説明

制振構造、制振構造を有する建物

【課題】制振性能を向上させることを目的とする。
【解決手段】揺動体26が、建物12の複数層にまたがって配置されている。この揺動体26の上端部26Aは建物に固定され、その下端部26Bは自由端とされている。従って、地震、風等によって建物12に外力が作用し、建物12に曲げ変形が生じると、建物本体13に設けられた連結部34に対して、揺動体26の下端部側に設けられた連結部32が相対変位する。これにより、連結部34、32に連結されたオイルダンパー30に力が伝達され、振動エネルギーが吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の制振構造、及び制振構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の振動を低減する制振構造が知られている。例えば、特許文献1には、建築物内に剛体を配置し、この剛体と基礎とをダンパー部材で連結した制振構造物が開示されている。この剛体は滑り支承で支持されると共に、その頂部が建築物の屋根部(小屋部)に固定されている。そして、地震時には、屋根部の振動が剛体に伝達され、剛体が滑り移動して当該剛体と基礎とが水平方向に相対変位する。この相対変位を利用してダンパー部材を伸縮させることにより、振動を低減している。
【0003】
しかしながら、特許文献1の制振構造物では、剛体の滑り移動によって摩擦力が発生するため、剛体と基礎との相対変位量が小さくなり、ダンパー部材を効率的に伸縮させることができない。また、剛体を支持する基礎が必須となるため、コストが増大する。
【0004】
一方、特許文献2には、架構に固定された方形枠と、この方形枠内に配置された制振パネルとをオイルダンパーで連結した制振構造が開示されている。制振パネルの上部は方形枠の上枠材に固定されており、制振パネルの下部は自由端とされている。この制振パネルの下部と方形枠の左枠材とは、オイルダンパーによって連結されている。そして、地震時に、架構に層間変形が生じると、方形枠の左枠材に対して制振パネルの下部(自由端)が相対変位する。この相対変位を利用して、オイルダンパーを伸縮させることにより、振動を低減している。
【0005】
しかしながら、特許文献2の制振構造では、架構に方形枠及び制振パネルを設置することを前提としている。従って、制振パネルの下部と左枠材との間には、最大でも建物の一層分の層間変形に応じた相対変位しか生じ得ず、建物によっては充分な制振効果を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−138783号公報
【特許文献2】特開2000−240321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、制振性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の制振構造は、建物の複数層にまたがって配置され、その上端部が該建物に固定されると共にその下端部が自由端とされた揺動体と、前記建物に設けられる第1連結部と、前記揺動体の下端部側に設けられ、前記建物に外力が作用したときに、前記第1連結部に対して相対変位する第2連結部と、に連結される減衰手段と、を備えている。
【0009】
上記の構成によれば、揺動体が、建物の複数層にまたがって配置されている。この揺動体の上端部は建物に固定され、その下端部は自由端とされている。従って、地震、風等によって建物に外力が作用し、建物が曲げ変形すると、建物に設けられた第1連結部に対して、揺動体の下端部側に設けられた第2連結部が相対変位する。これにより、第1連結部と第2連結部とに連結された減衰手段に力が伝達され、振動エネルギーが吸収される。
【0010】
ここで、第1連結部と第2連結部との相対変位量は、建物に固定された揺動体の上端部から第2連結部までの距離に応じて大きくなるところ、本発明では、揺動体が建物の複数層にまたがって配置されている。これにより、揺動体の上端部から一層以上離れた位置に第2連結部を設けることが可能となり、即ち、第1連結部と第2連結部との相対変位を大きくすることができる。従って、減衰手段による制振低減効果を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の制振構造は、請求項1に記載の制振構造において、前記揺動体が、前記建物内に形成された吹抜け空間に配置されている。
【0012】
上記の構成によれば、建物内に形成された吹抜け空間を利用して、揺動体を設置することにより、建物内スペースの有効利用を図ることができる。
【0013】
請求項3に記載の制振構造は、請求項1又は請求項2に記載の制振構造において、前記第1連結部が、前記建物の固有振動モードの腹部に位置している。
【0014】
