説明

制振性繊維強化複合材料

【課題】
産業用梁部材において、軽量かつ高剛性でありながら、制振性に優れた繊維強化複合材料を提供することである。
【解決手段】
複数層の強化繊維層を含む積層体を組み合わせなる、長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料であって、それぞれの積層体は別個に積層されており、少なくとも1つの積層体には破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれ、前記粘弾性樹脂層が含まれてなる積層体中少なくとも1層の粘弾性樹脂層は前面にわたって存在してなることを特徴とする繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばロボットや搬送装置に使用する産業用梁部材において、好適に用いられる制振性繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量で剛性が高く、また強度にも優れているので、航空宇宙産業、スポーツ分野、一般産業分野等に広く用途が拡大されている。
【0003】
例えば、一般産業分野において、ロボットや搬送装置に使用する産業用梁部材は、軽量で剛性の高い部材が望まれるため、従来から繊維強化複合材料が使用されてきた。中でも、軽量で剛性が高い炭素繊維を用いた繊維強化複合材料を多層構造に積層させた産業用梁部材が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
その一方、軽量で剛性が高いだけでなく、制振性を高めた材料が求められている。産業用梁部材においては、一旦生じた振動が、長時間おさまらないことがしばしば問題となっていた。生産性をあげるためには、一旦生じた振動を短時間でおさめられるように、制振性を有する繊維強化複合材料が求められるようになってきた。
繊維強化複合材料の制振性を改良する技術としては、繊維強化複合材料層の層間に粘弾性樹脂層、または圧電セラミックスのパウダーを挿入する手法が知られており、その手法によれば制振性を改良することが認められるが、剛性を高めた構造では、その制振効果は十分ではなかった。またパウダーを挿入することから、安定して効果が見られない可能性があり、作業性にも劣る(特許文献2参照)。
【0005】
このように、軽量かつ剛性を保ちながら、安定した制振性を兼ね備えた繊維強化複合材料はこれまでになかった。
【特許文献1】特開2000−216215
【特許文献2】特開2005−150510
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような現状を鑑み、本発明の課題は、産業用梁部材において、軽量かつ高剛性でありながら、制振性に優れた繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために種々検討を行った結果、本発明者は、以下に示す制振性繊維強化複合材料を見いだすに至った。すなわち、
(1)強化繊維層を複数層含む積層体を組み合わせてなる、長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料であって、それぞれの積層体は別個に積層されており、少なくとも1つの積層体には破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれ、前記粘弾性樹脂層が含まれてなる積層体中少なくとも1層の粘弾性樹脂層は全面にわたって存在してなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【0008】
(2)前記繊維強化複合材料が、対向する2組の積層体を組み合わせてなる構造を有し、対向する第1の積層体の内側に、第2の積層体が配置されてなる前記(1)に記載の繊維強化複合材料。
【0009】
(3)前記対向する第1の積層体のうち少なくとも1つの積層体には破断伸び50〜1000%である粘弾性層が含まれてなる前記(2)に記載の繊維強化複合材料。
【0010】
(4)前記粘弾性樹脂層が、ウレタン結合、アミド結合、スルホン結合、エステル結合からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合を主鎖中に有する樹脂を含んでなる前記(1)に記載の繊維強化複合材料。
【0011】
(5)1層の粘弾性樹脂層の厚みが強化繊維層1層の厚みの1/50〜2倍である前記(1)〜(4)のいずれか記載の繊維強化複合材料。
【0012】
(6)前記粘弾性樹脂層を形成する粘弾性樹脂が25℃における貯蔵弾性率が0.1〜1000MPaであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の繊維強化複合材料。
【0013】
(7)前記破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれる少なくとも1つの積層体は、その強化繊維層の層間の数の90%以上に粘弾性樹脂層を有する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【0014】
