説明

制電性を有する極細仮撚り加工糸及びその製造方法

【課題】従来の極細ポリエステル仮撚り加工糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、制電性能にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細仮撚り加工糸及びそれを安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】芯鞘型複合繊維であって、芯部が下記式で表される特定の制電剤を含有する制電性ポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、ポリエステルA及び/又はポリエステルBが真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下であり、かつ、特定の要件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸により達成される。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有するポリエステル極細仮撚り加工糸及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、耐久性に優れた制電性を有するポリエステル極細仮撚り加工糸を安定して得られる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細ポリエステル仮撚り加工糸は、布帛にした時、柔らかな風合が得られ、保温性、吸水、吸湿性などの性能も向上するため、衣料用途をはじめ、幅広く使われている。
しかしながら、本来、ポリエステルは疎水性であるため、制電性が要求される分野では、従来から、ポリエステルに親水性を付与して制電性を発現させようとする試みが行われており、これまでに数多くの提案がなされている。例えばポリエステルにポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物を配合せしめる方法(特許文献1)、並びにポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物とを配合せしめる方法(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7等)が知られている。単糸繊度が1.5dtexより大きければ、制電性を有するものの、極細糸においては芯/鞘形成のバラツキ、単糸繊度のバラツキにより、制電性を有するものはないのが、実情であった。
【0003】
さらには、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸においては、ポリエステルの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0004】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸、仮撚、工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという問題がある。
【0005】
特に、ポリエステルマルチフィラメントに関しては、分子配向度が複屈折率で0.02以上のポリエステル未仮撚り加工糸(部分配向糸)を紡糸引き取りする際には、該口金異物が溶融ポリマー吐出状態に及ぼす影響が大きく、短時間の間に、異常吐出現象が発生することが多くなる。このような異常吐出現象が起こると、紡糸運転に支障をきたすのみならず、冷却・固化の過程で繊維構造斑が発生し、得られたポリエステル未仮撚り加工糸(部分配向糸)は品質斑(延伸仮撚加工時毛羽、断糸発生など)を内在したものとなる。これらのことから、紡糸、延伸仮撚工程での微小なベンディングによる糸径の変化でも仮撚工程において加工断糸が発生し生産効率が著しく低下することから、口金異物を抑制する研究が行われてきた。
【0006】
口金異物を抑制するには、ポリエチレンテレフタレートの重合触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸のカラーが低下してしまうため、特に衣料用には使用に供することができなかった。
【0007】
このような問題を解決する為に、チタン化合物と特定のリン化合物とを反応させて得られた生成物を(例えば特許文献8及び特許文献9参照。)、またチタン化合物と特定のリン化合物の未反応混合物あるいは反応生成物を(例えば特許文献10参照。)、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。確かにこの方法によればポリエステルの溶融熱安定性は向上し、得られるポリマーの色相も大きく改善されるが、これらの方法ではポリエステル製造時の重合反応速度が遅い為、ポリエステルの生産性が低下するという問題を有している。
【0008】
したがって触媒としてアンチモンを使用せず、かつ色相及び紡糸、延伸、仮撚工程においての工程通過性に優れ、ポリエステル製造時の生産性が低下しないポリエステルマルチフィラメントが求められていた。
【0009】
かかるアンチモン化合物に起因する問題は、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いれば口金異物の付着・堆積は減少するものの、ポリエステル自身の黄色味が強くなるため、得られる仮撚り加工糸は発色性が低下して衣料用途には使用できなくなるという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特公昭39−5214号公報
【特許文献2】特公昭44−31828号公報
【特許文献3】特公昭60−11944号公報
【特許文献4】特開昭53−80497号公報
【特許文献5】特開昭53−149247号公報
【特許文献6】特開昭60−39413号公報
【特許文献7】特開平3−139556号公報
【特許文献8】国際公開第01/00706号パンフレット
