制振装置及び建物
【課題】長さ寸法にかかわらず突出寸法を抑えることができ、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる制振装置を提供する。
【解決手段】上下フランジ110・120と、上下フランジ110・120をつなぐウェブ130と、を有する梁100に装着され、梁100の上下方向の振動を抑制する制振装置1であって、梁100に固定された振動体保持部10と、振動体保持部10によって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20と、振動体20と梁100との間に装着された減衰材30と、を備える。
【解決手段】上下フランジ110・120と、上下フランジ110・120をつなぐウェブ130と、を有する梁100に装着され、梁100の上下方向の振動を抑制する制振装置1であって、梁100に固定された振動体保持部10と、振動体保持部10によって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20と、振動体20と梁100との間に装着された減衰材30と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄骨造の建物は、比較的軽量且つ高強度という特徴を生かしてスパン長を大きくとることが多い。このような鉄構造の建物が鉄道や幹線道路近くに建造された場合、軽量であるがゆえに列車や大型車両の通行に起因する振動(環境振動)の影響を受けて振動し易く、建物の使用者に不快感を与える場合がある。このため、環境振動による建物の振動を低減させる為の制振装置が種々提案され、実用化されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1では、梁の下フランジやウェブに取り付けられる粘弾性部材を装着した弾性支持部材と、錘と、を備えた梁用の制振装置が提案されている。このような制振装置によれば、梁材に簡単に減衰を付加することができ、粘弾性部材の装着面積を変えることにより減衰能の調整が可能となる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-156044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような制振装置は、弾性支持部材及び錘が梁から水平方向外方向に突出しており、弾性支持部材の長さによっては梁からの突出寸法が大きくなる。このため、制振装置が建物の他の構成部材と干渉したり、上下振動によって他の構成部材を破損させたりする虞がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、錘(振動体)を支持する部材の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができ、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる制振装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る制振装置は、上下フランジと、上下フランジをつなぐウェブと、を有する梁に装着され、梁の上下方向の振動を抑制する制振装置であって、梁に固定された振動体保持部と、振動体保持部によって上下フランジの略中間位置に保持されウェブの長手方向に沿って延在し梁の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体と、振動体と梁との間に装着された減衰材と、を備えるものである。
【0008】
かかる構成を採用すると、振動体が梁のウェブの長手方向に沿うように配置されるので、振動体保持部の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができる。この結果、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる。
【0009】
本発明に係る制振装置において、振動体の少なくとも一部を平面視で梁の上下フランジと重なるように配置するとともに、振動体が上下フランジに直接または間接的に接触することにより振動体の振幅が規制されるように構成することができる。
【0010】
かかる構成を採用すると、梁の上下フランジによって振動体の振複が制限されるので、建物の他の構成部材との干渉を一層良好に回避することができる。
【0011】
また、本発明に係る制振装置において、減衰材を、振動体と梁のウェブ(又はフランジ)との間に装着することができる。
【0012】
かかる構成を採用すると、梁と制振装置との相対的な変位が最も大きい位置に減衰材を装着するので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁のウェブ(又はフランジ)を利用して減衰材を装着することができるので、構成を簡易にすることもできる。
【0013】
また、本発明に係る制振装置において、板バネと、板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、振動体保持部によって天秤棒状に保持される振動体を採用することができる。かかる場合において、振動体保持部から振動体の重錘までの離間寸法を調整自在とすることが好ましい。そして、このような振動体を複数(二個以上)設けることができる。
【0014】
かかる構成を採用すると、振動体保持部から重錘までの離間寸法を変化させることによって固有振動数の微妙な調整を容易に行うことができる。そして、複数の振動体の固有振動数を異なる値に設定することにより、適用可能な建物の固有振動数に幅を持たせることができる。
【0015】
また、本発明に係る制振装置において、板バネと、板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、振動体保持部によって天秤棒状に保持される振動体を採用することができる。かかる場合において、減衰材を、重錘と梁のフランジとの間に装着することができる。
【0016】
かかる構成を採用すると、振動体の先端部たる重錘が梁に対し相対的な変位が最も大きい部分となるが、かかる重錘と梁との相対的な変位が最も大きい位置にこれらの間に介在させて減衰材を装着するので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁のフランジを利用して減衰材を装着することができるので、構成を簡易にすることができる。
【0017】
また、本発明に係る制振装置において、上下方向に弾性復帰可能に収縮する減衰材を採用することができる。かかる場合において、減衰材の上端部を重錘の下端部に接合すると共に下端部を直接(又は振動体保持部を介して)下フランジに接合することにより、重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態の減衰材を重錘の下端部と下フランジとの間に設けることができる。
【0018】
