説明

制振形材

【課題】軽量化の効果を有すると共に制振効果も高い制振形材を提供する。
【解決手段】本発明の制振形材1Bは、対向する面板4,5と対向する面板4,5を連結する複数のリブ6とにより構成される形材であり、面板4,5とリブ6により形成される中空部7,8の内面のうち、少なくともリブ6の中央部に制振材3が設けられている。その上で、位置決め凹部11や位置決め突起12などを形成して、中空部7の内面のうち、面板5の中央部に制振材3を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する一対の面板とこの面板を連結するリブとで形成された、例えばトラス状断面をもつ形材であって、輸送用構造体など、振動を抑制する必要のある構造体等に用いられる制振形材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、新幹線など高速鉄道車両の構造部材には、軽量で剛性の高いものが求められてきた。金属材料の中でもアルミ素材は鉄と比べて比重が軽く、押出加工により高い剛性の断面形状を実現できること、最近では摩擦攪拌接合など溶接部の強度低下を抑制できる新しい溶接技術も適用可能であることから、アルミ押出形材が新幹線、地下鉄、在来線などの車両構造体として広く用いられるようになった。
【0003】
アルミ押出形材のなかでも中空形材と呼ばれるものは、2枚の面板をジグザグに形成されたリブで連結したトラス型や、面板と概ね垂直なリブで2枚の面板を連結した日の字型などがあり、薄肉でも断面内の剛性を高くできるため、車両の床面、側面、及び天井面などに用いられている。
既に述べたように、アルミ押出形材は軽量で高い剛性を実現できるが、比重が低いため、従来用いられていた鋼鉄製の構造部材に比べて振動を伝えやすいものとなっている。したがって、車両の構造部材としてアルミ押出形材を用いる場合には、車輪やモータからのキャビン(客室)への振動騒音伝搬を鋼鉄部材以上に抑制する必要がある。
【0004】
そのために、アルミ押出形材の振動を抑制する方法が様々に工夫されており、例えば、特許文献1に開示される制振形材がある。特許文献1に開示の制振形材は、一対の面板とそれらを接続する1又は2以上のリブにより構成される形材であり、前記リブの少なくとも1つの面に制振樹脂が設けられていることを特徴とするものである。
特許文献1に開示の制振形材によれば、制振形材の重量変化を少なく抑えつつ、高さが増すというような形状変化も必要とせずに遮音効果を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2640078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば時速200kmを超えるような高速で走行する車両では、さらに高い走行速度を実現するために車両の軽量化が求められている。この車両の軽量化は、車両の加速性能を高めるためだけでなく、車両走行に必要な消費電力を低減するのにも有効であるので、高速鉄道車両に限らず地下鉄や在来線の車両においても、構造部材の重量を減らす工夫がなされている。
【0007】
以下、特許文献1などに開示された従来の制振形材において、軽量化を図る際に生じる問題について説明する。
図8は、制振樹脂(制振材)を設けたアルミ押出形材(制振形材)を長手方向に対して垂直に切断したときの断面を示す図である。図8(a)は、従来の制振形材を示す図である。鉄道車両用途の場合、アルミ押出形材は、紙面に垂直な方向に10〜25mの長さをもち、制振材もまた、10〜25mの長さにわたり、当該アルミ押出形材と接着されている。接着の方法は種々考えられるが一例として、シート状に成形された制振材を押出形材の所定の位置に設置したあとに全体を加熱し、制振材の自重によりアルミ表面に制振材を熱融着させる方法が考えられる。
【0008】
図8(a)の制振形材をアルミの薄肉化により軽量化する場合には、剛性、強度との両立が必要であるため、十分な軽量化が困難な場合がある。そこで、本願出願人らは制振効果を維持したまま制振樹脂の減量を図ることを検討した。
図8(b)は、図8(a)の制振形材に対して、単純に制振材の量(断面での幅)を削減した構造を示す図である。併せて、図8(b)には、アルミ押出形材が振動状態にあるときの傾斜リブ及び面板の振幅分布を一点鎖線で示している。
【0009】
