説明

制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸およびその製造方法

【課題】非常に良好な嵩高性、スパン感、を有するとともに、制電性能にも優れたスパンライクなポリエステル布帛を得ることができるポリエステル混繊仮撚加工糸を提供する。
【解決手段】伸度の異なる2種類のポリエステル糸が、長手方向に交互撚糸状巻付部Iと交絡部IIとから成る集束部Xと開繊部IIIを交互に形成してなるポリエステル混繊仮撚加工糸(2層構造糸)であって、芯部ポリエステル糸が芯鞘構造糸で芯部に特定の制電剤を含有する制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた制電性を有し、さらにスパンライクな嵩高感、表面の柔軟な感触と腰、反撥性を持った風合いを有する布帛とすることができる2層構造仮撚斑糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れ、衣料用途で広く用いられている。近年、市場ニーズが多様化してきており、かかるポリエステル繊維、特にポリエステル長繊維で、高級ウールのようなスパンライクな風合や嵩高性をポリエステル繊維に付与する方法として、例えば特公昭60−11130号公報、特公昭61−19733号公報、特開平8−13275号公報、特開2006−169697号公報等に示されるように、2種以上の伸度差を有するポリエステル長繊維を組み合わせたスパンライク様仮撚2層構造糸により嵩高性を向上させることが提案されている。こうした方法により嵩高性でスパンライクなポリエステル織物が得られている。
【0003】
しかしながら近年スポーツ用、カジュアル用に用いる場合このようなスパンライク性に加えて、パチパチする静電気を抑えるといった制電性に対する要求が高まっているもののこうした要求にかなうポリエステル布帛は皆無に等しいのが現状である。
【0004】
従来より制電性を付与する試みについては、ポリエステルに親水性を付与して制電性を発現させようとする試みが行われており、これまでに数多くの提案がなされている。例えばポリエステルにポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物を配合せしめる方法(特公昭39−5214号公報)、並びにポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物とを配合せしめる方法(特公昭44−31828号公報、特公昭60−11944号公報、特開昭53−80497号公報、特開昭53−149247号公報、特開昭60−39413号公報、特開平3−139556号公報等)が知られている。
【0005】
しかしながら通常の延伸(FOY)においては、制電性を有するものの、仮撚加工糸においては、捲縮糸で撚り変形により、毛羽が発生する為、制電性を有するものはないのが実情であった。
【0006】
又上記の問題を解決するために特開平4−146215号公報にはポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物からなる制電剤を芯部ポリエステルに含む芯鞘型ポリエステル複合繊維が提案されている。確かに芯鞘型複合繊維とすることによりある程度仮撚工程での毛羽発生は抑えられるものの、そのためには紡糸延伸仮撚り工程で厳密な制御を必要とし、制電性と断糸、毛羽の発生等の生産の安定性を両立させる点で十分とは言えなかった。
【0007】
しかしながら近年、織編物の風合い、肌触り、外観等に関する要求がますます高まってきており、特に、学生服、ユニフォーム、防塵衣、等の静電気を抑える用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途において制電性を有する布帛が大いに望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭60−11130号公報
【特許文献2】特公昭61−19733号公報
【特許文献3】特開平8−13275号公報
【特許文献4】特開2006−169697号公報
【特許文献5】特公昭39−5214号公報
【特許文献6】特公昭44−31828号公報
【特許文献7】特公昭60−11944号公報
【特許文献8】特開昭53−80497号公報
【特許文献9】特開昭53−149247号公報
【特許文献10】特開昭60−39413号公報
【特許文献11】特開平3−139556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、非常に良好な嵩高性、スパン感、を有するとともに、制電性能にも優れたスパンライクなポリエステル布帛を得ることができるポリエステル混繊仮撚加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの研究によれば、上記本発明の目的は、
伸度の異なる2種類のポリエステル糸が、長手方向に交互撚糸状巻付部と交絡部とから成る集束部と開繊部を交互に形成してなるポリエステル混繊仮撚加工糸であって、下記要件を満足することを特徴とする制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸。
1)伸度の小なるポリエステル糸Aが芯鞘型複合糸であって、芯部が芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として(a)下記式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルからなること。
2)伸度の大なるポリエステル糸Bが、芳香族ポリエステル100重量部に対して艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルからなること。
3)ポリエステル糸Aが仮撚糸の芯部を構成し、ポリエステル糸Bが芯部の周りを交互撚糸状に取り巻いて外層部(鞘部)を構成する2層構造であること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
