説明

制振装置

【目的】 本発明は風圧及び地震に応じた振動に適応した制振制御を行う制振装置を提供することを目的とする。
【構成】 制御装置4は、センサ15aによって検出された地表面レベルのビル2の変位の検出信号がサーボアンプ19aを介し、ハイパスフィルタ33によってビル2の一次固有振動数以上の周波数の検出信号が入力される。この検出信号の分析の結果、制震装置4によって制振し得ない超過大地震波であると判定された場合には、サーボドライバ29への電源供給を断つべくスイッチ32を開成する。これによって同時に付加質量6は電磁ブレーキによって制動され、停止される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は制振装置に係り、特に、付加質量を変位させて構造物の振動を制振する構成とした制振装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えばビル等の構造物においては地震あるいは風圧等による振動を制振するための制振装置が設けられている。この種の制振装置では、主にビルの質量に応じた所定の重量を有する付加質量を、ビルの振動状態に応じて変位させる動吸振器を動作させてビルで発生した振動を制振する。
【0003】従来の制振装置としては、例えば付加質量をリニアベアリング等により摺動自在に支持するとともに、付加質量に螺合するボールネジ等の伝達機構をモータ等により駆動し、付加質量が水平方向に往復動されるよう構成された動吸振器を有する装置が考えられている。
【0004】そして、動吸振器はビルの変位及び速度に応じた制御量を演算する制御回路からの駆動信号によりモータを駆動制御され、付加質量を移動させる。
【0005】又、動吸振器が制振し得ない過大なエネルギを有する超過大地震波が発生した場合、その地震波によるビルの振動を制振するべく動吸振器が制御されると、その結果付加質量が過大に駆動される。これによって付加質量は、その移動範囲を越えてストッパに衝突し、却ってビルを加振してしまう。このため、このような超過大地震波に対しては、自動的に動吸振器の電源供給を停止するようにしていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、従来はビルの有する一次固有振動数未満の周波数の地震波であっても、そのエネルギの量が所定のしきい値を越えた場合には、一律に動吸振器の電源供給を停止していた。ところが、ビルの一次固有振動数未満の地震波であれば、ビルは剛体として振動するのみであり、ビルの変形はほとんど生じない。このような場合ビルの振動の大きさは比較的小さく、又動吸振器ではその振動を制振することはできないため、本来動吸振器による制振動作はなされない。
【0007】又、前述のごとく動吸振器の電源供給が停止された後、ビルの一次固有振動数以上の、動吸振器で制振可能な範囲のエネルギの地震波が与えられた場合であっても、上述のごとく動吸振器の電源供給が断たれているため、動吸振器による制振動作がなされ得ない。
【0008】このような弊害を防止すべく、例えば特開平3−140647にて開示された構成のごとく、センサにバンドパスフィルタを設けることが考えられる。しかしセンサにバンドパスフィルタを設けた場合、バンドパスフィルタを介した出力信号に基づいて動吸振器の制振動作がなされる。他方、バンドパスフィルタを介した信号はバンドパスフィルタによって位相遅れが生じるため、この位相遅れによって制振動作の精度が低下されるという問題点があった。
【0009】本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、超過大地震波発生による動吸振器の電源供給停止を必要最小限の場合に限り、有効に制振動作がなされる制振装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、構造物の及び地面の変位を検出するセンサからの検出信号に基づいて駆動信号を生成し、駆動信号によりアクチュエータを駆動して付加質量を移動させ、構造物の振動を制振する制振装置において、前記センサの出力信号を、前記構造物の固有振動数の周波数の信号を通過させるフィルタを介して入力し、前記構造物及び地面の変位に対する制振が前記制振装置の容量を越えると判定したときに前記付加質量の動作を停止させる動作停止手段を有することを特徴とする。
【0011】請求項2記載の発明は、前記動作停止手段は、前記駆動信号を生成する駆動信号生成手段に対する電源供給を停止する開閉成手段よりなることを特徴とする。請求項3記載の発明は、前記フィルタは、前記構造物の一次固有振動数以上の周波数の信号を通過させるハイパスフィルタとされてなることを特徴とする。
【0012】
【作用】請求項1記載の発明では、前記フィルタを介することによって、構造物の固有振動数の周波数の信号に基づいて付加質量の動作を停止させるか否かを判定するため、本来制振装置がほとんど制振動作をおこなわない周波数の地震波によって付加質量の動作が停止されることが抑制される。
【0013】請求項2記載の発明では、開閉成手段によって駆動手段の電源供給が停止されることによって付加質量の移動が停止される。
【0014】請求項3記載の発明では、構造物の一次固有振動数以上の周波数が通過されるハイパスフィルタを設けることによって、本来制振装置がほとんど制振動作をおこなわない周波数の地震波によって付加質量の動作が停止されることが抑制される。
【0015】
【実施例】図1乃至図3に本発明になる制振装置の一実施例を示す。
