説明

制電ポリエステル繊維

【課題】優れた制電性・布帛品位を有し、品質安定性に優れた制電ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート成分に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分が共重合され又は下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分が共重合され、更に有機スルホン酸金属塩成分が共重合された固有粘度が0.60dL/g以上である共重合ポリエステルと、ポリアルキレンアリレートからなるポリエステル繊維。該共重合ポリエステルがポリアルキレンアリレートに対して3.0〜10.0重量%ブレンドされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相溶性にすぐれた制電成分を分散混合させることにより、優れた制電性と品位に優れた織編物を提供するポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、多くの優れた特性を有するために合成繊維として広く用いられている。しかしながら、ポリエステル繊維は羊毛や絹の如き天然繊維、レーヨンやアセテートの如き再生繊維、アクリル系繊維に比較して疎水性であるため静電気が発生しやすく、静電気発生に伴うほこり付着や衣服のまとわりつきが起こる欠点がある。
【0003】
かかる欠点を改良するために、これまで種々の手段が提案されており、例えば、糸表面に後加工で帯電防止剤を塗布する方法、糸表面に親水性物質をグラフト重合する方法あるいは繊維成分に制電性物質を練り込む方法などが挙げられる。しかしながら、これらの方法はいずれもその耐久性・耐熱製糸安定性や織編物工程において品位欠点を引き起す問題があり、工業化に問題があった。
【0004】
例えば、糸表面に帯電防止剤を塗布する方法は、染色工程や洗濯によって帯電防止剤が消失しやすく、また布帛処理工程の最後に塗布する場合にも、同様に耐久性不足や風合いが硬くなる、あるいは他の後加工との併用ができないなど、種々の問題がある。また、糸表面に親水性物質をグラフト重合させる方法は洗濯による帯電防止剤の消失はかなり改善されるが、耐久性や風合いに問題があった。さらに、制電性物質を練り込む方法は、耐久性は向上するが、テキスタイル工程及び着用時の白化現象が問題となる。この白化現象は、テキスタイル化工程において機械的ダメージをうけた部分が、布帛品位の欠点となったり、あるいは着用時に摩擦を受ける部分が白くなるという現象で、原因は練り込まれた制電剤物質とポリエステルとの界面で界面剥離が生じ、フィブリル化することによるものである。
【0005】
そして、これらの制電性付与に伴う欠点を改善する方法として、複合紡糸技術を利用する方法が数多く提案されている。例えば、ポリアルキレンエーテルとアニオン性界面活性剤を含有するポリエステルを芯成分とし、ポリエステルを鞘成分とする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この技術では、白化現象は低減するが、ポリアルキレンエーテルは非常に水への溶解性が高いので、高温染色工程後には、一部のポリアルキレンエーテル等の剤がポリエステルの鞘部を通り抜けて繊維から抽出留去してしまい、繊維軸方向にスリットができたり、制電性が不安定であり、また複合紡糸設備を必要とし、コスト面でも不利であった。
【0006】
そこで、高分子量で耐熱性のあるポリマー型制電成分をブレンドしたポリエステル制電繊維として、ブロックポリエーテルエステルアミド組成物とスルホン酸金属塩化合物を含有するポリエステル制電繊維の技術が提案されている(例えば、特許文献2〜3参照。)。この技術によれば、確かに制電性を有し、かつ制電耐久性をも付与させることが可能となる。しかしながら、これらの繊維も、上記のような制電剤とポリエステルの界面剥離による白化現象の問題があり、また制電剤の粘度不足によるものと推定される制電剤の微分散化が発生するために、添加量をさらに増加させる必要があり、その事がポリエステルと制電剤との界面剥離を促進し白化しやすくしている傾向があった。
【0007】
その他、高分子量ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドを含むポリエステルブレンド樹脂を用いた技術も提唱されているが、これらの繊維も、制電剤とポリエステルの界面剥離による白化現象は十分には改善されていなかった。
【0008】
したがって、優れた制電性を有し、かつ染色工程や洗濯による制電性の低下や、制電剤とポリエステルの界面剥離による白化による布帛品位の低下が抑制された制電ポリエステル繊維が求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2006−002258号公報
【特許文献2】特開昭63−282311号公報
【特許文献3】特許第2906989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術を背景になされたものであり、その目的は、優れた制電性・布帛品位を有し、品質安定性に優れた制電ポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる背景の技術に鑑み検討を重ねた結果、本発明の目的は、従来のような単独のポリアルキレングリコールやポリエーテルエステルアミドではなく、ポリエステルとの親和性がより高い、次に示す特定の制電成分をポリマー鎖中に共重合したポリエステル系ポリマーを制電剤としてブレンドしたポリエステル繊維によって達成できることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、ポリブチレンテレフタレート成分に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分が共重合され又は下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物及びポリオキシエチレングリコール成分が共重合され、更に下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分が共重合された固有粘度が0.60dL/g以上である共重合ポリエステルと、ポリアルキレンアリレートからなるポリエステル繊維であって、
