説明

制振材用エマルション

【課題】幅広い温度領域において、安定的に優れた制振性を発揮するとともに、機械安定性にも優れ、塗布型制振材が使用される各種用途に好適に用いることができる制振材用エマルションを提供する。
【解決手段】単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルションであって、該エマルションは、貯蔵弾性率が20℃で5.0×10〜8.0×10Pa、50℃で1.0×10〜5.0×10Paであり、損失弾性率が20℃で4.0×10〜4.0×10Pa、50℃で1.0×10〜7.0×10Paであって、20〜50℃の温度範囲に、1.3以上の損失角正接の最大ピークを有し、該エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後の凝集率が0.01以下である制振材用エマルションである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材用エマルションに関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つために使用される制振材の材料として有用な制振材用エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。このような制振材に用いられる材料としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状成形体やシート状成形体等の成形加工品が使用されているが、振動や音響の発生箇所の形状が複雑な場合には、これらの成形加工品を振動発生箇所に適用することが困難であることから、作業性を改善して制振性を充分に発揮させるための手法が種々検討されている。すなわち、例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要性があることから、作業性等の改善が望まれており、制振材を形成する種々の制振材用組成物や重合体の検討がなされている。
【0003】
そこで、このような成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており、例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することで形成される塗膜によって、振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。このような制振性塗料等には、制振性及び機械安定性に優れることが求められるが、これらの従来品をもってしても未だ、制振性能が充分に満足できるレベルにあるとはいえず、優れた機械安定性とともに、更に充分に制振性能を発揮できるようにする技術が求められている。特に、このような制振性塗料等が使用される温度領域である20〜60℃において、安定して優れた制振性を発揮できると共に、機械安定性にも優れたものとすることが求められている。
【0004】
従来、広い温度領域において制振性を発揮することを目的とした制振材料としては、水性媒体と水性媒体中に分散するアクリル重合体(A)のエマルション粒子とから成り、アクリル重合体(A)について、20℃、60℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、及び、20〜60℃におけるtanδの最大ピークが特定された水性アクリルエマルションが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、幅広い温度領域において優れた制振性を発揮するだけでなく、機械安定性にも優れた制振材料とする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2006−335938号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、幅広い温度領域において、安定的に優れた制振性を発揮するとともに、機械安定性にも優れ、塗布型制振材が使用される各種用途に好適に用いることができる制振材用エマルションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、通常使用される温度領域である20〜60℃において、優れた制振性等の物性を発揮する制振性塗料に好適に用いることができる制振材用エマルションについて種々検討したところ、エマルションに無機顔料が配合物として添加されて制振材配合物が調製されると硬さが上昇することになるが、このようにして調製される制振材配合物の60℃での制振性と、50℃でのエマルションの貯蔵弾性率、損失弾性率との間に相関性があることを見出した。そして、単量体成分を乳化重合してなるエマルションにおいて、20℃及び50℃における貯蔵弾性率、損失弾性率が特定の範囲にあり、20〜50℃に損失角正接の最大ピークがあって、その値が特定の値以上であるとともに、該エマルションを用いた制振剤配合物のJIS K6828:1996に準じた機械安定性試験後の凝集率が特定の値以下であると、得られるエマルションが幅広い温度領域にわたって安定して優れた制振性を発揮するとともに、機械安定性にも優れたものとなることを見出した。また更に、このようなエマルションの最低造膜温度が特定の温度以下であると、エマルションから形成される塗膜における塗膜欠陥の発生が抑制され、制振材用エマルションが使用される各種用途において、より充分な制御性、機械安定性を発揮する塗膜を形成することができるものとなることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルションであって、上記エマルションは、貯蔵弾性率が20℃で5.0×10〜8.0×10Pa、50℃で1.0×10〜5.0×10Paであり、損失弾性率が20℃で4.0×10〜4.0×10Pa、50℃で1.0×10〜7.0×10Paであって、20〜50℃の温度範囲に、1.3以上の損失角正接の最大ピークを有し、上記エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後の凝集率が0.01以下である制振材用エマルションである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の制振材用エマルションは、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含むものであって、該エマルションの20℃及び50℃における貯蔵弾性率と損失弾性率、損失角正接の最大ピークの値及びそのピークの存在する範囲、及び、該エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験を行った後の凝集率の値が特定されたものである。エマルションの貯蔵弾性率、損失弾性率とは、それぞれ、硬さ、及び、内部摩擦による振動エネルギーの消費量を表す指標である。貯蔵弾性率や損失弾性率の値が本発明のエマルションにおける値の上限よりも高いと、塗膜が硬くなり、造膜性が低下することになり、下限よりも低いと、制振性が発現しないことになる。また、損失角正接の最大ピークは、振動エネルギーの消費度合いを表す指標である。これらは、いずれもエマルションの制振性に影響するものであり、20℃及び50℃における貯蔵弾性率、損失弾性率が特定の範囲にあり、20℃〜50℃に損失角正接の最大ピークがあって、かつ、その最大ピークの値が一定以上であり、更に、該エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後の凝集率の値が特定されたものであると、エマルションが所望の制振性を発揮するものとなる。
【0009】
本発明の制振材用エマルションは、20℃及び50℃における貯蔵弾性率と損失弾性率、損失角正接の最大ピークの値及びそのピークの存在する範囲、及び、該エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後の凝集率の値が特定を満たすものである限り、エマルションの種類は特に限定されない。また、本発明の制振材用エマルションは、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。エマルションを2種以上含むものである場合には、それらのうちの少なくとも1種が上記特定を満たすものである限り、上記特定を満たさないエマルション、すなわち、その他のエマルションを含むものであってもよい。
その他のエマルションとしては、後述する他のエマルション樹脂等を用いることができる。
【0010】
上記凝集率は、制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後に測定されるものであるが、具体的には、例えば、以下の方法により測定されるものである。