【0016】各図中、制振装置1は、大略、構造物としてのビル2の屋上に設置された動吸振器3が制御装置4からの制御信号により制振動作してビル2の水平方向の振動を制振する。
【0017】動吸振器3は図2,図3に示す如くビル2の屋上に設置された基台5上に付加質量6がX方向に摺動する構成であり、付加質量6はビル2の総質量に対し約0.5%程度の質量を有し、例えば5〜10t程度の重量を有する。そのため、付加質量6は基台5上のリニアベアリング7により摺動自在を支持されている。
【0018】又、基台5上にはアクチュエータとしてのACサーボモータ(以下モータと言う)8、電磁ブレーキ9が設けられており、モータ8の出力軸8aはカップリング10を介して軸受11,12に軸承されたボールねじ13に結合されている。ボールねじ13は付加質量6に螺合して貫通している。従って、付加質量6はボールねじ13の回転により基台5の凹部5a内を移動する。
【0019】風圧又は地震発生によりビル2が振動すると、制御装置4は後述するように振動の大きさに応じた制御量を演算して動吸振器3のモータ8へ駆動信号を出力する。モータ8は駆動信号の供給によりボールねじ13を回転させ、付加質量6をX方向(振動方向)に移動させる。このとき、発生する付加質量6の慣性力の反作用によりビル2の振動が制振される。
【0020】尚、電磁ブレーキ9は制振モード時オフ状態であり、電源をオフにされた停止モード時にボールねじ13を回転不可状態に制動する。
【0021】ビル2の例えば1階,5階,10階,15階の複数階には、ビル2の振動による変位及び速度を検出するセンサ15a〜15dが設置されている。
【0022】又、15階建てのビル2の屋上には風速(V)を計測する風速計16が設置され、動吸振器3には付加質量6の変位、速度及び加速度を検出するセンサ18が設けられている。センサ15a〜15d及びセンサ18からの各検出信号はサーボアンプ19a〜19eにより増幅されて減算回路20に入力される。減算回路20では1階の変位及び速度を基準として各階の実質的な変位及び速度を算出する。つまり、減算回路20は5階,10階,15階の各センサ15b〜15dにより検出された変位及び速度から1階のセンサ15aにより検出された変位及び速度を減算して1階の振動をゼロとしたときの各階の振動の大きさを算出する。又、風速計16からの検出信号はアンプ21で増幅されて制御装置4に入力される。
【0023】22は地震計で、地面を伝播する縦方向の地震波(P波)及び横方向の地震波(S波)を検出するように地面に埋没されている。尚、地震発生時地震計22からの検出信号はアンプ23で増幅されて制御回路4に入力される。
【0024】制御装置4は、入力部としてのA/D変換器24、動吸振器3への制御量を演算するCPU25、出力部としてのD/A変換器26、I/Oインタフェース回路27を有する。A/D変換器24はスイッチ28を介して減算回路20と接続されており、減算回路20から出力されたビル2及び付加質量6の変位、速度のアナログ信号をデジタル信号に変換してCPU25に出力する。又、A/D変換器24には風速計16及び地震計22からの検出信号も入力されており、これらの検出信号をデジタル信号に変換してCPU25に出力する。
【0025】CPU25は後述するようにA/D変換器24及びI/Oインタフェース回路27からの各信号に基づいて動吸振器3の制御量を演算し、D/A変換器26へ出力する。又、D/A変換器26から出力された制御量のデジタル信号はサーボドライバ29に入力され、サーボドライバ29はCPU25で演算された制御量に応じたトルク指令電流を動吸振器3のモータ8に出力する。
【0026】30はメモリで、後述する制振制御の各プログラムが格納され、且つ制振制御に必要な各演算の初期値及び地震フラグ、異常フラグ等を記憶する。
【0027】例えばメモリ30には、図4に示す如くCPU25が実行する制振モード設定プログラム30A、ゲイン判定プログラム30B、ゲイン切換プログラム30C、付加質量停止制御プログラム30Dが記憶されている。ここで、各制御プログラムの概要について説明する。
【0028】まず、制振モード設定プログラム30Aは、通常は風圧制振モードの制振制御を行い、地震発生により縦方向の地震波(P波)が検出されると、横方向の地震波(S波)が伝播する前に地震制振モードに切換えて最適制御を行う。そして、地震が終了しても所定時間地震制振モードを継続してから風圧制振モードに戻すことにより段続的な地震にも対応できるよう制御を行う。
【0029】又、ゲイン判定プログラム30Bは、動吸振器3のゲインが適切であるか否かを自己診断する機能を有し、例えば制振動作時のビル2の一次モードの固有周期に基づく2周期分の振動状態の最大値をチェックして振動が減衰せず加振されたとき、ゲイン異常と判定し、動吸振器3を停止させる。
【0030】又、ゲイン切換プログラム30Cでは、ビル2の変位又は風圧、地震の大きさに応じて制振制御のゲインを切換える。尚、本実施例では後述するLQ(LinearQuadratic、線形2次) 制御により動吸振器3を制振動作させており、ゲインはLQ制御の演算過程で算出される。
【0031】又、付加質量停止制御プログラム30Dは、例えばビル2に過大変位が生じたとき動吸振器3の付加質量6が基台5のストッパに衝突しないように付加質量6の移動可能な動作範囲内で付加質量6がゆるやかに停止するようにモータ8の制御を行う。
【0032】31は電源で、制御回路4及びサーボドライバ29に接続されており、電源31とサーボドライバ29との間には緊急停止用のスイッチ32が配設されている。このスイッチ32は通常接点を有し、例えば過大な地震が発生したときI/Oインタフェース回路27からの停止信号により励磁されて開成する。
