説明

制振組成物

【課題】優れた制振性能を発揮させることの容易な制振組成物を提供する。
【解決手段】制振組成物には、アクリル系樹脂とそのアクリル系樹脂に制振性を付与する制振性付与成分とが含有されている。制振性付与成分は芳香族第二級アミン系化合物及びベンゾフェノン系化合物の少なくとも一方である。芳香族第二級アミン系化合物は、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等の化合物であるとともに同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに20質量部を超える範囲で含有される。ベンゾフェノン系化合物は、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンであるとともに同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに15質量部を超える範囲で含有される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性を付与する制振性付与成分が含有される制振組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料に対して制振性を付与する制振性付与成分としては、芳香族第二級アミン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。特許文献1には、芳香族第二級アミンとして、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等が例示されている。また、同特許文献1には、制振性付与成分の含有量について、樹脂材料と制振性付与成分との合計量を100質量部としたときに、制振性付与成分は20質量部以下の範囲であることが好ましい旨記載されている。特許文献2には、樹脂材料に制振性を付与する制振性付与成分として、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンが開示されている。同特許文献2には、制振性付与成分の含有量について、樹脂材料と制振性付与成分との合計量を100質量部としたときに、制振性付与成分は5質量部〜15質量部の範囲であることが好ましい旨記載されている。
【特許文献1】特開2007−262137号公報
【特許文献2】特開2006−342215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述した芳香族第二級アミン系化合物及びベンゾフェノン系化合物の中でも、特定の化合物はアクリル系樹脂に対して特異な挙動を示すことを見出すことでなされたものである。本発明の目的は、優れた制振性能を発揮させることの容易な制振組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の制振組成物は、高分子材料とその高分子材料に制振性を付与する制振性付与成分とを含有してなり、前記高分子材料はアクリル系樹脂であるとともに、前記制振性付与成分は芳香族第二級アミン系化合物及びベンゾフェノン系化合物の少なくとも一方である制振組成物であって、前記芳香族第二級アミン系化合物は、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも一種の化合物であるとともに同芳香族第二級アミン系化合物と前記アクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに20質量部を超える範囲で含有されてなり、前記ベンゾフェノン系化合物は、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンであるとともに同ベンゾフェノン系化合物と前記アクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに15質量部を超える範囲で含有されてなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、優れた制振性能を発揮させることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
制振組成物には、高分子材料とその高分子材料に制振性を付与する制振性付与成分とが含有されている。高分子材料はアクリル系樹脂であるとともに、制振性付与成分は芳香族第二級アミン系化合物及びベンゾフェノン系化合物の少なくとも一方である。
【0007】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、これらの単独重合体の混合物、並びにこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。アクリル系樹脂は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0008】
芳香族第二級アミン系化合物は、アクリル系樹脂に対して制振性を付与するために含有される。芳香族第二級アミン系化合物は、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも一種の化合物である。制振組成物には、上記芳香族第二級アミン系化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、上記芳香族第二級アミン系化合物が20質量部を超える範囲で含有される。なお、制振組成物の成形性を確保するという観点から、上記芳香族第二級アミン系化合物の含有量は、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、60質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0009】
ベンゾフェノン系化合物は、アクリル系樹脂に対して制振性を付与するために含有される。ベンゾフェノン系化合物は、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンである。制振組成物には、上記ベンゾフェノン系化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、上記ベンゾフェノン系化合物が15質量部を超える範囲で含有される。なお、制振組成物の成形性を確保するという観点から、上記ベンゾフェノン系化合物の含有量は、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、60質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0010】
制振組成物には、その他の成分として、無機充填剤、ゲル化剤、発泡助剤、分散剤、粘度調整剤、増粘剤、流動改良剤、硬化剤、消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、沈降防止剤等を必要に応じて配合することが可能である。無機充填剤としては、例えばマイカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ガラス、シリカ、アルミナ、アルミニウム、水酸化アルミニウム、鉄、アスベスト、酸化チタン、酸化鉄、珪藻土、ゼオライト、フェライト等が挙げられる。ゲル化剤としては、有機ゲル化剤と無機ゲル化剤とに分類され、有機ゲル化剤としてはでんぷん、でんぷん誘導体等が挙げられ、無機ゲル化剤としては硝酸アンモニウム、硝酸カルシウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。また、上記制振性付与成分以外の制振性付与成分として、上記芳香族第二級アミン系化合物以外の芳香族第二級アミン系化合物、上記ベンゾフェノン系化合物以外のベンゾフェノン系化合物、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、正リン酸エステル系化合物、トリアジン系化合物等を含有させてもよい。
【0011】
制振組成物は、アクリル系樹脂、制振性付与成分等を攪拌機等の公知の混合手段を用いて混合することによって調製することができる。
制振組成物は、制振材料又は制振塗料として、振動エネルギーの抑制が要求される各種分野において利用することができる。制振組成物の適用分野としては、例えば自動車、壁材、床材、屋根材、フェンス等の建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。なお、制振塗料として適用する際には、上記アクリル系樹脂をエマルションとして含有させることが好ましい。
【0012】
ここで、芳香族第二級アミン系化合物の中でも、例えばN,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは、アクリル系樹脂の制振性を高めることができる。しかし、N,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、例えば10質量部を超えて含有させると、その含有量の増大に伴ってアクリル系樹脂の制振性は高まらずに、かえって低下する傾向にある。従って、N,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンでは、制振組成物に所望される制振性によっては、十分に高めることが困難となる。
【0013】
また、従来の制振性付与成分としては、ベンゾチアジル系化合物としてのN−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド、正リン酸エステル系化合物としてのトリフェニルホスフェート、ジフェニルアクリレート系化合物としてのエチル−2−シアノ−3,3−ジ−フェニルアクリレート、ベンゾトリアゾール系化合物としての2−[2′−ハイドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラハイドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、トリアジン系化合物としての2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジントリナトリウム塩等が挙げられる。これらの化合物についても、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、例えば10質量部を超えて含有させた場合、アクリル系樹脂の制振性については、同等の傾向又はかえって低下する傾向にある。従って、こうした各化合物についても、制振組成物に所望される制振性によっては、十分に高めることが困難となる。
【0014】
これに対して、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン及び2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンでは、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに、例えば10質量部を超えて含有させても、その含有量の増大に伴ってアクリル系樹脂の制振性が高まる。このように、制振性付与成分の中でも、特定の化合物はアクリル系樹脂に対して特異な挙動を示す。このため、制振性付与成分の含有量を高めることで、所望の制振性を有した制振組成物を容易に調製することができる。
【0015】
こうした制振組成物の制振性能は、制振組成物の損失弾性率又は損失係数によって示される。つまり、制振組成物の損失弾性率の値又は損失係数の値が高ければ高いほど、制振組成物の制振性能が優れることが示される。制振組成物の損失弾性率は周知の動的粘弾性測定装置により測定することができるとともに損失係数は周知の中央加振法損失係数測定装置によって測定することができる。本実施形態の制振組成物は、特に損失弾性率が高まる。ここで、シート状の非拘束型制振材料は、シート面を適用箇所の形状に沿うようにして適用箇所に設けることで、適用箇所とは反対側のシート面が拘束されていない状態で使用される。そして、上記損失弾性率は、非拘束型制振材料の制振性能についての指標となる。すなわち、損失弾性率が高まれば、非拘束型制振材料としての制振性能が高まるため、本実施形態の制振組成物は、シート状の非拘束型制振材料としての利用価値が極めて高い。
【0016】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)アクリル系樹脂に対して、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも一種の芳香族第二級アミン系化合物が含有される。こうした芳香族第二級アミン系化合物は、同化合物とアクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに20質量部を超える範囲で含有されるため、優れた制振性能を発揮させることが容易な制振組成物を提供することができる。
【0017】
(2)アクリル系樹脂に対して、ベンゾフェノン系化合物としての2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンが含有される。こうしたベンゾフェノン系化合物は、同化合物と前記アクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに15質量部を超える範囲で含有されるため、優れた制振性能を発揮させることが容易な制振組成物を提供することができる。
【実施例】
【0018】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜9)
表1に示されるように、メタクリル酸メチル樹脂に対して制振性付与成分を所定量配合して混練機で加熱混練することで制振組成物を調製した。なお、表1に示される配合量を示す数値は質量部である。
【0019】
【表1】

