説明

制御棒の製造方法

【課題】シースにおけるき裂の発生を防止できる制御棒の製造方法を提供する。
【解決手段】タイロッド2の上端に横断面が十字形のハンドル5を溶接し、タイロッド2の下端に横断面が十字形の下部支持部材6を溶接する。複数のハフニウム部材5Aの上端部がハンドル5に取り付けられ、複数のハフニウム部材5Bの下端部が下部支持部材6に取り付けられる。ハフニウム部材5A,5Bを内部に配置したシース4を、タイロッド2に溶接し、さらに、シース4の上端をハンドル5に、シース4の下端を下部支持部材5に溶接する。その後、上記のように組み立てられた制御棒1の全体を300℃に一様になるように加熱する。加熱された制御棒1のシース4とハンドル5の溶接部及びこの溶接部付近に、冷却水噴射装置により冷却水を噴射して、その溶接部及びこの溶接部付近を急冷する。シース4の上端部の引張応力が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御棒の製造方法に係わり、特に、沸騰水型原子炉に用いる横断面が十字形をした制御棒に適用するのに好適な制御棒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉に用いられる制御棒は、横断面が十字形をしており、原子炉の運転中において燃料集合体が装荷された炉心に出し入れされて原子炉出力を制御する。制御棒は、運転サイクルの末期には炉心から全て引抜かれる。
【0003】
その制御棒の一例が、特開平9−61576号公報に記載されている。この制御棒は、ブレードを構成するシース内に中性子吸収材である扁平なハフニウム筒状体を配置している。2本のハフニウム筒状体が制御棒の軸方向に存在する。特開平9−61576号公報は、その制御棒の製造について以下のように説明している。
【0004】
ハンドルがタイロッドの上端部に取り付けられる。ハンドルは、ハンドル本体及びハンドル本体から下方に向かって伸びる上部舌状部を有する。下部支持部材本体及び下部支持部材本体から上方に向かって伸びる下部舌状部を有する下部支持部材が、タイロッドの下端部に取り付けられる。ハンドル、タイロッド及び下部支持部材の集合体をフレームと称する。
【0005】
ハンドルの上部舌状部が上部ハフニウム筒状体の上端部に挿入され、上部ハフニウム筒状体が上部舌状部にピンで固定される。下部支持部材の下部舌状部が下部ハフニウム筒状体の下端部に挿入され、下部ハフニウム筒状体が下部舌状部位にピンによって固定される。上部舌状部に取り付けられた複数の上部ハフニウム筒状体、及び下部舌状部に取り付けられた複数の下部ハフニウム筒状体が、横断面がU字状であるステンレス鋼製のシース内に挿入される。その後、シースの上端、下端及び側端が、ハンドル、下部支持部材及びタイロッドにそれぞれ溶接される。シースの側端部には制御棒の軸方向に複数のタブ(突起部)が形成されており、これらのタブがタイロッドに溶接される。
【0006】
シース及び複数のハフニウム筒状体で1つのブレードが形成される。制御棒は、タイロッドから四方にのびる4枚のブレードを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−61576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、溶接を行うと溶接部には圧縮の塑性ひずみが発生する。圧縮塑性ひずみは、変形が拘束されない部位では収縮変形を生じさせる。一方、変形が拘束される部位では引張残留応力が発生する。
【0009】
上記した制御棒においては、最初に、タイロッドとシースのタブとの溶接が行われる。この溶接部には引張残留応力、及びその溶接部の周囲には圧縮残留応力がそれぞれ発生する。次に、ハンドルとシース及び下部支持部材とシースのそれぞれの溶接が行われる。これらの溶接によって生じる、制御棒の軸方向におけるシースの変位が、上記タブとタイロッドの溶接で拘束されるため、シースの広い領域に渡って引張残留応力が発生する。
【0010】
沸騰水型原子炉では、制御棒は運転期間中に中性子照射を受ける。発生因子である環境、材料及び引張応力が重畳すると応力腐食割れ(SCC)が発生することがある。さらに、SCCにより発生したき裂が進展することがある。SCCは、3つの発生因子のうち一つを取り除くことにより発生を抑制できることが知られている。引張残留応力を低く抑え、さらには圧縮応力化することは、SCCの発生を抑制するため、及び万一発生した場合であってもその進展を止めるために重要である。
【0011】
本発明の目的は、シースにおけるき裂の発生を防止できる制御棒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、タイロッドの上端に取り付けられた横断面が十字形をしているハンドルに複数の中性子吸収部材を取り付け、タイロッドの下端に横断面が十字形をしている下部支持部材に複数の他の中性子吸収部材を取り付け、
タイロッドから四方に伸びるように配置されて内部にハンドルに取り付けられた複数の中性子吸収部材及び下部支持部材に取り付けられた複数の他の中性子吸収部材を配置されたシースであって、横断面がU字状をしている4枚のシースのそれぞれの側端部をタイロッドに溶接して取り付け、
シースの上端部をハンドルに溶接にて取り付け、シースの下端部を下部支持部材に溶接にて取り付け、
タイロッド、ハンドル、下部支持部材、及び内部に複数の中性子吸収部材が配置されたシースが溶接にて一体化されて構成される、制御棒の中間構成体の全体を加熱し、
制御棒の中間構成体の全体を加熱した後で、シースとハンドルの第1溶接部、及びこの第1溶接部と接するシース及びハンドルのそれぞれの一部を水冷及び空冷のいずれかにより冷却するので、溶接により発生した圧縮塑性ひずみが減少し、この結果、シース及び第1溶接部の引張応力が減少し、シース及び第1溶接部にき裂が発生することを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御棒のシースにおけるき裂の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の制御棒の製造方法を適用して製造された制御棒の側面図である。
【図2】タイロッドとシースの溶接を示す図1に示す制御棒の横断面図である。
【図3】実施例1の制御棒の製造方法において加熱された制御棒を冷却する局所急冷装置の、制御棒の横断面における配置状態を示す説明図である。
【図4】図3に示す制御棒の冷却における局所急冷装置の、制御棒の軸方向における配置状態を示す説明図である。
【図5】実施例1の制御棒の製造方法における溶接過程及び局所急冷過程での応力及びに関係を示す応力・ひずみの履歴図である。
【図6】実施例1の制御棒の製造方法で製造された制御棒の横断面におけるタイロッド領域及びシース領域での応力分布を示す説明図である。
【図7】シースの上端部及び下端部で生じる軸方向での残留応力の分布を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例2の制御棒の製造方法を適用して製造された制御棒の側面図である。
