説明

制振遮音性能を有するせっこうボード積層材

【課題】 建築物の壁下地や天井下地に使用される制振遮音層を積層したせっこうボード積層材で、中空壁の共鳴透過による性能低下を改善し、また、廃棄時には制振遮音層とせっこうボードを容易に分別できることを目的とする。
【解決手段】
制振遮音層の片面に、密度0.3〜0.6g/mの古紙を主成分とした紙層を設け、この面とせっこうボードを積層し、制振効果を向上させ共鳴透過を改善するとともに、廃棄時に、古紙を主成分とした紙層に剪断力をあたえることにより紙層が層間破壊され制振遮音層とせっこうボードが容易に分別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁や天井の防音対策として使用される、制振遮音機能を有するせっこうボード積層材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の集合化や生活の高度化に伴い静かな環境への要求が高まり、特に、隣室や上階からの生活音が問題となる場合がある。
壁間の防音対策としては、せっこうボードなどの下地材と構造体の間に遮音シートを施工する場合と、防音材が積層された下地材を施工する場合がある。
前者の遮音シートに関しては、塩化ビニル系樹脂やアスファルトに金属粉などの無機充填材を混合し、シート化したものがある。(例えば特許文献1、2参照)
施工については、柱や間柱に遮音シートをステープル、釘を用いて仮止め固定し、その上からせっこうボードなどの下地材を固定している。
後者の防音材が積層された下地材に関しては、無機質パネルを上面とし可撓性重量シートを下層とする積層体からなり、上記可撓性重量シートは、合成樹脂シート基材に重量粉体を分散保持させることで比重が1.1以上に調整されると共に、該シート下面に、基部から先端に向けて断面積が減少する形状の突起が多数点在して設けられてなる遮音性下地材が提案されている。(特許文献3参照)
【0003】
一般的に、柱や間柱の両側に下地材を固定する二重壁は、中空部分の空気層に起因する共鳴透過ならびに下地材に起因するコインシデンス効果により、遮音性能の低下が見られる。
共鳴透過とは、2枚の下地材がそれぞれ質量、中間の空気層がばねとみなせる共振系が形成され、その共振周波数に一致した音波が入射すると共振によって透過側の下地材もよく振動し、それによって音波が放射される現象である。
コインシデンス効果とは、下地材に入射する音波の入射角度と下地材中を伝搬する屈曲振動の山・谷が一致したときに、下地材の屈曲振動が増幅され、それによって音波が放射される現象である。
遮音シートを施工することにより、コインシデンス効果は改善できるが、一般的に普及している面密度が2.0kg/m前後の遮音シートでは、共鳴透過に関しては改善できないのが現状である。共鳴透過を改善するためには、高い面密度の遮音シートが必要である。よって特許文献1および2の遮音シートにおいて、面密度が2.0kg/m程度であると共鳴透過の性能改善が不可能で、また、共鳴透過を改善するためには、高い面密度の遮音シートが必要となるが、質量が重いため施工が困難である欠点があった。
また、共鳴透過を改善する方法として、下地材の振動を減衰させる、つまり、制振効果による改善があり、例えば、下地材と制振材を貼り合わせる方法もある。
【0004】
しかしながら、最近は環境上の観点より、建築現場ならびに解体現場で発生する端材や廃棄物をリサイクルする必要があり、リサイクルシステムが構築されている。特にせっこうボードについては、リサイクルシステムが運用されており、新築現場等においても他の廃棄物と分別されているのが現状である。よって、せっこうボードにせっこうや紙以外の材質のものが付着している場合、リサイクルが不可能である。
よって特許文献3に、無機質パネルを上面とし可撓性重量シートを下層とする積層体からなり、上記可撓性重量シートは、合成樹脂シート基材に重量粉体を分散保持させることで比重が1.1以上に調整されると共に、該シート下面に、基部から先端に向けて断面積が減少する形状の突起が多数点在して設けられてなる遮音性下地材が提案されているが、せっこうボードをリサイクルするためには、可撓性重量シートとせっこうボードを分別する必要がある。せっこうボードと可撓性重量シートは接着しており、また、樹脂中に重量粉体を分散保持させているため、可撓性重量シートの強度が弱く、分別しようとしても可撓性重量シートが破壊されせっこうボード側に残存し、完全に分別するのは困難である欠点があった。
【0005】
以上のことより、共鳴透過による性能低下を改善し、せっこうボードと制振遮音層が積層され、リサイクルのための分別時にせっこうボードと制振遮音層が容易に分別できるものは見受けられない。
【0006】
【特許文献1】 特開2003−321590号公報
【特許文献2】 特開2001−279841号公報
【特許文献3】 実開平5−42418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消して、共鳴透過による性能低下を改善するためせっこうボードと制振遮音層が積層され、リサイクルのための分別時にせっこうボードと制振遮音層が容易に分別できる制振遮音性能を有するせっこうボード積層材を提供することを目的とする。
【0008】
繊維シート層1上に、制振遮音層2、古紙を主成分とする紙層3、せっこうボード4を順次積層し、制振遮音層2が、アスファルト100重量部に熱可塑性ポリマー0〜100重量部、無機充填剤100〜2000重量部を添加後、均一に混合して得られたもので、面密度が2.0〜6.0kg/mであることを特徴とする。
