説明

制酸剤組成物

【課題】胃内pHを弱酸性に保ち、かつ、持続時間の長い制酸剤組成物を提供する。
【解決手段】マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物。アルミニウムおよびナトリウムを含有しない制酸剤からなり、胃内pHを弱酸性に保ち、かつ、持続時間が長いという特徴を有するものである。アルミニウムおよびナトリウムを含有しないので、アルミニウムの神経毒性やナトリウムの過剰摂取を心配する必要がまったくない。したがって、本発明の制酸剤組成物は、より一層安全で、かつ優れた胃炎、胃潰瘍などの治療効果を発揮する胃腸薬として優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胸やけ、胃痛、胃部不快感等の症状の原因は、胃酸による場合が多く、胃腸薬においては、胃酸への対策が重要な課題である。このため、ほとんどの胃腸薬には胃内に分泌された胃酸を中和し、またペプシンを不活化するような制酸剤が単独または併用で配合されている。しかし、制酸剤によって胃内がアルカリ性になると逆に胃酸分泌が盛んになり、潰瘍、胃痛などの治療にとって好ましくない。このため胃内pHを弱酸性に保ち、かつ持続時間の長い制酸剤が治療効果の面で優れているとされている。従来、制酸剤は、制酸力、pH、持続時間などの面から、種々の組み合わせで使用されている。現在、汎用されている制酸剤としては、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウムなどのアルミニウム系制酸剤、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどのマグネシウム系制酸剤、炭酸水素ナトリウムのナトリウム系制酸剤、沈降炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ボレイ(末)などのカルシウム系制酸剤が挙げられる。また、胃腸薬には、制酸剤の他に、抗アセチルコリン剤、局所麻酔剤、消化剤、消化酵素、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)、生薬成分などが配合されている(非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】株式会社エス・アイ・シー編集 OTCハンドブック2002−03 −基礎から応用まで− 株式会社学術情報流通センター 277−287頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウムは人体の生命維持にとって必要のない金属であり、近年では、痴呆症とアルミニウムの因果関係は明確でないものの、アルミニウムが脳内に入った場合に神経毒性が発生することから、アルミニウムの有毒性が問題視されている。また、ナトリウムは人体の生命維持にとって必要な金属であるが、高血圧症などの面から過剰摂取は好ましくない。
また、制酸剤の服用により、胃内pHがアルカリ性になると、胃酸分泌が盛んになり、潰瘍、胃痛などの治療にとって好ましくない。
したがって、本発明においては、アルミニウムおよびナトリウムを含有しない制酸剤を用い、胃内pHを弱酸性に保ち、かつ、持続時間の長い制酸剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物が、上記の欠点を改善し、制酸力が大きく、かつ、胃内pHがアルカリ性に至らない組み合わせとなることを見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は以下のものに関する。
(1)マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物。
(2)マグネシウム系制酸剤が水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上である上記(1)記載の制酸剤組成物。
(3)水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物。
(4)水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムの重量比が1:1〜1:10である上記(3)記載の制酸剤組成物。
(5)1日当たりの投与(服用)量として、水酸化マグネシウムを100〜400mg、および沈降炭酸カルシウムを600〜3000mg含有する上記(3)記載の制酸剤組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の制酸剤組成物、および抗アセチルコリン剤、局所麻酔剤、消化剤、消化酵素、胃粘膜修復剤、生薬成分から選ばれる1種または2種以上を含有する医薬組成物。
(7)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の制酸剤組成物、ロートエキスおよび塩酸セトラキサートを含有する医薬組成物。
(8)1日当たりの投与(服用)量として、水酸化マグネシウムを100〜400mg、沈降炭酸カルシウムを600〜3000mg、ロートエキス6〜60mg、塩酸セトラキサートを100〜2000mg含む医薬組成物。