かかる構成を採用すると、重錘の自重により減衰材が弾性復帰可能に収縮した状態で重錘と下フランジとの間に設けられることとなり、重錘を設置するだけで減衰材は減衰能を蓄えることができるものとなる。また、重錘が減衰材を介して梁の下フランジにも支持されることとなり、振動体全体の設置安定性も増すこととなる。また、減衰材は、重錘に接合されると共に梁の下フランジ又は振動体保持部にも接合されているため、振動体の振動に伴って振動体や下フランジから離間することなく伸縮することとなり、その弾性復帰能を十分に発揮することができる。この結果、制振装置の減衰性を高めることができる。
【0019】
本発明に係る建物は、前記した制振装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、振動体保持部の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができ、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる制振装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る制振装置が適用された梁の平面図である。
【図2】図1に示す梁の正面図(II方向から見た図)である。
【図3】図1に示す梁の側面図(III方向から見た図)である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る制振装置の振動体保持部の構成図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る制振装置が適用された梁の平面図である。
【図6】図5に示す梁の正面図(VI方向から見た図)である。
【図7】図5に示す梁の側面図(VII方向から見た図)である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る制振装置の振動体保持部の構成図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る制振装置が適用された梁の正面図である。
【図10】図9に示す梁の右側面図(X方向から見た図)である。
【図11】図9に示す梁の左側面図(XI方向から見た図)である。
【図12】本発明の実施形態に係る制振装置の振動体を構成する板ばねの変形例の部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。以下の各実施形態においては、建物の梁に本発明を適用することとする。なお、以下の各実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の各実施形態に係る制振装置が備えられる建物は、所定寸法の平面モジュールを有する鉄骨ラーメン構造の工業化住宅である。建物の基本架構は、基礎上に立設固定された柱部材、柱部材に剛接合された梁部材等で構成されている。各階の梁部材には小梁部材が適宜架設されており、小梁部材や梁部材(以下、これらを「梁」と称する)によって支持されるALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)製の床パネルにより各階床が構成されている。柱部材は角形の鋼管から構成され、梁はH形鋼から構成されている。以下の各実施形態においては、本建物を構成する梁の上下方向の振動を抑制する制振装置について説明することとする。
【0024】
<第一実施形態>
まず、図1〜図4を用いて、本発明の第一実施形態に係る制振装置1について説明する。なお、本制振装置1が適用される梁100は、図1〜図3に示すように、上フランジ110と、下フランジ120と、上下フランジ110・120をつなぐウェブ130と、を有している。梁100のウェブ130には、モジュールに対応したピッチで他の部材をボルト接合するための(図示していない)ボルト孔が穿設されている。
【0025】
制振装置1は、図1〜図3に示すように、梁100に固定された振動体保持部10と、振動体保持部10によって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20と、振動体20と梁100との間に装着された減衰材30と、を備えている。本実施形態においては、梁100の振動時の振幅がもっとも大きくなる長さ方向中央部に制振装置1を設置している。梁100が振動した際には、制振装置1が梁100と逆位相で振動し、減衰材30の変形によってエネルギーを吸収することにより振動を抑制するようになっている。
【0026】
振動体保持部10は、図4等に示すように、持出板11と、束部材12と、挟み板13と、を有している。持出板11は、梁100の下フランジ120の幅の範囲に納まらない束部材12を支持するために束部材12と下フランジ120との間に介装される部材であり、下フランジ120にボルト11aで固定されている。束部材12は、振動体20を所定の高さ(上下フランジ110・120の中間位置)に保持するものであり、上フランジ12a及び下フランジ12bと、上下フランジ12a・12bをつなぐ水平断面十字状のウェブ12cと、から構成される。束部材12は、持出板11にボルト12dで固定されている。挟み板13は、束部材12の上フランジ12aとともに、振動体20の板バネ21を挟んでボルト13aで固定するものである。
【0027】
振動体20は、図1〜図3に示すように、短冊状の板バネ21と、板バネ21の先端付近に固定された重錘22と、を有している。板バネ21の両端部には、重錘22を固定するための(図1に破線で図示された)長孔21aが穿設されており、板バネ21の中央部には、振動体保持部10への固定用の丸孔が穿設されている。振動体保持部10に板バネ21を固定することにより、振動体20が、図2に示すように、梁100の高さ方向の中心(上下フランジ110・120の中間位置)にウェブ130の延在方向に沿った状態で天秤棒状に水平に保持される。本実施形態においては、図1に示すように、一本の梁100に二個の制振装置1を取り付けているため、一本の梁100に二個の振動体20が備えられることとなる。
【0028】
重錘22は、矩形板状に形成されており、ボルト22aを挿通するボルト孔が穿設されている。本実施形態においては、図2及び図3に示すように、同一形状の複数の重錘22で板バネ21を挟み、さらに上下端に配置された重錘22を一対の挟み部材22bで挟み、各重錘22及び挟み部材22bのボルト孔にボルト22aを挿通することにより、重錘22を板バネ21に固定している。板バネ21の下側の重錘22と上側の重錘22は同数である。振動体保持部10から振動体20の重錘22までの離間寸法は調整自在とされ、重錘22の固定位置(振動体保持部20からの離間寸法)を変化させることにより、固有振動数を変化させることができるようになっている。
【0029】