【図9】実施例2の制御棒の製造方法において加熱された制御棒のタイロッドとシースの溶接部を冷却する局所急冷装置の、制御棒の横断面における配置状態を示す説明図である。
【図10】本発明の他の実施例である実施例3の制御棒の製造方法を適用して製造された制御棒の側面図である。
【図11】本発明の他の実施例である実施例4の制御棒の製造方法を適用して製造された制御棒の側面図である。
【図12】実施例4の制御棒の製造方法において制御棒の側面を部分加熱し部分加熱領域を冷却する加熱急冷装置の、制御棒の軸方向における配置状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の好適な一実施例である実施例1の制御棒の製造方法を以下に説明する。
【0017】
まず、本実施例における制御棒の製造方法で製造された制御棒の構造を、図1を用いて説明する。この制御棒は、沸騰水型原子炉に適用され、沸騰水型原子炉の原子炉出力の制御に用いられる。
【0018】
実施例1の制御棒の製造方法で製造された制御棒1は、横断面が十字形をしていて軸心にタイロッド2が配置され、このタイロッド2から四方に伸びる4枚のブレード3を有する。ハンドル5がタイロッド2の上端部に取り付けられ、下部支持部材6がタイロッド2の下端部に取り付けられる。下部支持部材6は、下部支持板(または落下速度リミッタ)である。
【0019】
各ブレード3は、横断面がU字状をしているシース4、扁平な筒状体であり中性子吸収部材であるハフニウム部材5A,5Bを有する。シース4はステンレス鋼(SUS304またSUS316L等)によって構成される。シース4の上端はハンドル5に溶接され、シース4の下端は下部支持部材8に溶接されている。シース4のU字の両端部には、複数のタブ(突出部)8が軸方向において所定の間隔を置いて形成されている。タブ8は、シース4の一部であって、U字状のシース4の、対向する側端部にそれぞれ形成されており、タイロッド2側に向かって突出している突出部である。これらのタブ8は溶接にてタイロッド2に接合されている。シース4の上端とハンドル5、及びシース4の下端と下部支持板6も溶接によって接合されている。制御棒1において、シース4とハンドル5の溶接部36(図4参照)及びこの溶接部付近に、残留応力改善領域12Aが形成されている。
【0020】
1つのブレード2のシース4内に形成される空間内に、2つのハフニウム部材5A及び2つのハフニウム部材5Bが配置されている。ハフニウム部材5Aはハフニウム部材5Bの上方に位置しており、これらの軸方向の長さは同じである。ハンドル5の下端部に形成された舌状部6Aがハフニウム部材5Aの上端部内に挿入され、この状態で、ハフニウム部材5Aの上端部が舌状部6Aにピン7Aで取り付けられている。下部支持部材6の上端部に形成された舌状部6Bがハフニウム部材5Bの下端部内に挿入され、この状態で、ハフニウム部材5Bの下端部が舌状部6Bにピン7Bで取り付けられている。ハフニウム部材3Uは上端部がハンドル5に取り付けられ、ハフニウム部材3Lが下部支持板8に取り付けられている。沸騰水型原子炉の運転中において、舌状部6A,6Bに取り付けられたハフニウム部材5A,5Bが熱膨張しても、ハフニウム部材5Aの下端とハフニウム部材5Bの上端が互いに接触しないように、ハフニウム部材5Aの下端とハフニウム部材5Bの上端との間にギャップ(図示せず)が形成されている。
【0021】
シース4には複数の開口9が形成され、ハフニウム部材5A,5Bにも複数の開口10がそれぞれ形成されている。さらに、シース4の最上端部に複数の開口11Aが形成され、シース4の最下端部に複数の開口11Bが形成されている。
【0022】
制御棒1は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に配置され、原子炉出力を制御するために、複数の燃料集合体が装荷された炉心内に制御棒駆動機構(図示せず)によって出し入れされる。制御棒1は、下部支持部材6の下端部に設けられたコネクタ17によって原子炉圧力容器の底部に設けられた制御棒駆動装置に連結される。制御棒駆動装置は、制御棒1の炉心内への挿入操作、及び制御棒1の炉心からの引き抜き操作を行う。原子炉圧力容器内を流れる冷却水は、シース4に形成された一部の開口9及びシース4の最下端部に形成された複数の開口11Bからシース4内に流入し、ハフニウム部材5A,5Bとシース4の内面の間に形成される隙間部を上昇しながら、ハフニウム部材5A,5Bを冷却する。シース4内に流入した冷却水は、他の開口9(特に上端部に位置する開口9)及びシース4の最上端部に形成された複数の開口11Aからシース4の外に流出する。
【0023】
シース4内に流入した冷却水の一部は、ハフニウム部材5Bに設けられた小径の開口9を通ってハフニウム部材5B内に流入してハフニウム部材5B,5A内を上昇し、ハフニウム部材5Aに形成された小径の開口10を通ってハフニウム部材5A外に流出する。このように、冷却水がハフニウム部材(中性子吸収部材)5B,5A内に流入することによって、これらのハフニウム部材の冷却が促進される。
【0024】
本実施例の制御棒の製造方法を適用して行われる制御棒1の製造について説明する。
【0025】
まず、横断面が十字形をしているハンドル5がタイロッド2の上端に、横断面が十字形をしている下部支持部材5がタイロッド2の下端に、溶接によりそれぞれ取り付けられる。その後、扁平な筒状体の各ハフニウム部材5Aの上端部が、ピン7Aによりそれぞれの上部舌状部6Aに取り付けられる。さらに、扁平な筒状体の各ハフニウム部材5Bの下端部が、ピン7Bによりそれぞれの上部舌状部6Aに取り付けられる。2本のハフニウム部材5A及び2本のハフニウム部材5Bが、タイロッド2から四方に向かって、それぞれ配置される。横断面がU字状をした1枚のシース4を、シース4に形成されたタブ8がタイプレート2側を向くように配置して、このシース4をタイロッド2に向かって移動させる。このシース4の移動によって、2本のハフニウム部材5A及び2本のハフニウム部材5Bが、シース4内に配置され、やがて、1枚のシース4に形成された各タブ8がタイロッド2の表面に重ねられる。残りの3枚のシース4も、同様に、タイロッド2に向かって移動させ、各シース4のそれぞれのタブ8も、タイロッド2の表面に重ねられる。3枚のシース4ないにも、それぞれ、2本のハフニウム部材5A及び2本のハフニウム部材5Bが配置される。
【0026】
4枚のシース4がタイロッド2に溶接される。これらのシース4とタイロッド2の溶接を、図2を用いて具体的に説明する。4枚のシース4をタイロッド2に溶接する場合には、タイロッド2の軸方向において8箇所に形成された各タブ8の位置で溶接を行う必要がある。さらに、タイロッド2のある横断面においても、8箇所でシース4がタイロッド2に溶接される。
【0027】
