説明

制振構造物

【課題】風圧に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させる制振構造物を提供する。
【解決手段】水平面G上に配置される第1層2、および第1層上に順に重ねて配置される第2層2から第n層までを含む複数の層2と、それぞれの層の下端に自身が支持する上層構造物6の重心を含む鉛直線A1に関して対称に配置され、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータ3と、を備える制振構造物1であって、少なくとも1つの一対のアイソレータおよび一対のアイソレータが支持する上層構造物において、一対のアイソレータに作用する力の延長線が上層構造物の重心を含む鉛直線と交わる位置である剛心9の高さと上層構造物の水平面を基準とした風圧中心8の高さとが一致し、風圧中心の高さと上層構造物の重心7の高さとが異なるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータを備える制振構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の制振手法としては種々のダンパが用いられ、鉛を用いた履歴ダンパ、オイルを利用した粘性ダンパなどが知られている。これらは局所的な変形の抑制には効果があるが、構造物全体の共振特性を大きく変えることはなく、補助装置として考えるべきである。このようなダンパが有効に働かない代表的な例として高層ビルがある。高層ビルの振動は長周期の曲げ振動が卓越するが、高層ビルの曲げ振動は高剛性である軸長方向(鉛直方向)の剛性に依存するうえに層間変位(構造物を構成する隣合う層の間の変位)も小さい。上記の粘性ダンパ、履歴ダンパなどは構造物の低剛性部分に挿入するか、層間変位が大きいか、振動周波数が高いかのいずれかの場合に効果的だが、高層ビルの場合にはこのいずれにも当てはまらないため、これらダンパを挿入しても効果が低い。従って、長周期地震の影響を受け易い高層の構造物は、振動減衰を大きく設計することが望まれている。
【0003】
近年、高層構造物の制振で注目されているのは、以下に示す構造的なダンパである。
例えば1つめの例として、特許文献1に示す動的制振装置は、建築物上部と下部を分断することによりマスダンパ効果で制振する手法であり、この手法は中間免震にも部類される。
この動的制振装置の原理は、中間免震とすることで構造物全体の固有周期を長くすることにより、通常着目する地震周期領域でのビルの振動が、節の無い1次モードではなく中間免震部付近を節とする2次モードで振動するように設計したものであり、振動の2次モードが1次モードより振幅が小さいことを利用して制振する手法である。
しかし、一般の複数周期の混入した振動で2次モードが卓越して表れなければ、上記動的制振装置は、単に固有周期を長周期側にシフトしたに過ぎず、逆に長周期地震の影響が顕著に表れる可能性がある。また、この動的制振装置は強風に対しても有効とされているが、強風による振動では卓越モードが顕著に表れるため、地震動で意図したような2次モードでは振動せず1次モードでの振動となり、逆に振幅を増大させる可能性がある。これらの理由は、2次モードが卓越する構造となっていないことによる。
【0004】
また、2つ目の例として、特許文献2では、固有周期の異なる構造物を連結した構築構造が提案されている。しかし、構造物を連結することにより1つの構造物となるため、異なる周期振動によるダンピング効果は期待できない。連結構造で得られるのは、連結したことによる曲げ剛性の向上、連結部での大きな運動による連結部のダンパの減衰性能の向上などであり、高層構造物で問題となる共振特性を大きく変えるものではない。
【0005】
これに対し、高層の構造物として、上方構造物が鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように、上方構造物の下方においてこの上方構造物の重心を含む鉛直面に対して対称に配置された一対又は複数対のアイソレータを備える制振構造物が提案されている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)。これらのアイソレータに作用する合力は、上方構造物の重心を向いている(以下、アイソレータのこの配置を「特異配置」と称し、アイソレータが特異配置された構造を「特異構造」と称する)。
前記特許文献3及び特許文献4に示す制振構造物では、地震振動、風振動の主体となる水平方向が剛となる構造を用いているため、従来の高層構造物より小振幅高周波振動となる。この水平方向の振動の実態は縦剪断振動である。そして、縦剪断振動から円弧振動への内部共振により高次モードが卓越した多節振動となるため、低剛性の円弧方向でのダンピングで構造物全体の減衰を得ている。
【0006】
しかし、特異構造では減衰性能向上に関して幾つかの課題を残していた。まず第1に、減衰応答の速応性、すなわち減衰応答の速さである。特許文献3及び特許文献4に示す制振構造物では、減衰を得るプロセスとして、縦剪断振動から円弧振動への内部共振を用いている。このため、振動初期には減衰が小さく、内部共振により円弧方向へのエネルギー遷移が十分になったときに減衰効果が顕著となるため、減衰応答が遅い。
第2に、減衰量自体の大きさの改善である。特異構造では、内部共振により円弧方向が高次モード振動となった場合の層間変位により減衰を得るが、内部共振で得たエネルギー量は構造物全体の振動を減衰させるエネルギーとしては不足である。従って、遷移した高次円弧振動の減衰は速いが、十分に円弧方向にエネルギー遷移していない縦剪断振動の減衰は大きくはないため、定常的には縦剪断振動だけが残ることが考えられる。
【0007】
そこで、上記多層構造物の制振性能を向上させるため、特許文献5に示された制振構造物が提案されている。この制振構造物では、各層におけるアイソレータは、上記の特異配置だけでなく、一対又は複数対のアイソレータに作用する合力が上方構造物の重心の上方、下方の所定の場所に向く配置(以下、アイソレータのこの配置を「上方配置」、「下方配置」と称する)が組み合わせて(以下、アイソレータの「上方配置等」と称し、アイソレータが上方配置等された構造を「摂動構造」と称する)用いられている。
摂動構造の制振構造物は、水平方向の振動である縦剪断振動の擾乱により、上下に隣り合う層が、高次円弧振動に類似した運動を互いに逆方向に行う振動モード(以下、このような層の振動モードを「摂動モード」と称する)となる。縦剪断振動の摂動モードは高次円弧振動モードに類似しているため、摂動モードで振動することにより瞬時に高次円弧振動を励振できる。そして、両振動モードの類似性から層間変位も大きくなるため高次円弧振動へのエネルギー遷移量も大きなものとなり、励振された高次円弧振動のエネルギーは構造物全体のエネルギーに匹敵する量となる。従って、特異構造の構造物のように、内部共振を用いずとも瞬時に構造物全体のエネルギーに匹敵する高次円弧振動を得ることができ、これに伴い高減衰を得ることが出来る。
【0008】
ただし、摂動構造では、上下に隣り合う層の逆回転させるために、アイソレータの上方配置という安定な振子構造の他に、アイソレータの下方配置という不安定な倒立振子構造を用いている。重力下において、下方配置されたアイソレータの円弧方向に一定の剛性があればその剛性により倒立振子構造の不安定性をカバーするよう設計できるが、この円弧方向の接続が滑りあるいは転がりなどの場合には、円弧方向剛性の設計自由度が小さいため不安定になり易い。特許文献6に示された制振構造物では、滑りあるいは転がり部分が上層斜面に沿って運動する接続構造が提案され、アイソレータが下方配置された層が回転により傾斜しても、傾斜と逆向きのトルクが発生するように回転中心が移動するため、アイソレータの各配置による減衰特性を損なうこと無く構造物を安定化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平06−60538号公報
【特許文献2】特公平04−26385号公報
【特許文献3】特開2007−231718号公報
【特許文献4】特開2009−257060号公報
【特許文献5】特開2010−31477号公報
【特許文献6】特願2009−137325号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、摂動構造の構造物は、風圧にも強いとされているが、上下に隣り合う層の逆回転運動を得るために、前述のように振子構造と倒立振子構造との積層構造を用いている。従って、風圧の一部は低剛性の円弧方向剛性で支持することになり、風圧が大きい場合には問題となる可能性がある。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、風圧に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させる制振構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の制振構造物は、水平面上に配置される第1層、および前記第1層上に順に重ねて配置される第2層から第n層までを含む複数の層と、それぞれの前記層の下端に自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように前記水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータと、を備える制振構造物であって、少なくとも1つの前記一対のアイソレータおよび前記一対のアイソレータが支持する前記上層構造物において、前記一対のアイソレータに作用する力の延長線が前記上層構造物の重心を含む前記鉛直線と交わる位置である剛心の高さと前記上層構造物の前記水平面を基準とした風圧中心の高さとが一致し、前記風圧中心の高さと前記上層構造物の重心の高さとが異なるように構成されていることを特徴としている。
【0013】
また、上記の制振構造物において、上下方向に隣り合う前記層は、互いに構造が異なることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、上下方向に隣り合う前記層は、互いに密度が異なることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、上下方向に隣り合う前記層のうち、密度が大きいほうの前記層の方が体積が大きく形成されていることがより好ましい。
【0014】
また、上記の制振構造物において、それぞれの前記層は、上方および下方に隣り合う前記層に対して、鉛直方向の長さがそれぞれ等しく設定されるとともに、鉛直方向に垂直な平面による断面積がそれぞれ異なることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、少なくとも一つの前記層には、前記層の側面に両端部の開口が形成された貫通孔が形成されていることがより好ましい。
また、上記の制振構造物において、前記第n層は、第(n−1)層よりも軽く構成されていることがより好ましい。
【0015】
また、上記の制振構造物において、前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θは(1)式の解として得られる値に設定され、風圧中心の高さCが(2)式により求められることがより好ましい。
【0016】
【数1】

【0017】
但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、L:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから風圧中心の高さCkまでの鉛直距離、w:第k層の下端に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、Fk:第k層に水平方向に加わる風荷重、Zk:風荷重Fkが作用する高さ。
【0018】
また、上記の制振構造物において、前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θは(4)式から(6)式を用いて求められる(3)式の解として得られる値に設定され、風圧中心の高さCが(7)式により求められることがより好ましい。
【0019】
【数2】

