説明

制電撥水織物および衣料

【課題】制電性と撥水性とを有し、かつソフトな風合いを呈する制電撥水織物および該制電撥水織物を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】少なくとも芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維からなる糸条Aを用いて製織され、かつ撥水加工が施された制電撥水織物であって、前記芯鞘複合繊維の単糸繊度が1.2dtex以下であり、かつ前記糸条Aに仮撚捲縮加工が施されてなる制電撥水織物、および該制電撥水織物を用いてなる衣料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯成分が制電性ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維を用いて製織され、かつ撥水加工が施された、制電性と撥水性とを有する制電撥水織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ衣料やカジュアル衣料など撥水性を要求される分野において、ポリエステル繊維などで構成された布帛に撥水剤による処理が行われている。一方、ポリエステル繊維などで構成された布帛は、一般的に静電気を蓄積し易い性質をもち、衣類のまとわりつきなど着用者に不快感を与えることがある。このように、撥水性と制電性の両機能を同時に満足することが求められている。
しかしながら、この撥水性と制電性は相反する性質であり、例えば撥水性を付与すると、制電性が消失し、逆に制電性を付与すると撥水性が消失する。
【0003】
かかる撥水性と制電性を両立する方法として、後加工により織物に制電性及び撥水性を付与する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)が、制電性の洗濯耐久性がよくない、風合いが硬くなるなどの問題があった。また、芯成分が制電性ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維を用いて布帛を得たのち、該布帛に撥水加工を施すことも提案されている(例えば、特許文献1参照)が、やはり風合いが硬いという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−124879号公報
【特許文献2】特開2006−104617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、制電性と撥水性とを有し、かつソフトな風合いを呈する制電撥水織物および衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、芯成分が制電性ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維を用いて織物を得た後、該織物に撥水加工を施すことにより制電撥水織物を得る際、前記芯鞘型複合繊維として、単糸繊度が小さくかつ仮撚捲縮加工が施されたものを使用することにより、織物の風合いがソフトになることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「少なくとも芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維からなる糸条Aを用いて製織され、かつ撥水加工が施された制電撥水織物であって、前記芯鞘複合繊維の単糸繊度が1.2dtex以下であり、かつ前記糸条Aに仮撚捲縮加工が施されてなることを特徴とする制電撥水織物」が提供される。
【0008】
その際、前記芯成分を形成する制電性ポリエステルが、芳香族ポリエステル100重量部に対して(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部および(b)有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであることが好ましい。また、前記芯鞘型複合繊維の鞘成分が芳香族ポリエステルからなることが好ましい。また、前記仮撚捲縮加工が施された糸条Aの捲縮率が3〜30%の範囲内であることが好ましい。
【0009】
本発明の制電撥水織物において、織物が、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1500〜3000の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0010】
また、本発明の制電撥水織物はカレンダー加工を施されていることが好ましい。また、摩擦帯電圧が2000V以下であることが好ましい。また、撥水性が3級以上であることが好ましい。また、織物の通気度が10cc/cm・sec以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の制電撥水織物を用いてなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制電性と撥水性とを有し、かつソフトな風合いを呈する制電撥水織物および衣料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明において、糸条Aは芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維からなる。
【0013】
前記制電性ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル100重量部に対して(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部および(b)有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであると、優れた制電性が得られ好ましい。
【0014】
ここで、前記芳香族ポリエステルとしては、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0015】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
【0016】
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0017】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0018】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0019】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0020】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0021】
