂肪酸、脂肪油、その修飾体、並びにその混合物が挙げられる。適切な修飾には、得られる化合物が依然として脂肪化合物の定義を満足する限りにおいて、脂肪化合物の組成を変えるあらゆるプロセス、例えば、化学反応が挙げられる。修飾には、例えば、水素化、エステル化、エステル交換、脱エステル化、重合、官能基の取り付け、およびこの組み合わせが挙げられる。脂肪酸は式R−COOH(式中、R基は脂肪基を含む)を有する。脂肪油は1以上のエステル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基またはその組み合わせを含む脂肪化合物である。
【0051】
脂肪酸の中では、好ましいのは12個以上の炭素原子を有する少なくとも1つの脂肪基を含むものである。より好ましいのは16個以上の炭素原子を有する少なくとも1つの脂肪基を含む脂肪酸であり;より好ましいのは18個以上の炭素原子を有する少なくとも1つの脂肪基を含む脂肪酸である。好ましい脂肪酸は22個以下の炭素原子を有する少なくとも1つの脂肪基を含むものである。好ましいのは、飽和の炭化水素基(すなわち、その基の中で炭素原子間の結合は全て単結合である)である少なくとも1つの脂肪基を含む脂肪酸である。脂肪酸の中で、より好ましいのはステアリン酸、パルミチン酸およびその混合物である。脂肪酸の中では、より好ましいのはダブルプレストステアリン酸(double pressed stearic acid)であり、これはステアリン酸とパルミチン酸との混合物が、ダブルプレストステアリン酸の重量を基準にして93重量%〜100重量%を構成する脂肪酸の混合物である。
【0052】
適切な疎水性物質には脂肪油もある。脂肪油の中で好ましいのはトリグリセリドである。トリグリセリドは3個の脂肪酸でのグリセロールのトリエステルである。好ましいトリグリセリドは水素化植物油である。
【0053】
炭化水素ワックスは12〜120個の炭素原子を有する炭化水素化合物である。炭化水素ワックス中の炭化水素分子は直鎖、分岐、非芳香族環式、もしくはその組み合わせであることができる。炭化水素ワックスは、通常、2種以上の異なる炭化水素分子の混合物として存在する。炭化水素ワックスには石油ワックスが挙げられ、これはクルードの石油から分離される。石油ワックスにはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびペトロラタムが挙げられる。パラフィンワックスはパラフィンの重量を基準にして60重量%以上の直鎖炭化水素を有し、パラフィンワックス中の直鎖炭化水素のほとんどが典型的には、それぞれ、18〜45個の炭素原子を有する。マイクロクリスタリンワックスはパラフィンワックスよりも高い割合で分岐および環式炭化水素を有する。ペトロラタムは鉱油と良好に混ざるマイクロクリスタリンワックスの1種である。炭化水素ワックスの中では、好ましいのはマイクロクリスタリンワックスである。
【0054】
オレフィンポリマーは、オレフィンポリマーの重量を基準にしてその繰り返し単位の60重量%〜100重量%が1種以上のエチレン性不飽和炭化水素モノマーの残基であるポリマーである。疎水性物質(i)の定義を満足するオレフィンポリマーは疎水性物質(i)として適する。全オレフィンポリマー(これは、繰り返し単位が1種以上のエチレン性不飽和炭化水素モノマーの残基100%であるオレフィンポリマーである)は疎水性物質(i)として適する。ポリオレフィンワックス(これは、20,000以下の数平均分子量を有する全オレフィンポリマーである)も疎水性物質(i)として適する。
【0055】
オレフィンポリマーにはオレフィンコポリマーも挙げられ、これは1種以上の繰り返し単位が炭化水素でないモノマーの残基であるオレフィンポリマーである。炭化水素でなくかつ1種以上のエチレン性不飽和炭化水素モノマーと共重合可能なモノマーは、本明細書においては「オレフィン適合性コモノマー」と称される。適切なオレフィン適合性コモノマーには、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステル、および酢酸ビニルが挙げられる。オレフィンコポリマーの中では、疎水性物質(i)として好ましいのは、本明細書において定義される疎水性についての基準を満足するエチレンと酢酸ビニルとのコポリマー(EVAコポリマー)である。疎水性物質(i)として使用するのに好ましいあるオレフィンコポリマーは、酢酸ビニルの残基の量がEVAコポリマーの重量を基準にして21重量%〜40重量%であるEVAコポリマーである。
【0056】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物は溶融可能な固体である1種以上の疎水性物質(i)を含む。溶融可能な固体疎水性物質の中では、好ましいのは、50℃以上である融点もしくは軟化点を有するものであり;より好ましいのは60℃以上である。溶融可能な固体疎水性物質の中では、好ましいのは、110℃以下である融点もしくは軟化点を有するものであり;より好ましいのは90℃以下であり;より好ましいのは80℃以下である。
【0057】
好ましい疎水性物質(i)には、場合によっては、成分の中では特に、脂肪化合物および炭化水素ワックス並びにその混合物が挙げられる。より好ましい炭化水素物質(i)には、場合によっては、成分の中では特に、脂肪酸、脂肪油、炭化水素ワックスおよびその混合物が挙げられる。より好ましい疎水性物質(i)には、場合によっては、成分の中では特に、ダブルプレストステアリン酸、水素化植物油、マイクロクリスタリンワックスおよびこの混合物が挙げられる。
【0058】
本発明は1種以上の親水性物質(ii)(本明細書においては、同意語として「親水性物質(ii)」または「物質(ii)」と称される)の使用を伴う。好ましい親水性物質(ii)はポリマーである。親水性物質(ii)に好ましいポリマーには、セルロース、ポリエチレングリコール、親水性エチレン酢酸ビニルコポリマー、およびペンダントアミンポリマーが挙げられる。
【0059】
セルロースはD−グルコールの繰り返し単位からなるポリマーである。セルロースの中では、好ましいのは天然セルロース、マイクロクリスタリンセルロースおよびその混合物である。
【0060】
ポリエチレングリコールはエチレンオキシドの繰り返し単位からなるポリマーである:
【化4】