上記の構成によれば、建物の固有振動モードの腹部、即ち、相対的に層間変形が大きくなる建物の部位に第1連結部が位置している。従って、第1連結部に対する第2連結部の相対変位が大きくなり、減衰手段による振動低減効率を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の建物は、請求項1〜3の何れか1項に記載の制振構造を有し、前記揺動体が配置される吹抜け空間を備えている。
【0016】
上記の構成によれば、建物は、吹抜け空間を有している。この吹抜け空間には、揺動体が配置されている。この揺動体は、建物の複数層にまたがって配置されており、その上端部は建物に固定され、その下端部は自由端とされている。従って、地震、風等によって建物に外力が作用し、建物が曲げ変形すると、建物に設けられた第1連結部に対して、揺動体の下端部側に設けられた第2連結部が相対変位する。これにより、第1連結部と第2連結部とに連結された減衰手段に力が伝達され、振動エネルギーが吸収される。よって、制振性能が向上された建物を構築することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記の構成としたので、制振効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る制振構造が適用された建物を示す立面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る減衰手段を示す、図1の拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制振構造が適用された建物の変形状態を示す、模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制振構造が適用された建物の変形状態を示す模式図であり、(A)は変形前の状態を示し、(B)は変形後の状態を示している。
【図5】建物の振動モデルを示す図であり、(A)は静止状態を示し、(B)は2次振動モードを示し、(C)は3次振動モードを示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る制振構造の変形例が適用された建物を示す立面図である。
【図7】建物を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る制振構造について説明する。図1は、本実施形態に係る制振構造が適用された建物12を示す概略立面図である。
【0020】
建物12は、建物本体13と、建物本体13に支持された揺動体26を備えている。建物本体13は、外壁14と、外壁14に架設されたハットトラス16及びトラス梁17と、を備え、複数の床18が上下方向に重なるように構築された多層構造とされている。建物12の中央部にはトラス梁17まで延びる吹抜け空間20が上下方向に形成されており、当該吹抜け空間20の周囲に床18が構築されている。なお、建物本体13内には、床18を支持する柱22が立設されている。
【0021】
ハットトラス16は建物12の頂部に構築されており、鋼材からなる上弦材16A、下弦材16B、及び斜材16Cを連結した高剛性の立体トラス構造とされている。ハットトラス16の下方にはトラス梁17が構築されている。トラス梁17は、鋼材からなる上弦材17A、下弦材17B、及び斜材17Cを連結した高剛性の立体トラス構造とされており、ハットトラス16と略平行に配置されている。これらのハットトラス16及びトラス梁17は、外壁14に剛接合されている。
【0022】
トラス梁17の材軸方向中央部には、下方に向かって突出する揺動体26が設けられている。揺動体26は、建物12の複数層(図1では、7層)にまたがって配置されている。揺動体26の上端部26Aはトラス梁17に剛接合で固定され、自由端とされた下端部26Bは吹抜け空間20に配置されている。この揺動体26は、鋼材からなる弦材28A及び斜材28Bを連結して壁状に構築された立体トラス構造とされており、当該揺動体26が建物本体13に対して相対変位したときに、オイルダンパー30から受ける反力に対して、十分に抵抗可能な剛性を備えている。
【0023】
図1及び図2に示されるように、揺動体26の下端部側と建物本体13とはオイルダンパー30(減衰手段)によって連結されており、建物12に減衰が付与されている。オイルダンパー30は、揺動体26の水平方向両側にそれぞれ配置されている。各オイルダンパー30は、揺動体26の下端部側に設けられた連結部32(第2連結部)と、建物本体13の柱22に設けられた連結部34(第1連結部)とに、水平方向(A方向)に伸縮可能に連結されている。このオイルダンパー30は、オイルが収容されるシリンダ30Aと、このシリンダ30Aに抜き差し可能に挿入されるロット30Bを備えている。
【0024】
