説明

制振材組成物

【課題】 接着性の改善されたイソブチレン系制振材料および、それを用いた制振ダンパーを提供すること。
【解決手段】 (a)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、(b)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロック−芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体および(c)エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、並びに、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を特定の配合比(重量比)で含有することを特徴とする制振材組成物を用いることにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材組成物に関し、特に建築分野における骨格構造形成材料の衝撃的な変位や振動を吸収する制振ダンパー用制振材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野においては、地震や台風等による揺れを吸収して建築物に非常に高い制振構造を付与するための制振ダンパーが開発されつつある。安定した減衰性を有する制振ダンパーに使用される制振材料に関しては、骨格構造形成材料の衝撃的な変位や振動を吸収する作用を発揮させるために高い減衰性が要求される他に、環境条件を考慮して室温付近における剛性の温度依存性が小さいことが要求される。
【0003】
制振ダンパーの形状には、粘性壁(壁タイプ)、ブレース型等が知られ、これらは通常、鋼材と制振材料を2層または数層に積層して使用される。その要求特性の1つとして、外力によって過大な剪断変形が与えられた場合に、鋼材と制振材料の間で界面剥離することなく、制振材料内部において材料破壊することが求められる。すなわち、鋼材と制振材料とは、充分に接着されている必要がある。これは、実際の地震において、界面剥離してしまうと、それ以後の震動には全く効果が無いが、材料破壊であれば、両端の材料の粘着または摩擦により、その後の震動にもある程度の効果が期待できるためである。
【0004】
イソブチレン系ブロック共重合体およびそれを用いた組成物は、室温付近での減衰性と剛性の温度依存性のバランスに優れているため、建築分野における制振ダンパー用制振材組成物としての応用が期待されている。しかしながら、イソブチレン系ブロック共重合体は、極性の低いポリオレフィン系樹脂の一種であり、極性の高い樹脂に比べ、接着が難しい樹脂として知られる。そのため、イソブチレン系ブロック共重合体を主成分とする制振材組成物で、特に剛性の高い配合設計をした場合、鋼板との接着性に関して大きな課題があった。
【0005】
これまで、イソブチレン系ブロック共重合体を用いた制振材料について検討されているが(特許文献1)、一般的な制振材料として使用できることを開示しているのみで、建築分野における制振ダンパーのような特殊な特性が要求される用途での使用については何も記載されていない。また、イソブチレン系ブロック共重合体とアクリル系樹脂等の極性を持った熱可塑性樹脂とのポリマーブレンドについても検討されているが(特許文献2)、制振性に関する記載、制振材料の接着性に関する記載は何も無い。
【特許文献1】特開平7−137194
【特許文献2】特開平7−188509
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、接着性の改善されたイソブチレン系制振材組成物および、それを用いた制振ダンパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明を完成するにいたった。即ち本発明は、(a)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、(b)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロック−芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、および(c)エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、並びに、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を下記式(1)を満足する配合比(重量比)で含有することを特徴とする制振材組成物に関する。
0.03≦Wc/(Wa+Wb+Wc)≦0.18 (1)
[式中、Wa、WbおよびWcは、制振性組成物を構成する(a)、(b)および(c)の各成分の含有量(重量)を示す。]
好適な実施態様としては、(a)ジブロック共重合体が、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体であることを特徴とする制振材組成物に関する。
【0008】
好適な実施態様としては、(b)トリブロック共重合体が、スチレン−水添イソプレン−スチレントリブロック共重合体であることを特徴とする制振材組成物に関する。
【0009】
好適な実施態様としては、(c)熱可塑性樹脂が、エチレン−アクリル酸エチル共重合体であることを特徴とする制振材組成物に関する。
【0010】
好適な実施態様としては、粘着付与樹脂および可塑剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする制振材組成物に関する。
【0011】
