説明

制振構造

【課題】平面計画上の制約が少なく一般の建物に広く適用可能な有効適切な制振構造を提供する。
【解決手段】下層部に制振階を設定してそこに制振装置10を集約して設置する。制振階における柱を上層部における柱よりも小断面として制振階の層剛性を上層部よりも低下させる。制振階における柱1の柱主筋をその直上階の柱2の柱主筋の内側に配筋した状態で双方の柱主筋をパネルゾーンに定着して双方の柱を接合する。制振階の柱を高強度ないし超高強度コンクリートおよび高強度ないし超高強度鉄筋による鉄筋コンクリート柱とし、さらに補強鋼材により被覆する。制振階の柱および梁により構成される架構フレームの内側に鋼製フレームを固定し、その内側に制振装置を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高層ないし超高層の鉄筋コンクリート造(RC造)の建物を対象とする制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制振構造として特許文献1〜3に示されるものが提案されている。これは建物内に高剛性の連層耐震壁によるコアを設置してその頂部にガーダーやトップビームあるいは壁梁を設け、それらガーダーやトップビームあるいは壁梁の先端と外周架構との間にダンパーを介装することにより、地震時における建物全体の曲げ変形をダンパーにより制御して制振効果を得る構造のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3324586号公報
【特許文献2】特許第3395500号公報
【特許文献3】特許第4360034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の制振構造では建物内に大規模なコアを設けることから必然的に平面計画上の制約が多く、高層ないし超高層の集合住宅には適用できるものの様々な用途、形態の建物に広く適用できるものではない。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は平面計画上の制約が少なく一般の建物に広く適用可能な有効適切な制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、高層ないし超高層の鉄筋コンクリート造の建物を対象として該建物の要所に制振装置を設置してなる制振構造であって、下層部に制振階を設定して該制振階に前記制振装置を集約して設置するとともに、前記制振階における柱を上層部における柱よりも小断面として該制振階の層剛性を上層部よりも低下させ、前記制振階における柱の柱主筋をその直上階の柱の柱主筋の内側に配筋した状態でコンクリート中に定着することにより双方の柱を接合してなることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の制振構造であって、制振階の柱は高強度ないし超高強度コンクリートおよび高強度ないし超高強度鉄筋による鉄筋コンクリート柱とし、かつ該柱を補強鋼材により被覆してなることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の制振構造であって、制振階の柱および梁により構成される架構フレームの内側に鋼製フレームを固定し、該鋼製フレームの内側に前記制振装置を設置してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制振構造によれば、層剛性を低下させた制振階を設定してそこに制振装置を集約して設置するので、地震時における建物の水平変形が制振階に集中して制振装置が効率的に作動して建物全体に対する優れた制振効果が得られることはもとより、通常の制振構造の場合のように多数の制振装置を各階に分散配置する必要はなく、また建物全体にわたって高剛性のコアを設ける必要もなく、したがって平面計画上の制約が少なく、工費や工期の点でも有利であり、様々な用途、規模、形態の建物に広く適用可能である。
特に、制振階の層剛性を低下させるために制振階の柱を小断面としてその曲げ剛性を低下させたうえで、制振階の柱主筋を直上階の柱主筋の内側に配筋した状態でコンクリート中に定着することにより、双方の柱どうしを簡易な構造で確実に接合することが可能である。
【0010】
