説明

制振材配合物

【課題】幅広い温度領域での制振性及び加熱乾燥性に優れるとともに、制振材塗膜の垂直面におけるタレを充分に抑制でき、各種構造体の制振材に有用な制振材配合物を提供する。
【解決手段】制振材用エマルション、発泡剤及び無機顔料を含有する制振材配合物であって、上記制振材用エマルションは、アクリル共重合体(A)からなるコア部と、アクリル共重合体(B)からなるシェル部とを有する粒子を含んでなり、上記アクリル共重合体(A)及び(B)のうち少なくとも1種は、メタクリル酸を必須とする単量体成分を共重合してなるものである制振材配合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材配合物に関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つために使用される制振材の材料として有用な制振材配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。このような制振材に用いられる材料としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状成形体やシート状成形体等の成形加工品が使用されているが、振動や音響の発生箇所の形状が複雑な場合には、これらの成形加工品を振動発生箇所に適用することが困難であることから、作業性を改善して制振性を充分に発揮させるための手法が種々検討されている。すなわち、例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要性があることから、作業性等の改善が望まれており、制振材を形成する種々の制振材用組成物や重合体の検討がなされている。
【0003】
そこで、このような成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており、例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することにより形成される塗膜により、振動吸収効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。しかしながら、これらの従来品をもってしても未だ、制振性能が充分に満足できるレベルにあるとはいえず、更に充分に制振性能を発揮できるようにする技術が求められている。
【0004】
従来の塗布型制振材に関し、ガラス転移温度の異なる2種類以上の重合体の水性分散物の混合物に対して特定割合の相溶性調整成分を添加してなる水系制振材組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この組成物においては、互いに相溶しない重合体の水性分散物の混合物を使用し、また、非相溶性を補うために相溶性調整成分を添加することにより、制振性の温度ピークのブロード化を実現させている。しかしながら、このような組成物においては、制振材塗膜中に相溶性調整成分が残存し得ることから、制振性能を充分に発揮させるための工夫の余地があった。
【0005】
またアクリル共重合体からなるコア部と、アクリル共重合体からなるシェル部とを有する粒子を含有する制振材用エマルションに関し、これらのアクリル共重合体のガラス転移温度を調整する手法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。このような制振材用エマルションは、幅広い温度領域で優れた制振性を有することができることから、工業的に非常に有用な技術となっている。しかしながら、更に優れた制振性能を発揮できるようにすることにより、各種構造体の制振材により好適に用いられるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−152028号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2005−105133号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、幅広い温度領域での制振性及び加熱乾燥性に優れるとともに、制振材塗膜の垂直面におけるタレを充分に抑制でき、各種構造体の制振材に有用な制振材配合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、制振材配合物について種々検討したところ、アクリル共重合体からなるコア部と、アクリル共重合体からなるシェル部とを有する粒子を含有する制振材用エマルションを含むものとすることにより、アクリル共重合体を単独で用いる場合や2種以上のアクリル共重合体をブレンドする場合と比較して幅広い温度領域で優れた制振性を発揮することが可能となることに着目し、このようなコア部及びシェル部を構成するアクリル共重合体のうち少なくとも1種をメタクリル酸を用いて得られるものとすると、メタクリル酸が乳化重合により共重合体内部に均一に重合され、分子鎖間の相互作用が向上することに起因して、共重合体中での凝集力が増加され、制振性が大幅に向上されることを見いだした。そして、このような制振材用エマルションに、更に発泡剤及び無機顔料を含むものとすると、制振材塗膜において均一な発泡構造を形成できるとともに厚膜化を実現することができ、それに起因して充分な加熱乾燥性や高制振性が発現することとなることを見いだし、しかも低温時塗布後の造膜性にも優れることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
なお、本発明の制振材配合物は、特に水系塗布型制振材に好適に用いることができるものである。
【0008】
