説明

制電性組成物、それを用いた成形品、塗料、制電性被覆物、粘着剤およびその製造方法

【課題】帯電防止性に優れた制電性が持続する制電性組成物を提供する。
【解決手段】重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が分散されてなる制電性組成物において、上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態で分散されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に帯電防止性に優れた制電性組成物に関するものであり、より特定的にはブリーディングやブルーミングを起こさないように改良された制電性組成物に関する。この発明は、また、そのような制電性組成物の製造方法に関する。この発明は、さらに、そのような制電性組成物の性質を利用した成形品、塗料、制電性被覆物および粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂に制電性を付与することが重要になってきており、これを達成するために、従来より、界面活性剤等の帯電防止剤を樹脂成形品の表面に塗布したり、帯電防止剤を樹脂中に練り込む方法が知られている。しかしながら、前者の方法では、長時間経過すると制電性が著しく低下するため、持続性を有する高制電性樹脂として、実用化には供し難い。一方、後者の方法では、帯電防止剤と樹脂との相溶性が悪く、帯電防止剤が成形品の表面にブリーディングやブルーミングしてしまい、制電効果が低下するという課題があった。
【0003】
また、界面活性剤などの帯電防止剤は、湿度依存性があり、低湿度下では、制電効果が失活する、あるいは、樹脂を成形した後に、帯電防止効果が発現するまでに最低1〜3日掛かり、遅効性であるという課題があった。
【0004】
また、カーボンブラックやカーボンファイバーなどを樹脂に練り込む方法が提案されている。この方法によると、帯電防止性にすぐれ、帯電防止性に持続性がある樹脂組成物が得られる。しかし、この方法では、透明な成形品が得られなかったり、成形品の色の選択が制限されるなどの課題があった。
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決する方法として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である陽イオン(カチオン)によって構成される金属塩類を、−{O(AO)}−基(Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜7の整数を示す)を有し、且つ全ての分子末端がCH基および/またはCH基である脂肪酸エステルに溶解した溶液を、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエステルアミド樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸系樹脂、熱可塑性エラストマーおよびゴムに添加してなる制電性組成物を提案した(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリウレタンからなる塩改質静電気散逸型重合体(Salt-modified electrostatic dissipative polymers)の製造方法として、リチウムビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドを補助溶剤(co-solvents)に溶解して添加する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO01/79354 A1公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】米国特許6、140、405号 (Claim 1、14および15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において、制電性組成物に添加する金属塩類の種類によっては、制電性能が十分でない場合があった。また、過塩素酸等の金属塩類を用いると、この制電性組成物からなるフィルムやシートを用いて金属類を包装する場合、金属表面を腐食、発錆あるいは汚染するという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、金属塩類を溶解するための補助溶剤(エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、N−メチル−2−ピロリドン等)が制電性組成物の成形品の表面にブリーディングやブルーミングしてしまい、製品を汚染する。また、成形品の表面を払拭することなどにより制電性が低下し、帯電防止性の耐久性が十分でない。特に、高温高湿度の雰囲気下では、ブリーディングやブルーミングが促進されるため、制電性の低下が著しいという課題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱安定性に優れ、ブリーディング、ブルーミングおよび移行汚染が発生せず、湿度に依存せずに、即効性に優れ、物性の低下を招かず、かつ、優れた制電性が持続する制電性組成物を提供することを目的とする。
【0011】
この発明の他の目的は、そのような制電性組成物の製造方法を提供することにある。
【0012】
この発明のさらに他の目的は、そのような制電性組成物を用いた成形品、塗料、制電性被覆物および粘着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩が分散されてなる制電性組成物に係る。そして、上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態で分散されていることを特徴とする。
【化1】

【0014】
式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。
【0015】
上記式(1)中、R、RおよびRのうち、少なくとも1つは炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基であり、かつもう1つはアクリロイル基又はメタクリロイル基であるのが好ましい。前記式(1)中、R、RおよびRのうち、少なくとも1つをアクリロイル基又はメタクリロイル基にすることにより、樹脂中に取り込まれ、耐加水分解性が向上するからである。
【0016】
アルケニル基とは、アルケンの任意の炭素原子から一個の水素原子を除去した一価基をいい、一般式は C2n−1− で示される。たとえば、ビニル基、アリル基,2−メチルアリル基、3,3−ジメチルアリル基、2,3,3−トリメチルアリル基等が挙げられる。重合性官能基としては、アクリロイル基およびメタクリロイル基が、特に好ましい。
【0017】