図8(b)から明らかなように、面板に設けられた制振材は平坦部中央に配置されているが、傾斜リブに設けられた制振材は逆三角形の頂点近傍にしか配置されていない。これは、制振材の接着方法として、前述したように制振材の自重を利用する場合、面板に接着する制振材は平坦部中央に配置できるが、傾斜リブに接着する制振材には、自重により鉛直下方向の力が作用するために、逆三角形の頂点近傍にしか配置できないためである。したがって、制振材の量を削減した制振形材において、面板の平坦部に設けられた制振材は、図8(a)の制振材に比べて幅が狭いものの、一点鎖線で示す振幅が大きな部分に対応するように配置されているため、面板における振動抑制が可能である。ところが、傾斜リブに設けられた制振材は、振幅が小さな逆三角形の頂点近傍にしか制振材が配置されず、傾斜リブにおける振動抑制が十分なものとは言い難いものとなっている。
【0010】
つまり、図8(b)に示すように単純に制振材の使用量を削減した場合、図8(a)の制振形材に比べて軽量化はできるものの、制振効果が著しく低下してしまう。
上述の問題に鑑み、本発明は、軽量化の効果を有すると共に制振効果も高い制振形材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係る制振形材は、対向する面板と前記対向する面板を連結する複数のリブとにより構成される形材であり、面板とリブにより形成される中空部の内面のうち、少なくともリブの中央部に制振材が設けられていることを特徴とする。
好ましくは、前記中空部の内面のうち、面板の中央部に制振材が設けられているとよい。
【0012】
好ましくは、前記リブの中央部に制振材を配備すべく、リブの中央部に位置決め凹部が形成され、前記制振材は、前記位置決め凹部に設けられるとよい。
好ましくは、前記リブの中央部に制振材を配備すべく、リブの中央部に位置決め突起が形成され、前記制振材は、前記位置決め突起と接するようにリブ上に設けられるとよい。
好ましくは、前記リブは、制振材が設けられる中央部の肉厚が、制振材が設けられない部分の肉厚よりも薄く形成されているとよい。
【0013】
好ましくは、前記面板は、制振材が設けられる中央部の肉厚が、制振材が設けられない部分の肉厚よりも薄く形成されているとよい。
好ましくは、前記面板の中央部に制振材を配備すべく、面板の中央部に位置決め突起が形成され、前記制振材は、前記位置決め突起と接するように面板上に設けられるとよい。
好ましくは、前記リブは、面板との連結部分である分岐部から中央部にかけて肉厚が薄くなるように形成されているとよい。
【0014】
好ましくは、前記面板は、リブとの連結部分である分岐部から中央部にかけて肉厚が薄くなるように形成されているとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、軽量化の効果を有すると共に制振効果も高い制振形材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による制振形材の構成を示す断面図である。
【図2】制振材占有面積と損失係数との関係を表すグラフを示す図である(従来の防振材貼り付けパターン)。
【図3】制振材占有面積と損失係数との関係を表すグラフを示す図である(本発明の防振材貼り付けパターン)。
【図4】アルミ基材に対する制振樹脂の板厚比と振動減衰の程度を示す損失係数との関係を表すグラフを示す図である。
【図5】(a)は本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る制振形材の構成を示す断面図であり、(b)〜(d)は(a)に示すA部の構成例を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態による制振形材の構成を示す図であり、(a)は中空形材の構成を示す図であり、(b)は制振材を配した制振形材の構成を示す図である。
【図7】本発明の効果を表すグラフである。
【図8】従来の制振形材の構成を示す図であり、(a)は斜めリブ及び平坦部をほぼ覆うように制振材を配置した構成を示す図であり、(b)は制振材の使用量を削減した構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1〜図3、図5を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る制振形材1Aの構成を示している。制振形材1Aは、トラス型の中空のアルミ押出形材2Aと、制振樹脂3とから構成されている。アルミ押出形材2Aは、アルミ合金から押出加工により製造される長尺のトラス断面構造部材である。よって、図1に示すように、アルミ押出形材2Aの長手方向に対して垂直に切断したときの断面は、長手方向のいずれの位置においても同じである。