【0020】
但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、L:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから風圧中心の高さCkまでの鉛直距離、w:第k層の下端に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、K:第1重力補償項、K:第2重力補償項、M:第k層の質量、m:第k層から第n層までの層の質量、g:重力加速度、d:第k層から第n層までの重心高さから第k層の下端に配置された一対のアイソレータの円弧中心高さまでの鉛直距離、LOk:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから、この一対のアイソレータの円弧中心高さまでの鉛直距離、Fk:第k層に水平方向に加わる風荷重、Zk:風荷重Fkが作用する高さ。
【発明の効果】
【0021】
本発明の制振構造物によれば、風圧に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態の高層構造物を模式的に示す正面図である。
【図2】比較例として示す従来の特異構造の高層構造物を模式的に示す正面図であり、図2(a)は風応答を示し、図2(b)は地震応答を示す。
【図3】本発明の第1実施形態の風特異構造である高層構造物を模式的に示す正面図であり、図3(a)は風応答を示し、図3(b)は地震応答を示す。
【図4】比較例として示す地震特異構造である高層構造物を模式的に示す正面図であり、図4(a)は風応答を示し、図4(b)は地震応答を示す。
【図5】本発明の第1実施形態の高層構造物が風圧を受けた場合の変形プロセスを示す図であり、図5(a)は初期プロセスにおける高層構造物の状態を示し、図5(b)は層の変位が大きくなったときの高層構造物の状態を示す。
【図6】同高層構造物が地震による振動を受けた場合の変形プロセスを示す図であり、図6(a)は初期プロセスにおける高層構造物の状態を示し、図6(b)は層の変位が大きくなったときの高層構造物の状態を示す。
【図7】図7(a)は同高層構造物の風応答を示す正面図であり、図7(b)は同高層構造物の地震応答を示す正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の軽層ダンパ構造の高層構造物を模式的に示す正面図である。
【図9】図9(a)は同高層構造物の風応答を示す正面図であり、図9(b)は同高層構造物の地震応答を示す正面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の吹き抜け構造の高層構造物を模式的に示す正面図である。
【図11】図11(a)は同高層構造物の風応答を示す正面図であり、図11(b)は同高層構造物の地震応答を示す正面図である。
【図12】本発明の第4実施形態の大小構造の高層構造物を模式的に示す正面図である。
【図13】図13(a)は同高層構造物の風応答を示す正面図であり、図13(b)は同高層構造物の地震応答を示す正面図である。
【図14】本発明の第1実施形態の高層構造物における風特異構造の説明図である。
【図15】重力の影響を考慮しない場合における傾斜角度を補正する概念を示す図である。
【図16】同高層構造物の傾斜角度を算出する手順を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第1実施形態の高層構造物の上層構造物における円弧中心回りの重力振子の説明図である。
【図18】同高層構造物の上層構造物における円弧中心回りの重力振子と等価な円弧方向剛性を示した説明図である。
【図19】下端に一対のアイソレータが配置された層が重心移動した場合の各アイソレータに与える荷重を示す説明図である。
【図20】下端に複数対のアイソレータが配置された層が重心移動した場合の各アイソレータに与える荷重を示す説明図である。
【図21】同高層構造物の各層が水平方向に変位した状態を示した模式図である。
【図22】重力の影響を考慮する場合における傾斜角度を補正する概念を示す図である。
【図23】同高層構造物の各層にアイソレータが一対配置されている場合の傾斜角度を算出する主な手順を示すフローチャートである。
【図24】同高層構造物のK計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図25】同高層構造物のK計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図26】同高層構造物の各層にアイソレータが2対配置されている場合の傾斜角度を算出する主な手順を示すフローチャートである。
【図27】同高層構造物の計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図28】同高層構造物の計算関数のサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る制振構造物の第1実施形態を、図1から図13を参照しながら説明する。本実施形態では、制振構造物が高層構造物である場合を例にとって説明する。高層構造物の全体構成を説明する場合には、高層構造物が5つの層を有するとしている。なお、それぞれの層は、1つの階により構成されていると考えてもよいし、複数の階を重ねて配置したブロックと解釈してもよい。
図1に示すように、本実施形態の高層構造物1は、水平面G上に配置される第1層2、および第1層2上に順に重ねて配置される第2層2から第5層2までを含む複数の層2と、それぞれの層2の下端に配置された一対のアイソレータ3と、を備えている。
図1には、高層構造物1が、第1層2から第5層2までの5つの層2を有している場合を示しているが、高層構造物1は一般的に、第1層2から第n層2までのn個の層を有していて、5つの層2には限定されない。
なお、それぞれの層を区別して示す時には、第1層2、第2層2、‥、第5層2と添え字を付けて記載し、それぞれの層を区別せずにまとめて示す時には、層2と添え字を付けずに記載する。後述する第kアイソレータ3、上層構造物6、重心7等についても同様に記載する。
【0024】
本実施形態の高層構造物1は、上下方向(鉛直方向X1)に隣り合う層2同士は、互いに密度が異なるように層2を積層したものである。本発明ではこれを重軽構造と称する。
本実施形態では、それぞれの層2は、同一の直方体状に形成されている。層2の高さは、hとなっている。
それぞれの層2は、鉛直方向X1に見たときに重なるように配置されている。
それぞれの層2のうち、第1層2から数えて奇数番目の層2である第1層2、第3層2および第5層2が、密度が小さいことで軽くなっていて、第1層2から数えて偶数番目の層2である第2層2および第4層2が、密度が大きいことで重くなっている。本実施形態では、偶数番目の層2の密度と奇数番目の層2の密度との比が、2:1となっている。
なお、説明を分かりやすくするために「密度」で定義しているが、層2は構造物の一部である以上、内部が完全に詰まっていなく、層2の内部に空洞部分が形成されていてもよい。
さらに、本実施形態では、鉛直方向X1において最も上方の層2である第n層2は、この第n層2より1つ下方の層2である第(n−1)層n−1よりも軽く構成されている。すなわち、上方から、軽い層2、重い層2、軽い層2、‥、の順で重さの異なる層2が交互に配置されている。
【0025】
第k層2の下端には、一対の第kアイソレータ3が配置されている。なお、添え字のkは、1からnまでの自然数の値をとる変数である。
一対の第kアイソレータ3は、自身が支持する上層構造物6の重心7を含む鉛直線A1に関して対称に配置されるとともに、上層構造物6が鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように水平面Gに対して斜め方向に運動するように構成されている。第kアイソレータ3の水平面Gに対する傾斜角度θについては、後で詳細に説明する。
ここで言う上層構造物6とは、一対の第kアイソレータ3が直接的に支持する第k層2から、一対の第kアイソレータ3が間接的に支持する第(k+1)層2k+1から第n層2までの層2のことを意味する。例えば、図1に示すように、高層構造物1全体の層2の数であるnが5である場合には、一対の第3アイソレータ3の上層構造物6は、第3層2、第4層2および第5層2のことを意味する。
【0026】
ここで、前述した背景技術で生じていた問題点を解決した、本発明の高層構造物1の設計における基本概念について説明する。
特許文献3〜5に示す従来の多層構造物では、特異構造をその基本としていた。しかし、この特異構造は風、地震に共通のものであり、風に対して剛性が高くなる(剛な)アイソレータの特異配置は、地震に対しても基本的に剛性が高くなる。一方、地震に対して剛性が低い(柔な)摂動構造は、風に対しても剛性が低い。これは、特異構造、摂動構造以外の一般的なRC構造、SRC構造、免震構造などについても言えることである。本来、多層構造物としては、風には剛性が高く、地震には剛性が低いことが望ましいと考えられる。
このように、風および地震に対して多層構造物の応答が一致してしまうのを改善し、風には剛性が高くなる特異構造として、地震には剛性が低くなるように摂動構造を用いることとしている。これを実現するため、多層構造物の層特性を均一とせず、上下方向に隣り合う層同士は互いに構造が異なることとした。
なお、ここで言う「構造が異なる」とは、層の鉛直線に垂直な平面による断面積、後述する見付面積、および密度等の少なくとも一つが異なることを意味する。
【0027】
本発明で目的とするのは、多層構造物を風に対しては耐風構造、地震に対しては減衰の大きい摂動構造とすることである。風に対しては摂動構造より特異構造の方が優れている。これは、特異構造は風圧を全て円弧垂直方向の高剛性で受け止めるのに対して、摂動構造では風圧の一部を円弧方向の低剛性な部分で受け止めるためである。一方、地震に対しては、特異構造より摂動構造の方が優れている、これは、前述したように、特異構造では減衰が小さいのに対して、摂動構造では減衰が大きいためである。このような一種のトレードオフが存在するのは、風および地震に対して共通の特異構造を用いていることが原因である。それぞれに別の特異構造が存在すれば、独立して設計可能となる。
【0028】
風の特異点と地震の特異点とを分離するためには、風、地震で着目する事象を分離する必要がある。風で着目するのは風圧中心である。一方、地震で着目するのは重心である。そして、本発明における、上層構造物6を鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように運動させる、いわゆる凹型アイソレータ3を用いた高層構造物1の剛性を高めるために着目するのが、アイソレータ3の合力作用点である剛心(アイソレータ3に作用する力の延長線が上層構造物6の重心を含む鉛直線と交わる位置)である。なお、前述の特許文献4に示されているように、円弧中心(一対のアイソレータ3が円弧軌道を描くようにそれぞれ配置された円弧の中心)と剛心とは一般には一致しない。一致するのは、無重力かつアイソレータ3の円弧方向剛性がゼロの場合のみである。
【0029】
前述の特許文献3および4に示した特異構造では、風圧中心と重心とが一致する構造物に対して、設計パラメータである剛心を一致させたものである。すなわち、この多層構造物では、風圧中心、重心および剛心が全て一致している。一方、前述の特許文献5および6に示した摂動構造では、風圧中心と重心とが一致する構造物に対して、設計パラメータである剛心を重心から僅かにずらすことにより上層構造物の回転を得ている。
このように、いずれも風圧中心と重心とが一致した構造物を対象としているため、風と地震のトレードオフが存在していると考えられる。
【0030】
以上より、風、地震の両者に優れた構造にするためには、風圧中心と重心とを分離する(位置をずらす)のが有効な手段であることが解る。ここで、風に対して剛性が高い構造を「風特異構造」、地震に対して剛性が高い構造を「地震特異構造」と呼ぶことにする。さらに、風特異構造および地震特異構造を合わせて「分離構造」と呼ぶ。風特異構造では、風に対して剛性を高くするために、風圧中心と剛心とを一致させている。また、地震特異構造では、地震に対して剛性を高くするために、重心と剛心とを一致させている。
【0031】
図2〜4に特異構造の種類による風応答(風に対する応答)および地震応答(地震に対する応答)を、ある一対のアイソレータ3に対する上層構造物6の応答のみの場合で示した。
図2(a)、図2(b)は、比較例として示す従来の特異構造での風応答、地震応答である。この高層構造物Y1では、上層構造物6の風圧中心8、重心7および剛心9が一致していて、上層構造物6は、風による風荷重Fに対して小変位かつ無回転で、地震による振動Dに対しても小振幅振動かつ無回転である。
図3(a)、図3(b)は、本実施形態の高層構造物1に用いられる風特異構造における風応答、地震応答である。この高層構造物1では、風圧中心8と剛心9とが一致していて、重心7は風圧中心8から分離している。高層構造物1は、風に対しては小変位かつ無回転で、地震に対しては回転する。
図4(a)、図4(b)は、比較例として示す地震特異構造での風応答、地震応答である。この高層構造物Y2では、重心7と剛心9とが一致していて、重心7は風圧中心8から分離している。高層構造物Y2は、風に対しては回転し、地震に対しては小振幅振動かつ無回転である。
以上より、風特異構造を用いて重心7と風圧中心8とを分離することにより、風に強く、地震には回転が生じて層間変位が大きくなり大きな減衰を得ることができることが解る。
【0032】
ここで、風圧中心8についてより詳しく説明する。
図1に示すように、高層構造物1に縦剪断振動を与える風は水平方向X2に吹く風であり、以下では水平方向X2の一方である向きX21に風が吹くとする。
風圧中心8は、風荷重の荷重点に相当する。
第k層2に水平方向X2に加わる風荷重Fkは、風圧に見付面積を乗じた値となる。風荷重Fkが作用する位置の水平面Gからの高さである風荷重高さをZkとすると、上層構造物6の風圧中心8kの位置の水平面Gからの高さである高さCは、(8)式により求めることができる。
【0033】
【数3】