式(1)においてOA,OA、OAで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、その中でもイオン伝導性の点から、オキシエチレン基またはオキシプロピレン基が好ましい。特に好ましいのは、オキシエチレン基である。またこれらの1種または2種以上の混合物でもよく、2種以上の時の重合形式はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。
【0018】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩が、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態で、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散されているので、リチウムイオンが裸の状態(シングルイオン化)になって組成物中にイオン輸送され、制電性に大きく寄与する。
【0019】
また上記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態のフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、組成物を構成する分子と相溶性に優れるので、ブリーディング、ブルーミング、および移行汚染が発生せず、さらに湿度に依存せずに、即効性に優れ、かつ優れた制電性が持続する制電性組成物を得ることができる。
【0020】
本明細書で、「分散」とは、上記塩の溶液が、組成物中に微液滴状になって散在あるいは溶込んでいる状態をいう。
【0021】
また、上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解しやすく、濃度を濃くすることができ、これを分散させることにより、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を、多量にかつ均一に、上記重合性化合物、樹脂、エラストマ−または粘着性樹脂中に取り込ませることができる。
【0022】
上記重合性化合物とは、重合する官能基を有する化合物をいい、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、アルケニル基などを有する重合性化合物が挙げられる。態様としては、モノマー、オリゴマー、あるいは活性エネルギー線硬化性官能基を分子内に3つ以上有するものが挙げられる。
【0023】
モノマーとしては、例えば、単官能性のもの:2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、イソボルニル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレンなど、二官能性のもの:ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンなど、多官能性のもの:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンの3モルプロピレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパンの6モルエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ジペンタンエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのカプロラクトン付加物のヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
粘着性を確保するという点では、炭素数が4〜12の(メタ)アクリロイルモノマーを共重合することが好ましい。
【0025】
さらに、活性化エネルギー線硬化性の(メタ)アクリレート系化合物として、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0026】
オリゴマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この中でも、ポリエチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレートは好ましく用いられる。その中でもオキシエチレン単位を少なくとも2個有するものが特に好ましく用いられる。ポリ(エチレングリコール)のモノ又はジ(メタ)アクリレートは帯電防止性を有しており、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩と相乗してその効果を高める。
【0027】
3つ以上の官能基を有するオリゴマーとしては、例えば、ジイソシアネート:ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどと、水酸基含有(メタ)アクリレート:2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能のもの、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの3官能以上のものとを反応してなるものなどが挙げられる。
【0028】
上記樹脂は、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリアミド系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリアセタール系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリカ−ボネ−ト系重合体、アクリレート/メタクリレート系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、熱可塑性エラストマー系重合体、不飽和ポリエステル系重合体、エポキシ系重合体、フェノール系重合体、ジアリール系重合体、メラミン系重合体、液晶ポリエステル系重合体、フッ素系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、ポリイミド系重合体およびシリコーン系重合体から選択された1種であればよい。この中でも極性基を有するものは特に好ましく用いられる。
【0029】
上記エラストマーは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素ゴムおよびウレタンゴムから選択された1種であればよい。
【0030】
上記粘着性樹脂としては、粘着性を有する(メタ)アクリロイル系重合体を挙げることができる。炭素数が4〜12の(メタ)アクリロイル系モノマーを共重合に供することが好ましい。さらに好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。必要に応じて、(メタ)アクリル酸を共重合してもよい。
【0031】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、上記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステル100質量部に対して、0.01質量部以上200質量部以下の割合で、上記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解されて、上記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散されるのが好ましい。