本実施形態においては、図1に示すように、平面視で振動体20の大部分(約7割程度)が梁100の上下フランジ110・120と重なるように振動体20を配置している。重錘22の上下には、緩衝材23が取り付けられている。緩衝材23は、振動体20が上下に振動した際に重錘22(挟み部材22b)が梁100の上下フランジ110・120を直接打撃することを防止するものである。このような緩衝材23を介して、振動体20が上下フランジ110・120に間接的に接触し、振動体20の振幅が規制されることとなる。なお、梁100の上下フランジ110・120側に緩衝材23を設けることもできる。
【0030】
減衰材30は、粘弾性体からなり、せん断変形を繰りかえすことによってエネルギーを吸収するものである。本実施形態においては、図1及び図3に示すように、減衰材30を振動体20の重錘22と梁100のウェブ130との間に装着している。
【0031】
以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体20が梁100のウェブ130の長手方向に沿うように配置されるので、振動体20の長さ寸法にかかわらず梁100からの突出寸法を抑えることができる。この結果、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる。
【0032】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体20の大部分が平面視で梁100の上下フランジ110・120と重なるように振動体20を配置し、振動体20が上下フランジ110・120に緩衝材23を介して間接的に接触することにより振動体20の振幅を制限することができるので、建物の他の構成部材との干渉を一層良好に回避することができる。なお、緩衝材23を設けずに、振動体20を上下フランジ110・120に直接的に接触させて振動体20の振幅を制限することもできる。
【0033】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、減衰材30を、振動体20と梁100のウェブ130との間(梁100と制振装置1との相対的な変位が最も大きい位置)に装着しているので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁100のウェブ130を利用して減衰材30を装着することができるので、構成を簡易にすることもできる。
【0034】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体保持部10から振動体20の重錘22までの離間寸法を変化させることによって固有振動数の微妙な調整を容易に行うことができる。また、複数の振動体20の固有振動数を異なる値に設定することにより、適用可能な建物の固有振動数に幅を持たせることができる。
【0035】
<第二実施形態>
次に、図5〜図8を用いて、本発明の第二実施形態に係る制振装置1Aについて説明する。本実施形態に係る制振装置1Aは、第一実施形態に係る制振装置1の減衰材の位置や形状を変更したものである。
【0036】
本実施形態に係る制振装置1Aは、図5及び図6に示すように、梁100に固定された振動体保持部10Aと、振動体保持部10Aによって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20Aと、振動体20Aの重錘22Aと梁100の下フランジ120との間に装着された減衰材30Aと、を備えている。
【0037】
振動体保持部10Aは、図8に示すように、持出板11Aと、断面コ字状の支持部材12Aと、挟み板13と、を有している。支持部材12Aは、振動体20Aを所定の高さ(上下フランジ110・120の中間位置)に保持するものであり、上フランジ12Aa及び下フランジ12Abと、上下フランジ12Aa・12Abをつなぐ水平断面T字状のウェブ12Acと、から構成される。支持部材12Aの下フランジ12Abの両端には、図6に示すように、振動体20Aの重錘22Aの下方まで延在する持出板11Aが一体的に連接されており、持出板11Aは、下フランジ120にボルト11aで固定されている。挟み板13は、支持部材12Aの上フランジ12Aaとともに、振動体20Aの板バネ21Aを挟んでボルト13aで固定するものである。
【0038】
振動体20Aは、図5〜図7に示すように、短冊状の板バネ21Aと、板バネ21Aの先端付近に固定された重錘22Aと、を有している。板バネ21Aの両端部には、重錘22Aを固定するための丸孔が穿設されており、板バネ21Aの中央部には、振動体保持部10Aへの固定用の丸孔が穿設されている。振動体保持部10Aに板バネ21Aを固定することにより、振動体20Aが、図6に示すように、梁100の高さ方向の中心(上下フランジ110・120の中間位置)にウェブ130の延在方向に沿った状態で天秤棒状に水平に保持される。本実施形態においては、図5及び図7に示すように、一本の梁100に一個の制振装置1Aを取り付けている。
【0039】
重錘22Aは、直方体形状を有しており、ボルト22aを挿通させるボルト孔が穿設されている。本実施形態においては、図6及び図7に示すように、同一形状の重錘22Aで板バネ21Aを挟み、各重錘22Aのボルト孔にボルト22aを挿通することにより、重錘22Aを板バネ21Aに固定している。重錘22Aの上方には、円筒形状のゴム体からなる緩衝材23Aが取り付けられている。緩衝材23Aは、振動体20Aが上下に振動した際に重錘22Aが梁100の上フランジ110を直接打撃することを防止するものである。
【0040】
減衰材30Aは、円筒形状のゴム体からなり、上下方向及び左右方向に弾性復帰可能に伸張/収縮してエネルギーを吸収するものである。減衰材30Aの上端部は、重錘22Aの下端部に接合されている。一方、減衰材30Aの下端部は、持出板10Aの先端部上面に設けられたゴム体設置部14Aに接合されている。このため、減衰材30Aは、重錘22Aの自重を受けて僅かに縮んだ状態で重錘22Aの下端部と下フランジ120との間に配置され、これによって振動体20Aの静止状態のうちから弾性復帰能を蓄えるものとなっており、振動体20Aの振動時にはその弾性復帰力によって重錘22Aの振動を減衰させていくものとなっている。また、減衰材30Aは、緩衝材としても機能するものである。
【0041】
なお、本実施形態においては、振動体20Aの重錘22Aやゴム体設置部14Aへの接合が接着剤によってなされているが、このような接着剤による接合に留まらず、重錘22A側に嵌合部を設けると共に減衰材30A側にフックを設ける等の機械式接合や、鋲着等の手段による接合を採用することも可能である。また、本実施形態においては、持出板10Aのゴム体設置部14Aに減衰材30Aを設置する構成を採用しているため、本実施形態に係る制振装置1Aは、梁100に設置する前から完成した状態とされている。
【0042】
以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、振動体20Aが梁100のウェブ130の長手方向に沿うように配置されるので、振動体20Aの長さ寸法にかかわらず梁100からの突出寸法が抑えられる。この結果、建物の他の構成部材との干渉が良好に回避されることとなる。