また、制振階の柱を高強度ないし超高強度コンクリートおよび高強度ないし超高強度鉄筋によるRC柱としたうえで補強鋼材により被覆することにより、低曲げ剛性でありながら十分に高軸剛性かつ高靱性とすることが可能である。
【0011】
さらに、制振階の柱および梁により構成される架構フレームの内側に鋼製フレームを固定してその鋼製フレームの内側に制振装置を設置することにより、制振装置を架構フレームに対して確実堅固に固定し得て地震時における架構フレームの変形により制振装置を確実かつ効率的に作動させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の制振構造の一実施形態を示すもので、建物全体の架構の概要を示す立面図および制振階の平面図である。
【図2】同、制振階とその直上階の柱の接合部の構造を示す図(図1、図10におけるII部拡大図)である。
【図3】同、制振装置の一例を示す図である。
【図4】同、架構フレームへの鋼製フレームの固定構造を示す図(図3におけるIV部拡大図)である。
【図5】同、詳細図(図4におけるV部拡大図)である。
【図6】同、詳細図(図4におけるVI部拡大図)である。
【図7】同、詳細図である。
【図8】同、詳細図(図4におけるVIII部拡大図)である。
【図9】同、詳細図(図4におけるIX部拡大図)である。
【図10】本発明の制振構造の他の実施形態を示すもので、建物全体の架構の概要を示す立面図および制振階の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の制振構造の一実施形態を図1〜図3に示す。
これは鉄筋コンクリート造の高層(図示例では地上27階建て)の建物への適用例であって、下層部の任意の階(図示例では地上1階および地上2階)を制振階として設定し、その制振階の層剛性を上層部の層剛性よりも低下させたうえでそこに制振装置10を集約配置したことを主眼とする。
【0014】
制振階の層剛性を上層部の層剛性よりも低下させるためには、制振階の柱1の断面を上層部の柱断面よりも小さくして水平方向の曲げ剛性を相対的に低下させれば良い。
但し、柱断面を小さくしても少なくとも上層部と同等程度の軸剛性と靱性は当然に必要であるから、本実施形態では制振階の柱1を高強度ないし超高強度コンクリート(たとえばFc200相当)および高強度ないし超高強度鉄筋(たとえばSD980相当)を用いた高強度ないし超高強度の鉄筋コンクリート柱(RC柱)として形成するとともに、図2に示すようにその柱1の外周部を補強鋼材1cで被覆することによって低曲げ剛性ではあっても十分なる高軸剛性かつ高靱性を確保している。
なお、柱1を補強鋼材1cにより被覆するためには、柱1を通常のRC柱と同様の手法で形成した後にその外周に鋼板を装着して巻き立てるか、あるいは補強鋼材1cとして機能し得る角形ないし円形の鋼管の内側にコンクリートを打設することによって鋼管被覆型RC柱(あるいは充填鋼管型RC柱)として形成することが好適である。
【0015】
上記のような制振階の小断面の柱1をそれよりも大断面の直上階の柱2に対して接合するために、本実施形態の制振構造では、図2(a)、(b)に示すようにそれら柱1,2および梁3の接合部であるパネルゾーンにおいて制振階の柱主筋1aを直上階の柱主筋2aの内側において上下方向にラップさせた状態で配筋することにより、双方の柱主筋1a、2aどうしをパネルゾーンのコンクリートを介して支圧伝達可能に接合している。
この場合、双方の柱主筋1a、2aどうしのラップ長さを適切に設定し、かつそれらの先端部にそれぞれ定着頭部1b、2bを形成しておくことが好ましく、これにより双方の柱主筋1a、2aどうしを直接的に接合せずともそれぞれをパネルゾーンに対して確実に定着し得てコンクリートを介しての支圧伝達性能を支障なくかつ十分に確保し得る。
【0016】
なお、それらの定着頭部1b、2bは、柱主筋1a、2a自体を膨出加工する等して断面を拡大するか、あるいは定着プレートの類の定着具を溶接あるいは適宜装着することで設ければ良い。
勿論、所望の支圧伝達性能を確保できるような十分なラップ長さを確保し得る場合には定着頭部1b、2bは省略可能であるし、定着頭部1b、2bに代えてフックを設けることでも良い。
また、図2(a)、(b)は制振階の柱1を角柱とした場合の例であるが、(c)は丸柱とした場合の例を示すもので、この場合も同様に制振階の柱1の柱主筋1aを直上階の柱2の柱主筋2aの内側に配筋し、必要に応じて双方の柱主筋1a、2aに定着頭部1b、2bあるいはフックを設けておけば良い。