【0032】
上記組成物中の全ての重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂100質量部に対して、上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、0.01質量部以上30質量部以下、さらに好ましくは、0.1質量部以上15重量部以下の割合で配合されるのが好ましい。
【0033】
このように規制するのは、上記陰イオン(アニオン)を備えた塩の配合量が、0.01質量部未満であると、制電性が十分発揮されないからである。一方、上記陰イオン(アニオン)を備えた塩の配合量が、30質量部を超えると、制電性付与効果が飽和するので、コスト高を招来するという問題があるからである。
【0034】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)は、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンおよびフルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群から選ばれた陰イオン(アニオン)であるのが好ましい。
【0035】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)と対になる陽イオン(カチオン)は、アルカリ金属、2A族元素、遷移金属および両性金属からなる群の陽イオン(カチオン)から選ばれるのが好ましい。
【0036】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、特にビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドのアルカリ金属塩およびトリフルオロアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれた塩であるのが好ましい。
【0037】
上記組成物は、さらに重合体型帯電防止剤を含んでもよい。
【0038】
本発明の組成物に重合体型帯電防止剤を含めると、上記陰イオン(アニオン)を備えた塩(ホウ素錯体)を安定化することが見出された。また、上記陰イオン(アニオン)を備えた塩はポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態で(換言するとホウ素錯体という化合物となって)分散されるので、この塩は、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルと親和性を有する重合体型帯電防止剤の存在する所に、集まり、局在化し、2種類の帯電防止剤の相乗効果によって制電性を強く発揮するのである。このような重合体型帯電防止剤としては、ポリエーテルブロックポリオレフィン共重合体、ポリオキシアルキレン系共重合体又はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジル共重合体が挙げられる。
【0039】
上記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂100質量部に対して、上記重合体型帯電防止剤を、0.05質量部以上65質量部以下、好ましくは、0.1質量部以上50質量部以下の割合で含有させればよい。
【0040】
このように規制するのは、上記重合体型帯電防止剤の配合量が0.05質量部未満であると、制電性が十分発揮されないからである。一方、上記重合体型帯電防止剤の配合量が65質量部を超えると、制電性付与効果が飽和するので、コスト高を招来するという問題があるからである。また、組成物の物性が失われることがあるからである。
【0041】
本発明の制電性組成物には、さらに酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、顔料、抗菌・抗カビ剤、耐光剤、可塑剤、粘着付与剤、分散剤、消泡剤、硬化触媒、硬化剤、レベリング剤、撥水剤、カップリング剤、フィラー、加硫剤、キレート剤、加硫促進剤などの公知の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0042】
この発明の他の局面に従う製造方法は、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩が分散されてなる制電性組成物の製造方法に係る。上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する。上記塩溶解混合物と、上記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂とを一度に配合し、混練し、組成物を形成する。
【0043】
この方法によると、上記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を予め準備するので、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、重合性化合物、樹脂又はエラストマーに、より均一に親和する。
【0044】
なお、重合性基の保護のために、従来から知られているハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチル−ヒドロキシトルエン、フェノチアジン等の重合禁止剤を、従来から知られているように20〜1000ppmの添加量で用いることができる。
【0045】
この発明のさらに他の局面に従う製造方法は、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩が分散されてなる制電性組成物の製造方法に係る。まず、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する。上記塩溶解混合物(第1成分)と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練し、組成物を形成する。上記組成物を、さらに上記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練あるいはブレンドする。
【0046】
上記第1成分と第2成分の混練によって、上記塩溶解混合物が、組成物中に微液滴状又は微粒子状になって散在あるいは溶け込む。そして、塩が組成物中に溶け込んだ状態で、さらに重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)と混練あるいはブレンドするので、塩は、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)に、さらに均一に親和した状態に分散される。
