説明

制振装置

【課題】センサや電子制御装置等の電子部品を使用することがなく、したがって、故障のおそれが少ない機械的な構成で地震時の建物の振動や走行時の乗り物の車体の振動を低減する。
【解決手段】油圧を発生させる油圧源Aと、油圧源Aから供給された油圧を、第1慣性体M1の一方向と他方向の振動に対応して油路p2と第2油路p2とに切り換えて出力する切り換え装置10と、第1慣性体M1に連結されたベース部Bと、ベース部Bに対して一方向と他方向とに移動可能な第2慣性体M2とを有するアクチュエータ20とを備え、アクチュエータ20は、油路p2から供給される油圧により、第2慣性体M2を一方向に付勢して第1慣性体M1に他方向の反作用を作用させ、油路p3から供給される油圧により、第2慣性体M2を他方向に付勢して第1慣性体M1に一方向の反作用を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時の建物の振動や、走行中の乗り物の振動を抑制する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制振装置は、地震時の建物の振動や走行中の自動車の車体の振動等の外乱入力をセンサによって電気的に計測(検出)し、その検出データをコンピュータ、電気演算回路等の電子制御装置にて演算処理し、アクチュエータ等の制振駆動装置に目標信号を与えて制御を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−26923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の制振装置において、計測及び演算処理は、電子制御部品を使用した微小な電気信号処理であり、複雑でかつ精密であるため、些細なことが原因となって故障するおそれがあり、この場合には、制振装置全体が所望の機能を発揮できなくなる。
【0005】
例えば、アクティブ制振装置を構築した場合であっても、仮に制振装置に故障が発生すると、無制御状態となって制振装置が暴走し、建物等を損壊させるおそれもある。
【0006】
このため、ほとんどのアクティブ制振装置は、制御装置の電源を切り、純粋に機械的従動的振動(パッシブ)に仕様を落として使用している。
【0007】
すなわち、理論的には理想的なものが実現可能ではあるものの、実用的には、安全を優先させるため、効果は低減されるが従動的(パッシブ)制御で使用しているものが大半を占めている。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、センサや電子制御装置等の電子部品を使用することがなく、したがって、故障のおそれが少ない機械的な構成で地震時の建物の振動や走行時の乗り物の車体の振動を抑制することができる制振装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、振動源からの振動の伝達により一方向と他方向に交互に振動する第1慣性体の振動を抑制する制振装置において、油圧を発生させる油圧源と、前記油圧源から供給された油圧を、前記第1慣性体の前記一方向と前記他方向の振動に対応して第1油路と第2油路とに切り換えて出力する切り換え装置と、前記第1慣性体と前記振動源とのうちの一方に連結されたベース部と、前記ベース部に対して前記一方向と前記他方向とに移動可能な第2慣性体とを有するアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータは、前記第1油路から供給される油圧により、前記第2慣性体を前記一方向に付勢して前記第1慣性体に前記他方向の反作用を作用させ、前記第2油路から供給される油圧により、前記第2慣性体を前記他方向に付勢して前記第1慣性体に前記一方向の反作用を作用させる、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る制振装置において、前記アクチュエータは、前記第1慣性体と前記第2慣性体とのうちの一方に連結されたシリンダと、他方に連結されて前記シリンダ内を移動するピストンとを有する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る制振装置において、前記切り換え装置は、バルブ本体と、前記バルブ本体に対して相対移動して前記油圧源から供給された油圧を前記第1油路と前記第2油路とに切り換えるスプールとを有し、前記シリンダは、前記ピストンを挟んで一方側に、前記第1油路に接続された第1油室を有し、他方側に前記第2油路に接続された第2油室を有し、前記第1油路に供給された油圧により、前記第2慣性体を前記一方向に付勢し、前記第2油路に供給された油圧により、前記第2慣性体を前記他方向に付勢する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る制振装置において、前記切り換え装置は、前記振動源の振動が伝達されない又は伝達されにくい第3慣性体を有し、前記バルブ本体が前記第3慣性体と一体的に構成されるとともに、前記スプールが前記振動源と一体的に構成されている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項3に係る制振装置において、前記切り換え装置は、前記振動源及び前記スプールに連結されて、前記バルブ本体に対して前記スプールを相対移動させるリンク機構を有する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項3に係る制振装置において、前記アクチュエータは、前記第1慣性体に連結されたシリンダと、前記第2慣性体に連結されて前記シリンダ内を移動するピストンとを有し、前記第2慣性体は、前記ピストンが別体に構成されるとともに、前記ピストンの移動により前記ピストンと同方向に付勢される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、油圧源から発生された油圧を、切り換え装置によって第1油路と第2油路とに切り換えて出力することで、第1慣性体から独立している第2慣性体を第1慣性体の振動方向(一方向及び他方向)と同方向に付勢し、その反作用として第1慣性体に振動方向と逆方向の反作用を作用させることができ、これにより、第1慣性体の振動を抑制することができる。