【0043】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、振動体20Aの重錘22Aと梁100との相対的な変位が最も大きい位置に減衰材30Aを装着するので、高い減衰効果が得られる。また、梁100の下フランジ120を利用して減衰材30Aが装着されるので、構成が簡易となる。
【0044】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、重錘22Aの自重により減衰材30Aが弾性復帰可能に収縮した状態で重錘22Aと下フランジ120との間に設けられることとなり、重錘22Aを設置するだけで減衰材30Aは減衰能を蓄えることができるものとなる。また、重錘22Aが減衰材30Aを介して梁100の下フランジ120にも支持されることとなり、振動体全体の設置安定性も増すこととなる。
【0045】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、減衰材30Aが、重錘22Aに接合されると共に振動体保持部10Aにも接合されているため、振動体20Aの振動に伴って振動体20Aや下フランジ120から離間することなく伸縮することとなり、その弾性復帰能を十分に発揮するものとなる。この結果、制振装置1A自体の減衰性が高められることとなる。また、振動体20Aの弾性復帰能を発揮させることができる範囲で振動体20Aは振動することとなるが、減衰材30Aは上下方向のみならず左右方向にも弾性復帰能を発揮するものであるため、振動体20Aが上下方向の振動と共に水平方向に振動する場合における振動時のあばれをある程度制御するものとなっている。
【0046】
<変形例>
続いて、図9〜図12を用いて、本実施形態の変形例について説明する。
【0047】
振動体保持部10・10Aは、天地を逆にして上フランジ110から垂下するようにしてもよい。また、下フランジ120から持ち出すように振動体保持部10・10Aを構成する(例えば、一対のアングル状の部材で板バネ21・21Aを挟持する)こともできる。
【0048】
振動体20・20Aは、図1、図2、図5、図6に示すような左右対称形に限られるものではなく、例えば図9に示すように板バネ21と重錘22が振動体保持部10から一方向に延びるように構成してもよい。重錘22を複数設ける場合には、固有振動数を揃えてもよいし、変化させてもよい。また、図9〜図11に示すように、振動体20の重錘22を外側から覆うような断面コ字状のカバー材40を設けることもできる。
【0049】
減衰材30は、図9及び図10に示すように、梁100の上下フランジ110・120と板バネ21との間に配置することもできる。また、減衰材30としては、小型のオイルダンパーを採用することもできる。なお、第二実施形態においては、振動体保持部10Aの持出板11Aを介して減衰材30Aを下フランジ120に取り付けた例を示したが、下フランジ120に直接減衰材を取り付けることもできる。また、第二実施形態においては、重錘22Aと下フランジ120との間に減衰材30Aを配置した例を示したが、重錘22Aと上フランジ110との間に減衰材を配置する(減衰材の上端部を上フランジ110の下面に接合し、減衰材の下端部を重錘22Aの上端部に接合し、重錘22Aの自重により減衰材が僅かに伸びた状態とする)こともできる。
【0050】
重錘22の固定に用いる板バネ21の長孔21aに代えて、図12(A)に示すように、丸孔21bを複数設けて固有振動数を段階的に調整できるようにすることもできる。なお、長孔21aや丸孔21bの近傍には、得られる固有振動数を表示しておく(長孔とした場合には、図12(B)に示すように、位置を特定する目盛も刻む)のが好ましい。
【0051】
また、制振装置全体の厚さを薄くし、梁100の上下フランジ110・120間に制振装置全体を収容する構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、住宅等の建物には限定されず橋梁等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1・1A…制振装置
10・10A…振動体保持部
20・20A…振動体
21・21A…板バネ
22・22A…重錘
30・30A…減衰材
100…梁
110…上フランジ
120…下フランジ
130…ウェブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄骨造の建物は、比較的軽量且つ高強度という特徴を生かしてスパン長を大きくとることが多い。このような鉄構造の建物が鉄道や幹線道路近くに建造された場合、軽量であるがゆえに列車や大型車両の通行に起因する振動(環境振動)の影響を受けて振動し易く、建物の使用者に不快感を与える場合がある。このため、環境振動による建物の振動を低減させる為の制振装置が種々提案され、実用化されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1では、梁の下フランジやウェブに取り付けられる粘弾性部材を装着した弾性支持部材と、錘と、を備えた梁用の制振装置が提案されている。このような制振装置によれば、梁材に簡単に減衰を付加することができ、粘弾性部材の装着面積を変えることにより減衰能の調整が可能となる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-156044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような制振装置は、弾性支持部材及び錘が梁から水平方向外方向に突出しており、弾性支持部材の長さによっては梁からの突出寸法が大きくなる。このため、制振装置が建物の他の構成部材と干渉したり、上下振動によって他の構成部材を破損させたりする虞がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、錘(振動体)を支持する部材の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができ、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる制振装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る制振装置は、上下フランジと、上下フランジをつなぐウェブと、を有する梁に装着され、梁の上下方向の振動を抑制する制振装置であって、梁に固定された振動体保持部と、振動体保持部によって上下フランジの略中間位置に保持されウェブの長手方向に沿って延在し梁の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体と、振動体と梁との間に装着された減衰材と、を備えるものである。
【0008】
かかる構成を採用すると、振動体が梁のウェブの長手方向に沿うように配置されるので、振動体保持部の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができる。この結果、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる。