(9)胃腸薬である上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の制酸剤組成物および上記(6)〜(8)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
(10)剤形がカプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤または散剤である上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の制酸剤組成物および上記(6)〜(8)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
後記実施例から明らかなように、本発明のマグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物は、胃内のpHがアルカリ性になることなく、制酸効果も大きいものである。また、マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物にロートエキスおよび塩酸セトラキサートを含有する本発明の医薬組成物は、各種胃損傷モデルにおいて、抑制率が相加的に高くなり、有意な胃損傷抑制作用を示し、優れた治療効果を示すものである。
本発明における医薬組成物の具体例である、水酸化マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、ロートエキスおよび塩酸セトラキサートを含有する組成物は、制酸剤組成物における水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムによって胃酸を速やかに中和して不快な症状を改善し、抗アセチルコリン剤のロートエキス(鎮痛・鎮痙薬)によって胃痛を緩和し、さらに、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)である塩酸セトラキサートによって荒れた胃粘膜を修復させるものであり、胃腸薬として極めて優れたものである。
本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、アルミニウムの神経毒性やナトリウムの過剰摂取を心配する必要がまったくない。したがって、本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、より一層安全で、制酸効果を示し、かつ優れた胃炎、胃潰瘍などの治療効果を発揮する胃腸薬として優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物に関する。以下、本発明について詳しく説明する。
【0009】
本発明にかかるマグネシウム系制酸剤としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムなどを挙げることができる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。水酸化マグネシウムは、胃酸を中和する制酸力が大きく、1gの水酸化マグネシウムは、0.1N塩酸の消費量として約340mLであるが、フックス試験によるpHの最大値がpH約9と高くなりすぎる欠点がある。1gの酸化マグネシウムは、0.1N塩酸の消費量として約480mLであるが、フックス試験によるpHの最大値がpH約9であり、1gの炭酸マグネシウムは、0.1N塩酸の消費量として約210mLであるが、フックス試験によるpHの最大値がpH約8であり、1gのケイ酸マグネシウムは、0.1N塩酸の消費量として約115mLであるが、フックス試験によるpHの最大値がpH約7である。
【0010】
また、本発明にかかる沈降炭酸カルシウムは、胃酸を中和する制酸力が中程度で、1gの沈降炭酸カルシウムは、0.1N塩酸の消費量として約200mLで、フックス試験によるpHの最大値がpH5.8である。
【0011】
フックス試験とは、37℃±2℃に保った0.1N塩酸50ml中に1回服用量当たりの試料を加え、スターラーにより撹拌しながら10分後にpHを測定し、pHを測定後に1N塩酸2mlを10分毎に注加し、10分ごとにpHを測定する試験方法であり、制酸効果の持続時間は、pHが3.0以下になるまでの時間である。
【0012】
本発明の制酸剤組成物において、マグネシウム系制酸剤と沈降炭酸カルシウムの配合量は、上記フックス試験における試験開始10分後のpHが7.0以下、好ましくはpHが6.0以下となるように、適宜検討し、決定すればよい。
【0013】
本発明の制酸剤組成物において、マグネシウム系制酸剤として水酸化マグネシウムを用いた場合、水酸化マグネシウムの1日当たりの投与(服用)量あるいは配合量(以下、1日量と略す。)を500mg未満とすれば、胃内pHがアルカリ性とならず好ましい。より好ましくは20〜400mgであり、さらに好ましくは200〜400mgである。水酸化マグネシウムと沈降炭酸カルシウムの重量比は、1:1〜1:10が好ましく、1:2〜1:5が更に好ましい。水酸化マグネシウムの重量比が小さく、沈降炭酸カルシウムの重量比が大きい場合(1:10よりも大きい場合)は、pHは7以下となるが、制酸力が小さくなり、さらに沈降炭酸カルシウムの配合量を多くすると、製剤化した際の製剤が大きくなり、服用し難くなるため好ましくない。具体的には、本発明の水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物において、1日量として、水酸化マグネシウムを200〜400mg、および沈降炭酸カルシウムを500〜2000mg配合するのが好ましく、水酸化マグネシウムを300mg、および沈降炭酸カルシウムを900〜1500mg配合するのがより好ましく、水酸化マグネシウムを300mg、沈降炭酸カルシウムを1200mg配合するのがさらに好ましい。