(8)第1の積層体の外面から第2の積層体の外面にかけて、強化繊維織物を含む層が配された前記(2)〜(7)のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【0015】
(9)第1の積層体の内面から第2の積層体の内面にかけて、強化繊維織物を含む層が配された前記(2)〜(8)のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0016】
産業用梁部材において、軽量かつ高剛性でありながら、制振性に優れた繊維強化複合材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維層を複数層含む積層体を組み合わせてなる、長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料であって、それぞれの積層体は独立した積層構造を有しており、少なくとも1つの積層体には破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれ、前記粘弾性樹脂層が含まれてなる積層体中少なくとも1層の粘弾性樹脂層は全面にわたって存在してなることを特徴とする繊維強化複合材料である。
【0018】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維層を複数層含む積層体を組み合わせなる、長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料であって、それぞれの積層体は独立した積層構造を有している。
【0019】
本発明における強化繊維層とは、マトリックス樹脂中に強化繊維を含むシート状領域をいう。本発明における強化繊維層に適用される強化繊維の形態としては、強化繊維を一方向に並べた形態、織物形態、編物形態であっても良いし、不織布やマットなどの強化繊維がランダムに配置された形態でも良い。高強度で高弾性率の繊維強化複合材料が求められる産業用梁部材においては、強化繊維層は、強化繊維を一方向に並べた形態を有することが好ましい。
【0020】
ここで、複数層とは、2層以上を意味し、特に限定はされないが、2〜30層が好ましく、5〜25層がより好ましい。さらに好ましくは10〜20層である。強化繊維層の1層の厚みにもよるが、1層では繊維強化複合材料として、十分な剛性を持たせられず、また30層以上では、繊維強化複合材料の剛性は十分だが、重量も増えるために、強化繊維複合材料を支えるのが困難であり、好ましくない。
【0021】
また、独立した積層構造とは、各面ごとに独立して積層した積層体を組み合わせてなる構造を指す。独立した積層構造にすることで、各面の制振効果を繊維強化複合材料の制振効果とすることができるため好ましい。積層体の組み合わせ方としては、長手方向に直交する断面が4角形となる繊維強化複合材料であれば、いずれでも良い。ここで独立した積層構造とは、典型的には、各面を別個に積層した後、組み合わせて構造を形成したものを指すが、別個に積層した積層体を含む構造であれば、各面において面を形成する層のうち全周にわたって連続している層の数が最も層の数の少ない面の層の数の25%以内である構造を指す。かかる各面において面を形成する層のうち全周にわたって連続している層の数が最も層の数の少ない面の層の数の25%を超える独立していない積層構造では、制振効果を向上させることが難しい。
【0022】
本発明における積層構造により、繊維強化複合材料を軽量、高剛性でありながら、各面の制振効果を繊維強化複合材料の制振効果とでき、制振性繊維強化複合材料とできる。
【0023】
本発明の繊維強化複合材料は、少なくとも1つの積層体には破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれ、前記粘弾性樹脂層が含まれてなる積層体中少なくとも1層の粘弾性樹脂層は全面にわたって存在していることが必要である。破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が少なくとも1層、積層体の全面にわたって含まれていることにより、繊維強化複合材料が振動した際に、粘弾性樹脂層が変形し、振動エネルギーを熱エネルギーとして変換することで、制振性を高めるという効果を発現する。従って、変形するために伸度があることが求められる。粘弾性樹脂の破断伸びが100〜900%であることが好ましく、より好ましくは、300〜800%である。50%以下であると十分変形できず、振動エネルギーを熱エネルギーに変換できないことがあり、1000%以上であると、繊維強化複合材料の剛性を保持できず、振動が大きくなる可能性がある。粘弾性樹脂の破断伸びとは、ASTM D822(2006)に従って測定した破断伸びのことを指す。かかる条件を満たす限り、粘弾性樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いることが可能であるが、一般的に破断伸びに優れることから、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0024】