【0018】
従って、以下の説明では、図1に示す断面における配置及び形状を説明することで、アルミ押出形材2A及び制振形材1Aを説明する。
図1を参照して、アルミ押出形材2Aは、対向する2枚上下の面板4,5と、上下の面板4,5を斜めに連結する複数の傾斜リブ(リブ)6とを含んで構成されている。
複数のリブ6は、平板部材であり上下の面板をジグザグにつなぐものである。複数のリブ6は、上下の面板4,5の平行方向に対して斜めに傾斜するように配置されており、隣り合うリブ6,6が交互に反対方向に傾斜するように配置されて、トラス構造を実現している。トラス構造を有するアルミ押出形材2Aは、上下の面板4,5の間に三角形の中空部7,8を有している。中空部7,8は、隣り合う2つの傾斜リブ6,6と面板4又は面板5の平坦部とで囲まれた三角形状となっている。中空部7,8において、上下の面板4,5に相当する部分を平坦部9,10という。
【0019】
図1を参照すると、下の面板5の平坦部9で囲まれた中空部7は正立した三角形であり、上の面板4の平坦部10で囲まれた中空部8は逆三角形状であるので、上下の面板4,5の間には、正立した三角形の中空部7と逆三角形の中空部8が交互に配列されている。以下の説明において、正立した三角形の中空部7を正立中空部7、逆三角形の中空部8を倒立中空部8という。
【0020】
図1に示すように、本実施形態による制振形材1Aは、上述のアルミ押出形材2Aの正立中空部7及び倒立中空部8に制振樹脂(制振材)3を設けている。制振樹脂3は、アルミ押出形材2Aの正立中空部7では下の面板5の平坦部9に設けられ、倒立中空部8では隣り合う2つの傾斜リブ6に設けられる。
まず、正立中空部7において、制振樹脂3は下の面板5の平坦部9の断面幅方向でほぼ中央付近に設けられる。言い換えれば、制振樹脂3は下の面板5の上面のほぼ中央に設けられるともいえる。
【0021】
一方、倒立中空部8において、制振樹脂3は2つの傾斜リブ6の断面幅方向でほぼ中央付近(中央部)に設けられる。言い換えれば、制振樹脂3は傾斜リブ6の上面側のほぼ中央に設けられるといえる。また、隣り合う2つの傾斜リブ6の対面する面のほぼ中央に制振樹脂3が設けられているともいえる。
なお、図1には示していないが、倒立中空部8において、上の面板4の平坦部10の断面幅方向でほぼ中央付近に、制振樹脂3を設けてもよい。この場合、制振樹脂3は上の面板4の上面に設けられるともいえる。
【0022】
このような構成を有する本実施形態による制振形材1Aの制振効果に関しては、図7に示す通りである。
図7は、制振形材1Aの下側の面板5の下面の1点に正弦波交番力を作用させ振幅一定で周波数を変化させたときの上側の面板4の上面の振動レベルの周波数に対する変化を表すグラフであり、横軸を周波数(Hz)、縦軸を単位加振力あたりの振動レベル(10dB/div.)とし、制振樹脂(制振材)3を設けていない場合(条件1)と、従来の制振樹脂3の配置による場合(条件2)と、本発明の制振樹脂3の配置による場合(条件3)についての結果を示している。なお、条件2、条件3とも、正立中空部7の平坦部9には制振樹脂3を設けずに、傾斜リブ6にだけ同一の制振樹脂3を配置した。よって、傾斜リブ6に対する制振樹脂3の配置の違いによる制振効果の違いを比較した。
【0023】
図7のグラフにおいて、従来配置による条件2と、本発明の配置による条件3とを比較すると、1500Hzから2000Hzにかけての周波数範囲で、条件3の方が6dB程度振動レベルが低減されており、高い制振効果を発揮することがわかる。
つまり、傾斜リブ6の少なくとも1つの面の中央部に制振材が設けられている制振形材1Aによれば、軽量化を図りつつも、図8(b)の一点鎖線で示すような、面板4,5及び傾斜リブ6の長手方向略中央に発生する振動振幅を確実に抑制することができ、高い制振効果を発揮することができるようになる。
【0024】
ところで、面板4,5に設けられる制振樹脂3の幅、及び傾斜リブ6に設けられる制振樹脂3の幅(断面幅)は、抑制したい振動の状況により適宜変更可能であるが、本願発明者及び出願人は、制振樹脂3の幅に関して、以下に述べる知見を有している。