【0014】
本発明の制酸剤組成物において、マグネシウム系制酸剤として水酸化マグネシウムを用い、水酸化マグネシウムと沈降炭酸カルシウムの重量比を1:4とした場合、すなわち、1日量として水酸化マグネシウムを300mg、沈降炭酸カルシウムを1200mgとした場合では、制酸力が約350ml/1日量、pHは6.5、pH3.0以上の制酸効果の持続時間は約40分であり、これは一般用医薬品の胃腸薬製造承認基準で定められている制酸力(1日分の製剤の制酸力が0.1N塩酸の消費量として150mL以上)および製剤のpH(pH3.5以上)を十分満足するものである。本発明の制酸剤組成物においては、本発明の効果を妨げない範囲で、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ボレイ(末)等の沈降炭酸カルシウム以外のカルシウム系制酸剤を配合してもよい。
【0015】
本発明の制酸剤組成物は、さらに他の薬効成分を配合することができる。本発明においては、本発明の制酸剤組成物にさらに他の薬効成分を配合したものを本発明の医薬組成物という。さらに配合可能な薬効成分としては、抗アセチルコリン剤、局所麻酔剤、消化剤、消化酵素、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)、生薬成分などから選ばれる1種または2種以上の組み合せを挙げることができる。抗アセチルコリン剤としては、ロートエキス、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルベナクチジウム、臭化チメピジウム、ピレンゼピン、ヨウ化イソプロパミドなどを挙げることができ、局所麻酔剤としては、アミノ安息香酸エチル、オキセサゼインなどを挙げることができ、消化剤(利胆剤)としては、ウルソデオキシコール酸、動物胆(熊胆、牛胆)などを挙げることができ、消化酵素としては、でんぷん消化酵素(ビオジアスターゼ、タカジアスターゼ)、脂肪消化酵素(リパーゼ)などを挙げることができ、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)としては、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィンカリウム、アルジオキサ、メチルメチオニンスルホニウムクロリド、スクラルファート、塩酸セトラキサート、ソファルコン、ゲファルナート、マレイン酸トリメブチン、アズレンスルフォン酸ナトリウムなどを挙げることができ、生薬成分としては、アセンヤク、アニス実、アロエ、ウイキョウ、ウコン、ウバイ、ウヤク、エンゴサク、延命草、オウゴン、オウバク、オウレン、加工大蒜、ガジュツ、カッコウ、カラムス根、カンキョウ、カンゾウ、キジツ、クジン、ケイヒ、ケツメイシ、ゲンチアナ、ゲンノショウコ、コウジン、コウボク、ゴシュユ、胡椒、五倍子、コロンボ、コンズランゴ、サンザシ、サンショウ、山奈、シソシ、シャクヤク、シュクシャ、ショウキョウ、ショウズク、青皮、赤芽柏、石菖根、センタウリウム草、センブリ、ソウジュツ、ソヨウ、大茴香、ダイオウ、チクセツニンジン、チョウジ、チンピ、トウガラシ、トウヒ、ニガキ、ニクズク、ニンジン、ハッカ、セイヨウハッカ、ヒハツ、ビャクジュツ、ホップ、ホミカ、睡菜葉、モッコウ、ヤクチ、ヨウバイヒ、リュウタンおよびリョウキョウ等の生薬やこれら証約の抽出物を挙げることができるが、これら例示成分のみに限定されるものではない。本発明においては、上記例示成分の中では、抗アセチルコリン剤、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)、生薬成分が配合成分として好ましい。抗アセチルコリン剤として、ロートエキスを配合する場合、1日量として6〜60mgが好ましく、6〜30mgがより好ましく、30mgがさらに好ましい。また、胃粘膜修復剤(粘膜保護成分)として、塩酸セトラキサートを配合する場合、1日量として100〜2000mgが好ましく、200〜800mgがより好ましく、600mgがさらに好ましい。
【0016】
本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、経口的に投与されるのが好ましい。本発明にかかる各成分を単に混合したものを服用する事も可能であるが、服用のし易さを考慮すると、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、懸濁剤、シロップ剤などの経口投与に適した剤形に製剤化したほうが好ましい。本発明においては、カプセル剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、細粒剤が剤形として好ましい。