すなわち、第1慣性体の振動を検出する電気的なセンサや、センサの出力に基づいて制振を制御する電子制御部品等を使用することなく、機械的な構成で第1慣性体の振動を抑制することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、アクチュエータは、第2慣性体とシリンダとピストンとを有し、第1慣性体と第2慣性体とのうちの一方にシリンダが連結され、他方にピストンが連結されているので、シリンダに対するピストンの相対移動により、第1慣性体に対して第2慣性体を相対移動させることができ、これにより、第1慣性体に振動方向とは逆向きの反作用を作用させることができる。すなわち、シリンダとピストンとを使用した簡単で信頼性の高い機械的な構成により、第1慣性体の振動を抑制することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、切り換え装置は、バルブ本体とスプールとによって第1油路と第2油路とを切り換えることができる。また、アクチュエータは、第1油路を介して第1油室に供給された油圧によりピストンをシリンダに対して相対移動させて第2慣性体を第1慣性体に対して相対移動させ、これにより、第2慣性体からの反作用により、第1慣性体の一方向の振動を抑制することができる。同様に、アクチュエータは、第2油路を介して第2油室に供給された油圧によりピストンをシリンダに対して相対移動させて第2慣性体を第1慣性体に対して相対移動させ、これにより、第2慣性体からの反作用により、第1慣性体の他方向の振動を抑制することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、切り換え装置は、振動源の振動が伝達されない又は伝達されにくい、つまり慣性が比較的大きくて移動しにくい第3慣性体と一体的に構成されたバルブ本体(バルブボディ)と、振動源と一体的に構成されて振動源の振動が直接的に伝達されるスプールとを有しているので、振動源の振動を、バルブ本体に対するスプールの相対移動として取り出し、これにより、第1油路と第2油路とを切り換えることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、リンク機構により、振動源の振動を増幅してスプールに伝達し、スプールをバルブ本体に対して相対移動させ、これにより、第1油路と第2油路とを切り換えることができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、シリンダに対するピストンの相対移動により、ピストンに連結された第2慣性体を第1慣性体に対して相対移動させ、これにより、第1慣性体にその振動方向と逆方向の反作用を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1の制振装置1を説明する模式図である。
【0022】
【図2】実施形態2の制振装置2を説明する模式図である。
【0023】
【図3】実施形態2の制振装置2の変形例1である制振装置2Aを説明する模式図である。
【0024】
【図4】実施形態2の制振装置2の変形例2である制振装置2Bを説明する模式図である。
【0025】
【図5】実施形態3の制振装置3を説明する模式図である。
【0026】
【図6】実施形態3の制振装置3の変形例である制振装置3Aを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を適用した実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
<実施形態1>
【0028】
図1を参照して本発明を適用した実施形態1に係る制振装置1について説明する。なお、同図は、実施形態1の制振装置1の構成及び動作を模式的に説明する図である。
【0029】
図1に示すように、制振装置1は、振動源Aと第1慣性体M1(例えば、建物)との間に介装されており、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0030】
振動源Aと第1慣性体M1との間には、ばねK1及びダンパC1が介装されている。振動源Aが図1中の右方(一方向:正方向)及び左方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1には、ばねK1及びダンパC1を介して力Fが作用し、その結果、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0031】
油圧源30は、作動油を蓄えるタンク32と、タンク32に貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ31とを有している。
【0032】
切り換え装置10は、バルブ本体(バルブボディ)12と、スプール11とを有している。バルブ本体12は、円筒形に形成されていて、油圧が出入りするポートa,b,c,d,eが設けられている。バルブ本体12は、第3慣性体M3(第2慣性体M2は後述)と一体的に構成されている。第3慣性体M3は、ばねK3及びダンパC3(ばねK2、ダンパC2は後述)を介して第1慣性体M1に連結されていて、全体として振動が伝達されない又は伝達されにくい構成、つまり、慣性力が適度に大きくて動きにくい構成となっている。
【0033】
ここで、原理的には、動きにくいとは、後述するスプール11と比較して動きにくければ十分である。スプール11は、複数のランド部14とスプール軸13とを有しており、スプール軸13が振動源Aに直接、連結されている。本実施形態では、第3慣性体M3と一体的に構成されて動きにくいバルブ本体12に対して、スプール11には、振動源Aの振動が直接、伝達される。この結果、振動源Aが振動すると、スプール11は、この振動と同方向に、バルブ本体12に対して相対的に移動することになる。なお、第3慣性体M3は、理想的には、振動源Aが振動した場合であっても、その振動によって移動しないように構成することが好ましい。
【0034】
アクチュエータ20は、シリンダ22とピストン21とを有している。シリンダ22は、円筒状に形成されるとともに、ポートf及びポートgを有している。シリンダ22は、取付部材51とともにベース部Bを構成し、取付部材51を介して、第1慣性体M1に連結されている。ピストン21は、上述の第3慣性体M3と同様に動きにくい第2慣性体M2と一体的に構成されている。第2慣性体M2は、ばねK2及びダンパC2を介して、振動源Aに連結されている。振動源Aの変位がzとなると、ばねK2及びダンパを介して、第2慣性体M2及びピストン21は、x2だけ変位する。シリンダ22の内側は、ピストン21によって、ポートfを有する第1油室R1と、ポートgを有する第2油室R2とに区画されている。
【0035】
