説明

制振材用エマルション及び制振材配合物

【課題】 幅広い温度領域での制振性に優れるとともに、求められる条件に応じた制振材の設計が容易で、各種構造体の制振材に有用な制振材用エマルションを提供することを目的とする。
【解決手段】 2種以上のポリマーを混合して得られる制振材用エマルションであって、該各々のポリマーは、重合成分を1種又は2種以上含むものであり、該エマルションは、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であることを特徴とする制振材用エマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材用エマルション及び制振材配合物に関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つための制振材の材料として有用な制振材用エマルション及び制振材配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。このような制振材に用いられる材料としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状成形体やシート状成形体等の成形加工品が使用されているが、振動や音響の発生箇所の形状が複雑な場合には、これらの成形加工品を振動発生箇所に適用することが困難であるため、作業性を改善して制振性を充分に発揮させるための手法が種々検討されている。例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要があるため、作業性等の改善が望まれ、制振材を形成する組成物や重合体等の検討がなされている。
【0003】
そこで、このような成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており、例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することによって形成される塗膜により、振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。しかしながら、これらの従来品をもってしても未だ、制振性能が充分に満足できるレベルにあるとはいえず、更に充分に制振性能を発揮できるようにする技術が求められている。
【0004】
塗布型制振材に使用される材料としては、例えば、少なくとも低いガラス転移温度の重合体と高いガラス転移温度の重合体とを含有してなる水性制振材用エマルション(例えば、特許文献1参照。)や、アクリル共重合体(A)からなるコア部と、アクリル共重合体(B)からなるシェル部とを有する粒子を含有する制振材用エマルションであって、アクリル共重合体(A)の重量平均分子量、及び/又は、コア部とシェル部とを有する粒子の重量平均分子量が2万〜25万である制振材用エマルション(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−281576号公報(第1−2頁)
【特許文献2】国際公開第2007/023819号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、各種材料が種々検討されており、特許文献1や2に記載の制振材用エマルションは、幅広い温度領域で優れた制振性を発揮することができることから、工業的に非常に有用な技術となっている。しかしながら、制振材用エマルションは、上述したように様々な用途において用いられており、制振性に加え、各用途に応じた様々な物性が要求されることから、これらの要求に応えることができるよう、優れた制振性能を発揮するとともに、各種用途に対応した制振材の設計を容易に行うことができるような設計の自由度の高い制振材を開発する工夫の余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、幅広い温度領域での制振性に優れるとともに、求められる条件に応じた制振材の設計が容易で、各種構造体の制振材に有用な制振材用エマルションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、制振材用エマルションについて種々検討し、振動による運動エネルギーを摩擦による熱エネルギーに変換することで制振性が発現することに着目し、振動による運動エネルギーを効率的に熱エネルギーに変換することができるエマルションについて種々検討した。そして、エマルションを少なくとも2種以上のポリマーの混合物とし、各々のポリマーが1種又は2種以上の重合成分(重合体)から構成されるものとして、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてその重合成分間で相間摩擦が充分に起きるようにすると、その摩擦により振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、優れた制振性が発揮されるものと考えた。そこで、制振材用エマルションを2種以上のポリマーを混合して得られるものであって、各々のポリマーが重合成分を1種又は2種以上含み、各々の重合成分のSP値(溶解度係数)の差の少なくとも1つが0.2以上であるようにしたところ、優れた制振性を発揮する制振材用エマルションとなることを見出した。これは、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてSP値に差をもたせることでその重合成分間の相溶性が低くなり、相間摩擦が起こったためであると考えられ、SP値差を0.2以上とすることで優れた制振性を発揮するのに充分な相間摩擦が起こるものと考えられる。
この制振材用エマルションでは、含まれる重合成分のうち、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてSP値に差がありさえすればよいことから、エマルションの設計の自由度が高くなり、優れた制振性に加え、求められる条件に応じた制振材の設計を容易に行うことが可能となるため、制振材用エマルションをこのようなものとすることで、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、2種以上のポリマーを混合して得られる制振材用エマルションであって、上記各々のポリマーは、重合成分を1種又は2種以上含むものであり、上記エマルションは、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上である制振材用エマルションである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の制振材用エマルションは、2種以上のポリマーを混合して得られるものであるが、2種以上のポリマーを含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。また、上記ポリマーは、通常、媒体中に分散された形態で存在することになる。すなわち、上記制振材用エマルションは、媒体と、媒体中に分散されたポリマーとから構成されるものである。
上記媒体としては、水性媒体であることが好ましく、例えば、水や、水と混じりあう溶媒と水との混合溶媒等が挙げられる。中でも、本発明の制振材用エマルションを含む組成物を塗布する際の安全性や環境への影響を考慮すると、水性媒体100質量%中、水が50質量%以上であることが好適である。より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは100質量%、すなわち水を媒体として用いることである。
上記ポリマーは各々、重合成分を1種又は2種以上含むものであるが、重合成分を含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。
なお、本発明においては、制振材用エマルションが含むポリマーには、単一の組成のポリマー(単一の重合体部分から構成されるポリマー)や組成の異なる複数の重合体部分から構成されるポリマーが含まれ、これらのポリマーを構成する重合体部分のことを本発明では重合成分という。
【0011】
上記制振材用エマルションは、各々の重合成分のSP値(溶解度係数)の差の少なくとも1つが0.2以上であるものであるが、制振材用エマルションに含まれる重合成分のうち、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてSP値の差が0.2以上であればよく、例えば、ガラス転移温度、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等のその他の各種物性においては、同一であってもよいし異なっていてもよい。また、その他の重合成分の組み合わせ間でのSP値差は特に制限されず、SP値差が0.2以上である少なくとも1つの組み合わせ以外のその他の重合成分間においては、上記に加え、SP値も同一であってもよいし異なっていてもよい。
