説明

制電性共重合ポリエステル組成物および当該組成物からなる繊維製品

【課題】中空繊維や芯鞘型複合繊維は勿論、単一成分で中実繊維を構成した場合においても、得られる繊維の物性の低下を抑制しつつより高いレベルの制電性を発現するとともに、安価な原材料に起因した生産コストの低減を実現することのできる制電性共重合ポリエステル組成物および当該組成物からなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなり、下記一般式(I)で表される2価の芳香族炭化水素残基を有するジカルボン酸成分が特定量共重合された共重合ポリエステル(A)を用いて、これに特定の数平均分子量を有するポリオキシエチレングリコール(B)と、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)とを、それぞれ特定量配合する。
[式1]
OOC−X−COOR (I)
(式中、
およびRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、または、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、
Xは、2価の芳香族炭化水素残基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制電性共重合ポリエステル組成物および当該組成物からなる繊維製品に関する。さらに詳しくは、制電性に優れ、中空繊維や芯鞘型複合繊維は勿論、単一成分で中実繊維とした場合であっても、得られる繊維の物性の低下を抑制しつつ優れた制電性を発現することのできるポリエステル組成物および当該組成物からなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、および化学的性能が優れていることから、繊維、フィルム、またはその他の成形物として広く利用されている。とりわけポリエチレンテレフタレートは、良好な機械的特性、化学的特性、成形性等を有することから、古くよりポリエステル繊維用材料として用いられてきた。
【0003】
しかしながら、ポリエステルは疎水性であり、また、電気抵抗が高いことから、静電気が発生しやすい傾向にある。このため、制電性が要求される分野でのポリエステルの使用は制限せざるをえなかった。そこで、ポリエステルに親水性を付与することにより制電性を発現させる試みが行われており、これまでに数多くの提案がなされている。
【0004】
例えば、ポリアルキレンエーテルをポリエステルに配合することにより、ポリエステル繊維に制電性を付与する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の方法によってポリエステル繊維に充分な制電性を付与するためには、15質量%から20質量%もの多量のポリアルキレンエーテルを必要とする。その結果、得られる制電性ポリエステル繊維の物性は、とりわけ熱的性質は大幅に低下してしまっていた。また、洗濯堅牢性にも劣ることから、使用には耐えないレベルのものであった。
【0005】
これに対して、ポリアルキレンエーテルとアルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩とをポリエステルに併用することにより、制電性を付与する方法が提案されている(特許文献2および3参照)。また、ポリオキシアルキレングリコールとアルキルスルホン酸金属塩とをポリエステルに併用する方法が提案されている(特許文献4参照)。特許文献2から4に記載された方法によれば、多量のポリオキシアルキレングリコールを使用しないことから、得られる繊維の物性を低下させることなく、あるレベルまでの制電性を満足できるようになった。
【0006】
また、制電剤の添加量を低減する別の方法として、ポリエステルを中空繊維に溶融紡糸することにより、制電剤の大半を繊維中空部の周辺に凝集局在化せしめる方法が提案されている(特許文献5参照)。特許文献5に記載された方法によれば、ポリオキシアルキレングリコールとスルホン酸金属塩とからなる制電剤の合計量を、ポリエステルに対して3質量%以下という少量に低減しても、繊維物性を実質的に損なうことなく、制電効果を発現させることができる。
【0007】
さらに、繊維を芯鞘複合繊維とし、その芯部に制電剤を高濃度に局在化させる方法も提案されている(特許文献6から8参照)。
【0008】
また、従来一般に用いられている水溶性のポリオキシエチレングリコールに代えて、エチレンオキサイドに特定の高級オレフィンオキサイドを共重合せしめて水不溶化させた、ポリオキシエチレン系ポリエーテルを制電剤として用いることも提案されている(特許文献9から11参照)。
【0009】
【特許文献1】特公昭39−005214号公報
【特許文献2】特公昭46−022200号公報
【特許文献3】特公昭47−011280号公報
【特許文献4】特開昭53−149247号公報
【特許文献5】特公昭60−056802号公報
【特許文献6】特公昭61−006883号公報
【特許文献7】特開昭55−122020号公報
【特許文献8】特開昭61−028016号公報
【特許文献9】特開平03−139556号公報
【特許文献10】特開2002−309486号公報
【特許文献11】特開2003−129336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、制電性の要求レベルは益々高くなりつつあり、制電剤の添加量をより少なくしつつも、特許文献2から4に記載の方法によって得られる繊維の制電性レベルよりも、さらに一層高い制電効果を求められる場合が生じるようになった。
【0011】
また、特許文献5に記載の方法によれば、得られる繊維は中空繊維となるため、その用途が限られてしまっていた。