以上説明した油圧源30と切り換え装置10との間、及び切り換え装置10とアクチュエータ20との間には、複数の油路が設けられている。油圧源30のポンプ31からは、油路p1が延びて切り換え装置10のバルブ本体12のポートbに接続されている。シリンダ12のポートeからは、油路(第1油路)p2が延びてシリンダ22のポートfに接続されている。また、バルブ本体12のポートdからは油路(第2油路)p3が延びて、シリンダ22のポートgに接続されている。また、バルブ本体12のポートaからは油路p5が延び、ポートcからは油路p4が延び、これら油路p5,p4は、合流して、油路p6となって、油圧源30のタンク32に至る。
【0036】
上述構成の制振装置1は、以下のように作用する。
【0037】
振動源Aが一方向(図1の右方)に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がスプール軸13を介して右方に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して一方向に移動する。スプール11の一方向への相対移動により、ポートcが閉鎖され、残りのポートa,b,d,eが開放されて、ポートb,eが連通され、ポートa,dが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,e、油路p2、アクチュエータ20のシリンダ22のポートfを介して、第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、ポートg、油路p3、ポートd,a、油路p5,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2は、シリンダ22に対して一方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、シリンダ22、取付部材51を介して、第1慣性体M1が、他方向、つまり、振動源Aの振動方向である一方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0038】
また、振動源Aが他方向(図1の左方)に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がスプール軸13を介して他方向に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して他方向に移動する。スプール11の他方向への相対移動により、ポートaが閉鎖され、残りのポートb,c,d,eが開放されて、ポートb,dが連通され、ポートc,eが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,d、油路p3、アクチュエータ20のシリンダ22のポートgを介して、第2油室R2に供給される。また、第1油室R1の油圧が、ポートf、油路p2、ポートe,c、油路p4,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第2油室R2に対する油圧の供給、及び第1油室R1からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2は、シリンダ22に対して他方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、シリンダ22、取付部材51を介して、第1慣性体M1が、一方向、つまり、振動源Aの振動方向である他方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0039】
このように、本実施形態の制振装置1によれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置1は有効に動作し、かつ、制振装置1に万一故障が発生した場合でも、制振装置1は、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
さらに、制振装置1によれば、第3慣性体M3の位置は絶対座標上で静止点の近似点としているため、制振の目的とする第1慣性体M1の目標位置として安定した動作を確保することができる。
<実施形態2>
【0040】
図2を参照して本発明を適用した実施形態2に係る制振装置2について説明する。なお、同図は、実施形態2の制振装置2の構成及び動作を模式的に説明する図である。
図2に示すように、制振装置2は、振動源Aと第1慣性体M1(例えば、建物)との間に介装されており、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0041】
振動源Aと第1慣性体M1との間には、ばねK1及びダンパC1が介装されている。振動源Aが図2中の右方(一方向:正方向)及び左方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1には、ばねK1及びダンパC1を介して力Fが作用し、その結果、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0042】
油圧源30は、作動油を蓄えるタンク32と、タンク32に貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ31とを有している。
【0043】
切り換え装置10は、バルブ本体(バルブボディ)12と、スプール11とを有している。バルブ本体12は、円筒形に形成されていて、油圧が出入りするポートa,b,c,d,eが設けられている。バルブ本体12は、第2慣性体M2と一体的に構成されている。なお、後述するアクチュエータ20のピストン21も、第2慣性体M2と一体に構成されている。つまり、本実施形態では、切り換え装置10のバルブ本体12と、アクチュエータのピストン21、第2慣性体M2とが一体的に構成されている。ここで、第2慣性体M2は、ばねK2及びダンパC2を介して振動源Aに連結されていて、全体として振動が伝達されない又は伝達されにくい構成、つまり、慣性力が適度に大きくて動きにくい構成となっている。ここで、原理的には、動きにくいとは、スプール11と比較して動きにくければ十分である。
【0044】
スプール11は、リンク機構40を介して、振動源A及び第1慣性体M1に連結されている。スプール11は、複数のランド部14とスプール軸(リンク)43とを有している。リンク機構40は、リンク41,42,43,44を有している。リンク41は、端部40aが振動源Aに揺動自在に連結され、端部40bがリンク42の中央に揺動自在に連結されている。リンク43は、端部40cがリンク42の上部に揺動自在に連結されている。リンク44は、端部40dがリンク42の下部に揺動自在に連結され、端部40eが第1慣性体M1に揺動自在に連結されている。