すなわち本発明は、制振材用エマルション、発泡剤及び無機顔料を含有する制振材配合物であって、上記制振材用エマルションは、アクリル共重合体(A)からなるコア部と、アクリル共重合体(B)からなるシェル部とを有する粒子を含んでなり、上記アクリル共重合体(A)及び(B)のうち少なくとも1種は、メタクリル酸を必須とする単量体成分を共重合してなるものである制振材配合物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の制振材配合物は、制振材用エマルションと、発泡剤と、無機顔料とを含有するものであるが、これら各成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。また、本発明の作用効果を損なわない限り、その他の成分を更に含有していてもよい。
このような制振材配合物において、制振材用エマルションとしては、コア部とシェル部とを有する粒子(以下、「コア−シェル型粒子」ともいう。)を含むものであるが、このような粒子は、通常、媒体中に分散された形態で存在する。すなわち、上記制振材用エマルションは、媒体と、媒体中に分散されたコア−シェル型粒子とを有するものであることが適当である。なお、媒体としては、水性媒体であることが好ましく、例えば、水や、水と混じりあう溶媒と水との混合溶媒等が挙げられる。中でも、本発明の制振材配合物を用いた塗料を塗布する際の安全性や環境への影響を考慮すると、水が好適である。
【0010】
上記制振材用エマルションにおいて、コア−シェル型粒子の含有割合としては、制振材用エマルションの総量100質量%に対し、70質量%以下であることが好適である。70質量%を超えると、制振材用エマルションの粘度が高くなり過ぎて充分な分散安定性を保持することができないおそれがあり、凝集するおそれがある。より好ましくは60質量%以下である。
【0011】
上記コア−シェル型粒子は、アクリル共重合体(A)からなるコア部と、アクリル共重合体(B)からなるシェル部とを有する粒子であるが、コア部のアクリル共重合体(A)と、シェル部のアクリル共重合体(B)とが複合化された構造を有するものであればよい。複合化された構造としては、例えば、アクリル共重合体(A)とアクリル共重合体(B)とが完全に相溶して得られる構造(均質構造)、これらが完全には相溶せずに不均質に形成される構造(コア−シェル複合構造及びミクロドメイン構造)が代表的であるが、両方のアクリル共重合体の特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、後者のコア−シェル複合構造であることが好適である。
なお、上記コア−シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0012】
上記コア−シェル型粒子の平均粒径としては特に限定されないが、例えば、10nm〜1μmであることが好適である。平均粒径が10nm未満であると、制振材用エマルションの粘度が高くなり過ぎたり、また、分散安定性を充分に保持できずに凝集したりするおそれがあり、1μmを超えると、エマルションとはいえなくなる。より好ましくは、20〜500nmである。
なお、平均粒径(平均粒子径)としては、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散乱光度計NICOMP380(Particle sizing systems,Inc.製)で測定することにより求めることができる。
【0013】
上記コア−シェル型粒子においては、アクリル共重合体(A)と、該アクリル共重合体(A)とは異なるアクリル共重合体(B)との2種のアクリル共重合体を使用することになるが、これらは、例えば、ガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、後述するように、ガラス転移温度及びSP値のうちいずれか1以上の点で差を有するものであることが好適である。
【0014】
上記コア部を構成するアクリル共重合体(A)としては、ガラス転移温度(TgA)が、上記アクリル共重合体(B)のガラス転移温度(TgB)よりも高いことが好適である。このようにガラス転移温度(Tg)に差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となる。より好ましくは、TgAとTgBとの差が15℃以上であることであり、これにより、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性が効率的に発現することとなるが、差が15℃未満であると、20℃か60℃のいずれかで制振性をより充分に発現できないおそれがある。更に好ましくは20℃以上であり、特に好ましくは25℃以上である。また、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがあることから、TgAとTgBとの差は100℃以下とすることが好ましい。より好ましくは90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下である。
【0015】
上記アクリル共重合体(A)のガラス転移温度(TgA)としては、具体的には0℃以上であることが好適である。これにより、本発明の制振材配合物を含む塗料を用いて形成された制振材塗膜の乾燥性が更に良好となり、塗膜表面の膨張やクラックがより充分に抑制されることになる。すなわち、格段に優れた制振性を有する制振材が形成されることとなる。より好ましくは5℃以上である。
このように、上記アクリル共重合体(A)のガラス転移温度(TgA)が、0℃以上であって、上記アクリル共重合体(B)のガラス転移温度(TgB)よりも高く、かつTgAとTgBとの差が15℃以上である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0016】
なお、アクリル共重合体のTgとしては、既に得られている知見に基づいて決定されてもよいし、単量体成分の種類や使用割合によって制御されてもよいが、理論上は、以下の計算式より算出され得る。
【0017】
【数1】