製剤化は、公知の方法により行うことができる。すなわち、本発明の制酸剤組成物または医薬組成物にかかる成分に、公知の製剤添加物を適宜加え、例えば、第十四改正日本薬局方の製剤総則に記載されている方法により、カプセル剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、細粒剤などの経口投与に適した剤形に製剤化することができる。
【0017】
製剤添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、着香剤、甘味剤、矯味剤などを挙げることができる。賦形剤としては、乳糖、白糖、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、エリスリトールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムなどを挙げることができる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステルなどを挙げることができる。着香剤としては、オレンジ、レモン、各種香料などを挙げることができる。甘味剤としては、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウムなどを挙げることができる。矯味剤としては、L−メントール、カンフル、ハッカ、L−グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸二ナトリウム、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。なお、製剤添加物は、これら例示成分のみに限定されるものではない。製剤添加物は、製剤化に際して、適宜適当な工程で添加すればよい。
【0018】
本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、胃腸疾患予防治療薬、具体的には胃腸薬として使用されるものである。効能・効果としては、胃炎、胃もたれ、胃の痛み、飲みすぎ、胃部不快感、胃部膨満感、胃重、胸つかえ、胸やけ、げっぷ、はきけ(むかつき、嘔気、二日酔・悪酔のむかつき)、嘔吐、胃酸過多、食欲不振(食欲減退)、消化不良、胃弱、食べ過ぎなどを挙げることができる。
【0019】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
試験例1:フックス試験
0.1N塩酸50mlを300mlのビーカーに入れ、37±2℃の恒温槽に浸し、pHメーターの電極を挿入し、1回服用量当たりの各試料を加え、撹拌器で撹拌しながら0.5分、1分、5分、10分後のpHを測定した。10分以後は1N塩酸2mlを10分毎に注加し、10分ごとにpHを測定した。
結果を図1に示した。図1の上のグラフから明らかなように、水酸化マグネシウム単独の場合、400mg/1日量以下では、初期の0.1N塩酸50mLに中和されpHは上昇しないが、500mg/1日量以上ではpH9付近のアルカリ性となった。沈降炭酸カルシウム単独では、配合量に依存して持続時間が長くなるが、pHは配合量に依存せず、弱酸性のpH6付近であった。図1の下のグラフから明らかなように、水酸化マグネシウムと沈降炭酸カルシウムを併用した場合、水酸化マグネシウムの量が500mg/1日量未満であれば、pHはアルカリ性にはならず、500mg/1日量以上ではpH9付近となった。
【0021】
試験例2:各種胃損傷抑制作用
2−1 実験材料
動物:雄性Crj:CD系ラット(SPF)(体重196〜240g)を使用した。ラットは実験開始前約22時間以上および群分け後は絶食した。また、水の摂取は自由とし、群分け後は絶水とした。
被検物質:塩酸セトラキサート、ロートエキス3倍散、沈降炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、炭酸水素ナトリウムおよびロートエキスを、5%アラビアゴム液に懸濁した。2種類以上の薬物を併用する場合は混合懸濁した。各薬物をラットの体重200gあたり1mLの割合で経口投与した。また、対照群には溶媒のみをそれぞれ同容量で経口投与した。
インドメタシン懸濁液:インドメタシンの必要量を秤量後、0.5%メチルセルロース液にて6mg/mLとなるように懸濁調製した。
投与処方:動物を1群8〜10匹使用し、以下の5群にわけた。各投与処方におけるラット体重1kgあたりの各薬物の投与量を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
投与媒体:5%アラビアゴム
a):5%アラビアゴム、b):塩酸セトラキサート、c):沈降炭酸カルシウム、d):水酸化マグネシウム、e):ロートエキス3倍散、f):合成ヒドロタルサイト、g):炭酸水素ナトリウム、h):ロートエキス
【0024】
2−2 実験方法
(1)インドメタシン胃損傷に対する抑制作用
被検物質を経口投与し、30分後にインドメタシン懸濁液(30mg/kg,5mL/kg)を背部皮下投与した。インドメタシン投与7時間後に、頚椎脱臼によりラットを安楽死させ、胃を摘出した。摘出した胃は、内部に生理食塩液を10mL充填し、さらにそれを10%中性緩衝ホルマリンに浸して翌日まで固定した。固定後、大彎に沿って切開し、生理食塩液中で軽く洗浄後、潰瘍発生の有無の観察および潰瘍の長さを測定した。