【0045】
アクチュエータ20は、シリンダ22とピストン21とを有している。シリンダ22は、円筒状に形成されるとともに、ポートf及びポートgを有している。シリンダ22は、取付部材51とともにベース部Bを構成するとし、取付部材51を介して、第1慣性体M1に連結されている。ピストン21は、第2慣性体M2と一体的に構成されている。第2慣性体M2は、ばねK2及びダンパC2を介して、振動源Aに連結されている。振動源Aの変位がzとなると、ばねK2及びダンパを介して、第2慣性体M2及びピストン21は、x2だけ変位する。シリンダ22の内側は、ピストン21によって、ポートfを有する第1油室R1と、ポートgを有する第2油室R2とに区画されている。
【0046】
以上説明した油圧源30と切り換え装置10との間、及び切り換え装置10とアクチュエータ20との間には、複数の油路が設けられている。油圧源30のポンプ31からは、油路p1が延びて切り換え装置10のバルブ本体12のポートbに接続されている。シリンダ12のポートeからは、油路(第1油路)p2が延びてシリンダ22のポートfに接続されている。また、バルブ本体12のポートdからは油路(第2油路)p3が延びて、シリンダ22のポートgに接続されている。また、バルブ本体12のポートaからは油路p5が延び、ポートcからは油路p4が延び、これら油路p5,p4は、合流して、油路p6となって、油圧源30のタンク32に至る。
【0047】
上述構成の制振装置1は、以下のように作用する。
【0048】
振動源Aが一方向(図2の右方)に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がリンク機構40を介して右方に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して一方向に移動する。スプール11の一方向への相対移動により、ポートcが閉鎖され、残りのポートa,b,d,eが開放されて、ポートb,eが連通され、ポートa,dが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,e、油路p2、アクチュエータ20のシリンダ22のポートfを介して、第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、ポートg、油路p3、ポートd,a、油路p5,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2は、シリンダ22に対して一方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、シリンダ22、取付部材51を介して、第1慣性体M1が、他方向、つまり、振動源Aの振動方向である一方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0049】
また、振動源Aが他方向(図2の左方)に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がリンク機構40を介して他方向に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して他方向に移動する。スプール11の他方向への相対移動により、ポートaが閉鎖され、残りのポートb,c,d,eが開放されて、ポートb,dが連通され、ポートc,eが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,d、油路p3、アクチュエータ20のシリンダ22のポートgを介して、第2油室R2に供給される。また、第1油室R1の油圧が、ポートf、油路p2、ポートe,c、油路p4,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第2油室R2に対する油圧の供給、及び第1油室R1からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2は、シリンダ22に対して他方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、シリンダ22、取付部材51を介して、第1慣性体M1が、一方向、つまり、振動源Aの振動方向である他方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0050】
このように、本実施形態によれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置2は有効に動作し、かつ、制振装置2に万一故障が発生した場合でも、制振装置2は、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
【0051】
本実施形態の制振装置2は、必要最小限の機構で目的を達成することができるシステムを構築することができる。振動源A(変位Z)と第1慣性体M1(変位x1)の動きに俊敏に対応してスプール11、シリンダ22が相対的に動作する。振動源Aの動きはフィードフォワード、第1慣性体M1の動きはフィードバックとして動作する。
【0052】
次に、図3を参照して、上述の制振装置2の変形例1である制振装置2Aについて説明する。制振装置2Aは、第1慣性体M1としての建物の底部(下部)と、振動源Aとしての地面との間に介装するものであり、制振装置2よりも、より具体的な構成となっている。
【0053】
図3に示すように、制振装置2Aは、振動源(地面)Aと第1慣性体(建物)M1との間に介装されており、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0054】
振動源Aと第1慣性体M1との間には、ばねK1及びダンパC1が介装されている。振動源Aが図3中の右方(一方向:正方向)及び左方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1には、ばねK1及びダンパC1を介して力Fが作用し、その結果、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0055】
油圧源30は、作動油を蓄えるタンク(不図示)と、タンクに貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ(不図示)とを有している。
【0056】