【0034】
また、(8)式の風荷重Fkは、第1層2から第n層2まで風力Fkが一定となっていなくてもよい。これにより、高層構造物1の高さが高い地点ほど風圧を大きく仮定するという設計基準にも対応可能となる。
【0035】
ここで、本実施形態の高層構造物1における重心7、風圧中心8および剛心9について、具体的に説明する。
図1に、風特異構造として設計した本実施形態の高層構造物1の重心7、風圧中心8および剛心9を示す。上層構造物6の重心7は、それぞれの第k層2の中心軸線に一致する鉛直線A1上に位置している。ただし、鉛直線A1上には、重心7だけでなく剛心9が位置するため、説明の便宜上、重心7および剛心9の位置を水平方向X2にずらし、風圧中心8kとともにまとめて示している。
本実施形態では、それぞれの層2は、互いに同一の形状に形成され、第2層2および第4層2が第1層2、第3層2および第5層2より2倍重くなっている。
【0036】
重心7について具体的に説明すると、上層構造物6の重心7は第5層2の重心と一致し、重心7は第5層2の下端から(h/2)の高さに位置している。
第4層2および第5層2の高さはともにhだが、第4層2の方が第5層2より重いので、上層構造物6の重心7は第5層2の下端より下方に位置している。同様に、重心7は第4層2の下端から(h/2)の高さに、重心7は第3層2の下端から(h/2)の高さにそれぞれ位置し、重心7は第4層2の下端より下方に位置している。
【0037】
次に、風圧中心8について具体的に説明する。水平面Gからの高さによらず風圧が一定の場合、それぞれの層2が風圧を受ける見付面積は互いに等しいので、風荷重F、‥、Fは互いに等しくなる。そして、風荷重Fkが作用する位置の風荷重高さをZkは、第k層2における向きX21に対向する面の中央の高さとなり、Zが(1/2)h、Zが(3/2)h、‥等となる。
風圧中心8kの高さCは、(1)式より高さCが(5/2)h、高さCが3h、‥等となる。
このように、重心7、7、7は、風圧中心8、8、8にそれぞれ一致するが、重心7、7は、風圧中心8、8よりそれぞれ鉛直方向X1の下方になり、振子構造となる。
【0038】
続いて、風特異構造の種類による上下方向に重なる層2の影響について説明する。
図5(a)および図5(b)に、高層構造物1が風圧を受けた場合の変形プロセスを示す。高層構造物1は風特異構造で設計されているため、風圧を受けると、円弧方向には回転せず、図5(a)に示すように水平方向に平行移動する。それぞれの層2の変位は、剛性が高い円弧垂直方向剛性に依存しているので微小である。ただし、層2により密度が異なるので、層2における水平方向X2の変位量は、奇数番目の層2と偶数番目の層2で異なる。この結果、図5(a)に示したように、風荷重を受けた時の全ての層2の平均的な主軸A2は、静止時の主軸である鉛直線A1に対して移動して、この移動した主軸A2に対して各層2は水平方向X2に交互変位する。
層2の変位が大きくなると、アイソレータ3の円弧方向の変位が大きくなり、層2は回転運動を伴うようになる。ただし、高層構造物1は風特異構造なので、風荷重Fは高層構造物1全体にトルクは与えない。従って、図5(b)に示すように、それぞれの層2は内力的作用によって回転するため、上下方向に隣り合う層2において層2は互いに逆方向に回転する。以上より、図5(b)に示す状態が、風特異構造の基本モードである。
【0039】
図6(a)および図6(b)に、高層構造物1が地震による振動を受けた場合の変形プロセスを示す。高層構造物1は地震特異構造とはなっていないため、地震による振動Dに対しては、図6(a)に示す初期プロセスにおいても層2の回転が起こる。奇数番目の層2は、風圧中心8と剛心9とが一致した風特異構造であるとともに、重心7と剛心9とが一致した地震特異構造でもあるので、微小変位のみである。一方で、偶数番目の層2は風特異構造ではあるが、地震に対しては振子構造となっている。そして、時間の経過とともに、図6(b)に示すように、前述と同様な内力作用により奇数番目の層2にも回転が誘発され、その結果、上下方向に隣り合う層2において層2が互いに逆方向に回転する各層逆回転運動が起こる。この場合の基本モードは、図5(b)に示す風圧を受けた場合の基本モードと同じである。
以上より、従来の摂動構造とは逆回転原理が若干異なることが解る。すなわち、摂動構造では振子構造、倒立振子構造を交互に積層して、初期プロセスから層2の回転が起動していた。これに対して、分離構造では初期プロセスの主力は差分変位であり、差分変位の増大に伴って円弧軌道に従う内力回転が誘導され、これにより上下方向に隣り合う層2に逆回転が生じる。
【0040】
この重軽構造は、分離構造の中で最も典型となる構造である。風特異構造では剛心9が風圧中心8と一致するよう設計するという点では、従来の特異配置と同じである。
なお、分離構造には、本実施形態の重軽構造以外にも、後述する軽層ダンパ構造、吹き抜け構造および大小構造が含まれる。
【0041】
本実施形態の高層構造物1においては、ダンパ等の能動的な減衰要因は備えられていない。しかし、アイソレータ3が例えば滑り方式あるいは転がり方式による場合には円弧軌道の方向(以下、「円弧方向」と称する)の摩擦が受動的な減衰要因となり、アイソレータ3が積層ゴム方式の場合には積層ゴムの円弧方向の運動における履歴特性による減衰(履歴減衰、あるいはヒステリシスによる減衰)が受動的な減衰要因となる。このように、新たに能動的な減衰要因を設けなくても既に高層構造物1のアイソレータ3に受動的な減衰要因が存在していると考えることができる。
【0042】
以上のように構成された本実施形態の風特異構造であって重軽構造で設計された高層構造物1の風および地震に対する応答を図7に示す。
図7(a)に示すように、高層構造物1は風特異構造で設計されているため、風応答は、従来の特異構造と同様に微小水平変位のみである。ただし、比較的軽い奇数番目の層2は比較的重い偶数番目の層2の約2倍の変位となり、これにより層間変位が得られるため減衰も得やすい。
一方で、図7(b)に示すように、第1層2〜第5層2、第3層2〜第5層2、および第5層2は、重心7と剛心9とを一致させた地震特異構造となっているので微小変位のみだが、第2層2〜第4層2、第4層2は振子構造なので回転を伴う。
なお、図7(a)および図7(b)から解るように、風応答、地震応答のいずれにおいても、重い層2が軽い層2より小変位であり、外乱に対して鈍感である。これより、重い層2の方が良好な応答をすると考えられる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の高層構造物1によれば、一対のアイソレータ3により、上層構造物6が鉛直下向きに凸の円弧軌道を描いて移動するように規制されている。さらに、上層構造物6において水平面Gからの剛心9の高さと風圧中心8の高さとを一致させるとともに、風圧中心8の高さより重心7の高さの方が下方に配置された風特異構造となっている。このため、高層構造物1に対して風圧が作用したときでも、上述したように上層構造物6が水平方向X2にわずかに変位するだけであり、上層構造物6が回転して不安定になるのを防止することができる。
また、地震に対しては、上述したように、上層構造物6が回転して上下に隣り合う第4層2と第5層2とが互いに逆方向に回転するため、振動を減衰しやすくすることができる。
【0044】
上下に隣り合う第4層2と第5層2とは互いに構造が異なるため、上層構造物6において、風圧中心8の高さと重心7の高さとが異なるように構成し、上層構造物6を風特異構造に設計することができる。
それぞれの層2は、互いに同一の形状に形成されるとともに、上下方向に隣り合う第4層2と第5層2とは、互いに密度が異なる。このため、それぞれの層2の外形を等しくしながらも、風圧中心8の高さと重心7の高さとを容易に異ならせることができる。
また、最上層である第5層2は第4層2よりも軽く構成されているため、これら2つの層2が振子構造となり、高層構造物1の最上部を構成する2つの層2を安定させることができる。
【0045】
なお、本実施形態では、上方から、軽い層2、重い層2、軽い層2、‥、の順で重さの異なる層2が交互に配置されていた。しかし、上方から、重い層2、軽い層2、重い層2、‥、の順で層2を交互に配置してもよい。ただし、この場合、第2層2〜第5層2、第4層2〜第5層2は倒立振子構造になり、前述の特許文献6に記載したアイソレータの上方配置など特別な接続形態を用いない限り、重力下では一般には不安定となるので注意が必要である。
また、本実施形態では、それぞれの層2は、鉛直方向X1に見たときに重なるように配置されているとし、それぞれの層2の鉛直方向X1に見たときの形状が矩形であるとした。しかし、鉛直方向X1に見たときにそれぞれの層2の形状が同一であればその形状は矩形に限定されることなく、円形や、三角形などでもよい。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の高層構造物は、上記第1実施形態以外にも、以下の実施形態に説明するように様々な構成とすることができる。
次に、本発明の第2実施形態について図8および図9を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前記第1実施形態の高層構造物1について説明したように、比較的重い層2の方が良好な応答をすることが解る。この場合、軽い層2は、高層構造物1全体の中では質量ダンパという位置付けとする構造も考えられる。本発明では、前述の重軽構造のうち、重い層2の形状を軽い層2の形状より大きく確保した構造を、軽層ダンパ構造と称し、本実施形態では、軽層ダンパ構造の高層構造物について説明する。
【0047】
図8に示すように、本実施形態の高層構造物21は、前記第1実施形態の高層構造物1における第1層2から第n層2に代えて、第1層22から第n層22までの層22を備えている。なお、図8および図9には、説明の便宜のため高層構造物21全体の層22の数が5である場合を示している。
本実施形態では、奇数番目の層22である第1層22、第3層22および第5層22は、互いに同一の形状である直方体状に形成されている。偶数番目の層22である第22層2および第4層22は、互いに同一の形状である直方体状に形成されている。さらに、鉛直方向X1に見たときに奇数番目の層22と偶数番目の層22とが同一の形状になるとともに、偶数番目の層22の高さと奇数番目の層22の高さとの比が、3:1となるように構成されている。奇数番目の層22が1つの階により構成され、かつ、偶数番目の層22が3つの階により構成されているとしてもよいし、奇数番目の層22が複数の階により構成された1つのブロックであり、かつ、偶数番目の層22がこのブロックを3つ重ねて構成されているとしてもよい。このように、本実施形態では、偶数番目の層22が奇数番目の層22より体積が大きく形成されている。
偶数番目の層22の密度と奇数番目の層22の密度との比は、2:1となっている。
この結果、偶数番目の層22の質量と奇数番目の層22の質量との比は、6:1となっている。
【0048】
本実施形態の高層構造物21の風および地震に対する応答は図9に示す通りであり、前記第1実施形態の高層構造物1の応答と同様である。
【0049】
このように構成された本実施形態の高層構造物21によれば、風圧に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させることができる。
さらに、偶数番目の層22をより大きく構成することで、それぞれの層22が揺れる場合であっても振動振幅が小さくなる偶数番目の層22の居住空間を広く確保することができる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図10および図11を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前記第2実施形態の軽層ダンパ構造の高層構造物21で説明したように、奇数番目の層22に居住空間を確保しないのであれば、奇数番目の軽い層を、たとえば層の壁面の一部を用いないことにより、層が受ける風圧を軽減させた吹き抜け構造としてもよい。
前述の重軽構造および軽層ダンパ構造が基本的に風圧中心8ではなく重心7を設計パラメータとしているのに対し、吹き抜け構造では風圧中心8を設計パラメータとしている点で大きく異なる。
【0051】
図10に示すように、本実施形態の吹き抜け構造の高層構造物31は、前記第1実施形態の高層構造物1における第1層2から第n層2に代えて、第1層32から第n層32までの層32を備えている。なお、図10および図11には、高層構造物31全体の層32の数が5である場合を示している。
本実施形態では、第1層32、第3層32、‥等の奇数番目の層32は、同一の直方体状に形成されている。