【0033】33は本発明の要旨であるハイパスフィルタ(高域通過フィルタ、前記フィルタ)で、地表面のレベルに相当するビル2の1階に設置されたセンサ15aからの検出信号がサーボアンプ19aを介して入力され、所定の周波数未満の信号を減衰させ、上記所定の周波数以上の信号を選択的に通過させてI/Oインタフェース回路27に入力する。なお本実施例ではセンサ15aからの検出信号がハイパスフィルタ33に入力される構成であるが、この構成に限らず、地震計22からの検出信号をアンプ23を介してハイパスフィルタ33に入力する構成としてもよい。
【0034】前記所定の周波数とは、ビル2自体の構成から決定されるビル2の固有振動数のうち、最低周波数の一次固有振動数とされる。この一次固有振動数未満の周波数の地震波がこのビル2に与えられた場合、ビル2は剛体として地表面の振動に伴って地表の振動方向と同方向に振動するのみであり、ビル2が変形することはほとんどない。このようにビル2が変形することなしに振動する場合、ビル2の揺れは比較的小さいものであり、又この場合のビル2の振動は、制振装置1では原理的にほとんど制振することはできない。又、このようなビル2の剛体としての振動に対しては、制振装置1はほとんど制振動作をおこなわない。
【0035】他方、前記一次固有振動数以上の地震波がビル2に与えられた場合には、ビル2は共振現象によって変形しながら振動する。このような振動に対して、制振装置1は効果的に機能する。即ち、地震波によるビル2の振動の大きさに応じて付加質量6が変位し、ビル2の振動のエネルギを相殺し、上記振動を制振する。ところが制振装置1が制振し得ない過大なエネルギの超過大地震波が発生した場合、その地震波によるビル2の振動を制振すべく付加質量6が過大に駆動され、ストッパ(基台5の凹部5aの側壁)に衝突することがある。この場合、付加質量6のストッパへの衝突のエネルギによって、ビル2が加振される場合があった。このような状況の発生を防止するため、I/Oインタフェース回路27を介してハイパスフィルタ33からの検出信号を受けたCPU25(前記動作停止手段、開閉成手段としてのソフトウェアを含む)では、超過大地震が起こったことを検知してI/Oインタフェース回路27からスイッチ32(前記動作停止手段、開閉成手段)に開成信号を出力させる。これによりスイッチ32が開成して動吸振器3への電源供給が停止されるとともに、付加質量6は前記電磁ブレーキ9による機械的制動が及ぼされ、付加質量6は停止される。このようにして過大な振動の抑制を目的とした付加質量6の急激な変位による付加質量6のストッパへの激突が防止される。
【0036】前述のごとくハイパスフィルタ33を設けたことによって、ビル2の一次固有振動数未満の地震波の信号が減衰される。したがって、超過大地震が起こった場合であっても、その地震波の周波数がビル2の一次固有振動数未満の場合には、その信号はハイパスフィルタ33によって減衰され、CPU25によって検知されることがない。よってスイッチ32が開成されることがなく、動吸振器3への電源供給が停止されることがない。したがってその後一次固有振動数以上の周波数の地震波が与えられた場合、制御装置4の機能によって動吸振器3が制御され、通常の制振動作がなされ得る。即ち、前述のごとく実質的な動吸振器3による制振動作がほとんどなされず、そのエネルギが大きくても動吸振器3によってビル2が加振されたりする弊害が起こり得ないビル2の一次固有振動数以下の地震波によってサーボドライバ32の電源が断たれることが防止される。よってサーボドライバ32の電源断による制振動作の不可状態からその後動吸振器3によって制振し得る地震波が与えられた場合にその制振が不可となる弊害が防止される。
【0037】特に、一般に地震波は、発生当初はそのエネルギが比較的大きく比較的低い周波数であり、その後エネルギが比較的小さくなるとともに周波数が比較的高くなる傾向がある。このような地震波の場合、上記構成とすることによって制振装置1の有効な制振動作の実行を図り得る。
【0038】ここで、制御装置4にて制振動作をおこなう際その基本となるビル2及び地面の変位量は、ハイパスフィルタ33を介さず、直接各センサ15a、15b、15c、15dからサーボアンプ19a、19b、19c、19dを介して減算回路20へと供給されている。したがってハイパスフィルタ33による位相遅れの影響はなく、精度の高い制振動作がなされ得る。
【0039】なお、本実施例では、超過大地震発生時には動吸振器3の電源供給を断つことによって同時に電磁ブレーキ9による機械的制動がなされ付加質量6が停止される構成であるが、この構成に限らず、制振装置全体の電源供給を停止する構成としてもよい。あるいはこのような場合でもサーボドライバ29の電源供給を断たず、逆にCPU25によって付加質量6が除々に停止するように制御する構成としてもよい。
【0040】図4は、ハイパスフィルタ33の一例のアクティブフィルタの回路図を示す。図4(A)は、一次のアクティブフィルタであり、入力端子T1 と演算増幅器A1 の非反転入力端子との間にコンデンサC1 が接続され、演算増幅器A1 の非反転入力端子は抵抗R1 を介して接地されている。又、演算増幅器A1 の出力端子は出力端子TO に接続されるとともに反転入力端子に接続されている。
【0041】この図4(A)のアクティブフィルタの構成は周知のものであり、その遮断周波数fC は、次式で表される。
【0042】
【数1】