本発明の繊維強化複合材料は、対向する2組の積層体を組み合わせてなる構造を有し、対向する第1の積層体の内側に、第2の積層体が配置されることにより長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料を形成することが好ましい。ここで、第1の積層体、第2の積層体とは長手方向に直交する断面の4角形を形成する2組の対向する面の組を区別するために導入した区別であり、制振性の観点からは上下の組、左右の組のいずれを第1の積層体としても構わないが、剛性設計の観点から、荷重のかかる方向に平行に第1の積層体を配置する(例えば荷重が重力の場合には第1の積層体は、上下ではなく左右に配置する)ことが好ましい。
【0025】
また、破断伸び50〜1000%である粘弾性層が含まれる積層体は、上記対向する第1の積層体のうち少なくとも1つであることが好ましい。剛性設計の観点からは、上下の組、左右の組のいずれに粘弾性層を含んでもよいが、制振性の観点からは、積層体の外側に配置されることは好ましく、第1の積層体に粘弾性層が含まれることが好ましい。
【0026】
なお、第1、第2の積層体においての積層体の積層面に平行な面を積層表面、積層体の積層端部の出た面を積層端面と呼ぶものとする。例えば、繊維強化複合材料の外部の面のうち、第2の積層体の積層表面の見える面では、第2の積層体の積層表面と第1の積層体積層端部で形成される。
【0027】
本発明の繊維強化複合材料に用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が好ましいが、特に強度に優れていることから炭素繊維を使用するのが好ましい。炭素繊維の引張弾性率としては100〜1000GPaが産業用梁部材としては好ましく、産業用梁部材としては、高い剛性が求められることから、500〜900GPaであると、より好ましい。500GPa以下では、繊維強化複合材料の剛性が低下し、たわみ量が大きくなり、振動時間が長くなる傾向にある。900GPa以上では、繊維強化複合材料としての剛性は高く、振動時間も短いが、もろくなり、繊維強化複合材料が衝撃を受けた際に割れる可能性がある。炭素繊維の引張弾性率とは、JIS R 7601(1986)に従って測定したストランド弾性率のことを指す。
【0028】
本発明の繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、成形時に強化繊維への含浸が容易であるため未含浸が生じにくく、高強度なものが得られやすいことから熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられる。なかでも、エポキシ樹脂は、機械的強度に優れ、炭素繊維との接着性も良いことから、好んで用いられる。
【0029】
また、本発明における強化繊維層の1層の厚みは、10μm〜1mmが好ましく、70μm〜700μmであると好ましい。10μm未満であると好ましくなく、1mmを超えると製造上の理由で繊維強化複合材料の剛性が低いものとなる場合があるため好ましくなく、10μmに満たないと、強化繊維のみだれが多くなる傾向にあり、繊維強化複合材料の剛性が低いものとなる場合があるため、好ましくない。
【0030】
また、本発明の繊維強化複合材料では、粘弾性樹脂層と、強化繊維層が良好に接着している方が、強化繊維層の振動による剪断変形が効率的に粘弾性樹脂に伝搬することから、振動エネルギーを効率的に吸収できることから好ましい。さらに繊維強化複合材料の強度維持のためにも好ましい。かかる粘弾性樹脂層と、強化繊維層との接着性を良好なものとするために、粘弾性樹脂層が、ウレタン結合、アミド結合、スルホン結合、エステル結合からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合基を主鎖中に有する樹脂を含むことが好ましい。特に、ポリエーテルポリウレタン、ポリアミドポリウレタン、ポリエステルポリウレタンといった熱可塑性エラストマーに属する共重合体を用いることは、制振性と接着性のバランス良く両立しやすく好ましい。また、熱可塑性エラストマーを含む熱硬化性樹脂であってもよい。
【0031】
また、本発明において粘弾性樹脂層に用いられる粘弾性樹脂の貯蔵弾性率は、硬化後のマトリックス樹脂の貯蔵弾性率よりも低い必要があるが、変換できるエネルギー量は貯蔵弾性率に比例するので、0.1〜1000MPaであることが好ましく、1〜100MPaであるとより好ましい。0.1MPaに満たないと、繊維強化複合材料の剛性を保持できず、振動が大きくなる場合があり、1000MPaを超えると剛性は保たれるが、粘弾性樹脂の剪断変形が小さく、エネルギー吸収が小さくなる場合がある。ここで、貯蔵弾性率の測定方法は、動的粘弾性測定(DMA)に基づくものとする。詳細には、サンプル厚み2.0mm、幅10.0mm、スパン長40mmとし、ねじり振動周波数1.0Hz、発生トルク3〜200gf・cm、25℃条件下でDMA測定した貯蔵弾性率のことを指す。
【0032】
また、本発明で用いられる粘弾性樹脂層の1層の厚みは、強化繊維層の1層の厚みの1/50〜2倍であることが好ましく、1/25〜1倍がより好ましい。1/50倍に満たないと、粘弾性樹脂層が剪断変形をした際に、粘弾性樹脂量が振動エネルギーを熱エネルギーに変換しきれず破断する場合がある。2倍を超えると、振動エネルギーは十分に熱エネルギーに変換できるが、繊維強化複合材料としての剛性が下がり、たわみが大きくなるため、振動が長く続くことがある。また、繊維強化複合材料としての重量も大きく増加するために好ましくない。
