説明

制振ダンパー

【課題】減衰ブロックの断面形状によって振動吸収時に捻れ変形を生じ、剪断変形のみを生じる構造よりも減衰性能に優れた制振ダンパーを提供する。
【解決手段】減衰ブロック14の側面14Cは天面14Aおよび底面14Bに対して垂直ではなく、所定の角度θをもって傾いている。これにより減衰ブロック14と剛性板12A、12Bとの接着面16A、16Bの図心は幅方向に距離δだけオフセットした構造とされ、矢印20Aおよび20Bのように外力(引張力)が印加された際には減衰ブロック14に捻れ変形が発生し、捻れ変形を起こさず純粋に剪断変形のみ生じる減衰ブロックを用いた場合に比較して、捻れ変形の分だけ減衰量が増加するので、振動を減衰する制振ダンパーとしての性能向上が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振ダンパーに関し、詳しくは、建築物等固定構造物の振動を低減するための制振効果を備えた制振ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築、土木分野において地震や風により振動して変位が集中する建築物等の固定構造物の建築構造物間には、これらの振動を低減するために何らかのエネルギー吸収装置すなわち制振ダンパーが使用されている。制振ダンパーとしては、摩擦によるエネルギー吸収を利用した摩擦ダンパーや粘弾性材料を用いた粘弾性ダンパー等が挙げられる。
【0003】
また制振用ダンパーには、交通振動などの小さな変形域で大きな減衰力を発揮する機能と、大地震などの大きな変形に対して剪断歪みが大きくなり、変位追従能力を発揮する機能との両方を兼ね備えていることが要求されている。
【0004】
しかしゴム等の弾性部材の剪断変形を用いて振動を吸収(減衰)させる場合、素材の物性において減衰量を増加させようとすれば線型性(ひずみ依存性)が低下する、温度依存性が増加し温度変化に対して性能が不安定になる等の問題があり、素材自体の物性で減衰性能を向上させるには限界があった。
【0005】
粘弾性を有する材料と、弾性を有する材料とを組み合わせた制振材料を使用する制振用ダンパーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし当該構成は2種類の材料(粘弾性材料と弾性材料)が積層されるため、その材料同士の接着が困難である上、積層されるので厚みが増し、物理的に安定していないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−197969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは剛性板の間に減衰性を有する材料(減衰ブロック)を挟んだ構造の制振ダンパーにおいて、剛性板の振動方向より見た減衰ブロックの断面形状が平行四辺形、すなわち減衰ブロックと剛性板との接着面の図心が引っ張り幅方向にオフセットした構造とすれば、単純に直方体形状の減衰ブロックを剛性板で挟んだ構造に比較して振動減衰量が増加するという知見を得た。
【0008】
すなわち、減衰ブロックの断面形状が平行四辺形等であれば、減衰ブロックと剛性板との接着面が平面視でオフセットするため、振動吸収の際には減衰ブロックに図4に示す矢印24のようにねじりトルクが発生し、捻れ変形が生じる。
【0009】
このため、単純な直方体形状などの減衰ブロックが振動吸収の際に剪断変形による剪断力のみ生じるのに対して、減衰ブロックと剛性板との接着面が平面視でオフセットする構造であれば矢印24のようなねじりトルクが発生し、剪断変形による剪断力と併せて振動減衰量を全体としてより大きなものとすることができることがわかった。
【0010】
本発明は上記事実を考慮して、減衰ブロックの断面形状によって振動吸収時に捻れ変形を生じ、剪断変形のみ生じる構造よりも減衰性能に優れた制振ダンパーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、第1の剛性板と、前記第1の剛性板と間隔を空けて対向し、厚さ方向より見て一部重なって配置された第2の剛性板と、前記第2の剛性板に対向する前記第1の剛性板の一の面と、これに対向する前記第2の剛性板の一の面とに接着された減衰ブロックと、を備え、前記第1の剛性板と前記第2の剛性板とは、各々が前記一の面に沿って互いに振動吸収方向に移動可能に支持され、前記第1の剛性板と前記第2の剛性板の厚さ方向より見て、前記減衰ブロックと前記第1の剛性板の一の面との接着面の図心と、前記減衰ブロックと前記第2の剛性板の一の面との接着面の図心とが、前記振動吸収方向より見て前記振動吸収方向と直交する方向にオフセットしていることを特徴とする。
【0012】
上記の発明では、減衰ブロックと第1の剛性板との接着面の図心と、減衰ブロックと第2の剛性板との接着面の図心とが、振動吸収方向と直交する方向(幅方向)にオフセットしているため、振動を吸収する際には減衰ブロックが剪断変形のみならず、捻れ変形をも起こすため、単純な直方体形状などの減衰ブロックを用いた構造よりも減衰量の大きな制振ダンパーとすることができ、また減衰ブロックの素材を変更せず形状の変更で性能向上が可能であるためコストを抑えることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記減衰ブロックは前記振動吸収方向から見た断面が平行四辺形となる形状をしていることを特徴とする。