【0009】
本発明に係る制振装置において、振動体の少なくとも一部を平面視で梁の上下フランジと重なるように配置するとともに、振動体が上下フランジに直接または間接的に接触することにより振動体の振幅が規制されるように構成することができる。
【0010】
かかる構成を採用すると、梁の上下フランジによって振動体の振複が制限されるので、建物の他の構成部材との干渉を一層良好に回避することができる。
【0011】
また、本発明に係る制振装置において、減衰材を、振動体と梁のウェブ(又はフランジ)との間に装着することができる。
【0012】
かかる構成を採用すると、梁と制振装置との相対的な変位が最も大きい位置に減衰材を装着するので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁のウェブ(又はフランジ)を利用して減衰材を装着することができるので、構成を簡易にすることもできる。
【0013】
また、本発明に係る制振装置において、板バネと、板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、振動体保持部によって天秤棒状に保持される振動体を採用することができる。かかる場合において、振動体保持部から振動体の重錘までの離間寸法を調整自在とすることが好ましい。そして、このような振動体を複数(二個以上)設けることができる。
【0014】
かかる構成を採用すると、振動体保持部から重錘までの離間寸法を変化させることによって固有振動数の微妙な調整を容易に行うことができる。そして、複数の振動体の固有振動数を異なる値に設定することにより、適用可能な建物の固有振動数に幅を持たせることができる。
【0015】
また、本発明に係る制振装置において、板バネと、板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、振動体保持部によって天秤棒状に保持される振動体を採用することができる。かかる場合において、減衰材を、重錘と梁のフランジとの間に装着することができる。
【0016】
かかる構成を採用すると、振動体の先端部たる重錘が梁に対し相対的な変位が最も大きい部分となるが、かかる重錘と梁との相対的な変位が最も大きい位置にこれらの間に介在させて減衰材を装着するので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁のフランジを利用して減衰材を装着することができるので、構成を簡易にすることができる。
【0017】
また、本発明に係る制振装置において、上下方向に弾性復帰可能に収縮する減衰材を採用することができる。かかる場合において、減衰材の上端部を重錘の下端部に接合すると共に下端部を直接(又は振動体保持部を介して)下フランジに接合することにより、重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態の減衰材を重錘の下端部と下フランジとの間に設けることができる。
【0018】
かかる構成を採用すると、重錘の自重により減衰材が弾性復帰可能に収縮した状態で重錘と下フランジとの間に設けられることとなり、重錘を設置するだけで減衰材は減衰能を蓄えることができるものとなる。また、重錘が減衰材を介して梁の下フランジにも支持されることとなり、振動体全体の設置安定性も増すこととなる。また、減衰材は、重錘に接合されると共に梁の下フランジ又は振動体保持部にも接合されているため、振動体の振動に伴って振動体や下フランジから離間することなく伸縮することとなり、その弾性復帰能を十分に発揮することができる。この結果、制振装置の減衰性を高めることができる。
【0019】
本発明に係る建物は、前記した制振装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、振動体保持部の長さ寸法にかかわらず梁からの突出寸法を抑えることができ、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる制振装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る制振装置が適用された梁の平面図である。
【図2】図1に示す梁の正面図(II方向から見た図)である。
【図3】図1に示す梁の側面図(III方向から見た図)である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る制振装置の振動体保持部の構成図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る制振装置が適用された梁の平面図である。
【図6】図5に示す梁の正面図(VI方向から見た図)である。
【図7】図5に示す梁の側面図(VII方向から見た図)である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る制振装置の振動体保持部の構成図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る制振装置が適用された梁の正面図である。
【図10】図9に示す梁の右側面図(X方向から見た図)である。
【図11】図9に示す梁の左側面図(XI方向から見た図)である。
【図12】本発明の実施形態に係る制振装置の振動体を構成する板ばねの変形例の部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。以下の各実施形態においては、建物の梁に本発明を適用することとする。なお、以下の各実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の各実施形態に係る制振装置が備えられる建物は、所定寸法の平面モジュールを有する鉄骨ラーメン構造の工業化住宅である。建物の基本架構は、基礎上に立設固定された柱部材、柱部材に剛接合された梁部材等で構成されている。各階の梁部材には小梁部材が適宜架設されており、小梁部材や梁部材(以下、これらを「梁」と称する)によって支持されるALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)製の床パネルにより各階床が構成されている。柱部材は角形の鋼管から構成され、梁はH形鋼から構成されている。以下の各実施形態においては、本建物を構成する梁の上下方向の振動を抑制する制振装置について説明することとする。
【0024】
<第一実施形態>
まず、図1〜図4を用いて、本発明の第一実施形態に係る制振装置1について説明する。なお、本制振装置1が適用される梁100は、図1〜図3に示すように、上フランジ110と、下フランジ120と、上下フランジ110・120をつなぐウェブ130と、を有している。梁100のウェブ130には、モジュールに対応したピッチで他の部材をボルト接合するための(図示していない)ボルト孔が穿設されている。
【0025】