ポリエチレングリコールの中では、親水性物質(ii)としての使用に好ましいのは20,000以下である;より好ましいのは10,000以下である数平均分子量を有するものである。ポリエチレングリコールの中では、親水性物質(ii)としての使用に好ましいのは3,000を超える;より好ましいのは5,000以上である数平均分子量を有するものである。
【0061】
ペンダントアミドポリマーはペンダントアミドポリマーの重量を基準にして50重量%以上の残基が、ポリマー骨格からペンダントである化学基を有するポリマーであり、そのペンダント化学基は1以上の共有結合によってポリマー骨格に結合されており、そしてそのペンダント化学基はアミド基を有する(このアミド基はペンダント化学基の全部もしくは一部分でありうる)。アミド基は第一級、第二級もしくは第三級でありうる。ペンダント化学基の中では、好ましいのは2−ピロリドン基であり、好ましくは共有結合によってポリマー骨格の炭素原子に結合された窒素原子を有する。好ましいペンダントアミドポリマーの中では、好ましいのは、PVPポリマーであり、これはPVPポリマーの重量を基準にして35重量%以上の重合残基がN−ビニル−2−ピロリドンの残基であるポリマーである。PVPポリマーの中では、好ましいのは架橋したPVPポリマーである。
【0062】
好ましい親水性物質(ii)は、場合によって他の成分を伴って、以下の種類のなかの1種を含む:(A)3,000を超える数平均分子量を有する1種以上のポリエチレングリコール、(B)3,000を超える数平均分子量を有する1種以上のポリエチレングリコールと、1種以上のセルロースとの混合物の1種以上、(C)1種以上の親水性エチレン酢酸ビニルコポリマー、(D)1種以上の親水性エチレン酢酸ビニルコポリマーと1種以上の架橋したPVPとの混合物の1種以上、または(E)1種以上の親水性エチレン酢酸ビニルコポリマーと、1種以上のセルロースとの混合物の1種以上。
【0063】
本発明において使用されるある親水性物質(ii)は溶融可能な固体でもある親水性物質である。溶融可能な固体である親水性物質の中では、好ましいのは50℃以上である;より好ましいのは60℃以上である融点または軟化点を有するものである。好ましいのは110℃以下である;より好ましいのは90℃以下である;より好ましいのは80℃以下である融点または軟化点を有する親水性物質である。
【0064】
本発明の組成物は、1種以上の疎水性物質(i)および1種以上の親水性物質(ii)を含む溶融可能なマトリックスを含む。ある実施形態においては、このマトリックスは疎水性物質(i)の全ておよび親水性物質(ii)の全ての溶液である。すなわち、物質(i)および(ii)の全てはこの混合物が溶液であるのに充分に互いに可溶性である。
【0065】
好ましい実施形態においては、溶融可能なマトリックスは40℃より高くかつ120℃より低い融点を有する。好ましいのは50℃以上のマトリックス融点であり;より好ましいのは60℃以上である。好ましいのは110℃以下のマトリックス融点であり;より好ましいのは90℃以下であり;より好ましいのは80℃以下である。融点の3℃上から、125℃より下でかつ融点の25℃上までの温度範囲である「注ぎ範囲(pour range)」でのマトリックスの粘度(1秒−1の剪断速度での)を特徴付けることが有用である。好ましくは注ぎ範囲でのマトリックスの粘度は3,000ミリパスカル秒(3,000センチポアズ)以下;より好ましくは1,000ミリパスカル秒(1,000センチポアズ)以下;より好ましくは500ミリパスカル秒(500センチポアズ)以下である。
【0066】
