説明

制電性積層シート

【課題】
本発明は、導電性無機材料を含有しないで十分な導電性と強度を有するポリ乳酸系の導電性シートを提供することを課題とする。
【解決手段】
スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリ乳酸系樹脂(c)を含有するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物から成るA層と、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する樹脂組成物にパーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)を配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物からなるB層を少なくとも1層ずつ備えた、制電性積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性および強度に優れ、かつ低環境負荷であるポリ乳酸系の制電性積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、樹脂から成るシート分野において多くの機能を付与すべく、異なる樹脂からなるシートを積層した異種積層シートが広く用いられており、具体例として半導体に代表される電子部品の保管・搬送用のキャリアシートが挙げられる。キャリアシートには、電子部品自体の破損や性能低下を防止するために、シート表面には防塵対策として導電性が必要となるほか、電子部品の保管・搬送用のポケット形成方法として、プレス成形や真空成形などの熱成形が施されるため耐熱性が必要となる。さらに、収納用ポケットに自動収納する際に必要となる送り穴用ポケットは、打ち抜き加工にて形成されるため、割れが発生しないこと、これら加工されたシートを巻き取り回収する際に割れが発生しないよう十分な強度が要求される。
【0003】
一方、地球温暖化の要因として、温室効果ガスの1つである二酸化炭素の大気中の濃度上昇が指摘され、地球規模での二酸化炭素排出抑制の機運が高まってきており、解決手段の1つとして、化石資源使用量の削減および二酸化炭素排出量の抑制可能な植物由来のプラスチックが注目されている。
【0004】
このような背景より、制電性シート用の材料にポリ乳酸系樹脂を用いたものが開発されている。例えば、特許文献1にはポリ乳酸系樹脂とポリアルキルアルカノエート系樹脂、さらに導電性カーボン等の無機材料を含有する生分解性シートが公開されており、特許文献2にはポリ乳酸を含む生分解性プラスチックと炭素粉末を含有する導電性シートが開示されており、特許文献3にはスチレン系重合体と導電性カーボンからなる層と、ポリ乳酸系樹脂からなる層が積層された制電性シートが開示されている。また、特許文献4にはポリ乳酸系重合体に制電特性付与することを目的にポリエーテルエステルアミドを練り込んだ樹脂組成物からなる制電特性を有するフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−039945号公報
【特許文献2】特開平11−152179号公報
【特許文献3】特開2010−214607号公報
【特許文献4】特開2011−38099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来開示されていたポリ乳酸系の制電性シートでは導電性カーボン等の導電性無機材料を使用することによってシートに制電性を付与していたが、制電性シートの打ち抜き加工やスリット加工時に導電性無機材料が脱落することによる電子部品の破損の懸念があるほか、制電性シートとしての強度が不十分であった。また、ポリ乳酸系樹脂に導電性無機材料を配合しないで制電性を付与する場合では表面固有抵抗値が高く、かつ強度も不十分であった。すなわち本発明は、導電性無機材料を使用することなく十分な制電性と強度を有するポリ乳酸系の制電性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリ乳酸系樹脂(c)を配合して成るポリ乳酸系樹脂組成物(A)から成るA層と、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリエーテルエステルアミド(d)、パーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)から選ばれる少なくとも1種を配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物(B)から成るB層を少なくとも1層ずつ備えた積層シートにより前記課題を解決できることが分かった。
【0008】
すなわち本発明は以下の(1)〜(7)で構成される。
【0009】
(1)スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリ乳酸系樹脂(c)を含有するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物から成るA層と、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する樹脂組成物にパーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)を配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物からなるB層を少なくとも1層ずつ備えた、制電性積層シート。
【0010】
(2)A層を構成するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が、スチレン系樹脂(a)10〜60重量部、グラフト共重合体(b)15〜45重量部およびポリ乳酸系樹脂(c)25〜70重量部を含有する((a)、(b)、(c)の合計が100重量部)、(1)に記載の制電性積層シート。
【0011】
(3)B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物が、スチレン系樹脂(a)10〜70重量部、グラフト共重合体(b)15〜45重量部およびポリエーテルエステルアミド(d)3〜45重量部を含有する((a)、(b)、(d)の合計が100重量部)、(1)または(2)に記載の制電性積層シート。
【0012】
(4)B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物におけるパーフルオロアルキル化合物(e−1)の配合量が、樹脂組成物100重量部に対して0.1〜20重量部である、(1)〜(3)のいずれかに記載の制電性積層シート。
【0013】
(5)B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物における有機イオン導電剤(e−2)の配合量が、樹脂組成物100重量部に対して0.1〜20重量部である、(1)〜(4)のいずれかに記載の制電性積層シート。
【0014】
(6)最外層にB層、内層にA層を備えた構成を有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の制電性積層シート。
【0015】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の制電性積層シートを成形して成る成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の制電性積層シートは、十分な制電性を有するだけでなく、打ち抜き加工やスリット加工時の導電性無機材料の脱落による電子製品の破損などの懸念がないため、電子部品の保管・搬送用のキャリアシート等の材料として好意に使用することができる。また、植物由来の原料を使用することで、二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の制電性積層シートについて、具体的に説明する。
【0018】
本発明の制電性積層シートは、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物からなるA層および制電性熱可塑性樹脂組成物からなるB層を少なくとも1層ずつ有する。
【0019】
[A層(ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物)]