(比較例1〜21)
表2及び表3に示されるように、メタクリル酸メチル樹脂に対して制振性付与成分を所定量配合して混練機で加熱混練することで制振組成物を調製した。なお、表2及び表3に示される配合量を示す数値は質量部である。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

<動的粘弾性の測定>
各例で得られた制振組成物をシート状に成形することによって、厚さ1mmのシート材を得た。各シート材を35mm×3mmの寸法に切断し、動的粘弾性測定用の試験片とした。動的粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリック社製)を用いて各試験片を加振しながら連続的に昇温した際の損失弾性率E″を測定した。測定条件は、加振の周波数10Hz、測定温度範囲−40℃〜+90℃、昇温速度5℃/分とした。各例のシート材について、損失弾性率E″のピーク値を表4に示す。また、図1にはN,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、及びN,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンについて、配合量と損失弾性率E″のピーク値との関係をグラフで示している。なお、各例で用いたメタクリル酸メチル樹脂単体の損失弾性率E″のピーク値は、24.1(10Pa)である。
【0022】
【表4】

図1の結果から明らかなように、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミンについては、配合量の増大に伴って損失弾性率E″のピーク値が高まっていることがわかる。また、表4の実施例5、6及び比較例3の結果から明らかなように、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミンについても、配合量の増大に伴って損失弾性率E″のピーク値が高まっていることがわかる。また、表4の実施例7〜9、比較例4及び比較例5の結果から明らかなように、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンについても、配合量の増大に伴って損失弾性率E″のピーク値が高まっていることがわかる。
【0023】
これに対して、例えばN,N´−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンについては、図1の結果から明らかなように、20質量部の配合における損失弾性率E″のピーク値は、10質量部の配合における損失弾性率E″のピーク値よりも小さい値を示している。また、表4の比較例9〜21結果から明らかなように、N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド、トリフェニルホスフェート、エチル−2−シアノ−3,3−ジ−フェニルアクリレート、2−[2′−ハイドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラハイドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール及び2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジントリナトリウム塩についても、所定の質量部を超える範囲では、配合量の増大に伴って損失弾性率E″のピーク値は同等又は小さくなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】制振性付与成分の配合量と損失弾性率のピーク値との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料とその高分子材料に制振性を付与する制振性付与成分とを含有してなり、前記高分子材料はアクリル系樹脂であるとともに、前記制振性付与成分は芳香族第二級アミン系化合物及びベンゾフェノン系化合物の少なくとも一方である制振組成物であって、
前記芳香族第二級アミン系化合物は、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも一種の化合物であるとともに同芳香族第二級アミン系化合物と前記アクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに20質量部を超える範囲で含有されてなり、
前記ベンゾフェノン系化合物は、2,2′−ジハイドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンであるとともに同ベンゾフェノン系化合物と前記アクリル系樹脂との合計量を100質量部としたときに15質量部を超える範囲で含有されてなることを特徴とする制振組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235117(P2009−235117A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78969(P2008−78969)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】