説明

制振装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は橋、建物、船、航空機、車両、荷役装置等の構造物に取り付けてこれら構造物の振動振幅を抑えて早期に振動を減衰させるために用いる制振装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種制振装置としては、図3にその一例を示す如く、円弧状に湾曲形成した錘り1を、構造物2上に設置した支持ローラ3上に、単弦振動を行えるように載置し、且つ該錘り1の上面に振動方向に沿ってラック4を設け、更に、該ラック4の上方部にラック4と直交するように配した軸5をアクチュエータとしてのモータ6に連結し、該軸5の中間部に、上記ラック4と噛合するようにピニオン7を取り付け、モータ6の駆動により軸5を介しピニオン7を回転させてラック4と共に錘り1を所要の周期で往復動させられるようにした構成の制振装置8が最近提案されている(特開平2−102945号)。
【0003】かかる制振装置8によれば、空気力あるいは地震等による外力により構造物2に振動(揺れ)が発生したときに、モータ6の駆動で構造物2の振動に対して90°遅れた形で錘り1に単弦振動を行う運動エネルギーが与えられ、そのエネルギーが構造物2に対して与えられることにより、構造物2の振動を減衰させることができるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記最近提案されている制振装置8の場合、曲げ及びねじれを含む制振動作を行うものであることから、複数個所に設置したとしても、各部の錘り1が同期して一様に作動させられることになり、そのため、構造物2の振動を効果的に減衰させることができない場合がある。すなわち、上記制振装置8では、通常、1個の振動検出器で検出した信号を基に構造物2の曲げとねじれを含む振動を制御するようにしているので、曲げ成分とねじれ成分を分離することはできない。又、曲げ又はねじれのいずれかの高次振動に基づいて制御系が発振してしまうことにもなる。よって、曲げ成分とねじれ成分の振動数が大きく異なるときは制御不可となってしまう虞がある。
【0005】そこで、本発明は、構造物に発生した振動の曲げ成分とねじれ成分を分離して、個々の成分に基づいて錘りの運動を制御できるようにすることにより、制振効果を向上させることができるようにしようとするものである。
【0006】本発明は、上記課題を解決するために、構造物の曲げ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるための曲げ振動用制振機構と、構造物のねじれ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるためのねじれ振動用制振機構とを、曲げ振動用制振機構が中央部に、又、ねじれ振動用制振機構が左右に位置するように構造物にそれぞれ据え付け、且つ構造物の振動を検出する左右の振動検出器を備え、更に、上記左右の振動検出器からの信号を加算する加算器と、該加算器からの信号を振動検出器数で除算して曲げ成分となる並進成分の平均値の信号を求める除算器と、該除算器からの信号を基に曲げ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器と、上記左右の振動検出器の信号と上記除算器からの信号とを演算してねじれ成分の信号を求める左右のねじれ成分演算器と、該左右のねじれ成分演算器からの個々の信号を基に左右のねじれ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器とを備えてなる制御装置を設けた構成とする。
【0007】
【0008】
【0009】
【作用】構造物の振動が複数の振動検出器で一方向の振動として検出されると、その信号が制御装置の加算器にて加算されてから除算器にて振動検出器数にて除算され、この除算信号を基に制御器からの指令で曲げ振動用制振機構のアクチュエータが作動させられ、他方、上記除算信号と個々の振動検出器で検出された信号の差がねじれ成分演算器で求められ、求められたねじれ成分信号を基に各ねじれ振動用制振機構のアクチュエータが作動させられるため、曲げとねじれのそれぞれのモードに対応した制御が行われる結果、構造物の振動を速やかに効果的に減衰させることができる。
【0010】