このように、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてSP値差を0.2以上とすることによって、SP値差が0.2以上であるこの重合成分間の相溶性が低くなり、相間摩擦が起こることとなるために、この摩擦力によって、振動による運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、制振性が発揮されるものと考えられる。上記SP値差としては、好ましくは、0.25以上であり、更に好ましくは、0.3以上である。また、SP値差が大きくなり過ぎると、SP値差の大きい重合成分間の相溶性が低くなりすぎる。そのために相間で分離傾向となり、相間相互作用が低下してしまうことにより、摩擦力が低減し充分な制振性が発揮されない恐れがある。SP値差の上限としては、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0012】
上記重合成分のSP値は、例えば、以下のSmallの式により求めることができる。
【0013】
【数1】

【0014】
式中、δは、重合成分のSP値である。Δeは、重合成分を構成する単量体各成分の蒸発エネルギーの計算値(kcal/mol)であり、ΣΔeは、重合成分を構成する全単量体成分の当該計算値の合計値である。ΔVは、重合成分を構成する単量体各成分の分子容の計算値(ml/mol)であり、ΣΔVは、重合成分を構成する全単量体成分の当該計算値の合計である。xは、重合成分を構成する単量体各成分のモル分布である。
なお、単量体成分の蒸発エネルギー、及び、単量体成分の分子容は、通常用いられる計算値を用いることができる。
このように、構成する単量体の種類及びその構成比を調整することによって、重合成分のSP値を調整することができ、これによって、重合成分間のSP値差を調整することが可能となる。
【0015】
本発明の制振材用エマルションが含む各ポリマーの配合割合は特に制限されないが、例えば、2種類のポリマーを含む場合、それぞれのポリマーの配合割合は、1/9〜9/1であることが好ましい。より好ましくは、2/8〜8/2であり、更に好ましくは、3/7〜7/3である。
【0016】
本発明の制振材用エマルションに含有される少なくとも2種以上のポリマーの各々の存在形態としては特に制限されず、重合成分を1種含むポリマーである形態、重合成分を2種以上含む重合成分の混合物である形態、重合成分を2種以上含み、コア部とシェル部とを有するコア・シェル構造を持つ形態等が挙げられるが、これらの中でも、本発明の制振材用エマルションとしては、少なくとも1種以上のコア・シェル構造のポリマーを含有することが好ましい。すなわち、本発明の制振材用エマルションは、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも1種と他のポリマーとを含有する形態、又は、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも2種含有する形態であることが好ましい。このような形態とすることにより、実用温度範囲内の幅広い範囲における制振性に優れることになる。特に高温域においても、他の形態の制振材組成物と比較して優れた制振性を発揮し、その結果、実用温度範囲内において、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って制振性能を発揮することができる。
なお、ここでいう他のポリマーとは、コア・シェル構造を有さないポリマーを意味する。
【0017】
本発明の制振材用エマルションが、少なくとも1種以上のコア・シェル構造のポリマーを含有する形態である場合には、該コア・シェル構造のポリマーの含有量は、制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、固形分で40〜100重量部であることが好ましい。このような範囲とすることにより、上述したような、少なくとも1種以上のコア・シェル構造のポリマーを制振材用エマルションに含有させることによって得られる作用効果を充分に発揮することができる。より好ましくは、50〜100重量部であり、更に好ましくは、60〜100重量部である。
【0018】
上記重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも1種と他のポリマーとを含有する形態の場合、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上である形態としては、例えば、コア・シェル構造のポリマーのコア部を形成する重合成分とシェル部を形成する重合成分とのSP値差、コア・シェル構造のポリマーのコア部を形成する重合成分と他のポリマーに含まれる重合成分の少なくとも1種とのSP値差、コア・シェル構造のポリマーのシェル部を形成する重合成分と他のポリマーに含まれる重合成分の少なくとも1種とのSP値差、及び、他のポリマーに2種以上の重合成分が含まれる場合には該重合成分のうちのいずれか2種間のSP値差、のいずれかのSP値差が0.2以上である形態が挙げられる。このように、本発明の制振材用エマルションが、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも1種と他のポリマーとを含有し、該コア・シェル構造のポリマーの各々の重合成分のSP値と他のポリマーの重合成分のSP値との差の少なくとも1つが0.2以上であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、特に、重合成分を3種以上含むコア・シェル構造のポリマーの場合には、上述した重合成分間のSP値差に加えて、コア部を形成する重合成分とコア部を形成する別の重合成分とのSP値差や、シェル部を形成する重合成分とシェル部を形成する別の重合成分とのSP値差等1種のコア・シェル構造のポリマーに含まれる重合成分のうちいずれか2種の重合成分の組み合わせにおけるSP値差、のいずれかのSP値差が0.2以上であればよい。
【0019】
上記重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも2種含有する形態の場合、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上である形態としては、例えば、ある1種のポリマーのコア部を形成する重合成分とシェル部を形成する重合成分とのSP値差、ある1種のポリマーのコア部を形成する重合成分と、別の1種のポリマーのコア部を形成する重合成分とのSP値差、ある1種のポリマーのコア部を形成する重合成分と、別の1種のポリマーのシェル部を形成する重合成分とのSP値差、ある1種のポリマーのシェル部を形成する重合成分と、別の1種のポリマーのシェル部を形成する重合成分とのSP値差、のいずれかのSP値差が0.2以上である形態が挙げられる。このように、本発明の制振材用エマルションが、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも2種含有し、該コア・シェル構造のポリマーの各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、特に、重合成分が3種以上含まれるコア・シェル構造のポリマーの場合には、上述した重合成分間のSP値差に加えて、コア部を形成する重合成分とコア部を形成する別の重合成分とのSP値差や、シェル部を形成する重合成分とシェル部を形成する別の重合成分とのSP値差等1種のコア・シェル構造のポリマーに含まれる重合成分のうちいずれか2種の重合成分の組み合わせにおけるSP値差、のいずれかのSP値差が0.2以上であればよい。
【0020】
本発明の制振材用エマルションにおいては、重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であればよいが、制振材用エマルションに含まれる重合成分のうち、いずれの重合成分の組み合わせにおいてもSP値差が、0.2以上であると、更に制振性に優れた制振材用エマルションとすることが可能となる。
すなわち、制振材用エマルションが、各々の重合成分のSP値の差がいずれも0.2以上であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0021】
上記コア・シェル構造のポリマーにおいて、コア部を形成する重合体と、シェル部を形成する重合体とは、例えば、重量平均分子量やガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、重量平均分子量、ガラス転移温度の少なくとも1つで差を有するものであることが好適である。
例えば、コア部を形成する単量体成分とシェル部を形成する単量体成分とのガラス転移温度(Tg)の差が10〜60℃であることが好ましい。Tgの差が10℃未満である場合や、60℃より大きい場合には、幅広い温度領域(20℃〜60℃)にわたっての制振性が得られないおそれがある。より好ましくはTgの差が15〜55℃、更に好ましくは、20〜50℃である。
上記コア・シェル構造のポリマーのエマルションは、後述する乳化重合法(多段重合)を用いて得ることができる。
【0022】