【0043】図4(B)は、2次のアクティブフィルタであり、入力端子T1 と演算増幅器A2 の非反転入力端子との間にコンデンサC2 、C3 が互いに直列に接続されており、演算増幅器A2 の非反転入力端子は抵抗R3 を介して接地されている。又、演算増幅器A2 の出力端子は出力端子TO に接続されているとともに、抵抗R2 を介してコンデンサC2 、C3 の共通の接続点に接続され、又、演算増幅器A2 の出力端子は反転入力端子に接続されている。
【0044】この図4(B)のアクティブフィルタの構成も周知のものであり、その遮断周波数fC は、次式で表される。
【0045】
【数2】


【0046】ここで、前述のごとく、上記遮断周波数fC をビル2の一次固有振動数より若干低くなるように設定すればよい。
【0047】なお、図4に示した回路図は一例であり、同様な効果を有する他の回路を適用してもよいことは言うまでもない。
【0048】又、本実施例ではハイパスフィルタによってビル2の一次固有振動数以上の周波数帯の信号を通過させる構成であったが、このハイパスフィルタに代えてビル2の固有振動数を含む所定の周波数帯の信号を通過させるバンドパスフィルタを使用する構成にしてもよい。
【0049】34は表示器で、動吸振器3の制御系あるいは各センサ15a〜15d,18、風速計16、地震計22等に異常があると、その異常内容等を表示して監視員に知らせる。
【0050】35は警報器で、異常発生時(アラーム)を発する。
【0051】次に、上記制振装置1が制振動作する際に制御装置4のCPU25が実行する処理について、図6乃至図8を参照して説明する。
【0052】又、CPU25は例えば5msec毎に図6乃至図8の処理を繰り返し実行している。
【0053】尚、制御装置4では予め演算処理を行う際の初期設定が行なわれる。設定される初期値としては、例えば、ビル2の最上階の最大変位(x4max) 、地震終了後地震制振モード時間をカウントするタイマの時間(数分間)te、地表変位1mの白色雑音(ホワイトノイズ)による応答シミュレーションによる無制振時の最大変位の絶対値(xe unit) 、風速1m/sec 時の無制振時の最大変位の絶対値(xw unit)、ビル2の振動の2周期分の時間t、付加質量6がストッパに衝突せずに移動できるストローク限界位置、地震の縦方向の地震波(P波)の下限値εp、地震の横方向の地震波(S波)の下限値εs等があり、夫々メモリ30に記憶される。
【0054】図5において、制御装置4のCPU25はステップS1(以下ステップを省略する)で制振システムの異常チェックを行う。例えば動吸振器3の制御系又はセンサ15a〜15d,18、地震計22、風速計16等に異常がないかどうかをチェックし、S2で異常なしの場合はS3に移り地震計22からの地震波(P波、S波)の検出信号を読み込む。
【0055】しかし、S2において、異常ありの場合は図7に示すS4に移り、制御量uをゼロにするとともに表示器34に異常発生を表示して、S36で制御量u=0をD/A変換器26に出力してモータ8を停止させ動吸振器3による制振動作を止める。そして、異常個所が修理されて異常なしの状態に復帰するまでS1,S2,S4,S36が繰り返される。
【0056】S5では地震フラグ=0であるかどうかをチェックする。地震フラグは通常地震のないとき(地震発生前)“0”に設定され、地震発生と判断されたとき“1”に設定される。
【0057】従って、地震フラグ=0のときはS6に至り、縦方向の地震波(P波)の振幅Apが下限値εpより大きいかどうかをチェックする。地震が発生すると、まず伝播速度の速い縦方向の地震波(P波)がビル2に伝播し、やや遅れて横方向の地震波(S波)が伝播する。ビル2のような構造物は縦方向の振動には充分な強度を有するが、横方向の振動の場合、共振現象があるので動吸振器3により制振する必要がある。
【0058】ビル2が横方向に振動する主な原因としては、■風圧の増大、■地震による横揺れがある。風圧によるビル2の振動は振幅が同じでも低い周波数でゆっくり振動する。これに対し、地震によるビル2の振動は急激且つ複雑であるが風圧の場合に比べて高い周波数で激しく揺れることが多い。