第2層32、第4層32、‥等の偶数番目の層32は、奇数番目の層32より高さの低い直方体状に形成されている。第2層32には、第2層32の側面に両端部の開口が形成された貫通孔33が形成されている。第4層32にも第2層32と同様に、貫通孔33が形成されている。
貫通孔33は、例えば、層32を、壁を用いることなく、梁と柱のみで構成することにより形成することができる。
偶数番目の層32では、貫通孔33を通して風が吹き抜けることで、層32が受ける風圧を軽減させている。
【0052】
本実施形態では、奇数番目の層32の高さと偶数番目の層32の高さとの比が、3:1となるように構成している。偶数番目の層32が1つの階により構成され、かつ、奇数番目の層32が3つの階により構成されているとしてもよいし、偶数番目の層32が複数の階により構成された1つのブロックであり、かつ、奇数番目の層32がこのブロックを3つ重ねて構成されているとしてもよい。
このように、奇数番目の層32に比べて偶数番目の層32は、風の影響を受けにくいうえに軽く構成されている。
【0053】
本実施形態の高層構造物31では、上方から重い層32、軽い層32、重い層32、‥、の順で重さの異なる層32が交互に配置されている。
ここで、高層構造物31を、上方から軽い層32、重い層32、軽い層32、‥、の順で交互に配置すると、軽い層32の貫通孔33という吹き抜け部分では風圧を受けないため風圧中心8は重心7より下方になり、第2層32〜第5層32、第4層32〜第5層32は倒立振子構造になる。従って、前述の特許文献6に記載したアイソレータの上方配置など特別な接続形態を用いない限り、重力下では一般には不安定となるので注意が必要である。よって、一般には、層32の総数が偶数であるか奇数であるかに関わらず、最上層である第n層32が重い層32で、第(n−1)層32n―1が軽い層32となる構造の方が好適である。
風が吹き抜ける偶数番目の層32では、層32が受ける風圧がゼロとなる(もしくは非常に小さい)ことを考慮すると、風圧中心8と風圧中心8、風圧中心8と風圧中心8は、それぞれが(ほぼ)一致する。さらに、剛心9と剛心9、剛心9と剛心9は、それぞれが(ほぼ)一致する。
【0054】
本実施形態の高層構造物31の風および地震に対する応答を、図11に示す。
図11(a)に示すように、高層構造物31の風応答は、軽い層32(吹き抜け層)では風圧ゼロとなる(もしくは非常に小さい)ため、吹き抜け層である第2層32および第4層32は変位ゼロ(もしくは非常に小さい)で、重い層32である第1層32、第3層32および第5層32のみ微小変位する。従って、前述した重軽構造、軽層ダンパ構造、および後述の大小構造と比べて層間変位は一番大きい。
また、図11(b)に示すように、地震応答では、重い層32である第1層32、第3層32および第5層32は微小変位し、軽い層32(吹き抜け層)である第2層32および第4層32は微小回転する。地震応答でも風応答と基本モードは同一のため、やはり吹き抜け構造の層間変位は分離構造の中で一番大きい。
【0055】
このように構成された本実施形態の吹き抜け構造の高層構造物31によれば、風力に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させることができる。
また、軽層ダンパ構造と比較して居住区である重い層32の変位が大きいため、この観点からは劣ると考えられるが、その反面、他の分離構造より大きな層間変位が得られるため優れている。
【0056】
なお、本実施形態の吹き抜け構造の高層構造物31では、各層32の高さあるいは質量がそれぞれ等しく設定されていても、いずれかの層32に貫通孔が形成されていればよい。このように構成することで、貫通孔が形成されている層32において風圧を軽減させ、風圧中心8の高さと重心7の高さとを異ならせることができるからである。
【0057】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図12および図13を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
前述の重軽構造、軽層ダンパ構造では重心7を設計パラメータとし、吹き抜け構造では風圧中心8を設計パラメータとしたが、本実施形態の高層構造物が用いる大小構造は、重心7および風圧中心8の両者を同時に設計パラメータとしている。大小構造では、各層の密度は等しく設定している。さらに、鉛直方向X1に見たときの層の大きさを、例えば、第1層より第2層を大きくし、第2層より第3層を小さくし、第3層より第4層を大きくし、‥、と大小関係が交互となるように繰り返して設定する。
【0058】
大小構造に基づいて設計した本実施形態の高層構造物を図12に示す。
本実施形態の高層構造物41は、前記第1実施形態の高層構造物1における第1層2から第n層2に代えて、第1層42から第n層42までの層42を備えている。なお、図12および図13には、説明の便宜のため高層構造物41全体の層42の数が5である場合を示している。
それぞれの層42は同一の密度に形成されているとともに、四角柱状に形成されて互いの鉛直方向X1の長さ(高さ)が互いに等しく設定されている。
奇数番目の層42である第1層42、第3層42、‥、は鉛直方向X1に垂直な断面形状がそれぞれ同一の矩形に形成されている。偶数番目の層42である第2層42および第4層42は鉛直方向X1に垂直な断面形状がそれぞれ同一の矩形に形成されている。さらに、偶数番目の層42の断面形状の矩形と奇数番目の層42の断面形状の矩形とは相似形状で、その相似比は、2:1となっている。
鉛直方向X1に垂直な平面による断面積を奇数番目の層42より偶数番目の層42の方を大きく設定することで、奇数番目の層42より偶数番目の層42が体積が大きく(重く)なっている。
【0059】
層42が受ける風荷重は層42の表面積に依存するので、偶数番目の層42と奇数番目の層42との風荷重比は2:1となるが、層42において質量は体積に依存するので、偶数番目の層42と奇数番目の層42との質量比は4:1となる。
従って、このように構成することにより、風圧中心8の高さと重心7の高さ、および、風圧中心8の高さと重心7の高さにそれぞれ差ができる。
ただし、鉛直上方から、重い層42、軽い層42、重い層42、‥、の順に配置すると風圧中心8は重心7より下方になり、第2層42〜第5層42、第4層42〜第5層42は倒立振子構造になる。従って、前述の特許文献6に記載したアイソレータの上方配置など特別な接続形態を用いない限り、重力下では一般には不安定となるので注意が必要である。よって、一般には、層42の総数が偶数であるか奇数であるかに関わらず、最上層である第n層42が軽い層42で、第(n−1)層42n―1が重い層42となる構造の方が好適である。
図12を見て解るように、本実施形態の大小構造の高層構造物41は、五重塔などの日本古来の多重塔に非常に類似した構造になっている。
【0060】
本実施形態の高層構造物41の風および地震に対する応答を、図13に示す。
軽い層42は重い層42と比べて見付面積は1/2になるが質量も1/4となり、重い層42と比較して単位質量あたりの風圧が大きくなるため、図13(a)に示すように、軽い層42は重い層42の約2倍の変位となる。
また、地震応答では、軽い層42は、軽い層42より上層構造(この軽い層42を含み第n層42までの上層構造物)の剛心9と重心7が一致するので微小変位のみである。一方で、重い層42は、重い層42より上層構造の剛心9が重心7より上となる振子構造なので、軽い層42より小さな微小変位と別途微小回転する。
軽い層42は重い層42の約2倍の変位となり、これより層間変位が得られるため減衰も得やすい。以上より、大小構造では、重軽構造と同様に、風応答、地震応答ともに重い層42の方が優れた構造となっている。
【0061】
なお、前述のように重い層42の方が優れているので、軽い層42の高さを小さくして、軽い層42である第1層42、第3層42、‥、は補完層としてもよい。この場合、軽い層42の高さを低くすると、軽い層42の表面積、質量ともに同じ比率で小さくなるため、風圧中心8と重心7との相対関係は不変である。
【0062】
このように構成された本実施形態の高層構造物41によれば、風力に対して安定するとともに、地震による振動を効果的に減衰させることができる。
本実施形態では、奇数番目の層42および偶数番目の層42が、互いに高さが等しい四角柱状に形成されているとともに、鉛直方向X1に垂直な断面形状が互いに異なるとした。しかし、奇数番目の層42および偶数番目の層42は、互いに高さが等しく、かつ、鉛直方向に垂直な平面による断面積が異なっていれば、前述の断面形状は円形でも多角形でもよい。
また、本実施形態では、重い層42の高さが軽い層42の高さより高くなるように構成してもよい。
【0063】
以上、本発明の第1実施形態から第4実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第1実施形態から第4実施形態では、高層構造物中の1つの上層構造物6に対して、剛心9の高さと風圧中心8の高さとが一致するとともに、剛心9の高さと重心7の高さとが異なるように構成されていれば、すなわち、風特異構造に設計されていればよい。
【0064】
また、前記第1実施形態から第4実施形態では、制振構造物が高層構造物である場合について説明したが、制振構造物はこれに限ることなく、例えば、上方に向かうほど径が細くなる塔状の構造物としてもよいし、荷物を支持する荷台としてもよい。
また、それぞれの層の下端に、アイソレータ3とともに、上層構造物6の円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収するように配置されたダンパが備えられていてもよい。
【0065】
続いて、本発明の各実施形態の高層構造物を設計するより具体的な手法について説明する。
以下の設計方手法は、前述の高層構造物1、21、31、41のいずれに対しても用いることができるが、以下では重軽構造である高層構造物1を例にとって説明する。
【0066】
分離構造の設計には、主に2つの段階がある。第1段階は、第1実施形態から第4実施形態で示したように、2種類の層を交互に積層した構造を考案して、風圧中心8と重心7との差を設計する(風圧中心8と重心7とを分離する)ことである。第2段階は、風特異構造を設計すること、すなわち風圧中心8と剛心9とを一致させるようにアイソレータ3の後述する傾斜角度θを設計することである。本発明では、水平面Gに対して斜め方向に運動するアイソレータ3を層間構造に用いるため、アイソレータ3に作用する力の延長線が風圧中心8を通るよう設計することになる。
【0067】
本発明では、まず、無重力あるいは重力の影響が少ない場合におけるアイソレータ3の傾斜角度θの設計方法を示し、続いて、重力の影響がある場合における傾斜角度θの設計方法を示す。無重力の場合とは、例えば宇宙空間に建設された構造物を意味するものであり、重力の影響が少ない場合とは、引力の少ない惑星や、後述する重力の影響を考慮した計算結果から解るように、比較的高さの低い構造物を意味する。
【0068】
図14に、高層構造物1における風特異構造の概観を示す。
無重力かつアイソレータ3の円弧方向剛性がゼロの場合には、円弧中心10kと風圧中心8とは一致するが、重力下あるいはアイソレータ3の円弧方向剛性がゼロでない場合には、円弧中心10kは風圧中心8より上方に位置する。
【0069】
風特異構造の設計は、アイソレータ3に作用する力の延長線が、鉛直線A1上の風圧中心8の高さを通るように設計することにある。
図15に、第kアイソレータ3の水平面Gに対する傾斜角度θを補正する概念を示す。これは、前述の特許文献4の特異構造と比較して、重心が風圧中心に入れ替わったことのみ異なる。風特異構造の振動においても、その理想的な仮想変位は水平振動であり、水平方向X2の仮想の変位をδとした場合、アイソレータ3の円弧垂直方向剛性をK、円弧方向剛性をKとすると、図15(a)に示すように、円弧方向の変位成分はδcosθ、円弧垂直方向の変位成分はδsinθとなる。また、図15(b)に示すように、第kアイソレータ3が及ぼす力は、円弧方向の成分がKδcosθ、円弧垂直方向の成分がKδsinθとなる。
鉛直線A1に平行な直線に対して第kアイソレータ3から上層構造物6の風圧中心8kに向かう角度をαとする。傾斜角度θが、補正角度βだけ合力の方向が補正されて角度αとなる。
【0070】
ここで、一例として、高層構造物1のように、各層2のアイソレータ3が鉛直線A1に関して一対対称に装着されている場合についてのアイソレータ3の傾斜角度θを設計する手順を示す。
一対の第kアイソレータ3k間の水平距離をw、一対の第kアイソレータ3kから風圧中心8の高さCkまでの鉛直距離をLとすると、第kアイソレータ3の傾斜角度θは(10)式のようになる。
【0071】
【数4】