制振剤配合物について、マーロン試験安定性試験機(熊谷理機工業社製)にて、JIS K6828:1996に準じて機械安定性試験をおこなう。試験終了後、その制振材配合物を直ちに100メッシュ金網でろ過し、110℃オーブンで1時間乾燥させた。以下の式にて凝集率を算出する。
凝集率(%)=(乾燥後の金網の質量(g)−乾燥前の金網の質量(g))/70(g)×100
【0011】
本発明の制振材用エマルションは、上述したように、各種物性値が特定の範囲にあるものであるが、このようなエマルションは、例えば、(1)エマルション全体のガラス転位温度(Tg)が、−20〜30℃となり、かつ、エマルションの重量平均分子量が1万〜20万の範囲となるようにエマルションを形成する単量体成分や反応条件を適宜設定して重合反応を行うか、又は、(2)エマルションとして、後述するコア・シェル複合構造を有するものを用い、エマルション全体のガラス転位温度(Tg)が、−20〜30℃となり、かつ、コア部を形成する単量体成分とシェル部を形成する単量体成分とのTgの差が10〜60℃となるようにエマルションを形成する単量体成分を適宜選択して重合反応を行うこと等により得ることができる。
【0012】
上記20℃における貯蔵弾性率は、6.0×10〜7.0×10Paであることが好ましい。20℃における貯蔵弾性率がこのような範囲にあると、20℃での損失係数が大きくなり、20℃での塗膜の制振性が向上する。より好ましくは、7.0×10〜6.0×10Paである。
また、50℃における貯蔵弾性率は、2.0×10〜4.0×10Paであることが好ましい。50℃における貯蔵弾性率がこのような範囲にあると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物(制御振材配合物)の60℃での損失係数が大きくなり、60℃での塗膜の制振性が向上する。より好ましくは、3.0×10〜3.0×10Paである。
【0013】
上記20℃における損失弾性率は、5.0×10〜3.0×10Paであることが好ましい。20℃における損失弾性率がこのような範囲にあると、20℃での損失係数が大きくなり、20℃での塗膜の制振性が向上する。より好ましくは、6.0×10〜2.0×10Paである。
また、50℃における損失弾性率は、2.0×10〜6.0×10Paであることが好ましい。50℃における損失弾性率がこのような範囲にあると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物の60℃での損失係数が大きくなり、60℃での塗膜の制振性が向上する。より好ましくは、3.0×10〜5.0×10Paである。
【0014】
上記エマルションは、貯蔵弾性率が20℃で6.0×10〜7.0×10Pa、50℃で3.0×10〜4.0×10Paであり、損失弾性率が20℃で5.0×10〜3.0×10Pa、50℃で2.0×10〜6.0×10Paであることがより好ましい。
20℃、50℃における貯蔵弾性率、損失弾性率がこのような範囲にあると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物が、20〜60℃の範囲において、より優れた制振性を発揮するものとなる。
【0015】
また、上記エマルションは、20℃における貯蔵弾性率と損失弾性率との絶対値の差が5.0×10Pa未満であることが好ましい。この差が5.0×10Pa以上であると、塗膜を構成するポリマーが硬直し、制振性が発現しないおそれがある。
同様に、50℃における貯蔵弾性率と損失弾性率との絶対値の差は、2.5×10Pa未満であることが好ましい。
【0016】
上記エマルションは、20〜50℃の温度範囲に、1.3以上の損失角正接の最大ピークを有するものであるが、1.3以上の損失角正接の最大ピークを示す温度は、25〜45℃であることが好ましい。1.3以上の損失角正接の最大ピークを示す温度がこのような範囲であると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物の20〜60℃の範囲での損失係数が向上し、所望の制振性が発現する。より好ましくは、30〜40℃である。なお、上記貯蔵弾性率、損失弾性率、及び、損失角正接は、例えば、制振材用エマルションから製造したフィルムを用いて、歪み制御方式による固体粘弾性測定装置RSA−III(TAインスツルメンツ社製)を用い、動的粘弾性の測定をおこなうことにより測定することができる。
【0017】
上記エマルションは、20℃における損失角正接が0.15以上であることが好ましい。より好ましくは、0.4以上である。
また、50℃における損失角正接が0.4以上であることが好ましい。より好ましくは、0.6以上である。
20℃における損失角正接、50℃における損失角正接がこのような好ましい範囲であると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物が、20℃、60℃の温度近傍において、優れた制御性を発揮するものとなる。また、20℃における損失角正接、50℃における損失角正接がいずれも好ましい範囲にあると、エマルションに顔料等を添加して形成される塗料組成物が、20〜60℃の温度範囲において、優れた制御性を発揮するものとなる。
【0018】
上記エマルションは、最低造膜温度が30℃以下であることが好ましい。最低造膜温度が30℃より大きいと、制振材用エマルションが使用される温度領域で塗膜に欠陥が生じ、充分な制振性を発揮することができないおそれがある。
より好ましくは、20℃以下である。
【0019】
上記制振材用エマルションは、単量体成分を乳化重合してなる重合体が媒体中に粒子状に分散された形態で存在するものである。なお、媒体としては、水性媒体が好ましく、例えば、水や、水と混じりあう溶媒と水との混合溶媒等が挙げられる。中でも、本発明の制振材用エマルションを含む塗料を塗布する際の安全性や環境への影響を考慮すると、水が好適である。
上記制振材用エマルション中の不揮発分、すなわち、貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションの粒子の含有割合としては、制振材用エマルションの総量100質量%に対し、30質量%以上、70質量%以下であることが好適である。70質量%を超えると、制振材用エマルションの粘度が高くなり過ぎて充分な分散安定性を保持することができないおそれがあり、凝集するおそれがある。30質量%未満であると、充分な制振性を発揮しないおそれがある。より好ましくは50質量%以上、65質量%以下である。
また、制振材用エマルションが貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルション以外のその他のエマルションを含むものである場合、貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルション及びその他のエマルションを含めた本発明の制振材用エマルション全体の不揮発分も、上記割合であることが好ましい。
【0020】
本発明の制振材用エマルションは、単量体成分を乳化重合してなり、貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションを含むものであるが、乳化剤の使用量としては、単量体成分を乳化重合してなるエマルションの製造に使用される単量体成分の総量100重量部に対し、1.0重量部以上であることが好ましい。1.0重量部未満であると、エマルションが優れた乾燥性や制振性を発揮することができず、また、顔料と混合した際の顔料混和性が充分とはならないおそれがあり、各種構造体の制振材に有用なものとすることができないおそれがある。好ましくは2.0重量部以上であり、より好ましくは2.5重量部以上である。また、経済性を考慮すると、7.0重量部以下であることが好適である。
【0021】
上記貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションの製造に使用される乳化剤としては、乳化重合に通常使用されるものを用いればよく、後述するアニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性、高分子等の各種界面活性剤の1種又は2種以上を使用することができるが、これらの中でも、反応性のもの、すなわち、反応性乳化剤を用いることが好ましい。
乳化剤として反応性乳化剤を用いることにより、乳化剤が水中に遊離して塗膜表面にブリードすることを原因とする乾燥時の熱フクレを抑制するとともに、エマルションの安定性、分散性を向上させ、制振性を高めることができる。
なお、反応性乳化剤と反応性乳化剤以外の乳化剤とを併用してもよいが、反応性乳化剤が乳化剤の主成分であることが好ましい。
【0022】
上記反応性乳化剤としては、重合性基を有するアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤等が好適であり、1種又は2種以上を用いることができるが、これらの中でも、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、プロペニル基等の重合性基を有する乳化剤が好ましい。