上記コア部とシェル部とを有する形態としては、コア部とシェル部とが完全には相溶せずに不均質に形成されるコア・シェル複合構造やミクロドメイン構造が挙げられる。中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。
上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0023】
上記制振材用エマルションは、ガラス転移温度(Tg)が−20〜30℃であることが好適である。これにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発揮させることが可能になる。より好ましくは−20〜25℃であり、更に好ましくは−15〜20℃である。なお、全ての重合工程で用いた単量体組成から算出したTg(トータルTg)として、上述した範囲となることが好適である。
上記Tgは、エマルションを構成する各単量体のホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(Tgn)を用いて、下記Foxの式より計算することができる(単位:K)。
【0024】
【数2】

【0025】
式中、Tgは、重合成分のガラス転移温度である。Wnは、全単量体成分に対する単量体nの質量分率(質量%)を表す。Tgnは、単量体nからなるホモポリマーのガラス転移温度(単位:K、絶対温度)を表す。
【0026】
ここで、上記制振材用エマルションに含まれる2種以上のポリマーは、Tgが異なるものであることが好適である。すなわち、上記制振材用エマルションは、Tgが異なる2種以上のポリマーから構成されるものであることが好適である。Tgに差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性が格段に向上されることとなる。
なお、3種以上のポリマーを含む場合には、このうちの少なくとも2種のポリマーのTgが異なればよく、残りの1種以上については、当該2種のポリマーのいずれかとTgが同じであってもよい。
【0027】
上記ポリマーのTgは、Tgが最も高いポリマーにおいては、−10〜30℃であることが好適である。これにより、本発明の制振材用エマルションを含む塗料を用いて形成された制振材塗膜の乾燥性が良好なものとなり、塗膜表面の膨張やクラックが充分に抑制されることになる。すなわち、格段に優れた制振性を有する制振材が形成されることとなる。より好ましくは−5〜30℃、更に好ましくは0〜30℃である。また、Tgが最も低いポリマーにおいては、−50〜10℃であることが好適であり、これにより、より優れた制振性を有する制振材を与えることが可能になる。より好ましくは、−30〜10℃である。
またTgが最も高いポリマーとTgが最も低いポリマーとのTg差は、10〜60℃であることが好適である。差が10℃未満であったり、温度差が大き過ぎたりすると、実用的範囲での制振性が充分なものとはならないおそれがある。より好ましくは15〜55℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
【0028】
更に、上記ポリマーに含まれる1種又は2種以上の重合成分においては、Tgが異なるものであっても、同じであってもよいが、Tgが異なるものであることが好適である。更に、Tgが最も高い重合成分においては、0〜30℃であることが好適である。より好ましくは5〜30℃である。また、Tgが最も低い重合成分においては、−20〜0℃であることが好適であり、これにより、優れた制振性を有する制振材を与えることが可能になる。より好ましくは、−20〜−5℃である。
またTgが最も高い重合成分とTgが最も低い重合成分とのTg差は、10〜60℃であることが好適である。差が10℃未満であったり、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがある。より好ましくは15〜55℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
このように、本発明の制振材用エマルションは、少なくとも2種以上の重合成分を含むこととなるが、該重合成分としてTgの異なるものを組み合わせ、また、上記のようなTgを持つ重合成分を用いることによって、実用温度域での制振性が有効的に発現できるようになる。
【0029】
上記制振材用エマルションはまた、重量平均分子量が20000〜400000であることが好適である。分子量が、20000未満や、400000を超えると、加熱乾燥時の塗膜表面状態が不良となり、結果として良好な制振性を示さない。より好ましくは30000〜350000であり、更に好ましくは40000〜300000である。
上記重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件下、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0030】
上記制振材用エマルションはまた、エマルション粒子の平均粒子径が100〜400nmであることが好適である。平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を制振材に用いることにより、制振材に要求される基本性能を充分なものとしたうえで、制振性をより優れたものとすることができる。
上記平均粒子径(体積平均粒子径)は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)で測定することにより求めることができる。
【0031】
上記平均粒子径を有するエマルション粒子は、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)で定義される粒度分布が40%以下であることが好ましい。粒度分布が40%を超えると、エマルション粒子の粒子径分布の幅が非常に広いものとなり、一部に粗大粒子を含むものとなるために、そのような粗大粒子の影響で制振材用エマルションが充分な加熱乾燥性を発揮することができないおそれがある。より好ましくは、30%以下である。
【0032】
上記制振材用エマルションの特に好ましい形態としては、ガラス転移点が−20〜30℃、重量平均分子量が20000〜400000である形態であり、このような形態では、加熱乾燥性により優れるとともに、制振性能がより充分に発揮されるため、制振材用途に特に好適なものとなる。最も好ましくは、ガラス転移点が−20〜30℃、重量平均分子量が20000〜400000、エマルション粒子の平均粒子径が100〜400nmである形態である。
【0033】
また、上記重合成分としては、重合成分の少なくとも1種は、ガラス転移温度が−20〜0℃、重量平均分子量が20000〜400000であり、その他の重合成分の少なくとも1種は、ガラス転移温度が0〜30℃、重量平均分子量が20000〜400000であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0034】
上記制振材用エマルションの粘度としては、特に限定されないが、例えば、1〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、5〜3000mPa・sであり、更に好ましくは、10〜1000mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
【0035】
上記重合成分の原料となる単量体成分としては、本発明の作用効果を発揮することができればよいが、不飽和カルボン酸単量体を含んでなるものであることが好ましい。より好ましくは、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含んでなるものである。不飽和カルボン酸単量体を含むことにより、制振材用エマルションを含む制振材配合物において無機粉体等の充填剤の分散性が向上して制振性がより向上されるとともに、その他の共重合可能な不飽和単量体を含むことにより、制振材用エマルションの酸価やガラス転移点(Tg)、物性等を調整しやすくなる。また、これらの単量体から形成される構成単位の相乗効果により、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とをより充分に発揮できることになる。中でも、単量体成分の総量100モル%に対し、不飽和カルボン酸単量体を0.1〜20モル%、その他の共重合可能な不飽和単量体を80〜99.9モル%含むことが好適である。不飽和カルボン酸単量体が0.1モル%未満又は20モル%より多いと、いずれの場合も、上記制振材用エマルションをより安定的に製造することができないおそれがある。より好ましくは、不飽和カルボン酸単量体を0.5〜10モル%、その他の共重合可能な不飽和単量体を90〜99モル%含むことである。
なお、上記ポリマーが、コア部とシェル部とを有するポリマーエマルション粒子の場合においては、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体は、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれに含まれていてもよく、これらの両方に用いられるものであってもよい。