【0033】
上記粘弾性樹脂として、具体的には、日清紡(株)製モビロン(登録商標)フィルム、シーダム(株)製ポリウレタンエラストマーシート・フィルム等を挙げることができる。
【0034】
繊維強化複合材料の形状としては、断面が四角形であれば任意であるが、剛性と重量のバランスの良いことから、中空部を有することが好ましい。そのため、製造するにあたっては、任意の断面形状のマンドレルに、それぞれの面にあわせて積層した積層体を配し、熱を加えてマトリックス樹脂硬化後にマンドレルを引き抜くことで繊維強化複合材料にする。マンドレルの形状としては、四角型、L型、コ型等任意であり、マンドレルを引き抜き、四角形断面の成型体を生産できるものであれば良い。また、剛性を高める目的で、長手方向にテーパーがあり、長手方向に断面積が変化するものであっても良い。
【0035】
本発明において、強化繊維層と粘弾性樹脂層からなる積層体を、それぞれの積層体が独立した積層構造を有する構成としたのは、拘束されない積層端面ができることで、それぞれの積層体で剪断変形を生じさせることができ、粘弾性樹脂層の剪断変形量を大きくすることができるため、制振効果を高められることから、好ましい。ここで、積層端面が拘束されないとは、積層体の長手方向に直交する断面において、含まれた粘弾性樹脂層が積層体の積層端面に両端ともでている状態をいう。
【0036】
また、それぞれが独立した積層構造を有する積層体を組み合わせた繊維強化複合材料とすることで、積層端面が繊維強化複合材料の外面に表出するため、かかる拘束されない積層端面を有する積層体による制振効果が繊維強化複合材料に付与され得るためである。
【0037】
組み合わせる積層構造としては、第1の積層体の繊維強化複合材料の内側となる積層表面に第2の積層体の積層端面を接合するように配置することが好ましい。第1の積層体の積層端面と第2の積層体積層表面の組み合わせでも良い。さらに、複雑形状であっても作業性良く、成型できることからもそれぞれの積層体を組み合わせて積層することが好ましい。
【0038】
本発明におけるそれぞれの積層体の強化繊維層、粘弾性樹脂層の積層数は特に限定されないが、2〜30層が好ましく、5〜25層がより好ましい。さらに好ましくは10〜20層である。強化繊維層の厚みにもよるが、1層では繊維強化複合材料として、十分な剛性を持たせられず、また30層以上では、繊維強化複合材料の剛性は十分だが、重量も増えるために、強化繊維複合材料を支えるのが困難であり、好ましくない。

いずれかの積層体には、数枚〜数十枚積層した強化繊維層の層間に、少なくとも1層の粘弾性樹脂層を積層すればよく、少なくとも1層の粘弾性樹脂層は積層体の全面にわたって存在することが好ましい。ここで層間とは、強化繊維層層と強化繊維層の間を示し、強化繊維層と粘弾性樹脂層との間は含めないこととする。例えば強化繊維層を10ply積層した場合、層間の数は9つとなる。9つ全てに粘弾性樹脂層を積層した場合を、100%とする。粘弾性樹脂層が、積層体の全面に存在することで、積層端面から積層端面まで強化繊維層を分断し、繊維強化複合材料の振動時に生じる振動粘弾性樹脂層の剪断変形を飛躍的に高めることができ、制振効果を飛躍的に高められる。また、粘弾性樹脂層の積層数は、積層数の増加とともに制振効果が高まる。特に、産業用梁部材のような剛性が必要とされる繊維強化複合材料では、粘弾性樹脂層を1層積層しただけでは制振性が十分得られないことがある。その意味で、粘弾性樹脂層は強化繊維層の層間の90%以上積層することが好ましい。90%以上積層することにより、制振性を飛躍的に向上させることができるためである。
【0039】
また、本発明における繊維強化複合材料は、剛性が保たれる範囲で、それぞれの積層体の強化繊維層、粘弾性樹脂層の積層数は、各面で異なっていても良い。また、粘弾性樹脂にかかる剪断変形を大きくするために、それぞれの積層体で積層方向が異なっていても良いが、繊維強化複合材料として剛性が必要とされる産業用梁部材では、長手方向に対して一方向に積層することが好ましい。
【0040】
繊維強化複合材料を定盤等に金属ボルトで固定する際に、積層表面と積層端面の接合部分の剥離や、積層端部からのクラック進行を防ぐために、強化繊維織物を含む層を第1の積層体の積層表面から第2の積層体の積層端部をまたいで積層することが好ましい。強化繊維織物は一方向強化繊維に比べて変形しやすいことから、積層端面を覆ったとしても、積層端面を拘束することはなく、それぞれの粘弾性樹脂層の剪断変形は妨げることがない。繊維強化複合材料の外観も良くすることからも、強化繊維織物を外面に配することは好ましい。また、成型後にマンドレルから引き抜く際に、内側からの積層表面と積層端面の接合部の剥離を防ぐために、積層体の内側に第1の積層体の積層表面から第1の積層体と第2の積層体の接合部をまたいで、第2の積層体の積層表面まで強化繊維織物を配することが好ましい。
強化繊維織物はそれぞれの接合部を独立して配しても良いし、複数の接合部をまたぐように配しても良いが、作業性が良いことから、1層の強化繊維織物で複数の接合部をまたぐように配することが好ましい。