切り換え装置10は、第2慣性体M2によって左右方向移動可能に支持されたバルブ本体12と、このバルブ本体12の内部を左右方向に移動するスプール(不図示)とを有している。スプールは、リンク機構40を介して、振動源A及び第1慣性体M1に連結されている。リンク機構40は、上下方向に延びるリンク41aと、このリンク41aの上端に揺動可能に連結されて右方に延びるリンク41bと、このリンク41bの右端に揺動可能に連結されて上下に延びるリンク42と、このリンク42の下端に揺動可能に連結されるとともに右方に延びて上述のスプールと一体に構成されたリンク43と、リンク42の上端に揺動可能に連結されて右方に延びるリンク44aと、このリンク44aの右端に揺動可能に連結されるとともに上方に延びて第1慣性体M1に連結されたリンク44bとを有している。
【0057】
アクチュエータ20は、振動源Aに固定された取付部材51と一体の、左右方向に延びるシリンダ22と、このシリンダ22内を左右方向に移動するピストン21とを有している。シリンダ22は、取付部材51とともにベース部Bを構成し、取付部材51を介して、振動源Aに連結されている。ピストン21は、第2慣性体M2と一体的に構成されており、第2慣性体M2は、ばねK2,ダンパC2を介して、第1慣性体M1の一部に連結されている。制振装置2Aでは、上述の制振装置2とは逆で、シリンダ22が振動源A側に固定され、ピストン21がばねK2及びダンパC2を介して第1慣性体M1側に連結されている。
【0058】
油圧源30は、油路p1、油路p4,p5,p6によって切り換え装置10に連結され、切り換え装置10とアクチュエータ20とは、油路(第1油路)p2,油路(第2油路)p3によって連結されている。
上述構成の制振装置2Aは、以下のように作用する。
【0059】
振動源Aが一方向(図3の右方)に移動すると、リンク機構40を介して、スプールが切り換え装置10のバルブ本体12に対して右方に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して一方向に移動する。スプールの一方向への相対移動により、油圧源30からの油圧は、油路p1、切り換え装置10、油路p2を介して、シリンダ22の第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、油路p3、切り換え装置10、油路p5,p6を介して、油圧源30のタンクに排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2が、シリンダ22に対して他方向(図3中の左方)に付勢される。この第2慣性体M2の他方向への付勢により、ばねK2、ダンパC2を介して、第1慣性体M1が他方向、つまり、振動源A及び第1慣性体M1の移動方向とは逆方向に付勢されて、振動が抑制される。
【0060】
なお、振動源Aが他方向(図3中の左方)に移動した場合には、上述と同様のメカニズムで、第1慣性体M1の他方向への振動が抑制される。
【0061】
このように、変形例1の制振装置2Aによれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本変形例によれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置2Aは有効に動作し、かつ、制振装置2Aに万一故障が発生した場合でも、制振装置2Aは、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
【0062】
さらに、変形例1の制振装置2Aによれば、大きな構造体であっても少ないエネルギーで効果の大きな制振を確実に行うことができる。それは、構造物である第1慣性体M1を支えているばねK1は弱いばね(ばね定数の小さいばね)で構成することができ、したがって、振動源Aの振動によりエネルギー(例えば、地震のエネルギー)のうち、ばねK1を介して構造物に印加されるエネルギーは小さなものとなり、その小さなエネルギーを除去するシリンダ22の仕事も小さなもので良いことになる。
【0063】
次に、図4を参照して、上述の制振装置2の変形例2である制振装置2Bについて説明する。制振装置2Bは、第1慣性体M1としての車両の車体と、振動源Aとしての車軸との間に介装するものであり、制振装置2よりも、より具体的な構成となっている。振動源Aは、支点A3を揺動中心として略上下方向に揺動する車軸A1と、車軸A1によって回転自在に支持された車輪A2とを備えている。
【0064】
図4に示すように、制振装置2Bは、振動源Aと第1慣性体(車体)M1との間に介装されており、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0065】
振動源Aと第1慣性体M1との間には、ばねK1及びダンパC1が介装されている。振動源Aが図4中の上方(一方向:正方向)及び下方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1には、ばねK1及びダンパC1を介して力F(不図示)が作用し、その結果、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0066】
油圧源30は、第1慣性体M1に搭載されていて、作動油を蓄えるタンク32と、タンク32に貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ31とを有している。
【0067】
切り換え装置10は、第2慣性体M2に固定されて上下方向に延びるバルブ本体12と、バルブ本体12の内側を上下方向にスライド移動するスプール(不図示)とを有している。スプールは、リンク機構40を介して、振動源A及び第1慣性体M1に連結されている。リンク機構40は、下端が振動源Aに揺動可能に連結されて上方に延びるリンク41と、このリンク41の上端に揺動自在に連結されたリンク42と、このリンク42の一方の端部に揺動可能に連結されるとともに上述のスプールと一体のリンク43と、リンク42の他方の端部に揺動可能に連結されるとともに上方に延びて第1慣性体M1に揺動可能に連結されたリンク44とを有している。
【0068】
アクチュエータ20は、上端が第1慣性体M1に揺動自在に連結されて下方に延びるシリンダ22と、シリンダ22内を上下にスライド移動するピストン(不図示)とを有している。ピストンは、第2慣性体M2と一体に構成されていて、この第2慣性体M2は、ばねK2及びダンパC2を介して、振動源Aに連結されている。
【0069】