下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分の共重合量が共重合ポリエステルを構成する酸成分を基準として0.1〜20.0モル%であり、共重合ポリエステルに共重合されているポリブチレンテレフタレート成分及び下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分の合計と、共重合ポリエステルに共重合されている下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分の合計の重量比率が30:70〜70:30であり、該共重合ポリエステルがポリアルキレンアリレートに対して3.0〜10.0重量%ブレンドされているポリエステル繊維であって、当該発明によって上記発明の課題を解決することができる。
【0013】
【化1】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは20〜200の自然数を表す。]
【0014】
【化2】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を、Xはエステル形成性官能基を、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を表し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Mがアルカリ金属の場合jは1を、Mがアルカリ土類金属の場合jは2を表す。]
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた制電性・布帛品位を有し、品質安定性に優れた制電ポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の制電ポリエステル繊維は、ポリブチレンテレフタレート成分に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分が共重合されるか、又は下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分が共重合されて、更に下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分が共重合された共重合ポリエステルが、ポリアルキレンアリレートに対して3〜10重量%ブレンドされていることを特徴とする。下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分等がソフトセグメントとして機能する場合にはその共重合ポリエステルはポリエーテルエステルエラストマーとなる。
【0017】
【化3】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは20〜200の自然数を表す。]
【0018】
【化4】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を、Xはエステル形成性官能基を、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を表し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Mがアルカリ金属の場合jは1を、Mがアルカリ土類金属の場合jは2を表す。]
【0019】
そのポリエーテルエステルエラストマーのハードセグメントとなりうるポリブチレンテレフタレートは、他の成分が共重合されていても良いがブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。より好ましくはブチレンテレフタレートの含有率は80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0020】
上記ポリブチレンテレフタレートには、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で他の成分が共重合されていてもよい。他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分では、例えばナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルオキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のような芳香族、脂肪族又は脂環族のジカルボン酸成分を挙げることができる。さらに、トリメリット酸又はピロメリット酸のような三官能性以上のポリカルボン酸、又はβ−ヒドロキシエトキシ安息香酸若しくはp−オキシ安息香酸のようなヒドロキシカルボン酸成分を共重合成分として用いても良い。又ジオール成分では、例えばトリメチレングリコール、エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、又は2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのような脂肪族、脂環族又は芳香族のジオール成分を挙げることができる。さらに、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
【0021】
一方、ソフトセグメントとなり得るエチレンオキシ単位を有するジヒドロキシ化合物はポリオキシエチレングリコール単位を含み、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物であるか、又は該ジヒドロキシ化合物とエチレンオキシ単位の長鎖の両端にヒドロキシ基を有する一般のポリオキシエチレングリコールとの混合物であっても良い。なおここで言う長鎖の両端にヒドロキシ基を有するポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を全ポリオキシエチレングリコールの繰り返し単位を基準として少なくとも70モル%以上含有されていることが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。また一方でそのポリオキシエチレングリコールは、本来のポリオキシエチレングリコールの物性を阻害しない範囲内で更に別のオキシアルキレン基を含んでいても良い。そのオキシアルキレン基は特に限定されるものではないが、オキシトリメチレン単位、オキシ−1,2−プロピレン単位、オキシテトラメチレン単位が好ましく用いられる。そのポリオキシエチレングリコール(ポリエチレングリコール)としては数平均分子量が好ましくは1000〜8000のものを、より好ましくは2000〜6000のものを用いることができる。