さらに本発明は、上記の制振材組成物を用いた制振ダンパーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制振材組成物は、イソブチレン系制振材組成物にエチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、並びに、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を配合することにより、鋼板等との接着性が改善されており、特に本発明の制振材組成物を制振材料として用いることにより、制振性と接着性に優れた建築用制振ダンパーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の制振材組成物は、(a)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、(b)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロック−芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体および(c)エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、並びに、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を下記式(1)を満足する配合比(重量比)で含有する。
0.03≦Wc/(Wa+Wb+Wc)≦0.18 (1)
[式中、Wa、WbおよびWcは、制振性組成物を構成する(a)、(b)および(c)の各成分の含有量(重量)を示す。]
本発明で使用しうる(a)ジブロック共重合体の芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック(a1)は、芳香族ビニル化合物以外の単量体を含んでいてもよく、芳香族ビニル化合物の含有量が60重量%以上、好ましくは80重量%以上であることが望ましい。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を使用することが好ましく、コストの面からスチレン、α−メチルスチレン、あるいはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。芳香族ビニル化合物以外の単量体は、カチオン重合可能な単量体成分であれば特に限定されないが、イソブチレン、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(a)ジブロック共重合体のイソブチレンを主成分とする重合体ブロック(a2)は、イソブチレン以外の単量体を含んでいてもよく、通常、イソブチレンを60重量%以上、好ましくは80重量%以上含有することが望ましい。イソブチレン以外の単量体としてはカチオン重合可能な単量体であれば特に制限はないが、例えば、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、芳香族ビニル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
脂肪族オレフィン類としては、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ジエン類としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
芳香族ビニル類としては、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロロメチルスチレン、 又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(a)ジブロック共重合体の芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック(a1)とイソブチレンを主成分とする重合体ブロック(a2)の割合に関しては、特に制限はないが、物性と加工性のバランスから、重合体ブロック(a1):重合体ブロック(a2)が重量比で5:95〜60:40であることが好ましく、10:90〜40:60であることが特に好ましい。
【0021】
(a)ジブロック共重合体の数平均分子量にも特に制限はないが、物性および加工性の面から、3000〜200000であることが好ましく、5000〜50000であることが特に好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体の数平均分子量が上記範囲よりも低い場合には組成物の物性が十分に発現されず、一方、上記範囲を超える場合には加工性の面で不利である。
【0022】
(a)ジブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されず、公知の重合方法を用いることができるが、構造の制御されたブロック共重合体を得るためには、下記一般式(2)で表される化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体および芳香族ビニル化合物を主成分とする単量体を重合することが好ましい。
123CX (2)
式中、Xは、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシル基及び炭素数1〜6のアシロキシル基からなる群から選択される置換基を表す。R12及びR3は、それぞれ、水素原子、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表す。 R12及びR3は、同一であっても異なっていても良い。
【0023】
上記ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。上記炭素数1〜6のアルコキシル基としては特に限定されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−又はイソプロポキシ基等が挙げられる。上記炭素数1〜6のアシロキシル基としては特に限定されず、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられる。上記炭素数1〜6の炭化水素基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−又はイソプロピル基等が挙げられる。
【0024】