A層はスチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリ乳酸系樹脂(c)を配合して成るポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物からなり、シートの機械的強度を高める役割を果たす。
【0020】
(スチレン系樹脂(a))
本発明で用いられるスチレン系樹脂(a)とは、スチレンをはじめ、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体(a1)を公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合に供することにより得られるものであり、好ましくは、少なくとも芳香族ビニル系単量体(a1)を含み、その他必要に応じてシアン化ビニル系単量体(a2)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体(a4)が含まれた単量体混合物を共重合して得られる共重合体である。なお、ここでいうスチレン系樹脂(a)には、後述のゴム質重合体(r)に単量体成分をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(b)は含まれない。
【0021】
シアン化ビニル系単量体(a2)については特に制限はなく、具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、なかでもアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)については特に制限はないが、炭素数1〜6のアルキル基または置換アルキル基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが好適であり、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
他のビニル系単量体(a4)としては、芳香族ビニル系単量体(a1)、シアン化ビニル系単量体(a2)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)と共重合可能であれば特に制限はなく、具体例として、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
スチレン系樹脂(a)の分子量には制限はないが、好ましくは、テトラヒドロフラン溶媒を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が、10,000〜400,000の範囲、より好ましくは、50,000〜400,000の範囲のものを使用することにより、耐衝撃性および成形加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0025】
本発明で用いられるスチレン系樹脂(a)の具体例としては、ポリスチレン、AS樹脂、MAS樹脂、MS樹脂等が挙げられる。本発明で用いられるスチレン系樹脂(a)は1種または2種以上をコンパウンドして用いてもよく、例えば、AS樹脂とMAS樹脂を併用することもできる。
【0026】
(グラフト共重合体(b))
本発明で用いられるグラフト共重合体(b)とは、ゴム質重合体(r)の存在下で、前記したスチレン系樹脂(a)で用いられる単量体成分を、公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合に供することにより、ゴム質重合体(r)に単量体成分をグラフト重合して得られるものである。なお、グラフト共重合体(b)には、ゴム質重合体(r)に単量体成分がグラフト重合したグラフト共重合体だけでなく、ゴム質重合体(r)にグラフトしていない単量体成分の重合体を含みうる。
【0027】
ゴム質重合体(r)には特に制限はないが、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適で、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが好ましく使用でき、具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−イソプレン共重合体およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体のうちでは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体およびアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が、機械的強度を向上させる観点から好ましく用いられ、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0028】
ゴム質重合体(r)の重量平均粒子径には特に制限はないが、0.05〜1.0μm、特に0.1〜0.5μmの範囲であることが好ましい。ゴム質重合体の重量平均粒子径を0.05μm〜1.0μmの範囲とすることによって、優れた耐衝撃性、引張特性を発現することができる。さらに、ゴム質重合体を1種または2種以上を用いることができ、耐衝撃性と流動性の点で、重量平均粒子径が異なるゴム質重合体を2種以上用いることが好ましく、例えば、重量平均粒子径が小さいゴム質重合体と重量平均粒子径が大きいゴム質重合体を併用する、いわゆるバイモーダルゴムを用いてもよい。ここで、ゴム質重合体(r)の重量平均粒子径は、「Rubber Age、Vol.88、p.484〜490、(1960)、by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0029】
ゴム質重合体(r)のゲル含有量には特に制限はないが、耐衝撃性と耐熱性の点で、40〜99重量%であることが好ましく、60〜95重量%であることがより好ましく、70〜90重量%であることが特に好ましい。ここで、ゲル含有量は、トルエンを用いて室温で24時間抽出して得られる不溶分の重量%を求める方法により測定することができる。
【0030】
前述の通り、グラフト共重合体(b)は、ゴム質重合体(r)に単量体成分がグラフト重合した構造をとったグラフト共重合体の他に、ゴム質重合体(r)にグラフトしていない単量体成分の重合体を含有したものである。グラフト共重合体(b)のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性ならびに引張特性に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るために、10〜100重量%、特に30〜70重量%の範囲であることが好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される値である。
グラフト率(%)=[<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>]×100。
【0031】
グラフト共重合体(b)のメチルエチルケトン可溶分であるグラフトしていない重合体の特性は特に制限されないが、好ましくは、テトラヒドロフラン溶媒を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が10,000〜400,000の範囲、より好ましくは50,000〜150,000の範囲のものを使用することにより、耐衝撃性および成形加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0032】
前述の通り、グラフト共重合体(b)は、公知の重合法で得ることができる。例えば、ゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
【0033】
(ポリ乳酸系樹脂(c))
本発明で使用されるポリ乳酸系樹脂(c)としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体である。本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。かかる他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0034】