ある実施形態(分散物実施形態)においては、マトリックス中では、1種以上の物質(i)または1種以上の物質(ii)はマトリックスの連続相中で分散物中の粒子として存在する。分散物実施形態においては、マトリックスの連続相は1種以上の疎水性物質(i)を含む。マトリックスの連続相中に認められる疎水性物質(i)の量は、マトリックスの連続相に含まれる全ての疎水性物質(i)の重量の合計をマトリックスの連続相の全重量で割ることによって認められる商(Q2)によって特徴付けられる。好ましくは、Q2は0.2以上;より好ましくは0.3以上である。
【0067】
本発明の好ましい組成物は1種以上の保湿剤を含む。好ましい保湿剤は酢酸カリウムおよびポリエチレングリコールである。保湿剤として使用するのに好ましいポリエチレングリコールは3,000以下の数平均分子量を有し、より好ましいのは2,000以下である。保湿剤として使用するのに好ましいポリエチレングリコールは500以上の数平均分子量を有する。本明細書においては、ポリエチレングリコールではない少なくとも1種の溶融可能な固体親水性物質(ii)が組成物中に存在する場合には、ポリエチレングリコールは保湿剤として使用されると見なされる。
【0068】
ある実施形態においては、1種以上の他の物質が組成物中に存在してもよい。このような他の物質は疎水性物質(i)または親水性物質(ii)としての資格はなく、または分子封入剤中に封入される揮発性シクロプロペン化合物としての資格もない。いくつかの他の物質は疎水性もしくは親水性であり得るが、溶融可能な固体ではない。適切な他の物質には、例えば、分散剤、保湿剤、潮解性塩、他の塩、水吸着性材料およびこれらの混合物が挙げられる。
【0069】
好ましい本発明の組成物は、水吸着性材料である1種以上の他の物質を含む。好ましい水吸着性材料はモレキュラーシーブである。モレキュラーシーブは、水分子がその中に入ることができ、そして場合によってはとどまることができる均一なサイズの孔を有する開放構造を有する。モレキュラーシーブはアルミノシリケート、クレイ、ガラス、木炭または炭素からなることができる。好ましいモレキュラーシーブは3オングストロームまたは4オングストロームの孔サイズを有する。モレキュラーシーブはビーズ、ペレットまたは粉体の形態で供給される。モレキュラーシーブのサンプルにおいては、ビーズまたはペレットの平均粒子直径は通常1mm〜5mmであり、粉体の平均粒子直径は1mmより小さい。モレキュラーシーブは本明細書においては溶融不可能な固体であると見なされる。モレキュラーシーブは、存在する場合には、マトリックス中に分散されていると考えられる。
【0070】
分散剤は両親媒性化合物である。分散剤分子の1つの部分は疎水性物質と接触する際に、それが親水性物質と接触する場合よりも安定であり、そして分散剤分子の別の部分は親水性物質と接触する際に、それが疎水性物質と接触する場合よりも安定である。例えば、1種以上の親水性物質(ii)を1種以上の疎水性物質(i)の連続相中に分散させることが望まれる場合には、1種以上の分散剤を使用することが望ましい場合がある。別の例については、封入複合体の粉体粒子をマトリックス中に分散させることが望まれる場合、例えば、分散剤分子の1つの部分が粉体粒子と接触する場合に、それがマトリックスと接触する場合よりも安定であり、かつその分散剤分子の別の部分がマトリックスと接触する際に、それが粉体粒子と接触する場合よりも安定である場合に、1種以上の分散剤を使用することが望ましい場合がある。
【0071】
1種以上のワックスが使用される別の実施形態の中では、1種以上の分散剤を使用することも好ましい。
【0072】
好ましいのは1種以上の高融点(high−melting)保湿剤(すなわち、120℃より高い融点を有する保湿剤)を含む組成物である。好ましい高融点保湿剤は無機塩である。より好ましいのは酢酸カリウムである。
【0073】
ある適切な高融点保湿剤は潮解性でもある無機塩である。
【0074】
本発明のマトリックスは親水性指数(HI)によって特徴付けられることができ、親水性指数は以下のように定義される:
【数1】