【特許文献9】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献10】国際公開第03/027166号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、長期にわたり溶融紡糸操作を中断することなく、好ましい色調、優れた品質を有するポリエステルを溶融紡糸し得られた該ポリエステル未延伸糸を用い、極細ポリエステル仮撚り加工糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、制電性能にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細仮撚り加工糸及びそれを安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、
芯鞘型複合繊維であって、芯部がポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、下記(1)〜(6)の条件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸、
(1)ポリエステルAまたは、ポリエステルB、もしくはその両方が、真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下である、ポリエステルからなること。
(2)仮撚り加工糸の単糸繊度が1.5dtex以下である。
(3)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(4)仮撚り加工糸の強度が3.0cN/dtex以上である。
(5)仮撚り加工糸の摩擦帯電圧が2000V以下
(6) ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
更に、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤を0.1〜10重量ppm含有する上記記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
更に、紡糸速度が2000〜4500m/minで未延伸糸として引き取った後延伸仮撚り加工する制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸は、低温・低湿度条件下でも充分な制電性を有しており、低温または乾燥した環境下でも制電性を発揮でき極めて有用である。また繰り返される洗濯処理によっても制電性が影響されない。
【0014】
さらに高アルカリ減量処理が施された場合も、視感染色性および耐フィブリル性の低下が極めて少なく、しかも、減量加工前に圧力の加わった部分があっても、その部分の繊維が減量によりフィブリル化して染色布が白化する問題点も生じないため、ランジェリ−等の女性インナー用途、裏地、無塵衣等の分野はもとより、アルカリ減量処理による高度な風合改善を必要とする制電表地としても使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明でいうポリエステルは、芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルであって、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0016】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0017】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0018】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0019】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0020】
かかる芳香族ポリエステルは比重5.0以上の金属元素を用いない任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0021】
本発明における比重5.0以上の金属元素とは通常ポリエステル中に含有される触媒や金属系の整色剤、艶消剤等に含有されている金属化合物に由来するものである。具体的には、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト、セリウム、錫、亜鉛、鉛、カドミウム等が該当する。これらに対し、チタン、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等はここでいう比重5.0以上の金属には該当しない。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10重量ppm以下である必要がある。含有される金属の種類によってその特徴、特性は変わるが、例えばアンチモン金属含有量が10重量ppmより多い場合、製糸や製膜時に異物となって口金やダイ周辺に付着し、長期間の連続成形性に悪影響を与える。ゲルマニウムの場合は、それ自体が高価な為、含有量が多くなると得られるポリエステル組成物の価格が上昇してしまい好ましくない。また、鉛や錫、カドミウムなどの場合は金属元素そのものに毒性がある為、ポリエステル中に多量に含有していることは好ましくない。該金属元素の含有量は0〜7重量ppm以下であることが好ましく、0〜5重量ppm以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル組成物は整色剤を0.1〜10重量ppm含有する必要がある。なおその整色剤とは、有機の多芳香族環系染料又は顔料を表す。具体的には後述のように青色系整色剤、紫系整色剤、赤色系整色剤、橙色系整色剤等が挙げられる。これらは単一種で用いても複数種を併用して用いても良い。さらに、その整色剤においては、整色剤溶液の380〜780nm領域の吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において、最大吸収波長での吸光度に対する各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす必要がある。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600、A700、はそれぞれ400nm、500nm、600nm、700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0024】