【0036】
上記不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、制振性をより向上させるためには、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことが好適である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の他、これらの塩等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、(メタ)アクリル酸又はその塩(以下、「(メタ)アクリル酸系単量体」とも称する。)が好適である。
上記塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が好適である。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適であり、また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0037】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては、上記不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないが、例えば、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体(以下、「(メタ)アクリル系単量体」ともいう。)、芳香環を有する不飽和単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体、官能基を有する不飽和単量体等が好ましく挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、(メタ)アクリル系単量体、芳香環を有する不飽和単量体を用いることが好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等の他、これらの塩やエステル化物等が挙げられる。
なお、上記塩としては、上述した(メタ)アクリル酸系単量体の塩と同様の形態であることが好ましい。
【0039】
上記単量体成分としては、上述したように、(メタ)アクリル酸系単量体や(メタ)アクリル系単量体のような(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体を含むことが好適である。すなわち、上記単量体成分の少なくとも1種が、C(R)=CH−COOR、又は、C(R)=C(CH)−COOR(R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基を表す。)で表される単量体であることが好適である。中でも、(メタ)アクリル酸系単量体を必須とすることが好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の両方を含むことがより好ましい。このように、上記単量体成分が、不飽和カルボン酸単量体として(メタ)アクリル酸を含み、その他の共重合可能な不飽和単量体としてアクリル系単量体を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。
なお、上記単量体成分中の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体、すなわち上述した(メタ)アクリル酸系単量体や(メタ)アクリル系単量体の含有量としては、これらの合計量が、全単量体成分100質量%中、20質量%以上となることが好適である。これにより、制振性がより向上されることになる。より好ましくは30質量%以上である。
【0040】
上記芳香環を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
通常、このような芳香環を有する不飽和単量体を含む単量体成分から調製された制振材用エマルションは、アクリル系単量体等の他の単量体との共重合性の違いから、制振性に優れたものとすることが困難であることが多い。しかしながら本発明のように、制振材用エマルションに含まれる重合成分のうち、少なくとも1つの重合成分の組み合わせにおいてSP値の差を0.2以上とすることによって、芳香環を有する不飽和単量体を多く含む単量体成分から調製された制振材用エマルションであっても、優れた制振性を発揮することが可能となる。したがって、単量体成分が芳香環を有する不飽和単量体を多く含む場合に、本発明はその作用効果をより顕著に発揮することができるといえる。
芳香環を有する不飽和単量体の含有量は、全単量体成分100質量%に対して、10〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、15〜75質量%であり、更に好ましくは、20〜70質量%である。特に好ましくは、30〜70質量%である。
【0041】
上記窒素原子を有する不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記窒素原子を有する不飽和単量体の割合としては、全単量体成分100質量%中、0〜40質量%であることが好適である。
【0042】
上記ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体を含むことにより、幅広い温度領域での制振性が更に向上する。このような重合性単量体は、1種以上用いることが好適であるが、2種以上用いることがより好ましい。また、多段重合により上記ポリマーエマルションを得る場合は、その各工程において使用される単量体成分が、各々当該重合性単量体を1種以上含むことが好適である。
なお、本明細書中、ホモポリマーのガラス転移温度とは、ホモポリマーの硬化物のガラス転移温度(Tg)を意味し、例えば、JIS K−7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて測定可能であり、「POLYMER HANDBOOK」を参照することができる。
【0043】
上記官能基を有する不飽和単量体において、官能基としては、上記制振材用エマルションを重合により得る際に架橋することができる官能基であればよい。このような官能基の作用により、上記制振材用エマルションの成膜性や加熱乾燥性がより向上される。具体的には、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イソシアネート基、メチロール基、ビニルエーテル基、シクロカーボネート基、アルコキシシラン基等が挙げられ、1分子中にこれらの1種又は2種以上を有していてもよい。
【0044】
上記官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性不飽和単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有不飽和単量体類等が挙げられる。中でも、官能基を2個以上有する不飽和単量体(多官能性不飽和単量体)を用いることが好ましい。
上記官能基を有する不飽和単量体の含有量は、全単量体成分100質量%に対して10質量%未満であることが好適であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0045】
上記重合成分は、多価金属塩基により中和されたカルボキシル基(以下、「中和カルボキシル基」ともいう。)を有するものであってもよい。このような重合成分は、上記単量体成分を重合した後、多価金属塩基を添加することで得ることができる。
上記多価金属塩基は、M(OH)(式中、Mは、2価以上の金属元素を表す。nは、2以上の整数を表す。)で表される化合物である。式中、nは、Mの価数により決定される数値であり、Mは、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra等のアルカリ土類金属;Cr、Mn、Fe、Cu等の遷移金属;Al等の卑金属等が挙げられる。中でも、アルカリ土類金属であることが好ましい。なお、多価金属塩基は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
また、このように中和カルボキシル基を有する本発明の制振材用エマルションのpHは、例えば、25℃において、2〜10となることが好適である。より好ましくは3〜9、更に好ましくは7〜8である。エマルションのpHは、上述した多価金属塩基の他、必要に応じてアンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等の通常使用される中和剤を添加することによって調整することができる。
上記pHは、pHメーター(例えば、堀場製作所社製「F−23」)を用いて測定することができる。
【0047】