【0059】そのため、CPU25は、通常は図6に示す風圧による振動に適した風圧制振モードの処理を実行し、地震発生時は図5に示すS6以下及び図7に示す地震による振動に適した地震制振モードの処理を実行する。
【0060】ここでは、先に通常実行される風圧制振モードの処理について説明し、その後地震制振モードの処理について説明することにする。
【0061】I「風圧制振モード」
上記ステップS6において、P波の振幅Apが下限値εpより小さいときは、図6に示すS7に移り地震フラグを“0”に設定するとともに表示器34に「風圧制振モード」を表示する。
【0062】続いてS8では、ゲイン異常検出のためのピークホールド用のタイマtを1インクリメントして、S9でビル2の一次モードの固有周期に基づく2周期分の時間Tが経過したかどうかをチェックする。尚、2周期分の時間Tは予めメモリ30に入力されており、T=2(2π/ω1 )×Fの式により決まる。但し、ω1はビル2の一次固有振動数(0.5rad/S)、Fは制御のサンプリング周波数(200Hz)である。
【0063】S9において、まだ2周期分の時間Tが経過していないときは、後述するS10〜S12の処理を実行せずに、S13に移りビル2の複数階に設置された各センサ15a〜15d及び付加質量6のセンサ18により検出された変位及び速度、加速度《X》(以下、状態変位ベクトルを《X》で表す)を読み込む。従って、タイマtの時間が2周期分の時間Tになるまでビル2及び付加質量6の変位及び速度、加速度《X》が読み込まれてメモリ30に記憶される。
【0064】しかし、S9において、時間Tが経過したときは、S10に移り最上階の変位のリミット値X4 lmt を風速1m/s 時の無制振時の最大変位の絶対値(Xw unit)に最大風速wpを乗算した値に更新する(S10)。続いて、S11でメモリ30に記憶された2周期の変位のうちビル2の最上階の最大変位X4 max とS10で求めたリミット値X4 lmt とを比較する。
【0065】S11において、最大変位X4 max の値がリミット値X4 lmt より小さい場合にはビル2の振動が動吸振器3の制振動作により減衰しているため、異常なしと判定し、S12でメモリ30に記憶された最大変位X4 max 、タイマt、最大風速wpの各値をゼロリセットする。そして、S13で各センサ15a〜15dにより検出されたビル2及び付加質量6の変位及び速度、加速度《X》を読み込む。
【0066】しかし、S11において、最大変位X4 max がリミット値X4 lmt より大きい場合には動吸振器3が制振動作しているにも拘らずビル2が加振されて振動が大きくなっているため、制御ゲイン《F》(以下、制御ゲインベクトルを《F》で表す)が異常であると判定し、S14で異常フラグ=1を設定して警報を発する。そして、前述したS4に移り、制御量uをゼロにするとともに表示器34に「制御ゲイン異常」を表示し、さらにS36で制御量u=0を出力して動吸振器3を停止させる。
【0067】図6に戻って、S15では最上階の変位X4 の絶対値|X4 |がメモリ30に記憶された前回の最大変位X4 max より大きいかをチェックする。今回の変位X4 の絶対値|X4 |の方が大きい場合にはS16に移り最大変位X4 max を今回の変位X4 の絶対値|X4 |に更新してメモリ30に記憶してS17に移る。又、今回の変位X4 の絶対値|X4 |の方が小さい場合には、更新せずにS17に移り風速計16により検出された風速wを読み込む。
【0068】次のS18では今回検出された風速wの絶対値|w|がメモリ30に記憶されている最大風速wpより大きいかどうかをチェックしており、今回の風速wの絶対値|w|の方が大きい場合にはS19に移り最大風速wpを今回の値に更新してS20に至る。
【0069】又、今回の風速の方が小さい場合には、更新せずに、S20に移り動吸振器3への制御量uを演算する。
【0070】S20では後述するLQ制御による風圧制振モードの制御ゲイン《Fw》が求められ、次式(1)
【0071】
【数3】