【0018】
式中、Tg’は、アクリル共重合体のTg(絶対温度)である。W’、W’、・・・W’は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0019】
上記コア部を構成するアクリル共重合体(A)としてはまた、そのSP値が上記アクリル共重合体(B)のSP値よりも小さいことが好ましい。このようにSP値に差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となる。より好ましくは、上記アクリル共重合体(A)のSP値と上記アクリル共重合体(B)のSP値との差が0.2以上であることであり、更に好ましくは0.35以上である。また、2.0以下であることが好適である。
なお、アクリル共重合体のSP値(δ)は、例えば、以下のSmallの式により求めることができる。
【0020】
【数2】

【0021】
式中、δは、アクリル共重合体のSP値である。Δeは、アクリル共重合体を構成する単量体各成分の蒸発エネルギーの計算値(kcal/mol)であり、ΣΔeは、アクリル共重合体を構成する全単量体成分の当該計算値の合計値である。ΔVは、アクリル共重合体を構成する単量体各成分の分子容の計算値(ml/mol)であり、ΣΔVは、アクリル共重合体を構成する全単量体成分の当該計算値の合計値である。xは、アクリル共重合体を構成する単量体各成分のモル分布である。
【0022】
上記コア−シェル型粒子において、アクリル共重合体(A)と、アクリル共重合体(B)との質量比((A)/(B))としては、例えば、10〜70/30〜90であることが好適である。コア部を構成するアクリル共重合体(A)の割合が上記範囲よりも小さいと、加熱乾燥後のフクレ(塗膜の膨張)の発生をより充分に抑制することができないおそれがあり、逆にアクリル共重合体(A)の割合が上記範囲よりも大きいと、加熱乾燥後のクラックの発生を充分に防止することができないおそれがある。より好ましくは、30〜60/40〜70である。
【0023】
次に、上記アクリル共重合体(A)及びアクリル共重合体(B)を得るのに使用される単量体成分について更に説明する。なお、上述したようにアクリル共重合体(A)とアクリル共重合体(B)とが異なるものである限り、同種の単量体を使用することもできる。
上記アクリル共重合体(A)及びアクリル共重合体(B)のうち少なくとも1種は、単量体成分として、メタクリル酸を必須とすることが適当である。これにより、メタクリル酸が乳化重合により共重合体内部で均一に重合され、分子鎖間の相互作用が向上することになる結果、共重合体中での凝集力が増加され、制振性が大幅に向上されることとなる。より好ましくは、上記アクリル共重合体(A)及びアクリル共重合体(B)のいずれもが、単量体成分としてメタクリル酸を必須とすることである。
【0024】
メタクリル酸を含む単量体成分を用いるアクリル共重合体において、メタクリル酸の含有割合としては、例えば、該アクリル共重合体を得るために使用される単量体成分の総量100質量%に対し、0.1質量%以上であることが好適である。0.1質量%未満であると、充分な制振性を発現できないおそれがある。より好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。また、20質量%以下であることが好ましい。
【0025】
上記単量体成分としてはまた、メタクリル酸以外のその他の単量体を含んでいてもよい。他の単量体としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等及びこれらの塩やエステル化物等の(メタ)アクリル酸(塩)系単量体が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
上記塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適であり、また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸(塩)系単量体の含有割合としては、上記アクリル共重合体(A)の場合、例えば、アクリル共重合体(A)に用いられる全単量体成分100質量%に対し、10〜100質量%であることが好適である。より好ましくは、30〜80質量%である。また、上記アクリル共重合体(B)の場合、例えば、アクリル共重合体(B)に用いられる全単量体成分100質量%に対し、10〜100質量%であることが好適である。より好ましくは、50〜100質量%である。
なお、「(メタ)アクリル酸(塩)系単量体の含有割合」には、メタクリル酸の含有割合は含まれず、また、ここでの「質量%」は、制振材用エマルション中に含まれる全粒子の平均値である。
【0028】
上記単量体成分としては更に、メタクリル酸や上記(メタ)アクリル酸(塩)系単量体と共重合可能なその他の単量体を含んでいてもよい。その他の単量体としては、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
上記その他の単量体の含有割合としては、例えば、全単量体成分100質量%に対し、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下である。
【0029】
上記制振材用エマルションのpHとしては特に限定されないが、例えば、2〜10であることが好ましく、より好ましくは、3〜9である。エマルションのpHは、エマルションに、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
【0030】
上記制振材用エマルションの粘度としては特に限定されないが、例えば、10〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、50〜5000mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