【0014】
上記の発明では、減衰ブロックの断面が平行四辺形となる形状をしているため、減衰ブロックの形状が単純で回転対称となり、工程の単純化および製造時の取付けミスを防止し、製造時の歩留まりの優れた制振ダンパーとすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記第2の剛性板の、前記減衰ブロックとの接着面の裏面に、更に他の減衰ブロックが接着され、前記他の減衰ブロックに接着された第3の剛性板と前記第1の剛性板とで、前記第2の剛性板を、前記減衰ブロックおよび前記他の減衰ブロックを介して挟んだことを特徴とする。
【0016】
上記の発明では、第2の剛性板にさらに他の減衰ブロックを接着し、他の減衰ブロックに接着した第3の剛性板と第1の剛性板とで、それぞれ減衰ブロックを介して第2の剛性板を挟んだ形状としているので、他の減衰ブロックが追加された分だけ減衰量の大きな制振ダンパーとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、減衰ブロックの断面形状によって振動吸収時に捻れ変形を生じ、剪断変形のみを生じる構造よりも減衰性能に優れた制振ダンパーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーの構造を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーの構造を示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーの構造を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーの構造を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーに用いられる減衰ブロックの構造を示す概念図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る制振ダンパーに用いられる減衰ブロックと従来の減衰ブロックとの減衰性能を比較する概念図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る制振ダンパーの構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。なお、以下の実施形態で得られた制振ダンパーは、柱や梁部材その他の建築構造物間に利用され、特に橋梁などの振動吸収部材として好適なものである。
【0020】
[第1実施形態]
【0021】
まず、第1実施形態について説明する。
【0022】
図1〜図4に示すように、本実施形態では、鋼材などで形成され高い剛性をもつ一対の剛性板12Aおよび12Bと、剛性板12Aと12Bとの間に設けられ両者と接着された減衰ブロック14と、から制振ダンパー10が構成されている。
【0023】
図1は平面図、図2は側面図、図3は制振ダンパー10の動作(伸縮)方向から見た矢視図、図4は斜視図である。
【0024】
剛性板12A、12Bは例えば鋼板のように十分な剛性を備えた板材であり、図1〜4に示すように一部平面視で重なりつつ所定の間隔を空けて面同士を対向させている。減衰ブロック14は図3、4に示すように略平行四辺形の断面をもつ、ゴム等の減衰性を有する材料からなるブロックであり、略平行な天面14Aおよび底面14Bで剛性板12A、12Bと接着され、接着面16A、16Bを形成している。
【0025】
これに対して図3に示すように減衰ブロック14の側面14Cは天面14Aおよび底面14Bに対して垂直ではなく、所定の角度θをもって傾いている。角度θについて特に規定はないが、制振ダンパー10としての減衰性能の観点から、10°<θ<50°程度が好ましい。
【0026】
これにより減衰ブロック14と剛性板12A、12Bとの接着面16A、16Bの図心は図1および図3のように幅方向に距離δだけオフセットした構造とされ、図1、2、4に示す矢印20Aおよび20Bのように外力(引張力)が印加された際には減衰ブロック14が変形することでこれを吸収する。
【0027】
このとき、減衰ブロック14は外力の影響しない状態で初期の形状(略平行四辺形断面)とされている。すなわち、例えば直方体形状のゴムブロックに外力を印加し、略平行四辺形断面の形状として剛性板12A、12Bの間隙に接着する構造ではゴムブロック内に常に内部応力が生じている状態となり、材料の疲労等の観点から好ましくない。このため減衰ブロック14は剛性板12A、12Bに接着される以前の部品単体の状態で略平行四辺形断面とされている必要がある。
【0028】
次に本実施形態の作用について説明する。
【0029】
図1〜4に示すように剛性板12A、12Bに矢印20A、20Bのように引張力が印加されると、接着面16A、16Bにより減衰ブロック14は剪断変形し、剪断力が発生する。この矢印20A、20Bおよびこれと逆方向の外力の繰り返しが振動であり、減衰ブロック14は剪断変形で生じる剪断力により上記の振動を減衰させる。