【0023】
上記重合性基を有するアニオン性乳化剤としては、例えば、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業社製「アデカリアソープSR−10」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等が好適である。
また、スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤である、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成社製)等、アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤である、ラテムルASK(商品名、花王社製)等も好適である。
【0024】
また、反応性乳化剤であるアニオン性乳化剤としては更に、下記の界面活性剤等も好適である。
炭素数3〜5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1〜4)エステル塩型界面活性剤、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤。
【0025】
マレイン酸ジポリエチレングリコールエステルアルキルフエノールエーテル硫酸エステル塩、フタル酸ジヒドロキシエチルエステル(メタ)アクリレート硫酸エステル塩、1−アリロキシ−3−アルキルフエノキシ−2−ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(商品名:アデカリアソープSE−10N、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレンアルキルアルケニルフエノール硫酸エステル塩(商品名:アクアロン、第一工業製薬社製)。
【0026】
上記重合性基を有するノニオン性乳化剤としては、例えば、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等が好適である。
【0027】
上記反応性乳化剤の中でも、本発明におけるエマルションの製造に用いる反応性乳化剤としては、特にアントックスMS−60(商品名、日本乳化剤社製)、アデカリアソープSR−10、20、30(商品名、旭電化工業社製)、アクアロンKH−10(商品名、第一工業製薬社製)、ラテムルPD−104(商品名、花王社製)等が好ましい。
これらの反応性乳化剤を用いて得られたエマルションを用いることにより、本発明の制振材用エマルションの特性がより効果的に発揮されることになる。
【0028】
本発明においては、制振材用エマルションが顔料やフィラー等との混練性に優れるものとなることから、エチレンオキサイドの付加構造を有する反応性乳化剤を用いることが好ましい。エチレンオキサイドの付加構造により、顔料やフィラー等に対する安定性が向上されることとなる。
【0029】
また、上記貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションの製造に使用される乳化剤としては、特定の構造を有するアニオン性乳化剤も好ましい。
このようなアニオン性乳化剤としては、硫酸塩化合物、又は、コハク酸塩化合物であって、該硫酸塩化合物は、炭素数8以上の脂肪族アルキル基、オレイル基、アルキルフェニル基、スチリル基、及び、ベンジル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するものである。炭素数8以上の脂肪族アルキル基としては、炭素数12以上あるいは芳香環を1つ以上有するものがより好ましい。
【0030】
上記特定の構造を有するアニオン性乳化剤の中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、及び、アルケニルコハク酸ジ塩からなる群より選択される少なくとも1種のものであることが好ましい。
これらのアニオン性乳化剤は、いずれも疎水性の強い骨格を有していることにより、いずれのものも同様の効果を発揮するものである。これらのアニオン性乳化剤を用いることにより、本発明の制振材用エマルションの特性がより効果的に発揮されることになる。
なお、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩とは、ポリオキシアルキレンモノスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレントリスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩のいずれかを意味し、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩とは、ポリオキシアルキレンモノベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレントリベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩のいずれかを意味する。
【0031】
上記特定の構造を有するアニオン性乳化剤としては、上述したものの中でも、特に、平均付加モル数15〜35のエチレンオキシド鎖を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩からなる群より選択される少なくとも1種のものであることが好ましい。
これらのアニオン性乳化剤として特に好適な化合物としては、上述した反応性乳化剤にも含まれるもの以外に、ラテムルWX、ラテムル118B、ペレックスSS−H、エマルゲン1118S、エマルゲンA−60、B−66(花王社製)、ニューコール707SF、ニューコール707SN、ニューコール714SF、ニューコール714SN(日本乳化剤社製)、ABEX−26S、ABEX−2010、2020、2030、DSB(ローディア日華社製)等を挙げることができる。また、これらのノニオンタイプに相当する界面活性剤も使用することができる。
これらの中でも、最も好ましくは、ラテムルWXである。
【0032】
本発明においては、上述した特定の構造を有するアニオン性乳化剤と反応性乳化剤とを併用することもできる。また、上述した特定の構造を有するアニオン性乳化剤とその他の通常使用されるアニオン性乳化剤とを併用することができる。その他の通常使用されるアニオン性乳化剤としては特に限定されず、後述するアニオン系界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
本発明における貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションの粒子は、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子であることが好ましい。エマルションがこのようなものである場合、コア部とシェル部とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるコア・シェル複合構造やミクロドメイン構造であってもよい。
これらの構造の中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。
なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0034】
上記コア部とシェル部とを有するエマルション粒子において、コア部を形成する重合体と、シェル部を形成する重合体とは、例えば、重量平均分子量やガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、後述するように、重量平均分子量、ガラス転移温度の少なくとも1つで差を有するものであることが好適である。
【0035】
本発明における貯蔵弾性率等の特定を満たすエマルションは、ガラス転位温度(Tg)が−20〜30℃であることが好ましい。また、制振材用エマルション全体としてのガラス転位温度もこの範囲にあることが好ましい。これにより、本発明の制振材用エマルションを用いて制振材配合物を形成した場合に、制振材配合物の損失係数が好適なものとなり、優れた制振性を発揮することができることとなる。上記Tgが−20℃未満であっても30℃を超えても制振性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、−10℃以上であり、また、20℃以下である。更に好ましくは、−5℃以上であり、また、10℃以下である。
【0036】