本実施例では、4枚のシース4が一度にタイロッド2に溶接される。これらのシース4のタイロッド2への溶接を、図2を用いて、具体的説明する。1枚のシース4においては、タブ8が、U字状に曲げられたシース4の両側端部にそれぞれ形成され、1枚のシース4の両側端部に形成された各タブ8をタイロッド2に溶接する必要がある。このため、シース4の軸方向でタブ8が形成された或る横断面において、タブ8とタイロッド2との8つの溶接個所に、8個の溶接トーチ14を別々に対向させて配置する(図2参照)。その後、タイロッド2の軸方向の或る横断面において、これらの溶接トーチ14を用いて各溶接位置でタイロッド2とタブ8がそれぞれ溶接される。13はタイロッド2とタブ8の溶接部である。本実施例では、タイロッド2の軸方向の或る横断面において、8個の溶接トーチ14を用いて8箇所におけるタイロッド2とタブ8の溶接を同時に行うので、タイロッド2とシース4の溶接に要する時間を短縮することができる。1つの横断面での8箇所のタイロッドとタブ8の溶接が終了した後、8個の溶接トーチ14をタイロッド2の軸方向に移動させ、他の横断面での横断面での8箇所のタイロッドとタブ8の溶接を8個の溶接トーチ14を用いて同時に行う。このように、8個の溶接トーチ14をタイロッド2の軸方向に移動させることによって、タイロッド2の軸方向に存在する全てのタブ8をタイロッド2の横断面で8個ずつタイロッド2に溶接することができる。
【0028】
もし、タイロッド2の周囲で8箇所にそれぞれ溶接トーチ13が配置できない場合には、シース4を1枚ずつ順番にタイロッド2に溶接してもよい。シース4を1枚ずつタイロッド2に溶接する場合には、フレーム(タイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6の集合体)を加熱して1枚目のシース4とタイロッド2、このシース4とハンドル5、及びこのシース4と下部支持部材6の溶接を順次行い、1枚目のシース4の溶接が全て終了した後、順次、他のシース4に対しても同様な溶接を行う。
【0029】
タイロッド2の軸方向に存在するすべてのタブ8とタイロッド2の溶接、すなわち、シース4とタイロッド2の溶接が終了した後、各シース4の上端部とハンドル5、及び各シース4の下端部と下部支持部材6の溶接が行われる。
【0030】
シース4とハンドル5及び下部支持部材6の溶接が完了した後、製造途中の中間構造体である制御棒1が、全体を一様に加熱するために、制御棒1の全体を入れることが可能な寸法を有する電気炉内に収納される。そして、この制御棒1の全体を電気炉にて加熱する。加熱により制御棒1の全体の温度が300℃になった時点で、加熱された制御棒1を電気炉から取り出し、その後、シース4の上端部とハンドル5との溶接部と、溶接により圧縮塑性ひずみが発生している、シース4の上端部とハンドル5の溶接部付近を急冷する。本実施例では、加熱された制御棒1の、その溶接部及びその溶接部付近以外の部分での急冷は行われない。ここで、シース4の上端部においてハンドル5との溶接により圧縮塑性ひずみが発生している領域は、シース4とハンドル5の溶接部36(図4参照)から母材側(シース4の下端側)に10mm以内の領域である。また、ハンドル5においてシース8の上端部との溶接により圧縮塑性ひずみが発生している領域も、溶接部36からハンドル3の母材側(ハンドル5の上端側)に10mm以内の領域である。
【0031】
ハフニウム部材5A、5Bのハフニウムの耐食性の観点から、ハフニウムの耐食性が低下する温度範囲である650℃を超える範囲にならないようにする必要がある。また、シース4を構成するステンレス鋼では、475℃を超えると、溶接金属を含むδフェライトで脆化が生じる可能性がある。ハフニウムの耐食性が低下及びδフェライトの脆化を考慮すると、制御棒1を加熱する温度は475℃以下にする。
【0032】
これらの領域において溶接で生じた圧縮塑性ひずみを減少させるために急冷する範囲は、上記した10mmよりも広くするとよい。十分な余裕をみて溶接部36からハンドル5側及びシース4側のそれぞれの母材部の50mmの範囲を急冷するとよい。加熱された制御棒1のシース4の上端部とハンドル5との溶接部36、及び溶接により圧縮塑性ひずみが発生している、シース4の上端部とハンドル5の溶接部36付近の急冷を、図3及び図4を用いて説明する。この急冷には、冷却水噴射装置15が用いられる。
【0033】
冷却水噴射装置15は一対の冷却水噴射部26A,26Bを有し、冷却水噴射部26A,26Bはそれぞれ複数の冷却水噴射孔16が形成された複数(例えば、3本)の冷却水供給管15Aを有する(図3及び図4参照)。冷却水噴射部26Aは、複数の(例えば、3本)の冷却水供給管15Aが、図4に示すように、制御棒1の軸方向に隣接させて配置され、かつこれらの冷却水供給管15Aが、制御棒1の横断面において、シース4の4つの側面に沿って配置できる形状を有している。冷却水供給管15Aは、1つの平面内においてU字状に折り曲げられ、さらに、その平面内において両端部が180°反対を向くように、直角に曲げられている。冷却水噴射部26Bも冷却水噴射部26Aと同じ構成を有している。
【0034】
冷却水噴射部26A,26Bが、溶接部36からハンドル5側に50mm及び溶接部36からシース4側に50mmの範囲を冷却できるように、シース4とハンドル5との溶接部36及この溶接部36付近で、一直線になる2つのブレード3を基準に対象になるように配置される。このとき、冷却水噴射部26Aの各冷却水供給管15Aは、1つのブレード3のシース4の両側面に沿って配置され、このブレード3と直交する他の2つのブレード3のそれぞれのシース4の1つの側面に沿って配置される(図3参照)。各冷却水供給管15Aは、その1つのブレード3の根元付近で直角に折り曲げられている。各冷却水供給管15Aに形成されたそれぞれの冷却水噴射孔16は、シース4の側面のほうを向いている。冷却水噴射部26Bの各冷却水供給管15Aも、冷却水噴射部26Bの各冷却水供給管15Aが面する各シース4のそれぞれの側面とは異なる、各シース4の側面に面するように、冷却水噴射部26Aの各冷却水供給管15Aと同様に配置される。
【0035】
冷却水噴射部26A,26Bのそれぞれの冷却水供給管15Aは、図4に示すように、制御棒1の軸方向の異なる位置で、シース4とハンドル5の溶接部36及この溶接部36付近に配置される。
【0036】
冷却水噴射部26A,26Bのそれぞれの冷却水供給管15A内にそれぞれ供給された冷却水が、各冷却水供給管15Aに形成された複数の冷却水噴射孔16からシース4及びハンドル5の側面に向かって噴射される。これらの冷却水噴射孔16からの冷却水の噴射によって、300℃に加熱された制御棒1の、溶融境界からシース4側に50mm及び溶融境界からハンドル5側に50mmのそれぞれの範囲を対象に、全てのシース4、及びハンドル5が局所的に急冷される。
【0037】
急冷のための冷却水噴射孔16からの冷却水の噴射は、シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36から50mmのそれぞれの領域でのシース4及びハンドル5の温度が噴射している冷却水の温度に低下するまで継続して行われる。噴射する冷却水として水道水を用いる。噴射する冷却水の温度は例えば20℃である。上記した領域を急冷するために冷却水噴射孔16から噴射される冷却水の温度は、100℃以下であればよい。