【0022】
【化5】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは20〜200の自然数を表す。]
【0023】
一方上記の一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の数平均分子量としては、400〜8000が好ましく、なかでも1000〜6000がより好ましく、1500〜5000がさらに好ましい。
【0024】
また本発明においては、前述した制電性等の高い物性を達成するために、上記共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)に、下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩を共重合することが必要である。
【0025】
【化6】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を、Xはエステル形成性官能基を、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を表し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Mがアルカリ金属の場合jは1を、Mがアルカリ土類金属の場合jは2を表す。]
【0026】
上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数6〜15個の芳香族炭化水素基又は炭素数10個以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましい官能基Rは、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、jは1又は2である。なかでもMがアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウム又はカリウム)であり、かつjが1であるものが好ましい。Xはエステル形成性官能基を表し、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基を表すか又は水素原子を表すが、エステル形成性官能基であることが好ましい。エステル形成性官能基としてはポリエーテルエステルの主鎖又は末端に反応してエステル結合を形成する官能基であればよく、具体的には下記の官能基を挙げることができる。
【0027】
【化7】

[上記式中、R’は炭素数1〜6個の低級アルキル基又はフェニル基を表し、a及びdは1〜10の整数を示し、bは2〜6の整数を表す。]
【0028】
上記一般式(2)で表わされる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボエトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボエトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボエトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ビス(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ビス(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ビス(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボエトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボエトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボエトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記有機スルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0029】
本発明においては、これらの有機スルホン酸金属塩成分の中でも下記一般式(3)で表される有機スルホン酸金属塩を共重合させることが、得られる制電性繊維の吸湿率及び吸水伸長率を格段に高くでき、ゆえに制電性能も大きく向上させることが出来るため好ましい。
【0030】
【化8】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を表し、Mはアルカリ金属を表す。]
【0031】
上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基であり、前述した一般式(2)における官能基Rの定義と同じであり、Mはアルカリ金属であり、前述した一般式(2)におけるMの定義とほぼ同じある。かかる有機スルホン酸金属塩の好ましい具体例としては、3,5−ビス(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ビス(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0032】
上記有機スルホン酸金属塩成分の共重合量は、あまり多すぎると得られたポリエーテルエステルエラストマー(共重合ポリエステル)の融点が低下して耐熱性、耐候(光)性、耐薬品性などが低下する傾向にあるため、ポリエーテルエステルエラストマー(共重合ポリエステル)を構成する全酸成分を基準として0.1〜20.0モル%の範囲とすることが必要である。逆に、上記共重合量が少なすぎても、制電性が低下する傾向にあり、0.5〜15.0モル%の範囲とするのがより好ましい。
【0033】