次に、(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテルとしては、ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば、単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであっても、二種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよい。かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0022】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲であることが好ましい。0.2重量部より少ないときは親水性が不足して充分な制電性を呈することができないおそれがある。一方30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになるおそれがある。
【0023】
次に、(b)有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(I)、(II)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
【0024】
RSOM (I)
式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(I)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa、K、Li等のアルカリ金属又はMg、Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi、Na、Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0025】
RSOPR (II)
式中、Rは上記式(I)におけるRの定義と同じであり、R1 、R2 、R3 及びR4 はアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0026】
かかる有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0027】
前記芯鞘型複合繊維の鞘成分としては、前記の芳香族ポリエステルが好適である。該芳香族ポリエステルに艶消し剤を含ませる場合は、ポリエステル重量に対して10wt%以下とするのが好ましい。艶消し剤が10wt%を超えると芯鞘型複合繊維の紡糸性が悪化するおそれがある。なお、前記芯鞘型複合繊維の芯成分および/または鞘成分には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、着色剤抗菌剤、マイナスイオン発生剤等を添加してもよい。
【0028】
さらに、前記芯成分と鞘成分との面積比は(芯成分:鞘成分)10:90〜65:35の範囲にすることが好ましい。芯成分の面積比が10:90より小さい場合には芯成分による制電性能の発現が不十分になり、65:35よりも大きくなる場合は、10%以上のアルカリ減量を施した場合に、部分的に芯部の制電性ポリエステルが溶出し、制電性能が低下するおそれがある。
【0029】
本発明において、糸条Aは前記芯鞘型複合繊維からなる。その際、該糸条Aの単糸繊度は1.2dtex以下(好ましくは0.1〜1.2dtex)である必要がある。該単糸繊度が1.2dtexよりも大きいと、制電撥水織物の風合いが硬くなるため好ましくない。また、単糸繊維の断面形状としては、丸断面形状で同心円状に芯鞘構造を有していることが好ましい。かかる糸条Aの総繊度、フィラメント数としては、風合いのソフトの点で総繊度33〜140dtex、フィラメント数50〜150の範囲が好ましい。
かかる糸条Aには仮撚捲縮加工が施されている必要がある。仮撚捲縮加工が施されていない場合は、制電撥水織物の風合いが硬くなるため好ましくない。
【0030】
前記糸条Aは、例えば下記の製造方法により製造することができる。すなわち、その親糸となる芯鞘型未延伸糸を溶融紡糸するに際して、紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(引き取り速度/吐出速度、以降ドラフトと記す)を100以上、800未満の範囲で引き取った未延伸糸を仮撚加工することで安定した制電性能が得られる。ドラフトが100以下の場合は芯成分による制電性能の発現が不十分になり、ドラフトが800以上の場合には制電性能は発現するものの、紡糸性が低下するおそれがある。従ってこの範囲で口金吐出孔径、紡糸速度を適宜設定すればよいが、吐出径をΦ0.1〜0.3mm、紡糸速度2000〜4500m/min、特に2500〜3500m/minの範囲で溶融紡糸すると、容易にかつ効率よく得られるので好ましい。
【0031】
該未延伸糸(未延伸マルチフィラメント)の仮撚加工法については特に限定されないが、例えば(1)仮撚具:3軸フリクションデイスクタイプ、(2)仮撚温度:170〜300℃、(3)加工倍率:1.4〜2.4、(4)仮撚数:(15000〜35000)/(仮撚糸繊度(dtex))1/2回/m、より好ましくは(20000〜30000)/(仮撚糸繊度(dtex))1/2回/mであることが好ましい。その際、空気交絡処理は延伸仮撚加工と別の工程で行ってもよいが、延伸仮撚加工装置にインターレースノズルを設置して延伸仮撚加工直前に施すのが好ましい。このことにより毛羽発生を抑制し取り扱い性に好影響をもたらすことができ、更に、熱セット仮撚後糸条に空気交絡を施すことで完璧に混繊交絡を均一化、糸長方向均一効果から、制電性を有し且つ高級感を発現させることができる。次に、交絡処理が施された未延伸糸は、例えば2段式ヒーターを備えた延伸仮撚加工機に掛けて、捲縮を有する仮撚加工糸とする。
【0032】
かくして得られた仮撚捲縮加工糸の捲縮率としては、3〜30%の範囲内であることが好ましい。該捲縮率が3%より小さいと制電撥水織物の風合いが硬くなるおそれがある。逆に、該捲縮率が30%よりも大きいと、制電性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明の制電撥水織物は、少なくとも前記糸条Aを用いて製織される。制電撥水織物に含まれる糸条Aの重量割合としては30重量%以上であることが好ましい。また、優れた制電性を得る上で経糸または緯糸の全てに前記糸条Aが配されることが好ましい。織物の他糸条が含まれる場合、かかる他糸条としては、通常のポリエステルからなること以外は糸条Aと同様の糸条が好ましい。織物の織組織は特に限定されず、通常の方法で製織されたものでよい。例えば、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。また、製織方法も通常の織機(例えば、通常のウオータージェットルームやエアージェットルーム)を用いた通常の製織方法でよい。