(2)エタノール胃損傷に対する抑制作用
被検物質を経口投与し、30分後にエタノール(5mg/kg)を経口投与した。エタノール投与1時間後に、頚椎脱臼によりラットを安楽死させ、胃を摘出した。摘出した胃は、内部に生理食塩液を10mL充填し、さらにそれを10%中性緩衝ホルマリンに浸して翌日まで固定した。固定後、大彎に沿って切開し、生理食塩液中で軽く洗浄後、潰瘍発生の有無の観察および潰瘍の長さを測定した。
(3)水浸拘束ストレス胃損傷に対する抑制作用
被検物質を経口投与し、30分後に拘束用ステンレス製ケージ(4.5×4.5×18cm、10連)に入れ、23℃の水槽中に胸部剣状突起まで浸した。水浸拘束7時間後に、頚椎脱臼によりラットを安楽死させ、胃を摘出した。摘出した胃は、内部に生理食塩液を10mL充填し、さらにそれを10%中性緩衝ホルマリンに浸して翌日まで固定した。固定後、大彎に沿って切開し、生理食塩液中で軽く洗浄後、潰瘍発生の有無の観察および潰瘍の長さを測定した。
【0025】
2−3 統計学的処理
潰瘍係数および抑制率のデータは1群10匹のそれぞれ平均値±標準誤差および平均値で表した。統計学的有意性の検討はBartlett検定およびDunnet検定により行い、それぞれp<0.01およびp<0.05の場合に有意であると判定した。
【0026】
2−4 実験結果
実験結果を表2〜4に示した。結果から明らかなように、インドメタシン胃損傷、エタノール胃損傷および水浸拘束ストレス胃損傷のいずれの胃損傷モデルにおいても、本発明の制酸剤組成物に抗アセチルコリン剤(ロートエキス;鎮痛・鎮痙剤)または胃粘膜修復剤(塩酸セトラキサート)を併用した3種薬物併用投与群(本発明の医薬組成物投与群)は胃損傷を抑制した。特にエタノール胃損傷に対しては有意に抑制した。また、本発明の制酸剤組成物に抗アセチルコリン剤(ロートエキス;鎮痛・鎮痙剤)および胃粘膜修復剤(塩酸セトラキサート)を併用した4種薬物併用投与群(本発明の医薬組成物投与群)は、インドメタシン胃損傷、エタノール胃損傷および水浸拘束ストレス胃損傷のいずれに対しても、有意に抑制した。
一方、本発明とは異なる制酸剤組成物(アルミニウムおよびナトリウムを含有する制酸剤の組み合せ;合成ヒドロタルサイトおよび炭酸水素ナトリウムからなる制酸剤組成物)に抗アセチルコリン剤(ロートエキス;鎮痛・鎮痙剤)および胃粘膜修復剤(塩酸セトラキサート)を併用した4種薬物併用投与群は、いずれの胃損傷モデルにおいても抑制したが、水浸拘束ストレス胃損傷においては、本発明の医薬組成物投与群の方が優れていた。したがって、本発明の医薬組成物は、胃損傷抑制作用に優れるだけでなく、アルミニウムおよびナトリウムを含有しないので、アルミニウムの神経毒性やナトリウムの過剰摂取を心配する必要がない。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
製剤例1 錠剤
(1)塩酸セトラキサート405.0g、エリスリトール112.5g、トウモロコシデンプン265.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース94.5gおよびヒドロキシプロピルセルロース20.25gを量り、攪拌造粒機に入れ、3分間混合した後、精製水178mLを添加し、1.5分間練合した。練合後、コーミルで解砕し、流動層造粒乾燥機に入れ、乾燥させた。乾燥後、得られた造粒物を1000μmの篩で篩過して外層顆粒Aを得た。
(2)沈降炭酸カルシウム810.0g、水酸化マグネシウム202.5g、トウモロコシデンプン22.28g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース108.0gおよびヒドロキシプロピルセルロース37.13gを量り、攪拌造粒機に入れ、3分間混合した後、精製水444mLを添加し、2分間練合した。練合後、コーミルで解砕し、流動層造粒機に入れ、乾燥させた。乾燥後、得られた造粒物を1000μmの篩で篩過して外層顆粒Bを得た。
(3)外層顆粒A3591.0g、外層顆粒B4720.0g、メントール20倍散(トウモロコシデンプン8重量部にL−メントール1重量部および軽質無水ケイ酸1重量部を加え、V型混合機で混合した後、サンプルミルで粉砕したもの)86.4gおよびステアリン酸マグネシウム108.0gを添加して混合し、外層顆粒を得た。
(4)ロートエキス3倍散243.0g、エリスリトール216.0g、トウモロコシデンプン513.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース121.5g、ヒドロキシプロピルセルロース54.0gおよびアスパルテーム54.0gを量り、攪拌造粒機に入れ、3分間混合した後、99%未変性エタノール81mLを添加し、3分間練合した。練合後、流動層造粒機に入れ、乾燥させた。乾燥後、得られた造粒物を1000μmの篩で篩過し、これの1202.0gを量り、ステアリン酸マグネシウム13.5gを添加して混合し、内層顆粒を得た。