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0012】図1及び図2の(イ)(ロ)は本発明の一実施例を示すもので、振動を抑える構造物として、左右の脚9,10と上下部の水平材11,12とからなる橋の主塔13への採用例を示す。すなわち、主塔13の上部に、図3に示した制振装置8と同様な構成としてある曲げ振動用制振機構14と一対のねじれ振動用制振機構14a,14bとを、それぞれの錘り1の運動方向が図2R>2の(ロ)において矢印X方向となる向きで、上記曲げ振動用制振機構14が中央部に、又、ねじれ振動用制振機構14a,14bが左右両端部に位置するようにして据え付け、且つ上記主塔13の左右の脚9,10の上端部に、加速度計の如き振動検出器15a,15bを取り付け、更に、該各振動検出器15a,15bで検出した信号を曲げ成分とねじれ成分とに分離してこれら各成分に基づく制御指令を上記曲げ振動用制振機構14のアクチュエータであるモータ6とねじれ振動用制振機構14a,14bのアクチュエータである各モータ6にそれぞれ対応して送るようにした制御装置16を設けた構成とする。
【0013】上記制御装置16は、左右の振動検出器15a,15bからの信号を加算する加算器17と、該加算器17からの信号を除算して曲げ成分となる並進成分の信号を求める除算器18と、該除算器18からの信号を基に曲げ振動用制振機構14のモータ6へ制御指令を送る制御器19と、上記振動検出器15a,15bの信号と除算器18からの信号とを演算してねじれ成分の信号を求める左右のねじれ成分演算器20a,20bと、該ねじれ成分演算器20a,20bからの信号を基にねじれ振動用制振機構14a,14bのモータ6へ制御指令を送る制御器19a,19bとを備えてなる構成としてある。
【0014】今、橋の主塔13に振動が発生し、左右の脚9,10に並進運動が起っている場合は、左右の振動検出器15a,15bで検出した一方向の信号が加算器17で加算され、更に、加算器17の信号が除算器18で処理され、除算器18の信号に基づいて制御器19にて曲げ振動用制振機構14が制御されるが、このとき、左右の脚9,10にねじれが生じている場合は、左右の脚9,10は逆位相でねじれ運動を行うため、このねじれ運動の成分を打ち消して並進成分のみを取り出して制御することができる。
【0015】すなわち、左右の脚9,10がねじれ運動をしている場合、左右の脚9,10にはそれぞれ並進運動とねじれ運動とが重畳されることになり、この重畳された運動が左右の振動検出器15a,15bで検出されることになる。この際、振動検出器15a,15bで検出されたねじれ成分は、振動検出器15aがプラスの信号のときは振動検出器15bの信号はマイナスとなり、又、並進成分はそれぞれ同符号であるから、振動検出器15a,15bの検出信号を加算器17で加算すると、ねじれ成分は零となり並進成分が分離されることになる。したがって、加算器17からの信号を除算器18により検出器個数である「2」で除算すると、脚9,10の並進成分の平均値が求められることになり、この値に基づき制御器19にて曲げ振動用制振機構14のモータ6を制御することにより、主塔13の1次モードの揺れを小さくすることができる。
【0016】一方、上記振動検出器15a,15bで検出した信号から上記除算器18で求めた並進成分の平均値を左右のねじれ成分演算器20a,20bで減算すると、それぞれねじれ成分のみを取り出すことができる。この場合、主塔13が、たとえば、左右非対称形状(構造)であるとすると、ねじれ振動が発生したときに、左右のねじれ量に差が出る可能性が高いが、このような場合でも、左右で異なる値のねじれ成分信号を正確に取り出すことができる。したがって、個々のねじれ成分の値に基づいて制御器19a,19bにてねじれ振動用制振機構14a,14bのモータ6をそれぞれ制御することにより、主塔13のねじれモードの揺れを低減することができ、最大の制振効果を発揮することができる。
【0017】なお、上記実施例では、橋の主塔13への採用例を示したが、他のあらゆる構造物に適用できること、又、実施例では制振機構14,14a,14bを構造物の中央、左右に1台宛据え付けた場合を示したが、構造物の形状に応じて中央、前後に据え付けても、中央、左右の場合と実質的に同一であること、据え付け数も複数台としてもよいこと、更に、制振機構14,14a,14bとしては錘りを円弧状に形成して単弦振動させる方式に限られるものではなく、錘りを往復動させるあらゆる型式の能動型制振機構を適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0018】