【0038】
シース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接ぶ36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲の温度が噴射された冷却水の温度まで低下した時点で、冷却水供給管15Aの冷却水噴射孔16からの冷却水の噴射を停止する。制御棒1の冷却水が噴射されていない領域では温度があまり低下しておらず高温になっているので、制御棒1全体が室温で均一な温度になるまで一定時間(例えば12時間)以上、シース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲が冷却水によって急冷された制御棒1が空気中に放置される。全体が室温(例えば20℃)まで均一に温度が低下した時点で制御棒1が完成し、本実施例の制御棒の製造方法が終了する。本実施例の制御棒の製造方法が終了したとき、制御棒1に、シース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲に、局所的な急冷(水冷)により引張残留応力が生じていない残留応力改善領域12Aが形成される。
【0039】
制御棒1の全体を300℃になるように一様に加熱し、上記したように、ハンドル5とシース4の溶接部36と、この溶接部36に接するハンドル2側及びシース8側の母材を前述のように局所急冷することにより、シース4の残留応力が零になるメカニズムを、図5を用いて説明する。図5は、シース4とハンドル5の溶接部36における溶接過程、その後の制御棒全体を均一に加熱した後の局所急冷過程に発生する弾塑性ひずみと応力の履歴を示している。
【0040】
図5において、経路OABCDは、溶接過程でシース4に引張残留応力が発生する履歴を示している。シース4とハンドル5の溶接による入熱により入熱部は温度が上昇する。温度上昇により入熱部には引張熱ひずみが発生する。引張熱ひずみが発生した領域では、変形の拘束がなければ膨張変形が起きる。一方、シース4とハンドル5の溶接部36では変形の拘束により圧縮応力が発生する。すなわち、溶接の入熱過程では、初期状態OからAを経由してBに到達する。ここで、Aでは材料の降伏が起き、経路ABでは圧縮塑性ひずみが発生する。溶接が終了して入熱が途絶えると、初期温度(室温、例えば20℃)になるように溶接部36の温度が降下する。すなわち、冷却過程では、BからCを経由してDに到達する。Dにおける応力が溶接残留応力である。
【0041】
次に、制御棒1の全体を一様加熱し、さらに局所急冷するときの履歴について説明する。溶接後の制御棒全体の均一な加熱では、加熱に伴う制御棒の体積膨張による変形を拘束しない状態で行う。すなわち、均一な加熱では、熱応力は新たに生じない。そのため、制御棒全体の均一な加熱が完了した時点で、応力と弾塑性ひずみの状態は図5ではDのままである。
【0042】
局所的な急冷(水冷)を開始すると、急冷された領域(制御棒1のシース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲)では温度降下に伴い熱ひずみが減少する。急冷された領域では、熱ひずみの減少によるシース4の収縮変形が拘束されるため、引張応力が発生し、圧縮塑性ひずみが減少する。急冷の停止及びその後の周囲の冷却により、応力・ひずみ履歴は、DからE1を経由してF1に到達する。F1における応力が、制御棒1の300℃の一様加熱及びその後における上記した局所的な急冷後におけるシース4の残留応力である。
【0043】
制御棒1のタイロッド2、シース4、ハンドル5及び下部支持部材6を構成するオーステナイト系ステンレス鋼のδフェライトは475℃以下の温度であれば脆化が生じない。このため、制御棒1を475℃に加熱し、例えば20℃の冷却水を前述したようにシース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近に噴射して、シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5を急冷すれば、シース4に高い圧縮応力を付与することができる。制御棒1を475℃まで一様加熱し、その後に、シース4及びハンドル5を前述のように局所的に急冷した場合には、制御棒1における局所的な急冷部の応力及びひずみの履歴は、図5においてDからE2を経てF2に到達する。すなわち、シース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲におけるシース4及びハンドル5に圧縮残留応力が付与される。ただし、シース4に発生した圧縮応力と自己平衡する引張応力がタイロッド2に発生する。
【0044】
制御棒1の横断面(図1のA−Aの位置)における残留応力分布を図6に示す。制御棒1の一様な加熱によって、シース4には破線27で示す引張応力が発生し、この引張応力と自己平衡する、破線28で示される圧縮応力がタイロッド2に発生する。制御棒1の一様な加熱の後において、前述したように、シース4とハンドル5の溶接部36、及びこの溶接部36付近(溶接部36からシース4側及びハンドル5側にそれぞれ50mmの各範囲)のシース4及びハンドル5を急冷(水冷)する。制御棒1全体を300℃に均一に加熱し、その後、シース4及びハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5を急冷することにより、溶接部36の圧縮塑性ひずみが減少するので、タイロッド2及びシース4の残留応力は、それぞれ図6において点線29(タイロッド2)及び点線30(シース4)19で示すように、小さくなる。また、制御棒1全体を475℃に均一に加熱し、前述したように、シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5を急冷した場合には、その溶接部36には引張塑性ひずみが発生し、シース4には実線31で示す圧縮応力が発生する。一方、この圧縮応力と自己平衡する、実線32で示す引張応力がタイロッド2に発生する。
【0045】
図7において、従来の制御棒(特開平9−61576号公報記載の制御棒)の軸方向における残留応力分布は破線33で示される。この従来の制御棒では、破線33で示されるように、シース4の上端部及び下端部にそれぞれ引張残留応力が形成される。シース4の軸方向全長をL0及びシース4内で引張残留応力が生じる領域の、制御棒の軸方向における長さをL1としたとき、従来の制御棒において、引張残留応力が生じる領域の、シース4の上端及び下端からのそれぞれの長さL1は0.2L0となる。特に、従来の制御棒では、炉心に挿入されている期間が長いシース4の上端部にき裂が発生する可能性がある。
【0046】