【0030】
このとき、図1および図3に示すように接着面16A、16Bの図心CA、CBは距離δだけオフセット(偏芯)しているため、減衰ブロック14の天面14Aと底面14Bとの間には矢印24で示すようなねじりトルクが発生し、減衰ブロック14には捻れ変形が生じる。
【0031】
すなわち図5に示すように天面14Aには矢印22A、底面14Bには矢印22Bのような外力が印加されるため、減衰ブロック14に捻れ変形が発生し、例えば直方体形状などのように捻れ変形を起こさず純粋に剪断変形のみ生じる減衰ブロックを用いた場合に比較して、捻れ変形の分だけ減衰量が増加するので、振動を減衰する制振ダンパーとしての性能向上が可能となる。
【0032】
例えば図6に示すように、引張力が印加されるX方向(振動方向)の変位量と荷重との関係を従来のように直方体形状の減衰ブロックを使用した従来例(破線)と本願発明(実線)とで比較すれば、同じX方向の変位量でも減衰する荷重を大きくすることができ、制振ダンパーとしての性能も両者の面積差の分だけ向上させることができる。
【0033】
このとき、引張力が印加されるX方向(振動方向)から見て接着面16A、16Bの図心CA、CBがオフセット(偏芯)している必要があるため、剛性板12A、12Bの移動方向は図心CA、CBを結ぶ線分と平行となることはない。
【0034】
[第2実施形態]
【0035】
次に、第2実施形態について説明する。図7に示すように、本実施形態では、第1実施形態に比べ、剛性板12Aの先端が2枚の剛性板12A1と12A2とに分岐し、剛性板12Bを厚さ方向で挟む形状とされている。
【0036】
すなわち、剛性板12A1と剛性板12Bの一の面との間には減衰ブロック141が設けられ、さらに剛性板12A2と剛性板12Bの他の面(減衰ブロック141が接着された面の裏側面、裏面)との間には減衰ブロック142が設けられている。
【0037】
これにより剛性板12Aと12Bは2個の減衰ブロック141、142で接続されることになり、さらに減衰する荷重を大きくすることができ、制振ダンパーとしての性能も向上させることができる。
【0038】
このとき、減衰ブロック141、142の一方は通常の直方体形状等のゴムブロックでもよい。または減衰ブロック141、142の両方を第1実施形態のように接着面の図心が平面視でオフセットした構造とされていてもよい。必要とされる制振性能やコスト、大きさ等の諸条件によって上記の組み合わせを適宜使い分けることができる。また、剛性板12Bも2枚に分岐し、減衰ブロックを更に追加してもよく、あるいは剛性板の枚数を更に増やしてもよい。
【0039】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。例えば、減衰ブロックを略平行四辺形断面とせず台形断面とするなど、接着面の図心がオフセット(偏芯)している条件を満たせば減衰ブロックに捻れ変形が発生するので、種々の断面形状とすることができる。
【符号の説明】
【0040】
10 制振ダンパー
12A 剛性板
12B 剛性板
14 減衰ブロック
14A 天面
14B 底面
14C 側面
16A 接着面
141 減衰ブロック
142 減衰ブロック
δ 距離
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の剛性板と、
前記第1の剛性板と間隔を空けて対向し、厚さ方向より見て一部重なって配置された第2の剛性板と、
前記第2の剛性板に対向する前記第1の剛性板の一の面と、これに対向する前記第2の剛性板の一の面とに接着された減衰ブロックと、を備え、
前記第1の剛性板と前記第2の剛性板とは、各々が前記一の面に沿って互いに振動吸収方向に移動可能に支持され、
前記第1の剛性板と前記第2の剛性板の厚さ方向より見て、前記減衰ブロックと前記第1の剛性板の一の面との接着面の図心と、前記減衰ブロックと前記第2の剛性板の一の面との接着面の図心とが、前記振動吸収方向より見て前記振動吸収方向と直交する方向にオフセットしていることを特徴とする制振ダンパー。
【請求項2】
前記減衰ブロックは前記振動吸収方向から見た断面が平行四辺形となる形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー。
【請求項3】
前記第2の剛性板の、前記減衰ブロックとの接着面の裏面に、更に他の減衰ブロックが接着され、前記他の減衰ブロックに接着された第3の剛性板と前記第1の剛性板とで、前記第2の剛性板を、前記減衰ブロックおよび前記他の減衰ブロックを介して挟んだことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の制振ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−41939(P2012−41939A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180783(P2010−180783)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】