【0047】
本発明は、上記制電性組成物を含む材料を成形してなる種々の成形品に係る。また、本発明の制電性組成物を用いて、フィルム、塗料、液晶パネル用カラーレジスト組成物等を得ることができる。また、本発明の制電性組成物を成形表面で硬化させて、制電性の被覆物とすることもできる。上記成形品は、液晶パネルのカラーフィルタを含むものとする。
【0048】
樹脂硬化(以下、硬化)のための(メタ)アクリロイル基、アルケニル基の重合は、加熱、紫外線、可視光、電子線などのエネルギーによってなされるが、適宜、公知の重合開始剤を使用してもよい。
【0049】
また、本発明の制電性粘着剤は、各種ディスプレイ、偏光板等の光学部材の表面保護粘着フィルム用の粘着剤として、好適な透明性にすぐれ、着色もほとんどなく、再剥離性にすぐれ、剥離時の剥離帯電が少ない帯電防止粘着剤を提供する。
【0050】
本発明のさらに他の局面にかかる制電性組成物は、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルのホウ素原子の空のp軌道に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)が配位子として結合してなるホウ素錯体が、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散された制電性組成物である。
【化1】

【0051】
(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【0052】
本発明のさらに他の局面に従う方法は、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルのホウ素原子の空のp軌道に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)が配位子として結合してなるホウ素錯体が、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散された制電性組成物の製造方法に係る。まず、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する。前記塩溶解混合物(第1成分)と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練し、組成物を形成する。前記組成物を、さらに前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練あるいはブレンドする。
【化1】

【0053】
(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【発明の効果】
【0054】
本発明では、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解させ、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に添加・配合するので、リチウムイオンが裸の状態(シングルイオン化)になってイオン輸送され、制電性に大きく寄与する。
【0055】
また、本発明で用いるフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩は、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態であり、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、均一に親和する。
【0056】
このような陰イオン(アニオン)を備えた塩は、高い導電率、高い耐熱性、不燃性を有するので、制電性・熱安定性に優れ、金属を腐食せず、湿度などの環境によらない制電性組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩がポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態を示す図である。
【図2】本発明に用いるイオンのモデルを示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
熱安定性に優れ、ブリーディング、ブルーミングおよび移行汚染が発生せず、湿度に依存せずに、即効性に優れ、物性の低下を招かず、かつ、優れた制電性が持続する制電性組成物を得るという目的を、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解させた状態で、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散させることによって実現した。
【0059】
上記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩が、上記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態というのは、錯体が形成された状態、例えばCFSOLiのようなLiX塩を例示すると、図1に示すような状態である。すなわち、ホウ素原子(B)の空のp軌道に、アニオン(X-)がトラップされている。換言するとアニオン(X-)がホウ素原子(B)の空のp軌道に配位子として結合し、ホウ素錯体を形成している。その結果、リチウムイオン(Li+)が、対イオンであるX-イオン(CFSOイオン)から解き放たれた状態になる。このような状態で、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散されているので、リチウムイオンが裸の状態(シングルイオン化)になって組成物中にイオン輸送され、制電性に大きく寄与するのである。
【0060】
上記陰イオン(アニオン)および陽イオン(カチオン)によって構成される塩は数多くあるが、中でも、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン、フルオロアルキルスルホン酸イオンを含み、具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLi(CFSO)N、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリカリウムK(CFSO)N、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムNa(CFSO)N、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムLi(CFSO)C、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウムK(CFSO)C、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウムNa(CFSO)C、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムLi(CFSO)、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムK(CFSO)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウムNa(CFSO)が好ましい。中でも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、およびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムが好ましく、特にトリフルオロメタンスルホン酸リチウムが好ましい。これを少量添加するだけで、上記効果が効率よく得られる。