ポリ乳酸系樹脂(c)の単量体成分である乳酸は、耐熱性の観点から光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分の内、L体あるいはD体が80モル%以上含まれることが好ましく、さらには90モル%以上含まれることが好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0035】
ポリ乳酸系樹脂(c)の分子量や分子量分布は、実質的に押出成形性が可能であれば特に限定されるものではないが、重量平均分子量としては、50,000〜400,000が好ましく、100,000〜300,000がより好ましい。重量平均分子量が400,000を上回ると溶融粘度が高すぎ、押出成形性に支障が発生する場合があり、また、50,000を下回ると、シート強度の低下が発生する場合がある。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0036】
スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリ乳酸系樹脂(c)の配合比は特に限定されないが、本発明の効果を奏するにあたっては、(a)〜(c)の樹脂組成物の合計量100重量部において、スチレン系樹脂(a)は好ましくは10〜60重量部、より好ましくは15〜40重量部、グラフト共重合体(b)は好ましくは15〜45重量部、より好ましくは20〜40重量部、ポリ乳酸系樹脂(c)は好ましくは25〜70重量部、より好ましくは25〜60重量部、さらに好ましくは30〜50重量部である。本範囲外である場合、例えばグラフト共重合体(b)が15重量部より少ないと、制電性積層シートの強度が低下する場合があり、グラフト共重合体(b)が45重量部より多いと、グラフト共重合体(b)同士の凝集が発生し、制電性積層シートに凸部が形成されてしまうことがある。また、ポリ乳酸系樹脂(c)が25重量部より少ない場合、十分なCO削減効果を得ることができず、一方、70重量部より多い場合、制電性積層シートの強度が低下することがある。
【0037】
本発明におけるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の特性として、メルトフローレート(ISO1133)は好ましくは5〜30g/10min、より好ましくは5〜20g/10min、シャルピー衝撃強度(ISO179)が好ましくは15kJ/m以上、引張伸び(ISO527)が好ましくは10%以上である。メルトフローレートが前記範囲を上まると、ドローダウン発生等により成形性が低下し、前記範囲を下回ると溶融粘度が高すぎ、たとえばTダイ内でのフローマーク発生によるシート外観の低下や、押出機のスクリュー回転に要するトルクの上昇などの不具合が発生することがある。衝撃強度が前記範囲を下回ると折り曲げ強度が低下することや、穴空け加工時に割れが発生することがある。引張伸びが前記範囲を下回ると、プレス成形時にシートに割れが発生してしまうことがある。
【0038】
また、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、前記(a)〜(c)に加えて、さらにアクリル系樹脂(f)を配合することも好ましい。
【0039】
アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸アルキル系単量体の重合体または共重合体であり、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリ乳酸系樹脂(c)以外の重合体である。アクリル系樹脂の添加により、機械的強度を向上させることができる。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキル系単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アクリル酸ジシクロペンタニル、ジアクリル酸ブタンジオール、ジアクリル酸ノナンジオール、ジアクリル酸ポリエチレングリコール、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ペンタメチルピペリジル、メタクリル酸テトラメチルピペリジル、メタクリル酸ベンジル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
本発明で使用されるアクリル系樹脂(f)としては、メタクリル酸メチル成分単位を主成分とするポリメタクリル酸メチル系樹脂が好ましく、メタクリル酸メチル成分単位を70%以上含むポリメタクリル酸メチル系樹脂がより好ましく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂がさらに好ましい。
【0042】
また、アクリル系樹脂(f)の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば、特に限定されるものではないが、成形加工性の観点から重量平均分子量1,000〜450,000であることが好ましく、10,000〜200,000がより好ましく、30,000〜150,000がさらに好ましい。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたGPCで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0043】
アクリル系樹脂(f)の配合量は、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリ乳酸系樹脂(c)とアクリル系樹脂(f)の全配合部数を100重量部として、0〜30重量部が好ましく、より好ましくは0〜20重量部が好ましい。アクリル系樹脂(f)を30重量部より多く配合した場合、逆に強度が低下する場合がある。
【0044】
また、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に対して、酸性成分を添加することが押出安定性向上の観点で好ましい。グラフト共重合体(b)はその製造過程によりアルカリ性を示すため、ポリ乳酸系樹脂(c)はアルカリ加水分解し、押出成形中にポリ乳酸系熱可塑性樹脂の溶融粘度が変動してしまう。これを防止するために、樹脂の中和を目的に酸性成分を添加することが好ましい。
【0045】
酸性成分は、製造面での安全・衛生の観点で影響が発生しない範囲であれば、いかなるものでも使用することができる。例えば、既に公知となっている無水マレイン酸や無水コハク酸などの有機酸や、リン酸またはリン酸1ナトリウムなどの無機酸などが挙げられるが、押出成形時に発生する刺激臭による人体への安全・衛生面、得られた樹脂組成物の熱安定性、押出成形時のTダイのリップに付着する昇化・凝集物(いわゆるメヤニ)の発生などを考慮すると、無機酸が好ましく、さらにリン酸および/またはリン酸1ナトリウムが好ましい。
【0046】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物におけるリン酸および/またはリン酸1ナトリウムの含有量は、樹脂組成物の合計100重量部に対し、0.01〜5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部である。リン酸および/またはリン酸1ナトリウムの含有量が0.01重量部に満たない場合には、ポリ乳酸系樹脂(c)のアルカリ分解抑制の効果が十分に発揮されず、本発明の熱可塑性樹脂組成物の初期の耐衝撃性が低下するだけでなく、熱滞留において、溶融粘度が低下するほか、衝撃性も大幅に低下することがあり、一方、5重量部を超える場合には、熱滞留時の発泡など表面外観が低下することがある。
【0047】
その他、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、臭素化化合物、リン酸エステルまたは赤燐等の各種難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどの難燃助剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、顔料、および染料などを添加することができる。
【0048】
ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、各構成成分を規定部数に基づき配合、溶融混合により得ることができる。各成分の溶融混合方法に関しては、加熱装置、ベントを有するシリンダで単軸または二軸など公知の押出機を使用して溶融混合する方法にて得ることが出来る。溶融混合の際の加熱温度は、通常210〜260℃の範囲から選択されるが、本発明の目的を損なわない範囲で、溶融混合時の温度勾配等を自由に設定することも可能である。
【0049】
[B層(制電性熱可塑性樹脂組成物)]
B層はスチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する樹脂組成物に、パーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)を配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物(B)からなり、シートの表面固有抵抗値を低くし、制電性を付与する役割を果たす。
【0050】
(スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b))
本発明で用いられるスチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)は前記したA層(ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物)で用いられうるものであれば、特に制限されないが、A層と同じものを用いることが好ましい。
【0051】
(ポリエーテルエステルアミド(d))
本発明で用いられるポリエーテルエステルアミド(d)は、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよびアルキレンオキシドが付加されたジオール化合物を主たる構成成分とし、さらに炭素原子数6以上のアミノカルボン酸、炭素原子数6以上のラクタムまたは炭素原子数6以上のジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸との反応物を構成成分として含むブロックあるいはグラフト共重合体である。
【0052】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリ(1、2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1、3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックまたはランダム共重合体、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロックまたはランダム共重合体などが挙げられ、中でも、ポリエチレンオキシドグリコールが好ましく用いられる。
【0053】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、好ましくは200〜6000の範囲であり、より好ましくは300〜4,000の範囲である。また、必要に応じてポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分の両末端は、アミノ化またはカルボキシル化されてもよい。
【0054】
なお、本明細書において、数平均分子量は、試料1gを過剰なアセチル化剤、例えば、無水酢酸と加熱してアセチル化を行い、生成したアセチル化物を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をG、アセチル化前の試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をHとしたときに、次の(式1)によって計算することができる。
【0055】
【数1】

【0056】
アルキレンオキシドが付加されたジオール化合物としては、次の一般式(I)〜(III)で示されるジオール化合物からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を構成成分として含有する共重合体であることが好ましい。
【0057】
【化1】

【0058】
(ここで、一般式(I)〜(III)中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基を表し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CFまたはNHを表し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOHまたはその金属塩(SONa、SOK等)を表す。)。
【0059】
上記の一般式(I)〜(III)中のm、nは、それぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。その和である(m+n)は、使用される一般式(I)〜(III)のジオール化合物に依存するが、8〜65の範囲となることが好ましい。(m+n)の平均値は、一般式(I)〜(III)のジオール化合物の構造(単量体の分子量)と数平均分子量から計算により求めることができるものである。
【0060】
上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物としては、R、Rがそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基であって、Yが炭素数1〜6のアルキレン、X〜X12がそれぞれ独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基であるジオール化合物が好ましく、これらの中でも特にX〜X12が水素であるジオール化合物が好ましい。
【0061】
具体的なジオール化合物としては、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシフェニル−3,3’−スルホン酸ナトリウム)プロパン、ビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS、4,4’−(ヒドロキシ)ビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アミン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム等のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物、およびジヒドロキシナフタレンまたはそれらのブロック共重合体等が挙げられる。これらの中でさらに好ましいジオール化合物は、ヒドロキノンのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ジヒドロキシナフタレンのエチレンオキシド付加物、およびそれらブロック共重合体である。特に、重合性と経済性の点で、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物またはそのブロック共重合体が好ましい。
【0062】
アルキレンオキシドが付加されたジオール化合物の数平均分子量は、1,000〜3,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にある場合には、得られるポリエーテルエステルアミドの帯電防止性の向上および重合時間の短縮を図ることができる。
【0063】
炭素数が6以上のアミノカルボン酸としては、炭素数が6以上20以下のアミノカルボン酸が好ましく、具体的には、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、および12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸が挙げられる。
【0064】
炭素数が6以上のラクタムとしては、炭素数が6以上20以下のラクタムが好ましく、具体的には、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、およびラウロラクタムなどが挙げられる。
【0065】
炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物としては、炭素原子数6以上20以下のジアミンと炭素原子数6以上20以下のジカルボン酸との反応物が好ましく、具体的には、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、およびヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸塩などのジアミンとジカルボン酸との塩(ナイロン塩)の反応物が挙げられる。