上記エマルションの粒子がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合、コア部を形成する単量体成分とシェル部を形成する単量体成分とのガラス転位温度(Tg)の差が10〜60℃であることが好ましい。Tgの差が10℃未満である場合や、60℃より大きい場合には、幅広い温度領域(20〜60℃)にわたっての制振性が得られない。より好ましくはTgの差が15〜50℃であることである。また、コア部を形成する単量体成分のTgは、シェル部を形成する単量体成分のTgよりも高いほうが好ましい。すなわち、コア部とシェル部とを有するエマルションを製造する場合、コア部のエマルションを形成した後、シェル部のエマルションを形成する多段重合により製造されることになるが、前段工程で使用される単量体成分のTgは、後段工程で使用される単量体成分のTgよりも高いほうが好ましい。エマルションが3段階以上の工程で製造される場合も同様に、後の工程で使用される単量体成分のTgは、その直前の工程で使用される単量体成分のTgよりも低いものであることが好ましい。
【0037】
また本発明の制振材用エマルションは、Tgが高いエマルションを必須としてなることが好ましく、また、Tgが高いエマルションとTgが低いエマルションとを含んでなることが好ましい。
上記Tgが高いエマルションとしては、Tgが0℃以上、また、50℃以下のものが好適である。より好ましくは、Tgが0℃以上、また、30℃以下である。また、上記Tgが低いエマルションとしては、Tgが−50℃以上、また、10℃以下のものが好適である。より好ましくは、Tgが−20℃以上、また、0℃以下である。
【0038】
上記Tgが高いエマルションとTgが低いエマルションのTgの差としては、15℃以上であることが好ましい。差が15℃未満であると、20℃か60℃のいずれかで制振性をより充分に発現できないおそれがある。より好ましくは20℃以上であり、更に好ましくは25℃以上である。また、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがあることから、Tg差は100℃以下とすることが好ましい。より好ましくは90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下である。
このようにTgに差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性が格段に向上されることとなる。なお、3種以上のエマルションを用いる場合には、このうちの少なくとも2種のエマルションがTgの異なるものであればよく、残りの1種以上については、当該2種のエマルションのいずれかとTgが同じものであってもよい。
【0039】
上記Tgが高いエマルションとしては、反応性乳化剤及び/又は特定の構造を有するアニオン性乳化剤により単量体成分を乳化重合してなるエマルションを用いることが好ましく、上記Tgが低いエマルションとしては、反応性乳化剤及び/又は特定の構造を有するアニオン性乳化剤により単量体成分を乳化重合してなるエマルションを用いることもできるが、特に限定せず、SBR及び、アクリルエマルション、酢酸ビニル系エマルション等の市販品を使用しても良い。
【0040】
なお、上記エマルションのTgとしては、既に得られている知見に基づいて決定されてもよいし、単量体成分の種類や使用割合によって制御されてもよいが、理論上は、以下の計算式より算出され得る。
【0041】
【数1】

【0042】
式中、Tg’は、重合体のTg(絶対温度)である。W’、W’、・・・W’は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0043】
本発明における貯蔵弾性率等が特定されたエマルションは、重量平均分子量が1万〜200万であることが好ましい。1万未満であると、制振性が充分なものとはならず、得られる制振材用エマルションを塗料配合した状態での安定性が充分なものとはならないおそれがある。200万を超えると、例えば、2種以上のアクリル共重合体を使用した場合に相溶性が充分とはならずに制振性のバランスを充分に保つことができず、特に30〜40℃域での制振性を向上することができないおそれがあり、また、塗料に配合した状態での低温における造膜性が充分とはならないおそれがある。好ましくは、3万〜100万であり、より好ましくは、4万〜25万である。更に好ましくは、4万〜20万である。
なお、重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0044】
また上記コア部とシェル部とを有するエマルション粒子においては、コア部を形成する単量体成分とシェル部を形成する単量体成分との質量比が20/80〜70/30であることが好ましい。コア部を形成する単量体成分の質量比が20/80よりも小さい場合や、70/30よりも大きい場合には、幅広い温度領域での制振性が得られなくなる。より好ましくは、35/65〜55/45である。
【0045】
上記エマルションのpHは、特に制限されないが、例えば、2〜10であることが好ましい。より好ましくは、3〜9である。エマルションのpHは、エマルションに、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
pHは、pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)等により測定することができる。
【0046】
上記エマルションの粘度は、特に制限されないが、例えば、10〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、50〜5000mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
【0047】
本発明におけるエマルションを形成することになる単量体成分としては、本発明の作用効果を発揮することができる限り特に限定されるものではないが、不飽和カルボン酸単量体を含んでなるものであることが好ましい。より好ましくは、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体とを含んでなるものである。不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されるものではないが、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことが好ましい。すなわちエチレン系不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体成分を重合してなるエマルションを含んでなる制振材用エマルションは、本発明の好ましい形態の1つである。
なお、本発明のエマルションの粒子がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体は、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれに含まれていてもよく、これらの両方に用いられるものであってもよい。
【0048】
上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体等の1種又は2種以上が挙げられる。
これらの中でも、アクリル系単量体が好ましい。アクリル系単量体とは、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体を意味する。
【0049】
更に上記単量体成分としては、全単量体成分に対して官能基を有する不飽和単量体を10質量%未満含有するものであることが好ましい。官能基を有する不飽和単量体における官能基は、エマルションを重合により得る際に架橋することができる官能基であればよい。このような官能基の作用により、エマルションの成膜性や加熱乾燥性を向上することができることになる。より好ましくは、0.1〜3.0質量%である。
なお上記質量割合は、全単量体成分100質量%に対する質量割合である。
【0050】
上記官能基としては、例えば、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イソシアネート基、メチロール基、ビニルエーテル基、シクロカーボネート基、アルコキシシラン基等が挙げられる。これらの官能基は、不飽和単量体の1分子中に1種あってもよく、2種以上あってもよい。
【0051】