【0072】により制御量uが算出される。そして、風圧制振モードにより算出された制御量uはS36で出力される。
【0073】従って、通常地震のないときはS7〜S20の処理が実行され、風等の比較的小さな外力による変位に対応したゲイン、即ちビル2が振動しない場合のゲイン《Fw》を用いて動吸振器3を制御するため、風圧によるゆっくりとした変位を制振するのに最適な速度で付加質量6を移動させて良好に制振できる。
【0074】II「地震制振モード」
図5に示すS6において、地震発生により地震が伝播され、地震計22により検出された縦方向の地震波(P波)が下限値εp以上になると、地震制振モードが設定される。即ち、S6において、P波が振幅Ap>εpであるときは、S21に移り地震フラグを“1”にして地震制振モードとなる。
【0075】次のS51では、サーボアンプ19a、ハイパスフィルタ33、I/Oインタフェース回路27を介して入力された地表センサ15aの振動検出信号がチェックされ、ここで検出された地震波があらかじめ設定されたしきい値以上の振動エネルギを有する超過大地震波か否かが判定される。ここで判定の結果が超過大地震波でない場合、即ち動吸振器3によって制振し得る範囲のエネルギの地震波である場合、S22に進む。又、判定の結果が超過大地震波であった場合、前述のごとくスイッチ32が開成されたサーボドライバ29への電源供給が停止され、同時の電磁ブレーキ9により付加質量6の制動がなされ、付加質量6の動作が停止される。
【0076】次のS22からS30の処理は前述した風圧制振モードのS8からS16と同様ゲイン異常判定を行っており、ビル2の最上階の一次モードの固有周期に基づく2周期分の変位をチェックしてその間の最大値X4 max が地震によるリミット値X4 lmt より小さくなっていれば、正常な制振制御が行なわれ、逆に今回の最大変位X4 max がリミット値X4 lmt より大きくなったときはゲイン異常と判定する。
【0077】S31では、地震計22により検出された横方向の地震波(S波)の振幅が下限値εsより小さいかどうかをチェックする。従って、S31において震源地からの地震(S波)が地震計22により検出されS波の振幅Asが下限値εsより大きいときは、S32に移り地震制振モード用タイマteをゼロリセットして、S33〜S36でビル2の変位の大きさに応じた制御量uを算出して付加質量6を移動させる。
【0078】しかし、S31において、縦方向の地震波(P波)が検出されたか、まだ横方向の地震波(S波)が検出されていないときは、S37に移りタイマteをインクリメントしてS38でタイマteのカウント時間が予めメモリ30に設定された待機時間Te(数分間程度)に達したかどうかを見る。そして、まだ待機時間Teに達していないとき(te<Te)は、S33の処理に移る。従って、S6で縦方向の地震波(P波)が検出されて横方向の地震波(S波)が検出されるまでの間は地震制振モードの待機状態が維持される。
【0079】地震波は前述したようにP波が先に伝播され、若干遅れてS波が伝播される。そして、上記のように地震制振モードで待機しているときに、下限値εsよりも大きい地震波(S波)が検出されると、前述の如くS32でタイマteをゼロリセットする。
【0080】続いて、S波の振幅Asが前記メモリ30に記憶された最大振幅epより大きいかどうかをチェックする(S33)。今回の振幅Asの方が大きい場合には、S34で最大振幅epを今回の振幅に更新してメモリ30に記憶させ、S35に至る。
【0081】又、今回のS波の振幅の方が小さい場合には、更新せずにS35に移り動吸振器3への制御量uを演算する。
【0082】S35では、後述するLQ制御による地震制振モードの制御ゲイン《F》が求められ、次式(2)
【0083】
【数4】