【0066】
ポリエーテルエステルアミド(d)において、炭素数が6以上のアミノカルボン酸、炭素数が6以上のラクタム、または炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物と、上記ジオール化合物との結合は、エステル結合またはアミド結合であることが好ましい。
【0067】
その他、ポリエーテルエステルアミド(d)は、ジカルボン酸やジアミンなどの第三成分を反応成分としてさらに含有していてもよい。この場合のジカルボン酸成分としては、重合性、色調および物性の点から、炭素数4〜20のカルボン酸が好ましく、その例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。一方、ジアミン成分としては、芳香族、脂環族または脂肪族のジアミンが用いられ、中でも脂肪族ジアミンであるヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。
【0068】
本発明で用いられるポリエーテルエステルアミド(d)の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を利用することができる。例えば、ポリエーテルエステルアミドの場合、アミノカルボン酸、ラクタムまたは炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩と、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸とを反応させて両末端がカルボン酸基のポリアミドプレポリマーを作り、このプレポリマーにポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物を、真空下に反応させる方法を適用することができる。
【0069】
また、アミノカルボン酸、ラクタムまたは炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物の3つの化合物を反応槽に仕込み、水の存在下または不存在下に、高温で加熱反応させることによりカルボン酸末端のポリアミドエラストマーを生成させ、その後、常圧または減圧下で重合を進める方法も適用することができる。さらに、これら3つの化合物を同時に反応槽に仕込み、溶融重合した後、高真空下で一挙に重合を進める方法も適用できる。
【0070】
スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)の配合比は特に限定されないが、本発明の効果を奏するにあたっては、(a)〜(c)の樹脂組成物の合計量100重量部において、スチレン系樹脂(a)は好ましくは10〜70重量部、より好ましくは15〜60重量部、グラフト共重合体(b)は好ましくは15〜45重量部、より好ましくは20〜40重量部、ポリエーテルエステルアミド(d)は好ましくは3〜45重量部、より好ましくは10〜30重量部である。本範囲外である場合、例えば、例えばグラフト共重合体(b)が15重量部より少ないと、制電性積層シートの強度が低下する場合があり、グラフト共重合体(b)が45重量部より多いと、グラフト共重合体(b)同士の凝集が発生し、制電性積層シートに凸部が形成されてしまうことがある。ポリエーテルエステルアミド(d)が3重量部より少ない場合、十分な制電特性を得られないことがあり、45重量部より多い場合、シートの機械的特性が低下することがある。
【0071】
(パーフルオロアルキル化合物(e−1))
本発明で用いられるパーフルオロアルキル化合物(e−1)とは、パーフルオロアルキルスルホン酸類、パーフルオロアルキルスルホンイミド類(線状タイプおよび環状タイプ)、パーフルオロスルホンアミド類など次の一般式(1)〜(4)で挙げられる化合物である。
【0072】
【化2】

【0073】
(ここで、一般式(1)〜(4)中のRは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、MはH、K、LiまたはNa、MはHまたはKを示す。)。
【0074】
なお、本発明では樹脂組成物への分散性とより効果的な制電特性の発現という観点より、パーフルオロアルキルスルホン酸塩が好ましく用いられ、具体例として、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムが挙げられる。
【0075】
上記のパーフルオロアルキル化合物(e−1)の配合量は、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する制電性熱可塑性樹脂組成物(B)100重量部に対して0.01〜20重量部である。パーフルオロアルキル化合物(e−1)の好ましい配合量は0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部である。パーフルオロアルキル化合物(e−1)の添加量が0.01重量部未満の場合には、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の制電特性が低くなり、含有量が20重量部を越えても、添加量に応じた制電特性付与の効果が無くなるほか、コストが大幅に高くなり、上記の配合量の範囲が好ましい。
【0076】
パーフルオロアルキル化合物(e−1)は、商業的に入手可能なものをそのまま使用することができ、具体例として、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(三菱マテリアル電子化成株式会社製)等が挙げられる。
【0077】
(有機イオン導電剤(e−2))
本発明で用いられる有機イオン導電剤(e−2)とは、有機物でありながらイオン的な特性を有する有機化合物塩であり、融点が低くて常温で液体であるイオン性液体またはイオン液体とも呼ばれている有機化合物塩を含む。このような有機化合物塩としては、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウムなどの陽イオンと、フッ化物イオンやトリフラートなどのフッ素を含む陰イオンからなるものなどが挙げられる。
【0078】
本発明で用いられる有機イオン導電剤(e−2)としては、常温で液体のイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩等のイオン性液体といわれている有機化合物塩が好ましい。具体的には、有機イオン導電剤としては、次の一般式(5)〜(8)で示される有機化合物塩が好ましい。
【0079】
【化3】

【0080】
(ここで、一般式(5)〜(8)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはトリデカフルオロオクチル基を表し、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、R10はそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜15のアルキル基を表す。また、これらのアニオン成分[X]を構成するXは、(CFSON、(CSON、(CFSOC、CFSO、I、Br、Cl、PF、BF、NO、CHSO、p−CHSO(トシル)、CHO(CO)SO、C17SO、SCN、CHSO、CH(CHCO、N(CN)、CF(CFSO、CF(CFSO、[(CHCCHCH(CH)CH]POまたはAlClを表す。)。
【0081】
より具体的には、イミダゾリウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ニトラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トシラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・2−(2−メトキシエトキシ)エチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・クロリド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1,2−ジメチル−3−プロピルオクチルイミダゾリウム・トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、および1−ブチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。