上記一般式(2)で表わされる化合物は開始剤となるものであり、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(2)で表される化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0025】
2−クロル−2−フェニルプロパン:C65C(CH32Cl
2−メトキシ−2−フェニルプロパン:C65C(CH32OCH3
2−クロル−2,4,4−トリメチルプロパン:(CH33CCH2C(CH32Cl
上記重合反応においては、ルイス酸触媒を共存させることができる。ルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。なかでも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3、SnCl4が好ましい。
【0026】
上記ルイス酸触媒の使用量としては特に限定されず、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。
【0027】
上記重合反応においては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0028】
上記重合反応は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0029】
これらの溶媒は、ブロック共重合体を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して単独又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0030】
上記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは3〜35wt%となるように決定される。
【0031】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0032】
上記重合反応は、バッチ式(回分式又は半回分式)で行ってもよいし、重合反応に必要な各成分を連続的に重合容器内に加える連続式で行ってもよい。
【0033】
(b)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロック−芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体における芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を使用することが好ましく、コストの面からスチレン、α−メチルスチレン、あるいはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。また、共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロックに用いられる単量体としては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種組み合わせて用いてもよい。これらの例として、スチレン−水添イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、SEPSと略す)が例示される。
【0034】
(c)熱可塑性樹脂としては、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種があげられる。エチレン−アクリル酸エチル共重合体は、極性の付与という観点から、アクリル酸エチル含量が15重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが、より好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、極性の付与という観点から、酢酸ビニル含量が15重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが、より好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルおよび、それらの共重合体、メタクリル酸メチルを主成分とする重合体ブロック−アクリル酸ブチルを主成分とする重合体ブロックからなるブロック共重合体などが例示される。ウレタン系樹脂としては、エステル系、エーテル系、カーボネート系等の熱可塑性ポリウレタン系樹脂が例示される。
【0035】
(c)熱可塑性樹脂の配合量に関しては、(a)ジブロック共重合体と、(b)トリブロック共重合体との配合比(重量比)が、下記一般式(1)を満足する必要がある。
0.03≦Wc/(Wa+Wb+Wc)≦0.18 (1)
[式中、Wa、WbおよびWcは、制振性組成物を構成する(a)、(b)および(c)の各成分の含有量(重量)を示す。]
(c)熱可塑性樹脂の配合量が、一般式(1)で規定した量より少ないと、接着性の改良効果が乏しく、一般式(1)で規定した量より多いと、硬度が急激に上昇するため、接着性が悪化し、また、相対的に(a)ジブロック共重合体の配合量が低下するため、制振性が悪化する。
【0036】
本発明の組成物には、さらに粘着付与樹脂および可塑剤の少なくとも1種を含有することができる。配合量としては、特に限定はないが、(a)、(b)、(c)の総量100部に対して、20〜80部であることが好ましい。粘着付与樹脂は、組成物の剛性を高くする効果があり、可塑剤は、剛性を低くする効果があるため、目的とする剛性に合わせて、これらの配合量を調整すればよい。
【0037】