すなわち、本実施形態による制振樹脂3の幅は、面板4,5(2つの傾斜リブ6間の距離である平坦部9,10)の幅の約60%である。また、傾斜リブ6に設けられる制振樹脂3の幅も、傾斜リブ6の幅の約60%である。制振樹脂3は、この約60%幅の制振樹脂3の中央位置と、傾斜リブ6の中央位置及び平坦部9,10の中央位置とがほぼ一致するように設けられている。
【0025】
この約60%という数字を採用した根拠と、平坦部9,10及び傾斜リブ6の中央位置に設けた根拠とを以下に説明する。
図2及び図3は、平坦部9,10及び傾斜リブ6を両端が支持されたアルミ基材の梁とみなし、その両端支持梁に制振樹脂(制振材)3を貼り付けたときの損失係数を表すグラフである。
【0026】
図2は、パターンAとして、両端支持梁の両端部に制振材3を貼付した場合を示しており、グラフ中に示す振動モードでの損失係数を、厚みtの異なる複数の制振材3について、両端支持梁の幅Lに対する両端部の制振材3の幅a/2を変化させつつ実験した結果を示している。
図3は、パターンBとして、本実施形態の制振形材1Aと同様に両端支持梁の中央位置に制振材3を貼付した場合を示しており、図2と同様に制振材3の幅aを変化させつつ実験した結果を示している。
【0027】
図2において、両端部の制振材3の幅a/2の合計である幅aに関して、制振材占有面積(占有率)a/L(%)が60%となる位置、つまり、両端支持梁の両端部のそれぞれに制振材占有面積a/L(%)が30%となる制振材3を設けた場合において、厚みtが3.5mm(t3.5)の場合をみると、振動減衰の程度を示す損失係数は約0.02である。しかし、図3での制振材占有面積a/L(%)が60%となる位置において、厚みtが3.5mm(t3.5)の場合をみると、振動減衰の程度を示す損失係数は約0.06である。
【0028】
このことは、両端支持梁の幅に対する制振材3の占有率が同じであっても、両端支持梁の中央位置に制振材3を貼付した方が制振効果は高いことを示している。また、図3のグラフによれば、制振材占有面積a/L(%)が60%を超えると、損失係数の上昇は非常に小さくなるので、制振材占有面積a/L(%)が60%程度あれば十分な制振効果が得られることがわかる。
【0029】
つまり、同じ厚みtの制振材3において、制振材3の幅を、両端支持梁の幅Lに相当する平坦部9,10及び傾斜リブ6の幅の約60%程度にまで減らしても、制振効果はほとんど低下しないことがわかる。これによって、従来では、アルミ押出形材2Aの平坦部9,10及び傾斜リブ6の幅全体にわたって設けていた制振材3を、平坦部9,10及び傾斜リブ6の幅の約60%程度にまで減らすことができるので、最終的な製品である制振形材1Aを軽量化することができる。
【0030】
なお、図3に示すグラフでは、厚みtの増加量にほぼ比例して損失係数が高くなっており、制振材3の厚みtが増せば制振効果も高くなることがわかる。しかし、制振材3の厚みtを増やせば、最終的な製品である制振形材1Aの重量が増してしまい制振形材1Aの軽量化を妨げるので、制振材3の厚みtは、必要とされる制振効果にあわせて適宜選択されるとよい。
【0031】
続いて、制振樹脂(制振材)3の材質及び構成について説明する。
制振樹脂3は、上述したように求められる制振性に応じて、適切な厚み及び材質を選定して用いられる。厚みについては、例えば1〜10mm程度である。材質は、制振特性に優れた変形アスファルト系樹脂やブチルゴム系特殊合成ゴムなどが用いられる。この制振樹脂3は、予めシート状に成形されたものを所定の位置に設置した後に加熱によって制振樹脂の接着面が溶融し、制振樹脂の自重によってアルミ表面に融着するものが考えられる。しかし、このような方法に限らず、溶剤に溶かした液状の制振樹脂を中空部に挿入したノズル先端から吐出させ、中空部内面に塗布する方法も考えられる。また、熱分解型の発泡剤を予め制振樹脂に分散混練したシート状のものあるいは液状のものを中空部のアルミ表面の所定位置に配置、塗布した後、加熱により接着と同時に制振樹脂を発泡させて制振樹脂の厚みを増やす方法も考えられる。なお、このような発泡型制振材を用いれば、発泡しないタイプの制振材に比べて厚みを薄くすることで、制振材の自重を小さくして加熱接着の際の制振材のずれや垂れ落ちを防止できるとともに、発泡後は分厚くなり、十分な制振性を維持しながら、さらに軽量化が可能になる。
【0032】
