説明

制振材

【課題】制振性が改善されており、軽量かつ耐熱性に優れた制振材を提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.05〜3.0μmの微粒子を0.5〜30重量%含有する、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維と、樹脂とからなることを特徴とする制振材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ耐熱性のある制振材に関するものであり、さらには、振動を減衰させる必要のある音響部材、構造部材などに適用される材料に適用される制振材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動が伝達しやすい、または振動により障害を受ける機器や部材に対しては、これと同時に振動を抑制する制振材が広く求められており、該制振材は、スピーカー関連部材や、情報処理装置のファンなど、多岐にわたる分野で適用されている。該制振材は、振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、固有振動に起因の共振増幅を抑えたり、振動伝播の距離減衰を大きくしたり、振動エネルギーの蓄積を防止したりする材料である。
【0003】
そのメカニズムは詳細には解明されていないが、ガラス転移領域における、分子運動の摩擦による発熱である。また、高分子化合物に微粒子が含まれている場合には、高分子化合物間における、また微粒子間での摩擦により、制振性能が向上するものと推測されている。制振性能の指標としては、比弾性率、内部損失などがあり、いずれも数値が高いほど好ましいとされている。
【0004】
スピーカー関連部材に着目してみると、従来から使用されている材料としては、セルロースパルプ系材料、アルミニウムなどの金属系材料、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフェニルエーテルなどの熱可塑性樹脂系材料、炭素繊維などと樹脂の複合材料、などがある。昨今、小型軽量化の観点から繊維と樹脂からなる複合材料が多く広く使用されており、例えば、多孔質材料を含有した振動減衰材(特許文献1)、導電性フィラーにより強化した制振材料(特許文献2)が報告されている。
【0005】
引用文献1に記載されている多孔質材料は、実施例記載のtanδの数値は高いものの、孔の平均サイズが0.1〜50μmであり、多孔質そのものはさらに大きく、繊維、またはフィルムなどの細い、または薄い成形体には適さないものである。また、引用文献2では、導電性フィラーを制振材料に加えても、Tg付近での損失弾性率(E’’)が約5.0E+0.9[Pa]が最大値となり、それ以外では著しく低下する傾向にある。
多孔質材料およびフィラーなどの添加のみでは、多種多様な制振材形態および様々な温度環境下における使用においては、性能が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−85385号公報
【特許文献2】特開2002−241622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、制振性が改善されており、軽量かつ耐熱性に優れた制振材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、上記課題は、以下に記載する構成とすることにより解決できることを見出した。
すなわち本発明は、平均粒子径が0.05〜3.0μmの微粒子を0.5〜30重量%含有する、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維と、樹脂とからなることを特徴とする制振材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制振材は、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維と、樹脂からなり、該繊維に特定の粒子径を有する微粒子が含有されていることによって、優れた制振性を発現する。また、上記制振材は、強度、耐熱性の点でも優れており、多種多様な制振材として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の制振材は、平均粒子径が0.05〜3.0μmの微粒子を0.5〜30重量%含有する、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維(以下、芳香族ポリアミド繊維、または単に繊維と称することがある)と、樹脂とからなることを特徴とする。本発明においては、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維を用いることによって、耐熱性が必要とされる用途に利用することができるだけでなく、力学特性にも優れているため、薄くても十分な強度を発揮する制振材が得られ、軽量化を図ることができる。
【0011】
本発明においては、上記繊維に、平均粒子径が0.05〜3.0μmの微粒子が、繊維重量に対して0.5〜30重量%含有されていることが肝要である。かかる繊維を用いた制振材とすることにより、振動エネルギーを効率的に制振材全体に伝達させることができ、高い制振性を発現することが可能となる。また、該制振材は軽量、高耐熱性であるため、省スペース化を図ることも可能となる。
【0012】
また、本発明においては、樹脂に微粒子を含有させるのではなく、振動を伝播する繊維に微粒子を含有させていることが特徴であり、これによって効率よく振動エネルギーを制振材全体に伝播し、高い制振性を得ることができる。