【0084】により制御量uが算出される。そして、地震制振モードにより算出された制御量uはS36で出力される。又、次回の処理のときにはS21で地震フラグ=1が設定されているので、S5から直接S22の処理に移り、S6,S21を省略する。
【0085】従って、地震波(S波)が伝播したときはS21〜S40の処理が実行され、地震による急激な変位に対応したゲイン、即ちビル2が高周波数で振動した場合のゲイン《Fe》を用いて動吸振器3を制御するため、横方向の地震による急激な振動を制振するのに最適な速度で付加質量6を移動させて良好に制振できる。従って、地震発生時急激な変位が検出されても付加質量6が基台5のストッパに衝突するまで駆動されず、従来のようにリミットスイッチをオンにして停止状態となり制振できなくなったり、あるいはストッパへの衝撃がビル2に伝わってしまうといった不都合が生じないようになっている。
【0086】又、上記地震波(S波)が止まり下限値εp以下になったときは、すぐに風圧制振モードに切換わらず、S31からS37に移りタイマteをインクリメントして待機時間Teを経過するまで(S38)地震制振モードが継続される。従って、一旦地震が止まっても余震あるいは再び地震波が伝播されるような段続的な地震の場合でも地震停止後所定時間Teの間地震制振モードが維持されているので、余震あるいは2回目,3回目…の地震による急激な入力変化に対してもビル2を良好に制振することができる。
【0087】そして、S38において、予め設定された待機時間Teが経過しても地震が発生しないときは、S39に移り地震フラグを“0”にしてS40で最大振幅epをゼロリセットする。そして、前述したS35,S36の処理を実行する。また、S40−1でタイマteをクリアする。そのため、次回の処理ではS6でP波の振幅が下限値εpより小さい場合、再び風圧制振モードに戻る。
【0088】このように、地震制振モード中に地震が止まってもすぐに風圧制振モードに切換えず地震制振モードが時間Teの間継続されるため、段続的な地震があっても地震による急激な変位に応じたゲイン《Fe》で動吸振器3を制御することができる。
【0089】ここで、上記S20,S35における制御量uを演算する際の演算方法について説明する。
【0090】まず、風圧制御モードのゲイン《Fw》と地震制振モードのゲイン《Fe》の決定について説明する。ゲイン《Fw》,《Fe》を求めるに際して、図9に示すようなN階建てのビル2と動吸振器3との力学モデルを考える。尚、図9中mは質量、Kはばね要素、Cは減衰要素である。そして、図9の力学モデルに関する最適レギュレータを設計し、これを制振装置1に適用する。
【0091】即ち、LQ(Linear Quadratic) 制御と呼ばれる方法で評価関数Jを求め、評価関数Jが最小になるように制御系のゲインFw,Feを決定する。
【0092】力学モデルは1階からN階までの質量msi の質点と、剛性ksi のばね減衰定数csi の減衰要素で構成する。また、動吸振器3は付加質量maと制御量uで表わす。
【0093】又、各階の絶対変位をysi、動吸振器3の変位をya とする。ここで、地面階ysoと各階の相対変位xsiは、xsi=ysi−yso …(3)
と表わされ、最上階(mSNと動吸振器3の付加質量6(ma)との相対変位xaは、xa=ya−ySN …(4)
と表わされる。
【0094】状態変位ベクトル
【0095】
【外1】