【0041】
繊維強化複合材料の剛性の好ましい範囲は、用途により変化するため断定はできないが、1000mmの繊維強化複合材料の場合、片持ち梁構造では、3kgの重りを先端部に乗せた際に、たわみ量が1mm以下であることが好ましい。ここで、片持ち梁構造とは、繊維強化複合材料の根本側から200mm部分まで定盤に固定した構造である。より好ましくは0.8mm以下である。たわみ量は小さいほど初期の振動幅が小さくなるため、振動時間の短縮に繋がる。また、片持ち梁構造にて、得られる振動特性から振動半減期を算出できる。半減期は小さいほど、優れた制振性を示す。半減期の好ましい範囲としては、用途により変化するため断定はできないが、上記繊維強化複合材料の場合、200ms以下であることが好ましく、より好ましくは、180ms以下である。200ms以上では、リードタイムを短縮できず、不十分である。
【0042】
本発明の繊維強化複合材料は、上記繊維強化複合材料とすることにより、剛性を保ったまま、軽量で、制振性の優れた産業用梁部材とすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により説明する。実施例、比較例で用いた材料は下記の通りである。
【0044】
(炭素繊維一方向プリプレグ)
三菱化学産資(株)製 HYE J25M80PD:炭素繊維引張弾性率 790GPa、炭素繊維目付 250g/m、樹脂含有率 54%
(炭素繊維クロスプリプレグ)
東レ(株)製 F6343B−05P:炭素繊維織物 CO6343、炭素繊維目付 198g/m、樹脂含有率 56%
(粘弾性樹脂層)
日清紡(株)製モビロン(登録商標)、ポリウレタンエラストマー、25μm、200μm、破断伸び 650%、貯蔵弾性率 10MPa
シーダム(株)製DUS605−CDR、ポリウレタンエラストマー、200μm、破断伸び 450%、貯蔵弾性率 40MPa
宇部興産(株)製ユーピレックス(登録商標)、ポリイミド、25μm、破断伸び 30%、2GPa
(マンドレル)
幅85mm、長さ1200mm、高さ18.2mm(根本)、15.8mm(先端)、アルミ使用

(本発明の繊維強化複合材料作製方法)
第1の積層体として、1000mm×25mm(根本)、23mm(先端)、第2の積層体として、1000mm×850mmの積層体を形成するように、それぞれの積層体のサイズにあわせてプリプレグをカットし、繊維長さ方向、すなわち0°方向を長手方向とし14ply積層した。粘弾性樹脂層も挿入する積層体と同じ形にカットし、強化繊維層を積層時に後述する位置に積層した。
【0045】
なお、長さ1200mm×幅850mm×高さ18.2mm(根本)、15.8mm(先端)のマンドレル表面に強化繊維織物を2層配し、その上に上記第1、第2の積層体を第1の積層体の内側に第2の積層体を配した。その上に、強化繊維織物を2層配した。ナイロンフィルムを用いてバギング後に、オートクレーブにて加熱加圧(温度135℃、圧力0.6MPa、2時間)することにより、マトリックス樹脂を硬化させた。硬化後にマンドレルを引き抜き、繊維強化複合材料を得た。繊維強化複合材料の断面寸法は、長さ1000mm×幅100mm×高さ25mm(根本)、23mm(先端)を基準とした。
【0046】
(巻き付け積層の繊維強化複合材料作製方法)
強化繊維層を形成するプリプレグを繊維長さ方向、すなわち0°方向を長手方向として、長さ1200mm×幅850mm×高さ18.2mm(根本)、15.8mm(先端)のマンドレルに14ply巻き付け、積層した。粘弾性樹脂層は強化繊維層の積層時に後述するの位置で巻き付け、積層した。マンドレル表面には強化繊維織物を2層配し、その上に上記の強化繊維層を形成するプリプレグを積層し、さらに、強化繊維織物を最外層に2層配した。ナイロンフィルムを用いてバギング後に、オートクレーブにて加熱加圧(温度135℃、圧力0.6MPa、2時間)することにより、マトリックス樹脂を硬化させた。硬化後にマンドレルを引き抜き、繊維強化複合材料を得た。繊維強化複合材料の断面寸法は、長さ1000mm×幅100mm×高さ25mm(根本)、22.5mm(先端)を基準とした。
【0047】
(粘弾性樹脂の積層位置)
粘弾性樹脂はそれぞれの積層体において、対称な位置に積層した。すなわち、強化繊維層14plyの積層体では、粘弾性樹脂層を15%積層する場合に、強化繊維層5ply/粘弾性樹脂層1ply/強化繊維層4ply/粘弾性樹脂層1ply/強化繊維層5plyとした。
【0048】
(繊維強化複合材料評価)
繊維強化複合材料の制振性評価、剛性評価は片持ち梁構造で行った。片持ち梁構造とは、繊維強化複合材料の根本側から200mm部分まで定盤に固定した構造である。梁先端の変位をレーザー変位計にて測定した。レーザー変位計はキーエンス(株)製のLK−G150を用いた。なお、片持ち梁構造にて、荷重を全く加えない状態を変位0として設定するため、片持ち梁構造に設置後、5秒間静置し、変位幅が0.03mm以内であることを確認した。
【0049】
(制振性評価)