いずれにしても、制振階の柱1とその直上階の柱2および梁3を接合するためのパネルゾーンはコンクリートを現場打ちとすることが現実的であるが、それらの柱1,2および梁3の軸部はプレキャスト化してPCa部材として予め製作しておくことが可能であり、そのようにすれば現場ではパネルゾーンに対してのみコンクリートを打設すれば済むので施工性を大きく改善することが可能である。
【0017】
制振階への制振装置10の設置台数や配置パターンは所望の制振効果が得られるように適宜設計すれば良いが、図示例の建物は平面形状がほぼ正方形であることから、本実施形態では図1(b)に示すように制振階における外周部の4個所の架構フレームおよび中央部の4個所の架構フレームの内側にそれぞれ制振装置10を設置している。
【0018】
制振装置10としては周知の各種ダンパー、たとえばオイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパー、回転慣性質量ダンパーその他の形式のものを任意に採用可能であり、制振装置10の形態もブレース型、壁型、間柱型、梁端部設置型等、任意の形態が可能であり、異種の形式、形態の制振装置を任意に組み合わせて採用しても良い。
また、建物の振動を架構フレームから制振装置10に対して直接伝達して制振装置10を直接的に作動させることでも良いし、架構フレームと制振装置10との間に適宜の振動伝達機構や変形増幅機構を介装して建物の振動を間接的に伝達したり増幅して制振装置10に伝達するようにしても良い。勿論、地震力の過大な入力を制限するための機構や制振階の過大な変形を防止するためのフェイルセーフ機構等を適宜付設しても良い。
【0019】
図3は制振装置10の具体的な設置例を示す。
これは、制振装置10として回転慣性質量ダンパー11とオイルダンパー12を併用したもので、制振階における柱1および上下の梁3により構成される架構フレームの地震時の水平振動(層間変形)を鋼製フレーム13およびV形ブレース14を介して制振装置10に伝達してそれを作動させるようにしている。
すなわち、制振装置10を設置するべき架構フレームの内側に全周にわたって鋼製フレーム13を固定して、その下部中央位置に回転慣性質量ダンパー11を設置するとともに、鋼製フレーム13の上部両入隅部に対してV形ブレース14の上部両端部をそれぞれ接合板15を介してピン接合し、そのV形ブレース14の中央下端部を取付台16を介して回転慣性質量ダンパー11に連結し、かつ鋼製ブレース13の側部と取付台16との間にオイルダンパー12を介装することにより、建物の水平振動(架構フレームの層間変形)が鋼製フレーム13、V形ブレース14、取付台16を介して回転慣性質量ダンパー11およびオイルダンパー12に伝達されてそれらが作動し、優れた制振効果が得られるものとなっている。
【0020】
この場合、建物の振動を制振装置10に対して確実に伝達するためには、鋼製フレーム13が架構フレームに対して確実堅固に一体化していることが前提であり、そのためには鋼製フレーム13を架構フレームに対してたとえば図4〜図9に示す構造で固定することが好ましい。
すなわち、鋼製フレーム13の上下の水平部を上下の梁3に対して固定するためには、図4に示すように鋼製フレーム13をアンカーボルト17によって梁3に対して接合するか、それに代えて、あるいはそれに加えて、鋼製フレーム13に予め設けておいたスタッドボルト18を梁に対して定着することでそれらを一体化すれば良い。
また、鋼製フレーム13の両側の垂直部を柱1に対して固定するには、図5および図6に示すように柱1を被覆している上記の補強鋼材1cに対して鋼製フレーム13を溶接すれば良く、これにより鋼製フレーム13を柱1に対して一体化できるとともに鋼製フレーム13が補強鋼材1cの機能を兼用するものとなる。
【0021】
なお、必要であれば、図7に示すように鋼製フレーム13を補強鋼材1cに溶接したうえで通しボルト19によって柱1に対して締結しても良い。
また、図5〜図7は柱1が角形断面の場合の例であるが、柱1が円形断面である場合にも図8〜図9に示すように同様の構造で鋼製フレーム13を柱1に対して固定すれば良い。
さらに、図5〜図9は柱1が補強鋼材1cとしての鋼板を装着している場合の例であるが、柱1を鋼管被覆型RC柱(充填鋼管型RC柱)とする場合にはその外殻となっている被覆鋼管に対して鋼製フレーム13を直接的に溶接すれば良い。