【0013】
本発明において、繊維に含まれる微粒子の平均粒子径は0.05〜3.0μmであり、好ましくは0.2〜1.0μmである。この平均粒子径とは、後述するように、電子顕微鏡にて繊維中に含まれる粒子の直径を測定し、算術平均した数値である。また、該微粒子の含有量は0.5〜30重量%であり、1〜20重量%が好ましい。平均粒径が0.05μm未満または含有量が0.5重量%未満では本発明の目的とする高い制振性が得られず、平均粒径が3.0μmを超えるかまたは含有量が30重量%を超えると、曳糸性の悪化、繊維の物理特性の低下が起こるため、好ましくない。
【0014】
本発明に用いる微粒子としては、カーボンブラック、マイカ、タルク、アルミナ、フェライト、カオリン、ジルコニア、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化鉄等が挙げられ、特にカーボンブラックや酸化鉄が望ましい。
【0015】
上記繊維の形態としては、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。長繊維の場合は、織物、編物、乾式不織布、一方向に引き揃えられた長繊維状物(UD)等として用いることができる。一方、短繊維の場合は、これを樹脂中に分散させて用いたり、乾式不織布、湿式不織布として用いたり、紡績糸として、織物、編物等として用いたりすることができる。中でも、織物、編物、乾式不織布、湿式不織布、一方向に引き揃えられた長繊維状物(UD)といった繊維構造体の形態で用いることにより、繊維の強度を十分に利用することができ好ましい。また、織物や編物を構成する糸条として紡績糸を用いた場合は、アンカー効果による樹脂との結合強度が強く、長繊維対比伸度が高いため、より制振性に優れた制振材が得られる。
【0016】
本発明に用いる繊維の単繊維繊度としては、0.1〜10dtexが好ましく、1〜5dtexがより好ましい。また、織物、編物として用いる際は、これを構成する糸が長繊維マルチフィラメント糸の場合、該糸の総繊度は、100〜10000dtexが好ましく、300〜7000dtexがより好ましい。また、紡績糸の場合は、2〜20番手が好ましく、5〜15番手がより好ましい。
【0017】
一方、本発明に用いる樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。上記熱硬化性樹脂としては、例えは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらは共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。
【0018】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂、上記のエラストマー樹脂等が挙げられる。これらは同様に共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。
【0019】
上記の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂はこれらを複合して使用してもよい。また、樹脂中に、難燃剤、耐光剤、紫外線吸収剤、平滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、着色剤、抗菌剤、顔料、導電剤などの機能剤を包含していても良い。
【0020】
本発明の制振材は、前記繊維と上記の樹脂からなる制振材であって、前記繊維の短繊維が樹脂中に分散されているもの、前記繊維の長繊維または短繊維からなる、織物、編物、乾式不織布、湿式不織布、一方向に引き揃えられた長繊維状物(UD)とし、これに樹脂を含浸したもの、樹脂フィルムまたは樹脂シートをラミネートしたものが挙げられる。
【0021】
具体的な例としては、スピーカー用ダンパーや振動板の場合は、前記繊維を織物とし、これに樹脂を含浸したものを用いることができる。その際、織物の密度は、経方向、緯方向とも、20〜50本/インチが好ましく、25〜45本/インチがより好ましい。なお、経方向、緯方向の織密度は同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
制振材における樹脂の量は体積比で、制振材の全体積を基準として、30〜70%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。30%未満では繊維がむき出しになったり、繊維構造体に樹脂を含浸したシートを複数枚積層して制振材を成形する場合は、剥離が発生しやすくなったりする。一方、樹脂の量が体積比で70%を超えると十分な繊維による補強効果得られず、成形も難しくなる傾向にある。
【0023】
本発明の制振材は、以下の方法により製造することができる。繊維に微粒子を含有させる方法としては、公知の方法により、繊維の製造段階で添加することができる。例えば、紡糸原液を調製する段階で芳香族ポリアミドポリマー重量に対して任意の量となるよう微粒子を添加し、紡糸ノズルから凝固浴中に吐出し、この吐出糸条を水洗し、延伸して巻き取ることにより製造することができる。
【0024】
また、得られた繊維を、公知の方法で前記の繊維構造体とした後、これに樹脂を含浸、ラミネート、コーティングなどし、加熱加圧処理を行い、制振材に成形することができる。この際、繊維構造体に樹脂を含浸等したシートとし、これを2層以上積層して、加熱加圧処理して制振材としてもよい。
以上に説明した、本発明の制振材は、スピーカー用振動板、吸音材、ファンなどに用いることができ、優れた制振性能を発揮する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の測定は以下の方法を用いた。