連結部32は、揺動体26の上端部26A(トラス梁17との固定部)から一層以上離れた揺動体26の下端部側に位置し、揺動体26の側面を構成する弦材28Aに設けられている。この連結部32と水平方向に対向する柱22には、連結部34が設けられている。これらの連結部32、34には、連結ピン36によってシリンダ30A、及びロット30Bがそれぞれ連結されており、連結部34に対する連結部32の相対変位に応じて、オイルダンパー30が伸縮するようになっている。
【0025】
次に、本実施形態に係る制震構造の作用について説明する。
【0026】
図3、図4(A)及び図4(B)には、建物12が一次振動モードで揺れたときの曲げ変形状態が模式的に示されている。なお、図4(A)は建物12の変形前の状態を示し、図4(B)は建物12の変形後の状態を示している。また、図3、図4(B)は、理解を容易にするために、建物12の変形量を誇張して示している。
【0027】
地震、風等の外力によって建物12が揺れ、建物本体13の曲げ変形が卓越すると、一方の外壁14(図3では、左側)が引張り変形し、他方の外壁14(図3では、右側)が圧縮変形する。この結果、左右の外壁14の頂部に高低差が生じて建物本体13が傾倒し、建物本体13の上層階にあるハットトラス16及びトラス梁17が回転変形すると共に、このトラス梁17の回転角に応じて、当該トラス梁17に剛接された揺動体26が回転変形する。
【0028】
他方、図4に示されるように、建物本体13の中層階においても、曲げ変形によって左右の外壁14に高低差が生じる。しかし、この高低差は、建物12の上層階と比較して小さく、即ち、建物本体13の中層階の傾倒角θが、揺動体26の傾倒角(回転角)θよりも小さくなる(θ<θ)。この上層階と中層階の傾倒角の差により、建物本体13の中層階に設けられた連結部34に対して、揺動体26の下端側に設けられた連結部32が相対変位(S、S)する。これにより、連結部34、32に連結されたオイルダンパー30が伸縮して、振動エネルギーが吸収される。
【0029】
ここで、建物本体13の傾倒角は、下層階から上層階に向って大きくなり、建物本体13の頂部で最大となる。そのため、揺動体26の上部26Aが固定された層の傾倒角と、連結部32が設けられた層の傾倒角との差が大きいほど、建物本体13に対する連結部32の相対変位量が増大する。従って、揺動体26の上端部26Aから連結部32までの距離L(図1参照)を大きくすることにより、連結部34に対する連結部32の相対変位を増大させることができる。
【0030】
これを床18等の水平部材の回転角に置き換えて説明すると、建物12が一次振動モードで揺れる場合、各層における床18等の水平部材の回転角は、下層階から上層階へ向って大きくなり、建物本体13の頂部で最大となる。具体的には、建物本体13の1階における水平部材は通常回転せず、その回転角は0度である。一方、建物本体13の中〜高層階における水平部材は、建物本体13の傾倒角に応じて回転し、建物本体13の頂部で最大となる。例えば、図4(B)に示す模式図では、ハットトラス16の回転角θが最大となる。従って、揺動体26の上部26Aが固定された層の水平部材の回転角と、連結部32が設けられた層の水平部材の回転角の差が大きいほど、建物本体13に対する揺動体26の相対変位が増大する。従って、揺動体26の上端部26Aから連結部32までの距離L(図1参照)を大きくすることにより、連結部34に対する連結部32の相対変位を増大させることができる。
【0031】
本実施形態では、揺動体26が建物12の複数層にまたがって配置されているため、揺動体26の上端部26Aから一層以上離れた位置に連結部32を設けることができ、揺動体26の上端部26Aから連結部32までの距離Lを大きくすることができる。従って、建物本体13の連結部34に対する揺動体26の連結部32の相対変位量を増大させ、オイルダンパー30による振動エネルギー吸収効率を高めることができる。
【0032】
一方、建物本体13に対して揺動体26が相対変位すると、オイルダンパー30から反力によって、連結部32を作用点とした撓みが揺動体26に生じる。この撓み量は、揺動体26を片持ち梁に置き換えて考えると、上端部26Aから連結部32までの距離Lの3乗に比例して大きくなる。従って、揺動体26の上端部26Aから連結部32までの距離Lが大きくなるに従って撓み量が増大し、揺動体26に求められる剛性が大きくなる。そのため、揺動体26の上端部26Aから連結部32までの距離Lを過大にすると、揺動体26の補強コストや重量の増大を招いてしまう。
【0033】
従って、連結部32を設ける位置は、揺動体26と建物本体13との相対変位量と、オイルダンパー30からの反力による揺動体26の撓み量との相間関係を考慮して、設計することが望ましい。なお、本実施形態では、揺動体26を立体トラス構造とし、オイルダンパー30から受ける反力に対して十分に抵抗可能な剛性を確保している。
【0034】