【0082】
ピリジニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、3−メチル−1−プロピルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−プロピル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・クロリド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ヘキサフルオロホスファート、および1−ブチル−4−メチルピリジニウム・テトラフルオロボラート等が挙げられる。
【0083】
アンモニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルアンモニウム・ヘプタデカフルオロオクタンスルホナート、テトラブチルアンモニウム・ノナフルオロブタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・メタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・チオシアナート、およびメチル−トリ−n−ブチルアンモニウム・メチルスルファート等が挙げられる。
【0084】
ホスホニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルホスホニウム・メタンスルホナート、テトラブチルホスホニウム・p−トルエンスルホナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ブロミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・クロリド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・デカノアート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ヘキサフルオロホスフィナート、トリエチルテトラデシルホスホニウム・テトラフルオロボラート、およびトリブチルメチルホスホニウム・トシラートが挙げられる。
【0085】
このような有機イオン導電剤の中でも、イミダゾリウム塩とピリジニウム塩が好適であり、中でも、下記の一般式(9)または(10)のいずれかで示されるイミダゾリウム塩またはピリジニウム塩が好ましく用いられる。
【0086】
【化4】

【0087】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは(CFSON、(CSON、(CFSOCまたはCFSOを表す。)。
【0088】
上記の一般式(9)または(10)において、アニオン成分を構成するXとしては、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の熱安定性の面から、フルオロ基を有するものが好ましく、XがCFSO(トリフルオロメタンスルホナート)または(CFSON[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]のものが好ましく用いられる。
【0089】
有機イオン導電剤(e−2)の配合量は、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する制電性熱可塑性樹脂組成物(B)100重量部に対して0.01〜20重量部である。有機イオン導電剤(e−2)の好ましい配合量は0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部である。有機イオン導電剤(e−2)の添加量が0.01重量部未満の場合には、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の制電特性が低くなり、含有量が20重量部を越えても、添加量に応じた制電特性付与の効果が無くなるほか、コストが大幅に高くなり、上記の配合量の範囲が好ましい。
【0090】
有機イオン導電剤(e−2)は、商業的に入手可能なものをそのまま使用することができる。市販品として、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドや1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(いずれも日本カーリット株式会社製)等が挙げられる。
【0091】
また、公知の方法、例えば、第三級アミンをハロゲン化アルキルで四級化した後、目的のアニオン成分を有する塩を用いてアニオン交換反応を行う方法等を利用することにより製造した有機イオン導電剤を用いることができる。
【0092】
本発明に用いられる制電性熱可塑性樹脂組成物(B)には、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の熱可塑性樹脂を配合してもよい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、その他のポリエステル樹脂、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド樹脂、変性PPE樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、またはこれらの変性物やエラストマー類を配合することにより、シートの性能をさらに改良することができる。
【0093】
また、本発明で用いられる制電性熱可塑性樹脂組成物(B)には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、臭素化化合物、リン酸エステルまたは赤燐等の各種難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどの難燃助剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、顔料、および染料などを添加することができる。また、各種強化材、充填材、各成分が酸・塩基性であった場合の中和剤などを添加することができる。
【0094】
[制電性積層シート]
制電性積層シートとは、前記ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)の層(A層)と制電性熱可塑性樹脂組成物(B)の層(B層)を積層させて得られるシートのことをいう。なお、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(JIS K6900)。例えば厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称すことがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においても、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0095】
本発明の制電性積層シートの構成は、基本構成はA層とB層が少なくとも1層ずつ存在すれば特に限定されず、例えば、A層/B層の2種2層構成や、3層以上の場合は、制電性熱可塑性樹脂からなるB層が最外層、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物からなるA層が内層となる構成が挙げられるが、B層が最外層、A層が内層となる構成が好ましく、B層/A層/B層の2種3層構成であることがより好ましい。
【0096】
制電性積層シートの厚みは、使用される用途に応じて特に制限されるものではないが、150〜500μmが好ましく、250〜350μmがより好ましい。また、導電性積層シートの全厚みに対するA層とB層の厚み比は、地球環境保全に貢献するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物から成るA層の使用を増やすことを目的として、A層/B層=95/5〜60/40であることが好ましく、95/5〜70/30であることがより好ましい。
【0097】