ここで吸収スペクトルとは、通常分光光度計によって測定されるスペクトルであるが、本発明のポリエステル組成物に含有される整色剤溶液の吸収スペクトルの最大吸収波長が540nm未満の場合は得られるポリエステル組成物の赤味が強くなり、また600nmを超える場合は得られるポリエステル組成物の青味が強くなる為好ましくない。最大吸収波長の範囲は545〜595nmの範囲が好ましく、550〜590nmの範囲が更に好ましい。
【0025】
また本発明のポリエステル組成物に含有される整色剤の濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において、最大吸収波長での吸光度に対する上記に示す各波長での吸光度の割合が式(1)〜(4)のいずれか一つでも外れる場合、得られるポリエステル組成物の着色が大きくなり好ましくない。上記式(1)〜(4)はそれぞれ下記式(6)〜(9)のいずれか1つ以上の範囲にあることが好ましく、更に下記式(6)〜(9)すべてを満たしていることが好ましい。
0.00≦A400/Amax≦0.15 (6)
0.30≦A500/Amax≦0.60 (7)
0.60≦A600/Amax≦0.95 (8)
0.00≦A700/Amax≦0.03 (9)
[上記式中、A400、A500、A600、A700、はそれぞれ400nm、500nm、600nm、700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0026】
更に本発明のポリエステル複合仮撚加工糸に含有される上述の整色剤の含有量が、0.1重量ppm未満の場合、ポリエステル複合仮撚加工糸の黄色味が強くなる。一方、10重量ppmを超える場合、明度が弱くなり見た目に黒味が強くなる為好ましくない。該整色剤の含有量は0.3重量ppm〜9重量ppmの範囲が好ましく、0.5〜8重量ppmの範囲にあることが更に好ましい。
【0027】
本発明に使用する有機化合物系整色剤の可視光吸収スペクトルの範囲が上述の範囲となるようにするには、整色剤として青色系整色用色素と紫色系整色用色素を重量比90:10〜40:60の範囲で併用すること、又は青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を重量比98:2〜80:20の範囲で併用することが好ましい。ここで青色系整色用色素とは、一般に市販されている整色用色素の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。同様に紫色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものを示す。赤色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Red」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が480〜520nm程度にあるものである。橙色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Orange」と表記されているものである。
【0028】
これらの整色用色素としては油溶染料が特に好ましく、具体的な例としては、青色系整色用色素には、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol Blue RLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94等が挙げられる。紫色系整色用色素には、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36等が挙げられる。赤色系整色用色素には、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179等が例示される。橙色系整色用色素には、C.I.Solvent Orange 60等が挙げられる。
【0029】
ここで青色系整色用色素と紫色系整色用色素を併用する場合、重量比90:10より青色系整色用色素の重量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、40:60より青色系整色用色素の重量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。同様に青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を併用する場合、重量比98:2より青色系整色用色素の重量比が大きい場合は、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、80:20より青色整色用色素の重量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。該整色用色素は、青色系整色用色素と紫色系整色用色素を重量比80:20〜50:50の範囲で併用すること、あるいは青色系整色用色素と赤色系または橙色系整色用色素を質量比95:5〜90:10の範囲で併用することが更に好ましい。
【0030】
本発明におけるポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0031】
本発明のポリエステルAには、制電剤として下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテル(a)を含有する必要がある。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、R1 は炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、R2 は水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]で表わされるポオキシエチレン系ポリエーテルが好ましい。
【0032】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0033】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲である。0.2重量部未満の場合は親水性が不足して充分な制電性を呈することができない。一方30重量部を超える場合、最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる繊維の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになるため好ましくない。
【0034】