制振装置1は、図1〜図3に示すように、梁100に固定された振動体保持部10と、振動体保持部10によって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20と、振動体20と梁100との間に装着された減衰材30と、を備えている。本実施形態においては、梁100の振動時の振幅がもっとも大きくなる長さ方向中央部に制振装置1を設置している。梁100が振動した際には、制振装置1が梁100と逆位相で振動し、減衰材30の変形によってエネルギーを吸収することにより振動を抑制するようになっている。
【0026】
振動体保持部10は、図4等に示すように、持出板11と、束部材12と、挟み板13と、を有している。持出板11は、梁100の下フランジ120の幅の範囲に納まらない束部材12を支持するために束部材12と下フランジ120との間に介装される部材であり、下フランジ120にボルト11aで固定されている。束部材12は、振動体20を所定の高さ(上下フランジ110・120の中間位置)に保持するものであり、上フランジ12a及び下フランジ12bと、上下フランジ12a・12bをつなぐ水平断面十字状のウェブ12cと、から構成される。束部材12は、持出板11にボルト12dで固定されている。挟み板13は、束部材12の上フランジ12aとともに、振動体20の板バネ21を挟んでボルト13aで固定するものである。
【0027】
振動体20は、図1〜図3に示すように、短冊状の板バネ21と、板バネ21の先端付近に固定された重錘22と、を有している。板バネ21の両端部には、重錘22を固定するための(図1に破線で図示された)長孔21aが穿設されており、板バネ21の中央部には、振動体保持部10への固定用の丸孔が穿設されている。振動体保持部10に板バネ21を固定することにより、振動体20が、図2に示すように、梁100の高さ方向の中心(上下フランジ110・120の中間位置)にウェブ130の延在方向に沿った状態で天秤棒状に水平に保持される。本実施形態においては、図1に示すように、一本の梁100に二個の制振装置1を取り付けているため、一本の梁100に二個の振動体20が備えられることとなる。
【0028】
重錘22は、矩形板状に形成されており、ボルト22aを挿通するボルト孔が穿設されている。本実施形態においては、図2及び図3に示すように、同一形状の複数の重錘22で板バネ21を挟み、さらに上下端に配置された重錘22を一対の挟み部材22bで挟み、各重錘22及び挟み部材22bのボルト孔にボルト22aを挿通することにより、重錘22を板バネ21に固定している。板バネ21の下側の重錘22と上側の重錘22は同数である。振動体保持部10から振動体20の重錘22までの離間寸法は調整自在とされ、重錘22の固定位置(振動体保持部20からの離間寸法)を変化させることにより、固有振動数を変化させることができるようになっている。
【0029】
本実施形態においては、図1に示すように、平面視で振動体20の大部分(約7割程度)が梁100の上下フランジ110・120と重なるように振動体20を配置している。重錘22の上下には、緩衝材23が取り付けられている。緩衝材23は、振動体20が上下に振動した際に重錘22(挟み部材22b)が梁100の上下フランジ110・120を直接打撃することを防止するものである。このような緩衝材23を介して、振動体20が上下フランジ110・120に間接的に接触し、振動体20の振幅が規制されることとなる。なお、梁100の上下フランジ110・120側に緩衝材23を設けることもできる。
【0030】
減衰材30は、粘弾性体からなり、せん断変形を繰りかえすことによってエネルギーを吸収するものである。本実施形態においては、図1及び図3に示すように、減衰材30を振動体20の重錘22と梁100のウェブ130との間に装着している。
【0031】
以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体20が梁100のウェブ130の長手方向に沿うように配置されるので、振動体20の長さ寸法にかかわらず梁100からの突出寸法を抑えることができる。この結果、建物の他の構成部材との干渉を良好に回避することができる。
【0032】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体20の大部分が平面視で梁100の上下フランジ110・120と重なるように振動体20を配置し、振動体20が上下フランジ110・120に緩衝材23を介して間接的に接触することにより振動体20の振幅を制限することができるので、建物の他の構成部材との干渉を一層良好に回避することができる。なお、緩衝材23を設けずに、振動体20を上下フランジ110・120に直接的に接触させて振動体20の振幅を制限することもできる。
【0033】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、減衰材30を、振動体20と梁100のウェブ130との間(梁100と制振装置1との相対的な変位が最も大きい位置)に装着しているので、高い減衰効果を得ることができる。また、梁100のウェブ130を利用して減衰材30を装着することができるので、構成を簡易にすることもできる。
【0034】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1においては、振動体保持部10から振動体20の重錘22までの離間寸法を変化させることによって固有振動数の微妙な調整を容易に行うことができる。また、複数の振動体20の固有振動数を異なる値に設定することにより、適用可能な建物の固有振動数に幅を持たせることができる。
【0035】
<第二実施形態>
次に、図5〜図8を用いて、本発明の第二実施形態に係る制振装置1Aについて説明する。本実施形態に係る制振装置1Aは、第一実施形態に係る制振装置1の減衰材の位置や形状を変更したものである。
【0036】
本実施形態に係る制振装置1Aは、図5及び図6に示すように、梁100に固定された振動体保持部10Aと、振動体保持部10Aによって上下フランジ110・120の略中間位置に保持されウェブ130の長手方向に沿って延在し梁100の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体20Aと、振動体20Aの重錘22Aと梁100の下フランジ120との間に装着された減衰材30Aと、を備えている。
【0037】
振動体保持部10Aは、図8に示すように、持出板11Aと、断面コ字状の支持部材12Aと、挟み板13と、を有している。支持部材12Aは、振動体20Aを所定の高さ(上下フランジ110・120の中間位置)に保持するものであり、上フランジ12Aa及び下フランジ12Abと、上下フランジ12Aa・12Abをつなぐ水平断面T字状のウェブ12Acと、から構成される。支持部材12Aの下フランジ12Abの両端には、図6に示すように、振動体20Aの重錘22Aの下方まで延在する持出板11Aが一体的に連接されており、持出板11Aは、下フランジ120にボルト11aで固定されている。挟み板13は、支持部材12Aの上フランジ12Aaとともに、振動体20Aの板バネ21Aを挟んでボルト13aで固定するものである。