上記官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性不飽和単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有不飽和単量体類等が挙げられる。これらの中でも、官能基を2個以上有する不飽和単量体(多官能性不飽和単量体)を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明においては、上記単量体成分が、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20質量%及び他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体99.9〜80質量%を含んでなることが好ましい。エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことにより、本発明の制振材用エマルションを必須とする制振材配合物において、無機粉体等の充填剤の分散性が向上し、制振性がより向上することになる。また、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を含むことにより、エマルションの酸価、Tgや物性等を調整しやすくなる。上記単量体成分において、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.1質量%未満であっても、20質量%を超えても、いずれも、エマルションが安定に共重合できないおそれがある。
本発明におけるエマルションでは、これらの単量体から形成される単量体単位の相乗効果により、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とをより充分に発揮することが可能となる。
なお上記質量割合は、全単量体成分100質量%に対する質量割合である。
【0053】
上記他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、上述した官能基を有する不飽和単量体や、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類等の1種又は2種以上が挙げられる。また、スチレン等の芳香族不飽和単量体等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
本発明におけるエマルションを形成することになる単量体成分は、アクリル系単量体を全単量体成分100質量%に対して、20質量%以上含有するものであることが好ましい。より好ましくは、30質量%以上である。
また、上記他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体のうち、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物の単量体成分中における含有割合は、全単量体成分100質量%に対して、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20質量%以下である。
【0055】
本発明において、エマルションを形成する単量体成分は、ホモポリマーのガラス転位温度が0℃以下である重合性単量体を1種以上含むものであることが好ましい。より好ましくは2種以上含むことであり、最も好ましくは、多段重合の各工程において使用される単量体成分が、それぞれホモポリマーのガラス転位温度が0℃以下である重合性単量体を1種含むことである。ホモポリマーのガラス転位温度が0℃以下である重合性単量体としては、エチルアクリレート、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
すなわち、本発明において、単量体成分を乳化重合してなるエマルションの粒子を形成する単量体成分は、ブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレートを含んでなるものであることが好ましい。単量体成分がブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレートを含んでなるものであると、幅広い温度領域での制振性が向上する。
より好ましくは、単量体成分がブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含むことである。
【0056】
上記単量体成分がブチルアクリレートを含むものである場合、ブチルアクリレートの含有量は、アクリル共重合体を形成する単量体成分100質量%に対して、10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、20〜50質量%である。
上記単量体成分が2−エチルヘキシルアクリレートを含むものである場合、2−エチルヘキシルアクリレートの含有量は、アクリル共重合体を形成する単量体成分100質量%に対して、5〜55質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜50質量%である。
また、ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートの両方を含むものである場合、ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレート合計の含有量は、アクリル共重合体を形成する単量体成分100質量%に対して、20〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは、30〜60質量%である。
【0057】
本発明の制振材用エマルションは、単量体成分を乳化重合してなり、貯蔵弾性率等が特定されたエマルションと他のエマルション樹脂とを混合(ブレンド)したものであってもよく、この場合にも本発明と同様の作用効果を得ることが可能である。他のエマルション樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、SBR樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−アクリル系樹脂、塩化ビニル−エチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂等の1種又は2種以上が好適である。
上記他のエマルション樹脂の使用割合としては、例えば、貯蔵弾性率等が特定されたエマルションと該エマルション樹脂との質量比(貯蔵弾性率等が特定されたエマルション/他のエマルション樹脂)が、100〜50/0〜50となるように設定することが好ましい。
【0058】
本発明におけるエマルションの製造方法としては、乳化剤の存在下で乳化重合法により単量体成分を重合することになるが、乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体成分、重合開始剤及び乳化剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いることが好ましい。
乳化剤としては、上述したように、反応性乳化剤及び/又は特定の構造を有するアニオン性乳化剤を用いることが好ましいが、それら以外の乳化重合に通常使用されるアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0059】
本発明におけるエマルションがコア部とシェル部とを有するエマルションである場合、通常の乳化重合法を用いて得ることが好ましい。具体的には、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させてコア部を形成した後、該コア部を含むエマルションに更に単量体成分を乳化重合させてシェル部を形成する多段重合により得ることが好ましい。このように、本発明におけるエマルションがコア部とシェル部とを有するエマルションであって、該エマルションがコア部を形成した後、シェル部を形成する多段重合により得られるものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
なお、上記コア部とシェル部とを有するエマルションを製造する場合、コア部を形成し、その後、シェル部を形成する単量体成分を加えてシェル部を形成する方法が好ましい。
【0060】
上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0061】
上記特定の構造を有するアニオン性乳化剤以外の乳化重合に通常使用されるアニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等の1種又は2種以上が好適である。
【0062】
上記反応性乳化剤以外の乳化重合に通常使用されるノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0063】
上記反応性乳化剤以外の乳化重合に通常使用されるカチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0064】
上記反応性乳化剤以外の乳化重合に通常使用される両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
上記反応性乳化剤以外の乳化重合に通常使用される高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0066】
上記界面活性剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の界面活性剤を用いることが好適である。