【0061】
図2は、リチウムイオン(Li+)とともに、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CFSO)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン((CFSO)2)、パーフルオロブチルスルホン酸アニオン(CSO)およびトリス(フルオロメチルスルホニル)メチドアニオン((CFSO)3)の大きさを相対的に示した概念図である。これらアニオンの中で、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CFSO)の径が最も小さい。
【0062】
図1を再び参照して説明すると、アニオン(X)はホウ素(B)の空のp軌道にトラップされるわけであるが、ホウ素にはバルキーなオキシアルキレン基が3つ結合しているので、立体障害の関係上、アニオンの径が小さいものほど、ホウ素の空のp軌道にトラップされ易くなる。このため、径が最も小さいトリフルオロメタンスルホン酸アニオンの場合が、他のものに比して制電効果がより大きく現れるのである。
【0063】
そして、X-イオンから解き放たれた、対イオンであるリチウムイオン(シングルイオン化リチウム,Li+)は、ホウ素原子と結合したオキシアルキレン基からなるポリ(アルキレングリコール)中のエーテル酸素原子に配位して、一時的に留まった状態になっており、このリチウムイオンは、エーテル酸素の分子運動によって移動し易くなっている。これに外部より電場が印加されると、硬化膜中において、リチウムイオン種が、相応する極(膜表面)に向って移動(イオン輸送)してイオン伝導性を発現するのである。この効果は、ポリ(アルキレングリコール)がポリ(エチレングリコール)の場合に特に好ましく発現する。
【0064】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0065】
本発明に使用するポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルは、特開2003−72877号公報、特開2003−201344号公報に開示された方法に準じて合成した。例えば、重合性を有するポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルとして、式(2)で示されるポリ(エチレングリコール)10含ホウ素トリアクリレート(以下、B・PEG−AAと略す)、および式(3)で示されるポリ(エチレングリコール)2含ホウ素トリメタクリレート(以下、B・PEG−MAと略す)を、各450g合成した。
【化2】

【化3】

【0066】
(実施例1〜4)
表1に示す配合で、上述のB・PEG−AA、B・PEG−MA 100質量部に、所定量のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム Li(CFSO)N、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム Li(CFSO)又はトリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドリチウム Li(CFSO)Cを添加して、かき混ぜて溶解させ、単一相の組成物を得た。
【表1】

【0067】
(実施例5)
ウレタンアクリレートプレポリマー(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴマーUA−53H)30質量部、多分岐性ポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、アクリロイル基4個、平均分子量1300)50質量部に対して、ポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリアクリレート組成物(B−50R)(表1)を20質量部添加し、混合物を調製した。次いで、この混合物に光重合開始剤として、イルガキュアー907(チバ・ジャパン製)3質量部を添加し、液状組成物を得た。この液状組成物をベースフィルム(PET製、厚さ250μm)の表面に設置したプリズム・アクリル系樹脂(ピッチ50.0μm、頂角88°)の表面に塗布した後、高圧水銀灯を用いて、空気中で紫外線を照射した。硬化被膜3μmの厚さを有する硬度2Hの透明なプリズム板を得た。このプリズム板の表面抵抗率は、5×10Ω/sqであった。ついで、このプリズム板を、湿度70%、温度80℃の条件下に1時間放置した後、表面抵抗率を測定した結果、6×10Ω/sqであった。
【0068】
(実施例6)
ウレタンアクリレートプレポリマー(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴマーUA−53H)70質量部に対して、ポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリアクリレート組成物(B−10T)(表1)10質量部とメチルエチルケトン20質量部を添加し、さらに、光重合開始剤として、Luna100(日本シベルヘグナー製)5質量部を添加し、液状組成物を得た。この液状組成物を、実施例5と同様な方法で、PETフィルム上に塗布し、乾燥後、水銀ランプを用いて、積算光量300mj/cm(照射時間15秒)で、紫外線を照射し、硬化被膜(厚さ3μm)有する透明なPETフィルムを得た。このフィルムの表面抵抗率は、1×1010Ω/sqであった。硬化特性、密着性も良好であった。
【0069】
(実施例7)
(アクリル系共重合体の合成)
窒素ガスが還流され、温度調節が容易なように冷却装置を取り付けた反応器(1L)に、n−ブチルアクリレート80.0質量部、エチルアクリレート10.0質量部、ポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリメタクリレート組成物B−3M(表1)10.0質量部を添加した後、溶剤エチルアセテート100質量部を添加した。その後、酸素を除去するために、窒素ガスを一時パージした後、62℃に保持した。上記混合物を均一にした後、反応開始剤としてエチルアセテート100質量部にアゾビスイソブチロニトリル50質量部を溶解した重合開始剤溶液を0.03質量部を投入し、9時間反応させてアクリル系共重合体を製造した。
【0070】
(配合およびコーティング過程)