また、特許文献6から8に記載された方法では、解決手段として複合繊維を形成するため、製糸コストが上昇してしまっていた。また、複合繊維であることから、近年注目されている極細繊維の製造には、困難性をがともなうものとなっていた。
【0012】
さらに、特許文献9から11に記載された方法では、制電剤として使用する水不溶化ポリオキシエチレン系ポリエーテルが高価であるため、得られる組成物および繊維の価格も高価なものとなっていた。また、より一層高い制電効果が求められる場合においては、いまだ対応しきれるものではなかった。
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中空繊維や芯鞘型複合繊維は勿論、単一成分で中実繊維を構成した場合においても、得られる繊維の物性の低下を抑制しつつより高いレベルの制電性を発現するとともに、安価な原材料に起因した生産コストの低減を実現することのできる制電性共重合ポリエステル組成物および当該組成物からなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなり、2価の芳香族炭化水素残基を有するジカルボン酸成分が特定量共重合された共重合ポリエステル(A)を用いて、これに特定の数平均分子量を有するポリオキシエチレングリコール(B)と、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)とを、それぞれ特定量配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなり、下記一般式(I)で表されるジカルボン酸成分が、全カルボン酸成分に対して1モル%以上20モル%以下の割合で共重合された共重合ポリエステル(A)を85質量%以上99.7質量%以下、数平均分子量10,000以上100,000以下のポリオキシエチレングリコール(B)を0.2質量%以上10質量%以下、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)を0.1質量%以上5質量%以下含む制電性共重合ポリエステル組成物、および、当該組成物から得られる繊維からなり、20℃、65%RHの雰囲気下で24時間調湿した後の、20℃、65%RH環境下における表面電荷の半減期が10秒以下である制電性ポリエステル繊維製品である。
[式1]
OOC−X−COOR (I)
(式中、
およびRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、または、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、
Xは、2価の芳香族炭化水素残基を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物は、制電剤の添加量が少ないにもかかわらず、十分に高い制電性を発現することができる。したがって、従来のような中空繊維や芯鞘型複合繊維は勿論、単一成分で中実繊維を構成した場合においても、得られる繊維の物性の低下を抑制しつつより高いレベルの制電性を発現することができる。このため、繊維の形態による用途の制限をうけることなく、また、極細糸、異型糸での制電繊維、および、それを用いた繊維製品の製造が可能となる。
また、高価な水不溶化ポリオキシエチレン系ポリエーテルを用いないことから、得られる組成物および繊維の価格の低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を詳しく説明する。
<制電性共重合ポリエステル組成物>
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなり、2価の芳香族炭化水素残基を有するジカルボン酸成分が特定量共重合された共重合ポリエステル(A)と、特定の数平均分子量のポリオキシエチレングリコール(B)と、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)とを、それぞれ特定量含む組成物である。以下に、本発明の制電性共重合ポリエスエル組成物の構成成分、物性等について説明する。
【0018】
[共重合ポリエステル(A)]
本発明における共重合ポリエステル(A)とは、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合反応により得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここで、「主たる」とは全繰り返し単位において70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。
【0019】
本発明に使用する共重合ポリエステル(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば、まず、テレフタル酸の如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコール成分とを直接にエステル化反応させる方法、あるいは、テレフタル酸ジメチルの如きジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールの如きグリコール成分とをエステル交換反応触媒の存在下にエステル交換反応させる方法等により、反応生成物として、ジカルボン酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を得る。次いで、得られた反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱し、所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、目的とする共重合ポリエステル(A)を製造することができる。