【発明の効果】以上述べた如く、本発明の制振装置によれば、構造物の曲げ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるための曲げ振動用制振機構と、構造物のねじれ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるためのねじれ振動用制振機構とを、曲げ振動用制振機構が中央部に、又、ねじれ振動用制振機構が左右に位置するように構造物にそれぞれ据え付け、且つ構造物の振動を検出する左右の振動検出器を備え、更に、上記左右の振動検出器からの信号を加算する加算器と、該加算器からの信号を振動検出器数で除算して曲げ成分となる並進成分の平均値の信号を求める除算器と、該除算器からの信号を基に曲げ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器と、上記左右の振動検出器の信号と上記除算器からの信号とを演算してねじれ成分の信号を求める左右のねじれ成分演算器と、該左右のねじれ成分演算器からの個々の信号を基に左右のねじれ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器とを備えてなる制御装置を設けた構成としてあるので、次の如き優れた効果を発揮する。
(1)左右の振動検出器で構造物の曲げ成分、ねじれ成分を検出し、その信号を制御装置により曲げ成分とねじれ成分に分離して、個々の信号を基にそれぞれ制振機構を制御するようにしてあることから、構造物の1次モードの揺れに対する減揺効果が高い。
(2)左右の振動検出器の信号を基に曲げとねじれを制御するようにしてあることから、1個の振動検出器で曲げとねじれを同時に制御する型式に比して制御効果を向上することができる。
(3)ねじれ成分を含む制御はねじれに高次モードが入るため制御系が発振し易いが、曲げとねじれとを分離して曲げモード、ねじれモードでそれぞれ制御することができることにより、制御系が安定する。
(4)構造物の曲げとねじれを分離してとらえることができることから、振動数が曲げとねじれで違っていても安定して制振制御することができ、更にこの際、構造物の左右でねじれ量に差があるような場合でも、左右で異なるねじれ成分信号を正確に取り出すことができることから、左右のねじれ振動用制振機構を左右個々のねじれ成分信号に基づく制御指令で制御することができることにより、最大の制振効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制振装置の一実施例を示す制御装置のブロック図である。
【図2】橋の主塔への適用例を示すもので、(イ)は概略正面図、(ロ)は概略側面図である。
【図3】最近提案されている制振装置の一例を示す概要図である。
【符号の説明】
1 錘り
6 モータ(アクチュエータ)
13 橋の主塔(構造物)
14 曲げ振動用制振機構
14a,14b ねじれ振動用制振機構
15a,15b 振動検出器
16 制御装置
17 加算器
18 除算器
19,19a,19b 制御器
20a,20b ねじれ成分演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造物の曲げ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるための曲げ振動用制振機構と、構造物のねじれ振動をアクチュエータで往復動させる錘りの運動エネルギーに変換して減衰させるためのねじれ振動用制振機構とを、曲げ振動用制振機構が中央部に、又、ねじれ振動用制振機構が左右に位置するように構造物にそれぞれ据え付け、且つ構造物の振動を検出する左右の振動検出器を備え、更に、上記左右の振動検出器からの信号を加算する加算器と、該加算器からの信号を振動検出器数で除算して曲げ成分となる並進成分の平均値の信号を求める除算器と、該除算器からの信号を基に曲げ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器と、上記左右の振動検出器の信号と上記除算器からの信号とを演算してねじれ成分の信号を求める左右のねじれ成分演算器と、該左右のねじれ成分演算器からの個々の信号を基に左右のねじれ振動用制振機構のアクチュエータへ制御指令を送る制御器とを備えてなる制御装置を設けた構成を有することを特徴とする制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3341362号(P3341362)
【登録日】平成14年8月23日(2002.8.23)
【発行日】平成14年11月5日(2002.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−164980
【出願日】平成5年6月11日(1993.6.11)
【公開番号】特開平7−4465
【公開日】平成7年1月10日(1995.1.10)
【審査請求日】平成11年6月30日(1999.6.30)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【参考文献】
【文献】特開 平1−275867(JP,A)
【文献】特開 平1−275869(JP,A)
【文献】実開 昭59−11315(JP,U)