上記界面活性剤の使用量としては、用いる界面活性剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、エマルションを形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.3〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。
【0067】
上記保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、保護コロイドは単独で使用されてもよいし、界面活性剤と併用されてもよい。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、エマルションを形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
【0068】
上記重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、水溶性開始剤が好適に使用される。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、エマルションを形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
【0069】
上記重合開始剤にはまた、乳化重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、エマルションを形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
【0070】
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、全単量体成分100重量部に対して、通常2.0重量部以下、好ましくは1.0重量部以下である。
【0071】
上記乳化重合においては、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0072】
上記製造方法における乳化重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適で、より好ましくは、5〜10時間である。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0073】
上記製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、中和剤によりエマルションを中和することが好ましい。これにより、エマルションが安定化されることになる。中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、制振材用エマルションを必須とする制振材配合物から形成される塗膜の耐水性等が向上することから、塗膜の加熱時に揮散する揮発性塩基を用いることが好ましい。より好ましくは、加熱乾燥性が良好となり、制振性が向上することから、沸点が80〜360℃のアミンを用いることが好ましい。このような中和剤としては、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミンが好適である。より好ましくは、沸点が130〜280℃のアミンを用いることである。
なお、上記沸点は、常圧での沸点である。
【0074】
上記中和剤の添加量としては特に限定されず、例えば、エマルションの酸価、すなわちエマルションが有する酸基1当量に対して中和剤の塩基が0.6〜1.4当量となるように添加することが好ましい。より好ましくは、0.8〜1.2当量である。
【0075】
上記エマルションは、数平均分子量が小さいと、エマルションを必須とする本発明の制振材用エマルションを含んでなる制振材配合物において、無機粉体等の充填剤とエマルションとの親和性が向上して分散性が向上することになる。
【0076】
本発明の制振材用エマルションは、必要に応じて他成分とともに、制振材配合物を構成することができるものである。このような本発明の制振材用エマルションを必須とする制振材配合物は、本発明の好ましい実施形態の1つであり、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮し得る水系制振材を形成することができるものである。
上記制振材配合物としては、例えば、制振材配合物の総量100質量%に対し、固形分を50〜90質量%含有してなることが好ましい。より好ましくは、60〜90質量%であり、更に好ましくは、70〜90質量%である。また、制振材配合物のpHは、7〜11とすることが好ましい。より好ましくは、7〜9である。
上記制振材配合物における制振材用エマルションの配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10〜60質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは、15〜55質量%である。
【0077】
上記制振材配合物の制振性は、制振材配合物から形成される被膜の損失係数を測定することにより評価することができる。損失係数は、通常ηで表され、制振性能を表す場合に用いられる最も一般的な指標であり、本発明においても、制振性能を評価するために好適に用いることができる。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示している。また、温度による影響を受け、実用温度範囲内において高い制振性能を発揮することが好ましい。本発明においては、例えば、制振材配合物から形成される被膜の実用温度範囲が通常では20〜60℃であり、損失係数は、40℃のときに0.10以上であることが好ましい。より好ましくは、40℃のときに0.12以上である。また、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した値で制振性能を評価することもできる。すなわち、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した値が高いほど実用的な制振性能に優れ、制振性を判断する一つの指標として有用である。20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した値の好ましい範囲としては、0.20以上であり、本発明によってこの値を充分に達成することが可能である。本発明における一つの有利な効果は、上述したように機械安定性や乾燥塗膜表面状態、耐塗膜崩壊性(焼き付け後の塗膜崩壊性)に優れると共に、上記のように幅広い実用的な温度範囲において優れた制振性能を発揮することができること、すなわち、これらの性能をすべて優れたものとすることができるところにある。上記20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した値としては、本発明によって更に0.22以上を達成することができる。より好ましい範囲としては、0.24以上である。
上記損失係数の測定方法としては、共周波数付近で測定する共振法が一般的であり、半値幅法、減衰率法、機械インピーダンス法がある。本発明の制振材配合物においては、制振材配合物から形成される被膜の損失係数として、次のように測定することが好適である。すなわち、制振材配合物を冷間圧延鋼板(SPCC・15幅×250長さ×厚み1.5mm)上に面密度4.0kg/mの被膜で形成し、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いた3dB法により測定することができる。
【0078】
上記他成分としては、例えば、溶媒;可塑剤;安定剤;増粘剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;充填剤;着色剤;分散剤;防錆顔料;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、充填剤を含むことが好ましい。また、顔料(着色剤や防錆顔料)を含むことも好適である。
なお、上記他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、上記制振材用エマルション等と混合され得る。
【0079】
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、制振材配合物中の制振材用エマルションの固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0080】
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。増粘剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1.5重量部、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、クレー等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。無機質充填剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