油圧源30は、油路p1、油路p4,p5,p6によって切り換え装置10に連結され、切り換え装置10とアクチュエータ20とは、油路(第1油路)p2,油路(第2油路)p3
によって連結されている。
【0070】
上述構成の制振装置2Bは、以下のように作用する。
【0071】
振動源Aが一方向(図4の上方)に移動すると、リンク機構40を介して、スプールが切り換え装置10のバルブ本体12に対して上方に相対移動し、また、第1慣性体M1がばねK1及びダンパC1を介して一方向に移動する。スプールの一方向への相対移動により、油圧源30からの油圧は、油路p1、切り換え装置10、油路p2を介して、シリンダ22の第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、油路p3、切り換え装置10、油路p5,p6を介して、油圧源30のタンク32に排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストンと一体的な第2慣性体M2が、シリンダ22に対して一方向(図4中の上方)に付勢される。この第2慣性体M2の一方向の付勢の反作用により、シリンダ22及びこれと一体の第1慣性体M1が振動方向x1と逆の、他方向に付勢されて振動が抑制される。
【0072】
なお、振動源Aが他方向(図4中の下方)に移動した場合には、上述と同様のメカニズムで、第1慣性体M1の他方向への振動が抑制される。
【0073】
このように、変形例2の制振装置2Bによれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本変形例によれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置2Bは有効に動作し、かつ、制振装置2Bに万一故障が発生した場合でも、制振装置2Bは、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
【0074】
さらに、変形例2の制振装置2Bによれば、例えば、自動車に搭載する制振装置として小さな部品のみでシステムを構築することができる。油圧は小型、軽量で大出力、高応答という特徴がある。いくら性能が良くても自重が重く、スペースを大きく必要とするものは実用化には適さない。スプールとシリンダ22は小型、軽量なので問題なくサスペンションスペースに収まり、また、軽量なシステムを構築することができる。さらに、高価な計測、制御装置が不要であるので、大量生産に向いている。
<実施形態3>
【0075】
図5を参照して本発明を適用した実施形態3に係る制振装置3について説明する。なお、同図は、実施形態3の制振装置3の構成及び動作を模式的に説明する図である。
【0076】
図5に示すように、制振装置3は、振動源Aと第1慣性体M1(例えば、建物)との間に介装されており、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0077】
振動源Aと第1慣性体M1との間には、ばねK1及びダンパC1が介装されている。振動源Aが図5中の右方(一方向:正方向)及び左方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1には、ばねK1及びダンパC1を介して力fが作用し、その結果、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0078】
油圧源30は、作動油を蓄えるタンク32と、タンク32に貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ31とを有している。
【0079】
切り換え装置10は、バルブ本体(バルブボディ)12と、スプール11とを有している。バルブ本体12は、円筒形に形成されていて、油圧が出入りするポートa,b,c,d,eが設けられている。バルブ本体12は、第3慣性体M3と一体的に構成されている。なお、後述するアクチュエータ20のピストン21も、第3慣性体M3と一体に構成されている。つまり、本実施形態では、切り換え装置10のバルブ本体12と、アクチュエータのピストン21、第3慣性体M3とが一体的に構成されている。ここで、第3慣性体M3は、ばねK3を介して、後述するリンク機構60のリンク62に連結されていて、全体として振動が伝達されない又は伝達されにくい構成、つまり、慣性力が適度に大きくて動きにくい構成となっている。ここで、原理的には、動きにくいとは、スプール11と比較して動きにくければ十分である。
【0080】
スプール11は、リンク機構70を介して、第1慣性体M1及び第2慣性体M2に連結されている。スプール11は、複数のランド部14とスプール軸(リンク)73とを有している。リンク機構70は、リンク71,72,73,74を有している。リンク71は、端部70aが第1慣性体M1に揺動自在に連結され、端部70bがリンク72の中央に揺動自在に連結されている。リンク73は、端部70cがリンク42の上部に揺動自在に連結されている。リンク74は、端部70dがリンク72の下部に揺動自在に連結され、端部70eが第2慣性体M2に揺動自在に連結されている。
【0081】
アクチュエータ20は、シリンダ22とピストン21とを有している。シリンダ22は、円筒状に形成されるとともに、ポートf及びポートgを有している。シリンダ22は、取付部材51とともにベース部Bを構成するとともに、取付部材51を介して、第1慣性体M1に連結されている。ピストン21は、第3慣性体M3と一体的に構成されている。第3慣性体M3は、ばねK3を介して、リンク62の中央に連結されている。リンク機構60は、リンク61,62,63を有している。リンク61は、端部60aが第1慣性体M1に揺動自在に連結され、端部60bがリンク62の上部に揺動自在に連結されている。リンク63は、端部60dがリンク62の下部に揺動自在に連結され、端部60eが第2慣性体M2に揺動自在に連結されている。振動源Aの変位がzとなると、リンク機構60及びばねK3を介して、第3慣性体M3、ピストン21、バルブ本体12は、x3だけ変位する。シリンダ22の内側は、ピストン21によって、ポートfを有する第1油室R1と、ポートgを有する第2油室R2とに区画されている。
【0082】
以上説明した油圧源30と切り換え装置10との間、及び切り換え装置10とアクチュエータ20との間には、複数の油路が設けられている。油圧源30のポンプ31からは、油路p1が延びて切り換え装置10のバルブ本体12のポートbに接続されている。シリンダ12のポートeからは、油路(第1油路)p2が延びてシリンダ22のポートfに接続されている。また、バルブ本体12のポートdからは油路(第2油路)p3が延びて、シリンダ22のポートgに接続されている。また、バルブ本体12のポートaからは油路p5が延び、ポートcからは油路p4が延び、これら油路p5,p4は、合流して、油路p6となって、油圧源30のタンク32に至る。