【0031】
上記制振材用エマルションとしては、通常の乳化重合法を用いて多段重合することにより得ることが好ましく、このように上記制振材用エマルションが多段重合により得られるものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0032】
本発明はまた、上記制振材用エマルションを製造する方法であって、ガラス転移温度が異なる単量体成分を用いてなる乳化重合工程を多段階に分別して行う制振材用エマルションの製造方法でもある。
上記制振材用エマルションの製造方法は、アクリル共重合体(A)からなるコア部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程を、アクリル共重合体(B)からなるシェル部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程より早い段階で行うことが好ましい。
例えば、上記制振材用エマルションを製造する方法であって、該製造方法は、ガラス転移温度が異なる単量体成分を用いてなる乳化重合工程を多段行うものであり、第1段目の乳化重合工程が、アクリル共重合体(A)を構成する単量体成分を用いて重合を行う工程であり、最終段目の乳化重合工程が、アクリル共重合体(B)を構成する単量体成分を用いて重合を行う工程である制振材用エマルションの製造方法が好ましい。
【0033】
上記製造方法により制振材配合物を好適に製造することもでき、本発明の制振材配合物において、上記制振材用エマルションが、ガラス転移温度が異なる単量体成分を用いてなる乳化重合工程を多段階に分別して行うことにより製造されるものである制振材配合物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。また、上記制振材用エマルションが、アクリル共重合体(A)からなるコア部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程を、アクリル共重合体(B)からなるシェル部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程より早い段階で行うことにより製造されるものである制振材配合物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0034】
上記製造方法として、具体的には、(1)界面活性剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させてアクリル共重合体(A)からなるコア部を形成する工程(工程(1))と、(2)該コア部を含むエマルションに更に単量体成分を乳化重合させてアクリル共重合体(B)からなるシェル部を形成する工程(工程(2))とを含んでなる方法であることが好ましい。このような製造方法により、コア−シェル複合構造を有する粒子を含む制振材用エマルションを好適に得ることができるが、中でも、上記製造方法において、コア部を構成するアクリル共重合体(A)とシェル部を構成するアクリル共重合体(B)との相溶性、これらのアクリル共重合体の親水性レベル(SP値)、両者の重量平均分子量等を調整することが好ましく、これにより、理想的なコア−シェル複合構造の粒子を含む制振材用エマルションを得ることが可能となる。
【0035】
上記好適な形態の製造方法とすることにより、例えば、アクリル共重合体(A)からなるコア部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程においてアクリル共重合体(A)からなるコア部が形成され、アクリル共重合体(B)からなるシェル部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程において、該コア部に接触するようにアクリル共重合体(B)からなるシェル部が形成され、更に効率的に本発明の制振材用エマルションが得られることとなる。なお、3段以上の乳化重合工程を行う場合には、第1段目をアクリル共重合体(A)からなるコア部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程とし、最終段目の工程をアクリル共重合体(B)からなるシェル部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程とすることが好ましく、他の工程、すなわち第1段目と最終段目との間の乳化重合工程については、上記のような工程順となる限り特に限定されるものではない。
ここで、上記「ガラス転移温度が異なる単量体成分」とは、当該単量体成分を用いてホモポリマー(単独重合体)を製造した場合に、当該ホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)が異なる単量体成分を意味する。
【0036】
上記製造方法において、水性媒体及び単量体成分については上述したとおりである。
また上記製造方法において、界面活性剤としては、乳化重合に通常使用されるものを用いればよく、特に限定されないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、これらの反応性界面活性剤等の1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0037】
上記アニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
上記カチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル酸系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記界面活性剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の界面活性剤を用いることが好適である。