【0096】とすると、(但し、
【0097】
【外2】


【0098】は夫々付加質量6の変位、速度、加速度で、XS1〜XSNはビル2の変位、
【0099】
【外3】


【0100】はビル2の速度である。)この系の状態方程式は、
【0101】
【数5】


【0102】と表され、
【0103】
【数6】


【0104】ただし、式(6)中、Iは単位行列、Oはゼロ行列をそれぞれ示す。又、以下も同様とする。
【0105】
【数7】


【0106】質量マトリクスM、剛性マトリクスK、減衰マトリクスCは、
【0107】
【数8】


【0108】と表わすことができる。ここで、ビル2の変位を抑えることを目的として、次のような評価関数Jを設定する。
【0109】
【数9】


【0110】但し、《X》は各質点の状態量(《X》T 《X》は面積に比例)、Qはフィードバック量に対する重み、Rは動吸振器uに関する制約である。よって、Rが小のとき付加質量6の加速度が大となり、Rが大のとき付加質量6の加速度が小となる。
【0111】ここで、
【0112】
【数10】


【0113】とするとqaが小のとき付加質量6の変位が大となり、qaが大のとき付加質量6の変位が小となる。
【0114】
【数11】


【0115】よって、ゲイン《Fw》及び《Fe》は、
【0116】
【数12】


【0117】で表わされ、Pはリカッチ(Riccati)方程式(15)の解として求められる。
【0118】
T P+PA+Q−PBR-1T P=0 …(15)
尚、重みQ,Rにおいて、ゲイン《Fw》,《Fe》に対応する動吸振器3の変位係数qa、付加質量6の加速度の係数Rをそれぞれ風圧用のqw, rw、地震用のqe,reとすると、風圧よりも地震による外力が数倍大きいので、qw≪qe,rw≪reと設定し上記の手順でゲインFを求める。
【0119】このようにして得られたゲインFに基づいて制御量uが算出され、動吸振器3のモータ8に出力される。よって、付加質量6は風圧制振モード時はゲイン《Fw》による制御量uにより制御されて制振方向に移動し、地震制振モード時はゲイン《Fe》による制御量uにより制振動作するように駆動される。
【0120】尚、上記実施例では、ビル2の制振を行う制振装置を一例として挙げたが、これに限らず上記動吸振器3をビル以外の構造物(例えば橋梁、鉄塔、高架建築物、スタジアム等)にも適用できるのは勿論である。
【0121】
【発明の効果】上述の如く、請求項1の発明によれば、本来制振装置が制振動作しない周波数の地震波によって付加質量の動作が停止されることがないようにしたため、本来制振装置が制振動作する周波数の地震波のうち、そのエネルギが大きく制振装置の容量を越える場合のみ付加質量の動作が停止される。よってこのような場合に安全に付加質量の停止がなされるようにしたため、不可質量の構造物への衝突等が防止され安全性の向上を図ることができるとともに、付加質量の動作停止の場合を必要最小限とすることができ、有効に制振動作がなされるようにすることができる。又、構造物及び地面の変位センサから出力された変位検出信号によって制振動作がなされる制御ループに前記フィルタを介在しない構成とすることによって、フィルタの位相遅れ等による制振動作の精度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる制振装置の概略構成図である。
【図2】動吸振器の正面図である。
【図3】動吸振器の縦断面図である。
【図4】本発明の要部のハイパスフィルタの一例の回路図である。
【図5】メモリに記憶された項目を示す図である。
【図6】制振装置のCPUが実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6の処理に続いて実行される風圧制振モードの処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】図6の処理に続いて実行される地震制振モードの処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】ビル及び動吸振器の振動モデルを示す図である。
【符号の説明】
1 制振装置
2 ビル
3 動吸振器
4 制御装置
6 付加質量
8 ACサーボモータ
15a〜15d,18 センサ
16 風速計
22 地震計
25 CPU(動作停止手段、開閉成手段としてのソフトウェアを含む)
32 スイッチ(動作停止手段、開閉成手段)
33 ハイパスフィルタ(フィルタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造物及び地面の変位を検出するセンサからの検出信号に基づいて駆動信号を生成し、該駆動信号によりアクチュエータを駆動して付加質量を移動させ、該構造物の振動を制振する制振装置において、前記センサに検出された信号のうち、前記構造物の固有振動数の周波数を含む所定の周波数帯の信号を選択的に通過させるフィルタと、該フィルタを介して検出信号が入力され、前記付加質量の移動によって前記構造物の振動を制振し得ないと判定したときに前記付加質量の動作を停止させる動作停止手段を有することを特徴とする制振装置。
【請求項2】 前記動作停止手段は、前記駆動信号を生成する駆動信号生成手段に対する電源供給を停止する開閉成手段とされてなることを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項3】 前記フィルタは、前記構造物の一次固有振動数以上の周波数帯の信号を選択的に通過させるハイパスフィルタとされてなることを特徴とする請求項1記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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