【0081】
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機又は無機の着色剤が挙げられる。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記防錆顔料としては、例えば、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0082】
上記他成分としてはまた、発泡剤を用いることが好ましく、この場合には、後述するように、上記制振材配合物を加熱乾燥して制振材塗膜を形成することが好適である。上記制振材用エマルションに更に発泡剤を混合することにより、制振材の均一な発泡構造の形成と厚膜化等の効果が発揮され、それに起因して充分な加熱乾燥性や高制振性が発現することとなる。このように、本発明の制振材用エマルション及び発泡剤を含んでなる制振材配合物もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。なお、必要に応じて更に他の成分を含んでいてもよい。
【0083】
上記発泡剤としては特に限定されず、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。加熱膨張カプセルとしては、例えば、マツモトマイクロスフィアーF−30、F−50(松本油脂社製);エクスパンセルWU642、WU551、WU461、DU551、DU401(日本エクスパンセル社製)等が挙げられ、有機発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等が挙げられ、無機発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、シリコンハイドライド等が挙げられる。
上記発泡剤の配合量としては、制振材用エマルション100重量部に対し、0.5〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1.0〜3.0重量部である。
【0084】
上記更に発泡剤を含んでなる制振材配合物はまた、無機顔料を含んでなることが好適であり、これにより、上述したような加熱乾燥性や高制振性の発現性をより充分に確認することが可能となる。
上記無機顔料としては特に限定されず、例えば、上述した無機の着色剤や無機の防錆顔料等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記無機顔料の配合量としては、制振材用エマルション100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
【0085】
上記他成分としては更に、多価金属化合物を用いてもよい。この場合、多価金属化合物により、制振材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材配合物から形成される制振材の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記多価金属化合物の形態は特に限定されず、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材配合物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、制振材配合物中の固形分100重量部に対して、0.05〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
【0086】
上記制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材配合物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記制振材配合物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、3.0〜6.0mmである。
また、乾燥時(後)の塗膜の面密度が1.0〜7.0kg/mとなるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。なお、本発明の制振材配合物を使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。
このように、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法や、乾燥後の塗膜の面密度が2.0〜6.0kg/mとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。また、上記制振材配合物の塗工方法によって得られた制振材もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。
【0087】
上記制振材配合物を塗布した後、乾燥して塗膜を形成させる条件としては、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、本発明における制振材配合物は、加熱乾燥性に優れることから、効率性の点で加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥の温度としては、80〜210とすることが好ましい。より好ましくは、110〜180℃、更に好ましくは、120〜170℃である。
【発明の効果】
【0088】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、上述の構成よりなり、幅広い温度領域で優れた制振性
を発揮するとともに、機械的安定性にも優れ、制御性塗料の原料として、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等の各種用途に好適に用いることができる制振材用エマルションである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0090】
なお、以下の実施例において、各種物性等は以下のように評価した。
<Tg>
各段で用いた単量体組成から、上述したFoxの式を用いて算出した。なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
Foxの式により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
なお、架橋性モノマーを用いた場合、計算Tgは、その架橋性モノマーを除外して算出した。
スチレン(St):100℃
メチルメタクリレート(MMA):105℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
アクリル酸(AA):95℃
n−ブチルメタクリレート(n−BMA):20℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
【0091】
<不揮発分(NV)>
得られた水性樹脂分散体約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間乾燥した後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
【0092】
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0093】
<最低造膜温度(MFT)>
熱勾配試験機の上に置いたガラス板上に0.2mmのアプリケーターで、得られた水性樹脂分散体を塗工、乾燥し、その塗膜にクラックの生じた温度を最低成膜温度(MFT)とした。
【0094】
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定した。
【0095】
<機械安定性>
制振材配合物100gに純水30gを添加し、充分に攪拌・混合し、100メッシュ金網でろ過した後、その70gを用い、マーロン試験安定性試験機(熊谷理機工業社製)にて、機械安定性試験をおこなった。(JIS K6828:1996に準じる、台ばかり目盛り10Kg,円盤回転数1000min−1、回転時間5分、試験温度25℃)試験終了後、その制振材配合物を直ちに100メッシュ金網でろ過し、110℃オーブンで1時間乾燥させた。以下の式にて凝集率を算出し、評価を行った。
凝集率(%)=(乾燥後の金網の質量(g)−乾燥前の金網の質量(g))/70(g)×100
評価基準
◎:0.0001%未満
○:0.0001%以上0.001%未満
△:0.001%以上0.01%未満
×:0.01%以上0.1%未満
【0096】
<動的粘弾性試験>