式中、Hは全ての親水性物質(ii)の全重量プラス全ての保湿剤の全重量であって、全ての揮発性シクロプロペン化合物の重量を除き、かつ全ての分子封入剤の重量を除く;TはHと、全ての疎水性物質(i)の全重量との合計である。好ましい実施形態においては、分子封入剤に封入された揮発性シクロプロペン化合物の粉体粒子は親水性物質についての基準の1つ以上を満足するが、量Hは揮発性シクロプロペン化合物の重量を含まず、および量Hは分子封入剤の重量を含まない。好ましくは、HIは0.35以上;より好ましくは1以上;より好ましくは3以上;より好ましくは7以上である。好ましくは、HIは16以下;より好ましくは13以下である。
【0075】
本発明の好ましい組成物は以下の組み合わせの1以上を含み、それぞれの場合においては場合によっては追加の成分を含む:
3,000を超える数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、酢酸カリウムと、マイクロクリスタリンワックス;
エチレンおよび酢酸ビニルの親水性コポリマーと、3,000以下の数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、ステアリン酸;
エチレンおよび酢酸ビニルの親水性コポリマーと、ポリビニルピロリドンと、3,000以下の数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、ステアリン酸;
エチレンおよび酢酸ビニルの親水性コポリマーと、セルロースと、3,000以下の数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、ステアリン酸;
3,000以下の数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、マイクロクリスタリンワックスと、ステアリン酸;並びに
3,000を超える数平均分子量を有するポリエチレングリコールと、セルロースと、酢酸カリウムと、マイクロクリスタリンワックス。
【0076】
本発明の組成物は任意の方法によって製造されうる。好ましい方法は溶融混合である。溶融混合のための手順の例は以下の通りである:成分の一部分もしくは全部が容器内に入れられ、室温より高くかつ25℃より高い温度であるTMIXまで加熱される。TMIXは容器内の成分の1種以上が液体であるように選択される。成分の混合物は攪拌され、追加の成分(もしあれば)が添加され、成分の混合物がさらに攪拌され、次いで、成分の混合物は室温(0℃〜30℃であろう)まで冷却される。2種以上の成分は、溶融混合プロセス中に他の成分と一緒にされる前に互いに一緒にされていてよい。成分の混合物はTMIXから室温まで冷却されると、本明細書において記載されるマトリックスが連続相を形成するであろうし、かつそのマトリックスに溶解しない成分がその中に分散されるであろうと考えられる。
【0077】
好ましくは、あらゆる親水性物質(ii)はマトリックス中に溶解されるかまたはマトリックス中に分散される。好ましくは、親水性物質または親水性物質の混合物は0.5mm以上の寸法を有する分離相を形成しない。好ましくは親水性物質または親水性物質の混合物はマトリックスを貫通するチャネルを形成しない。好ましくは、本発明の組成物は相の一方が疎水性物質であり他方の相が親水性物質である2つの共連続相の形態を有しない。
【0078】
本発明の組成物中の1つの成分は、分子封入複合体中に封入された揮発性シクロプロペン化合物の1種以上の封入複合体である。この封入複合体は、本明細書において「EC」粉体と称される粉体として多くの場合供給される。EC粉体は、場合によっては、追加の成分(すなわち、揮発性シクロプロペン化合物および分子封入複合体に加えて)、例えば、以下の1種以上などを含むことができる:水、1種以上の単糖(例えば、デキストロースなど)、1種以上の二糖、1種以上のアミノ酸塩、または植物油、ワックス、セルロース誘導体、炭水化物、可塑剤または界面活性剤から選択される1種以上のアジュバント。好ましくは、EC粉体中の揮発性シクロプロペンの量は、ED粉体の重量を基準にして0.01重量%以上;より好ましくは0.03重量%以上;より好ましくは0.1重量%以上である。好ましくは、EC粉体中の揮発性シクロプロペンの量は、ED粉体の重量を基準にして10重量%以下;より好ましくは6重量%以下である。
【0079】
好ましくは、本発明の組成物中のシクロプロペン化合物の量は組成物の重量を基準にして0.01重量%以上;より好ましくは0.03重量%以上;より好ましくは0.1重量%以上である。好ましくは、本発明の組成物中のシクロプロペン化合物の量は組成物の重量を基準にして1重量%以下;より好ましくは0.5重量%以下;より好ましくは0.3重量%以下である。
【0080】
本発明の組成物は広範囲の方法のいずれかにおいて使用されうる。好ましい実施形態においては、本発明の組成物を含む固体物体が製造される。例えば、組成物の一部分が固体塊に形成されうる。この固体塊のためのいくつかの簡単な形状には、例えば、ディスク、ペレット、膜、矩形固体および他の形状が挙げられる。