粘着付与樹脂としては、数平均分子量300〜3000、JISK−2207に定められた環球法に基づく軟化点が60〜150℃である低分子の樹脂であって、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂およびそれらの水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂およびその水素化物、芳香族系石油樹脂およびその水素化物、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂およびその水素化物、スチレンまたは置換スチレンの低分子量重合体が例示される。このような粘着付与樹脂は、イソブチレンを単量体とする重合体ブロックのTgを高温側に移動させる効果があり、このような目的を達成するためには、イソブチレン系ブロック共重合体中のイソブチレンを単量体とする重合体ブロックに相溶する粘着付与剤樹脂を配合することが望ましく、例えば、脂環族系石油樹脂およびその水素化物、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂の水素化物、ポリテルペン樹脂などが好適に用いられる。また、同じ種類の粘着付与樹脂においても、軟化点が高いものほど、イソブチレン系ブロック共重合体のイソブチレンを単量体とする重合体ブロックのTgを高温側に移動させる効果が高く、粘着付与樹脂の配合量を減らしたい場合は高軟化点のものを、増やしたい場合は低軟化点のものを選択すればよい。
【0038】
可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの石油系プロセスオイル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジブチルなどの二塩基酸ジアルキル、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンなどの低分子量液状ポリマーが例示され、これらのいずれも使用することができる。このような可塑剤は、イソブチレンを単量体とする重合体ブロックのTgを低温側に移動させる効果があり、このような目的を達成するためには、イソブチレン系ブロック共重合体中のイソブチレンを単量体とする重合体ブロックに相溶する可塑剤を配合することが望ましく、パラフィン系プロセスオイルや液状ポリブテンなどが好適に用いられる。
【0039】
また、本発明における制振性組成物には、必要に応じて、充填剤を配合することもできる。充填剤の例としては、マイカ、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト、ステンレス、アルミニウムなどの粉末充填剤;ガラス繊維や金属繊維などの繊維状充填剤などをあげることができる。なかでもマイカは減衰性を向上させる効果があるので好ましい。また、ステンレス粉、アルミニウム粉などの各種金属粉、金属繊維、またはカーボンブラック、グラファイトなどの導電性粒子を含有させることによりスポット溶接が可能となる。
【0040】
この他の配合剤の例としては、トリフェニルホスファイト、ヒンダードフェノール、ジブチル錫マレエートなどの安定剤;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸系ワックスなどの滑剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、デカブロモビフェニル、デカブロモビフェニルエーテル、三酸化アンチモンなどの難燃剤;酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛などの顔料があげられる。
【0041】
本発明で用いられる組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、攪拌機を備えた溶融釜あるいは一軸または二軸の押出機を用いて機械的に混合する方法を用いることができる。このときに、必要に応じて加熱することも可能である。また、適当な溶剤に配合剤を投入し、これを攪拌することによって組成物の均一な溶液を得た後、溶剤を留去する方法も用いることができる。さらに、必要に応じ、プレス機等により該制振材組成物を成型および架橋することができる。
【0042】
本発明の制振材組成物は、鋼板あるいは鋼管と組み合わせて、建築用の制振ダンパーとして用いることができる。制振ダンパーで用いられる鋼板または鋼管の材質には特に制限がないが、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板、炭素鋼板、ステンレス鋼板、低合金鋼板などがあげられる。また、制振ダンパーの構造は、本発明の制振材組成物を制振材料として用いて、少なくとも一層の制振材料と、それよりも一層多い鋼板とを、交互に積層した構造、または、少なくとも一層の制振材料と、それよりも一層多い鋼管とを、同心円状に交互に積層した構造であることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
(製造例1 スチレン−イソブチレン−ジブロック共重合体の製造)
攪拌機付き2L反応容器に、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)596mL、ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)66mLを加えた。反応溶液を−50℃以下に冷却した後、イソブチレン276mL(164g)を液状で採取し、添加した。2−クロル−2−フェニルプロパン0.881g、ジメチルアセトアミド0.56mLを添加し、−73℃まで冷却した。四塩化チタン2.1mLを加えて重合を開始し、攪拌しながら2.0時間反応させた。次いで反応溶液にスチレン37mLを添加し、さらに90分間反応を続けた。反応溶液を1Lの水に投入して重合反応を停止させ、さらに1Lの水×2回で水洗し、無機成分(残存チタン)を除去した。溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た(以下、SIBと略す)。
【0044】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により、ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は45100、分散度(Mw/Mn)は1.18であった(ポリスチレン換算値)。また、1H−NMR分析により、ブロック共重合体のスチレン含量は15重量%であった。
【0045】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