【0072】
こうして、(9)式及び(10)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
【0073】
【数5】

【0074】
もちろん、第kアイソレータ3kが2対以上配置された場合、第kアイソレータ3kの位置が鉛直線A1に関して対称でない場合、第kアイソレータ3kの個数が鉛直線A1の両側で均等でない場合などにも同様に算出可能である。
【0075】
ここで、重力の影響を考慮しない場合の傾斜角度θを算出する手順について説明する。
図16は、第kアイソレータ3の傾斜角度θを算出する手順を示すフローチャートである。この算出例では、イタレーション法により計算を行っている。
前述の特許文献4に示されるように、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために傾斜角度θは90°から減少させて計算する。
【0076】
まず、ステップS1において、変数kに高層構造物1全体の層2の数nの値を代入する。そして、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS2に移行する。なお、これ以降の工程でステップS1を行う時は、変数kに代入された値から1を減じた上で変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断することとなる。また、この条件が偽である場合(False)は、全ての処理を終了する。
次に、ステップS2において、(4)式により角度αを求めステップS3に移行する。
【0077】
次に、ステップS3において傾斜角度θに90(角度90°のこと)を代入する。そして、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS4に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。なお、ステップS2からステップS3に移行してきた時のみ傾斜角度θに90を代入し、ステップS2以外の工程からステップS3に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
変化量Δθは、計算を行う者が、計算精度や計算時間等を考慮して、0.1°や0.01°等と適宜設定するものである。
【0078】
次に、ステップS4において、傾斜角度θに対して次式により得られる誤差eを求め、ステップS5に移行する。
【0079】
【数6】

【0080】
次に、ステップS5において、傾斜角度θに代入された値が90より小さいという条件の真偽を判断する。そして、この条件が真である場合(True)は、ステップS6に移行する。
次に、ステップS6において、2ステップ前のステップS4で求めた誤差eの値が、それ以前のステップS4で求めた誤差eの値から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、以前求めた誤差eの値が正の数であり、かつ2ステップ前に求めた誤差eの値が負の数である場合、又は以前求めた誤差eの値が負の数であり、かつ2ステップ前に求めた誤差eの値が正の数である場合に、誤差eの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS7に移行する。なお、2ステップ前のステップS4が初めて行われたステップS4である場合、ステップS6の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS5における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS3に移行する。
【0081】
次に、ステップS7において、このイタレーションで設定した傾斜角度θを第k層2の第kアイソレータ3の傾斜角度としてステップS1に移行する。
【0082】
こうして第n層2から第1層2までの各層2の第kアイソレータ3の傾斜角度θを求めた後、ステップS1に移行し、変数kに代入された値から1を減ずると変数kに代入された値は0となる。この時、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断すると偽(False)となり、全ての処理を終了する。
【0083】
次に、(6)式による傾斜角度θの解をシミュレーションで算出した一例を示す。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に一対配置されているとし、重い層2の質量と軽い層2の質量との比を2:1とした。そして、アイソレータ3における(K/K)の値を1/1000とし、周囲の環境を、無重力、もしくは重力による影響が小さいとした。なお、層2の質量の比は地震特異構造には関係するが、風特異構造には関係ない。従って、参考までに示したに過ぎない。
シミュレーションの結果を表1に示す。
このように、重力の影響を考慮しないで傾斜角度θを求めることで、簡単に傾斜角度θを算出することができる。
【0084】
【表1】