【0020】
上述したエステル交換反応触媒としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、またはチタン化合物等を好ましく例示することができる。また、重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等を好ましく例示することができる。
【0021】
〔ジカルボン酸共重合成分〕
本発明に用いる共重合ポリエステル(A)は、下記一般式(I)で表されるジカルボン酸成分が、共重合ポリエステル(A)の全カルボン酸成分に対して1モル%以上20モル%以下共重合されているものである。
[式2]
OOC−X−COOR (I)
(式中、
およびRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、または、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、
Xは、2価の芳香族炭化水素残基を示す。)
【0022】
ここで、RおよびRとなりうるアルキル基は、炭素数1以上5以下の低級アルキル基である。炭素数が5を超える場合には、エステル交換反応が進行しにくくなることから、好ましくない。RおよびRとなりうるアルキル基の炭素数は、1以上3以下が好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0023】
一般式(I)で表されるジカルボン酸成分の共重合量は、共重合ポリエステル(A)の全カルボン酸成分に対して1モル%以上20モル%である。ジカルボン酸成分の共重合量が1モル%未満の場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の制電性が不十分となる。一方で、20モル%を超える場合には、本来ポリエステルが有している耐熱性、寸法安定性等の特徴が損なわれるため好ましくない。一般式(I)で表されるジカルボン酸成分の共重合量は、3モル%以上17モル%以下の範囲が好ましく、5モル%以上15モル%以下の範囲がさらに好ましい。
【0024】
上記一般式(I)で表される化合物としては、例えば、オルトフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、タフェニルジカルボン酸、および、これらのアルキルエステルを例示することができる。これらのなかでは最終的に得られるポリエステル繊維の物理的特性の観点から、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、および、これらのアルキルエステルが特に好ましい。
【0025】
また、共重合ポリエステル(A)の製造時における上記一般式(I)で表されるジカルボン酸成分の添加時期は、特に限定されるものではないが、一般式(I)のRおよびRがいずれも水素原子の場合には、直接エステル化反応の開始前から反応後の任意の段階、あるいはエステル交換反応の終了後に添加することが好ましい。また、RおよびRの少なくとも一方が炭素数1以上5以下の低級アルキル基の場合には、エステル交換反応開始前の段階に添加することが好ましい。
【0026】
〔共重合ポリエステル(A)の含有量〕
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物における共重合ポリエスエル(A)の含有量は、85質量%以上99.7質量%以下である。共重合ポリエステル(A)の含有量が85質量%未満の場合には、最終的に得られるポリエステル繊維の強度を維持することが困難となる。一方で、99.7質量%を超える場合には、制電剤となるポリオキシエチレングリコール(B)とアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)との合計配合量が小さくなることから、十分な制電性を発現することが困難となる。本発明の制電性共重合ポリエステル組成物における共重合ポリエスエル(A)の含有量は、90質量%以上99.5質量%以下が好ましく、95質量%以上99.3質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
[ポリオキシエチレングリコール(B)]
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物は、数平均分子量10,000以上100,000以下のポリオキシエチレングリコールを0.2質量%以上10質量%含む。
ここで、本発明に用いられるポリオキシエチレングリコール(B)とは、エチレングリコールの重合体であって、その両端が水酸基であっても、あるいは、一端または両端がアルキル基またはアシル基等によって封止されたものであってもよい。
【0028】
〔数平均分子量〕
用いられるポリオキシエチレングリコール(B)の数平均分子量は、10,000以上100,000以下である。数平均分子量が10,000未満の場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の制電性が不十分となる。一方で、100,000を超える場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の熱安定性が不十分となるため好ましくない。ポリオキシエチレングリコール(B)の数平均分子量は、12,000以上50,000以下の範囲が好ましく、15,000以上30,000以下の範囲がさらに好ましい。
【0029】
〔ポリオキシエチレングリコール(B)の含有量〕