片持ち梁構造にて、ハンマーによって繊維強化複合材料先端に衝撃荷重を加え、繊維強化複合材料を振動させた。梁先端の変位を0.0001秒ごとに1秒間測定し、振動特性を得た。得られた振動特性から、振動頂点の値を取り出し、振動半減期を算出し、制振性の値とした。測定は3回繰り返し、平均値を用いた。なお、半減期は小さいほど、優れた制振性を示す。
【0050】
(剛性評価)
片持ち梁構造にて、梁先端に3000gの重りを設置した際の変位量を剛性の指標とした。測定は3回繰り返し、平均値を用いた。なお、変位量は小さいほど、優れた剛性を示す。
【0051】
実施例1〜6と比較例1〜6との比較により、本発明の制振性繊維強化複合材料は、軽量かつ高剛性でありながら、制振性に優れた繊維強化複合材料であることがわかる。
【0052】
(実施例1)
表1に示すように、それぞれの積層体において、強化繊維層を積層し、全ての層間に破断伸びの大きな粘弾性樹脂である、モビロンフィルム(日清紡株式会社製、25μm)を積層し、上記本発明の繊維強化複合材料作製方法に従い、長さ1000mm×幅93mm×高さ26mm(根本)、24mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。得られる繊維強化複合材料は、外観良く、たわみ量も0.5mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は110msと、極めて制振性が優れているものであった。
【0053】
(実施例2)
表1に示すように、用いるモビロンフィルムの厚みを100μmに増やしたこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅95mm×高さ28mm(根本)、26mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観良く、たわみ量も0.6mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は100msと、さらに制振性が向上した。
【0054】
(実施例3)
表1に示すように、モビロンフィルムの積層を層間の15%に減らし、強化繊維織物を外側のみに配したこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅92mm×高さ25.5mm(根本)、23.5mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観良く、たわみ量も0.5mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は180msと、制振性が優れているものであった。
【0055】
(実施例4)
表1に示すように、モビロンフィルムの積層を第1の積層体のみに層間の100%に積層し、強化繊維織物を内側のみに配したこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅94mm×高さ25mm(根本)、23mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観は第1の積層体と第2の積層体の接合部の樹脂だまりにより、バリができ、商品として好ましくないが、たわみ量も0.6mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は130msと、極めて制振性が優れているものであった。
【0056】
(実施例5)
表1に示すように、粘弾性樹脂としてシーダム株式会社製ポリウレタンエラストマーシート、DUS605−CDR(200μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅97mm×高さ30mm(根本)、28mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観良く、たわみ量も0.7mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は90msと、極めて制振性が優れているものであった。
【0057】
(実施例6)
表1に示すように、強化繊維織物を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅93mm×高さ26mm(根本)、24mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観は不十分であるが、たわみ量も0.5mmと小さく、制振性評価で得られる半減期は120msと、極めて制振性が優れているものであった。
【0058】
(比較例1)
表1に示すように、それぞれの積層体において、粘弾性樹脂を積層しない以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅92mm×高さ25mm(根本)、23mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。得られる繊維強化複合材料は、外観良く、たわみ量も0.5mmと小さいが、制振性評価で得られる半減期は230msと、極めて制振性が悪いものであった。
【0059】
(比較例2)