上記界面活性剤の使用量としては、用いる界面活性剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.3〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。
【0043】
上記保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、保護コロイドは単独で使用されてもよいし、界面活性剤と併用されてもよい。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
【0044】
上記製造方法においては、乳化重合を開始させるために重合開始剤を使用することが好適である。重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、水溶性開始剤が好適に使用される。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
【0045】
上記重合開始剤にはまた、乳化重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
【0046】
上記製造方法においてはまた、上記アクリル共重合体(A)や(B)の重量平均分子量を調整するために、必要に応じて乳化重合時に連鎖移動剤を使用することが好適である。連鎖移動剤としては、通常使用されるものを用いればよく、特に限定されないが、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルへキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルへキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステル;α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等の1種又は2種以上が好適である。中でも、へキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−へキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。
上記連鎖移動剤の使用量としては特に限定されず、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、2重量部以下であることが好ましく、より好ましくは1.0重量部以下である。
【0047】
上記製造方法における乳化重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適である。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
上記製造方法において、コア部とシェル部とは、基本的には同様の作業によって形成されることになるが、必要に応じて添加剤や反応条件を異ならせてもよい。例えば、上記工程(2)における乳化重合においては、界面活性剤及び/又は保護コロイドを追加しなくてもよい。
【0049】
本発明の制振材配合物は加熱乾燥工程において表層の乾燥が進行し塗膜内部に残留した水分が揮発する際に、ふくれを発生させるおそれがある。これを防止するために制振材配合物中に加熱乾燥時に発泡する発泡剤を含有させ、発泡と同時に塗膜内部に残留した水分を逃すことでふくれを防止するものである。また、制振材配合物中に発泡剤を含有させることにより厚みが上昇するため、制振性能も向上できる。このように、加熱乾燥時に発泡する発泡剤を含有する制振材配合物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0050】
上記制振材配合物において、発泡剤の種類としては特に限定されず、ジアゾアミノベンゾール、アゾイソブチルニトリル、ベンゾールスルホヒドラジド、アゾジカルボンアミド、P−P’−オキシベンゾールスルホヒドラジド、ベンジルモノヒドラゾール等の有機発泡剤;熱膨張性マイクロカプセル等が例示できるが、水性塗料中での安定性に優れた熱膨張性マイクロカプセルの使用が好適である。
本発明の制振材配合物において、発泡剤の含有量としては特に限定されるものではないが、制振材配合物100重量部に対し、発泡剤0.2〜3.0重量部が好適である。
【0051】
本発明の制振材配合物において、無機顔料の種類としては特に限定されず、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ベントナイト、フライアッシュ、珪藻土等の無機顔料:ガラスフレーク、パーライト、マイカ等の鱗片状無機顔料;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機顔料等が使用できる。中でも、鱗片状無機顔料は、塗膜内部で層状構造を形成することにより、振動エネルギーを減衰する効果があることから、アスペクト比の高いマイカの使用も好適であり、このような鱗片状無機顔料を用いることによって、制振性をより充分に向上することが可能となる。このように、上記無機顔料が鱗片状無機顔料を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。なお、この場合、無機顔料としては、鱗片状無機顔料に加え、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク等の通常汎用的に用いられる無機顔料を併用することもできる。
【0052】