本発明においては、ポリブチレンテレフタレート成分及び一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分の合計(以下、ハードセグメントと称することがある)と、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分の合計(以下、ソフトセグメントと称することがある)の重量比率が30:70〜70:30の範囲にあることが好ましく、より好ましくは60:40〜40:60の範囲である。ハードセグメントの重量比率が70重量%を超えると、得られた共重合ポリエステルとしての吸湿性が低下し、その結果ポリエステル繊維の制電性が不十分となる。またハードセグメントの重量比率が30重量%未満であると、共重合ポリエステル中のポリブチレンテレフタレート結晶部の割合が低くなるため、共重合ポリエステルとしての強度が低下する傾向にあり、その共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)をブレンドして得られたポリエステル繊維の強度や熱安定性が低下するため好ましくない。
【0034】
本発明の共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)は、たとえば、テレフタル酸ジメチル、テトラメチレングリコール及び一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含む原料を、エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させ、ビス(ω−ヒドロキシブチル)テレフタレート及び/又はそのオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下にて溶融重縮合を行うことにより得ることができる。上記のエステル交換触媒としては、ナトリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、チタン、亜鉛、マンガン等の金属化合物を使用するのが好ましい。
【0035】
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物を使用するのが好ましい。エステル交換触媒又は重縮合触媒の使用量は、エステル交換反応、重縮合反応を進行させるために必要な量であるならば特に限定されるものではなく、また、複数の種類のエステル交換触媒若しくは重縮合触媒を併用することも可能である。エステル交換触媒の供給は、原料調製時の他、エステル交換反応の初期の段階において行うことができる。また、安定剤の供給は重縮合反応終了までの任意の段階で行うことができるが、エステル交換反応終了時に添加することが好ましい。さらに、重縮合触媒は重縮合反応工程の初期までに供給することができる。
【0036】
また上記ポリエーテルエステルエラストマー組成物には、ヒンダードフェノール系化合物やヒンダードアミン系化合物が添加されていることが、ポリエステル繊維の溶融紡糸時のポリマーの固有粘度の低下を抑制するだけでなく、得られた制電ポリエステル繊維の熱劣化、酸化劣化、光劣化などが抑制する効果をも有しており、より好ましい。本発明に用いるポリエーテルエステルエラストマー組成物には、必要により前記のヒンダードフェノール系化合物やヒンダードアミン系化合物のほか、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、整色剤、消泡剤、又はその他の添加剤を、発明の効果を損なわない範囲で1種以上を配合してもよい。
【0037】
なお、共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)の固有粘度をさらに上げるために、上述した方法以外にも、ポリエーテルエステルエラストマーを固相重合する方法やポリエステルエーテルエラストマーの合成段階や溶融紡糸段階で鎖延長剤を使用する方法なども採用することができる。この際に使用する鎖延長剤の好ましい具体例としては、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物やN,N’−テレフタロイルビスカプロラクタムなどを挙げることができる。
【0038】
以上に述べた共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)の固有粘度は、0.60dL/g以上であることが必要である。上記の固有粘度が0.60dL/g以下では、ブレンド後の制電ポリエステル繊維として使用に供するに十分な強度を得ることができない。一方で、固有粘度があまり大きくなり過ぎると製糸性が低下するだけでなく、固有粘度を挙げる操作が更に必要となることから製造コストが高くなる。このため、固有粘度は0.60〜1.20dL/gの範囲にあることがより好ましい。
【0039】
本発明の共重合ポリエステルのポリアルキレンアリレートへのブレンド量は、3.0〜10.0重量%であることが必要である。好ましくは、3.0〜8.0重量%の範囲である。3.0重量%未満では、ポリエステル繊維の制電性が不足となり、10.0重量%を超える場合は、製糸工程調子の悪化や強度低下、また熱セット性の低下により捲縮性能を招く。
【0040】
本発明のポリエーテルエステルエラストマーをブレンドするポリアルキレンアリレートは、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレート等が挙げられるが、中でもテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルつまりポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレートを対象とする。かかるポリアルキレンアリレートは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合度を生成させ、次いでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0041】
尚、このポリアルキレンアリレートはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかる二官能性カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を