【0083】
上述構成の制振装置3は、以下のように作用する。
【0084】
振動源Aが一方向(図5の右方)に移動して、ばねK1及びダンパC1を介して第1慣性体M1が一方向に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がリンク機構70を介して一方向位に相対移動する。スプール11の一方向への相対移動により、ポートcが閉鎖され、残りのポートa,b,d,eが開放されて、ポートb,eが連通され、ポートa,dが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,e、油路p2、アクチュエータ20のシリンダ22のポートfを介して、第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、ポートg、油路p3、ポートd,a、油路p5,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第3慣性体M3は、シリンダ22に対して一方向に付勢される。これにより、ばねK3、リンク機構60を介して、第2慣性体M2が一方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、リンク機構60を介して、第1慣性体M1が、他方向、つまり、振動源Aの振動方向である一方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0085】
また、振動源Aが他方向(図5の左方)に移動して、ばねK1及びダンパC1を介して、第1慣性体M1が他方向に移動すると、切り換え装置10のバルブ本体12に対して、スプール11がリンク機構70を介して他方向に相対移動する。スプール11の他方向への相対移動により、ポートaが閉鎖され、残りのポートb,c,d,eが開放されて、ポートb,dが連通され、ポートc,eが連通される。これにより、油圧源30のポンプ31で発生された油圧は、油路p1、ポートb,d、油路p3、アクチュエータ20のシリンダ22のポートgを介して、第2油室R2に供給される。また、第1油室R1の油圧が、ポートf、油路p2、ポートe,c、油路p4,p6を介して、タンク32に排出される。これら、第2油室R2に対する油圧の供給、及び第1油室R1からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第2慣性体M2は、シリンダ22に対して他方向に付勢される。これにより、ばねK3、リンク機構60を介して、第2慣性体M2が他方向に付勢される。そして、その反力(反作用)により、リンク機構60を介して、第1慣性体M1が、一方向、つまり、振動源Aの振動方向である他方向とは逆の方向に付勢されて、振動が抑制されることになる。
【0086】
このように、本実施形態の制振装置3によれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置3は有効に動作し、かつ、制振装置3に万一故障が発生した場合でも、制振装置3は、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
【0087】
本実施形態の制振装置3の制振目的は第1慣性体M1である。したがって、第2慣性体M2はいくら振動してもよいので、特段な制約を受けることなく大きく動作させることができる。
【0088】
次に、図6を参照して、上述の制振装置3の変形例である制振装置3Aについて説明する。
【0089】
図6に示すように、制振装置3Aは、第1慣性体M1としての建物の屋上に設けられていて、油圧源30と切り換え装置10とアクチュエータ20とを備えて構成されている。
【0090】
本変形例では、第1慣性体M1自体が、ばねK1及びダンパC1として作用する。振動源Aが図6中の右方(一方向:正方向)及び左方(他方向:負方向)に振動すると、その振動は、第1慣性体M1に伝達される。振動源Aの変位zに対応して、第1慣性体M1は、変位がx1となる。
【0091】
油圧源30は、作動油を蓄えるタンク(不図示)と、タンクに貯留された作動油を切り換え装置10に供給するポンプ(不図示)とを有している。
【0092】
切り換え装置10は、後述する第3慣性体M3によって左右方向移動可能に支持されたバルブ本体12と、このバルブ本体12の内部を左右方向に移動するスプール(不図示)とを有している。スプールは、リンク機構70を介して、第1慣性体M1と第2慣性体M2とに連結されている。リンク機構70は、上下方向に延びる取付部材(第1慣性体M1の一部)Mbと、この取付部材Mbの上端に揺動可能に連結されて右方に延びるリンク71と、このリンク71の右端に揺動可能に連結されて上下に延びるリンク72と、このリンク72の上端に揺動可能に連結されるとともに左方に延びて上述のスプールと一体に構成されたリンク73と、リンク72の下端に揺動可能に連結されて右方に延びて第2慣性体M2に揺動可能に連結されるリンク74とを有している。
【0093】
さらに、第1慣性体M1と第2慣性体M2との間には、リンク機構60が介装されている。リンク機構60は、左端が、上述の取付部材Mbに揺動可能に連結されて右方に延びるリンク61と、このリンク61に揺動可能に連結されて下方に延びるリンク62と、このリンク62の下端に揺動可能に連結されて右方の延びて第2慣性体M2に揺動可能に連結されたリンク63とを有している。また、リンク62の上下方向の中央には、第3慣性体M3との間にばねK3が介装されている。また、上述の第2慣性体M2は、第1慣性体M1との間に、ころMa等が介装されていて、第1慣性体M1に対して左右方向に容易に相対移動できるようになっている。
【0094】
アクチュエータ20は、取付部材51を介して第1慣性体M1の上部(建物の屋上)に固定されて、左右方向に延びるシリンダ22と、シリンダ22に沿って左右方向に移動するピストン21とを有している。シリンダ22は、取付部材51とともにベース部Bを構成している。ピストン21は、第3慣性体M3と一体的に構成されている。第3慣性体M3の右端は、ばねK3を介して、リンク62に連結されている。
【0095】
上述構成の制振装置3Aは、以下のように作用する。
【0096】