上記製造したアクリル系共重合体100質量部、架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物0.6質量部、可塑剤としてテトラエチレングリコールジベンゾネート7質量部とポリエチレングリコールジー2−エチルヘキソネート0.1質量部を投入し、適切な温度で希釈し、均一に混合し、ついで、剥離紙にコーティングして乾燥した後、厚さ25μmの均一な粘着層を形成させた。この粘着層を185μmの膜厚のヨード系偏光板に粘着加工した。作成した粘着シートの剥離帯電圧(剥離角度180度、剥離速度10m/min、春日電機社製KSD−0103使用)を測定した結果、0.0kvであった。180度ピール粘着力は、3.2N/25mmであった。
【0071】
(実施例8)
アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル80質量部とポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリメタクリレート組成物B−1R(表1)20質量部と、Megafac(登録商標)178RM(DIC社製、撥水剤)3質量部を混合し、次いで、ベンゾフェノンとメチルフェニルグリオキシレートとをそれぞれ4質量部を添加した液状組成物を得た。この液状組成物をポリカーボネート樹脂の射出成形板(50mm×50mm×3mm)にスプレー塗布した後、熱風乾燥機(60℃)で3分間乾燥した。この成形板表面に高圧水銀灯を用いて、積算光量1.5j/cm(照射時間10秒)で、空気中で紫外線を照射した。厚さ7μmの硬化被膜を有する透明なポリカーボネート樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、4×10Ω/sqであった。この樹脂板を湿度70%、温度80℃の条件下に、10時間放置した後、表面抵抗率を測定した結果、5×10Ω/sqであった。
【0072】
(実施例9)
ABS樹脂(東レ製、トヨラック(登録商標)600)100質量部に対して、ポリエーテルポリオレフィンブロックポリマー(三洋化成工業製、高分子型帯電防止剤、ペレスタット(登録商標)230)を7質量部と、さらに、ポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリアクリレート組成物B−50R(表1)10質量部を配合した。次に、220℃に設定したニーダーを用いて、混練した後、射出成形して、幅6cm×長さ6cm×厚さ0.3cmの試験片を作成した。表面抵抗率を測定した結果、4×10Ω/sqであった。ポリ(エチレングリコール)含ホウ素アクリレート組成物B−50Rを添加しない場合は、9×1011Ω/sqであった。
【0073】
(実施例10)
ポリ(エチレングリコール)(平均付加モル数8.0)モノメタクリレート(日油株式会社製、ブレンマーPE-350)645質量部(1.5モル)とポリエチレングリコール(平均付加モル数3.0)モノメチルエーテル(東邦化学工業社製、ハイモールTM)123質量部(0.75モル)にホウ酸トリメチル(東京化成工業株式会社製)155.7質量部(1.5モル)を加えた。攪拌しながら、乾燥空気雰囲気下で60℃、1時間保持した。その後、73℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が20mmHg以下の状態を5時間保持した。さらに、75℃まで昇温して、1時間保持して、過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、濾過して、下記式(4)に示すような、一分子あたり平均で2つのメタクロイル基とポリエチレングリコールモノメチルエーテル基が結合したポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステル化合物768質量部(BME(83))を得た。次いで、このBME(83)100質量部に対して、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを20質量部になるように添加して、かき混ぜて溶解させ、単一相の組成物(BME(83)−20R)を得た。ポリエチレングリコールモノメチルエーテル基を結合した理由、すなわち、メタクリロイル基の数を2つにした理由については後述する。
【化4】

【0074】
(実施例11)
ウレタンアクリレートプレポリマー(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴマーUA−53H)30質量部、多分岐性ポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、アクリロイル基4個、平均分子量1300)50質量部に対して、実施例10で得たポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステル化合物の単一相の組成物(BME(83)−20R)を10質量部添加し、液状組成物を調整した。次いで、この組成物に光重合開始剤として、イルガキュアー907(チバ・ジャパン製)3質量部を添加し、液状組成物を得た。この液状組成物を実施例5と同様な方法で、PETフィルム上に塗布し、水銀ランプを用いて、紫外線を照射(50mj×2パス)して、硬化被膜(厚さ10μm)を有する透明なPETフィルム(表面硬度、3H)を得た。このフィルムの表面抵抗率は、1.2×10Ω/sqであった。
【0075】
本実施例11では、硬化被膜の厚みは、10μmである。この様な薄い被膜の場合、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム単独では、イオンが動かず、制電性を十分に発揮しない。フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)を備えた塩を、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解させた状態で分散させることにより、図1に示すように、リチウムイオン(Li+)が、対イオンであるX-イオン(CFSOアニオン)から解き放たれた状態になり、薄い硬化被膜中でも、リチウムイオンが裸の状態(シングルイオン化)になってイオン輸送され、制電性に大きく寄与するのである。実施例では硬化被膜の厚みが3〜10μmの場合を例示したが、一般には1〜20μmの場合に、本発明は特に有効な効果を奏する。
【0076】
また、本実施例のように、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステル化合物の重合性基にメタクリロイル基を選ぶことにより、硬化被膜の表面の鉛筆硬度が2H〜3Hになる。硬化被膜の厚みが10μm以下に薄くなると、硬化被膜の表面の鉛筆硬度は2H〜3Hにするのが好ましいのである。
【0077】
また、メタクリロイル基の数は、式(4)のように2つ、又は1つが好ましい。R、RおよびRの全てがメタクリロイル基の場合、ポリアルキレングリコールの付加モル数によっては、硬化被膜の表面が平滑にならない場合があることが認められたからである。