本実施例の制御棒の製造方法に基づいて製造された制御棒1では、制御棒1全体を均一に300℃に加熱した後に、前述したように、シース4とハンドル5の溶接部36等を急冷(水冷)したときに、シース4の上端部および下端部に生じる残留応力が、点線34で示すように、零になり、さらに、制御棒1全体を均一に475℃に加熱した後に、シース4とハンドル5の溶接部36等を急冷(水冷)したときに、圧縮残留応力が、実線35で示すように、シース4の上端部および下端部に付与される。制御棒1A全体の加熱温度は475℃以下であればよい。また、下限の加熱温度は300℃である。
【0047】
本実施例で製造された制御棒1のシース4には、図7に示すように、制御棒1の軸方向において、点線34または実線35で示される残留応力の分布が形成される。特に、実線35で示される、制御棒1の軸方向における残留応力分布は、圧縮残留応力である。このような圧縮残留応力が、中性子の照射量が多いシース4の上端部に形成されるため、シース4にき裂が生じる危険性を解消することができる。制御棒1は、特に、シース4の上端部の引張応力が減少しているので、シース4の上端部でき裂が発生することが防止できる。シースの下端部は、中性子の照射量はシースの上端部よりも少ないが、引張応力があるとSCCが発生し進展することがある。そのため、シースの下端部において引張応力の減少によりSCCの発生を防止できる。
【0048】
本実施例の制御棒の製造方法は、制御棒1全体を加熱した後に、シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5を、前述したように、水冷により急冷することによって、SCCに起因したき裂がシース4の上端部に発生することを防止することができる。
【0049】
本実施例では、急冷(水冷)する領域を、シース4とハンドル5の溶接部36、及びこの溶接部36からシース4側に50mm及び溶融境界からハンドル5側に50mmのそれぞれの範囲としたが、シース4とハンドル5の溶接部36、及びこの溶接部36からシース4側に10mm及びこの溶接部36からハンドル5側に10mmのそれぞれの範囲にしてもよい。溶融境界からシース4側に10mm及び溶融境界からハンドル5側に10mmのそれぞれの範囲は、シース4とハンドル5の溶接により圧縮塑性ひずみが発生している領域である。
【0050】
制御棒1全体の均一な加熱は、本実施例では加熱炉(例えば、電気炉)を用いて行っているが、加熱炉の替りに、例えばバーナーの火炎を用いて行っても良い。
【0051】
また、制御棒1全体の均一な加熱において、例えば高周波誘導加熱を利用することも可能である。高周波誘導加熱を用いることによって、制御棒1全体を短時間に高い温度に予熱することが可能である。この高周波誘導加熱において、例えば、制御棒1全体を一度に加熱できる高周波誘導加熱用のコイルを用いる。また、タイロッド2の軸方向に隣り合うタブ8間の長さを有する高周波誘導加熱用のコイルを用いてもよい。
【実施例2】
【0052】
本発明の他の実施例である実施例2の制御棒の製造方法を以下に説明する。
【0053】
まず、本実施例における制御棒の製造方法で製造された制御棒1Aの構造を、図8を用いて説明する。この制御棒1Aは、沸騰水型原子炉に適用され、沸騰水型原子炉の原子炉出力の制御に用いられる。制御棒1Aは、制御棒1において残留応力改善領域12Bをさらに形成した構成を有する。すなわち、制御棒1Aは、残留応力改善領域12A以外に残留応力改善領域12Bを形成している。制御棒1Aにおいて、残留応力改善領域12Bは複数のタブ8とタイロッド2のそれぞれの溶接部13及びこの溶接部13付近のタイロッド2及びシース4に形成されている。制御棒1Aの他の構成は制御棒1と同じである。
【0054】
シース4とタイロッド2の接合では、シース4に形成されている複数のタブ8とタイロッド2が溶接される。これらの溶接部13には引張残留応力が発生している。シース4におけるSCCの発生を抑制するためには、これらの溶接部13及び溶接部13付近に圧縮応力を付与することが望ましい。しかし、複数のタブ8とタイロッド2のそれぞれの溶接部13に圧縮応力が付与されると、それと自己平衡する引張応力が発生する。このため、引張応力を減少させ、好ましくは零にするのが良い。これは、実施例1と同様に、制御棒1A全体を均一に加熱し、シース4とタイロッド2の溶接部36と、この溶接部36に接するタイロッド2側の母材と、シース4側の母材を局所的に急冷(水冷)することにより達成することができる。
【0055】
実施例1と同様に、ハフニウム部材5A,5Bを各シース4内に配置して、それぞれのシース4とタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6との溶接が順次行われる。これらの溶接が完了した後、製造途中の中間構造体である制御棒1Aが電気炉内に収納されて加熱される。制御棒1Aの全体が300℃になったとき、制御棒1Aの加熱が停止され、制御棒1Aが電気炉から取り出される。そして、シース4とハンドル5の溶接部36、及びこの溶接部36からシース4側に50mm及びこの溶接部36からハンドル5側に50mmのそれぞれの範囲を、実施例1と同様に、冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aから冷却水を噴射させることにより急冷(水冷)する。シース4とハンドル5の溶接部36等の水冷と同時に、各タブ8とタイロッド2のそれぞれの溶接部13、及びこの溶接部13付近のシース4及びタイロッド2も冷却水の噴射により急冷(水冷)する。
【0056】
各タブ8とタイロッド2のそれぞれの溶接部13、及びこの溶接部13付近のシース4及びタイロッド2も冷却水の噴射により急冷(水冷)は、以下のようにして行われる。この急冷には図9に示される冷却水噴射装置18が用いられる。冷却水噴射装置18は、冷却水供給管18A及び冷却水供給管18Aに取り付けられた噴射ノズル19を有する。4本の冷却水供給管18Aが、タイロッド2の側に配置されてタイロッド2の4つの側面に別々に対向しており(図9参照)、制御棒1Aの軸方向に伸びている。制御棒1Aの軸方向に配置された1つのタブ8の位置における制御棒1Aの横断面において、タイロッド2とタブ8の8つの溶接部13が存在し、8個の噴射ノズル19がこれらの溶接部13に別々に対向させて配置される。これら8個の噴射ノズル19は、1つのタブ8の位置における制御棒1Aの横断面において、4本の冷却水供給管18Aにそれぞれ2個ずつ取り付けられている(図9参照)。各冷却水供給管18Aには、制御棒1Aの軸方向におけるタブ8の個数と同じ個数の噴射ノズル19が、冷却水供給管18Aの軸方向において一直線に並んで、制御棒1Aの軸方向において隣り合うタブ8の間隔と同じ間隔で取り付けられている。この結果、各冷却水供給管18Aには、それぞれ、8個の噴射ノズル19が設けられている。
【0057】