好ましくは、
下記(1)〜(5)の条件を満足する制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸、
1)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の摩擦帯電圧が2000V以下であること。
2)ポリエステル糸Aの繊維軸に直交する断面における芯部面積と鞘部面積との比が5:95〜80:20の範囲であること。
3)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の強度が1.5cN/dtex以上であること。
4)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の捲縮率が2〜8%であること。
5)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸中のポリエステル糸Bの平均糸長がポリエステル糸Aの平均糸長より10〜20%長いこと。
により達成できることが見出された。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成の制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸(2層構造糸)とすることにより、混繊仮撚加工工程で伸度の大なるポリエステル糸が優先的に延伸され、伸度の小なる制電剤を含有するポリエステル糸はダメージが少なく、且つ毛羽が発生しても外層部で被覆されるため製織等の布帛工程で問題は発生せず制電性と風合い(嵩高性)の優れる布帛とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で用いる混繊仮撚加工装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例1で得られた本発明の制電性混繊仮撚加工糸の糸構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいう芳香族ポリエステルは、芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルであって、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0014】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0015】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0016】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0017】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0018】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0019】
本発明の仮撚加工糸の芯部を構成するフィラメント糸Aは芯鞘型複合繊維であり、該複合繊維の芯部ポリエステルに配合する制電剤として、ポリオキシアルキレン系ポリエーテル(a)は、ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば、単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであっても、二種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよく、また、下記一般式(1)で表わされるポオキシエチレン系ポリエーテルが好ましく挙げられる。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
【0020】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0021】
又上記ポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲である。0.2重量部より少ないときは親水性が不足して充分な制電性を呈することができない。一方30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0022】
本発明の仮撚加工糸の芯部を構成するフィラメント糸Aに配合する制電剤のもう一方の成分として、特に制電性を向上させるために有機イオン性化合物を配合する。有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(2),(3)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
RSOM ……式(2)
[式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(2)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。]
【0023】
上記有機イオン性化合物として好ましい具体例として、ステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
RSOPR ……式(3)
[式中、Rは上記式(2)におけるRの定義と同じであり、R,R,R及びRはアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。]
【0024】
かかる有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0025】
好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0026】
