説明

制振塗料組成物

【課題】塗膜の制振性を高めることの容易な制振塗料組成物を提供する。
【解決手段】制振塗料組成物には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性を高めるためのマイカとが含有されている。制振塗料組成物には、さらに炭酸カルシウムと、無機中空粒子と、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなることで熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとが含有されている。マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系樹脂分散液と、塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有する制振塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水系分散媒中に樹脂粒子が分散している水系樹脂分散液を利用した制振塗料組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、制振塗料組成物において、無機充填剤等が配合可能な成分として記載されている。また、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなることで熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルを含有する制振塗料組成物が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−262137号公報
【特許文献2】特開2008−248187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、熱膨張性マイクロカプセルを含有させるとともに樹脂粒子に対して特定の無機充填剤を特定の含有量とすることで制振性能が高まることを見出すことでなされたものである。
【0005】
本発明の目的は、塗膜の制振性を高めることの容易な制振塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の制振塗料組成物は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有する制振塗料組成物であって、炭酸カルシウムと、無機中空粒子と、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなることで熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとを含有してなり、前記マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、前記樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%であることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制振塗料組成物において、前記無機中空粒子は、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン及びフライアシュバルーンから選ばれる少なくとも一種であることを要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物において、前記樹脂粒子として、アクリル系樹脂粒子を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗膜の制振性を高めることの容易な制振塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における制振塗料組成物には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性を高めるためのマイカとが含有されている。制振塗料組成物には、炭酸カルシウムと、無機中空粒子と、熱膨張性マイクロカプセルとが含有されている。マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%である。
【0011】
樹脂粒子を構成する高分子材料としては、例えばアクリル系樹脂、アクリル/スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル/アクリル系樹脂、エチレン/酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン共重合ゴム、スチレン/ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、これらの高分子材料は変性体であってもよい。
【0012】
樹脂粒子は、単独種の高分子材料から形成されていてもよいし、複数種の高分子材料から形成されていてもよい。さらに、水系樹脂分散液には、これらの高分子材料から構成される樹脂粒子を単独で含有させてもよいし、複数種の樹脂粒子を含有させてもよい。
【0013】
高分子材料の中でも、制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整することが容易であるという観点からアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、これらの単独重合体の混合物、並びにこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。
【0014】
樹脂粒子の全量に対するアクリル系樹脂粒子の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。最も好ましくは樹脂粒子の全量がアクリル系樹脂粒子である。
【0015】
樹脂粒子を分散する水系分散媒としては、水、及び水と一価アルコールとの混合液が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。水系樹脂分散液は、例えば乳化剤を含有した水溶液中に単量体及び重合開始剤を滴下する乳化重合等の周知の方法に従って得ることができる。
【0016】
マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子は、塗膜の制振性を高めるために含有される。マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量を、樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%の範囲とすることで、塗膜の制振性を高めることができる。
【0017】
マイカとしては、天然マイカ及び合成マイカが挙げられる。なお、マイカは、膨潤性マイカであってもよいし、非膨潤性マイカであってもよい。マイカの平均粒径は、例えば10〜50μmの範囲が好適である。