上記無機顔料の配合量としては、例えば、制振材用エマルション100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。すなわち、上記制振材配合物は、制振材用エマルション100重量部に対し、無機顔料を50〜700重量部含有することが好ましい。50重量部未満であると、加熱乾燥性や制振性をより充分に発揮することができないおそれがあり、700重量部を超えると、塗膜の強靱性が低下し加熱乾燥後にクラックが発生したり、基材との密着性が低下し塗膜が基材から剥がれやすくなるおそれがある。より好ましくは、100〜550重量部である。その中でも、鱗片状無機顔料は、制振材用エマルション100重量部に対し、30〜150重量部用いることが好ましい。更に好ましくは、40〜120重量部である。
【0053】
本発明の制振材配合物はまた、上述したように、本発明の作用効果を損なわない限り、制振材用エマルション、発泡剤及び無機顔料以外の他の成分を含んでいてもよい。
上記他成分としては、例えば、溶媒;可塑剤;安定剤;増粘剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;有機系顔料;ガラスビーズ;ガラスバルーン;プラスチックビーズ;プラスチックバルーン;凍結防止剤;分散剤;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、充填剤を含むことが好ましい。なお、上記他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等等を用いて、上記制振材用エマルション等と混合され得る。
【0054】
上記他成分は、通常のものを用いればよく特に限定されないが、例えば、下記の化合物等を用いることができる。
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、例えば、制振材配合物中の制振材用エマルションの固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0055】
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。増粘剤の配合量としては、例えば、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜4重量部とすることが好ましく、より好ましくは、0.05〜1.5重量部、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
【0056】
上記有機系顔料としては、例えば、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等が挙げられる。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記凍結防止剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0057】
上記他成分としてはまた、多価金属化合物を用いてもよい。この場合、多価金属化合物により、制振材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材配合物から形成される制振材の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記多価金属化合物の形態は特に限定されず、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材配合物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、制振材配合物中の固形分100重量部に対して、好ましくは0.05〜5.0重量部であり、より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
【0058】
本発明の制振材配合物の製造方法としては、上述した制振材用エマルション、発泡剤、無機顔料及び必要に応じて他の成分を含むこととなる限り特に限定されず、通常の手法により各成分を混合することにより製造することができる。
【0059】
上記制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材配合物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、ローラー、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記制振材配合物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、例えば、乾燥時(後)の塗膜の面重量が1.0〜7.0kg/mとなるようにすることが好ましく、より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。なお、本発明の制振材用エマルションを使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも垂直面のタレも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。このように、乾燥後の塗膜の面重量が2.0〜6.0kg/mとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。また、上記制振材配合物の塗工方法によって得られた制振材もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。更に、上記制振材配合物を水系制振材として使用する制振材配合物の使用方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0060】