本発明のポリエステルAには、さらに制電剤として有機イオン性化合物を配合する。有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(2)、(3)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
RSOM ……式(2)
(式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(2)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。)
【0035】
かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
RSOPR ……式(3)
(式中、Rは上記式(2)におけるRの定義と同じであり、R、R、R及びRはアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。)
【0036】
かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0037】
上述の有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0038】
なお、ポリエステルBには、本発明の目的を阻害しない範囲で、公知の艶消し剤を配合している。艶消し剤が10wt%を超えると本発明の親糸となる未仮撚り加工糸の紡糸性が悪化するので、その範囲は0〜10wt%とするのが好ましい。
【0039】
更に、本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸の繊維軸に直交する断面におけるポリエステルAとポリエステルBの面積比は5:95〜80:20の範囲にする必要がある。面積比が5:95より小さい場合にはポリエステルAによる制電性能の発現が不十分になり、80:20よりも大きくなる場合は、10%以上のアルカリ減量を施した場合に、芯部の制電性ポリエステルが溶出し、制電性能が低下するとともに仮撚り加工糸の強度が低下し、3.0cN/dtex以下となり、布帛にした場合の強度が不足する為、スポーツ衣料等、強度を必要とする用途には適さず、用途が限られたものとなるので好ましくない。
【0040】
また、本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸の芯部および鞘部の芳香族ポリエステルには、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等を配合してもよく、またそうすることは好ましいことである。その他、必要に応じて、難燃剤、蛍光増白剤、艶消削1着色剤、不活性微粒子その他の任意の添加剤を配合してもよい。
【0041】
酸化防止剤は、繊維の溶融紡糸工程等における高温度、低吐出速度、および長時間滞留などに起因する前記ポリオキシエチレン系ポリエーテル重合体の熱分解を抑制し、その水溶性化およびアルカリ耐久性の低下などの発生を防止することができる。本発明において用いられる酸化防止剤としては、それが酸化防止能を有する限り、その種類に制限はない。 本発明に用いられる好ましい酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物。
【0042】
チオプロピオネート系化合物、ホスファイト系化合物などが挙げられ、1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。また酸化防止剤の配合量は、芳香族ポリエステルに対して0.02〜3重量%の範囲にあることが好ましい。この配合量が0.02重量%より少ないときは、ポリオキシエチレン系ポリエーテル重合体に対する熱分解抑制効果が不充分であり、また、それを3重量%より多くしても、その熱分解抑制効果は飽和してそれ以上の向上は認められず、かえって得られる繊維の機械的性質2色相等が損なわれるようになる。
【0043】
本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸を製造するにあたり、芯部の芳香族ポリエステルAは、水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテル、有機および/または無機のイオン性化合物、および必要に応じて酸化防止剤を配合するが、配合の順序は任意の方法により、上記成分を同時にまたは任意の順序で芳香族ポリエステルに配合することができる。即ち、ポリエステル繊維の紡糸が終了するまでの任意の段階、例えば芳香族ポリエステルの重縮合反応開始前1重縮合反応途中5重縮合反応終了時であってまだ溶融状態にある時点、粉粒状態、または紡糸段階等において、芳香族ポリエステルと添加成分のそれぞれを予め溶融混合して1回の操作で添加してもよく、または2回以上に分割添加してもよく、各添加成分を予め別々に芳香族ポリエステルに配合した後、これらを紡糸前等において混合してもよい。更に、重縮合反応中期以前に添加成分を添加するときは、グリコール等の溶媒に溶解または分散させて添加してもよい。
【0044】
また、本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸の外周の断面形状、ならびに芯部分が形成する図形の形状は、織編物の電性、張り、腰、風合、光沢なとの目的に応じて任意の形状をとることができ、例えば、円形断面の他、三角、偏平、四角、三角、星形、六角、ブーメラン形等を例示できる。また芯成分と鞘成分とは同心形状である必要はなく、芯の中心が偏った形状のものでもよく、また、外周の断面形状と芯部分が形成する図形の形状も、同じ形状であってもよいし異なった形状でもよい。
【0045】
本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸は、従来公知の複合紡糸装置を用い、鞘側に前述した芳香族ポリエステルBを、芯側に水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテル、有機および/または無機のイオン性化合物、および必要に応じて上記ホスファイト系等の酸化防止剤の少なくとも1種を配合した芳香族ポリエステルAを使用して、2000〜4500m/分の速度で溶融紡糸することが重要である。 好ましくは2000〜3000m/分である。ここで紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(引き取り速度/吐出速度、以降ドラフト比と記す)を100〜800とすることが好ましい。ドラフト比が100未満であると良好な制電性が得られなくなり、800を超える場合は製糸性が悪化するため好ましくない。好ましくは200〜500である。