また、古紙を主成分とする紙層3の密度が0.3〜0.6g/cmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、共鳴透過による性能低下を改善し、せっこうボードと制振遮音層が積層され、リサイクルのための分別時にせっこうボードと制振遮音層が容易に分別できる制振遮音性能を有するせっこうボード積層材として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態についてさらに詳細に説明する。本発明の制振遮音性を有するせっこうボード積層材を構成する繊維シート層1としては、不織布、フェルト、織布、紙、板紙等種々のものが使用できるが、不織布又はフェルトを使用することが好ましい。特に好ましいものの例としては、ポリエステル等の合成繊維からなる不織布、無機質フェルト、クラフト紙等が挙げられる。繊維シート層1は制振遮音層の破損防止を目的とする。
【0011】
本発明の制振遮音板を構成する制振遮音層2としては、アスファルト100重量部に熱可塑性ポリマー0〜100重量部、無機充填剤100〜2000重量部を添加後均一に混合して得られたものを使用する。熱可塑性ポリマーを添加する場合には、アスファルトとポリマーをあらかじめ混合したものに無機充填剤を加えるようにしてもよい。熱可塑性ポリマーは、制振遮音層に可撓性を付加させる場合に添加する。使用されるアスファルトとしては特に制限はなく、一般にアスファルトと呼ばれるもの、例えば天然アスファルト、ならびにストレートアスファルト、ブローンアスファルト等の石油アスファルトが使用される。これらのアスファルトは単独で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0012】
熱可塑性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、天然ゴム、天然ロジン、変性ロジン等を使用することができるが、特にスチレン・ブタジエンブロック共重合体を使用することが好ましい。
【0013】
無機充填剤としては、鉄、銅、錫、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼等の金属粉体、酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、フェライト、酸化錫、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム等の金属塩類、製鋼スラグ、マイカ、クレー、タルク、亜鉛華、ウォラストナイト、けい藻土、けい砂、軽石粉等を使用することができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
好ましい無機充填剤としては、鉄粉、各種酸化鉄粉末、製鋼スラグ粉末、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム等が挙げられ、これらは粒径0.5mm以下、特に0.2mm以下の粉末として使用することが好ましい。このように微粉末化された無機充填剤を使用することにより、制振遮音層を製造する際の成形加工性を改善し、アスファルト基材中に多量の無機充填剤を均一に分散配合することができ、制振遮音層2の面密度を高くすることが可能となるとともに、制振遮音層2の感熱安定性を大きく向上させることができる。制振遮音層2の面密度は2.0kg/m以上、好ましくは4.0kg/mから6.0kg/mである。面密度が2.0kg/mより低い場合、せっこうボードのコインシデンス効果と共鳴透過による性能低下が認められ、また、6.0kg/mより大きいと、厚み9.5mmのせっこうボードに貼り合わせた際、面密度が12kg/mと質量が大きくなるため施工性に問題がある。
【0015】
無機充填剤は、アスファルト100重量部に対して100〜2000重量部添加されるが、無機充填剤の量が100重量部より少ない場合には充分な制振遮音効果が得られず、また、2000重量部を超える場合には全体がもろくなり形成が困難になる。本発明で、制振遮音層2を形成するには、例えばアスファルトに熱可塑性ポリマー及び無機充填剤を添加し、加熱しながら均一に混合後、制振遮音層を形成し、これを繊維シート層1と積層するか、加熱溶融状態のアスファルト混合物により繊維シート層1、古紙を主成分とした紙層3に直接、制振遮音層2を形成する。この際、必要に応じて各層間に接着剤層を設けてもよい。
【0016】
古紙を主成分とした紙層3としては、新聞や雑誌等からなる古紙を主成分とし抄紙したものを使用することができる。なお、紙層に綿屑や毛屑、ロックウール繊維やガラス繊維等を混入してもよい。坪量は、180〜400g/mのものが使用でき、密度は0.3〜0.6g/cmのものが使用できる。
本発明品の特徴として、リサイクルのために分別する際、古紙を主成分とした紙層3を剪断し層間破壊することにより、制振遮音層2とせっこうボード4を容易に分離することができる。なお、分別後にせっこうボード4側に古紙を主成分とした紙層3が残存するが、せっこうボード4の表裏面に使用している面材についても紙質なので、リサイクルにあたり問題はない。
【0017】
せっこうボード4には、一般的に壁下地や天井下地に使用されるものが使用できる。
例えば、JIS A 6091 せっこうボード製品に規定される、せっこうボード(GB−R)、シージングせっこうボード(GB−S)、強化せっこうボード(GB−F)、せっこうラスボード(GB−L)、化粧せっこうボード(GB−D)、不燃積層せっこうボード(GB−NC)がある。