本発明の制振材用エマルションの製造方法としては、乳化剤の存在下で乳化重合法により単量体成分を重合することになるが、乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中に単量体成分及び重合開始剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いることが好ましい。
なお、上記制振材用エマルションに含まれるポリマーがコア部とシェル部とを有するポリマーエマルション粒子である場合には、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させてコア部を形成した後、該コア部を含むエマルションに更に単量体成分を乳化重合させてシェル部を形成する多段重合により得ることが好ましい。
【0048】
上記乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、両性乳化剤及び高分子乳化剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記アニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルコハク酸ジ塩;ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。
【0049】
上記アニオン性乳化剤の好ましい具体例としては、例えば、ラテムルWX、ラテムル118B、ペレックスSS−H、エマルゲン1118S、エマルゲンA−60、B−66、レベノールWZ(花王社製)、ニューコール707SF、ニューコール707SN、ニューコール714SF(日本乳化剤社製)、ニューコール714SN、ABEX−26S、ABEX−2010、2020、2030、DSB(ローディア日華社製)等が挙げられる。また、これらのノニオンタイプに相当する乳化剤も使用することができる。
【0050】
上記アニオン性乳化剤としてはまた、反応性乳化剤として、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成社製)、アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−30(ADEKA社製)等のスルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤;ラテムルASK(商品名、花王社製)等のアルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の1種又は2種以上を用いることができる。また、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等も用いることができる。
【0051】
上記アニオン性乳化剤としては更に、反応性乳化剤として、炭素数3〜5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1〜4)エステル塩型界面活性剤を用いることができる。このような界面活性剤として具体的には、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
上記ノニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等の反応性を有するノニオン性乳化剤も用いることができる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
上記カチオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
上記両性乳化剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記高分子乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
上述した乳化剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の乳化剤を用いることが好適である。
上記乳化剤の使用量としては、用いる乳化剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。更に好ましくは、1〜3重量部である。
【0055】
上記保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、保護コロイドは単独で使用されてもよいし、界面活性剤と併用されてもよい。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
【0056】
上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水を用いることが好ましい。なお、水性媒体の使用量は、得ようとするエマルションの所望の樹脂固形分を考慮して適宜設定すればよい。
【0057】
上記重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、水溶性開始剤が好適に使用される。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
【0058】
上記重合開始剤にはまた、乳化重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
【0059】
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下である。
【0060】
上記乳化重合においては、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0061】
上記製造方法における乳化重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適で、より好ましくは、5〜10時間である。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0062】
上記製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、必要に応じて、多価金属塩基以外の中和剤によりエマルションを中和してもよい。中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、本発明では、多価金属塩基によりエマルション中のカルボキシル基を中和するため、多価金属塩基のみで中和しても、更に上記中和剤により中和しても、効果は同じであると考えられる。つまり、多価金属塩基で金属結合したカルボキシル基の数(モル数)が一定の範囲内であれば、効果は発現されると考えられる。
【0063】
本発明の制振材用エマルションは、必要に応じて他成分とともに、制振材配合物を構成することができる。このような制振材配合物は、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮できる水系制振材を形成することができるものである。
上記制振材配合物は、本発明の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を少なくとも含むものであることが好ましく、これらの成分及び必要に応じて含まれる他の成分を、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて混合して得ることができる。
上記制振材配合物はまた、固形分含有量(不揮発分)が80質量%以上であることが好適である。固形分含有量とは、制振材組成物の総量100質量%に対する固形分の含有量を意味するが、このように、上記制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を含み、不揮発分が80質量%以上である制振材配合物(制振材組成物ともいう。)もまた、本発明の1つである。不揮発分としてより好ましくは、85〜95質量%であり、更に好ましくは、85〜90質量%である。
【0064】
また上記制振材配合物のpHは、25℃において、7〜11であることが好適である。より好ましくは、7〜9である。このpHもまた、上述した制振材用エマルションのpHと同様にして測定することができる。
【0065】
上記制振材配合物において、本発明の制振材用エマルションの含有量としては、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10〜60質量%となるように設定することが好適である。より好ましくは、15〜55質量%である。
上記制振材配合物はまた、本発明の制振材用エマルションとともに、他のエマルション樹脂を含むものであってもよい。他のエマルション樹脂としては、ウレタン樹脂、SBR樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−エチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂等のエマルション樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。この場合、本発明の制振材用エマルションと他のエマルション樹脂との質量比(本発明の制振材用エマルション/他のエマルション樹脂)は、100〜50/0〜50であることが好適である。