全体が300℃に加熱された制御棒1Aが電気炉から取り出された後、冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aがシース4とハンドル5の溶接部36付近に配置されるとき、冷却水噴射装置18の4本の冷却水供給管18Aが、前述したように、タイロッド2の4つの側面に別々に向き合うように配置される。冷却水供給管15Aに例えば20℃の冷却水を供給して冷却水噴射孔16からこの冷却水が噴射されるとき、各冷却水供給管18Aにも例えば20℃の冷却水が供給されて各冷却水供給管18Aに設けられた全ての噴射ノズル19から冷却水が噴射される。全ての噴射ノズル19から冷却水を噴射することによって、制御棒1Aにおけるタイロッド2と全てのタブ8の全ての溶接部13及びこれらの溶接部13付近のタイロッド及びタブ8が急冷(水冷)される。制御棒1Aにおいて、タイロッド2とタブ8の溶接部13の水冷は、シース4とハンドル5の溶接部36の水冷が行われているときに行われる。
【0058】
シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5のそれぞれの温度、及びタイロッド2とタブ8の溶接部13及びこの溶接部付近のタイロッド2及びタブ8の温度が冷却水の温度(例えば、20℃)まで低下したとき、制御棒1A全体の温度が初期温度(室温、例えば20℃)に低下するまで、制御棒1Aが放置される。制御棒1Aの全体の温度が初期温度に低下すると、タイロッド2とシース4のタブ8の溶接部36及びこの溶接部36付近のタイロッド2及びシース4の引張応力が減少して零になる。制御棒1Aの全体の温度が初期温度まで低下したとき、本実施例の制御棒の製造方法が終了し、制御棒1Aが完成する。
【0059】
本実施例によれば、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0060】
また、制御棒1A全体を475℃に一様に加熱してタイロッド2とシース4のタブ8の溶接部36及びこの溶接部36付近を水冷することにより、実施例1で制御棒1の全体を475℃に一様に加熱した後にシース4とハンドル5の溶接部36等を水冷したときと同様に、溶接部36、及びこの溶接部36付近のタイロッド2及びシース4に圧縮残留応力が付与される。
【実施例3】
【0061】
本発明の他の実施例である実施例3の制御棒の製造方法を以下に説明する。
【0062】
まず、本実施例における制御棒の製造方法で製造された制御棒1Bの構造を、図10を用いて説明する。この制御棒1Bは、沸騰水型原子炉に適用され、沸騰水型原子炉の原子炉出力の制御に用いられる。制御棒1Bは、制御棒1Aにおいて残留応力改善領域12Cをさらに形成した構成を有する。すなわち、制御棒1Bは、残留応力改善領域12A,12B以外に残留応力改善領域12Cを形成している。残留応力改善領域12Cは、シース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6に形成される。制御棒1Bの他の構成は制御棒1Aと同じである。
【0063】
実施例1と同様に、ハフニウム部材5A,5Bを各シース4内に配置して、それぞれのシース4とタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6との溶接が順次行われる。これらの溶接が完了した後、製造途中の中間構造体である制御棒1Bが電気炉内に収納されて加熱される。制御棒1Bの全体が一様に300℃になったとき、制御棒1Bの加熱が停止され、制御棒1Bが電気炉から取り出される。
【0064】
冷却水噴射装置15の冷却水供給管15A及び冷却水噴射装置18の冷却水供給管18Aが、実施例2と同様に、シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近に、及びタイロッド2とシース4の全てのタブ8の各溶接部13及びこれらの溶接部13付近に配置される。制御棒1Bにおいて、溶接部36及びこの溶接部36付近が、冷却水供給管15Aの各冷却水噴射孔16から噴射された例えば20℃の冷却水によって、溶接部13及びこの溶接部13付近が、冷却水供給管18Aの各噴射ノズル19から噴射された例えば20℃の冷却水によって、急冷(水冷)される。
【0065】
他の冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aが、全体が300℃に一様に加熱された後で電気炉から取り出された制御棒1Bのシース4と下部支持部材6の溶接部、及びこの溶接部付近に対向して配置される。他の冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aの制御棒1Bのシース4と下部支持部材6の溶接部付近への配置は、前述した冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aを溶接部36付近に配置する時期に行われる。他の冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aの各冷却水噴射孔16から例えば20℃の冷却水が噴射され、この冷却水によってシース4と下部支持部材6の溶接部、及びこの溶接部付近が急冷(水冷)される。他の冷却水噴射装置15によって冷却されるシース4と下部支持部材6の溶接部、及びこの溶接部付近は、シース4とハンドル5の溶接部を急冷する範囲と同じである、シース4と下部支持部材6の溶接部、及びこの溶接部からシース4側に50mm及びその溶接部から下部支持部材6側に50mmのそれぞれの範囲を意味する。
【0066】
他の冷却水噴射装置15によるシース4と下部支持部材6の溶接部等の急冷は、溶接部36及び13に対する急冷が行われているときに、行われる。
【0067】
シース4とハンドル5の溶接部36及びこの溶接部36付近のシース4及びハンドル5のそれぞれの温度、タイロッド2とタブ8の溶接部13及びこの溶接部13付近のタイロッド2及びタブ8の温度、及びシース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6の温度が、冷却水の温度(例えば、20℃)まで低下したとき、制御棒1A全体の温度が初期温度(室温、例えば20℃)に低下するまで、制御棒1Bが放置される。制御棒1Bの全体の温度が初期温度に低下すると、シース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6の引張応力も減少して零になる。制御棒1Bの全体の温度が初期温度まで低下したとき、本実施例の制御棒の製造方法が終了し、制御棒1Bが完成する。
【0068】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、シース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6を急冷しているので、シース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6の引張応力を低減することができる。
【0069】
また、制御棒1B全体を475℃に一様に加熱してシース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近を水冷することにより、実施例1で制御棒1の全体を475℃に一様に加熱した後にシース4とハンドル5の溶接部36等を水冷したときと同様に、シース4と下部支持部材6の溶接部及びこの溶接部付近のシース4及び下部支持部材6に圧縮残留応力が付与される。