【0026】
(1)微粒子の平均粒径
繊維を任意に10本サンプリングし、それらに含まれる微粒子の直径を任意に1本当たり50個、走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて測定し、それらの平均値を求めた。なお、測定は、微粒子のサイズに合わせ、5,000倍、ないしは10,000倍の倍率で行った。
【0027】
(2)損失係数
JIS G0602−1993片端固定打撃加振法に準拠して実施した。試験片を10mm×250mmにカットし、任意に測定用サンプルを5枚選んだ。サンプルの片端をサンプル台に固定し、開放されている片端に与えるインパクトによって生じる振幅をCCDレーザー変異計、FFTアナライザに取り込み、解析した。なお、損失係数ηは下記式にて算出した。
Λ=log(X/X)=1/nlog(X/X
Λ:対数減衰率、X:振幅歪、X:n番目の振幅歪
η=Λ/π
【0028】
[実施例1]
平均粒径が0.3μmの大日精化(株)製の導電性カーボンブラック(MPS−1504 Black(T))を、N−メチルピロリドンに添加、混合して該カーボンブラック濃度が15重量%のN−メチルピロリドン分散液を調整した。この分散液を、パラ型芳香族コポリアミド(帝人テクノプロダクツ(株)製)の濃度が6重量%のN−メチルピロリドン溶液に、該導電性カーボンブラック含有量が得られる繊維重量に対して15重量%となるように、添加、撹拌混合し、紡糸原液を得た。
次いで上記紡糸原液を、半乾半湿式紡糸機を用い、孔径0.3mmでホール数100の紡糸ノズルから、毎分20cc/分の吐出条件でエアーギャップ(空隙部分)を通じて、温度50℃、N−メチルピロリドン濃度30重量%の水溶液からなる凝固浴中に紡出し、凝固させた後、50℃で水洗、200℃で乾燥し、次いで530℃で延伸して巻き取り、芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型芳香族コポリアミド繊維を、捲縮を付与したのち、51mm長にカットし、10番手の紡績糸とし、打ち込み本数35本/インチの平織物を作製した。
これに住友ベークライト製フェノール樹脂を含浸させ、プレス加工し、樹脂含浸量が体積比で49%の制振材を得た。得られた制振材の物性を表1に示す。
【0029】
[実施例2]
導電性カーボンブラック(MPS−1504 Black(T))に代えて、平均粒径が0.4μmの戸田工業(株)製酸化鉄(III)を、繊維重量に対して含有量が6重量%となるように紡糸原液に添加した以外は、実施例1と同様にして、パラ型芳香族コポリアミド繊維を製糸し、樹脂含浸量が体積比で49%の制振材を得た。得られた制振材の物性を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
導電性カーボンブラック(MPS−1504 Black(T))を用いずにパラ型芳香族コポリアミド繊維を製糸した以外は、実施例1と同様にして樹脂含浸量が体積比で45%の制振材を得た。得られた制振材の物性を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
導電性カーボンブラック(MPS−1504 Black(T))の繊維重量に対する含有量が0.3重量%となるように紡糸原液に添加した以外は、実施例1と同様にして、パラ型芳香族コポリアミド繊維を製糸し、樹脂含浸量が体積比で48%の制振材を得た。得られた制振材の物性を表1に示す。
【0032】
[比較例3]
導電性カーボンブラック(MPS−1504 Black(T))の繊維重量に対する含有量が35重量%となるように紡糸原液に添加した以外は、実施例1と同様にしたが、紡糸製が悪く、糸条を得られなかった。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の制振材は、損失係数が格段に向上し、制振性が改善されており、音響部材、構造部材など広い分野で適用することができる。このため、ピーカー用ダンパー、スピーカー用振動材、吸音材、ファンなどに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.05〜3.0μmの微粒子を0.5〜30重量%含有する、パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維と、樹脂とからなることを特徴とする制振材。
【請求項2】
前記パラ型芳香族ポリアミド繊維またはパラ型芳香族コポリアミド繊維からなる繊維構造体に樹脂を含浸させてなる請求項1記載の制振材。
【請求項3】
JIS G0602−1993の減衰法に準じ、最初の変位の極大値を0.45〜4.0mmとして測定した制振材の損失係数が0.035以上である請求項2に記載の制振材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振材からなるスピーカー用ダンパー。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振材からなるスピーカー用振動板。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振材からなる吸音材。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振材からなるファン。

【公開番号】特開2012−41413(P2012−41413A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182416(P2010−182416)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】