【0066】
上記制振材配合物において、顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機又は無機の着色剤等の着色剤;リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等の防錆顔料等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
上記顔料の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
【0067】
上記発泡剤としては、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。加熱膨張カプセルとしては、例えば、マツモトマイクロスフィアーF−30、F−50(松本油脂社製);エクスパンセルWU642、WU551、WU461、DU551、DU401(日本エクスパンセル社製)等が挙げられ、有機発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等が挙げられ、無機発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、シリコンハイドライド等が挙げられる。
上記発泡剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、0.5〜5重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1〜3重量部である。
【0068】
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1.5重量部であり、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
【0069】
上記制振材配合物はまた、溶媒;水系架橋剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;充填剤;分散剤;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の添加剤の他、多価金属化合物を含んでいてもよい。これらの成分は、各々1種又は2種以上を使用することができる。
【0070】
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、制振材配合物中の制振材用エマルションの固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0071】
上記水系架橋剤としては、例えば、エポクロスWS−500、WS−700、K−2010、2020、2030(いずれも商品名、日本触媒社製)等のオキサゾリン化合物;アデカレジンEMN−26−60、EM−101−50(いずれも商品名、ADEKA社製)等のエポキシ化合物;サイメルC−325(商品名、三井サイテック社製)等のメラミン化合物;ブロックイソシアネート化合物;AZO−50(商品名、50質量%酸化亜鉛水分散体、日本触媒社製)等の酸化亜鉛化合物等が好適である。水系架橋剤の配合量は、例えば、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜20重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.15〜15重量部、更に好ましくは0.5〜15重量部であり、制振材用エマルションに添加してよいし、制振材配合物として他の成分を配合するときに同時に添加してもよい。
上記制振材用エマルション又は制振材配合物に架橋剤を混合することにより、樹脂の強靱性が向上し、その結果、高温領域で充分な高制振性が発現する。中でもオキサゾリン化合物を用いることが好ましい。
【0072】
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、クレー等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。充填剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0073】
上記制振材配合物としては更に、多価金属化合物を含んでもよい。この場合、多価金属化合物により、制振材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材配合物から形成される制振材の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。多価金属化合物の形態としては、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材配合物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、0.05〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
【0074】
上記制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記制振材配合物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時の塗膜の膜厚が、2.0〜5.0mmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、2.5〜4.5mmである。更に好ましくは、3.0〜4.0mmである。
また、乾燥時(後)の塗膜の面密度が1.0〜7.0kg/mとなるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。なお、本発明の制振材配合物を使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。
【0075】
上記制振材配合物を塗布した後、乾燥して塗膜を形成させる条件としては、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、本発明における制振材配合物は、加熱乾燥性に優れることから、効率性の点で加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥の温度としては、100〜150℃とすることが好ましい。このように、上記制振材配合物を100〜150℃で焼き付けることによって得られる制振材塗膜であって、該塗膜の膜厚が2〜5mmである制振材塗膜もまた、本発明の1つである。
【0076】
上記制振材配合物の制振性は、制振材配合物から形成される膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、制振材に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。上記制振材配合物から形成される膜の損失係数のピーク値として好ましくは、0.2以上である。より好ましくは、0.21以上であり、更に好ましくは、0.22以上であり、特に好ましくは、0.23以上である。
上記損失係数の測定方法としては、共振周波数付近で測定する共振法が一般的であり、半値幅法、減衰率法、機械インピーダンス法がある。本発明の制振材配合物において、制振材配合物から形成される膜の損失係数としては、片持ち梁法を用いた共振法(3dB法)により測定することが好適である。片持ち梁法を用いる測定は、例えば、株式会社小野測機製の損失係数測定システムを用いて行うことができる。
また、上記損失係数は、冷間圧延鋼板(SPCC:幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm)上に厚さ3.0mmの塗膜容量で塗布し、150℃×30分間焼付け乾燥することで被膜を形成して測定することが好ましい。損失係数の測定は、例えば、20℃、30℃、40℃、50℃及び60℃の各温度における損失係数を共振法(3dB法)により測定し、その中のピーク値により評価するのが好ましい。また、制振材配合物から形成される膜の実用温度範囲が通常では20〜60℃であるので、20〜60℃の各温度における損失係数を合計した値で制振性能を評価してもよく、制振材配合物から形成される膜が、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した総損失係数が0.20以上であることが好ましい。そのような制振材配合物である場合に、制振材配合物から形成される膜の実用温度範囲である20〜60℃において充分な制振性を発揮しているということができる。
総損失係数としては、より好ましくは、0.27以上であり、更に好ましくは、0.30以上である。
【発明の効果】
【0077】