【実施例4】
【0070】
本発明の他の実施例である実施例4の制御棒の製造方法を以下に説明する。
【0071】
まず、本実施例における制御棒の製造方法で製造された制御棒1Cの構造を、図11を用いて説明する。この制御棒1Cは、沸騰水型原子炉に適用され、沸騰水型原子炉の原子炉出力の制御に用いられる。制御棒1Cは、残留応力改善領域12A,12Cを形成した構成を有する。制御棒1Cの他の構成は制御棒1Aと同じである。しかし、制御棒1Cにおける残留応力改善領域12A,12Cの形成方法が、実施例3における制御棒1Bの残留応力改善領域12A,12Cの形成方法と異なっている。
【0072】
本実施例の制御棒の製造方法では、実施例1〜3において行った制御棒全体を一様に加熱することは行われず、図12に示される冷却水噴射装置15及び加熱装置22を有する加熱冷却装置を用いてシース4等の加熱及び急冷が行われる。この冷却水噴射装置15の構造は、実施例1で用いられる冷却水噴射装置15の構造と同じである。加熱装置22は、複数のガス噴出口24を形成した4本の燃料ガス供給管23を有する。燃料ガス供給管23は、冷却水噴射装置15の冷却水供給管15Aと同じように曲げられている。4本の燃料ガス供給管23は制御棒1Cの軸方向に配置され、燃料ガス供給管23の相互間に冷却水供給管15Aがそれぞれ配置されている。本実施例で用いられる加熱冷却装置は、実施例1で用いられる冷却水噴射装置15と同様に、一対の加熱冷却部を有する。これらの加熱冷却部は、燃料ガス供給管23を有している以外は、冷却水噴射部26A,26Bと同じ構成を有する。
【0073】
実施例1と同様に、ハフニウム部材5A,5Bを各シース4内に配置して、それぞれのシース4とタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6との溶接が順次行われる。これらの溶接が完了した後、加熱冷却装置の冷却水噴射装置15の冷却水噴射部26A,26Bのそれぞれの冷却水供給管15A、及びこの加熱冷却装置の加熱装置22の各燃料ガス供給管23が、実施例1における冷却水噴射装置15と同様に、製造途中の中間構造体である制御棒1Cのシース4とハンドル5の溶接部付近でシース4及びハンドル5の側面に対向させて配置される。他の加熱冷却装置の冷却水噴射装置15の冷却水噴射部26A,26Bのそれぞれの冷却水供給管15A、及びこの加熱冷却装置の加熱装置22の各燃料ガス供給管23も、同様に、制御棒1Cのシース4と下部支持部材6の溶接部付近でシース4及び下部支持部材6の側面に対向させて配置される。
【0074】
まず、シース4とハンドル5の溶接部付近、及びシース4と下部支持部材6の溶接部付近で、それぞれの加熱冷却装置の各燃料ガス供給管23の複数のガス噴出口24から燃料ガスを噴出させ、図示されていない点火装置を用いて噴出している燃料ガスに着火させ、火炎を発生させる。これらのガス噴出口24から噴出する燃料ガスの火炎によって、シース4とハンドル5の溶接部付近において複数の加熱位置21でシース4及びハンドル5が加熱され、さらに、シース4と下部支持部材6の溶接部付近において複数の加熱位置21でシース4及び下部支持部材6が加熱される。それぞれの加熱位置21に対向してガス噴出口24がそれぞれ配置されている。シース4に比較してタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6の厚みが厚いので、シース4、タイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6にそれぞれ単位表面積あたり同じ個数の加熱位置21を設けたのでは、シース4の温度よりもタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6の温度が低くなる。このため、単位表面積あたりのガス噴出口24の個数をシース4よりもタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6で多くし、単位表面積あたりの加熱位置21の個数を、シース4よりもタイロッド2、ハンドル5及び下部支持部材6で多くしている。
【0075】
さらに、加熱位置21のピッチは、シース4とハンドル5の溶接部付近においてはこの溶接部から離れるほど、また、シース4と下部支持部材6の溶接部付近においてはこの溶接部から離れるほど、大きくなっている。それぞれの溶接部から離れるほど、加熱位置21のピッチが大きくなるので、加熱領域の熱ひずみの分布は、加熱される溶接部から加熱されない領域に向かって緩やかな勾配で減少する。このため、タイロッド2、シース4、ハンドル5及び下部支持部材6において、加熱過程における温度分布の局所的な不連続により熱応力が発生することを抑えることができる。
【0076】
加熱装置22より加熱される制御棒1Cの温度の分布は、制御棒1Cの加熱領域に取り付けた熱電対により測定された温度に基づいて監視される。加熱過程で熱電対により測定された制御棒1Cの温度が、設定温度(例えば300℃)に到達したとき、アラームが発生し、作業者にシース4とハンドル5の溶接部付近、及びシース4と下部支持部材6の溶接部付近のそれぞれの温度が設定温度になったことを知らせる。作業員は、各燃料ガス供給管23への燃料ガスの供給を停止し、加熱装置22よる制御棒1Cの加熱を終了する。
【0077】
その後、各冷却水供給管15Aに例えば20℃の冷却水を供給してそれぞれの冷却水供給管15Aに形成された複数の冷却水噴射孔16から噴射させる。それぞれの冷却水噴射口16から噴射された冷却水は、それぞれの加熱位置21付近で各冷却水噴射口16が別々に対向しているタイロッド2、シース4、ハンドル5及び下部支持部材6を急冷(水冷)する。
【0078】
本実施例によれば、制御棒1C全体を加熱しないで加熱装置22を用いてシース4とハンドル5の溶接部付近、及びシース4と下部支持部材6の溶接部付近を局部的に加熱して、各加熱領域が設定温度まで上昇した後、冷却水噴射装置15を用いてシース4等を急冷することができる。特に、加熱装置22の各燃料ガス供給管23と冷却水噴射装置15の各冷却水供給管15Aを交互に配置しているので、加熱及び急冷を効率良く行うことができ、タイロッド2、シース4、ハンドル5及び下部支持部材6において引張応力の低減をほぼ一様に行うことができる。
【0079】
シース4とハンドル5の溶接部付近、及びシース4と下部支持部材6の溶接部付近の加熱温度は、475℃以下であればよい。
【0080】
本実施例は、実施例2においてタイロッド2とタブ8の溶接部付近を急冷することによって生じる効果を除いて、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
【0081】
実施例1〜4では、加熱された制御棒の該当する構造部材の急冷に冷却水を用いているが、この急冷を冷却空気を用いて行ってもよい。冷却空気の温度は、室温(例えば20℃)から50℃の範囲であれば良い。
【符号の説明】
【0082】