【0078】
(実施例12)
実施例10において用いられているポリエチレングリコール(平均付加モル数3.0)モノメチルエーテル(東邦化学工業社製、ハイモールTM)の代わりに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量220)(東邦化学工業社製、ハイモールPM)165質量部(0.75モル)を溶解した以外は、実施例10と同様にして、一分子あたり平均で2つのメタクロイル基を有する重合性含ホウ素エステル化合物(BPE)795質量部を得た。次いで、このBPE100質量部に対し、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを50質量部になるように添加して、かき混ぜて溶解させ、単一相の組成物(BPE―50T)を得た。
【0079】
(実施例13)
実施例11において、BPE−50T 10質量部を添加した以外は、実施例11と同様にして、硬化被膜(厚さ5μm)を有するPETフィルム(表面硬度、3H)を得た。このフィルムの表面抵抗率は、9.5×10Ω/sqであった。
【0080】
なお、上記式(2)、(3)では、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルとして、ポリ(エチレングリコール)10含ホウ素トリアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリメタクリレートを例示して説明したが、オキシエチレン単位の付加モル数が、2〜14の範囲のものはいずれも好ましい。また、ポリ(プロピレングリコール)含ホウ素(メタ)アクリレートを用いても相当の効果を奏する。
【0081】
また、上記式(4)では、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルとして、ポリ(エチレングリコール)メタクリレートを用いた場合を例示して説明したが、オキシエチレン単位の付加モル数が、2〜14の範囲のものはいずれも好ましい。また、ポリエチレングリコール(平均付加モル数3.0)モノメチルエーテルを用いた場合を例示したが、オキシアルキレン基単位の平均付加モル数は、2〜14の場合にいずれも好ましい。
【0082】
また、上記実施例では、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルの重合性官能基がアクリロイル基又はメタクリロイル基の場合を例示したが、炭素数3〜6のアルケニル基の場合であっても相当の効果を奏する。
【0083】
また、上記実施例では、重合性を有するポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルを例示したが、この発明はこれに限られるものでなく、重合性を有しないものであっても、ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルのホウ素原子の空のp軌道に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオン(アニオン)が配位子として結合してなる本発明に係るホウ素錯体は、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散されれば、相当の効果を奏する。
【0084】
また、上記実施例では、被膜の厚みが1〜20μmの場合を例示したが、本発明はこれに限られるものでないことはいうまでもない。例えば粘着剤、塗料、エラストマー、成形品等に使用する場合にはこの厚み1〜20μmに限られない。これらに使用する場合、本発明に係る制電性組成物は優れた制電性能を有するので、他の帯電防止剤に比べて添加量をより少なくすることができる。少量の添加で、有効な制電性が得られるのである。
【0085】
(その他)
本発明によって得られたポリマーおよび/又は樹脂またはゴム配合物は、圧縮成形、トランスファ−成形、押出成形、吹込成形、カレンダ−加工、注形、ペ−スト加工、粉末化、反応成形、熱成形、ブロ−成形、回転成形、真空成形、キャスト成形、ガスアシスト成形などの成形に用いられる公知の方法によって成形することができる。また、本発明の制電性組成物を、制電性塗料、制電性粘着剤としても用いることができる。
【0086】
また、本発明の成形品は、家電機器部品、電子機器部品、電子材料製造機器、情報事務機器部品、通信機器、ハウジング部品、光学機械部材、自動車用部品、工業用部材、家庭用雑貨品、包装流通部材など、長期間保持して高い制電性を必要とする製品、その他の各種パ−ツ、パッケージ、チュ−ブ、被覆、容器関係などの静電気対策関係に好適に使用することができる。
【0087】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、熱安定性に優れ、ブリーディング、ブルーミングおよび移行汚染が発生せず、湿度に依存せずに、即効性に優れ、物性の低下を招かず、かつ、優れた制電性が持続する制電性組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が分散されてなる制電性組成物において、
前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解された状態で分散されていることを特徴とする制電性組成物。
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【請求項2】
前記式(1)中、R、RおよびRのうち、少なくとも1つは炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基であり、かつもう1つはアクリロイル基、メタクリロイル基又は炭素数3〜6のアルケニル基である請求項1に記載の制電性組成物。
【請求項3】
前記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルは、ポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリアクリレート又はポリ(エチレングリコール)含ホウ素トリメタクリレートを含む、請求項1又は2に記載の制電性組成物。
【請求項4】
前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、前記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステル100質量部に対して、0.01質量部以上200質量部以下の割合で、前記ポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに溶解されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項5】
前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂100質量部に対して、前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、0.01質量部以上30質量部以下含まれる請求項1から4のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項6】