本発明の制振材用エマルションは、上述の構成よりなり、制振材に要求される基本性能を発揮するとともに、制振性に著しく優れる制振材を形成することができるものであり、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等の工業的な用途に好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0079】
なお、以下の実施例において、各種物性等は以下のようにして評価した。
<溶解度係数(SP値)>
各重合成分のSP値は、以下のSmallの式を用いて算出した。
【0080】
【数3】

【0081】
式中、δは、重合成分のSP値である。Δeは、重合成分を構成する単量体各成分の蒸発エネルギーの計算値(kcal/mol)であり、ΣΔeは、重合成分を構成する全単量体成分の当該計算値の合計値である。ΔVは、重合成分を構成する単量体各成分の分子容の計算値(ml/mol)であり、ΣΔVは、重合成分を構成する全単量体成分の当該計算値の合計である。xは、重合成分を構成する単量体各成分のモル分布である。
【0082】
<ガラス転移温度(Tg)>
各重合反応で用いた単量体組成から、下記Foxの式を用いて算出した。なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
【0083】
【数4】

【0084】
式中、Tgは、重合成分のガラス転移温度である。Wnは、全単量体成分に対する単量体nの質量分率(質量%)を表す。Tgnは、単量体nからなるホモポリマーのガラス転移温度(単位:K、絶対温度)を表す。
【0085】
上記Foxの式により重合成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン(St):100℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
アクリル酸メチル(MA):9℃
アクリル酸(AA):95℃
メタクリル酸(MAA):130℃
【0086】
<不揮発分(N.V.)>
得られた水性樹脂分散体約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計(東機産業社製「VISCOMETER TUB−10」)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0087】
<平均粒子径>
動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)を用い、体積平均粒子径を測定した。
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定した。
【0088】
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン165部、メチルメタクリレート160部、2−エチルヘキシルアクリレート165部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分間温度を維持した。
【0089】
次に、滴下ロートにスチレン105部、メチルメタクリレート100部、ブチルアクリレート200部、2−エチルヘキシルアクリレート85部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水10部を添加し、不揮発分55%、pH8.0、粘度240mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量65000、1段目のSP値8.59、2段目のSP値9.11、1段目のTg10℃、2段目のTg−10℃、トータルTg0℃のエマルションAを得た。
【0090】
(製造例2)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン275部、2−エチルヘキシルアクリレート120部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分間温度を維持した。
【0091】
次に、滴下ロートにスチレン240部、ブチルアクリレート300部、2−エチルヘキシルアクリレート40部、アクリル酸20部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水12.5部を添加し、不揮発分55%、pH8.2、粘度210mPa・s、平均粒子径260nm、重量平均分子量58000、1段目のSP値7.77、2段目のSP値8.54、1段目のTg25℃、2段目のTg−10℃、トータルTg3℃のエマルションBを得た。
【0092】
(製造例3)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン230部、ブチルアクリレート85部、2−エチルヘキシルアクリレート35部、アクリル酸メチル140部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分間温度を維持した。
【0093】
次に、滴下ロートにスチレン140部、ブチルアクリレート200部、2−エチルヘキシルアクリレート40部、アクリル酸メチル100部、アクリル酸20部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水15部を添加し、不揮発分55%、pH7.9、粘度420mPa・s、平均粒子径220nm、重量平均分子量56000、1段目のSP値8.48、2段目のSP値8.99、1段目のTg20℃、2段目のTg−10℃、トータルTg5℃のエマルションCを得た。
【0094】
(製造例4)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン300部、ブチルアクリレート160部、2−エチルヘキシルアクリレート30部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分間温度を維持した。
【0095】
次に、滴下ロートにスチレン150部、ブチルアクリレート280部、アクリル酸メチル50部、アクリル酸20部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水15部を添加し、不揮発分55%、pH8.2、粘度510mPa・s、平均粒子径290nm、重量平均分子量60000、1段目のSP値8.04、2段目のSP値8.91、1段目のTg18℃、2段目のTg−13℃、トータルTg2℃のエマルションDを得た。
【0096】
(製造例5)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン560部、2−エチルヘキシルアクリレート435部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレべノールWZ(商品名、花王社製)180.0部及び脱イオン水194部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの4部、5%過硫酸カリウム水液液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を180分にわたって均一に流下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液100部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を180分かけて均一に流下し、滴下終了後60分同温度を維持した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水3部を添加し、不揮発分55%、pH8.0、粘度180mPa・s、平均粒子径270nm、重量平均分子量50000、SP値7.95、Tg0℃のエマルションEを得た。
【0097】
(製造例6)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン500部、ブチルアクリレート210部、2−エチルヘキシルアクリレート250部、メタクリル酸40部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレべノールWZ(商品名、花王社製)180.0部及び脱イオン水194部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの4部、5%過硫酸カリウム水液液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を180分にわたって均一に流下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液100部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を180分かけて均一に流下し、滴下終了後60分同温度を維持した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水15部を添加し、不揮発分55%、pH7.8、粘度230mPa・s、平均粒子径290nm、重量平均分子量52000、SP値8.21、Tg2℃のエマルションFを得た。