【0046】
本発明の制電性芯鞘型極細ポリエステル仮撚り加工糸は上記の速度で溶融紡糸して巻き取った後、延伸仮撚り加工する方法を取る必要がある。
また得られた繊維またはこの繊維から製造された織編物を100℃以上の温度で熱処理して、構造の安定化と繊維中に含有されているポリオキシエチレン系ポリエーテル、および必要に応じて含有されている各種添加剤の移行による適性配列化を助長させることも好ましい。さらに必要に応じて弛絨熱処理なども併用することができる。
【0047】
また必要に応じて、本発明の制電性ポリエステル繊維またはこの繊維から製造された織編物に、適宜の親水化後加工を施してもよく、またそうすることは好ましいことである。この親水化後加工としては、例えばテレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはそれらの低級アルキルエステルと、低級アルキレングリコール、およびポリアルキレングリコールとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体の水性分散液で処理する方法、または、アクリル酸、メタクリル酸等の親水性モノマーをグラフト重合し、その後これをナトリウム塩化する方法等が好ましく採用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0049】
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
【0050】
(2)紡糸断糸
複合紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数を紡糸断糸とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
【0051】
(3)延伸仮撚断糸
帝人製機製216錘建HTS−15V(2ヒーター仮撚加工機で非接触式ヒーター仕様)にて、延伸仮撚加工を1週間連続実施し、延伸仮撚機1台・1日当たりの断糸回数を延伸仮撚断糸とした。ただし、糸繋ぎ前後による断糸(ノット断糸)あるいは自動切替え時の断糸等、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
【0052】
(4)仮撚り加工糸の強度、伸度
JIS L―1013―75に準じて測定した。
【0053】
(5)捲縮率
ポリエステル仮撚加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作成した。該カセの一端に、0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さを測定しS1(cm)とした。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定しS2とし、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=[(S1−S2)/S0]×100
【0054】
(6)毛羽個数
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、ポリエステル仮撚り加工糸サンプルを500m/minの速度で20分間連続測定して発生毛羽数を計測し、サンプル長1万m当たりの個数で表した。
【0055】
(7)風合い
(ソフト感)
レベル1:ソフトでしなやかな感触がある
レベル2:ややソフト感が乏しいが反撥性は感じられる
レベル3:カサカサした触感あるいは硬い触感である。
【0056】
(8)帯電性試験方法
A法(半減期測定法)
本発明の複合仮撚り加工糸を、筒編みし、染色し、調湿後、試験片をコロナ放電場で帯電させた後、この帯電圧が1/2に減衰するまでの時間(秒)をスタテイック オネストメータで測定する。時間(秒)が短い方が 制電性能が優れていると判断した。
B法(摩擦帯電圧測定法)
試験片を回転させながら摩擦布で摩擦し、発生した帯電圧を測定する。
L1094帯電性試験方法B法(摩擦帯電圧測定法)に順ずる。
制電効果については、摩擦帯電圧が、約2000V以下(好ましくは1500V以下)
であれば、制電効果が奏される。
【0057】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、チタン触媒A0.016部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に、酸化チタンが20重量%になるように調整したエチレングリコールスラリー溶液を1.5部、整色剤が0.1重量%になるように調整したエチレングリコール溶液0.2部を添加して重合容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応せしめ真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下であるポリエステルを得た。
【0058】
(チタン触媒Aの作成)
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2質量%)にテトラ−n−ブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0059】
(整色剤)
表1に示す粉末の整色用色素の熱質量減少開始温度を測定した結果を表1に示す。尚、実施例、比較例でこれら整色剤をポリエステル製造工程で添加する場合は、100℃の温度で、原料として用いるグリコール溶液に対し、濃度0.1質量%となるように溶解又は分散させて調製した。
【0060】
【表1】

【0061】
(ポリエステルAの作成)
上記で作成したポリエステルに制電剤としてポリオキシアルキレン系ポリエーテルとして下記式(4)で表される水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテルを4部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2部、真空下で添加し、さらに240分間重縮合反応せしめ、次いで酸化防止剤としてチバカイギー社製イルガノックス1010を0.4部真空下で添加し、その後さらに30分間重縮合反応を行なった。重合反応工程で、制電剤を添加し、得られたポリマーの固有粘度は0.657、軟化点258℃であった。