【0038】
振動体20Aは、図5〜図7に示すように、短冊状の板バネ21Aと、板バネ21Aの先端付近に固定された重錘22Aと、を有している。板バネ21Aの両端部には、重錘22Aを固定するための丸孔が穿設されており、板バネ21Aの中央部には、振動体保持部10Aへの固定用の丸孔が穿設されている。振動体保持部10Aに板バネ21Aを固定することにより、振動体20Aが、図6に示すように、梁100の高さ方向の中心(上下フランジ110・120の中間位置)にウェブ130の延在方向に沿った状態で天秤棒状に水平に保持される。本実施形態においては、図5及び図7に示すように、一本の梁100に一個の制振装置1Aを取り付けている。
【0039】
重錘22Aは、直方体形状を有しており、ボルト22aを挿通させるボルト孔が穿設されている。本実施形態においては、図6及び図7に示すように、同一形状の重錘22Aで板バネ21Aを挟み、各重錘22Aのボルト孔にボルト22aを挿通することにより、重錘22Aを板バネ21Aに固定している。重錘22Aの上方には、円筒形状のゴム体からなる緩衝材23Aが取り付けられている。緩衝材23Aは、振動体20Aが上下に振動した際に重錘22Aが梁100の上フランジ110を直接打撃することを防止するものである。
【0040】
減衰材30Aは、円筒形状のゴム体からなり、上下方向及び左右方向に弾性復帰可能に伸張/収縮してエネルギーを吸収するものである。減衰材30Aの上端部は、重錘22Aの下端部に接合されている。一方、減衰材30Aの下端部は、持出板10Aの先端部上面に設けられたゴム体設置部14Aに接合されている。このため、減衰材30Aは、重錘22Aの自重を受けて僅かに縮んだ状態で重錘22Aの下端部と下フランジ120との間に配置され、これによって振動体20Aの静止状態のうちから弾性復帰能を蓄えるものとなっており、振動体20Aの振動時にはその弾性復帰力によって重錘22Aの振動を減衰させていくものとなっている。また、減衰材30Aは、緩衝材としても機能するものである。
【0041】
なお、本実施形態においては、振動体20Aの重錘22Aやゴム体設置部14Aへの接合が接着剤によってなされているが、このような接着剤による接合に留まらず、重錘22A側に嵌合部を設けると共に減衰材30A側にフックを設ける等の機械式接合や、鋲着等の手段による接合を採用することも可能である。また、本実施形態においては、持出板10Aのゴム体設置部14Aに減衰材30Aを設置する構成を採用しているため、本実施形態に係る制振装置1Aは、梁100に設置する前から完成した状態とされている。
【0042】
以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、振動体20Aが梁100のウェブ130の長手方向に沿うように配置されるので、振動体20Aの長さ寸法にかかわらず梁100からの突出寸法が抑えられる。この結果、建物の他の構成部材との干渉が良好に回避されることとなる。
【0043】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、振動体20Aの重錘22Aと梁100との相対的な変位が最も大きい位置に減衰材30Aを装着するので、高い減衰効果が得られる。また、梁100の下フランジ120を利用して減衰材30Aが装着されるので、構成が簡易となる。
【0044】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、重錘22Aの自重により減衰材30Aが弾性復帰可能に収縮した状態で重錘22Aと下フランジ120との間に設けられることとなり、重錘22Aを設置するだけで減衰材30Aは減衰能を蓄えることができるものとなる。また、重錘22Aが減衰材30Aを介して梁100の下フランジ120にも支持されることとなり、振動体全体の設置安定性も増すこととなる。
【0045】
また、以上説明した実施形態に係る制振装置1Aにおいては、減衰材30Aが、重錘22Aに接合されると共に振動体保持部10Aにも接合されているため、振動体20Aの振動に伴って振動体20Aや下フランジ120から離間することなく伸縮することとなり、その弾性復帰能を十分に発揮するものとなる。この結果、制振装置1A自体の減衰性が高められることとなる。また、振動体20Aの弾性復帰能を発揮させることができる範囲で振動体20Aは振動することとなるが、減衰材30Aは上下方向のみならず左右方向にも弾性復帰能を発揮するものであるため、振動体20Aが上下方向の振動と共に水平方向に振動する場合における振動時のあばれをある程度制御するものとなっている。
【0046】
<変形例>
続いて、図9〜図12を用いて、本実施形態の変形例について説明する。
【0047】
振動体保持部10・10Aは、天地を逆にして上フランジ110から垂下するようにしてもよい。また、下フランジ120から持ち出すように振動体保持部10・10Aを構成する(例えば、一対のアングル状の部材で板バネ21・21Aを挟持する)こともできる。
【0048】
振動体20・20Aは、図1、図2、図5、図6に示すような左右対称形に限られるものではなく、例えば図9に示すように板バネ21と重錘22が振動体保持部10から一方向に延びるように構成してもよい。重錘22を複数設ける場合には、固有振動数を揃えてもよいし、変化させてもよい。また、図9〜図11に示すように、振動体20の重錘22を外側から覆うような断面コ字状のカバー材40を設けることもできる。
【0049】
減衰材30は、図9及び図10に示すように、梁100の上下フランジ110・120と板バネ21との間に配置することもできる。また、減衰材30としては、小型のオイルダンパーを採用することもできる。なお、第二実施形態においては、振動体保持部10Aの持出板11Aを介して減衰材30Aを下フランジ120に取り付けた例を示したが、下フランジ120に直接減衰材を取り付けることもできる。また、第二実施形態においては、重錘22Aと下フランジ120との間に減衰材30Aを配置した例を示したが、重錘22Aと上フランジ110との間に減衰材を配置する(減衰材の上端部を上フランジ110の下面に接合し、減衰材の下端部を重錘22Aの上端部に接合し、重錘22Aの自重により減衰材が僅かに伸びた状態とする)こともできる。
【0050】
重錘22の固定に用いる板バネ21の長孔21aに代えて、図12(A)に示すように、丸孔21bを複数設けて固有振動数を段階的に調整できるようにすることもできる。なお、長孔21aや丸孔21bの近傍には、得られる固有振動数を表示しておく(長孔とした場合には、図12(B)に示すように、位置を特定する目盛も刻む)のが好ましい。
【0051】
また、制振装置全体の厚さを薄くし、梁100の上下フランジ110・120間に制振装置全体を収容する構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、住宅等の建物には限定されず橋梁等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1・1A…制振装置