前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンは、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンおよびトリフルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群から選ばれた陰イオンである請求項1から5のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項7】
前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンと対になる陽イオンは、アルカリ金属、2A族元素、遷移金属および両性金属からなる群の陽イオンから選ばれる請求項1から6のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項8】
前記フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドのアルカリ金属塩およびトリフルオロアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群より選ばれた塩である、請求項7に記載の制電性組成物。
【請求項9】
重合体型帯電防止剤が、さらに配合されている請求項1から8のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項10】
前記重合性化合物、樹脂、エラストマ-又は粘着性樹脂100質量部に対して、前記重合体型帯電防止剤が0.05質量部以上65質量部以下配合されていることを特徴とする請求項9に記載の制電性組成物。
【請求項11】
重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が分散されてなる制電性組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する工程と、
前記塩溶解混合物と、前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂とを一度に配合し、混練し、組成物を形成する工程とを備えたことを特徴とする制電性組成物の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【請求項12】
重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が分散されてなる制電性組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する工程と、
前記塩溶解混合物(第1成分)と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練し、組成物を形成する工程と、
前記組成物を、さらに前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練あるいはブレンドする工程とを備えた制電性組成物の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む材料を成型してなる成形品。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む塗料。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制電性組成物を成形品表面で硬化させてなる硬化被膜を有する制電性被覆物。
【請求項16】
前記硬化被膜の厚みは1〜20μmである請求項15に記載の制電性被覆物。
【請求項17】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む粘着剤。
【請求項18】
下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルのホウ素原子の空のp軌道に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンが配位子として結合してなるホウ素錯体が、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散された制電性組成物。
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)
【請求項19】
下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルのホウ素原子の空のp軌道に、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンが配位子として結合してなるホウ素錯体が、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂を含む組成物中に分散された制電性組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるポリ(アルキレングリコール)含ホウ素エステルに、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩を溶解してなる塩溶解混合物を準備する工程と、
前記塩溶解混合物(第1成分)と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練し、組成物を形成する工程と、
前記組成物を、さらに前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂(第2成分)とを混練あるいはブレンドする工程とを備えた制電性組成物の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、互いに独立に、炭素数1〜8の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基および炭素数3〜6のアルケニル基からなる重合性官能基群の中から選ばれ、OA,OAおよびOAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、l、m、nはオキシアルキレン基単位の平均付加モル数で、2〜14である。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10913(P2013−10913A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147663(P2011−147663)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(398033921)三光化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】