さらになお、図示例は鋼製フレーム13をH形鋼により形成した場合の例であるが、所望の剛性を有するものであれば鋼製フレーム13を適宜断面の鋼材により形成しても良い。
いずれにしても、図5に示すように鋼製フレーム13に対する接合板15の溶接位置では鋼製フレーム13の幅を大きくし、またそこにはリブプレート20を溶接することにより補剛効果を高めることが好ましい。
【0022】
上記の制振構造によれば、層剛性を低下させた制振階を設定してそこに制振装置10を集約して設置するので、地震時における建物全体の水平変形が制振階に集中して制振装置10が効率的に作動し、以て建物全体に対する優れた制振効果が得られる。
そして、上記の制振構造によれば、通常の制振構造の場合のように多数の制振装置を各階に分散配置する必要はなく、また特許文献1〜3に示される構造のように建物全体にわたって高剛性のコアを設ける必要もないから、平面計画上の制約が少なく、工費や工期の点でも有利であり、様々な用途、規模、形態の建物に広く適用可能である。
【0023】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下のような適宜の設計的変更や応用が可能である。
【0024】
上記実施形態では地上1階および地上2階を制振階として設定したが、制振階の位置および階数は任意である。但し、制振階を上層部に設定した場合には制振階への変形集中が顕著には生じず、したがって制振装置10が必ずしも効率的に作動し得ないから、制振階は地上1階付近の下層部の範囲に設定すべきである。また、制振階を過度に多層に設定することは制振装置を多数階に分散配置することになって本発明の主旨にもとることになるから、上記実施形態のようにせいぜい2層程度とすることが現実的である。
【0025】
また、上述したように制振階への制振装置10の設置台数や配置パターンは任意であるが、上記実施形態のように複数の制振階のそれぞれに個別に制振装置10を設置するばかりでなく、複数階の制振階に跨る形態で制振装置10を設置することでも良く、その一例を図10に示す。
これは、上記実施形態と同様に地上1階と地上2階を制振階とした場合において、それらの2層に跨る大規模な制振装置10として、2層分の層間変形をトグル機構により増幅する形態のブレースダンパーを採用し、それを平面的には建物中央部の4スパンに設置したものであり、この場合も建物全体に対する効率的な制振効果が得られる。
【符号の説明】
【0026】
1 柱(制振階)
1a 柱主筋
1b 定着頭部
1c 補強鋼材
2 柱 (直上階)
2a 柱主筋
2b 定着頭部
3 梁
10 制振装置
11 回転慣性質量ダンパー
12 オイルダンパー
13 鋼製フレーム
14 V形ブレース
15 接合板
16 取付台
17 アンカーボルト
18 スタッドボルト
19 通しボルト
20 リブプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高層ないし超高層の鉄筋コンクリート造の建物を対象として該建物の要所に制振装置を設置してなる制振構造であって、
下層部に制振階を設定して該制振階に前記制振装置を集約して設置するとともに、前記制振階における柱を上層部における柱よりも小断面として該制振階の層剛性を上層部よりも低下させ、
前記制振階における柱の柱主筋をその直上階の柱の柱主筋の内側に配筋した状態でコンクリート中に定着することにより双方の柱を接合してなることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記制振階の柱は高強度ないし超高強度コンクリートおよび高強度ないし超高強度鉄筋による鉄筋コンクリート柱とし、かつ該柱を補強鋼材により被覆してなることを特徴とする請求項1記載の制振構造。
【請求項3】
制振階の柱および梁により構成される架構フレームの内側に鋼製フレームを固定し、該鋼製フレームの内側に前記制振装置を設置してなることを特徴とする請求項1または2記載の制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−117327(P2012−117327A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269706(P2010−269706)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】