(5)上記(3)および(4)で得られた顆粒を用い、三層打錠機で9.5mmφ2段Rの杵で1錠中の重量として、第一外層:240mg、内層:50mg、第二外層:110mg、合計重量:400mgで打錠し、三層錠を得た。
【0031】
製剤例2 散剤
(1)塩酸セトラキサート354.0g、ロートエキス3倍散53.1g、トウモロコシデンプン419.98g、エリスリトール127.8g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース35.99g、ヒドロキシプロピルセルロース52.86gおよびアスパルテーム13.57gを量り、攪拌造粒機に入れ、3分間混合した後、99%未変性エタノール147mLを加えて4分間練合した。練合後、コーミルで解砕し、流動層造粒乾燥機に入れ、乾燥させた。乾燥後、得られた造粒物を500μmの篩で篩過して散剤Aを得た。
(2)沈降炭酸カルシウム708.0g、水酸化マグネシウム177.0g、トウモロコシデンプン89.21g、エリスリトール36.58g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.68gおよびヒドロキシプロピルセルロース20.06gを量り、攪拌造粒機に入れ、3分間混合した後、精製水185mLを添加し、4分間練合した。練合後、コーミルで解砕し、流動層造粒乾燥機に入れ、乾燥させた。乾燥後、得られた造粒物を500μmの篩で篩過して散剤Bを得た。
(3)散剤A4246.0g、散剤B4246.0gおよびL−メントール(卓上粉砕機で粉砕したもの)3.76gを量り、混合機で15分間混合し、散剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0032】
前記実施例から明らかなように、本発明のマグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムを含有する制酸剤組成物は、胃内のpHがアルカリ性になることなく、制酸効果も大きいものである。また、本発明の医薬組成物は、各種胃損傷モデルにおいて、抑制率が相加的に高くなり、有意な胃損傷抑制作用を示し、優れた治療効果を示すものである。
本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、アルミニウムの神経毒性やナトリウムの過剰摂取を心配する必要がまったくない。したがって、本発明の制酸剤組成物および医薬組成物は、より一層安全で、かつ優れた胃炎、胃潰瘍などの治療効果を発揮する胃腸薬として優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明にかかるマグネシウム系制酸剤、沈降炭酸カルシウム各々単独のフックス試験の結果、および本発明の制酸剤組成物のフックス試験の結果を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム系制酸剤および沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物。
【請求項2】
マグネシウム系制酸剤が水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の制酸剤組成物。
【請求項3】
水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムからなる制酸剤組成物。
【請求項4】
水酸化マグネシウムおよび沈降炭酸カルシウムの重量比が1:1〜1:10である請求項3記載の制酸剤組成物。
【請求項5】
1日当たりの投与(服用)量として、水酸化マグネシウムを100〜400mg、および沈降炭酸カルシウムを600〜3000mg含有する請求項3記載の制酸剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の制酸剤組成物、および抗アセチルコリン剤、局所麻酔剤、消化剤、消化酵素、胃粘膜修復剤、生薬成分から選ばれる1種または2種以上を含有する医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の制酸剤組成物、ロートエキスおよび塩酸セトラキサートを含有する医薬組成物。
【請求項8】
1日当たりの投与(服用)量として、水酸化マグネシウムを100〜400mg、沈降炭酸カルシウムを600〜3000mg、ロートエキス6〜60mg、塩酸セトラキサートを100〜2000mg含む医薬組成物。
【請求項9】
胃腸薬である請求項1〜5のいずれか1項記載の制酸剤組成物および請求項6〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
剤形がカプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤または散剤である請求項1〜5のいずれか1項記載の制酸剤組成物および請求項6〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−131555(P2006−131555A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322845(P2004−322845)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】