次に、本発明の制電性混繊仮撚加工糸を構成する伸度の大なるフィラメント糸Bは、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート又はテトラメチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルフィラメントを主たる対象とするが、必要に応じて第3成分を少量(通常は全繰返し単位を基準として15モル%以下、好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下)共重合した共重合ポリエステルでもよく、また、艶消し剤、その他の添加剤を加えてもよい。なかでも、アルカリ減量処理することによって、繊維表面又は繊維内部に、微細孔又は微細溝を形成される微細孔形成剤を含有している場合には、該孔又は溝の形状によって、吸水性、天然絹様風合、鮮明性、ドライタッチ等の各種効果を発現させることができるので好ましい。
【0027】
本発明の制電性混繊仮撚加工糸を得る方法としては、上記のポリエステル糸A及びポリエステル糸Bの未延伸糸を同時に交絡、加撚し、それを解撚して交互捲付糸とすることにより得られる。
【0028】
本発明における2種以上のフィラメント糸の組合せとしては、伸度の小なる糸条に少なくとも1.2倍以上に延伸仮撚できる糸条を用い、かつ伸度の大なる糸条は該伸度の小なる糸条よりも更に40%以上伸長できる糸条を用いることが好ましい。
【0029】
なお、伸度の小なるポリエステル糸Aの伸度は50%以上、好ましくは60%以上が適当であり、伸度の大なるポリエステル糸Bの伸度は100%以上が好ましく、又低伸度糸と高伸度糸との伸度差は、20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。更に好ましくは50〜70%である。ここで伸度差が20%未満であれば仮撚加工糸の嵩高性が得られず好ましくない。ここで、ポリエステル糸A,ポリエステル糸Bの伸度を調整するには公知の方法で行うことができ延伸倍率等を調整することが好ましい。
【0030】
又ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bの割合は、目的に応じて適宜選択設定することができるが、夫々が20%以上であることが好ましく、両者の使用割合はポリエステル糸A:ポリエステル糸B=25:75〜75:25(重量)が好ましい。特に伸度の大なるポリエステルBの割合が多い方が好ましく、(ポリエステル糸A)/(ポリエステル糸B)の割合でいうと30/70〜45/55の範囲が適当である。
【0031】
上記のような構成をとることにより混繊仮撚工程でポリエステル糸Bが優先的に延伸されポリエステル糸Aのダメージは少なく断糸、毛羽の発生は少なく、又ポリエステル糸Aに毛羽が発生したとしてもポリエステル糸Bにより被覆されるので、以降の布帛化工程での問題は軽減される。
【0032】
更に本発明の目的を損なわない範囲内で他の繊維、例えば金属メッキ繊維やカーボン粒子混入繊維を複合して導電性を付与してもよいが、他の繊維を併用する場合にはその割合は全体の30%以下にしないと、嵩高性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0033】
本発明においては、伸度の異なる2種又はそれ以上の未延伸糸は引き揃えられ、延伸前に空気噴射ノズルを通して空気交絡処理が施されることが好ましい。空気の噴射方法としては、走行糸と直角方向に当てる方法、走行糸の進行方向に沿って当てる方法等いずれの方法も採用できるが、前者によれば比較的光沢に優れた製品、後者によれば比較的ソフトな風合いの製品が得られるので、目的に応じて適宜選択すればよい。しかしながら、該交絡処理において、あまりにオーバーフィード率を大きくしすぎるとループが多数発生して布帛製造時の工程安定性が損なわれるようになるので、10%以下とするのが望ましい。また、伸度の異なる未延伸糸間にオーバーフィード率差を設けてもよいが、この場合、あまりに差を付けすぎるとループが多数発生するようになるので、通常は同一のオーバーフィード率が採用される。
【0034】
仮撚装置はツイストピンに捲付けるスピンドル、流体式空気仮撚ノズル、内接式あるいは外接式摩擦仮撚装置、ベルト擦過装置のいずれも適用できる。
この実施形態を図1により説明すると、互いに伸度の異なる2糸条3,3’はガイド4で合糸されてから張力調整装置5、フィードローラー6を経て交絡用の空気噴射ノズル7に供給され、ここで13ケ/m以上の交絡点を有する交絡糸とされる。次いで、この交絡糸は第1デリベリーローラー8により延伸仮撚りゾーンに供給され、ヒーター9、仮撚具10を経て、第2デリベリーローラー11により引き取られた後、チーズ13として捲き取られる。
【0035】
ここで、交絡付与後にオーバーフィードをかけながらヒーターで熱処理すると、ポリエステル糸Bは収縮し、ポリエステル糸Aは殆ど収縮しないかあるいは自己伸張し、ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとの間に糸足差が生じ、これが布帛とした時の膨らみ、スパンライク性に繋がる。
【0036】
本発明の制電性混繊仮撚加工糸について図を用いて説明する。図2は本発明の仮撚加工糸の側面図である。図2において、Iは交互撚糸状巻付部、IIは交絡部、IIIは開繊部をそれぞれ示す。
【0037】
本発明の制電性混繊仮撚加工糸は、長手方向に第2図に示すように交互撚糸状巻付部(I)と交絡部(II)とからなる集束部(X)と開繊部(III)とが交互に形成されていることが肝要である。
【0038】
本発明の集束部(X)において、交互撚糸状巻付部(I)は、主としてポリエステル糸Aから成る芯部を、主としてポリエステル糸Bからなる外層部が実質的に集束状態で捲き付いている部分である。また交絡部(II)は、前記ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとが混繊状態で緊密に交絡している部分であり、以下、本発明では(I)と(II)とを併せて集束部(X)と称する。
【0039】
この様な集束部(X)において、交絡部(II)は糸条全体が締まっているため断面二次モーメントが大きく、最終的に得られる布帛に高反撥性を付与することができる。
他方、交互撚糸状巻付部(I)は、交絡部(II)に比較してふくらみを有する部分であって、押さえに対する弾力性を呈することができ、張り、腰といった風合いを布帛に付与することが出来る。