【0085】
なお、各層2の下端に配置されたアイソレータ3が2対以上の場合には、図16に示すフローチャートを、対になるアイソレータ3間のそれぞれの水平距離について独立に計算すればよい。
アイソレータ3が2対以上の場合、一般には、それぞれの対の円弧中心10は一致しない。2対以上のアイソレータ3の円弧中心10を一致させる一手法としては、以下のような手法が挙げられる。
まず、一番外側のアイソレータ3の傾斜角度θを(11)式により求める。
次に、内側のアイソレータ3の対は、一番外側以外のアイソレータ3の円弧中心10と一致するよう傾斜角度θを決め、そのアイソレータ3の円弧方向剛性をKを(10)式を満たすように調整する。
【0086】
次に、重力の影響を考慮する場合であって、かつ、アイソレータ3の円弧方向剛性がゼロでない場合について説明する。
これまでは、分離構造の高層構造物が無重力下で用いられる場合について説明した。分離構造の高層構造物を重力下で用いるためには、重力補償を用いることがより好ましい。重力補償には、第1の重力補償および第2の重力補償の2種類がある。それぞれの重力補償については後で詳しく述べるが、第1の重力補償は、風特異構造の上層構造物6が重力の影響で円弧中心10回りに振り子回転する影響を補償するものである。また、第2の重力補償とは、上層構造物6の重心7が水平方向X2に移動した場合に生じる回転トルクの影響を補償するものである。
ただし、層2の下端にアイソレータ3が2対以上配置されている場合には、一般に、重力補償後でもそれぞれのアイソレータ3の対の円弧中心10は一致しない。従って、アイソレータ3が2対以上配置されている場合には、第1の重力補償を考慮する必要は無い。以上より、重力補償の必要の有無は、下表のようにまとめられる。
【0087】
【表2】

【0088】
まず、第1の重力補償について説明する。
上層構造物6に作用する重力は、上層構造物6の円弧方向の振動となって表れるため、第1の重力補償は、円弧方向剛性を補正することで対処可能である。図17および図18に第1の重力補償の考え方を示す。図17に示すように、上層構造物6を円弧中心10回りの重力振子に置換し、図18に示すように、上層構造物6を重力振子と同周期の無重力下での円弧方向剛性による振子に置換している。
円弧中心10は鉛直線A1上に位置している。
【0089】
上層構造物6の質量をm、円弧中心10回りの上層構造物6の慣性モーメントをIOk、上層構造物6の重心7と円弧中心10との間の鉛直距離をd、重力加速度をgとすると、重力振子の周期Tは次式のように表せる。
【0090】
【数7】

【0091】
そして、図18に示すように、上記重力振子と同周期の無重力下での円弧方向剛性による振子の周期Tは、第kアイソレータ3の対の数をN、第kアイソレータ3を外側からi(i=1,2,3,…,N)番目と数え、i番目の第kアイソレータ3の水平距離を、アイソレータ3の円弧方向剛性をK、第kアイソレータ3から第kアイソレータ3の円弧中心10までの鉛直距離をLOkとすると、次式のように表すことができる。
なお、ここで言うi=1,2,3,…,Nとは、変数iは1からNまでの自然数の値をとることを意味する。
【0092】
【数8】

【0093】
ただし、第kアイソレータ3が複数対ある場合は、それぞれの対となる第kアイソレータ3の円弧中心10が全て一致する場合である。
(13)式と(14)式より、第1重力補償項Kは次式のようになる。
【0094】
【数9】

【0095】
図14より、円弧中心10に依存する変数は全て傾斜角度θの関数である。従って、慣性モーメントIOkおよび鉛直距離dは、傾斜角度θの関数となるため、第1重力補償項Kも傾斜角度θの関数である。以上より、(16)式から角度αが求められる。
【0096】
【数10】

【0097】
続いて、第2の重力補償について説明する。
重力下では、重心7が移動することにより発生する回転トルクを補償する必要がある。回転トルクは第kアイソレータ3への荷重となって表れる。第k層2が重心移動した場合の荷重の状態を、第kアイソレータ3が一対の場合を図19に、第kアイソレータ3が複数対の場合を図20にそれぞれ示す。一対又は複数対の第kアイソレータ3は、上層構造物6の重心を含む鉛直線A1に関して対称に配置されているとする。
ここで、重心7の水平方向X2の変位をδ、第k層2の質量をM、重力加速度をgとする。
【0098】
第kアイソレータ3が一対の場合、第k層2の重心移動により発生するトルクはMgδであり、これと等しいトルクが各第kアイソレータ3で発生する。このため、変位した方向側の第kアイソレータ3は鉛直方向X1下向きに(Mgδ/w)の荷重を発生し、変位した方向とは反対側の第kアイソレータ3は鉛直方向X1上向きに(Mgδ/w)の荷重を発生する。
第kアイソレータ3が複数対の場合、鉛直線A1に対する各サイドのN個で発生する回転トルクの和が重心移動により発生するトルクMgδに等しくなる。そして、N個の各トルクは、重心7からの距離の二乗に比例する。言い換えれば、N個の第kアイソレータ3が発生するそれぞれの力は、重心7からの距離に比例する。
ここで、i番目の第kアイソレータ3に作用する荷重に対する加重係数λを次式のように定義する。
【0099】
【数11】

【0100】
このとき、各第kアイソレータ3に作用する荷重は次のように表すことができる。
【0101】
【数12】

【0102】
前述の第1の重力補償においては、それぞれの層2の円弧中心10が水平方向X2に移動しないことを前提として重力振子の影響を示した。しかし、一般に、高層構造物では重心移動は起こる。ここでは、図21に示すような風圧が高層構造物1に加わった場合に起こる第2の重力補償、すなわち重心移動の影響の重力補償について説明する。
ここで、第(k−1)層2k−1と第k層2との水平方向X2の変位をδ、変位により第kアイソレータ3に作用する荷重をPとする。
このとき、水平面Gに対する第k層2の重心7の水平方向X2の変位Δは、次式のようになる。
【0103】
【数13】

【0104】
なお、図21において、各層2の高さは均一である必要は無い。第2の重力補償においてその値を必要としないため、層2の高さは記載していない。
アイソレータ3に加わる風圧による荷重Pは、下方の層2になるに従って、上方の層2の重心移動の影響が累積される。
それぞれの層2に一対のアイソレータ3が配置されている場合の荷重Pは、(20)式のようになる。
【0105】
【数14】

【0106】
ここで、重力の影響を考慮しない場合に行った傾斜角度θの補正を、重力の影響を考慮する場合の荷重Pについても同様に行うと図22のようになる。
図22(a)は前述と同様である。図22(b)に示すように、第kアイソレータ3に作用する荷重Pは、円弧方向の荷重成分がPsinθ、円弧垂直方向の荷重成分がPcosθとなる。これらを合成して、図22(c)において、合力の円弧方向成分をfkh、合力の円弧垂直方向成分をfkvとすると、次式のようになる。
【0107】
【数15】

【0108】
1つの第k層2に配置された2つの第kアイソレータ3の合力の円弧方向成分fkhおよび円弧垂直方向成分fkvの水平方向X2成分の合計は、第k層2から第n層2までに加わる風荷重Fの合計に等しいため、次式のようになる。
【0109】
【数16】

【0110】
ここで、(22)式および(23)式の変位δ(n≧j>k)を変位δで表すために、変位δに対する変位δの比率hkjを(26)式のように定義する。ただし、一般的な仮定として、第k層2と第j層2との高さによる風圧の比率、見付面積の比率を既知とすると、(27)式で示される第k層2に対する第j層2の風荷重の比率gkjが既知となる。
【0111】
【数17】

【0112】
ただし、比率hkkは1となる。比率gkjは、前述した高層構造物の分離構造により異なる。説明を簡単にするため、風圧は水平面Gからの高さにより一定とする。高層構造物が重軽構造の場合には、各層2の見付面積が全て同じなので、風荷重Fkは層2によらず均一でその値をFとすると、(27)式は次式のようになる。
【0113】
【数18】

【0114】
前述した軽層ダンパ構造では、重い層22と軽い層22との高さの比が3:1となるように構成されているため、風荷重比も3:1となる。一例として、この場合の比率g23は、次式のようになる。
【0115】
【数19】

【0116】
軽層ダンパ構造における他の風荷重の比率gkjについても、同様に求めることができる。
一方で前述した吹き抜け構造では、重い層32と軽い層32との高さの比が3:1となるように構成されているが、軽い層32では風圧がゼロ(もしくは非常に小さい)としている。従って、一例として、この場合の比率g23は、次式のようになる。
【0117】
【数20】

【0118】
吹き抜け構造における他の風荷重の比率gkjについても、同様に求めることができる。
前述した大小構造では、偶数番目の層42の断面形状と奇数番目の層42の断面形状との相似比が2:1となるように構成されているため、風荷重比も2:1となる。従って、一例として、この場合の比率g23は、次式のようになる。
【0119】
【数21】

【0120】
大小構造における他の風荷重の比率gkjについても、同様に求めることができる。
比率hkjを用いて(22)式及び(23)式を書き直すと(32)式及び(33)式のようになる。ただし、Kは、第2重力補償項である。
【0121】
【数22】

【0122】
以上より、第kアイソレータ3の方向を補正する補正角度βを次式のように求めることができる。
【0123】
【数23】

【0124】
こうして、(21)式及び(35)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
【0125】
【数24】

【0126】
これまでは、それぞれの層2に一対のアイソレータ3が配置されている場合の荷重Pについて説明してきた。これからは、それぞれの層2に複数対のアイソレータ3が配置されている場合の荷重Pについて説明を行う。
複数対のアイソレータ3が配置されている場合は、(20)式による荷重Pの値に(17)式による加重係数λを用いて表すことができる。
i番目の第kアイソレータ3に作用する荷重は、次式のようになる。
【0127】
【数25】

【0128】
ここで、前述の傾斜角度θの補正と同様に、荷重について補正を行う。
第kアイソレータ3が一対の場合の傾斜角度θ、角度αおよび補正角度βに対応させて、第kアイソレータ3がN対の場合のi番目の第kアイソレータ3について、傾斜角度をθ、角度をα、補正角度をβとする。
モデルを簡単にするために、アイソレータ3によらず、円弧垂直方向剛性をK、円弧方向剛性をKは、それぞれ一定とする。また、一般には、それぞれの対となるアイソレータ3の円弧中心10は一致しないため、円弧方向剛性Kは無視できるものとする。
このとき、i番目の第kアイソレータ3に作用する合力の円弧方向成分をkh、合力の円弧垂直方向成分をkvとすると、次式のようになる。
【0129】
【数26】