10・10A…振動体保持部
20・20A…振動体
21・21A…板バネ
22・22A…重錘
30・30A…減衰材
100…梁
110…上フランジ
120…下フランジ
130…ウェブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下フランジと、前記上下フランジをつなぐウェブと、を有する梁に装着され、前記梁の上下方向の振動を抑制する制振装置であって、
前記梁に固定された振動体保持部と、
前記振動体保持部によって前記上下フランジの略中間位置に保持され前記ウェブの長手方向に沿って延在し前記梁の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体と、
前記振動体と前記梁との間に装着された減衰材と、を備える、
制振装置。
【請求項2】
前記振動体は、その少なくとも一部が平面視で前記梁の前記上下フランジと重なるように配置され、前記上下フランジに直接または間接的に接触することによりその振幅が規制されるように構成される、
請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記減衰材は、前記振動体と前記梁の前記ウェブとの間に装着されている、
請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記振動体は、板バネと、前記板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、前記振動体保持部によって天秤棒状に保持される、
請求項1から3の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記振動体は、板バネと、前記板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、前記振動体保持部によって天秤棒状に保持されており、
前記減衰材は、前記重錘と、前記梁の前記上下フランジの何れか一方又は両方と、の間に装着されている、
請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項6】
前記減衰材は、少なくとも上下方向に弾性復帰可能に収縮するものであって、上端部が前記重錘の下端部に接合されるとともに下端部が前記下フランジに直接接合され、前記重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態で前記重錘の下端部と前記下フランジとの間に設けられている、
請求項5に記載の制振装置。
【請求項7】
前記減衰材は、少なくとも上下方向に弾性復帰可能に収縮するものであって、上端部が前記重錘の下端部に接合されるとともに下端部が前記振動体保持部を介して前記下フランジに接合され、前記重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態で前記重錘の下端部と前記下フランジとの間に設けられている、
請求項5に記載の制振装置。
【請求項8】
前記振動体保持部から前記振動体の前記重錘までの離間寸法が調整自在とされる、
請求項4から7の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項9】
前記振動体は、複数設けられる、
請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の制振装置を備える、建物。
【請求項1】
上下フランジと、前記上下フランジをつなぐウェブと、を有する梁に装着され、前記梁の上下方向の振動を抑制する制振装置であって、
前記梁に固定された振動体保持部と、
前記振動体保持部によって前記上下フランジの略中間位置に保持され前記ウェブの長手方向に沿って延在し前記梁の上下方向の振動に伴って上下方向に振動する振動体と、
前記振動体と前記梁との間に装着された減衰材と、を備える、
制振装置。
【請求項2】
前記振動体は、その少なくとも一部が平面視で前記梁の前記上下フランジと重なるように配置され、前記上下フランジに直接または間接的に接触することによりその振幅が規制されるように構成される、
請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記減衰材は、前記振動体と前記梁の前記ウェブとの間に装着されている、
請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記振動体は、板バネと、前記板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、前記振動体保持部によって天秤棒状に保持される、
請求項1から3の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記振動体は、板バネと、前記板バネの先端付近に固定された重錘と、を有し、前記振動体保持部によって天秤棒状に保持されており、
前記減衰材は、前記重錘と、前記梁の前記上下フランジの何れか一方又は両方と、の間に装着されている、
請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項6】
前記減衰材は、少なくとも上下方向に弾性復帰可能に収縮するものであって、上端部が前記重錘の下端部に接合されるとともに下端部が前記下フランジに直接接合され、前記重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態で前記重錘の下端部と前記下フランジとの間に設けられている、
請求項5に記載の制振装置。
【請求項7】
前記減衰材は、少なくとも上下方向に弾性復帰可能に収縮するものであって、上端部が前記重錘の下端部に接合されるとともに下端部が前記振動体保持部を介して前記下フランジに接合され、前記重錘の自重を受けて僅かに縮んだ状態で前記重錘の下端部と前記下フランジとの間に設けられている、
請求項5に記載の制振装置。
【請求項8】
前記振動体保持部から前記振動体の前記重錘までの離間寸法が調整自在とされる、
請求項4から7の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項9】
前記振動体は、複数設けられる、
請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の制振装置を備える、建物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−162973(P2012−162973A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251773(P2011−251773)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
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