テフロン(登録商標)シート上に乾燥膜厚が0.1mmになる様に得られた制振材用エマルションを流延し、室温で30分養生後、90℃にて30分、130℃で30分間乾燥したフィルムを試験片とした。歪み制御方式による固体粘弾性測定装置RSA−III(TAインスツルメンツ社製)を用い、試料寸法5〜25mm、周波数1Hz、負荷歪み0.1%、昇温速度3℃/分、測定温度−40〜100℃で動的粘弾性の測定を行い、動的貯蔵弾性率(E*)、動的損失弾性率(E**)、及び、損失角正接の最大値(あるいは極大値:tanδmax)を求めた。
【0097】
<制振性試験>
上記制振材配合物を冷間圧延鋼板(SPCC・15幅×250長さ×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)をもちいて、それぞれの温度(20℃〜60℃)における損失係数を共振法(3dB法)により測定した。
【0098】
実施例1
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水339部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン635.0部、2−エチルヘキシルアクリレート350.0部、トリメチロールプロパントリメタクリレート5.0部、アクリル酸15.0部、t−ドデシルメルカプタン3.0部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩:日本乳化剤社製)180.0部及び脱イオン水164.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、5%過硫酸カリウム水溶液100部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部、及び、単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部を添加し、制振材用エマルション1を得た。得られた水性樹脂分散体の固形分、pH、粘度、MFT、重量平均分子量を上記の方法により測定した。また、使用した各重合性単量体の種類及び量を両段で使用した重合性単量体合計量に対する比率(重量部)で表1にまとめて示した。以下、実施例2〜11、及び、比較例1〜4についても同様に、表1〜3に示した。
【0099】
実施例2、比較例1、5〜7
実施例1における水性樹脂の組成を、表1、3に示す組成にした以外は、実施例1と同様にして制振材用エマルション2、比較用制振材用エマルション1、5〜7を得た。
なお、比較用制振材用エマルション1については、エマルションの重合安定性が悪いため、水性樹脂分散体が得られず、表1〜3に記載の各種特数値の測定ができなかった。
【0100】
実施例3
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水339部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン100.0部、2−エチルヘキシルアクリレート80.0部、ブチルアクリレート130.0部、メチルメタクリレート150.0部、アクリル酸5.0部、メタクリル酸30.0部、t−ドデシルメルカプタン2.0部、予め20%水溶液に調整したラテムルWX(商品名、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩:花王社製)72.0部および脱イオン水66.0部からなる一段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、5%過硫酸カリウム水溶液40部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部、及び、単量体乳化物を90分にわたって均一に滴下し、一段目の重合を終了した。
引き続いて2−エチルヘキシルアクリレート100.0部、スチレン100.0部、ブチルアクリレート175.0部、メチルメタクリレート120.0部、アクリル酸10.0部、t−ドデシルメルカプタン2.0部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SN(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩:日本乳化剤社製)108.0部及び脱イオン水98.0部からなる二段目の単量体乳化物を80℃で120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液60部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液60部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、二段目の重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部添加し、制振材用エマルション3を得た。
【0101】
実施例4〜9、12、及び、比較例2〜4
実施例3における水性樹脂の組成を、表1〜3に示す組成にした以外は、実施例3と同様にして制振材用エマルション4〜9、12、及び、比較用制振材用エマルション2〜4を得た。
【0102】
実施例10
実施例9において得られた水性樹脂分散体にエポクロスWS−500を105部加え、制振材用エマルションを得た。
【0103】
実施例11
実施例1における水性樹脂の組成を、表2に示す組成にした以外は、実施例1と同様にして制振材用エマルション11を得た。
【0104】
制振材配合物の調製
実施例1〜12、及び、比較例1〜7で得られた制振材用エマルションを下記の通り配合し、制振材配合物として機械安定性、及び、制振性を評価した。結果を表1〜3に示す。
アクリル共重合エマルション 359部
炭酸カルシウム NN#200*1 620部
分散剤アクアリックDL−40S*2 6部
増粘剤アクリセットWR−650*3 4部
消泡剤 ノプコ8034L*4 1部
発泡剤 F−30*5 6部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型高分子分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
*4:サンノプコ株式会社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
*5:松本油脂社製 発泡剤
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
表1〜3において、t−DMは、t−ドデシルメルカプタンを表す。その他の記号については、上述したTgの評価方法の記載箇所に記載のものと同様である。
表1〜3において、乳化剤A〜Fは、以下のものを表す。
A:ニューコール707SF [商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩:日本乳化剤社製]
B:ABEX−26S [商品名、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩:ローディア日華社製]
C:ラテムルWX [商品名、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩:花王社製]
D:エマルゲン1118S [商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エチレンオキサイド18モル付加):花王社製]
E:アデカリアソープSR−10 [商品名、アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩:ADEKA社製]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルションであって、
該エマルションは、貯蔵弾性率が20℃で5.0×10〜8.0×10Pa、50℃で1.0×10〜5.0×10Paであり、
損失弾性率が20℃で4.0×10〜4.0×10Pa、50℃で1.0×10〜7.0×10Paであって、
20〜50℃の温度範囲に、1.3以上の損失角正接の最大ピークを有し、
該エマルションを用いた制振剤配合物にJIS K6828:1996の機械安定性試験をおこなった後の凝集率が0.01以下である
ことを特徴とする制振材用エマルション。
【請求項2】
前記エマルションは、最低造膜温度が30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション。

【公開番号】特開2009−62507(P2009−62507A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286384(P2007−286384)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】