【0018】
マイカの含有量は、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは50〜200質量部である。
炭酸カルシウムは、粉体状をなしたものであれば特に限定されない。炭酸カルシウムとしては、例えば軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムが挙げられる。こうした炭酸カルシウムは、単独種を含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。炭酸カルシウムの平均粒径は、0.5〜25μmの範囲が好適である。なお、炭酸カルシウムの平均粒径は、レーザー光散乱法で求められる粒度の積算分布において、50%重量平均粒径(D50値)である。炭酸カルシウムの含有量は、組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して好ましくは5〜50質量部である。
【0019】
無機中空粒子としては、セラミックス等の無機物から形成される中空粒子であれば特に限定されない。無機中空粒子としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン及びフライアシュバルーンから選ばれる少なくとも一種が好ましい。無機中空粒子の平均粒径は、例えば30〜150μmの範囲が好適である。なお、無機中空粒子の平均粒径は、レーザー光散乱法で求められる粒度の積算分布において、50%重量平均粒径(D50値)である。
【0020】
無機中空粒子の含有量は、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜50質量部である。無機中空粒子の含有量が、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上の場合、塗膜の制振性能を高める効果が顕著に得られ易くなる。一方、無機中空粒子の含有量が、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して100質量部を超える場合、制振塗料組成物の流動性が低下することで塗布し難くなるおそれがある。
【0021】
熱膨張性マイクロカプセルは、無機中空粒子等とともに含有されることで、塗膜の制振性を高める。熱膨張性マイクロカプセルは、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包して構成されている。こうした熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、ポリマーシェルが軟化するとともに熱膨張剤の体積が増大することで、膨張したカプセルを形成する。熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えば松本油脂製薬(株)製のマツモトマイクロスフェアー(商品名)、日本フィライト(株)のエクスパンセル(商品名)等の市販品を使用することができる。熱膨張性マイクロカプセルは、単独種を含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は、制振塗料組成物中において急激な体積膨張を抑制することで塗膜の発泡を均一にするという観点から、100℃以上であることが好ましい。なお、最高膨張温度は、熱膨張性マイクロカプセルを昇温した際に、体積が最も大きくなる温度に相当する。
【0022】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、95℃以下であることが好ましい。この膨張開始温度は、熱膨張性マイクロカプセルを昇温したときに、そのカプセルの膨張が開始する温度に相当する。この膨張開始温度は95℃以下の場合、上述した最高膨張温度との温度差が大きくなるため、例えば100℃以上の温度環境下で制振塗料組成物を加熱した場合に、熱膨張性マイクロカプセルが急激に膨張することが抑制される。また、上記膨張開始温度は、制振塗料組成物の保存時における熱安定性を確保するという観点から70℃以上であることが好ましい。
【0023】
本明細書において、熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度及び膨張開始温度は、熱機械分析装置を用いた熱機械分析法(TMA法)にて測定された温度である。熱機械分析装置の測定条件は、プローブ鉛直方向の荷重を10μN、測定温度範囲を20〜250℃、及び昇温速度を20℃/分としている。
【0024】
熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。熱膨張性マイクロカプセルの含有量が、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して0.1質量部以上の場合、塗膜の制振性を高める効果が顕著に得られ易くなる。一方、制振塗料組成物中に含まれる樹脂粒子100質量部に対して10質量部を超える場合、塗膜の剛性が低下するおそれがある。
【0025】
制振塗料組成物中における水分の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して好ましくは30〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部である。この水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して30質量部未満の場合、樹脂粒子の分散性が十分に確保されないおそれがある。一方、水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して300質量部を超える場合、制振塗料組成物の乾燥速度が遅延することで効率的に塗膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0026】
制振塗料組成物には、必要に応じて、制振性付与成分、無機充填剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、安定剤、発泡剤、滑剤、分散剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、粘度調整剤等を必要に応じて加えることができる。
【0027】
制振性付与成分としては、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、正リン酸エステル系化合物及び芳香族第二級アミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が挙げられる。
【0028】