表1に示すように、強化繊維層をマンドレルに巻き付け積層し、層間の15%には破断伸びの大きな粘弾性樹脂である、モビロンフィルム(日清紡株式会社製、25μm)を積層し、長さ1000mm×幅93mm×高さ26mm(根本)、24mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観良く、たわみ量も0.5mmと小さいが、制振性評価で得られる半減期は240msと、極めて制振性が悪いものであった。
【0060】
(比較例3)
表1に示すように、粘弾性樹脂として宇部興産株式会社製ポリイミドフィルム、ユーピレックス(25μm)を層間の15%に積層したこと以外は、実施例3と同様にして、長さ1000mm×幅93mm×高さ26mm(根本)、24mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。外観良く、たわみ量も0.5mmと小さいが、制振性評価で得られる半減期は240msと、極めて制振性が悪いものであった。
【0061】
(比較例4)
表1に示すように、粘弾性樹脂として宇部興産株式会社製ポリイミドフィルム、ユーピレックス(25μm)を用い、強化繊維織物を内側にみに配したこと以外は、実施例1と同様にして、長さ1000mm×幅95mm×高さ28mm(根本)、26mm(先端)の繊維強化複合材料を得た。たわみ量も0.5mmと小さいが、外観は第1の積層体と第2の積層体の接合部の樹脂だまりにより、バリができ、商品として好ましくないが、制振性評価で得られる半減期は250msと、極めて制振性が悪いものであった。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の繊維強化複合材料は、軽量であり、強度や弾性率などの機械的強度に優れ、かつ、制振性が高く、産業用梁部材等として用いるのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態にかかる繊維強化複合材料の、長手方向に直交する断面を示す概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1 繊維強化複合材料
2 第1の積層体
3 第2の積層体
4 積層表面
5 積層端面
6 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維層を複数層含む積層体を組み合わせてなる、長手方向に直交する断面が4角形である繊維強化複合材料であって、それぞれの積層体は独立した積層構造を有しており、少なくとも1つの積層体には破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれ、前記粘弾性樹脂層が含まれてなる積層体中少なくとも1層の粘弾性樹脂層は全面にわたって存在してなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記繊維強化複合材料が、対向する2組の積層体を組み合わせてなる構造を有し、対向する第1の積層体の内側に、第2の積層体が配置されてなる請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記対向する第1の積層体のうち少なくとも1つの積層体には破断伸び50〜1000%である粘弾性層が含まれてなる請求項2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記粘弾性樹脂層が、ウレタン結合、アミド結合、スルホン結合、エステル結合からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合を主鎖中に有する樹脂を含んでなる請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
1層の粘弾性樹脂層の厚みが強化繊維層1層の厚みの1/50〜2倍である請求項1〜4のいずれか記載の繊維強化複合材料。
【請求項6】
前記粘弾性樹脂層を形成する粘弾性樹脂の25℃における貯蔵弾性率が0.1〜1000MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の繊維強化複合材料。
【請求項7】
前記破断伸びが50〜1000%である粘弾性樹脂層が含まれる少なくとも1つの積層体は、その強化繊維層の層間の数の90%以上に粘弾性樹脂層を有する請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項8】
第1の積層体の外面から第2の積層体の外面にかけて、強化繊維織物を含む層が配された請求項2〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項9】
第1の積層体の内面から第2の積層体の内面にかけて、強化繊維織物を含む層が配された請求項2〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−78422(P2009−78422A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248770(P2007−248770)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】