更に、上述のポリアルキレンアリレートに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステル繊維は通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0042】
本発明の制電ポリエステル繊維の制電性能は、摩擦帯電圧が1500V以下であることが好ましい。好ましくは、1000V以下である。1500Vを超える場合は、衣服のまとわりつきや静電気の発生が起こり易い。本発明の制電性を有するポリエステル繊維は、共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)をブレンドする以外は、通常のポリエステル繊維における溶融製糸により得ることが出来る。ブレンドする方法も、ポリエーテルエステルエラストマーとポリエステルのチップをあらかじめブレンドしておく方法、又は双方を溶融後に混合する方法など、任意の方法を採用できる。
【0043】
また、本発明の制電ポリエステル繊維は、フラットヤーンや仮撚糸、さらには繊維の断面を丸のほか種々の異型断面形状とするなど、一般的に用いられる任意の製糸方法で目的の制電繊維を得ることが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法より測定した。
【0045】
(1)固有粘度
共重合ポリエステル等のサンプル0.6gをオルトクロロフェノール50ml中に加熱溶解した後、室温に冷却し、得られたポリエステル溶液の粘度を、オストワルド式粘度管を用いて35℃の温度条件で測定した。得られた溶液粘度のデータから当該ポリエステルの固有粘度(IV)を算出した。
【0046】
(2)破断強度・破断伸度
本発明の実施例等の操作により得られたポリエステル繊維を20℃×65%RH(相対湿度)に調湿された恒温恒湿室内にて、東洋ボールドウィン社製テンシロンRTM−100引張試験機を用い、引張テストをすることにより測定した。
【0047】
(3)摩擦帯電圧測定
本発明の実施例等の操作により得られたポリエステル繊維をJIS L 1094 (2)摩擦帯電圧測定法に準じて測定し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定する。測定は、温度20±1℃、相対湿度40±2%の状態の試験室中で実施した。タテ糸方向ヨコ糸方法各n=5にて測定し、摩擦布にはJIS L 0803に規定の綿添付白布を用いた。
【0048】
(4)高圧染色操作
得られたポリエステル布帛1質量部に対して、50質量部の染料水溶液(Navy Blue 0.8g/L、Disper VG 0.5g/L、氷酢酸0.3g/L)を耐圧ステンレス管に封入し、130℃で1時間加熱し、染色した。
【0049】
(5)白化テスト
染色工程を終えた試験布を準備する。150±5℃にあらかじめ加熱した電気アイロンを用いて6回程試験布上をスライドさせる。上記温度は電気アイロン底面中央部の表面温度であり、必要に応じて他の温度を用いてもよい。さらにその後試験布を高温のアルカリ水溶液に用いて15%減量を行う。これら二つの外部による負荷(アイロン処理とアルカリ減量処理)を与えた試験布(L1)と、その外部から負荷を与えていない試験布(L0)のL値(白化度)の測色をn=2で行い、次の式で求めた色差値を白化性とし、その値が1.0以下であれば白化性は良好であると判断される。
白化性=L1−L0
【0050】
[参考例1]
ジメチルテレフタレート100重量部、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムの40重量%エチレングリコール溶液23重量部(全酸成分に対して5.0モル%)、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物(数平均分子量2000、n=約43)113.4重量部、1,4−ブタンジオール73.5重量部(全酸成分の1.4モル倍)及び触媒としてテトラブチルチタネート0.4重量部を反応槽に仕込み、内温200℃でエステル交換反応を行った。理論量の約80%のメタノールが留出した時点で昇温、減圧による重縮合反応を開始した。重縮合反応は約30分かけて4.0kPa(30mmHg)とし、さらに30分かけて0.40kPa(3mmHg)とし、以後0.27kPa(1mmHg)の真空下で内温250℃にて220分間反応させ、共重合ポリエステルを得た。生成した共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)の固有粘度は0.90dL/gであり、ポリブチレンテレフタレート等(ハードセグメント)/下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とポリオキシエチレングリコール(ソフトセグメント)の重量比率は50/50であった。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0051】
【化9】

[式中、nはおよそ43である。(平均分子量2000)]
【0052】
[参考例2]
参考例1で使用した上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物の数平均分子量を、3000のもの(n=約60)に変更した以外は参考例1と同様に行い、固有粘度が0.91dL/gの共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0053】
[参考例3]
ソフトセグメントとして上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物(数平均分子量2000、n=約43)の添加量56.7重量部、更にポリオキシエチレングリコール(数平均分子量を4000)56.7重量部を混合して使用した以外は参考例1と同様に行い、共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0054】
[参考例4、5]
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物(数平均分子量2000、n=約43)の共重合量割合をハードセグメント/ソフトセグメントの重量比率が60/40又は40/60となるように変えた以外は参考例1と同様に行い、共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0055】