また、制電性共重合ポリエステル組成物におけるポリオキシエチレングリコール(B)の含有量は、0.2質量%以上10質量%である。含有量が0.2質量%未満の場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の制電性が不十分となる。一方で、10質量%を超える場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の熱安定性が不十分となるほか、本発明の組成物から繊維を成形する場合に、得られる繊維からポリオキシエチレングリコール(B)がブリードアウトし、製糸工程特性を低下させるため好ましくない。ポリオキシエチレングリコール(B)の含有量は、0.3質量%以上7質量%以下の範囲が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下の範囲がさらに好ましい。
【0030】
〔ポリオキシエチレングリコール(B)の添加時期、添加方法〕
本発明の共重合ポリエステル組成物において、ポリオキシエチレングリコール(B)の添加時期および添加方法については特に限定されるものではない。例えば、エステル化反応、エステル交換反応、および、重合反応、の前後や途中での添加、あるいは、得られた共重合ポリエステルとの溶融ブレンド等が挙げられる。これらの中では、ポリエステル組成物の耐熱性の観点から、重合反応の後半に添加する方法が最も好ましい。
【0031】
[アルキルスルホン酸金属塩(C)・アルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)]
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物は、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)を、0.1質量%以上5質量%以下含む。
ここで、本発明に用いられるアルキルスルホン酸金属塩(C)およびアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)のアルキル鎖長は、炭素数にして8以上20以下であることが好ましい。炭素数が8未満である場合には、共重合ポリエステル(A)との相溶性に劣り、組成物から繊維を形成する場合に、紡糸時に昇華性異物を発生したり、組成物に含まれるアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)が繊維表面にブリードアウトを起こすことがある。一方で、炭素数が20を超える場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の制電性能が劣るようになる。
【0032】
また、金属塩を形成する金属としては、例えば、Li、Na、K等を挙げることができる。これらの中では、制電性に優れること、および、凝集異物を生成しがたいことから、Naがより好ましい。すなわち、本発明に用いられるアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)としては、アルキルスルホン酸ナトリウムおよび/またはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
さらに具体的には、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、ステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等を、本発明に用いられるアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の好ましい例として挙げることができる。
【0034】
なお、本発明においては、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)は、1種単独で用いても、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0035】
〔アルキルスルホン酸金属塩(C)・アルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の含有量〕
これらアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の制電性共重合ポリエステル組成物における含有量は、0.1質量%以上5質量%以下である。含有量が0.1質量%未満の場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の制電性が不十分となる。一方で、含有量が5質量%を超える場合には、得られる共重合ポリエステル組成物の熱安定性が不十分となるほか、本発明の組成物から繊維を成形する場合に、得られる繊維からアルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)がブリードアウトし、製糸工程特性を低下させるため好ましくない。アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の含有量は、0.2質量%4質量%以下の範囲が好ましく、0.3質量%以上3質量%以下の範囲がさらに好ましい。
【0036】
〔アルキルスルホン酸金属塩(C)・アルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の添加時期〕
本発明の共重合ポリエステル組成物において、アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)の添加時期および添加方法については特に限定されるものではない。例えば、エステル化反応、エステル交換反応、および、重合反応、の前後や途中での添加、あるいは得られた共重合ポリエステルとの溶融ブレンド等が挙げられる。これらの中では、ポリエステル組成物の耐熱性の観点から、重合反応の後半に添加する方法が最も好ましい。