【0034】
本発明の制電撥水織物にはかかる織物に撥水加工を施したものである。ここで、撥水加工としては通常のものでよい。例えば、特許第3133227号公報や特公平4−5786号公報に記載された方法が好適である。すなわち、撥水剤として市販のふっ素系撥水剤(例えば、旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)を使用し、必要に応じてメラミン樹脂、触媒を混合して撥水剤の濃度が3〜15重量%程度の加工剤とし、ピックアップ率50〜90%程度で、該加工剤を用いて織物の表面を処理する方法である。加工剤で織物の表面を処理する方法としては、パッド法、スプレー法などが例示され、なかでも、加工剤を織物内部まで浸透させる上でパッド法が最も好ましい。
なお、前記ピックアップ率とは、加工剤の織物(加工剤付与前)重量に対する重量割合(%)である。
【0035】
なお、本発明の目的が損なわれない範囲内であれば、撥水加工の前または後において、常法のアルカリ減量加工、染色仕上げ加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0036】
かくして得られた織物において、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1500〜3000の織物であると、低通気性となりスポーツ衣料などとして好適に使用できるので好ましい。さらには、カレンダー加工が施されているとさらに、低通気性となり好ましい。その際、通気度としては、10cc/cm・sec以下であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0037】
本発明の制電撥水織物には、芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維からなる糸条Aが含まれるので優れた制電性を呈する。かかる制電性としては摩擦帯電圧で2000V以下であることが好ましい。また、本発明の制電撥水織物には撥水加工が施されているので優れた撥水性を呈する。かかる撥水性としては3級以上であることが好ましい。さらに、本発明の制電撥水織物に含まれる糸条Aは単糸繊度が小さく、かつ仮撚捲縮加工が施されているので、制電撥水織物はソフトな風合いを呈する。
【0038】
次に、本発明の衣料は前記の制電撥水織物を用いてなる衣料である。かかる衣料は前記の制電撥水織物を用いているので制電性と撥水性とを有し、かつソフトな風合いを呈する。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
(2)複屈折率
光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
(3)捲縮率
仮撚加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作成した。該カセの一端に、0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さを測定しS1(cm)とした。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定しS2とし、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=[(S1−S2)/S0]×100
(4)仮撚加工糸の強度、伸度
JIS L―1013―75に準じて測定した。
(5)風合い
試験者3人が官能評価により下記の3段階に評価した。3級:ソフトでしなやかな感触がある。2級:ややソフト感が乏しいが反撥性は感じられる。1級:カサカサした触感あるいは硬い触感である。
(6)摩擦帯電圧測定法
試験片を回転させながら摩擦布で摩擦し、発生した帯電圧を測定する。L1094帯電性試験方法B法(摩擦帯電圧測定法)に順ずる。
(7)通気度
JIS L1096−8.27.1A法により測定した。
(8)撥水性
JIS L1092−6.2(スプレー法)により測定した。
【0040】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.013部(テレフタル酸ジメチルに対して0.01モル%)をエステル交換反応缶に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から220℃まで昇温し、反応缶中に生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。エステル交換反応終了後、反応混合物に安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)、および消泡剤としてジメチルポリシロキサンを0.024部加えた。次に、10分後に、反応混合物に三酸化アンチモン0.041部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを留去しながら240℃まで昇温し、その後、反応混合物を重合反応缶に移した。次いで1時間40分かけて760mmHgから1mmHgまで減圧するとともに240℃から280℃まで昇温して重縮合反応せしめた後、下記化学式
【0041】
【化1】

(ただし、jは18〜28の整数で平均21、Pは平均値として100、mは平均値として5である)で表される水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテルを4部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2部、真空下で添加し、さらに240分間重縮合反応せしめ、次いで酸化防止剤としてチバカイギー社製イルガノックス1010を0.4部真空下で添加し、その後さらに30分間重縮合反応を行なった。重合反応工程で、制電剤を添加し、芯成分用ポリマー(チップ)を得た。このポリマーの固有粘度は0.657、軟化点258℃、得られたチップを常法により乾燥した。
【0042】
一方、常法により通常のポリエチレンテレフタレートからなるポリマー(固有粘度0.60)を得た。