上記制振材配合物を塗布した後、乾燥して塗膜を形成させる条件としては、例えば、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、効率性の点で加熱乾燥することが好ましく、本発明では加熱乾燥性に優れることから好適である。加熱乾燥の温度としては、例えば、80〜210とすることが好ましく、より好ましくは、90〜180℃、更に好ましくは、120〜170℃である。
【0061】
本発明の制振材配合物の用途としては特に限定されず、優れた加熱乾燥性や制振性等を発揮することができるため、例えば、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の制振材配合物は、上述のような構成からなり、幅広い温度領域での制振性及び加熱乾燥性に優れるとともに、制振材塗膜の垂直面におけるタレを充分に抑制できることから、各種構造体の制振材に用いられる材料として特に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記の合成例等において、SP値、ガラス転移温度(Tg)及び粘度は、上述したようにして求めた。また、フィルム白濁性は、得られたエマルションを50.00mm(長さ)×100.00mm(幅)×2.00mm(高さ)の型枠に流し込み、室温で10分放置後、140℃で焼き付けをして得られた樹脂フィルムの透明度について、目視にて確認した。
【0064】
<制振材用エマルション>
合成例1
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に、脱イオン水(76部)を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら、内温を70℃まで昇温させた。一方、滴下ロートに、メチルメタクリレート(22.8部)、スチレン(40.0部)、2−エチルヘキシルアクリレート(22.5部)、ブチルアクリレート(12.2部)、アクリル酸(2.0部)、メタクリル酸(0.5部)、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、「ハイテノールNF−08」)(15部)、及び、脱イオン水(10部)からなる単量体エマルション1を仕込んだ。
70℃に調整した重合器に、単量体エマルション1を滴下することで反応を開始させ、80℃まで温度を上げた後、内温を80℃に維持しながら単量体エマルション1を2時間かけて均一に滴下した。同時に、5%過硫酸カリウム水溶液(7部)、及び、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(17.5部)を2時間かけて均一に滴下した。これらの滴下により、コア部のエマルションを形成した。滴下終了後、75℃で1時間反応を続け、各単量体成分を完全に消費させた。
このようにして得られたコア部のエマルションについて、SP値を求め、コア部を構成する単量体組成からガラス転移温度(TgA)を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0065】
次いで、別の滴下ロートに、メチルメタクリレート(25.3部)、スチレン(10.0部)、2−エチルヘキシルアクリレート(25.8部)、ブチルアクリレート(36.4部)、アクリル酸(2.0部)、メタクリル酸(0.5部)、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、「ハイテノールNF−08」)(15部)、及び、脱イオン水(10部)からなる単量体エマルション2を準備した。
コア部のエマルションに、調製した単量体エマルション2を滴下することで反応を開始させ、内温を80℃に維持しながら単量体エマルション2を2時間かけて滴下した。同時に、5%過硫酸カリウム水溶液(7部)、及び、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(17.5部)を2時間かけて均一に滴下した。これらの滴下により、シェル部を形成し、コア−シェル型の粒子を得た。滴下終了後、75℃で1時間反応を続け、各モノマーを完全に消費させた。その後、反応溶液を25℃まで冷却して25%のアンモニア水を適量添加し、制振材用エマルションを得た。
得られた制振材用エマルションについて、固形分濃度、pH及び粘度を求め、目視にてフィルム白濁性を評価した。また、シェル部のSP値を求め、シェル部を構成する単量体組成からガラス転移温度(TgB)を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0066】
合成例2〜5、合成比較例1〜2
コア部及びシェル部の形成に用いられる単量体成分の組成を表1又は2に示す組成にした以外は合成例1と同様にして、制振材用エマルションを得た。
この制振材用エマルションについて、合成例1と同様に各種物性等を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
合成比較例3
コア部の形成に用いられる単量体成分の組成を表1に示す組成にしたこと、及び、シェル部を形成しなかったこと以外は合成例1と同様にして、制振材用エマルションを得た。
この制振材用エマルションについて、合成例1と同様に各種物性等を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1中の記載は、以下のとおりである。
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
AA:アクリル酸
TgA/TgB(℃):コア部(A)のガラス転移温度(℃)/シェル部(B)のガラス転移温度(℃)
WA/WBの比率:コア部(A)とシェル部(B)との質量比率(%/%)
ΔSP(B−A):シェル部(B)のSP値からコア部(A)のSP値を差し引いた値
なお、ΔSP(B−A)が小さいほど、相溶性が比較的良好であることを示し、逆にΔSP(B−A)が大きいほど、相溶性が比較的不良であることを示す。
【0070】
<制振材配合物>
実施例1〜5、比較例1〜3