また、この制振樹脂3は、全体が均一な材料で形成されるものに限らず、表面側が硬質の材質であり、内面側が軟質で自己融着可能な材質の2層に積層された構造のものを使用することができる。更に、制振性を高めたり、その他の機能を付加するために、制振樹脂3の表面の全体又は一部に、プラスチックフィルムの他、アルミ箔などのように材質が異なる薄い膜を貼り付けることができる。
【0033】
ところで、本実施形態による制振形材1Aを製造するにあたっては、まず、アルミ押出形材2Aを水平に設置して、正立中空部7の平坦面9に制振樹脂3を配置すると共に、倒立中空部8の一方の傾斜リブ6の幅方向中央部に制振樹脂3を配置する。その後、制振樹脂3が所定位置に配置されたアルミ押出形材2A全体を加熱炉に入れて加熱し、制振樹脂の接着面側に一体形成された接着層が融化して、制振樹脂3は自重により平坦面9,10及び傾斜リブ6に融着する。
【0034】
この制振形材1Aの加熱工程で、傾斜リブ6の幅方向中央部に配備された制振樹脂3のアルミとの接着界面は軟化、溶融するため、制振樹脂3の材質によっては、制振樹脂3が鉛直下方向に作用する重力の影響によりリブに沿って下方向に移動してしまうことがある。その場合、図8(b)に近い状態となり、最終的に傾斜リブ6の幅方向中央部に制振樹脂3を配置できなくなるという問題が発生する。
【0035】
この問題を回避すべく、本願発明者及び出願人は、図5(b)に示す如く、傾斜リブ6の中央部に位置決め凹部11を形成し、その位置決め凹部11に制振樹脂3を埋め込んだ上で、アルミ押出形材2Aを加熱する方法を知見するに至った。この位置決め凹部11は、傾斜リブ6上に形成された凹状の溝であり、アルミ押出形材2A長手方向に沿って延びるものとなっている。
【0036】
また、図5(c)に示す如く、傾斜リブ6の中央部の近傍に位置決め突起12を形成し、その位置決め突起12と接するように傾斜リブ6上に制振樹脂3を置き、アルミ押出形材2Aを加熱する方法も知見するに至っている。この位置決め突起12は、傾斜リブ6上に形成された突条であり、アルミ押出形材2A長手方向に沿って筋状に延びるものとなっている。なお、図5(d)のように、両者の構成を兼ね備えた形状としてもよい。
【0037】
このように、傾斜リブ6上に位置決め凹部11及び位置決め突起12の位置決め手段を形成し、この位置決め手段を用いることで、傾斜リブ6の少なくとも1つの面の中央部に確実に制振樹脂3を配備することができるようになる。ひいては、傾斜リブ6の長手方向略中央に発生する振動振幅を確実に抑制することが可能となる。
【0038】
(第2実施形態)
つぎに、図4及び図5を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図5に示すように、本実施形態による制振形材1Bは、第1実施形態による制振形材1Aとほぼ同様の構成であり、アルミ押出形材2Bにおいて、制振樹脂3が設けられる傾斜リブ6の中央部の構成が異なるだけである。具体的には、傾斜リブ6の肉厚が制振樹脂3が設けられる中央部だけ薄くなるように構成されている。
図4を参照しながら、中央部の肉厚を減少させる理由について説明する。図4は、基材と制振樹脂3の2層型複合制振材に関する板厚と損失係数の関係を示すグラフである。図4のグラフは、基材の板厚dに対する制振樹脂3の厚みdの比(ξ=d/d)を横軸とし、制振樹脂3単独での損失係数ηに対する2層型複合制振材の損失係数ηの比(η/η)を縦軸としている。なお、図4は、基材のヤング率Eに対する制振樹脂3のヤング率Eの比a(E/E)を様々に変化させた場合の結果を示している。
【0039】
図4の結果によれば、2層型複合制振材において、基材の板厚dに対する制振樹脂3の厚みdの比が大きくなれば制振効果が高くなることが示されているので、制振樹脂3の厚みを変えなくとも、基材の制振樹脂3と重なり合う部分の肉厚を減少させるなど、基材の板厚dと制振樹脂3の厚みdの大きさを相対的に変化させれば制振効果を高められることがわかる。
【0040】
そこで、図5に示すように本実施形態による制振形材1Bは、傾斜リブ6の肉厚を、図5(a)にA部として示す中央部だけ薄くした。具体的には、図5(b)に示すように、制振樹脂3の幅の分(傾斜リブの中央部)だけ傾斜リブ6の肉厚を減らす。これによって、基材である傾斜リブ6の中央部の板厚に対する制振樹脂3の厚みの比が大きくなるので、傾斜リブ6の制振効果を高めることができ、ひいては制振形材1B全体としての制振効果も高めることができる。