【0062】
【化1】

(ただし、jは18〜28の整数で平均21、Pは平均値として100、mは平均値として5である)
【0063】
(ポリエステルBの作成)
上記真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下であるポリエステルにポリエステル全重量に対して0.35重量%の酸化チタンを添加したものをポリエステルBとし、常法によりチップ化した。
【0064】
製糸化は以下の通り行った。乾燥ポリマーを紡糸設備にて各々常法で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給した。芯と鞘ポリマーの比率が表1記載の値となるように設定した。同時に供給された芯部と鞘部の溶融ポリマーは、ノズル孔径0.25mmの円形複合紡糸孔をを72個穿設した紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度で引き取り、複屈折率0.035の140dtex/72フィラメントのポリエステル未仮撚り加工糸を得た。
公知の延伸方法で1.8倍に延伸した仮撚り加工糸を用いて筒編地を製造し、制電性を測定した。溶融紡糸時の工程安定性及び制電性能の結果を表1に示す。
【0065】
次いで、該織物を液流染色機を用いて沸騰水で20分間リラックス処理し、引き続きプリセット処理を行った後、さらに、染色、ファイナルセット処理を行い、ポリエステル仮撚り加工糸からなる布帛とした。
得られた布帛の制電性能は15秒であり、官能評価を実施したところ、非常に深みのある、且つ高級感を有し、ソフト感を呈した風合のものであった。
【0066】
[実施例2〜3、比較例2〜6]
表1に示す条件で行った以外は実施例1と同様な方法で行った。
本発明は、特に、後工程における、高圧染色を経て顕著に現れ耐熱性に強く実用的である。更に、用途として、学生服、ユニフォーム、耐光性についても、体質が強いのが特徴である。又、制電性を発揮する部分がつつみこまれているので、制電成分を包み込み変形を少なくすることで、毛羽を出さないようにすることが制電性を維持すること、延伸での毛羽ダウン、生産性UP、更に、織物とした場合における洗濯耐久性に優れる要因と考えられる。
【0067】
[比較例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.013部(テレフタル酸ジメチルに対して0.01モル%)をエステル交換反応缶に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から220℃まで昇温し、反応缶中に生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。エステル交換反応終了後、反応混合物に安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)、および消泡剤としてジメチルポリシロキサンを0.024部加えた。次に、10分後に、反応混合物に三酸化アンチモン0.041部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを留去しながら240℃まで昇温し、その後、反応混合物を重合反応缶に移した。次いで1時間40分かけて760mmHgから1mmHgまで減圧するとともに240℃から280℃まで昇温して重縮合反応した。
【0068】
(ポリエステルA、ポリエステルBの作成)
実施例1で作成した真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下であるポリエステルの代わりに、上記三酸化アンチモンを使用したポリエステルを用いた以外は同様に行った。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
スポーツ衣料、学生服、ユニフォーム、防塵衣等の静電気を抑える用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツ、インナーなどの用途において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合繊維であって、芯部がポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、下記(1)〜(6)の条件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。
(1)ポリエステルA及び/又はポリエステルBが、真比重5.0以上の金属元素の含有量が10重量ppm以下であるポリエステルからなること。
(2)仮撚り加工糸の単糸繊度が1.5dtex以下である。
(3)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(4)仮撚り加工糸の強度が3.0cN/dtex以上である。
(5)仮撚り加工糸の摩擦帯電圧が2000V以下
(6) ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
【請求項2】
濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機化合物系整色剤を0.1〜10重量ppm含有する請求項1記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【請求項3】
請求項1〜2いずれかに記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸の製造方法であって、紡糸速度が2000〜4500m/minで未延伸糸として引き取った後、延伸仮撚り加工することを特徴とする請求項1記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸の製造方法。

【公開番号】特開2010−111961(P2010−111961A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284339(P2008−284339)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】