振動源Aが一方向(図6の右方)に移動すると、第1慣性体M1が同方向(右方)に移動し、これと一体の取付部材Mbが同方向に移動する。これにより、リンク機構70のリンク71,72,73を介して、切り換え装置10のスプールがバルブ本体12に対して右方に相対移動する。これにより、油圧源30からの油圧は、油路p1、切り換え装置10、油路(第1油路)p2を介して、シリンダ22の第1油室R1に供給される。また、第2油室R2の油圧が、油路(第2油路)p3、切り換え装置10、油路p5,p6を介して、油圧源30のタンクに排出される。これら、第1油室R1に対する油圧の供給、及び第2油室R2からの油圧の排出により、ピストン21と一体的な第3慣性体M3が、シリンダ22に対して一方向(図6中の右方)に付勢される。これにより、ばねK3、リンク62,63を介して、第2慣性体M2が一方向(右方)に付勢される。そして、その反作用により、リンク63,62,61、取付部材Mbを介して、第1慣性体M1が他方向(図6中の左方)に付勢され、矢印x1方向の振動を抑制するが抑制される。
【0097】
なお、振動源Aが他方向(図6中の左方)に移動した場合には、上述と同様のメカニズムで、第1慣性体M1の他方向への振動が抑制される。
【0098】
このように、本変形例の制振装置3Aによれば、振動源Aの振動を電気的に検出するセンサや、その検出結果に基づいて、制振を行う電子制御装置等の精密で脆弱なデバイスを使用することなく、機械的な構成により、第1慣性体M1の振動を抑制することができる。さらに、本変形例の制振装置3Aによれば、停電等により電力が供給されない場合であっても、制振装置3Aは有効に動作し、かつ、制振装置3Aに万一故障が発生した場合でも、制振装置3Aは、暴走することなく、いわゆる、フェイルセーフを実現することができる。
【0099】
さらに、本変形例の制振装置3Aは、第1慣性体M1の質量が大きい場合に適用することができ、その効果としては、多少なりとも第1慣性体M1の振動を軽減するといった使い勝手なる。また、第1慣性体M1に強風が当たって揺れるような場合でも、同様に制振することが可能である。制振装置3Aは、例えば、アキュームレータに畜圧しておけば、災害時に停電が発生した場合であっても、圧力が残っている間は動作させることが可能である。通常は小さな動力の油圧源Aで畜圧しておけばよいので省エネ運転することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 実施形態1の制振装置
2 実施形態2の制振装置
2A 実施形態2の制振装置3の変形例の制振装置
2B 実施形態2の制振装置3の他の変形例の制振装置
3 実施形態3の制振装置
3A 実施形態3の制振装置3の変形例の制振装置
10 切り換え装置
11 スプール
12 バルブ本体
20 アクチュエータ
21 ピストン
22 シリンダ
30 油圧源
40 リンク機構
60 リンク機構
70 リンク機構
A 振動源
B ベース部
C1,C2,C3 ダンパ
K1,K2,K3 ばね
M1 第1慣性体
M2 第2慣性体
M3 第3慣性体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源からの振動の伝達により一方向と他方向に交互に振動する第1慣性体の振動を抑制する制振装置において、
油圧を発生させる油圧源と、
前記油圧源から供給された油圧を、前記第1慣性体の前記一方向と前記他方向の振動に対応して第1油路と第2油路とに切り換えて出力する切り換え装置と、
前記第1慣性体と前記振動源とのうちの一方に連結されたベース部と、前記ベース部に対して前記一方向と前記他方向とに移動可能な第2慣性体とを有するアクチュエータと、を備え、
前記アクチュエータは、前記第1油路から供給される油圧により、前記第2慣性体を前記一方向に付勢して前記第1慣性体に前記他方向の反作用を作用させ、前記第2油路から供給される油圧により、前記第2慣性体を前記他方向に付勢して前記第1慣性体に前記一方向の反作用を作用させる、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記第1慣性体と前記第2慣性体とのうちの一方に連結されたシリンダと、他方に連結されて前記シリンダ内を移動するピストンとを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記切り換え装置は、バルブ本体と、前記バルブ本体に対して相対移動して前記油圧源から供給された油圧を前記第1油路と前記第2油路とに切り換えるスプールとを有し、
前記シリンダは、前記ピストンを挟んで一方側に、前記第1油路に接続された第1油室を有し、他方側に前記第2油路に接続された第2油室を有し、前記第1油路に供給された油圧により、前記第2慣性体を前記一方向に付勢し、前記第2油路に供給された油圧により、前記第2慣性体を前記他方向に付勢する、
ことを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記切り換え装置は、前記振動源の振動が伝達されない又は伝達されにくい第3慣性体を有し、
前記バルブ本体が前記第3慣性体と一体的に構成されるとともに、前記スプールが前記振動源と一体的に構成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記切り換え装置は、前記振動源及び前記スプールに連結されて、前記バルブ本体に対して前記スプールを相対移動させるリンク機構を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
【請求項6】
前記アクチュエータは、前記第1慣性体に連結されたシリンダと、前記第2慣性体に連結されて前記シリンダ内を移動するピストンとを有し、
前記第2慣性体は、前記ピストンが別体に構成されるとともに、前記ピストンの移動により前記ピストンと同方向に付勢される、
ことを特徴とする請求項3に記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7423(P2013−7423A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139879(P2011−139879)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(507350510)ソルーション株式会社 (2)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(501138231)独立行政法人防災科学技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】