【0037】
[その他成分]
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物は、本発明の要旨を超えない範囲において、必要に応じて少量の添加剤、例えば、滑剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、または、艶消剤等を含んでいてもよい。これらの中では、添加するポリオキシエチレングリコール(B)の耐熱性を高めることから、酸化防止剤が特に好ましく添加される。添加する酸化防止剤としては、高温でのポリステル組成物の熱安定性を向上させる観点から、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤が特に好ましく、その添加量としては、共重合ポリエステル組成物全体に対して0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0038】
[共重合ポリエステル組成物の固有粘度]
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物の固有粘度(溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、溶解温度100℃、溶解時間60分で溶解の後、測定温度35℃における固有粘度)は、特に限定されるものではないが、0.5以上1.0以下の範囲にあることが好ましい。固有粘度が0.5未満の場合には、本組成物から繊維を成形した場合に、得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となる。一方で、1.0を超える場合には、溶融成形性が低下するため好ましくない。本発明の制電性共重合ポリエステル組成物の固有粘度としては、0.6以上0.8以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
<制電性共重合ポリエステル繊維>
[繊維の製造方法]
本発明の制電性ポリエステル繊維製品を構成するポリエステル繊維の製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の溶融紡糸方法等を採用することができる。例えば、乾燥した本発明の制電性共重合ポリエステル組成物を、270℃以上300℃以下の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度としては、400m/分以上9000m/分以下の範囲で紡糸することができる。また、必要によって延伸工程等を経ることにより、繊維の強度を十分に高めることが可能である。
【0040】
また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、異形、中実用または中空用等のいずれも採用することができる。しかしながら、本発明の制電性ポリエステル組成物の特徴を発揮させるためには、中実繊維、あるいは、異形断面を持つ繊維を製造することが特に好ましい。さらに、本発明の制電性共重合ポリエステル組成物から得られるポリエステル繊維を用いて繊維製品を製造する場合には、その風合いを高める目的で、アルカリ減量処理を好ましく実施することができる。
【0041】
[ポリエステル繊維製品の制電性]
本発明の制電性ポリエステル繊維製品は、本発明の制電性共重合ポリエステル組成物から得られる繊維を用いて、従来公知の方法により織物、編物等の布帛として得ることができる。得られる制電性ポリエステル繊維製品の制電性の指標としては、20℃、65%RHの雰囲気下で24時間調湿した後の、20℃、65%RH環境下における表面電荷の半減期が、10秒以下であることが好ましい。表面電荷の半減期が10秒を超える場合には、繊維製品の制電性が不十分であり好ましくない。なお、表面電荷の半減期は、5秒以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、その要旨を超えない限りこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって測定・評価を実施した。
【0044】
[固有粘度]
ポリエステル組成物チップを、温度:100℃、時間:60分の条件にて、オルトクロロフェノールに溶解し、希薄溶液を得た。得られた希薄溶液につき、ウベローデ粘度計を用いて35℃で測定し、得られた値から固有粘度を求めた。
【0045】
[ジエチレングリコール含有量]
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル組成物チップを分解した。得られた分解生成物中におけるジエチレングリコールの含有量を、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製、型番号:HP6850型)を用いて測定した。
【0046】
[色相(L値・b値)]
ポリエステル組成物チップを、温度:285℃、真空下にて10分間溶融し、得られた溶融物から、アルミニウム板上にて、厚さ:3.0±1.0mmのプレートを成形し、その後ただちに氷水中で急冷した。引き続き、得られたプレートにつき、140℃、2時間の乾燥結晶化処理を行うことにより、最終的な色相測定サンプルを得た。
得られた色相測定サンプルを色差計調整用の白色標準プレート上に設置し、サンプル表面のLおよびbにつき、ミノルタ社製、ハンター型色差計(型番号:CR−200型)を用いて測定を実施した。なお、他の詳細な操作は、JIS Z−8729に準じて測定を行った。