【0041】
図5(b)に示すように、傾斜リブ6の中央部の肉厚を単に減少させるだけでも該中央部が凹形状となるので、この凹部を位置決め凹部11として採用可能である。この凹部11によれば、前述の如く、制振樹脂3が傾斜リブ6を滑り落ちることなく凹形状の中央部に留まる。つまり、アルミ押出形材2Bを水平に配置した状態で、正立中空部7の平坦部9と倒立中空部8の傾斜リブ6に同時に制振樹脂3を配置し、アルミ押出形材2Bの一度の加熱で制振樹脂3を融着させることができる。なお、正立中空部7の平坦部9においても、中央部の肉厚を減少させて凹形状としてもよい。また、図5(d)の構成でも同様の作用効果が発現するのは言うまでもない。
【0042】
さらに、制振樹脂3として先述した発泡型制振樹脂を使用すれば、図4において制振樹脂のヤング率Eが発泡により低下したとしても、基材と制振樹脂の厚み比ξが大きくなるので、複合制振材の損失係数を維持しながら、さらなる軽量化が可能になる。
以上に述べたように、本実施形態による制振形材1Bは、制振樹脂3を増やすことなく制振効果を向上させることができる。それだけでなく、制振形材1Bの製造過程において、制振樹脂3を傾斜リブ6の中央部に確実に配置することができる。
【0043】
(第3実施形態)
図6を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図6(a)に示すように、本実施形態による制振形材1Cは、第1実施形態による制振形材1Aと同様に、アルミ押出形材2Cが正立中空部13及び倒立中空部14を有する構成である。
しかし、本実施形態による制振形材1Cは、正立中空部13及び倒立中空部14の構成が第1及び第2実施形態の正立中空部7及び倒立中空部8とは異なるので、以下に説明する。
【0044】
具体的には、正立中空部13の平坦部15の肉厚が、両端から中央部に向かって徐々に(傾斜的に)減少し、倒立中空部14の傾斜リブ16の肉厚が、両端から中央部に向かって徐々に(傾斜的に)減少するように構成されている。
正立中空部13において、面板17の平坦部15はその両端部から中央部に向けて傾斜的に下っている。つまり、面板17の肉厚が平坦部15の両端部(t)から中央部(A−1部)に向けて減少し、平坦部15の中央部が最も肉厚が薄く(tA−1)なっている。
【0045】
また、倒立中空部14において、傾斜リブ16は上方の端部から中央部に向けて傾斜リブ16の肉厚を減少させながら傾斜している。つまり、傾斜リブ16の肉厚が傾斜リブ16の上端から中央部に向けて減少し、傾斜リブ16の中央部(A−2部)が最も肉厚が薄く(tA−2)なっている。その上で、中央部の下端には突起12が設けられている。また、倒立中空部14においても、面板18の平坦部19はその両端部から中央部に向けて傾斜的に下っていてもよい。
【0046】
図6(a)に示すように構成されたアルミ押出形材2Cに制振樹脂3を設けて、図6(b)に示す制振形材1Cを得る。このようにすれば、制振樹脂3が設けられた中央部(A−1部、A−2部)の肉厚を薄くすることができ、制振効果の高い制振形材1Cを得ることができる。また、傾斜リブ16の中央部(A−2部)の下端に突起12を設けたので、制振形材1Cの製造過程において、アルミ押出形材2Cが水平に配置された状態でも、制振樹脂3を傾斜リブ16の中央部に容易に配置することができる。なお、このように面板とリブの肉厚が面板とリブの連結部(両端)から中央部にかけて傾斜的に薄くすることにより、トラス型の中空アルミ押出形材の剛性、強度が向上するだけでなく、アルミの押出加工の際に面材とリブの連結部の肉厚を中央部に比べて傾斜的に分厚くし、連結部の断面積を増やすことで、押し出し抵抗を減らすことが出来、寸法精度が向上、安定するという付随効果も期待できる。
【0047】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0048】
上述の各実施形態において、制振形材1A〜1Cを、図1,図5,及び図6に示すように紙面上で左右方向に沿って水平となるように記載し、面板4,18を上側の面板、面板5,17を下側の面板と記載した。しかしながら、これら面板に関する「上」及び「下」の記載は、説明の便宜上採用したものであって、制振形材1A〜1Cを実際に用いる際の天地や表裏等の方向性を限定するためのものではない。
【0049】