【0130】
各層2が剛体と仮定すると、各第kアイソレータ3の水平方向X2の変位は等しくなる。また、1つの層2につき2N個配置された第kアイソレータ3において、合力の円弧方向成分khおよび円弧垂直方向成分kvの水平方向X2成分の合計は、第k層2から第n層2までに加わる風荷重Fの合計に等しいため、次式のようになる。
【0131】
【数27】

【0132】
ここで、(38)式および(39)式の変位δ(n≧j>k)を変位δで表すために、変位δに対する変位δの比率で比率hkjを(42)式のように定義する。ただし、一般的な仮定として、第k層2と第j層2との高さによる風圧の比率、見付面積の比率を既知とすると、(43)式で示される第k層2に対する第j層2の風荷重の比率gkjが既知となる。
【0133】
【数28】

【0134】
ただし、比率hkkは1となる。
比率gkjは、前述した高層構造物の分離構造により異なるが、前述のアイソレータ3が一対配置されている場合と同様に、(28)式から(31)式のように、重軽構造等のそれぞれの構造に対する比率gkjを求めればよい。
比率hkjを用いて(38)式及び(39)式を書き直すと、(44)式から(46)式のようになる。
【0135】
【数29】

【0136】
以上より、i番目の第kアイソレータ3の角度αに対する補正角度βを次式のように求めることができる。
【0137】
【数30】

【0138】
こうして、(40)式及び(47)式により、次式で示される傾斜角度θの算出式が得られる。
【0139】
【数31】

【0140】
ここで、重力の影響を考慮した場合の傾斜角度θを算出する手順について説明する。最初に、各層2に一対のアイソレータ3が配置されている場合について説明し、続いて、各層2に複数対(具体的には、2対。)のアイソレータ3が配置されている場合について説明する。なお、前述した重力の影響を考慮しない場合の傾斜角度θを算出する手順に対して異なる点についてのみ説明する。
図23から図25は、第kアイソレータ3の傾斜角度θを算出する手順を示すフローチャートである。
この手順では、重力の影響を考慮しない場合に比べて第1重力補償項Kおよび第2重力補償項Kの計算が加わっている。
上方の層2の重心移動の影響が下方の層2に累積されるため、図23のフローチャートのOuter Loopでは最上層の第n層2から下層へ順次計算している。また、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために、Inner Loopでは傾斜角度θは90°から減少させて計算する。
【0141】
まず、図23に示すステップS11において、変数kに高層構造物1全体の層2の数nの値を代入する。そして、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS12に移行する。なお、これ以降の工程でステップS11を行う時は、変数kに代入された値から1を減じた上で変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断することとなる。また、この条件が偽である場合(False)は、全ての処理を終了する。
次に、ステップS12において、(21)式により角度αを求めステップS13に移行する。
【0142】
次に、ステップS13において傾斜角度θに90(角度90°のこと)を代入する。そして、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS14に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。なお、ステップS12からステップS13に移行してきた時のみ傾斜角度θに90を代入し、ステップS12以外の工程からステップS13に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
【0143】
次に、ステップS14において、図24に示すK計算関数のサブルーチンを行い第1重力補償項Kの値を求め、図23のステップS15に移行する。
なお、第1重力補償項Kの計算では、風特異構造の円弧中心10が地震特異構造(第k層2から第n層2までの重心7)より下になる場合(鉛直距離d≦0)には、重力振子を構成し得ないので計算しない。これは、Inner Loopにおいて傾斜角度θを90°から減少させて計算しているため、傾斜角度θが角度α以上となる場合(θ≧α)において起こり得る。
【0144】
そして、ステップS15において、図25に示すK計算関数のサブルーチンを行い第2重力補償項Kを求める。
第2重力補償項Kの計算では、現時点の計算ループのサフィックスをk(k<n)とした場合、(34)式において比率hkj(n≧j>k)という過去ループの傾斜角度θ(n≧j>k)に基づく値を必要とする。従って、(26)式における過去ループ部分をメモリに蓄積しておき比率hkjの計算に用いる。
【0145】
計算関数のサブルーチンは、まず、ステップS31において、変数kに代入された値より変数nに代入された値(高層構造物1全体の層2の数)が大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)はステップS32に移行する。
また、ステップS31において、変数kに代入された値より変数nに代入された値が大きいという条件が偽である場合(False)は、ステップS35において次式により第2重力補償項Kの値を求め、サブルーチンを終了して図23に示すステップS16に移行する。
【0146】
【数32】

【0147】
ステップS31における条件が真である場合(True)に行われるステップS32では、次式による値を求めステップS33に移行する。
【0148】
【数33】

【0149】
次に、ステップS33において、後述するステップS20で計算しメモリに記憶された(51)式による値(変数jには、(k+1)からnまで1ずつ増える値が代入される)を用いて、(26)式による比率hkjをそれぞれ求め、ステップS34に移行する。
【0150】
【数34】

【0151】
次に、ステップS34において、(34)式により第2重力補償項Kの値を求め、サブルーチンを終了して図23に示すステップS16に移行する。
【0152】
次に、ステップS16おいて、傾斜角度θに対して次式により得られる誤差eを求め、ステップS17に移行する。
【0153】
【数35】

【0154】
次に、ステップS17において、傾斜角度θに代入された値が90より小さいという条件の真偽を判断する。そして、この条件が真である場合(True)は、ステップS18に移行する。
次に、ステップS18において、2ステップ前のステップS16で今回求めた誤差eの値が先に求めた誤差eの値(ステップS16が既に2回以上行われた場合の、最後に行ったステップS16の1回前に行ったステップS16で求めた誤差eの値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。すなわち、先に求めた誤差eの値が正の数でありかつ今回求めた誤差eの値が負の数である場合、又は先に求めた誤差eの値が負の数でありかつ今回求めた誤差eの値が正の数である場合に、誤差eの符号が反転したと判断する。
この条件が真である場合(True)は、ステップS19に移行する。なお、2ステップ前のステップS16が初めて行われたステップS16である場合、ステップS18の条件が偽である場合(False)、及び上記のステップS17における条件が偽である場合(False)、のいずれかの場合にはステップS13に移行する。
【0155】
次に、ステップS19において、このイタレーションで設定した傾斜角度θを第k層2の第kアイソレータ3の傾斜角度としてステップS20に移行する。そしてステップS20において、この傾斜角度θによる(53)式の値をメモリに記憶しステップS11に移行する。
【0156】
【数36】

【0157】
こうして第n層2から第1層2までの各層2のアイソレータ3の傾斜角度θを求めた後、ステップS11に移行し、変数kに代入された値から1を減ずると変数kに代入された値は0となる。この時、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断すると偽(False)となり、全ての処理を終了する。
【0158】
次に、(36)式による傾斜角度θの解をシミュレーションで算出した一例を示す。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。偶数番目の層2の密度は奇数番目の層2の密度の2倍とし、偶数番目の層2の密度を鉄の0.0286倍の密度として、第2層2および第4層2の質量を1.79×10(kg)とした。また、奇数番目の層2の密度を鉄の0.0143倍の密度として、第1層2、第3層2および第5層2の質量を8.97×10(kg)とした。重力加速度は9.8066(m/s)とした。また、アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に一対配置されているとし、円弧方向剛性Kは2.0×10(N/m)、円弧垂直方向剛性Kは2.0×10(N/m)で、円弧方向剛性K/円弧垂直方向剛性K=1/1000とした。
シミュレーションの結果を表3に示す。
【0159】
【表3】

【0160】
なお、参考までに第1の重力補償と第2の重力補償の効果を比較するため、第1の重力補償で用いられる第1重力補償項K、及び第2の重力補償で用いられる第2重力補償項Kをそれぞれアイソレータの円弧方向剛性Kで除した値を表4に示す。この結果から、第2の重力補償による重心移動の影響は非常に大きく、特に下方の層2ではアイソレータ3の円弧方向剛性より大きな影響を及ぼすことが解る。一方、第1の重力補償による円弧方向振動の影響は非常に小さく、場合によっては無視しても差し支えないとも考えられる。
【0161】
【表4】

【0162】
続いて、各層2に複数対のアイソレータ3が配置されている場合の、傾斜角度θを算出する手順について説明する。この例では、アイソレータ3の対の数であるNが2である場合について説明する。
なお、アイソレータ3を3対以上備える場合であっても、以下の手順のループ数が増えるだけで、傾斜角度θを同様に算出することができる。
図26から図28は、傾斜角度θを算出する手順を示すフローチャートである。
【0163】
この手順では、各層2に一対のアイソレータ3が配置されている場合の手順と比べて、重心移動による加重係数λの計算が加わっていること、傾斜角度θおよび傾斜角度θを計算するために角度計算ループが二重になっていること、第1重力補償項の計算が不要となることが主な相違点である。
上方の層2の重心移動の影響が下方の層2に累積されるため、図26のフローチャートのOuter Loopでは最上層の第n層2から下層へ順次計算している。また、縦剪断型の風特異構造は横剪断型の風特異構造より角度が大きいことは予め解っているので、計算速度を向上させるために、Inner Loopでは傾斜角度θは90°から減少させて計算する。そして、後述する誤差の全ての符号が同時に反転した場合に、傾斜角度θが求まる。
【0164】
まず、図26に示すステップS41において、(17)式におけるN=2の場合の次式により加重係数λを求め、ステップS42に移行する。
【0165】
【数37】

【0166】
次に、ステップS42において変数kに、高層構造物1全体の層2の数nの値を代入する。そして、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS43に移行する。なお、これ以降の工程でステップS42を行う時は、変数kに代入された値から1を減じた上で変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断することとなる。また、この条件が偽である場合(False)は、全ての処理を終了する。
【0167】
次に、ステップS43において、(40)式におけるi=1、2の場合に相当する次式により角度ααを求めステップS44に移行する。
【0168】
【数38】