[参考例6、7]
5−Naスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルエステル(3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムに同じ)の共重合量を、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する全酸成分に対して2.0モル%又は15.0モル%とした以外は参考例1と同様に行い、共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0056】
[参考例8]
得られるポリエーテルエステルエラストマーの固有粘度を0.58dL/gになった時点で重縮合反応時間を終了した以外は参考例1と同様に行い、共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0057】
[参考例9、10]
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物(数平均分子量2000、n=約43)の共重合量割合をハードセグメント/ソフトセグメントの重量比率が80/20又は20/80となるように変えた以外は参考例1と同様に行い、共重合ポリエステルを得た。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0058】
[参考例11]
5−Naスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルエステル(3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムに同じ)の共重合量を、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する全酸成分に対して25モル%とした以外は参考例1と同様に行った。結果等を表1の制電剤の欄に示した。
【0059】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
表1に記載のとおり、参考例1〜11で得られた共重合ポリエステル(ポリエーテルエステルエラストマー)を80℃で乾燥し、160℃で乾燥したポリエチレンテレフタレートチップ(IV=0.64dL/g)と表1に記載の制電剤ブレンド量になるようにブレンドして溶融温度295℃にて溶融後、400M(メッシュ)フィルターを口金上部に配置してなるパックを通し、孔径0.06ミリメートル、36ホールの口金を通してポリエステルを吐出し、3300m/分の速度で巻き取り、POY原糸を得た。そのPOY原糸を用いて、予熱温度90℃のローラー及びセット温度170℃のスリットヒーターにて延伸倍率1.6倍にて延伸熱セットし、延伸糸を作製した。その繊維を20G(ゲージ)の筒編み機にて丸編みサンプルを作成し、その丸編みサンプルを80℃にて精錬を行い水洗乾燥後、owf4%、130℃にて上記のような操作により高圧染色を行い、染色サンプルを得た。その染色サンプルを用いて、摩擦耐電圧と白化性を測定した。なお比較例1においては制電剤となる共重合ポリエステルの固有粘度が低いためか、安定して紡糸することができなかった。結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリエステル繊維は、優れた制電性・布帛品位を有し、品質安定性に優れた制電ポリエステル繊維である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート成分に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分が共重合され又は下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分が共重合され、更に下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分が共重合された固有粘度が0.60dL/g以上である共重合ポリエステルと、ポリアルキレンアリレートからなるポリエステル繊維であって、
下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分の共重合量が共重合ポリエステルを構成する酸成分を基準として0.1〜20.0モル%であり、共重合ポリエステルに共重合されているポリブチレンテレフタレート成分及び下記一般式(2)で表される有機スルホン酸金属塩成分の合計と、共重合ポリエステルに共重合されている下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物成分及びポリオキシエチレングリコール成分の合計の重量比率が30:70〜70:30であり、該共重合ポリエステルがポリアルキレンアリレートに対して3.0〜10.0重量%ブレンドされているポリエステル繊維。
【化1】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは20〜200の自然数を表す。]
【化2】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を、Xはエステル形成性官能基を、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を表し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Mがアルカリ金属の場合jは1を、Mがアルカリ土類金属の場合jは2を表す。]
【請求項2】
有機スルホン酸金属塩成分が、下記一般式(3)で表される化合物である請求項1に記載のポリエステル繊維。
【化3】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を表し、Mはアルカリ金属を表す。]

【公開番号】特開2009−270231(P2009−270231A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123519(P2008−123519)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】