1,1A,1B,1C:制御棒、2:タイロッド、3:ブレード、4:シース、5:ハンドル、5A,5B:ハフニウム部材、6:下部支持部材、8:タブ、12A,12B,12C:残留応力改善領域、13,20:溶接部、15,18:冷却水噴射装置、15A,18A:冷却水供給管、16:冷却水噴射孔、19:噴射ノズル、22:加熱装置、26A,26B:冷却水噴射部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイロッドの上端に取り付けられた横断面が十字形をしているハンドルに複数の中性子吸収部材を取り付け、前記タイロッドの下端に横断面が十字形をしている下部支持部材に複数の他の前記中性子吸収部材を取り付け、
前記タイロッドから四方に伸びるように配置されて内部に前記ハンドルに取り付けられた前記複数の中性子吸収部材及び前記下部支持部材に取り付けられた前記複数の他の中性子吸収部材を配置されたシースであって、横断面がU字状をしている4枚の前記シースのそれぞれの側端部を前記タイロッドに溶接して取り付け、
前記シースの上端部を前記ハンドルに溶接にて取り付け、前記シースの下端部を前記下部支持部材に溶接にて取り付け、
前記タイロッド、前記ハンドル、前記下部支持部材、及び内部に前記複数の中性子吸収部材が配置された前記シースが溶接にて一体化されて構成される制御棒の中間構成体の全体を加熱し、
この加熱の後で、前記シースと前記ハンドルの第1溶接部、及びこの第1溶接部と接する前記シース及び前記ハンドルのそれぞれの一部を水冷及び空冷のいずれかにより冷却することを特徴とする制御棒の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶接部に接する前記シースの一部は前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって50mmの範囲であり、前記第1溶接部に接する前記ハンドルの一部は前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって50mmの範囲である請求項1に記載の制御棒の製造方法。
【請求項3】
前記第1溶接部に接する前記シースの一部は前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって10mmの範囲であり、前記第1溶接部に接する前記ハンドルの一部は前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって10mmの範囲である請求項2に記載の制御棒の製造方法。
【請求項4】
前記加熱の後で、前記タイロッドと前記タイロッドの軸方向において前記シースに形成された複数のタブの第2溶接部、及びこの第2溶接部と接する前記タイロッド及び前記シースのそれぞれの一部を水冷及び空冷のいずれかにより冷却する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の制御棒の製造方法。
【請求項5】
前記加熱の後で、前記シースと前記下部支持部材の第3溶接部、及びこの第3溶接部と接する前記シース及び前記下部支持部材のそれぞれの一部を水冷及び空冷のいずれかにより冷却する請求項4に記載の制御棒の製造方法。
【請求項6】
前記中間構成体の加熱が、この中間構成体を加熱炉内に入れて行う請求項1ないし5のいずれかの1項に記載の制御棒の製造方法。
【請求項7】
前記中間構成体の加熱が、高周波誘導加熱装置により行われる請求項1ないし5のいずれかの1項に記載の制御棒の製造方法。
【請求項8】
前記中間構成体が、前記加熱により、300℃〜475℃の範囲に加熱される請求項1ないし7のいずれかの1項に記載の制御棒の製造方法。
【請求項9】
タイロッドの上端に取り付けられた横断面が十字形をしているハンドルに複数の中性子吸収部材を取り付け、前記タイロッドの下端に横断面が十字形をしている下部支持部材に複数の他の前記中性子吸収部材を取り付け、
前記タイロッドから四方に伸びるように配置されて内部に前記ハンドルに取り付けられた前記複数の中性子吸収部材及び前記下部支持部材に取り付けられた前記複数の他の中性子吸収部材を配置されたシースであって、横断面がU字状をしている4枚の前記シースのそれぞれの側端部を前記タイロッドに溶接して取り付け、
前記シースの上端部を前記ハンドルに溶接にて取り付け、前記シースの下端部を前記下部支持部材に溶接にて取り付け、
前記タイロッド、前記ハンドル、前記下部支持部材、及び内部に前記複数の中性子吸収部材が配置された前記シースが溶接にて一体化されて構成される制御棒の中間構成体の、前記シースと前記ハンドルの第1溶接部、及びこの第1溶接部と接する前記シース及び前記ハンドルのそれぞれの一部を加熱し、
この加熱の後で、前記シースと前記ハンドルの第1溶接部、及びこの第1溶接部と接する前記シース及び前記ハンドルのそれぞれの一部を水冷及び空冷のいずれかにより冷却することを特徴とする制御棒の製造方法。
【請求項10】
前記第1溶接部に接する前記シースの一部は前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって50mmの範囲であり、前記第1溶接部に接する前記ハンドルの一部は前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって50mmの範囲である請求項9に記載の制御棒の製造方法。
【請求項11】
前記第1溶接部に接する前記シースの一部は前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって10mmの範囲であり、前記第1溶接部に接する前記ハンドルの一部は前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって10mmの範囲である請求項10に記載の制御棒の製造方法。
【請求項12】
前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって50mmの範囲に存在する前記シースの部分、及び前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって50mmの範囲に存在する前記ハンドルの部分のそれぞれに対する前記加熱が、互いに離れている複数の加熱位置において行われる請求項10に記載の制御棒の製造方法。
【請求項13】
前記第1溶接部から前記シースの下端に向かって10mmの範囲に存在する前記シースの部分、及び前記第1溶接部から前記ハンドルの上端に向かって10mmの範囲に存在する前記ハンドルの部分のそれぞれに対する前記加熱が、互いに離れている複数の加熱位置において行われる請求項11に記載の制御棒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−50399(P2013−50399A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188854(P2011−188854)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)