【0081】
別の例については、組成物の層が基体上に形成されうる。その層は、何らかのコーティング方法、例えば、刷毛塗り、スプレッディング、噴霧、メータリング(metering)または他の方法などによって、液体をコーティングとして適用することにより基体に適用されうる。ある実施形態においては、基体に適用される液体は液体溶媒または他の液体キャリア中に溶解されまたは分散された本発明の組成物を有することができ;この溶媒または他の液体キャリアは蒸発して本発明の組成物を後に残す。好ましい実施形態においては、基体に適用される液体は本発明の組成物を加熱することにより形成される流体である。この層は冷却によってまたは溶媒もしくは他の液体キャリアの除去によって、またはこの双方によって固化されるかまたは固化可能にされるであろうことが考えられる。
【0082】
本発明の組成物の層が基体上に形成される実施形態においては、その層が形成される方法に関わらず、組成物は基体からその層を取り外すことによって、または基体に接着したその層をそのままにして使用されうる。
【0083】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物の固形分量は80%以上であり;より好ましいのは90%以上である。
【0084】
本発明の好ましい使用においては、本発明の組成物を含む固体物体は容器の内側にある。その固体物体は容器の内側表面の部分であることができ、または容器の内側表面に付着されまたは取り付けられることができ、またはその固体物体は容器の内側に取り付けられないで存在することができる。好ましくは、容器は1種以上の植物または植物の部分を収容し;より好ましくは容器は収穫された後の1種以上の果実または野菜を収容する。植物または植物の部分は蒸発または代謝プロセスまたはその双方を通じて、容器の内側の雰囲気中に水蒸気を提供するであろうことが考えられる。その水蒸気は、本発明の組成物からの揮発性シクロプロペン化合物の放出を促進するであろうと考えられる。
【0085】
植物または植物の部分の1種以上も収容する容器の内側にある実施形態の中では、容器の体積1リットルあたりのシクロプロペン化合物の量(マイクログラム単位で)を特徴付けることが有用である。好ましくはその量は1マイクログラム/L以上;より好ましくは2マイクログラム/L以上;より好ましくは5マイクログラム/L以上;より好ましくは10マイクログラム/L以上である。好ましくはその量は500マイクログラム/L以下;より好ましくは250マイクログラム/L以下;より好ましくは100マイクログラム/L以下;より好ましくは50マイクログラム/L以下である。
【0086】
好ましい実施形態においては、容器は密閉され、かつ気体がその容器に出入りすることが可能である。容器、本発明の組成物、および植物または植物の部分は、全て、揮発性シクロプロペンが本発明の組成物から出て容器の内側の雰囲気に入り、次いで揮発性シクロプロペンが容器から出て容器の外側の雰囲気に入る際に、所望の濃度の揮発性シクロプロペンが容器の雰囲気内に維持されるように選択されうる。容器の雰囲気中の揮発性シクロプロペン化合物の好ましい濃度は50ppb(10億分率、雰囲気の体積あたりの揮発性シクロプロペン気体の体積)以上であり;より好ましいのは100ppb以上であり;より好ましいのは200ppb以上である。容器の雰囲気中の揮発性シクロプロペン化合物の好ましい濃度は5,000ppb以下であり;より好ましいのは2,000ppb以下であり;より好ましいのは1,000ppb以下である。
【0087】
植物または植物の部分をシクロプロペン化合物に曝露することが有利であり得る。シクロプロペン化合物は植物または植物の部分におけるエチレンの効果を阻止することができる。エチレンによって引き起こされるプロセスの多くは、貯蔵中の収穫された植物または植物の部分に対して有利ではない。ある実施形態においては、例えば、シクロプロペンへの曝露は収穫された果実または野菜の有用寿命を長くすることができる。
【0088】
好ましくは、1種以上の果実または野菜を収容し、かつ本発明の組成物を収容している容器は、その容器およびその内容物が0℃より高くかつ25℃より低い温度に維持されるであろう環境に配置されるであろう。より好ましくはその温度は1℃以上、より好ましくは2℃以上であろう。より好ましくはその温度は10℃以下、より好ましくは5℃以下であろう。
【0089】
好ましくは、本発明の組成物は1種以上の植物または植物の部分と共に1日間以上;より好ましくは2日間以上;より好ましくは4日間以上容器の内側にとどまるであろう。好ましくは、本発明の組成物は1種以上の植物または植物の部分と共に30日間以下;より好ましくは14日間以下容器の内側にとどまるであろう。
【0090】
以下が本発明の実施例である。
【実施例】
【0091】
以下の略語が本明細書において使用される:
【表1】