無機充填剤としては、例えばタルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ガラス、シリカ、アルミナ、アルミニウム、水酸化アルミニウム、鉄、アスベスト、酸化チタン、酸化鉄、珪藻土、ゼオライト、フェライト等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
【0029】
制振塗料組成物は、適用物に塗布された後に乾燥されることで適用物に塗膜が形成される。塗膜には、マイカ、炭酸カルシウム、無機中空粒子及び熱膨張性マイクロカプセルが含有されるとともに、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、上述した範囲とされている。こうした成分の複合により、優れた制振性能を発揮する。
【0030】
制振塗料組成物の制振性能は、塗膜の損失係数又は損失弾性率によって示される。つまり、塗膜の損失係数の値又は損失弾性率の値が高ければ高いほど、制振性能に優れることが示される。塗膜の損失係数は周知の損失係数測定装置によって測定することができるとともに損失弾性率は周知の動的粘弾性測定装置により測定することができる。
【0031】
制振塗料組成物は、振動エネルギーの抑制について要求される各種分野において利用することができる。制振塗料組成物の適用分野としては、例えば自動車、壁材、床材、屋根材、フェンス等の建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。
【0032】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)制振塗料組成物には、マイカ、炭酸カルシウムと、無機中空粒子及び熱膨張性マイクロカプセルが含有されるとともに、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%である。このため、塗膜の制振性能を高めることの容易な制振塗料組成物を提供することができる。
【0033】
(2)無機中空粒子としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン及びフライアシュバルーンから選ばれる少なくとも一種が好適に用いられる。
【0034】
(3)樹脂粒子としてアクリル系樹脂粒子を含むことで、制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整することが容易であるため、常温付近において優れた制振効果を発揮させることができる。
【0035】
(4)制振塗料組成物は、無機中空粒子が含有されているため、中空部を有していない粒子を含有させた場合よりも、塗膜の密度を低下させることが容易である。従って、所定の制振性能を発揮させる場合に、適用物の軽量化を図ることもできるようになる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜3)
表1に示されるように、樹脂粒子の水系樹脂分散液にマイカ、炭酸カルシウム、無機中空粒子、熱膨張性マイクロカプセル等を配合するとともに、それら各成分を混合することで制振塗料組成物を調製した。樹脂粒子は、アクリル系樹脂粒子であり、マイカの平均粒径は47μmである。炭酸カルシウムの平均粒径1.3μmである。無機中空粒子は、フライアシュバルーン(巴工業株式会社製、セノライト(商品名)FS−150、平均粒径51μm)である。また、熱膨張性マイクロカプセルは、マツモトマイクロスフェアー(商品名)F−36(松本油脂製薬(株)製、最高膨張温度105〜120℃、膨張開始温度75〜85℃)である。なお、制振塗料組成物には、その他の成分としてゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、発泡剤、着色剤及び粘度調整剤が樹脂粒子に対して所定量含有されている。
【0037】
(比較例1〜4)
表2に示されるように、組成を変更した以外は各実施例と同様にして制振塗料組成物を調製した。
【0038】
<塗膜試験片の形成>
各例の制振塗料組成物を幅30mm×長さ300mm×厚さ0.8mmの鋼板の上に面密度が一定になるように塗布した。その鋼板を140℃の恒温槽にて30分間乾燥させた後、恒温槽から取り出して室温まで冷却することで、試験片を作製した。各例の制振塗料組成物について、乾燥時間を43分間に変更した以外は、同様にして試験片を作製した。
【0039】
<損失係数の測定>
各例の試験片について、損失係数測定装置(CF5200タイプ、小野測器(株)製)を用いて、中央加振法にて、20℃、40℃及び60℃における損失係数及び損失係数のピーク値を測定した。なお、損失係数の値は周波数200Hzの値である。損失係数の測定結果を表1及び表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

表1及び表2に示されるように、各実施例では、各比較例よりも損失係数のピーク値が高まっていることが分かる。比較例1及び3では、無機中空粒子が含有されていないため、これら比較例の損失係数のピーク値は、各実施例よりも低い値となっている。比較例2及び4では、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の含有量が上述した範囲外であるため、これら比較例の損失係数のピーク値は、各実施例よりも低い値となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有する制振塗料組成物であって、
炭酸カルシウムと、無機中空粒子と、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなることで熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとを含有してなり、
前記マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量は、前記樹脂粒子、マイカ、炭酸カルシウム及び無機中空粒子の合計量に対して、66〜68質量%であることを特徴とする制振塗料組成物。
【請求項2】
前記無機中空粒子は、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン及びフライアシュバルーンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の制振塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子として、アクリル系樹脂粒子を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物。

【公開番号】特開2010−235883(P2010−235883A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87951(P2009−87951)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】