制電性積層シートの用途によっては、色調として黒色系を必要とする場合がある。特に、B層/A層/B層の構成をとる場合、B層が薄くなるとA層の色目が表層を介して透けてしまい、B層のみの調色では、制電性積層シートとして目標とする色調を表現することが困難となることがある。このような場合は、A層を構成するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を調色することで、容易に導電積積層シートの調色を解決することができる。この際、使用する着色剤は、本発明の目的を損なわないために、導電性を有さない着色剤を使用することが好ましい。
【0098】
本発明の制電性積層シートの製造方法は、特に限定されないが、既に公知技術として広く実施されている溶融押出成形を用いることが好ましい。A層を構成するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物や、B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物は、あらかじめ全ての配合原料をコンパウンドしペレット化したものを、再度押出機内で溶融させて押出成形する場合や、配合原料を溶融押出設備の押出機でコンパウンドさせ、押出成形する場合がある。また、この口金としては、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等を挙げることができる。
【0099】
多層シート構成とするためには、公知の技術を用いれば良く、マルチマニホールド法やフィードブロック法などが挙げられる。
【0100】
シート全体の厚み、各層の厚み精度を高めるには、各層を構成する熱可塑性樹脂の溶融粘度差を小さくすることが好ましい。さらに、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は押出成形設備内での滞留により熱劣化しやすいため、通常185〜220℃の範囲で樹脂温度を調整することが好ましい。
【0101】
制電性積層シートの表面固有抵抗値は、1×1011Ω以下であることが好ましく、10Ω以下であることがより好ましい。表面固有抵抗値が1011Ωより大きい場合、防塵付着効果が著しく低下することがある。なお、ここでいう表面固有抵抗値は制電性シートのB層の表面固有抵抗値であり、ASTM D257(1990年)により測定される値である。
【0102】
本発明の制電性積層シートは、適宜成形品として加工されてもよい。制電性積層シートから成形品を得るには、制電性積層シートを赤外線ヒータ、熱板ヒータ、熱風などにより成形温度に予熱し熱成形すればよい。
【0103】
成形温度としては、組成により適宜調整が必要になるが、105℃以上、130℃以下の範囲が好ましく、110℃以上、125℃以下の範囲がより好ましい。成形温度が105℃未満では、シートが十分に軟質化せず成形が困難な場合があり、成形温度が125℃を超える場合は、予熱中にシートがドローダウン(自重で垂れ下がる)することにより、均一な成形体が得られにくい場合がある。
【0104】
熱成形の方法としては真空成形法、圧空成形法、雄雌型成形法、成形雄型に沿ってシートを変形した後に成形雄型を拡張する方法等がある。これらの成形方法により、各種の成形体とすることができる。
【実施例】
【0105】
本発明の制電性積層シート、それを構成するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)、制電性熱可塑性樹脂組成物(B)をさらに具体的に説明するために、以下、実施例を挙げる。本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。下記の実施例および比較例中、特にことわりのない限り「部」および「%」で表示したものは、それぞれ重量部および重量%を表す。
【0106】
[制電性積層シートの特性]
(1)表面固有抵抗値(Ω)
成形した制電性積層シートについて、温度23℃、湿度50%RH環境下で24時間放置した後、ASTM D257(1990年)に準拠して表面固有抵抗値を測定した。印加電圧500V、1分後の表面固有抵抗値を読みとった。本実施例においては、表面固有抵抗値は1×1011Ω以下の場合を合格(○)、それ以上の場合を不合格(×)とした。
【0107】
(2)折り曲げ強度試験
制電性積層シートの厚みを300μmとし、長さ50mm、幅50mmの試験片を作成した。温度23℃、湿度50%RHの環境下で48時間保管後、この試験片に対し、180°折り曲げ、100往復させた。この試験をMD、TD方向にて行い、目視確認にて亀裂を確認した。表層ならびに内層に亀裂の発生が確認されない場合を◎、50回以上100回未満で亀裂が発生した場合を○、50回未満で亀裂が発生した場合を×として評価した。
【0108】
(3)制電性積層シートの凸部評価
制電性積層シートの厚みを300μmとし、幅500mm、長さ3000mmの評価用シートを作成した。この評価用シートの凸部発生の有無を確認した。凸部の大きさは、JIS P 8208きょう雑物測定方法で使用されるきょう雑物測定図表を用いて0.3mmより大きなものの有無を確認し、0.3mmより大きな凸部が無い場合を合格とした。
【0109】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)と制電性熱可塑性樹脂組成物(B)の特性]
(4)重量平均分子量測定
重量平均分子量は、Water社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を用い、示差屈折計を検出器(Water2414)とし、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製MIXED−B(2本)、溶媒として、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)のグラフトしてない重合体およびアクリル系樹脂(f)にはテトラヒドロフラン、ポリ乳酸系樹脂(c)にはヘキサフルオロイソプロパノールを用いて、流速1ml/min、カラム温度40℃の条件で測定した。
【0110】
(5)グラフト共重合体(b)のグラフト率
グラフト共重合体(b)のグラフト率は、次の方法で求めた。グラフト共重合体の所定量(m)に、アセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000Gの回転で30分遠心分離した後、不溶分を濾過した。この不溶分を、70℃の温度で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、次式で求めた。
・グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
(式中、Lはグラフト共重合体のゴム含有率である。)。
【0111】
(6)シャルピー衝撃強度
ISO179に準じて測定した。試験片の成形条件は、シリンダ温度220℃、金型温度60℃とした。
【0112】
(7)MFR測定(メルトフローレート測定)
ISO1133(温度220℃、98N荷重条件で測定)に準じて測定した。
【0113】
以下、制電性積層シートの実施例に使用した原料およびその製造方法等を示す。
【0114】
[スチレン系樹脂(a)の製造方法]
((a−1)の製造方法)
スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物を懸濁重合して、スチレン系樹脂(a−1)を得た。得られたスチレン系樹脂(a−1)のポリスチレン換算の重量平均分子量は337,000であった。
【0115】
((a−2)の製造方法)
メタクリル酸メチル70%、スチレン25%、アクリロニトリル5%からなる単量体混合物を懸濁重合して、スチレン系樹脂(a−2)を得た。得られたスチレン系樹脂(a−2)のポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量は106,000であった。
【0116】
[グラフト共重合体(b)の製造方法]
((b−1)の製造方法)
ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.3μm、ゲル含率85%)60部(固形分換算)に、スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、濾過、乾燥することにより、パウダー状のグラフト共重合体(b−1)を得た。得られたグラフト共重合体(b−1)のグラフト率は36%であり、グラフトしてない重合体の重量平均分子量は125,000であった。