【0092】
以下の実施例においてこれらの材料が使用された:
【表2】

【0093】
以下の実施例においては、「溶融混合物」は以下のように製造された。示された材料は約80℃で機械的に攪拌することにより混合された。
【0094】
1−MCPの放出は以下のように測定された。
【0095】
実験は隔壁で密閉されたボトル内で行われた。周期的に、隔壁にさし込まれた針によってボトルの内側空間から空気のサンプルが取り出された。その空気のサンプルはガスクロマトグラフィによって1−MCPの濃度について分析された。次いで、このボトル内にあった1−MCPのパーセンテージ(放出%)として空気中の1−MCPの量が特徴付けられることができた。この放出%は時間に応じて測定された(「#日数」は本明細書においては「日数」を意味する)。
【0096】
比較例A:
隔壁キャップを有するボトル内で22℃で、20mgの粉体1および3mLの水が混合された。1−MCPの全てが素早く放出された。
【0097】
【表3】

【0098】
比較例B:
隔壁キャップを有するボトル内で22℃で、20mgの粉体1が3mLの水の上方に紙メッシュ内でつるされた。1−MCPの全てが比較的素早く放出された。
【0099】
【表4】

【0100】
比較例CA
【表5】

【0101】
この材料の混合物は紙上に0.5mm厚さの層にコーティングされ、そして冷却された。冷却された材料の片が取り外され、22℃で隔壁キャップを備えたボトルの首のところでつるされた。3mLの水がボトルの底に配置された。溶融可能な親水性化合物は含まれていなかった。1−MCPの放出は望ましくなく遅かった。
【0102】
【表6】