例えば鉄道車両の車体構造において、制振形材1A〜1Cを、屋根に用いる場合には天地逆にすることもあり、その場合には、面板やリブに対して用いた「上」と「下」を入れ替えることになる。また、側壁に用いる場合に略垂直に立てることもある。その際は、上側の面板4,18及び下側の面板5,17が、それぞれ左側の面板及び右側の面板(ないしは、右側の面板及び左側の面板)となる。
【0050】
さらに、本願技術の適用対象は、対向する面板が平面で、かつ平行となるように構成された形材に限定されるものではなく、対向する面板が平面ではない、また平行ではない形材でもよい。つまり、制振材を所定の位置に設置した後で、形材全体を加熱し制振材を形材に熱融着させる工程において、面板は常に水平面を保つとは限らず、傾斜リブだけでなく面板もまた水平面に対して傾斜する場合もある。そのような場合には、制振材を傾斜リブに対してだけでなく、面板の中央部に安定して設置するために、リブに設けたのと同様の前記突起や凹部を設けることにより制振材のズレを防止する必要がある。
【0051】
また、本願技術はトラス型の中空形材に限定されることなく、リブが面板に対して垂直な日の字型の中空形材に対しても適用できる。なお、本願技術はリブへの制振材配置に限定されることなく、面板のみに制振材を配置する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1A,1B,1C 制振形材
2A,2B,2C アルミ押出形材
3 制振樹脂
4,5,17,18 面板
6,16 傾斜リブ
7,13 正立中空部
8,14 倒立中空部
9,10,15,19 平坦部
11 位置決め凹部
12 位置決め突起(突起)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する面板と前記対向する面板を連結する複数のリブとにより構成される形材であり、面板とリブにより形成される中空部の内面のうち、少なくともリブの中央部に制振材が設けられていることを特徴とする制振形材。
【請求項2】
前記中空部の内面のうち、面板の中央部に制振材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の制振形材。
【請求項3】
前記リブの中央部に制振材を配備すべく、リブの中央部に位置決め凹部が形成され、
前記制振材は、前記位置決め凹部に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振形材。
【請求項4】
前記リブの中央部に制振材を配備すべく、リブの中央部に位置決め突起が形成され、
前記制振材は、前記位置決め突起と接するようにリブ上に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振形材。
【請求項5】
前記リブは、制振材が設けられる中央部の肉厚が、制振材が設けられない部分の肉厚よりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振形材。
【請求項6】
前記面板は、制振材が設けられる中央部の肉厚が、制振材が設けられない部分の肉厚よりも薄く形成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の制振形材。
【請求項7】
前記面板の中央部に制振材を配備すべく、面板の中央部に位置決め突起が形成され、
前記制振材は、前記位置決め突起と接するように面板上に設けられることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の制振形材。
【請求項8】
前記リブは、面板との連結部分である分岐部から中央部にかけて肉厚が薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の制振形材。
【請求項9】
前記面板は、リブとの連結部分である分岐部から中央部にかけて肉厚が薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の制振形材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−39803(P2013−39803A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179721(P2011−179721)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】