【0040】
これに対して、前記集束部(X)に隣接する開繊部(III)は、主としてポリエステル糸Aで構成されている芯部を、主としてポリエステル糸Bが個々に分離しつつ連続反転状で糸軸と略平行状態で被覆している部分であって、前記集束部において不足しているスパンライクな嵩高性とソフト性とを布帛に付与することができる。
【0041】
本発明の制電性混繊仮撚加工糸の見掛けの単繊維繊度(長さ方向に太細を有するものは平均した繊度)や糸条としての総繊度は特に限定されるものではないが、単繊維繊度としては1.5〜5.0dtex、総繊度としては30〜300dtexの範囲が適当である。
【0042】
未延伸糸および部分配向糸の繊度は用途に応じて選定すべきであるが、一般にトータル繊度において捲付糸≧芯糸とするのが良く、前者は30〜400dtex、後者は20〜150dtexとするのが特に好ましい。
【0043】
又本発明の制電性混繊仮撚加工糸のポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとの糸長差は5〜20%、より好ましくは10〜15%の範囲であることが優れたスパナイズ感を得る上で好ましい。
【0044】
以上に説明した本発明の制電性混繊仮撚加工糸を用いて布帛を製造するには、必要に応じて適度な撚りを施し、所望の組織に織編すればよい。得られた布帛は、従来の織編物では達成不可能であった制電性能を呈し、さらにスパンライクな嵩高感、表面の柔軟な感触と腰、反撥性を持った風合いを備えたものが得られるので好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
繊維の強伸度:
JIS L−1013記載の方法に準拠し測定した。
嵩高性評価:
嵩高性の評価は、以下の測定方法にしたがった。すなわち、複合斑糸を検尺器(周長1.125m)にて120回転分とって綛を作り、これを2つ折りにしたサンプルの一端に、その綛の重量の3倍の荷重を吊るして乾熱195℃で5分間熱処理した後冷却した。次いで該糸条をボックス(高さ2.5cm、幅1.0cm、長さ10cm、底面0.5cmの曲率半径)に充填し、蓋(綛の3倍の重量)を荷重させ、その時の体積(Vcm)と綛(混繊糸条)の重量(Wg)とから以下の式により算出した。
嵩高性(cm/g)=V/W
この値が50以上のとき嵩高性「良」とし、50未満のとき「不良」とした。
摩擦帯電圧:
試験片を回転させながら摩擦布で摩擦し、発生した帯電圧を測定する。
L1094帯電性試験方法B法(摩擦帯電圧測定法)に順ずる。
制電効果については、摩擦帯電圧が、約2000V以下(好ましくは1500V以下)
であれば、制電効果が奏される。
風合評価:柔軟性、ドライ感、スパナイズ外感を総合したもの
風合についての各評価項目は、熟練した5人のパネラーによる官能評価で、全員が極めて良好と判定したものを(○)、3人以上が良好と判断したものを(△)、3人以上が不良と判定したものを(×)と、三段階にランク付けした。
糸長差:下記式により計算した。
糸長差(%)=(L−L)/L×100
(ただし、LおよびLは混繊糸を任意の個所で5cmにカットした中に含まれるポリエステル糸Aとポリエステル糸Bのそれぞれの全単繊維糸長の平均値を示す。)
捲縮率:
仮撚加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作成した。該カセの一端に、0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さを測定しS1(cm)とした。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定しS2とし、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=[(S1−S2)/S0]×100
【0046】
[実施例1]
(ポリエステル糸Aの作成)
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.013部(テレフタル酸ジメチルに対して0.01モル%)をエステル交換反応缶に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から220℃まで昇温し、反応缶中に生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。エステル交換反応終了後、反応混合物に安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)、および消泡剤としてジメチルポリシロキサンを0.024部加えた。次に、10分後に、反応混合物に三酸化アンチモン0.041部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを留去しながら240℃まで昇温し、その後、反応混合物を重合反応缶に移した。次いで1時間40分かけて760mmHgから1mmHgまで減圧するとともに240℃から280℃まで昇温して重縮合反応せしめた後、
(芯成分ポリエステルの作成)
制電剤としてポリオキシアルキレン系ポリエーテルとして下記式(4)
【化1】

(ただし、jは18〜28の整数で平均21、Pは平均値として100、mは平均値として5である)
で表される水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテルを4部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2部、真空下で添加し、さらに240分間重縮合反応せしめ、次いで酸化防止剤としてチバカイギー社製イルガノックス1010を0.4部真空下で添加し、その後さらに30分間重縮合反応を行なった。得られたポリマーの固有粘度は0.657、軟化点258℃であった。
【0047】
(鞘成分ポリエステルの作成)
制電剤を添加しないものを鞘成分ポリエステルとし、常法によりチップ化した。
【0048】
(ポリエステル糸Aの製糸)