【0103】
比較例CB
実験中のボトルの温度が4℃であったことを除いて比較例CAの実験が繰り返された。1−MCPの放出は望ましくなく遅かった。
【0104】
【表7】

【0105】
比較例D
【表8】

【0106】
約300mgのこの材料の混合物がオープンプラスチック秤量ボートに置かれ、22℃で2200mLボトルの首につるされた;このボトルは水30mLを収容し、隔壁キャップを備えていた。固体疎水性物質は使用されなかった。1−MCPの放出は望ましくなく速かった。
【0107】
【表9】

【0108】
比較例E
【表10】

【0109】
この材料の溶融混合物が製造され、冷却された。この混合物の約500mgがオープンプラスチック秤量ボートに置かれ、22℃で2200mLボトルの首につるされた;このボトルは水30mLを収容し、隔壁キャップを備えていた。溶融可能な疎水性物質は使用されなかった。1−MCPの放出は望ましくなく速かった。
【0110】
【表11】

【0111】
実施例1A
【表12】

【0112】
この材料の溶融混合物は0.5mm厚さの層にコーティングされ、そして冷却された。冷却された材料の片が基体から取り外され、隔壁キャップを備えたボトルの首に22℃でつるされた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0113】
【表13】

【0114】
実施例1B
実験中のボトルの温度が4℃であったことを除いて、実施例1Aの実験が繰り返された。放出は望ましく漸次的であった。
【0115】
【表14】

【0116】
実施例2
【表15】

【0117】
この材料の溶融混合物が溶融され、混合され、冷却され、そして200mgが直径12.7mmディスクに圧入された。このディスクは5℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0118】
【表16】

【0119】
実施例3
【表17】

【0120】
この材料の溶融混合物が溶融され、混合され、冷却され、そして200mgが直径12.7mmディスクに圧入された。このディスクは5℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0121】
【表18】

【0122】
実施例4
【表19】

【0123】
この材料の混合物が溶融され、混合され、冷却され、そして200mgが直径12.7mmディスクに圧入された。このディスクは5℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0124】
【表20】

【0125】
実施例5
【表21】

【0126】
この材料の混合物が溶融され、混合され、冷却され、そして200mgが直径12.7mmディスクに圧入された。このディスクは5℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0127】
【表22】

【0128】
実施例6
【表23】

【0129】
この材料の混合物が溶融され、溶融混合物が紙上に0.5mm厚さの層にコーティングされ、冷却され、そして片が4℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0130】
【表24】

【0131】
実施例7
【表25】

【0132】
混合物が溶融され、混合され、冷却され、そして0.5mm厚さの層が紙上にコーティングされた。一部分が4℃でボトルの首につるされ、このボトルは隔壁キャップを備えていた。3mLの水がこのボトルの底に配置された。放出は望ましく漸次的であった。
【0133】
【表26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)1種以上の疎水性物質と、
(ii)1種以上の親水性物質と
を含む溶融可能な固体マトリックス、並びに
(b)前記マトリックス中に分布した、分子封入剤に封入された揮発性シクロプロペン化合物の封入複合体の1種以上、
を含む組成物。
【請求項2】
1種以上の水吸着剤物質が前記マトリックス中に分布している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1種以上の保湿剤、1種以上の潮解性物質またはこれらの混合物が前記マトリックス中に分布している、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記マトリックスが1種以上の分散剤をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記揮発性シクロプロペン化合物が1−メチルシクロプロペンである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記分子封入剤がアルファ−シクロデキストリンである請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
揮発性シクロプロペン化合物の量が当該組成物の重量を基準にして0.01重量%〜1重量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
植物または植物の部分および請求項1に記載の組成物を容器内に配置し、並びに前記植物または植物の部分および請求項1に記載の前記組成物を一緒に前記容器内に1日以上とどまらせることを含む、植物または植物の部分を処理する方法。
【請求項9】
前記揮発性シクロプロペン化合物が1−メチルシクロプロペンであり、および前記分子封入剤がアルファ−シクロデキストリンである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記容器内に配置される1−メチルシクロプロペンの量が1マイクログラム/リットル〜500マイクログラム/リットルである請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2012−219096(P2012−219096A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−52405(P2012−52405)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】