は明度を示すものであり、その数値が大きいほど明度が高いことを示す。また、bは黄着色の指標となるものであり、その値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0047】
[ポリオキシエチレングリコールの数平均分子量]
ポリオキシエチレングリコールをクロロホルムに溶解後、装置として、昭和電工社製、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名:Shodex GPC−101)を用いて、また、測定用サンプルカラムとして、昭和電工社製、商品名:Shodex LF−804)、リファレンスカラムとして、昭和電工社製、商品名:Shodex KF−800RHを用いて、また、展開溶剤としてクロロホルムを用いて、RH検出器により分子量分布を測定した。得られた分布から、ポリスチレン換算にて数平均分子量を算出した。
【0048】
[ポリエステル組成物中のポリオキシエチレングリコールの含有量]
[ポリエステル組成物中のアルキルスルホン酸金属塩・アルキルベンゼンスルホン酸金属塩の含有量]
ポリエステル組成物を重水素化トリフルオロ酢酸:重水素化クロロホルム=1:1混合溶媒に溶解後、日本電子社製、超伝導FT−NMR(商品名:JEOL A−600)により、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定した。得られたスペクトルパターンから、常法に従って、ポリオキシエチレングリコール、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩のそれぞれの含有量を定量した。
【0049】
[繊維の引張強度・引張伸度]
JIS L1070記載の方法に準拠して、繊維の引張強度および引張伸度につき測定を行った。
【0050】
[布帛の制電性]
布帛の制電性は、帯電圧半減衰時間にて評価を行った。具体的には、帯電荷減衰度測定装器(シシド静電気社製、型番号:S−5109)を用いて、布帛の表面電荷の帯電圧および帯電圧半減期を測定した。なお評価にあたっては、評価サンプルを温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で24時間調湿した後に、環境温度20℃、相対湿度65%下で測定した。
【0051】
<実施例1>
[共重合ポリエステル組成物チップの製造]
テレフタル酸ジメチル90質量部およびイソフタル酸ジメチル10質量部と、エチレングリコール70質量部と、の混合物と、酢酸カルシウム1水和物0.063質量部、酢酸コバルト4水和物0.013質量部を、撹拌機、精留塔、および、メタノール留出コンデンサーを備えた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。
その後、リン酸トリメチル0.058質量部を反応器に添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0052】
得られた反応生成物に、三酸化二アンチモン0.04質量部、二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリー1.5質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口、および、蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行った。
【0053】
重縮合反応が終了する30分前に、一旦系内を窒素で常圧に戻して、数平均分子量20,000のポリオキシエチレングリコール0.8質量部、テトラデシルスルホン酸ナトリウム0.8質量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.4質量部を添加し、その後、再び30Pa以下の高真空で重縮合反応を行うことにより、固有粘度0.65、ジエチレングリコール含有量0.7質量%である共重合ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従い、得られた共重合ポリエステル組成物をチップ化した。共重合ポリエステル組成物の処方を表1に示す。また、得られた組成物についての物性測定・評価結果を表2に示す。
【0054】
[ポリエステル繊維・布帛の製造]
上記で得られたチップを、160℃で4時間乾燥した後、丸断面の中実繊維用口金を用いて、紡糸温度285℃、巻取速度400m/分で、363dtex/24filの原糸を作り、延伸温度85℃、熱セット温度160℃で、4.7倍に延伸することにより、77dtex/24filの延伸糸を得た。得られた延伸糸の繊度および物性を表3に示す。さらに、得られた延伸糸につき、常法により筒編みとして布帛を得た。得られた布帛の制電性評価結果を表3に示す。
【0055】
<実施例2〜4>
実施例1におけるイソフタル酸ジメチル10質量部を、表1に示す処方のように、化合物種あるいは添加量につき変更した以外は、実施例1と同様に共重合ポリエステル組成物を得て、繊維および布帛を作製し、実施例1と同様にそれぞれの測定・評価を実施した。共重合ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物、繊維、布帛についての測定・評価結果を表2および表3に示す。
【0056】
<実施例5>
実施例1におけるテトラデシルスルホン酸ナトリウムの代わりに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した以外は、実施例1と同様に共重合ポリエステル組成物を得て、繊維および布帛を作製し、実施例1と同様にそれぞれの測定・評価を実施した。共重合ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物、繊維、布帛についての測定・評価結果を表2および表3に示す。