更に、建物12が一次振動モードで揺れる場合、前述したように、各層における床18等の水平部材の回転角は、下層階から上層階へ向って大きくなり、建物本体13の頂部で最大となる。本実施形態では、建物本体13の上層階にトラス梁17を設けているため、トラス梁17の回転角が最大値(θ)付近で推移し、即ち、トラス梁17に固定された揺動体26の回転角θが最大値(θ)付近で推移する。従って、連結部34に対する連結部32の相対変位が大きくなり、オイルダンパー30による振動エネルギー吸収効率を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態では、建物12が一次振動モードで揺れた場合を例に説明したが、建物12が高次振動モードで揺れる場合には、各振動モードの腹部にオイルダンパー30を設置し、減衰を付与することが効果的である。例えば、図5(B)及び図5(C)に示される多質点の振動モデルのように、建物12が二次振動モード、三次振動モードで揺れる場合、各振動モード(固有振動モード)において、水平方向の変位(層間変形)が大きくなる腹部P、又は腹部P付近に、連結部34を設けてオイルダンパー30を設置することで、振動エネルギーを効率的に吸収することができる。
【0036】
また、建物12の曲げ剛性は、建物12の平面形状によって変化する。例えば、図7に示す建物40のように、平面形状が長方形であって、水平二方向に建物40が曲げ変形する場合、アスペクト比(建物の高さに対する幅の比)が小さい辺40Aと直交する方向(矢印X方向)の曲げ剛性が相対的に小さくなるため、曲げ変形量が大きくなる。従って、図1に示す建物12の平面形状が長方形である場合には、オイルダンパーの伸縮方向を、アスペクト比が小さい辺と直交する方向として設置することで、振動エネルギー吸収効率を高めることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、建物12の上層階に構築されたトラス梁17に揺動体26を固定したがこれに限らない。揺動体26は、建物12の複数層にまたがって配置されれば良く、建物12の低〜中層階にある部材に固定しても良い。ただし、前述した揺動体26の回転角(傾倒角)の観点からは、図6に示されるように、建物12の頂部に位置するハットトラス16に揺動体26を固定することが好ましい。また、揺動体26の設置場所は吹抜け空間20に限らず、建物の構造に応じて適宜変更可能である。なお、本実施形態では、吹抜け空間20に揺動体26を設置することにより、建物12内スペースの有効利用を図っている。
【0038】
また、本実施形態では、揺動体26の両側にオイルダンパー30を設置したが、オイルダンパー30は少なくとも1つ設置されていれば良い。また、本実施形態では、減衰手段としてオイルダンパー30等の粘性ダンパーを用いたが、オイルダンパー30に替えて、粘弾性ダンパー、摩擦ダンパー、鋼材ダンパー等の種々のダンパーを用いることができる。
【0039】
また、揺動体26の形状は、上記した壁状に限らず、柱状、棒状であっても良い。更に、本実施形態では、トラス梁17に揺動体26を略直角になるように固定したが、トラス梁17に対して揺動体26を傾斜させて固定しても良い。
【0040】
更に、本実施形態に係る制振構造は、耐震構造、免震構造等の種々の建物に適用可能であり、曲げ変形が卓越する中層〜高層建物に特に有効である。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
12 建物
20 吹抜け空間
26 揺動体
30 オイルダンパー(減衰手段)
32 連結部(第2連結部)
34 連結部(第1連結部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の複数層にまたがって配置され、その上端部が該建物に固定されると共にその下端部が自由端とされた揺動体と、
前記建物に設けられる第1連結部と、前記揺動体の下端部側に設けられ、前記建物に外力が作用したときに、前記第1連結部に対して相対変位する第2連結部と、に連結される減衰手段と、
を備える制振構造。
【請求項2】
前記揺動体が、前記建物内に形成された吹抜け空間に配置されている請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記第1連結部が、前記建物の固有振動モードの腹部に位置している請求項1又は請求項2に記載の制振構造。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の制振構造を有し、前記揺動体が配置される吹抜け空間を備える建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−261247(P2010−261247A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113691(P2009−113691)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】