【0098】
(製造例7)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン550部、2−エチルヘキシルアクリレート445部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレべノールWZ(商品名、花王社製)180.0部及び脱イオン水194部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの4部、5%過硫酸カリウム水液液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を180分にわたって均一に流下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液100部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を180分かけて均一に流下し、滴下終了後60分同温度を維持した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水3部を添加し、不揮発分55%、pH8.2、粘度310mPa・s、平均粒子径270nm、重量平均分子量59000、SP値7.98、Tg−1℃のエマルションGを得た。
【0099】
(製造例8)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン470部、ブチルアクリレート365部、2−エチルヘキシルアクリレート150部、アクリル酸15部、t−ドデシルメルカプタン3部、予め20%水溶液に調整したレべノールWZ(商品名、花王社製)180.0部及び脱イオン水194部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの4部、5%過硫酸カリウム水液液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を180分にわたって均一に流下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液100部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を180分かけて均一に流下し、滴下終了後60分同温度を維持した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水8部を添加し、不揮発分55%、pH8.1、粘度280mPa・s、平均粒子径310nm、重量平均分子量62000、SP値8.3、Tg−4℃のエマルションHを得た。
【0100】
(製造例9)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン300部、ブチルアクリレート90部、2−エチルヘキシルアクリレート100部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分間温度を維持した。
【0101】
次に、滴下ロートにスチレン250部、2−エチルヘキシルアクリレート240部、アクリル酸10部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水10部を添加し、不揮発分55%、pH8.3、粘度280mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量54000、1段目のSP値8.00、2段目のSP値8.11、1段目のTg15℃、2段目のTg−7℃、トータルTg3℃のエマルションIを得た。
【0102】
(実施例1〜8、比較例1、2)
表1に示した通り、エマルションを2種類混合し、更に下記の通り配合して制振材配合物を得、下記試験方法により制振材塗膜の制振性を評価した。結果を表1に示す。
混合したエマルション 359部
炭酸カルシウム(NN#200※1) 620部
分散剤(アクアリックDL−40S※2) 6部
増粘剤(アクリセットWR−650※3) 4部
消泡剤(ノプコ8034L※4) 1部
発泡剤(F−30※5) 6部
※1:日東粉化工業社製 充填剤
※2:日本触媒社製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
※3:日本触媒社製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
※4:サンノプコ社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
※5:松本油脂社製 発泡剤
【0103】
<制振性試験>
上記制振材配合物を冷間圧延鋼板(SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0kg/mの制振材塗膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)をもちいて、それぞれの温度(20℃、40℃、60℃)における損失係数を共振法(3dB法)により測定した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、40℃、60℃での損失係数の合計)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1〜8及び比較例1、2の結果から、制振材用エマルションに含まれる重合成分のうち、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であると、全ての重合成分間のいずれの組み合わせにおいてもSP値の差が0.2未満である場合に比べて、制振性において有利な効果を発揮することがわかった。この実施例と比較例との差は、数値上はわずかに見えるが、制振性を表す損失係数としては、有意に大きな差である。なお、上記実施例においては、重合成分としてアクリル共重合体を用いているが、制振材用エマルションを構成する重合成分のうちのいずれかの重合成分の組み合わせにおいてその間のSP値に充分な差があると、この重合成分間の相溶性が低くなり、相間摩擦が起こるために、この摩擦力によって、振動による運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、優れた制振性が発揮される、と推定される機構は、制振材用エマルションを構成する重合成分の単量体成分に関わらず同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のポリマーを混合して得られる制振材用エマルションであって、
該各々のポリマーは、重合成分を1種又は2種以上含むものであり、
該エマルションは、各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であることを特徴とする制振材用エマルション。
【請求項2】
前記エマルションは、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも1種と他のポリマーとを含有し、該コア・シェル構造のポリマーの各々の重合成分のSP値と他のポリマーの重合成分のSP値との差の少なくとも1つが0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション。
【請求項3】
前記エマルションは、重合成分を2種以上含むコア・シェル構造のポリマーを少なくとも2種含有し、該コア・シェル構造のポリマーの各々の重合成分のSP値の差の少なくとも1つが0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション。
【請求項4】
前記エマルションは、各々の重合成分のSP値の差がいずれも0.2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振材用エマルション。
【請求項5】
前記重合成分の少なくとも1種は、ガラス転移温度が−20〜0℃、重量平均分子量が20000〜400000であり、その他の重合成分の少なくとも1種は、ガラス転移温度が0〜30℃、重量平均分子量が20000〜400000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振材用エマルション。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を含み、不揮発分が80質量%以上であることを特徴とする制振材配合物。
【請求項7】
請求項6に記載の制振材配合物を100〜150℃で焼き付けることによって得られる制振材塗膜であって、該塗膜の膜厚が、2〜5mmであることを特徴とする制振材塗膜。

【公開番号】特開2011−231184(P2011−231184A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101174(P2010−101174)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】