次いで、乾燥ポリマーを紡糸設備にて各々常法で溶融し、スピンブロックを通して、スピンパックに導入した。該スピンパックに組み込まれた円形吐出孔を72個穿設した紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度で引き取り、複屈折率0.035の140dtex/72フィラメントのポリエステル未延伸糸を得た。
【0043】
該ポリエステル未延伸糸を、帝人製機製216錘建HTS−15Vに掛け、前段、後段とで、孔径1.8mmの圧空吹き出し孔を有するインターレースノズルを通過させつつ60nL/minの流量で交絡度が50個/mとなるように空気交絡を施し、延伸倍率1.60、第1ヒーター(非接触タイプ)温度250℃の条件に設定し、直径60mm、厚み9mmのウレタンディスクを仮撚ディスクとして、走行角43度で仮撚数×(仮撚糸繊度(dtex))1/2が26000近傍となるように延伸仮撚を行い、速度800m/minでチーズ形状に巻き取り、84dtex/72フィラメント(平均単糸繊度1.17dtex)の制電複合繊維からなる仮撚捲縮加工糸(糸条A、捲縮率15%、強度3.8cN/dtex)を得た。
【0044】
一方、通常のポリエチレンテレフタレートからなるポリマー(固有粘度0.60)単独で用いること以外は上記と同様にして、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸84dtex/72フィラメントを得た。
【0045】
次いで、通常のウオータージェットルームを使用し、該ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸84dtex/72フィラメントを経糸に、一方、上記制電仮撚捲縮加工糸84dtex/72フィラメント(糸条A)を緯糸として平組織にて生機を得て、次いで常法の染色工程にて染色した後、下記の処理液(加工剤)をパッドし、ピックアップ率70%で搾液し、130℃で3分間乾燥後170℃で45秒間熱処理を行った後、通常のカレンダー加工を行い、制電撥水織物(カバーファクター1992)を得た。
次いで、該制電撥水織物を用いてスポーツ衣料(ウインドブレーカー)を得た。
【0046】
<加工剤組成>
・ふっ素系撥水剤 10.0wt%
(旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)
・メラミン樹脂 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスレジンM−3)
・触媒 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスアクセレレータACX)
・水 89.4wt%
【0047】
得られた制電撥水織物において、初期の撥水性が5級、洗濯20回後の撥水性が3.5級と撥水性にも優れており、風合いがソフトであった(3級)。また、洗濯20回後の摩擦帯電圧が経740V、緯1020Vと大変優れた制電性を有していた。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、制電仮撚捲縮加工糸を84dtex/36フィラメントに変更すること以外は実施例1と同様に実施した。
得られた織物は、洗濯20回後の摩擦帯電圧が経690V、緯980Vと大変優れたものであったが、風合いは硬くソフトではなかった(1級)。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、制電複合繊維に仮撚捲縮加工を施さないこと以外は実施例1と同様にした。得られた織物は、洗濯20回後の摩擦帯電圧が経920V、緯1020Vと大変優れたものであったが、風合いは硬くソフトではなかった(1級)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、制電性と撥水性とを有し、かつソフトな風合いを呈する制電撥水織物および該制電撥水織物を用いてなる衣料が得られ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維からなる糸条Aを用いて製織され、かつ撥水加工が施された制電撥水織物であって、前記芯鞘複合繊維の単糸繊度が1.2dtex以下であり、かつ前記糸条Aに仮撚捲縮加工が施されてなることを特徴とする制電撥水織物。
【請求項2】
前記芯成分を形成する制電性ポリエステルが、芳香族ポリエステル100重量部に対して(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部および(b)有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルである、請求項1に記載の制電撥水織編物。
【請求項3】
前記芯鞘型複合繊維の鞘成分が芳香族ポリエステルからなる、請求項1または請求項2に記載の制電撥水織物。
【請求項4】
前記仮撚捲縮加工が施された糸条Aの捲縮率が3〜30%の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の制電撥水織物。
【請求項5】
織物が、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1500〜3000の織物である、請求項1〜4のいずれかに記載の制電撥水織物。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項6】
カレンダー加工が施されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の制電撥水織物。
【請求項7】
摩擦帯電圧が2000V以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の制電撥水織物。
【請求項8】
撥水性が3級以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の制電撥水織物。
【請求項9】
織物の通気度が10cc/cm・sec以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の制電撥水織物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の制電撥水織物を用いてなる衣料。

【公開番号】特開2008−106390(P2008−106390A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289732(P2006−289732)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】