【0169】
次に、ステップS44において、外側から1番目、2番目の第kアイソレータ3の傾斜角度θ及びθに90(角度90°のこと)を代入し、ステップS45に移行する。
次に、ステップS45において、図27に示す、傾斜角度θθに代入された値に対する第kアイソレータ3の後述する式による誤差をそれぞれ求める計算関数を行う。
この計算関数のサブルーチンの概要を説明すると、まず、ステップS61において後工程をアイソレータ3の対の数である2回繰り返すように設定する。次に、ステップS62において、図28に示す計算関数のサブルーチンを行い、各第kアイソレータ3に対応する第2重力補償項を求める。
第2重力補償項の計算では、現時点の計算ループのサフィックスをk(k<n)とした場合、(46)式において比率hkj(n≧j>k)という過去ループの傾斜角度θ(n≧j>k)に基づく値を必要とする。従って、(42)式における過去ループ部分をメモリに蓄積しておき比率hkjの計算に用いる。
そして、ステップS63において、以下の式により誤差を求め、図26のステップS46に移行する。
【0170】
【数39】

【0171】
次に、ステップS46において、外側に配置された1番目の第kアイソレータ3の傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入してから、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS47に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。
なお、ステップS45からステップS46に移行してきた時のみ傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入し、後述するステップS50からステップS46に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
【0172】
次に、ステップS47において、内側に配置された2番目の第kアイソレータ3の傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入してから、傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS48に移行し、この条件が偽である場合(False)は、異常であると判断して全ての処理を終了する。
なお、ステップS46からステップS47に移行してきた時のみ傾斜角度θに(90−Δθ)の値を代入し、後述するステップS49からステップS47に移行してきた時は、傾斜角度θに代入された値から変化量Δθを減じた上で傾斜角度θに代入された値が0より大きいという条件の真偽を判断することとなる。
【0173】
次に、ステップS48において、上述したように傾斜角度θθに代入された各値に対する各第kアイソレータ3の誤差を求める計算関数を行い、ステップS49に移行する。
【0174】
次に、ステップS49において、直前のステップS48で求めた誤差の値が先に求めた誤差の値(直前のステップS48が初めて行われたステップS48である場合にはステップS45で求めた誤差の値、これ以外の場合は最後に行ったステップS48の1回前に行ったステップS48で求めた誤差の値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS50に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS47に移行する。
次に、ステップS50において、2ステップ前のステップS48で求めた誤差の値が先に求めた誤差の値(2ステップ前のステップS48が初めて行われたステップS48である場合にはステップS45で求めた誤差の値、これ以外の場合は最後に行ったステップS48の1回前に行ったステップS48で求めた誤差の値)から符号が反転したという条件の真偽を判断する。この条件が真である場合(True)は、ステップS51に移行し、この条件が偽である場合(False)は、ステップS46に移行する。
【0175】
次に、ステップS51において、上記の工程で得られた誤差及びの符号を反転させる傾斜角度θ及びθを第k層2の1番目及び2番目の第kアイソレータ3のそれぞれの傾斜角度とし、ステップS52に移行する。
次に、ステップS52において、上記のステップS51で得られた傾斜角度θ及びθによる次式の値をメモリに記憶し、ステップS42に移行する。
【0176】
【数40】

【0177】
こうして第n層2から第1層2までの各層2のアイソレータ3の傾斜角度θ及びθを求めた後、ステップS42に移行し、変数kに代入された値から1を減ずると変数kに代入された値は0となる。この時、変数kに代入された値が1以上であるという条件の真偽を判断すると偽(False)となり、全ての処理を終了する。
【0178】
次に、(48)式による傾斜角度θの解をシミュレーションで算出した一例を表5に示す。
シミュレーションに用いた高層構造物1は、アスペクト比(=構造物高さ/構造物幅)が5の5つの層2からなる構造物であって、各層2とも水平方向X2が20m、鉛直方向X1が20mとした。偶数番目の層2の密度は奇数番目の層2の密度の2倍とし、偶数番目の層2の密度を鉄の0.0286倍の密度として、第2層2および第4層2の質量を1.79×10(kg)とした。また、奇数番目の層2の密度を鉄の0.0143倍の密度として、第1層2、第3層2および第5層2の質量を8.97×10(kg)とした。重力加速度は9.8066(m/s)とした。
また、アイソレータ3はそれぞれの層2の下端に2対配置されているとし、層2の中心を対称の軸として、外側から1番目のアイソレータ3の対が互いに20m離間し、外側から2番目のアイソレータ3の対が互いに10m離間しているとした。
円弧方向剛性Kは2.0×10(N/m)、円弧垂直方向剛性Kは2.0×10(N/m)で、円弧方向剛性K/円弧垂直方向剛性K=1/1000とした。
【0179】
【表5】

【0180】
本発明の高層構造物の適用例について説明する。
本発明は、多層の構造物を多節振動により制振することを軸としている。従って、一般的には塔状構造物に有効な構造であり、層数の多い高層構造物で特にその現象が顕著となる。ただし、これはアスペクト比が大きい構造物(幅に対して高さが高い構造物)に有効ということとは等価ではなく、例えば、ビル幅の広い高層構造物ではアスペクト比は小さいが、層数が多いため顕著な多節振動を行う。
本発明は、日本古来の五重塔に代表されるような塔構造にも適用可能である。図12に示す高層構造物42の形状はまさしく多重塔構造であり、大層(大きな層)で塔の層数を判断するなら二重塔に相当する。当然、五重塔にも拡張可能である。
【0181】
本発明の高層構造物の効果について説明する。
分離構造では、風に対する特異配置、すなわち風特異構造を用いているため風に強い。これは、風荷重を高剛性である円弧垂直方向剛性で、全ての荷重を受け止める構造となっているからである。
分離構造では構造上、風に対しても地震に対しても層間変位が生じ、層間変位が大きくなると、上下に隣り合う層が互いに逆方向に回転する。従って、摂動構造と同様に、低剛性である円弧方向の変位が得られやすいため、この円弧方向にダンパを挿入することにより高減衰を得ることができる。
また、前述の特許文献4に記載された特異配置の制振構造物のように、低剛性である円弧方向の剛性を調節して水平方向の固有振動数、すなわち縦剪断振動の固有振動数と一致させると、水平方向の振動エネルギーは円弧方向に遷移する。そして、特許文献4に記載されているように、低剛性である円弧方向にダンパを挿入することにより、さらに大きな高減衰を得ることができる。
本発明の分離構造は、特許文献3から5に記載された制振構造物の制振性能を継承している。従って、高次モード卓越により、卓越周期は通常の剛構造ビルより短周期である。従って、中間免震などは卓越周期が長周期地震で懸念される領域にあり長周期地震に弱いと考えられるのに対し、高次卓越は長周期地震帯域では縮退した低次モードであるため長周期地震にも強い。
【符号の説明】
【0182】
1、21、31、41 高層構造物(制振構造物)
2、22、32、42 層
3 アイソレータ
6 上層構造物
7 重心
33 貫通孔
A1 鉛直線
G 水平面
X1 鉛直方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面上に配置される第1層、および前記第1層上に順に重ねて配置される第2層から第n層までを含む複数の層と、
それぞれの前記層の下端に自身が支持する上層構造物の重心を含む鉛直線に関して対称に配置され、鉛直下向きに凸の円弧軌道を描くように前記水平面に対して斜め方向に運動する一対のアイソレータと、
を備える制振構造物であって、
少なくとも1つの前記一対のアイソレータおよび前記一対のアイソレータが支持する前記上層構造物において、
前記一対のアイソレータに作用する力の延長線が前記上層構造物の重心を含む前記鉛直線と交わる位置である剛心の高さと前記上層構造物の前記水平面を基準とした風圧中心の高さとが一致し、
前記風圧中心の高さと前記上層構造物の重心の高さとが異なるように構成されていることを特徴とする制振構造物。
【請求項2】
上下方向に隣り合う前記層は、互いに構造が異なることを特徴とする請求項1に記載の制振構造物。
【請求項3】
上下方向に隣り合う前記層は、互いに密度が異なることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
【請求項4】
上下方向に隣り合う前記層のうち、密度が大きいほうの前記層の方が体積が大きく形成されていることを特徴とする請求項3に記載の制振構造物。
【請求項5】
それぞれの前記層は、
上方および下方に隣り合う前記層に対して、鉛直方向の長さがそれぞれ等しく設定されるとともに、鉛直方向に垂直な平面による断面積がそれぞれ異なることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
【請求項6】
少なくとも一つの前記層には、
前記層の側面に両端部の開口が形成された貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
【請求項7】
前記第n層は、第(n−1)層よりも軽く構成されていることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の制振構造物。
【請求項8】
前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、
前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θは(1)式の解として得られる値に設定され、
風圧中心の高さCが(2)式により求められることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の制振構造物。
【数1】

但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、L:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから風圧中心の高さCkまでの鉛直距離、w:第k層の下端に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、Fk:第k層に水平方向に加わる風荷重、Zk:風荷重Fkが作用する高さ。
【請求項9】
前記第1層から数えてk番目の前記層を第k層としたときに、
前記第1層から前記第n層までのそれぞれの前記層に対して、前記第k層の下端に配置された前記アイソレータの前記水平面に対する傾斜角度θは(4)式から(6)式を用いて求められる(3)式の解として得られる値に設定され、
風圧中心の高さCが(7)式により求められることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の制振構造物。
【数2】

但し、K:アイソレータの円弧方向剛性、K:アイソレータの円弧垂直方向剛性、L:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから風圧中心の高さCkまでの鉛直距離、w:第k層の下端に配置された一対のアイソレータ間の水平距離、K:第1重力補償項、K:第2重力補償項、M:第k層の質量、m:第k層から第n層までの層の質量、g:重力加速度、d:第k層から第n層までの重心高さから第k層の下端に配置された一対のアイソレータの円弧中心高さまでの鉛直距離、LOk:第k層の下端に配置された一対のアイソレータから、この一対のアイソレータの円弧中心高さまでの鉛直距離、Fk:第k層に水平方向に加わる風荷重、Zk:風荷重Fkが作用する高さ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−117224(P2012−117224A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265483(P2010−265483)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】