((b−2)の製造方法)
ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.3μm、ゲル含率75%)60部(固形分換算)に、メタクリル酸メチル70%、スチレン25%、アクリロニトリル5%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、濾過、乾燥することにより、パウダー状のグラフト共重合体(b−2)を得た。得られたグラフト共重合体(b−2)のグラフト率は28%であり、グラフトしていな重合体の重量平均分子量は98,000であった。
【0117】
[ポリ乳酸系樹脂(c)]
NatureWorks社製のポリ乳酸(重量平均分子量200,000、D−乳酸単位1%、融点175℃のポリ−L−乳酸)。
【0118】
[ポリエーテルエステルアミド(d)の製造方法]
ε−カプロラクタム45部、数平均分子量1,800のビスフェノールAのエチレンオキシド付加物45部、数平均分子量が1,800のポリエチレングリコール5部、テレフタル酸5.2部、および“イルガノックス”(登録商標)1098(酸化防止剤)0.2部を反応容器に仕込み、窒素パージして260℃の温度で60分間加熱攪拌して透明な均質溶液とした後、0.07kPa以下まで減圧した。テトラブチルチタネート0.1部を加えて、圧力は0.07kPa以下、温度は260℃の条件で、2時間反応させた。得られたポリマーをストランド状に吐出させ、カットしてペレット状のポリエーテルエステルアミド(d)を得た。
【0119】
[パーフルオロアルキル化合物(e−1)]
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム“EF−15”(三菱樹脂マテリアル株式会社製)を使用した。
【0120】
[有機イオン導電剤(e−2)]
1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(日本カーリット株式会社製)を使用した。
【0121】
[導電性カーボン]
ケッチェンブラック“EC600JD”(ライオン株式会社製)を使用した。
【0122】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
前記記載のスチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリ乳酸系樹脂(c)、およびアクリル系樹脂(f)をそれぞれ表1に示した配合比で配合し、ベント付30mmΦ2軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用して溶融混練(バレル設定温度230℃)し、押出することによって、ペレット状のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)を製造した。同様に、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)、ポリエーテルエステルアミド(d)、パーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)をそれぞれ表1に示した配合比で配合し、ベント付30mmΦ2軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用して溶融混練(バレル設定温度230℃)し、押出することによって、ペレット状の制電性熱可塑性樹脂組成物(B)を製造した。
【0123】
前記の熱可塑性樹脂ペレット(A)、(B)をそれぞれ単軸押出機(それぞれバレル設定温度210℃)に供給して、フィードブロックへ押出供給し、(A)の内層(A層)が240μm、(B)の外層(B層)が30μm、全厚みが300μmである2種3層の積層シートを製造した。得られた制電性積層シートに対し、前記記載の評価を行い、結果を表1に合わせて示した。
【0124】
【表1】

【0125】
表1に示すように、本発明の制電性積層シートは、導電性カーボンの使用なしに優れた制電特性を有し、かつ強度も十分であり、実用上優れたものであると判断された。一方、カーボンブラックを使用したものでは強度が十分でなく、割れが発生しカーボン脱落の懸念が確認された(比較例1)。さらに、本発明の範囲外で製造されたポリ乳酸系熱可塑組成樹脂組成物(A)や制電性熱可塑性樹脂組成物(B)を使用した場合、強度の著しい低下や、本発明に必要な制電特性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の制電性積層シートは、表面固有抵抗値が低く、安定した持続型制電特性を有すると共に、機械的特性に優れる。かかる特性を活かして、本発明の制電性積層シートは、電気・電子機器部品の保管・運搬用部品として好適に使用される。
【0127】
電気・電子機器部品としては、例えば、精密な電気・電子制御装置を備えた各種機器の部品を指し、例えば、カーナビゲーションシステムやカーオーディオシステム、また電気自動車に搭載される燃料電池周辺機器などの自動車用電装部品、ICが搭載された業務用または家庭用電子玩具などのIC周辺部品または筐体、業務用または家庭用デジタル電子機器部品、スロットマシン、およびパチンコまたは電子ゲーム装置などの業務用遊技・娯楽機器部品などが挙げられる。電気・電子部品の搬送用部品としては、例えば、キャリアリール、TABテープリールなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリ乳酸系樹脂(c)を含有するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物から成るA層と、スチレン系樹脂(a)、グラフト共重合体(b)およびポリエーテルエステルアミド(d)を含有する樹脂組成物にパーフルオロアルキル化合物(e−1)および/または有機イオン導電剤(e−2)を配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物からなるB層を少なくとも1層ずつ備えた、制電性積層シート。
【請求項2】
A層を構成するポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が、スチレン系樹脂(a)10〜60重量部、グラフト共重合体(b)15〜45重量部およびポリ乳酸系樹脂(c)25〜70重量部を含有する((a)、(b)、(c)の合計が100重量部)、請求項1に記載の制電性積層シート。
【請求項3】
B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物が、スチレン系樹脂(a)10〜70重量部、グラフト共重合体(b)15〜45重量部およびポリエーテルエステルアミド(d)3〜45重量部を含有する((a)、(b)、(d)の合計が100重量部)、請求項1または2に記載の制電性積層シート。
【請求項4】
B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物におけるパーフルオロアルキル化合物(e−1)の配合量が、樹脂組成物100重量部に対して0.1〜20重量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の制電性積層シート。
【請求項5】
B層を構成する制電性熱可塑性樹脂組成物における有機イオン導電剤(e−2)の配合量が、樹脂組成物100重量部に対して0.1〜20重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の制電性積層シート。
【請求項6】
最外層にB層、内層にA層を備えた構成を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の制電性積層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の制電性積層シートを成形してなる成形品。

【公開番号】特開2013−59937(P2013−59937A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200439(P2011−200439)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】