【0057】
<比較例1>
イソフタル酸ジメチルを添加することなく、テレフタル酸ジメチルを100質量部使用した以外は、実施例1と同様にポリエステル組成物を得て、繊維および布帛を作製し、実施例1と同様にそれぞれの測定・評価を実施した。ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物、繊維、布帛についての測定・評価結果を表2および表3に示す。
【0058】
<比較例2>
テレフタル酸ジメチルを70質量部、イソフタル酸ジメチルを30質量部使用した以外は、実施例1と同様にポリエステル組成物を得たが、延伸糸を得ることはできなかった。ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物についての測定・評価結果を表2に示す。
【0059】
<比較例3>
数平均分子量20,000のポリオキシエチレングリコールの代わりに、数平均分子量4,000のポリエチレングリコールを使用した以外は、実施例1と同様に共重合ポリエステル組成物を得て、繊維および布帛を作製し、実施例1と同様にそれぞれの測定・評価を実施した。共重合ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物、繊維、布帛についての測定・評価結果を表2および表3に示す。
【0060】
<比較例4>
数平均分子量20,000のポリオキシエチレングリコール、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、イルガノックス1010を添加しなかった以外は、実施例1と同様に共重合ポリエステル組成物を得て、繊維および布帛を作製し、実施例1と同様にそれぞれの測定・評価を実施した。共重合ポリエステル組成物の処方を表1に、得られた組成物、繊維、布帛についての測定・評価結果を表2および表3に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の制電性共重合ポリエステル組成物によれば、中空繊維や芯鞘型複合繊維は勿論、単一成分で中実繊維を構成した場合においても、得られる繊維の物性の低下を抑制しつつより高いレベルの制電性を発現することができる。このため、本発明の制電性共重合ポリエステル組成物から得られる制電性ポリエステル繊維製品は、制電性が要求される分野の製品、例えば、裏地、インナー衣料等に好適に利用することができる。
【0065】
また、安価な原材料に起因した生産コストの低減を実現できることから、本発明の制電性共重合ポリエステル組成物から得られる繊維製品の価格を抑制することができ、ひいては、産業界での制電性繊維製品の利用を促進し、制電性繊維製品をより身近な製品とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートからなり、
下記一般式(I)で表されるジカルボン酸成分が、全カルボン酸成分に対して1モル%以上20モル%以下の割合で共重合された共重合ポリエステル(A)を85質量%以上99.7質量%以下、
数平均分子量10,000以上100,000以下のポリオキシエチレングリコール(B)を0.2質量%以上10質量%以下、
アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)を0.1質量%以上5質量%以下含む制電性共重合ポリエステル組成物。
[式1]
OOC−X−COOR (I)
(式中、
およびRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、または、炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、
Xは、2価の芳香族炭化水素残基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるジカルボン酸成分は、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、および、これらのアルキルエステルからなる群より選ばれる請求項1記載の制電性共重合ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記アルキルスルホン酸金属塩(C)および/またはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩(D)は、ナトリウム塩である請求項1または2記載の制電性共重合ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記共重合ポリエステル(A)の、溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、溶解温度100℃、溶解時間60分で溶解の後、測定温度35℃における固有粘度は、0.5以上1.0以下である請求項1から3いずれか記載の制電性共重合ポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の制電性共重合ポリエステル組成物から得られる繊維からなり、20℃、65%RHの雰囲気下で24時間調湿した後の、20℃、65%RH環境下における表面電荷の半減期が、10秒以下である制電性ポリエステル繊維製品。

【公開番号】特開2007−291268(P2007−291268A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121940(P2006−121940)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】