上記合成例、合成比較例で得た、制振材用エマルションを使用して、表2に示す組成で塗料化し、実施例1〜5及び比較例1〜3の制振材配合物を得た。
得られた制振材配合物を、30×300×1.6mmの短冊状の鋼板上に、ヘラを使用して乾燥後の重量が1mあたり4kgとなるよう塗布した後、加熱オーブンを使用して140℃で45分乾燥させ、制振測定用の試験体を作製した。
制振測定用の試験体を用いて、20℃、40℃、60℃の雰囲気における損失係数を測定した結果を表3に示した。損失係数は中点加振方式により機械インピーダンスの1〜1000Hzにおける各共振点の半値幅から算出し、内挿法により200Hzの損失係数を求めた。損失係数の値が高いほど、振動エネルギーの減衰効果が高い。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
コア−シェル型粒子構造にてメタクリル酸を共重合した制振材用エマルションを使用した実施例1〜5では、幅広い温度領域で高い損失係数が得られる。
一方、シェル部を形成しない(均質型粒子構造)制振材用エマルションを使用した比較例3では、20℃と60℃の損失係数が低く、制振効果を発揮する温度領域が狭い。
また、メタクリル酸を含有しない制振材用エマルションを使用した比較例1、2では、各温度領域で損失係数が低く制振効果が低い。
【0074】
実施例6
実施例2で得た制振材配合物を、30×300×1.6mmの短冊状の鋼板上に、ヘラを使用して乾燥後の重量が1mあたり1kgとなるよう塗布(乾燥後の面重量が1.0kg/mとなるように塗布)した後、加熱オーブンを使用して140℃で45分乾燥させ、制振測定用の試験体を作製した。
この試験体を用いて、実施例2と同様に、20℃、40℃、60℃の雰囲気における損失係数を測定した。結果を表4に示す。
【0075】
実施例7〜10
実施例2で得た制振材配合物を使用し、乾燥後の面重量が表4に記載の値となるように塗布した他は、実施例6と同様にして20℃、40℃、60℃の雰囲気における損失係数を測定した。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
乾燥後の面重量が1.0kg/mとなる実施例6では、制振性が最も低かったが、乾燥後の面重量が2.0〜6.0kg/mとなる実施例7〜9では制振性の効果が確認され、実施例9では制振性が最も良好であった。また、乾燥後の面重量が7.5kg/mとなる実施例10では、乾燥性が充分ではなかったため、制振材配合物の特性が充分に発揮されていない。
【0078】
実施例11〜15
炭酸カルシウム及びマイカの量を表5に記載の値に変更した他は、実施例2と同様にして制振材配合物を得、20℃、40℃、60℃の雰囲気における損失係数を測定した。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振材用エマルション、発泡剤及び無機顔料を含有する制振材配合物であって、
該制振材用エマルションは、アクリル共重合体(A)からなるコア部と、アクリル共重合体(B)からなるシェル部とを有する粒子を含んでなり、
該アクリル共重合体(A)及び(B)のうち少なくとも1種は、メタクリル酸を必須とする単量体成分を共重合してなるものである
ことを特徴とする制振材配合物。
【請求項2】
前記制振材用エマルションは、ガラス転移温度が異なる単量体成分を用いてなる乳化重合工程を多段階に分別して行うことにより製造されるものである
ことを特徴とする請求項1記載の制振材配合物。
【請求項3】
前記制振材用エマルションは、アクリル共重合体(A)からなるコア部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程を、アクリル共重合体(B)からなるシェル部を構成する単量体成分を用いて乳化重合を行う工程より早い段階で行うことにより製造されるものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の制振材配合物。
【請求項4】
前記制振材配合物は、加熱乾燥時に発泡する発泡剤を含有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振材配合物。
【請求項5】
前記制振材配合物は、制振材用エマルション100重量部に対し、無機顔料を50〜700重量部含有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振材配合物。
【請求項6】
前記無機顔料は、鱗片状無機顔料を含む
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の制振材配合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の制振材配合物を水系制振材として使用する
ことを特徴とする制振材配合物の使用方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の制振材配合物の塗工方法であって、
該塗工方法は、乾燥後の面重量が1.0〜7.0kg/mとなるように塗工し、乾燥する
ことを特徴とする制振材配合物の塗工方法。
【請求項9】
請求項8に記載の制振材配合物の塗工方法によって得られたものである
ことを特徴とする制振材。

【公表番号】特表2009−508972(P2009−508972A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513831(P2008−513831)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【国際出願番号】PCT/JP2006/318897
【国際公開番号】WO2007/034933
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】