せっこうボード4の裏面、つまり、柱側に位置する面と古紙を主成分とする紙層3を接着剤を使用し固定する。接着剤の種類であるが、特に限定はしないが、エマルジョンタイプの酢酸ビニル系接着剤が好ましい。接着剤は全面に塗布することが好ましいが、面積比で50%以上の塗布で制振効果は認められる。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の制振遮音性能を有するせっこうボード積層材の1例を示す断面図である。
この例では、アスファルト100重量部、粒径0.5mm以下の酸化鉄粉150重量部、200メッシュ以下の炭酸カルシウム粉末500重量部を均一に混合して厚さ2mm、面密度4kg/mの制振遮音層2を構成した。繊維シート層1としては面密度50g/mのポリエステルの不織布を使用した。また、古紙を主成分とする紙層3としては、古紙80重量%、綿屑20重量%の配合で抄紙し、坪量300g/m、密度0.43g/cm、厚さ0.7mmとした。あらかじめ繊維シート層1、古紙を主成分とする紙層3間に加熱溶融状態のアスファルト混合物を押出し積層した後に、古紙を主成分とする紙層3の表面に酢酸ビニル系接着剤60g/mを全面に塗布し、厚さ9.5mmのせっこうボード4と積層して厚さ12.2mmの制振遮音性能を有するせっこうボード積層材を得た。
【0019】
本発明品の制振遮音効果をJIS A 1416(実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法)に規定する音響透過損失を測定した。
測定に使用した壁構造体であるが、音源室、受音室間の開口部に、45×105mmの木製間柱を455mm間隔で設置し、両側に本発明品をせっこうボード用ビスを用いて固定した。この時、壁構造体の中空部分は105mmとし、グラスウール 密度10kg/m、厚み100mmを挿入した。また、本発明品は、中空部分に繊維シート層1側が位置するようにした。
本発明の比較として、厚さ1.0mm、面密度2.1kg/mの塩化ビニル基材の遮音シートを、前述した木製間柱にステープルを使用し固定、中空部分に中にグラスウール 密度10kg/m、厚み100mmを挿入し、両側に厚さ9.5mmのせっこうボードをせっこうボード用ビスを用いて固定した。この結果を図2に示す。
【0020】
図2にみられるように、JIS A 1419−1(建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法−第一部:空気音遮断性能)の遮音等級で比較すると、本発明品を使用した壁構造体はDr−40、従来の塩化ビニル基材の遮音シートを使用した壁構造体はDr−30となった。125Hz帯域に大きな差が認められ、本発明品を使用することにより共鳴透過による性能低下が改善できた。
実施例より、制振遮音効果を向上させる方法としては、せっこうボード4の厚みを増加、もしくは制振遮音層2の面密度を増加させることにより可能である。
【0021】
また、リサイクルのための分別であるが、実施例に記載した本発明品は、古紙を主成分とする紙層3に剪断力を与えることにより、古紙を主成分とする紙層3が層間破壊され、容易にせっこうボード4と繊維シート層1、制振遮音層2が分別できた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の制振遮音性能を有するせっこうボード積層材は、下地材と制振遮音層を積層することにより遮音性能が向上し、また、古紙を主成分とする紙層3を設けることにより、リサイクルの分別が容易となり、せっこうボードならびに制振遮音層が、それぞれリサイクルされ、環境にやさしい、高性能な製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制振遮音性能を有するせっこうボード積層材の1例を示す断面図である。
【図2】実施例で得られた制振遮音性能を有するせっこうボード積層材を使用した壁構造体の音響透過損失性能を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 繊維シート層
2 制振遮音層
3 古紙を主成分とする紙層
4 せっこうボード
5 制振遮音性能を有するせっこうボード積層材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シート層1、制振遮音層2、古紙を主成分とした紙層3、せっこうボード4を順次積層した制振遮音性能を有するせっこうボード積層材において、制振遮音層2が、アスファルト100重量部に熱可塑性ポリマー0〜100重量部、無機充填剤100〜2000重量部を添加後、均一に混合して得られたもので、面密度が2.0〜6.0kg/mであることを特徴とする制振遮音性能を有するせっこうボード積層材。
【請求項2】
古紙を主成分とした紙層3の密度が0.3〜0.6g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の制振遮音性能を有するせっこうボード積層材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126954(P2007−126954A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349906(P2005−349906)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(591260513)七王工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】