製造例1の方法で合成したSIB、SEPS、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂および可塑剤を、表1に示した配合比で、150℃に設定したラボプラストミル(東洋精機社製)で15分間混練して制振材組成物を得た。
【0046】
2枚の鋼板の間に、シリコーン製のコの字枠を設置し、その枠内に、該制振材組成物を挿入した。ついで、該制振材組成物を溶融温度以上に加熱して溶融し、この溶融物(大きさ50mm×50mm、厚み5mm)を上記鋼板内面に接着させ、評価用試料を作製した。
【0047】
評価用試料と鋼板との接着性は、静的剪断試験により評価した。測定温度は10℃とした。鋼板の一方を5mm/secで引張り、制振材組成物に剪断変形させた。そのとき、最大荷重を示す変位を厚みで除したものを「変形性」とした。また、最終的に材料破壊(凝集破壊)するか、鋼板−組成物間で界面剥離するかを観察した。また、凝集破壊と界面剥離が混在する場合、鋼板に残った材料片について、元の面積から剥離した面積を引いた面積(すなわち、凝集破壊した面積)を併せて記した。
【0048】
評価用試料の動特性は、サーボパルサーEHF−EG20kN−110L(島津製作所製)を用いて測定した。周波数0.5Hz、振幅100%のSin波を外力として与え、そのときの荷重−変位曲線(履歴ループ)から、下記の数式(3)、(4)を基に貯蔵剛性(G‘)、等価減衰定数(heq)を算出した。
貯蔵剛性:G‘=(τγmax/γmax)/(S/D) …(3)
等価減衰定数:heq=△W/4πW …(4)
〔上記数式において、τγmax:最大変位時荷重、γmax:最大変位、S:制振材組成物の面積、D:厚み、△W:荷重−歪みループ面積を示す。また、W=τγmax×γmax/2である。〕
【0049】
【表1】

以下に実施例に用いた熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、パラフィン系オイルを示す。
・スチレン−水添イソプレン−スチレントリブロック共重合体:SEPTON2007、クラレ製
・エチレン−アクリル酸エチル共重合体(以下、EEAと略す。):EVAFLEX−EEA A−709(EA含量34重量%)、三井・デュポン ポリケミカル製
・エチレン−アクリル酸エチル共重合体:EVAFLEX−EEA A−707(EA含量17重量%)、三井・デュポン ポリケミカル製
・エチレン−オクテン共重合体(以下、EOCと略す。):ENGAGE8402、デュポン ダウ エラストマー製
・粘着付与樹脂:ARKON M−115、荒川化学製
・パラフィン系オイル:PW−380、出光興産製
実施例1〜3は、(a)ジブロック共重合体、(b)トリブロック共重合体、(c)熱可塑性樹脂の総重量に対し、(c)熱可塑性樹脂を5〜15重量%含有する制振性組成物であるが、いずれも、材料内において凝集破壊(材料破壊)しており、接着性が改善している。実施例4は、EA含量が17重量%のEEAを用いた以外は、実施例2と同じ配合である。EA含量が低いことにより、接着性がやや低下しているが、面積の20%で凝集破壊している。また、実施例1〜4の組成物は、良好な動特性を示し、制振材料として、十分、効果を発揮すると予想される。比較例1は、(c)熱可塑性樹脂を含有しない組成物であるが、接着性が不十分であるため、鋼板−材料間で界面剥離している。また、比較例2は、(c)熱可塑性樹脂を20重量%含有する制振性組成物であるが、EEAを多量に配合したため、配合バランスが悪化し、鋼板−材料間で界面剥離している。また、動特性に関して,減衰性が低下している。次に、比較例3は、EEAの代わりに、極性の低いポリオレフィン系樹脂であるEOCを用いた以外は、実施例2と同じであるが、接着性が充分でないため、界面剥離している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、(b)芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロック−共役ジエン系単量体からなり、部分的に水添されていてもよい重合体ブロック−芳香族ビニル化合物を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、および(c)エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、並びに、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を下記式(1)を満足する配合比(重量比)で含有することを特徴とする制振材組成物。
0.03≦Wc/(Wa+Wb+Wc)≦0.18 (1)
[式中、Wa、WbおよびWcは、制振性組成物を構成する(a)、(b)および(c)の各成分の含有量(重量)を示す。]
【請求項2】
(a)ジブロック共重合体が、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の制振材組成物。
【請求項3】
(b)トリブロック共重合体が、スチレン−水添イソプレン−スチレントリブロック共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の制振材組成物。
【請求項4】
(c)熱可塑性樹脂が、エチレン−アクリル酸エチル共重合体であることを特徴とする請求項1〜3に記載の制振材組成物。
【請求項5】
粘着付与樹脂および可塑剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4に記載の制振材組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載の制振材組成物を用いた制振ダンパー。

【公開番号】特開2006−45344(P2006−45344A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227997(P2004−227997)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】