製糸化は以下の通り行った。乾燥ポリマーを紡糸設備にて各々常法で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給した。上記で作成した芯成分と鞘成分ポリマーの比率が表1記載の値となるように設定した。同時に供給された芯成分と鞘成分の溶融ポリマーは、ノズル孔径0.25mmの円形複合紡糸孔を36個穿設した紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度で引き取り、120dtex/36フィラメントの未延伸ポリエステル糸Aマルチフィラメントを得た。得られた糸特性は表1の通りである。
【0049】
(ポリエステル糸Bの製糸)
一方、固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートを紡糸口金から溶融吐出し、該吐出糸条を冷却固化させた後に油剤を付与し、1000m/分の速度で引取って、150dtex/48フィラメントの部分配向未延伸ポリエステル糸Bを得た。
得られた未延伸ポリエステル糸Aと部分配向ポリエステル糸Bとをそれぞれ解舒して引きそろえ、図1の工程で交絡処理及び延伸仮撚加工を行った。
【0050】
すなわち前記2糸条をフィードローラー6に供給し、第1デリベリーローラー8との間で、オーバーフィード率3.0%、圧空圧0.25MPaでインタレースノズル7によりインタレース処理し、60個/mの交絡を付与し、引き続いてローラー8を介して仮撚ゾーンに供給し、延伸倍率1.5倍、ヒーター温度450℃、糸速550m/分でワインダーに捲取り、190dtex/84フィラメントの仮撚加工糸条を得た。
【0051】
得られた仮撚加工糸を顕微鏡で観察したところ、図2に示す構造[交互撚糸状巻付部(I)−交絡部(II)−開繊部(III)の順序で構成されている構造]を主とするものであった。
得られた糸条を経糸及び緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精練、熱セット、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0052】
また、
[比較例1]表1に示した条件以外は実施例1と同様に行った。
[比較例2]表1に示した条件以外は実施例1と同様に行った。
[比較例3]表1に示した条件以外は実施例1と同様に行った。
[比較例4]表1に示した条件以外は実施例1と同様に行った。
[比較例5]表1に示した条件以外は実施例1と同様に行った。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
学生服、ユニフォーム、防塵衣、等の静電気を抑える用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途において
【符号の説明】
【0055】
3,3′:原糸
4:ガイド
5:張力装置
6:フイードローラ
7:インターレースノズル
8:第1デリベリローラ
9:ヒーター
10:仮撚具、
11:第2デリベリローラ
12:巻取ローラ
13:巻取チーズ
I :交互撚糸状巻付部
II:交絡部
X :集束部
III:開繊部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸度の異なる2種類のポリエステル糸が、長手方向に交互撚糸状巻付部と交絡部とから成る集束部と、開繊部とを交互に形成してなるポリエステル混繊仮撚加工糸であって、下記要件を満足することを特徴とする制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸。
1)伸度の小なるポリエステル糸Aが芯鞘型複合糸であって、芯部が芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として(a)下記式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルからなること。
2)伸度の大なるポリエステル糸Bが、芳香族ポリエステル100重量部に対して艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルからなること。
3)ポリエステル糸Aが仮撚糸の芯部を構成し、ポリエステル糸Bが芯部の周りを交互撚糸状に取り巻いて外層部(鞘部)を構成する2層構造であること。
4)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bの伸度差が20%以上で仮撚加工したものであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
【請求項2】
下記(1)〜(5)の条件を満足する請求項1記載の制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸。
1)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の摩擦帯電圧が2000V以下であること。
2)ポリエステル糸Aの繊維軸に直交する断面における芯部面積と鞘部面積との比が5:95〜80:20の範囲であること。
3)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の強度が1.5cN/dtex以上であること。
4)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸の捲縮率が2〜8%であること。
5)制電性ポリエステル混繊仮撚加工糸中のポリエステル糸Bの平均糸長がポリエステル糸Aの平均糸長より10〜20%長いこと。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159521(P2010−159521A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3561(P2009−3561)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】